八話
くっそ! くっそぉぉぉぉ!!
俺と全く同じ体術だと!?
技は理解してないんじゃないのかよ!?
どうなってるんだ!?
思考まで読めるのか!?
そんなのどうすりゃいいんだよ!
勝てるわけねぇじゃねぇぇか!
何だよこの化け物は!
『落ち着かんか! 焦るな!』
でも!
全く歯が立たない!
どうするんだよ!?
どうすれば……。
勝てない……。
くっそぉぉぉぉぉ!
こんなクソ野郎に……。
『焦るでない! 馬鹿者!』
ジジィ……。
「君は……粘ってくれるね~……。何回斬りつけたと思ってるんだい?」
くっ……。
ジジィ、このままだと……。
『魔力はまだ十分にある! 落ち着くんじゃ!』
もう、駄目なのかよ……。
「まだ諦めないのかい? 素直に死んだ方が楽なのに……」
うん!?
「しかし、君のそれは特異体質か何か? 怪我がすぐに治ってるね? しぶとさがゴキブリ並みだよ……」
こいつは……。
『そうじゃ! 心まで読めるわけがない! 身体能力がお前以上なだけじゃ!』
じゃあ、技は……。
『あやつも、優秀な遺伝子とやらを持っておるのじゃろう。見る事で盗まれたんじゃ。空を蹴った時もそうじゃったろうが!』
――焦りは技を殺す――
師匠……。
そうだ!
諦めるか!
もうこの馬鹿共の犠牲者なんて出させるか!
殺す……。
殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す!
俺の思考が、殺意で埋め尽くされる。
それと同時に、冷静な思考が復活する。
そして、よく知っている……凄く簡単な事を思い出した。
そうだった……。
俺の使う死神の剣とは、相手の実力を発揮させずにこちらの力を最大限にする剣技
――敵をありのままに捉えよ――
師匠の技は、本当にすごい。
自分が攻撃される側を体験して、初めて思い知った。
自分の実力を出し切れないと、あんなにも焦るものなんだな……。
基本を忘れるなんて……。
俺は本当に馬鹿だ……。
やってらんね~……。
さてと……。
<カノン>
「おっと……。へぇ~……こう……かい!?」
馬鹿が放った衝撃砲を、同じ<カノン>で相殺してきた。
そう言う事か……。
『奴も天才なのじゃろうな』
一度見た技は、すぐに自分の物に出来るってか?
ははっ……。
あいつをさらに嫌いになったよ。
『容姿端麗、最強、天才か……』
死ねばいいのに……。
てか! 俺が殺す!
「さすがに僕も疲れてきたよ。終りにしよう……」
俺以上の速度……多分音速以上で、こちらに向かってきた。
それもご丁寧に、死角に入りながら飛び込んでくる。
信じられない速度だ……。
だが! 見える!
追えない訳じゃない!
これなら!
ドスンっと金属がぶつかったとは思えない衝撃音と共に、馬鹿の剣をいなした。
いなすだけで、腕の骨に亀裂が入った……。
だが! 防いだぞ!
お前の技は、しょせん俺のコピー!
先が読めるんだよ!
どうする?
考えるんだ……。
思考を止めるな……。
スピード、パワー共に馬鹿が上。
今優っているのは、技の熟練度だけ……。
いや……それだけか?
『そうじゃ! 回復はわしに任せて考えるんじゃ!』
凄まじい速度の連撃を、円を描くように後退しながらいなし続ける。
いなすだけで、腕がもげそうなほどの衝撃がきやがる。
一瞬でも気を抜けば死んでしまうだろう……。
それでも!
誰が死んでやるか!
死ぬ時は、お前ら全員を殺してからだ!
動きの無駄を省くんだ。
大地に風……魔力に身体を同調させるんだ!
徐々にではあるが、腕の受けるダメージが減少してきた……。
この動きは!?
く……くくくっ……。
そう言う事か……。
お前がコピーできるのは、見えるものだけ……。
たとえ能力をコピーしてても、見えないものは使えないって事かよ!
よし!
まずは、一つ!
だが、まだ足りない……。
「はぁはぁ……。しつこいんだよ! この出来損ないが!」
聖剣本来の衝撃波か!?
あり得ないほどの魔力が乗った、斬撃が飛んでくる。
それも近距離から……。
避けられない……なら! 避けん!
俺は斬撃に飛び込む、魔力の核を潰しながら自分の斬撃で相殺する。
「うあああ!」
「ぐううう!」
なんて威力だよ……。
可能な限り相殺したのに、余波だけで部屋全体が振動し、床に大穴があいたぞ!?
