九話
「ぐああああ!」
えと、こんな感じでいいかな?
「レイィィィィ!」
「そんな……」
「くっ……あははははっ! 馬鹿ってのは、よく燃えるなぁぁぁ! おい!」
誰が馬鹿だ!
嘘じゃ! ボケ!
殺すぞ! コラ!
「嫌……嫌ぁぁぁぁぁ!」
ああ……もう、五月蝿い……。
だから、一人で行くって言ったのに……。
『仕方あるまい。この四人はどうあっても離れんつもりじゃ』
俺と一緒にいても、いい事ないんだけどね~……。
それより、後どれぐらいもつ?
俺は、後……五分はいける。
『後の戦闘を考えると、三分……いや四分でギリギリと言うところか?』
まあ、余裕だね。
「貴様は殺す! この命に代えてもだ!」
「おいおい……。勘弁してくれよ~。美人が台無しになるぞ?」
「黙れ! この下衆が!」
うわ~……。
キレたメアリーこえ~……。
「ちっ……。お前達は魔力が強いから、殺すなって言われてるんだ。大人しくしてほしいんだがな」
「何があってもレイの仇は取る! 取って見せる!」
いや、死んでないんですが……。
『仕方あるまい……』
まあ、真っ白い炎に包まれて倒れてますからね~……。
「見てなかったのか? 俺は半径十キロに神の炎を、好きなように発生させられるんだぞ? 回避出来ないぞ?」
「五月蝿い!」
「グルルルル……」
「そこの狼は殺すが……どうだお前等? 俺の愛人にならないか?」
なんですと!?
「なっ!?」
「お前等美人だから、特別に俺の物になるなら助けてやるって言ってるんだよ。嫁に恋人まで居るから、愛人が精一杯だけどな~」
ハーレムだと……。
殺~す……。
『もうすぐ三分じゃ』
「どうだ? 悪い話じゃないだろ? 新しい世界にも行けるし、聖剣の生贄にならなくてもいいんだ。それにこのイケメンの俺様……あ!?」
ふん! 馬鹿が!
俺の前でモテ自慢した事を、後悔しろ!
「何だよ!? これは!? なんで……」
「お前の炎も、魔力に違いはないからな。フィールドを張れば防御出来るんだよ」
かなり痛いけど……。
はいはい。
死んだふりして、油断して近付いてきた馬鹿の胸に剣を突き刺しました。
チートにはイカサマじゃい!
「そんな……神の炎だぞ?」
「俺の全魔力をフィールドに回して、数分しか持たん威力だよ。並の威力じゃないのは分かってるよ。呼吸もできないし……。でも、防げる以上何の問題もない!」
刺していた剣を脇腹に流し切りする。
それと同時に、俺を覆っていた真っ白い炎が消える。
人を馬鹿呼ばわりしやがって……。
信徒ってのは、とことんクズばっかりだな。
****
「レイ……」
「なんだ?」
痛い痛い痛い……。
「心配させるなって、言ってるでしょうがぁぁぁぁぁぁぁ!」
ちょ! 止めて痛い!
「だって! お前らに言ったら、この馬鹿にばれるだろうが!」
「そうだけど……なっ!」
背後を取られた俺は、回転させられつつ抱えあげられて……。
おふぅ!!
「せめて……せめて合図くらいして下さい!」
「ピクリとも動かないから、本当に死んだのかと思ったぞ! 私は!」
ああ……。
なるほど、馬鹿との戦闘より、こいつらといる方がダメージを受けるんですね?
分かります。
止めなさいよぉぉぉぉって!
パイルドライバーとかあり得ないって!
頭蓋骨が、陥没するから!
てか、なんでこの間からプロレス技!?
も~……。
やってらんね~……。
『魔力が無くなってしまう……』
俺に言うな……。
俺だって嫌だよ!
なんでこいつ等は、手加減をしないんだ!?
馬鹿なのか!?
いや! 馬鹿だ!
「全く……レイは……」
なんで、俺が悪いみたいな感じなの!?
『魔力が……』
分かってるよ!
てか、心配する事無いだろう?
本部だけあって、化け物が腐るほどいるよ!
多分、万単位でいるよ!
回復出来るって!
『確かに気配はするが……』
まあ、先に馬鹿信徒が来れば、連戦になるけどね。
それよりも……。
「ゴルバ! 服!」
俺! いつものごとくパンツのみです!
急いで下さい!
