十三話
俺が安岐城へ走り出して数分後、戦場にアサヒ、ミスズ、カリンの姉妹が到着した。
「まさか……そんな事が……」
「事実です……」
「じゃあ! レイは!」
「全てを背負って……」
「何と言う事だ……」
「馬鹿な事を……」
事情を聞いた四強達が、全てを理解した。
でも、怨まれるつもりでやってるのに、カリンも余計な事をしてくれたもんだ。
黙って全てを終わらせて姿を消せば、最高に格好いいのに。
俺は本当に何処か間が抜けていて、恰好をつける事が出来ないな……。
はぁ~……。
やってらんね~……。
****
ヤバいって……。
これヤバいって!
「死なないで! レイ! ああ……」
いや! あの!
ちょ! これぇぇぇぇぇぇ!!
何がやばいって……。
これは……。
あの! とにかくヤバいって!
ちょ! マジで!
ヤバいって!
『五月蝿いのう……』
五月蝿いとかじゃなくて! ヤバいじゃんか!
「レイ! レイ……」
あの! これ! ヤバいって!
『確かにまずいのぉ……』
どうしよう! どうしよう!
マジで! いやマジで!
超マジだって!
『確かに……もう……ぬうう』
いや! でも!
あの!
ヤバい! 超ヤバい!
『あ……駄目じゃ。もう限界じゃ!』
ちょ! 待てよ!
諦めんなよ!
諦めたらそこで終りですよ!?
ヤバいんだって! マジでぇぇぇぇぇぇ!!
『もう……無理じゃ!』
死ねよ! クソジジィ!
『お前が死ね!』
*****
「そ……ん……な……」
「嘘だ……。こんなの嘘だ。嘘に決まっている!」
鬼蜘蛛との戦闘が終了して十五分後、姫達と四強達が安岐城跡地に到着する。
そこでは、人型の消し炭の前で泣いているアカネがいた。
アカネが半狂乱で叫ぶ声で、他の人間もそれが何なのか理解したようだ。
姫達とコトネが、それに駆け寄る。
「お姉さま! 何があったんですか!?」
「レイは……」
「私を……私なんかを守って……。ああ……神様」
「嫌よ……。こんなの嫌よぉぉぉぉぉ!」
「レイ! レイよ! お前のお陰で国が平和になるんだぞ? 何故それを……自分のなした事を見届けないんだ!」
「ああ……私は……」
いや……。
何か騒いでるけど、俺それどころじゃないんですよ……。
いや、マジで!
「レイ……お前こそ真の武人だ……」
この声は!
スケオキィィィィィィィ!!
スケオキ、キタァァァァァァァ!!
もうこれしかない!
『も……もう限界じゃぁぁぁぁぁ!!』
ジジィの叫びと共に、炭化した俺の身体から煙が上がる。
精一杯遅らせた回復が、開始されてしまう。
「なっ……」
「これは……」
落ち着け!
落ち着くんだ! 俺!
チャンスは一瞬だ!
ジジィ! 回復のコントロール!
『精一杯やっておる!』
のこり五……四……三……二……一!
今だ!
俺は声帯の回復と同時に、スケオキに叫んだ。
「パンツを下さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!」
「はっ?」
「急いでぇぇぇぇぇぇぇぇ! 俺がピンチですぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
いやいやいや!
そんな唖然とするな!
こっちは全身の衣服が焼けて無くなってるんだ!
このまま回復を続けると! すっぽんぽんなんだよ!
モザイク処理が必要になっちまうんだよ!
「早く! スケオキ! 早くぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「えっ……ああ……このマントで……」
セーフ!!
間に合った……。
ありがとう神様……。
でも、いちいちこんなピンチを与えてくる、貴様が死ぬほど嫌いだ。
****
俺は、スケオキから引っ手繰ったマントを腰に巻いた。
そして、全身の回復が完了する。
ふ~……。
危うく、変態に逆戻りだった……。
ヤバかった~……。
ん?
みんなの固まってどうしたんだ?
腹でも減ってるのか?
『……お前に二枚目は無理じゃ』
はぁ~?
何で、いまそんな話になるんだよ?
『……不憫な』
なんですか~?
言いたい事はいいなさいよ~って!
「あの……レイ?」
「なんだ? アカネ?」
「大丈夫なの?」
「ああ。即死じゃなければ魔剣で回復できる。瀕死だったが、今回は即死じゃなかったからな」
鬼蜘蛛倒して、魔力も十分溜まってたしね。
「あの……勘違いじゃなければ……裸になるのが嫌で……」
「ん? ああ……。少し回復を遅らせたんだ。何とかなったよ」
俺は、優しくほほ笑んでみた……。
これでフラグが……。
痛い痛い痛い……。
何故か俺は、女性四人に本気で殴られ始めました。
ちょ! やめて下さい!
何なのこれぇぇぇぇ!
ここは普通、フラグの成立したヒロインと抱擁じゃないの!?
なんでタコ殴りにされてるの!?
ちょ……マジで痛い。
武術経験のある二人と、亜人種の血が混じって力の強い二人に……。
かなり本気でふくろにされました。
耐えました……。
耐えましたともさ!
亀のように丸くなって!
てか! なんですか~? これは!
なんで俺は虐められっ子みたいになってるの!?
おかしくない?
皆は、なんだか心配させた事や、一人で背負おうとした事を本気で怒ってるらしいです。
ベギッと、鈍く嫌な音が……。
ヤバいぃぃぃぃぃ!!
肩甲骨のところが!
なんかが折れた!
ジジィィィィィィィィィィ!! ヘルゥゥゥゥゥゥゥプ!!
『今やっておる……。しかし……』
何? 何か問題でも?
ある意味いつも通りですよ?
『もう、哀れで仕方ない……。お前の代わりにわしが泣きそうじゃ』
泣きたいのは、俺だろうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!
そして、四人の気が済むまでの二十分かな?
俺は耐えきりました……。
マントだけど……腰蓑一つで耐えきりました。
なぁ、ジジィ?
『なんじゃ? かわいそうな子?』
これ~……英雄でも武人でもない……。
『やめんか! わしを泣かせても得はないぞ!』
お母さん……。
俺はこんなですが……。
元気です……。
泣きません……。
男の子ですから……。
『うんうん……そうじゃな。お前はよくやった』
同情するな……。
余計に惨めになってくる……。
ん~……。
何だよ! コレェェェェェェェ!!
やってらんね~……。




