七話
「つまり、僕らはみんなメシア候補って事さ。大体みんな八~十五歳で啓示を受ける。そして、聖剣を手に入れた者だけが信徒になるんだ」
えっ!?
何?
じゃあ、俺の本当の親父って神様なの!?
「お前の父親も神なのか?」
「違う違う! あらかじめ遺伝子に仕込まれてるんだよ。それが、選ばれた優良な人間にだけ作用するんだ」
選ばれた人間にだけ!?
「それでね、信徒の中からさらにメシアが選ばれて、神と直接対話が出来るようになる。今のメシアは僕より二歳下だけど、本当に優秀なんだよ」
何がどう言う事だよ?
訳が分からん……。
「う~ん……。うまく伝わらないかな? 啓示が分からないんだよね?」
「そうだよ!」
「ある日突然頭の中に、映像と情報が流れ込んでくるんだよ。世界が終ってしまうって言う情報がね。それで、自分が選ばれた事が分かって、聖剣の作り方を理解するんだ」
聖剣を作る!?
聖剣ってのは作る物なのか!?
「世界の終りの情報だけど……」
「それはさっき新約聖書ってのを読んだ」
「ああ! 助かるよ。後は……」
神からの啓示!?
本当にあれは真実なのか!?
なら何故俺は啓示を受けていない!?
あの馬鹿は嘘をついていない……。
それは分かる……。
どうなってるんだよ!?
「君のように信徒になれなかった人間も大勢いたんだけどね? そう言う人間はどうなったと思う?」
「回りくどい! 早く言え!」
「神様の命令で、全員僕達が始末したんだ。君達のような役立たずは、必要ないからね。聖剣を持たない君が、仲間を撃退したと聞いた時は驚いたよ」
は……ははっ……。
半分冗談のつもりだったんだがな……。
本当に神様は、俺を殺したかったのかよ……。
なるほど。
人生が過酷なはずだ。
やってらんね~……。
「まあ、大体こんなところだね~……」
神は俺の死を望んでいる?
俺は………………。
俺は…………。
俺は……。
『しっかりせい!』
分かってる……。
考えてるだけだ。
何かが……。
何かがおかしい……。
こんな事は……。
そうだ!
「何故、お前達は人を殺そうとする? メシアは人を救うんだろう?」
「それも、神の御意思さ。この星には百五十億人もの人間がいるんだ。全てを救うのは不可能だから、選別をするのも僕らの仕事なんだ」
クソが……。
「どう言う基準だよ! いい人も殺されそうになってたぞ?」
「性格とか中身なんてどうでもいいんだよ。遺伝的に優れている者を、次の世界に導くのさ」
ふざけるな……。
「まあ、それが必要な事と理解できた者が信徒になるんだけどね。君は、啓示を受けても同じ結果になったかもしれないねぇ」
俺の真っ黒いオーラを見て、馬鹿が呆れたように喋っている。
当り前だ!
そんなもん納得出来るか!
「あっ! でも、使命を全うした信徒には、神から御褒美があるんだよ?」
「御褒美!?」
「そう! 神が叶えられる事なら、どんな事でも願いがかなうんだ。富に名声……人を生き返らせたり、殺したりもできるはずだよ?」
そんな奇跡が……。
「おっ! 反応したね? どうだい? 今からでも、こちらに来ないかい? 実は、その為にわざわざ時間を取ったんだよ」
なるほど……。
俺は説得されてたのか……。
この馬鹿どもに協力すれば、何でも願いがかなうのか……。
『………………』
何だよ?
止めなくていいのか?
『わしは、お前を一番よく知っておる。それに、万が一があっても……。わしは止めはせん』
何だよ? その万が一って?
「どうだい? 悪くない話だろ? 信徒を二人も倒した君の力を評価しての、特別措置なんだよ?」
馬鹿に付き合うほど、寝ぼけちゃいない。
「君も、今から聖剣を作るといい! 魔力の強い女性に種を植え付けるだけで、その女性が剣になるんだ! 簡単だろう?」
ふ~……。
さっきも言ったがこいつ! 殺す!
『神は残酷と比喩としてよく言うが、本当のようじゃな』
早い話が、神ごと潰せばいいんだろう?
『ふん。もとよりそのつもりか?』
何時も言ってるだろう?
俺は俺だ!
まっすぐ突き進む!
俺は、魔剣を呼び出し、構える。
「ふ~……。やっぱり出来損ないか……」
ちっ……。
今度のチートは何だ!?
また攻略してやる!
その余裕ぶっこいた顔を、歪めてやるからな!
「あ! そうだ! 最後に!」
この後の及んで!
「何だ!」
「君の行動は、僕ら教団が常に監視していたんだよ。だから、ここに君が来ると分かっていた」
はぁ~?
「分からないかな~? 僕は君を殺す為に、わざわざここに来たんだよ。この意味分かる?」
むかつく!
「お前は、信徒の中でも実力があって、俺に負けないって事か?」
「正解! 頭は悪くないんだねぇ。もう少し補足すると、一対一の戦闘に関しては無敗なんだよ」
相当自信があるようだな……。
『抜かるなよ?』
当然だ!
「僕の戦闘力は信徒で一番弱いんだけど、一番強いんだ」
はぁ~?
頭おかしいのか?
「分からないかい? まあ、すぐに身体で実感するよ」
なんでこの馬鹿共は、全員むかつく奴らばっかりなんだよ!
「僕は第一信徒……ブラド。君を殺す者だ」
「御託は済んだか?」
「ふふふっ……。さあ、やろうか?」
殺す!