「……これを着ろ」
え……なんで?
なんでこいつは、事あるごとにつなぎの作業着を出してくるの!?
『ゴルバは、それを三十着近く持っておるからのぉ……』
やっぱりこいつは、あれなのか!?
『いや……』
絶対あれだよ!
ヤベ~よ! こいつ……ヤベ~よ!
「俺の服、まだあるだろ? 出してくれよ」
「もう、ほとんど残ってないぞ? いいのか?」
お前の作業服よりはいいです。
「ああ……」
しかし、俺はなんで格好のいい鎧とかを装備できないんだ?
最近常に、GパンとTシャツなんだけど……。
その上、手ぶらだから剣士じゃなく村人に見えるよ。
『仕方あるまい。お前に攻撃を当てられる敵の一撃を、普通の鎧では防ぐ事は出来ん。ただ、邪魔になるだけじゃ』
パンツ一つで剣を振りまわすって、どう見ても変態じゃないか。
どうやれば、カッコよくなるんだろう……。
てか、よく考えると学生時代から、装備強化が一切ないんですけど!?
常に、魔剣と布の服だけなんですけど!?
しくじると、トランクスと魔剣だけなんですけど!?
もっとしくじると、魔剣オンリーなんですけど!?
『けど、けど、五月蝿い。わしは服や鎧までは回復できん』
何処の世界に、こんな貧相な剣士がいるんだよ!
どう見ても、雑魚の装備じゃないか!
『あのお方は、マントと普通の服だけじゃ』
そうだった!
師匠も鎧着てない!
何!? うちの流派のしきたり!?
何か嫌だ~……。
聖剣はもういらないから、伝説の鎧捜す~。
『まぁ、物は考えようじゃ。肉体の強度がどんどん上がっておる』
ヒロインにボコボコにされてね……。
『そうじゃな……』
最悪じゃい!
俺はどれだけ悲惨なんだよ!
誰か……助けてくださぁぁぁぁぁぁぁい!
首の皮膚と筋肉が、ナイフとタックルに耐えられるレベルになってきましたぁぁぁぁぁ!
もうこのまま行くと、化け物確定です!
人間がいいです!
「ねえ? レイ? 大丈夫?」
「ん? ああ、どうした?」
「何時も、貴方は何を考えているんですか? よくそうやって、よく何か考えこんでいますよね?」
最近はエロい事より、嘆いています。
人生に……。
『ただの愚痴じゃがの』
「いや……。大した事じゃ無いんだが、このまま行くとまた今みたいな化け物が相手になるな……と。お前らはいいのか?」
「何度言わせるんだ! 私は……私達は死んでもお前から離れん!」
ふぅ~……。
お前等に死なれると、俺が嫌なんだけどな……。
「そうです! 五人で無事にレーム大陸に帰るんです!」
ちょ! 止めろ!
「帰ったら、四国が合同で行っている、カーニバルに出るんだからね! 必ず帰るのよ!」
馬鹿ぁぁぁぁ!
いちいち死亡フラグ踏むな!
結婚するとか、必ず何かするとか……。
死んでしまうから!
はあ~あ。
『何が何でも倒さねばならんな……』
俺のハーレムの為には、必須なんだろうな……。
面倒なことしかないのか? この世界は?
とっとと、魔力を補充するか。
『うむ』
「来たぞ……」
「相変わらず、変な魔力よね」
「しかし、気を抜ける相手ではないな。数が冗談のようだ」
「皆さん! 行きますよ!」
「ベェェェェェ……」
相変わらず、奇想天外な化け物ばっかりだな。
羊なんだか、鹿なんだか……。
あれが、元は女の子だと思うと泣けてくるね。
『抜かるな……』
分かってるっての!
「ふっ! はあ!」
一万体くらいか?
魔力を充填できるな……。
****
「あの……これって」
「そうだな。俺達は、あいつが討ちもらした奴だけの相手をすればいいようだ」
「レイには限界と言う物が無いのか!?」
「修羅場……地獄を抜ければ抜けるだけ、強くなるようですね」
「あの馬鹿は、私達が知らない間にも地獄を抜けて来たっての?」
「あの方は……真っ暗な夜を一人で走り続けるのでしょうか? 自分の命が尽きてしまうまで……」
「させない! 私達が止めるんだ! レイだけが苦しむなんて……納得出来るか!」
「好きな相手に見惚れるのは仕方ないが、来たぞ。三体だ」
「ゴルバ!」
「後で覚えてなさい! 行くわよ!」
出来るだけ……。
出来るだけ苦しまないように、殺してやる。
お前等は、十分苦しんだんだから……。
超高速で化け物……犠牲者達のコアを貫いていく。
一撃で……気がつかない間に死を与えるために……。
しかし……。
俺の目はおかしくなったのか?