くそ! かなりダメージを受けちまった。
それでも死んでない!
まだやれる!
『待て! すぐに回復させる! 動くな!』
そうも言ってられんだろうが!
奴も回復してすぐに追撃が……。
あれ?
こない?
馬鹿がぶつかって壊れた柱の残骸が、ガラガラと崩れ落ちていく。
そこから、怒りに顔を歪めた馬鹿が這い出てきた。
「この出来損ないのクズが! 僕の身体に傷をつけやがって! なぶり殺してやる!」
それが本性か? クソ野郎。
さすがに余波で吹っ飛ばされて、ノーダメージとはいかなかったようだな……。
ざまぁぁ!
うん!?
おい! ジジィ!
あれ! あれぇぇ!!
『うむ! 好機じゃ!』
これで二つ!
いける!
馬鹿の額から流れ続ける血を見て、勝利の糸口を見つけた。
それでも綱渡りに変わりはないが……。
今、この瞬間を逃せば勝ちが消える!
行くんだ! 足を踏み出せ!
全力で行くぞ! クソジジィ!
『行けぇぇぇぇぇぇぇ!! クソガキ!』
「おおおおお!!」
回復を終わらせた俺は、全身の魔力を足に集中させる。
そして、純度を高めるために練り込む。
「まっすぐ突っ込んでくるか……。死ねよ! 出来損ない!」
馬鹿の一メートル手前で、俺は急激に方向転換をした。
足のダメージを覚悟して、下半身全てで前に進む力を殺し、後ろへと跳んだのだ。
「なっ!? 逃がすかぁぁぁぁぁ!!」
かかった!
馬鹿は、後ろに跳ぶ俺を全力で追ってきた。
馬鹿の射程圏内に俺が入った瞬間、足の魔力を爆発させる。
「待てぇぇぇぇぇ!」
二歩……。
二歩後ろに跳んだ時点で、俺の両足の骨がグシャリとつぶれた。
ジパングで学んだ魔力の爆発による、瞬間的な加速に耐えられなかったからだ。
仕方がない……。
人間の身体は、そんなに丈夫にも柔軟にも出来ていないのだから。
音速をさらに超えた、人間の限界を超えた速度。
それでも馬鹿は付いてくる。
だが、それでいい。
この領域へお前を無理矢理引っ張り込むのが、俺の目的だ。
馬鹿は俺に追いつこうと、更に速く足を踏み出した。
その瞬間に、悲鳴を上げる。
「ぎゃああ!」
超高速状態でバランスを崩した馬鹿が、壁に激突す……。
いや!
床を転がりながらも、聖剣を地面に突き刺して、ブレーキングしやがった!
それでも、両足は……。
よしっ! 曲がっちゃいけない方に曲がってる!
『勝機!』
<ホークスラッシュ>!
「なっ……なにを!?」
見当違いな方向へ放たれた三発の衝撃波を、馬鹿は不思議そうに見ている。
とった!
「曲がった!? うあああ!」
弧を描いて、別々の方向から襲ってくる俺の衝撃波に、座り込んだままの馬鹿は顔を真っ青にした。
そして、聖剣の衝撃波で我が身を守ろうと振るう。
「ぎゃああああ!!」
俺の衝撃波は、二発相殺された。
だが! 三発目は直撃だ!
てか、三発目が無理なのも計算済みだ。
胸部ごと腕を斬りおとされた馬鹿が、苦しそうに息をしている。
まぁ、肺が片方潰れたんだ仕方ないか……。
ふぅ~……。
うまくいった~……。
さすがに駄目かと思った~……。
『まさか、こ奴もわしらが実は二対一で戦っているとは、思いもしなかったはずじゃ』
それでも、完全な奇襲じゃないと勝てなかったけどね~。
うん!?
まだ、這いずって剣を取りに行こうとしてる。
自分の作った血だまりの中を、芋虫のように這いずって……。
人に散々しつこいとか言ってたくせに、お前も十分しつこいわ。
俺は、胸の部分が付いている聖剣を握った腕を……。
あっ! そおい!
もちろん、壁際まで蹴り飛ばしました。
けけけ……。
真っ青な顔で、馬鹿が口をパクパクさせてやがる!
「げはっ! ……なん……で? 僕……ごほっ! が……負けるなんて……」
大量に血を吐きながら馬鹿が、ブツブツと……。
キモ! こいつキモッ!
『お前は……他に言い方が……』
じゃあ……、ダサ! こいつダサッ!