一瞬で殺す!
なっ!?
速い!?
「ぐあ!」
くっそ!
実力ナンバーワンは、伊達じゃないのかよ!?
俺が一歩前へ踏み出した瞬間、懐に飛び込まれた。
奴の振り上げられた剣が、俺の体を切り裂く。
体を捻って、致命傷は避けたが……。
俺より速い奴がいるなんて!
「ふふっ……。驚いてるね」
くっそ! 舐めるなよ!
うおおお!
俺がまた踏む出そうとした時、すでに敵の突きが向かって来ていた。
前へと進もうとする体を、無理矢理止める。
はあぁっ!?
俺より踏み込みが速い!?
体を押しとどめてくれた右足には、オリハルコンの剣が刺さってしまった。
くっそ!
馬鹿の剣で傷を負わされた、胸と足から煙が噴き出す……。
避けるのが精一杯だ……。
こっちから攻撃する暇がない……。
どうする?
遠隔攻撃だ!
<ホークスラッシュ>
はっ!?
何だよそれ!
容易く衝撃波を回避した馬鹿が、俺との距離を一気に詰める。
受け流しによって馬鹿の振り下ろした剣の軌道をそらしたが、脇腹を切り裂かれた。
速過ぎる。
高速の衝撃波さえ避けるなんて……。
全速……。
そうだ! 俺はまだトップスピードには乗り切っていない!
トップスピードで撹乱すれば!
<ミラージュ>
相手にではなく、横方向へと走り出した俺は、複数の虚像を作り出した。
気配を持っ虚像だ!
さすがに全部は対処でき……てる!
ヤバい!
虚像に全く目もくれなかった馬鹿は、俺へ向かって真っすぐに剣を突き出してきた。
「ぐが!」
馬鹿の剣が、俺の腹を貫通した……。
「凄いな君は……。こんなに凄いのは初めてだ。これじゃあ、他の信徒が倒されたのも分かるよ」
はぁ?
何を言って……。
ぐううううう!
腹に刺さった剣を抉られる……。
くっそぉぉぉぉ!
だが、この距離なら!
ええい!
俺の振るった剣は、空を切る。
剣を俺の腹から引き抜いて、跳びのきやがった。
くそ! 当たらん!
なんて速度だ!
くそ! くそ!
どうする?
以前ゴルバを倒した時のように、目くらまし……。
一瞬でも目を逸らしてくれれば!
<ファルコンスラッシュ>
超高速で放つ二つの衝撃波は、真空の巨大な竜巻となり馬鹿に向かう。
今だ!
<ミラージュ>
虚像を残して上空に!
「それじゃあ、駄目だ」
な!?
俺と一緒に飛び上がって!?
なら!
俺は高速で右足を突きだし、空気の壁を蹴る。
空中でさらに飛び上がるなんてお前には……嘘……だろ。
「へぇ……。君はこんな事も出来るんだね」
「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
魔剣でガードしたが、肩と足を切り裂かれた俺は、地面に落下した。
実力が違いすぎる。
勝てない……。
このままだと間違いなく負ける。
致命傷を避けるので精一杯だ。
どうすりゃいいんだよ。こんな化け物……。
動きは俺よりも速い。
技も通じない。
ジジィのフィールドは、オリハルコンの剣で難なく切り裂かれる。
勝てる要素が見当たらん……。
てか、こいつも何か特殊な事してるのか?
それはいったい何だ?
考えろ……。
考えるんだ……。
君の能力は素晴らしいと言っていたな。
こんなのは初めてだ?
一番弱くて、一番強い……。
「さすがにそれだけ怪我をすれば動けないかい?」
床にうずくまる俺を見て……。
笑ってやがる!
殺す!
殺してやる!
「うわ~……。この技は凄いね~」
はぁ!?
ホークスラッシュを出した!?
あれはそう簡単には……。
『空を蹴る事も出来たのぉ。つまり……』
くっそ!
そう言う事か!
最弱で最強!
ふざけやがって!
ズル過ぎるぞ!
「ん? 気が付いたかい?」
「お前は、相手の力を使えるのか?」
笑ってやがる!
このクソ野郎!
「正解! さすがだね~。でも、相手の能力をコピーするだけじゃないよ」
まだあるのか!?
「相手の能力に、自分の力を上乗せした実力になるんだよ。どうだい? 凄いだろ?」
それで一対一で無敗なのかよ。
「相手が十の力を持っていても、僕は十一になるんだよ。凄いと思わないかい?」
凄いって言うよりも、ずるいわ!
「さらに言うと、相手の特殊能力もコピーできる! まさに無敵なのさ」
化け物め……。
俺の能力が全部使える?
勝ち目がないってのかよ!
いや!
こんなところで、諦めてたまるか!
こんなクソ野郎に、負けるような修行はしてない!
考えるんだ。
何とか活路を……。
「おや? まだ立てるのかい? タフだね~」
お前にもコピーされてるかも知れんが、回復出来るんだよ!
「でも、そのタフさも貰ってるはずだ。さあ、何時まで生きていられるかな?」
お前を殺すまでだよ!
しかし……。
どうする?
全く案が浮かんでこない……。
たとえ、戦闘中に俺の戦闘力が向上しても……。
『同様に向こうも向上するじゃろうな……』
俺の技は、見ないと使えなかった。
下手に他の技を使えば盗まれる……。
つっても、他に有効な技なんて思いつかんが……。
乱撃……
いや、全て斬り捨てられるのがオチだ。
どうすりゃいいんだよ!
何だよ! この化け物は!
はぁ~……。
やってらんね~……。




