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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第六章:啓示の救世主編
68/106

二話

「それで?」


「いや……あの……もう」


「そ~れ~で~?」


「両軍の頭と戦力を潰せば、いいかな~……。なんて……」


「本当にそう思ったんですよね?」


「はぁ……」


「まぁいい……それから?」


「いや……あの……」


「続きだ……」


「アカネが死んだわけじゃなくて……。鬼蜘蛛を斬り殺して助けた……」


「その方法が、どれほどリスクが高いか、分かってたんですよね?」


「まぁ……」


え~と……。


もう、勘弁してくれにないかな~……。


ジパングを出てかれこれ三時間か。


さすがに少し足がしびれてきたんだけどな……。


「誰が足を崩していいと言った!」


ええぇぇ……。


お前はどこのスパルタ母さんだよ。


「他には?」


「えっ?」


「他には!」


「もうないです……」


俺は正座したまま、眼前で腕組みをしている女性三人に、ジパングでの事を説明していた。


この一週間毎日怒られてる……。


もう嫌だ……。


もうこいつらイヤァァァァァァァァァ!


しつこいし、陰湿だし、殺そうとしてくる!


絶対頭がおかしいよ! こいつら!


どんだけだよ!


ああ……もう……。


やってらんね~……。


「分かってたつもりだけど……」


「想像以上ですね。ここまでとは……」


「馬鹿も、ここまでいくと救いようがないな」


誰が馬鹿だ! なんて言うと……。


うん!


きっと殺される! なんか、すごい苦痛を与えられて殺される!


「で?」


「で? ……なに?」


「あの……あれよ!」


どれだよ?


分かんね~よ。


「だから……あの姫達で……誰か好みはいたの? って事よ! 分かりなさいよ!」


分かるか! 馬鹿!


アカネにカリン……コトネも好みだったけど……。


「そんなの関係ないと思うけど?」


「いいから言いなさいよ!」


怒らりた……。


「……何故関係ないんですか?」


「だって……最後全員に嫌われて殴られたんだよ」


ん?


んんんんん!?


なんでそんなに口をポカンと開けてるの?


なんか馬鹿っぽいぞ?


「もう、こいつは病気だな」


誰が病気だ!


「本当にどうしようもありませんね……」


どうしようもないって、どういう事!?


「どうしようもない馬鹿ね……」


馬鹿、馬鹿言うなぁぁぁぁぁ!


へこむぞ! こんちくしょぉぉぉぉ!


「で? 反省はしていますか?」


クソ食らえじゃい……。


「ほう、反省なしか?」


「イエ、海ヨリモ深ク反省シテオリマス」


嘘ですけどね!


「一応、教えてあげるわ。あんたが嘘つくと、分かりやすく棒読みになるのよ」


おおう!?


ナイフ抜きながらのそのセリフは……。


またか?


また体罰ですか!


お前ら、俺を殺すことしか考えてないだろ!


いや! ちょ!


近づいてこないで!


あああああああ!!


「さすがに、もうその辺で勘弁してやれ」


「ゴルバ! でも!」


「この一週間……普通の人間種どころか、人狼でさえ死にそうな拷問だったぞ」


「こいつが悪いのよ!」


「そうだ! こいつが悪い! 反省しないのだ!」


けっ……。


誰が反省なんかするか……。


「確かにこいつの無茶は俺もどうかと思うが、もう一週間だぞ」


そうだ! そうだ!


もっと言ってやれ! ワン公!


「でも……」


「この馬鹿が反省しないのは、どうしようもない」


馬鹿って言いやがった! このボケ!


お前の、何処をどう見れば従者なんだ!


後で嫌がらせすんぞ! コラッ!


「それよりも、宴の準備が出来た。再会を祝おう……」


「ふぅぅ……。分かりました」


「まあ、遊んでたわけじゃないか……」


「仕方ないか……」


おお?


ガチホモに初めて助けられた……。


なんだ、少しは役に立つじゃないか……。


さて……。


大きく鈍い音が、船室内に響く。


おふぅ!


「なにやってるんだ?」


君達のせいで足がしびれて、床とキスしたんだよ!


****


鼻を押さえた俺は、アッパーデッキ(上甲板)に向かった。


すげーな……。


アッパーデッキには豪勢な立食パーティ会場が出来上がり、音楽隊の生演奏が流れていた。


てか……。


「これは、やりすぎじゃないのか?」


「昨日も言ったが、この船はマルカ王国の正式外交用旅客船だ。外交の成功も祝っている」


「それは、聞いたよ。お前らの国からも援助する代わりに、乗船と入国を速めて貰ったんだろ? でも、豪華すぎるような……」


「新たな国との外交開始は、それだけ祝うべき事なんだろう」


「そうなのか?」


「ああ……」


「しかし、やっぱり国が違うと音楽も違うもんだな」


「……」


返事しなさいよ!


う~ん……。


でも、この音楽……なんだか母さん達が奏でててた曲に似てるな。


なんか、いい感じだ。


さて、謝るか……。


面倒だけどね~。


****


「あの、カーラ? ……リリス? ……あっ! メアリー……」


誰も目を合わせてくれないんですけどぉぉぉぉぉぉぉぉ!