『はぁ~……。しかし、この出血では長くはもたんな』
拷問してる暇ないな……。
ザンネン……。
『変態め……』
そう言う事は、人に向けって言っていい言葉じゃないんだぞ!?
馬鹿か!
「嫌だ……おええ……ここで死んだら……。ここで僕が死んだら姉さんが……」
必死で、残った腕を聖剣に精一杯伸ばしている……。
こいつ……。
『あの剣の元になったのは姉……かのぉ?』
多分な……。
神様に復活させてもらおうとしてたのか?
なら最初から殺すなよ! この馬鹿が!
「何で!? 何で僕が……ごほぉ! ……最強だったのに……」
「メシアが居る場所をはくなら、教えてやるよ」
「…………」
「どの道、殺しに来るんだろ? 俺が、直接行ってやるって言ってんだよ!」
「総本山に……あぐうう……おられ……ごほっ! ……れる」
そう言えば、さっきの書庫っぽいところに拠点の地図があったな……。
『うむ……。そろそろ、喋ってやらんと意識を失うぞ?』
分かってる。
「お前の敗因は、二つ。俺は魔力を感知できたり、一ケ所に溜め込んで爆発させたりとコントロールできる。そして、魔剣の力で即死でなければ、怪我をその場で回復出来る。それだけだ」
そんなビックリしなくても……。
『一対一と思いこみ、わしの能力に気がつかなかった……。慢心が生んだ敗北じゃな』
まぁ、それでも化け物並みだったけどね~……。
『こ奴も、元々かなりの実力者だったんじゃろう。お前の力を八としてわしの身体強化で十になるとしても、こ奴が三の実力があれば十一になりこうなると言う事じゃ』
分かってるよ。
まさか、身体強化より実力が上だと思わなかったから、最初はジジィの能力までコピーされたかと思ったくらいだ。
でも、回復が無ければ俺の動きに身体が付いてこれないし、魔力が分からないなら魔力を練る事も、衝撃波の軌道を変える事も出来ん!
努力は俺を裏切らない!
うん!
俺! 今いい事言った!
これは惚れるね!
『……アホ』
アホじゃありませ~ん!
と……もう意識が無くなりそうだな。
「嫌だ……嫌……死にたくない……」
自分が死にそうになって、やっと命の重さを理解したか……。
遅いんだよ!
このクソが!
俺は、馬鹿の首を切り落とした……。
毎度の事だが、聖剣はそれと同時に崩れて塵になる。
なんでこんな人の命を理解してない奴が、神に選ばれるんだ!?
けっ……。
神が余計に嫌いになった……。
メシア……か。
『どうするんじゃ?』
確かめるしかね~よな。
『もし……』
気に入らないなら殺す……。
いや、多分殺す事になると思う。
何が間違いで何が正しいかなんて、俺には判断できないかも知れんが……。
こいつ等のやり方が、どうしても正しいとは思えん。
『弱者を仕方なく切り捨てると言う事と、進んで切り捨てる違いは大きいな』
俺も別に弱肉強食を否定するつもりはないし、生きる為の犠牲は仕方ないと思うけどさ。
人間なんて、生き物殺さないと生きていけない訳だし……。
俺も人を何人も殺してるし……。
でも、やっぱりこいつらみたいに好んで人を殺しまくるってのは、我慢できん。
メシアを殺せば、人類が滅亡するのかも知れないけど……。
でも! 俺はどうしても奴らを潰したい!
『ならば、進むか……』
ああ……。
ふぅ~……。
しかし、これは……。
元が城の使用人さん達だと思うと、気分が悪いな。
『仕方あるまい、こうなっては元へ戻す事も出来ん』
馬鹿が息を引き取ってしばらくすると、バイオポッドから、人間と同じ大きさの昆虫が這い出してくる。
あ~あ……。
あんなに可愛い女の子だったのに……。
苦情は、あの世でたっぷり聞いてやる。
だから……楽になれ。
****
うおう!?
化け物を全て斬り殺したところで、建物内に爆発音が響いた。
何!?
何が?
まさかまだ敵がいるの!?
『分からん!』
でも、魔力は感じない……。
うん!?
それどころか人の気配がしない!?
これって!
俺が音のした広間に着くと、人が一人もいなくなっていた。
やられた……。
『これは、転移の魔方陣じゃな』
全員で逃げた上に、移動用の魔方陣まで破壊していきやがった……。
手際のいい事で……。
『まぁ、敵の本拠地は分かっておる』
そうだな……。
読める本だけ持って逃げるか。
『うむ』
手頃なかばんに本を詰め込み、崩れ始めた廃屋を後に……。
おおっと!