何か……。
見えちゃいけないものが、見えてるような……。
『お前の感覚が、鋭くなりすぎておるんじゃ。わしも感じられるが、見えてはおらん』
そうなの!?
俺、コアの位置から、敵の攻撃まで魔力が映像として見えてるんだけど?
『脳内で、イメージに変換されておるんじゃろう』
俺、またレベルアップしてたね……。
マジで、魔王とか余裕でフルボッコ出来るんじゃね?
『実際に今までの継承者の中で、初代魔王がSランクに到達した唯一の者じゃった』
これが、優秀な遺伝子ってののおかげなのかね~?
でも、それ使って全力で歯向かってるんだ。
腹立つだろうな~……。
ざまぁぁぁ見さらせ!
殴り倒して、髪の毛掴んでそのままジャイアントスイングだ!
頭皮ごと髪の毛はがしてやる!
『発想が恐ろしいわ!』
拷問したるんじゃ~い!
俺の苦しみを、百倍にして返すんだ!
と……これで最後だな……。
「メェェェ……」
最後の草食動物っぽい化け……犠牲者が腐り落ちて行く。
十体くらい討ちもらしたけど……。
うん、問題無く倒してるな。
あれ?
なんで、ゴルバがナイフ突き付けられてるの?
「どうした?」
「少し俺が口をすべらせた」
それだけで?
魔道砲も構えられてるな。
こいつ等……。
「お前等は、拷問が趣味なのか?」
痛い痛い痛い……。
ちょ! なんで俺の時は、ナイフを刺すの?
酷くない!?
「あんたじゃあるまいし! 好きでやってんじゃないわよ!」
え~……。
好きでやってるんじゃないんですか~?
俺がSなら、お前等のやってる事は超超超ドSですよ?
痛いって……。
うおううう!
「リリス! 魔道砲を顔に向けて撃ってくるな!」
「お前なら耐えられるだろう?」
「死ぬわ!」
アホかこいつ等!
「カーラさん?」
「何よ?」
「ナイフをそうやって引くと、切れるんだが?」
「分かってるわよ。あんたは私を馬鹿にしてるの?」
分かってて、殺そうとしてるのね?
止めなさいよ~って!
「レイよ。一つ聞きたい事があるんだが?」
ゴルバ?
「なんだ?」
「確か、音速以上の動きは足の負担が大きいと言ってなかったか? 足が折れてる様にも、回復したように見えんが?」
「ああ……。身体が強くなったみたいでな。音速を少し超えたくらいじゃ、折れなくなってきた」
「そうか……」
う~ん……。
カーラは、このナイフを何時引っ込めてくれるんだ?
どうしても血管を切りたいのか?
と……。
「カーラ、ストップ。お客さんだ」
金髪の女剣士?
見た目は、そこそこ可愛いな。
「まさか、貴方方が世界の脅威だったなんて……。見損ないました!」
誰?
「あなたは!?」
誰!?
「なんで、あんたがこんなところにいるのよ!」
だから、誰!?
「私は、この世界を救う教団の信者になったんです! 貴方達は、人類を滅ぼそうと言うのですか?」
「ヒルダ……」
ああ……ヒルダか。
「待て! 聞けっ!」
「問答無用です! 私は……メシア様の為に貴方達を止めて見せます!」
ほう、あのヒルダがねぇ~。
「くっ……ん? 何よ?」
「あれは誰だ?」
『分かってなかったのか……』
見た事がありません。
「馬鹿!」
誰が馬鹿だ!
「レーム大陸を出た船で、会ったでしょうが! 最初は、船酔いのあんたを馬鹿にしてぇ!」
ん?
いたっけ? そんなの。
『雑魚じゃ』
あ! ああ! ああ!
雑魚Bか!
うお~! 二年ぶり!
で、あいつが教団側に?
『そうじゃ……』
馬鹿にされて、謝られて、殴られて、嫌われたぁぁぁ?
ちょ! どう言う事!?
『何時もの事じゃ』
はぁ~……。
やってらんね~……。