ええぇぇぇ……。


ちょ! 待てよ!


何か、逃げられるんですけどぉぉぉぉぉぉぉぉ!


あれ?


何気にフラグ消滅してない?


ははっ……。


あぁぁぁぁぁはははっ……。


上を向くんだ!


下を向いたら、目から汁が出る!


よぉぉぉぉぉぉし!


酒を飲もう……。


もう成人してるし……。


はぁ~……。


俺は、若干やけで酒を飲んだ……。


いいんだ別に!


誰も喋る相手がいないくらい、慣れてるもん!


虐められっ子歴十年の、俺を舐めるなよ!


はは~ん!


みんなはマルカ王国の人と、外交の話が忙しいだけだ!


きっとそうだ!


嫌われてなんか……。


てか、この酒と料理うめぇぇぇぇぇ!


うん! 悲しい事なんか何もないさ!


料理を食わせてくれるだけで、幸せじゃないか!


美味しすぎて……目頭が……。


****


「レイ? お前船酔いは大丈夫なのか?」


ゴルバァァァァァァァ!


今はお前でもいい!


今日のお前いいよ!


「もう、慣れた」


「そうか……。ところで、顔が赤いが酒に酔ったのか?」


「いや。俺、なんか酔ってないのに、すぐ顔が赤くなるだけだ。体質らしい」


「そうか……。なら、頼みがあるんだが……」


うん!?


今日は役に立つから、ケツを貸せ以外なら聞いてやらんでもないな。


「なんだ?」


「少し、手合わせをしてほしい」


ゴルバは、練習用の木剣を差し出してきた。


音楽隊も片づけ始めてるし……。


「いいけど……。なんで?」


「この八か月で、自分の力がお前にどれだけ近づけたか……。もしくは離されたか知っておきたい」


「いいよ」


****


俺は、デッキの広い場所でゴルバと立合う事にした。


こいつの速さは俺より上だから、修練にもなるだろう。


「行くぞ!」


「おう!」


ん?


あれ~?


あの……。


あれ~?


「おや? あれは、ゴルバ殿と英雄殿……何をされているんですか?」


「あれは……ダンスですか?」


「それにしてはゴルバ殿だけが、ぐるぐると……」


「いえ……。多分、立合いです」


「メアリー様……。あれがですか?」


「あそこまでレベルの差が出るなんて……」


「カーラ……分かるか?」


「リリスも分かってるみたいね……。あんな事が人間に出来るなんて……」


「あの……御三方、よければ我々に解説を……」


「あ! そうですね~。レイはゴルバの攻撃を全て潰しているんです」


「潰す?」


「ええ……。ゴルバが剣を振るおうとする刹那、起点を止めてるのよ……」


「レイがゴルバの剣を、木剣の先で全て止めている」


「フェイントや高速移動も、全く問題になってないわね」


「ああ! なるほど! それで、英雄殿は剣を突き出すだけなんですか~。さすが英雄殿ですな~」


「ねえ? 確かゴルバって人の状態でも……」


「ああ……Aランク中位までレベルが上がっている」


「レイがSランクなのは以前からですが、ここまで……」


「片手で酒を飲みながら……よそ見までしているな」


「あいつには限界が無いの? それとも死神様の剣技のせい?」


「わからん……。我らのレベルも上がっているはずだが……。差が埋まるどころか広がったのか?」



あれ~?


ゴルバ……遅いんだけど……。


あれ~?


本気じゃないの?


まあ、手合わせだからかな?


でも、これじゃあ実力なんて分かんないと思うんだけどな~……。


いいのかな~?


「くっ! ここまでとは……」


「いや……。これでなんか分かるのか?」


もう少し本気出せよ……。


「十分だ……。これならどうだ?」


はっ?


ええ~?


本気も出してないのに、狼に変わりやがった……。


「いやいや。練習じゃないのか?」


「行くぞ……」


聞けよ!


うおおおおお……おっ?


これは……いいのか?


そおおい!


「ギャウ!」


ゆっくり飛び掛かってくるゴルバの、頭を叩いてみた。


軽く叩いただけだからすぐに立ち上がるけど、首を振っている。


大げさな……。


「ガウウッ!」


う~ん……。


そおおおおい!


「キャウ!」


あんまり同じところを叩くのもどうかと思うので、背中を叩いてみた。


これ~……なんだ?


本気じゃない立合いなんて、何になるんだろ?


てか、俺の修練にならん!


酒を飲みながらなのもよくないか……。


「ガルオオオ!」


俺はゴルバを避けて、コップを机に置いた。


さて!


だから、本気出せよぉぉぉ……。


もういい!


そっちがその気なら!



「あの状態のゴルバって……」


「そうです。Aランク上位……いえ、Sランクになっていると思います」


「ゴルバの動きを、目で追うのがやっとだ……」


「私には、あの馬鹿が十人くらいに見えるんだけど……」


「ええ……。ゴルバにも全く追い切れていないようです」


「さすがは英雄殿ですな……。しかし、これは……」


「まるで踊ってるみたい……」


「これが、極限まで無駄を削いだ動きなのか?」


「なんと優美な……」



はっは~!