危ない危ない……。
『なんじゃ?』
俺~、馬鹿の衝撃波のせいでまた服がボロボロだ!
このまま町に帰れば、変態扱いですね?
分かります。
やらせんよ!
もう気は抜かない!
ははっ……危なかったぜ。
さて、服は……。
あれ!?
うそぉぉぉぉぉぉぉぉ!
衣服どころか、生活用品や食料まで、全部無くなってる!
どんだけ手際がいいんだよ!
やっべ~……。
また、はめられた……。
どうする!? どうするんだ!? 俺!
ヤバいって!
これヤバいって!
また変態ルートに入ったのか!?
何処で間違えた!?
てか! ジジィ!
なんか案はないのか!?
『お前は、もう少し頭を使えんのか?』
何が!? 何で!? どうすんの!?
言いなさいよ~!
あんまり時間内んだかららぁ!
教えなさいよ~!
『はぁ~……あそこにある布を切って、羽織ればいいじゃろうが……』
いい!
それいい!
早く言えよ~! 馬鹿~!
よし! これで、変態ルート回避だ!
これをマントみたいに羽織ってっと……。
よし!
結界もなくなってるし!
じゃあ、引き上げるか!
『ふ~……わしは少し眠るぞ』
はいは~い。
****
俺は本を担いで、ホテルへ走った。
そう言えば、絶体絶命って怖い言葉だよね。
よく使うけど、字をみると必ず死ぬって事だからね~。
ピンチの時とかに使うけど、死ぬって事だから助からないんだよね~。
はぁ~……。
「レイ……またですね?」
「お前は、何度言えば分かるんだ?」
「そんなに私達が信用できないって事!?」
ホテルの部屋に帰ると……申し訳なさそうな犬がいました。
「ク~ン……」
可愛くね~よ!
なんでこの三人まで居るんだよ!
マントにした布、白だったから明りを点けてみると、血で真っ赤になってるよ!
そう言えば、血を拭きとって無かったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
今日、ボロボロに切り裂かれたんだったぁぁぁぁぁぁぁ!!
やってまったぁぁぁぁぁぁぁ!!
俺~……。
絶対絶命じゃね!?
てか、普通に死ぬんじゃね!?
もっと言うと、死ぬ。
ただ単純に死ぬ……。
イヤァァァァァァァ!
こ~ろ~さ~れ~……あれ?
「もう……お願いだから心配させないでよ……」
「死ぬ時は一緒に死なせてくれ……お願いだ」
「馬鹿! 貴方は馬鹿です……」
三人に抱きつかれて……。
また、泣かせてしまいました~……。
三人とも俺より年上なのに……。
あ~あ……。
あの世で父さんに殴られる……。
まったく……。
やって……。
おや?
おやおやおや!?
あの……ちょ!
俺なんか身体が浮いてるんですけど!?
あれぇぇぇぇぇぇぇ!?
****
あれから……三十分か……。
俺は今、ホテルの外にいます。
正確には窓の外にいます。
閉めだされた? 違います。
吊るされてる? 惜しい!
正解は……。
『電波を拾ってないで、早くせんと……』
ベランダを囲う、鉄製の柵に……。
『死んでしまうぞ!?』
背中から突き刺さってます……。
いだだだだだだだ!
三本も突き刺さってます!
死ぬって! これ!
回復ぅぅぅぅっぅ!
『じゃから! 今回復させると、お前の内臓と柵が癒着してしまう! 出血は止めておる!』
動けね~よ!
柵が! 柵が肺と肝臓と腸を貫通してるぅぅぅぅぅ!
これ死ぬ!
絶対死ぬ!
『何故こうなった!?』
帰ってすぐに、あの馬鹿女三人にタワーブリッジきめられた後、窓から投げ捨てられたぁぁぁぁぁぁぁ!
やっぱり怒ってたぁぁぁぁぁぁぁ!
痛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!
助けてぇぇぇぇ!
これ! 死ぬ!
もしくは、柵として余生を送るしかなくなる!
あああああ!!
****
さらに三十分後、覚悟を決め、自分で自分の腹部を切り裂いて抜け出しました。
もちろん、その後三階から地面に落ちたわけで……。
そこでも死ぬかと思いました。
重症で空中を蹴る余裕もなかったんだ~……。
『お前は……いちいち死にそうになるな!』
無理言うな!
好きでやってない!
出来れば俺もやりたくない!
マジで……。
やってらんね~……。