お前が本気出すまで、後ろに回り込み続けてやる!


どうだ!?


目が回るだろう?


さっき、馬鹿って言った仕返しじゃい!


けけけっ……。


****


うん?


「ガウッ! ガアア!」


「ん~……んん~……ルンタッタ……ンタン……ん~~」


「ガ……グルル……」


気が付くと俺は、再び楽器を出した音楽隊が奏でる音に合わせて、身体を動かしていた。


ゴルバは、いつの間にか人の姿に戻っている。


もちろん、ダンスなんて高尚なものじゃない。


ただ、いつも修練している体術。


風に、大地に、魔力に合わせて身体を動かす。


流れる水のように……。


「すばらしい! なんと素晴らしい舞……」


「英雄殿は舞も嗜むのですな~……。うん! 見事!」


「あの……御三方? ……ふむ、確かに見とれるほど見事ですな……」


*****


ん?


せっかく、いい気分だったのに……。


「おぉぉい……音楽隊の人?」


俺の声で、音楽が止まる。


「なんでしょう? 英雄殿?」


英雄……なんかこそばゆいな。


「デッキの後ろの方に下がってくれ」


首をかしげながらも、俺の言葉に従ってくれる。


うん!


先生、素直な子は好きです。


ああ?


どうしたんだこいつら?


顔が赤いな……酒でも飲み過ぎたのか?


「おい? ……おいって! 三人とも! 乗客守ってくれよ! いいな!」


「へっ!? あの……レイ?」


さてと……。


『うん? どうするんじゃ?』


なんか、レベルが上がったぽいから試したいんだよ。


多分、うまくいくと思うんだけど……。


『なるほど……。まあ、問題ないじゃろう』


船首で魔剣を構えた俺は、向かってくる鳥型モンスターに向かい技を放つ。


<ホークスラッシュ>


「ああ! 敵です!」


「油断した! 客の誘導を……なんだ?」


「見当違いな方に衝撃波? 何してんのあいつ?」


「なっ! 衝撃波が……」


「曲がった? 何あれ? どうなってるの?」


うん!


狙い通り!


『これは、なかなか使えそうじゃな』


よし!


あの……空中の塊を目がけてっと!


連撃!


<ホークスラッシュ>


夜なので、敵の姿は目視できない。


だが、魔力は感知出来ている。


空中で軌道を変える俺の衝撃波は、モンスター七体を確実に塵へ変えていった。


『しかし、よく考えたのぉ。空気中の魔力溜まりに、わざとぶつけて軌道を変えるか……』


まぁ、魔力を前より感じられるからね。


空中や水中の魔力の流れに合わせれば、軌道をコントロールできる。


それでも、あらかじめ軌道計算をしないといけないって欠点はあるけどね~。


『十分じゃろう。しかし、よく思いついたな』


昔、師匠がやってたの思い出したんだよ。


その時は、全く原理が分かんなかったけど……。


『なるほど……。さすがにお前の頭では考え付かんか……』


へし折りますよ? クソジジィ!


人に煽るなとか言うくせに、自分で煽ってくるなよ! このエセ賢者が!


『五月蝿い! このエセ人間が!』


あれ?


いやいやいや……。


俺、人間! に! ん! げ! ん!


エセ人間って何だよ!


『Sランクと対等な人間など、いてたまるか』


いますから!


ここにいますから!


馬鹿だろ! ジジィ!


****


「あの……レイ?」


「なんだ? カーラ?」


「今のなに?」


「魔力の流れに合わせて軌道を変えたんだ。うまくいったよ」


「一段とレベルを上げたな……。レイよ」


「ん? まあ、それなりに」


「レイには限界がないんですか?」


「それはあるよ。でも、限界ってのは超えてこそじゃないのか?」


「それはそうですが……」


「あれ? お前ら酒飲んでたんじゃないのか? さっき顔が真っ赤だったのに、もう元に戻ってる……。あれ? え?」


怒って……。


「うっ……五月蝿い!」


うおおお!


見える! 見えるぞ!


真っ赤になったカーラの平手を避けた……。


先に……。


メアリーの平手!?


やらせるかぁぁぁぁぁぁぁ!


よし!


はっ?


お前! 頭おかしいのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


なんとぉぉぉぉぉぉぉ!


****


二つの平手を避けた先に待っていたのは、リリスの魔道砲……。


いやいや……。


死ぬから……。


普通に死ぬから……。


馬鹿か! お前!


何とか魔剣で直撃は防げたからいいようなものの……。


てか……。


待ってぇぇぇぇぇぇ!


ちょ! 待ってぇぇぇぇぇぇぇ!


停めてぇぇぇぇぇぇ!


置いてかないでぇぇぇぇぇぇぇ!


海へ吹っ飛ばされた俺は、船を追いかけて海面を全力疾走しました。


てか……。


本気で殺しにきやがった……。


最悪だよ、あの三人……。


やってらんね~……。

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