十一話
「うおっ!」
目を覚ますと、俺を複数の顔がのぞきこんでいた。
「おはようございます!」
五月蝿い!
朝から元気だな! 向こうに行け!
てか! スケオキまでいる!
「ああ……。何だよ?」
兵士達を押しのけて、アサヒがテントに入って来た。
「これ! お前達は昨日散々聞いたじゃろうが! 今日はわらわが最初じゃ!」
「奥方様~……」
「朝比……私は昨日の続きを……」
「輔沖様! 順番と言うものがあろう!」
「いや……でも……」
「なんじゃ?」
「いや……」
尻にしかれまくってる……。
こいつ、アカネよりミスズに近いな。
はぁ~……。
面倒くさいな~……。
やってらんね~……。
****
アサヒと喋るだけで、午前中が終わった……。
なんですか~? これは!
亜人種だけじゃなく、人間の兵士達もいっぱい寄ってくる!
数万の人間が代わる代わる寄ってきやがる!
うざいとかじゃなく! もう拷問ですから! これ!
ああ……もう、殴りたい。
全員殴り倒したい……。
スケオキは力を貸せと一時間ごとに来るし……。
アサヒも、他国の政治を参考にして人種差別をなくしたいと言って、この国に残ってほしいと言ってくる。
うん……。
嫌じゃ! ボケ!
あ……。
でも、アカネとコトネを差し出してくれるなら考えようかな~。
この国は、一夫多妻制がOKらしいから……。
あのキリングシスターズ三人と一緒だと、俺一生嫁が出来ないし……。
いや!
アカネだけでもいい!
もう贅沢は言わないから!
俺に彼女を下さい!
これ以上俺を不幸にするなら、奇行に走るぞ!
いいのか? 神様!
嫌なら、彼女を下さい! お願いします! そして、死ねよ馬鹿!
****
こうして俺は……。
一日中話し続けた……。
あれ~?
ちょ! あの!
あれ~?
帰らせろよ!
喉痛い……。
『お前はあれじゃ……。流されすぎじゃ……』
だって~……。
『お前は人に嫌われるのが怖いのかも知れんが、もう少し意見を言うべきじゃ!』
そんなつもりはないんだけど……。
それより回復~!
喉痛い~! なんか熱っぽい!
『お前半年以上高熱を出し続けておったのに、そんな事で……』
今は魔力あるじゃんか~!
回復~!
早くしろよ~!
なぁ~!
『……ええい! クソガキが!』
うん! 痛みが消えた!
サンキュー! クソジジィ!
それにしても……。
『仲良くなってしまったな……』
はぁ~……。
あっちにはコトネの親父さん達がいるし……。
『いっそこのまま逃げ出すか? それも一つの手段ではあるぞ?』
どうすっかな~……。
でも、馬鹿の仲間は掴まえて情報を聞きだしたいんだよな~……。
『では……』
ああ……。
馬鹿捕獲だけに動くわ。
やっぱり一国の命運を俺が左右するのは、違うと思う。
『そうか……。どうするかはお前の自由じゃ。好きにせい』
あの……あれな。
ジジィって、人間の問題の時は指図しないのな?
『よほど人の道に外れん限り、お前の人生じゃ』
な……なんか本物の賢者みたいだな。
『わしは元々本物じゃ!』
いや! 断る!
『断る!? それは……受け入れ拒否か!?』
さて……。
みんな寝た様だし……逃げ出すかな。
『おい! 返事をせんか!』
う~ん……。もう少しジジィをおちょくりたいが……。
『このクソガキが……』
お客さんだ……。
数は……五百ってところだな。
行くか……。
『うむ。目的の相手もいるようじゃしな』
今回もオリハルコンあるのかな?
あれ、結構面倒なんだよな~……。
『この感じは持っているじゃろうな……』
出会いすぎて、気配覚えちまったよ……。
『抜かるなよ……』
分かってる。
****
俺はタチカワ軍のベースキャンプから、十キロほど離れた地点で敵との交戦を開始する。
まぁ……雑魚に負ける事はないけどね!
この瀕死の八カ月が、俺を確実に強くした。
今まで感じ取ることすらできなかった気配が分かる。
敵の攻撃がほとんど予測できる……。
変な感じだ……。
五百匹の動き全てが分かる。
自分を含めて、全てを上空から見下ろしているように感じる。
ははっ……負ける気がしない!
五百体の敵を、極短時間で全て斬り捨てた。
全力を出していないのに……。
本格的に人間離れしてきたよ……。俺。
「なるほど……。凄い戦闘力だ」
「お前に聞きたい事がある」
「お前の事は報告を聞いているぞ。出来損ない!」
「ああ!?」
「お前には同士がやられたようだが……。俺はそうはいかんぞ! 俺の力は完璧だ!」
こいつ等の仲間は、馬鹿ばっかりだな……。
「出来損ないのお前は、俺に指一本触れる事が出来ない!」
馬鹿白髪が剣を抜く。
うおおおお!
俺は、いきなり立っていた場所から吹き飛ばされた。
そして、木に背中をこれでもかと言うくらい打ちつけて止まる。
いって~……。
クソッ!
再び歩み寄ってくる白髪に、剣を構えるがその瞬間吹き飛ばされる。
そして、今度は岩に身体をぶつけた。
また、クソずるい事を……。
まあ、でも前回よりは分かりやすいな。
「お前の魔力は記憶している! さあ! 惨めに死んでいけ!」
『頭は弱いようじゃな』
毎度のことだ……。
こいつ等は多分頭蓋骨の中には、コンブかワカメでも詰まってるんだ。
『まだ油断するでないぞ』
分かってる……。
俺は、立ち上がるたびに吹き飛ばされると言う事を繰り返した。
もちろん、二回目以降ダメージを受けないようにぶつかる衝撃を、両足と背中のクッションできちんと逃がしている。
『どうやら斥力だけのようじゃな』
まぁ、百パーセントとは言えないが、魔力を補足して吹っ飛ばすだけみたいだな。
ジワジワなぶり殺すってことか?
『まあ、魔力をはじく事が出来るんじゃ。完璧に近い防御じゃな』
それもそうだな……。
魔力のない生物なんて見た事ないしな。
さて……。
一芝居といくか。
『うむ……。既に太陽も昇り始めた事じゃしな』
まぁ、これぐらい続けないと相手も信じないだろうしねぇ。
俺は、少しだけ腕を斬り流れ出た血を口に含む。
もちろん馬鹿には見えないように……。
そして、吹き飛ばされわざと岩にぶつかり、口に含んだ血を噴き出す。
ちょっと痛いが……我慢っ!
「なかなか粘ったが、完璧な俺の敵ではなかった! さあ! 止めだ!」
動かなくなった俺を見て、馬鹿が近づいてくる。
どうやら引き寄せる引力はないな。
俺の頭上で、剣を振り上げた馬鹿の腕を切り落とす。
「なっ! え? あ……ああ。う……ぐがああああ!」
馬鹿が……。
剣を握ったままの地面に落ちている馬鹿の腕を、蹴り飛ばす。
こいつが馬鹿でなければ厄介なものだ。
「ああああ……腕がぁぁぁ! 俺の腕がぁぁぁ!」
無くなった腕の付け根を押さえて、その場で転がる馬鹿の頭を踏みつける。
「お前には鳴いてもらうぞ……」
「あ……あああ……なんで俺が! こんな出来損ないに!」
腹立つな~……。
このまま踏み殺してやろうかな?
『お前それで前回も情報を失ったじゃろうが! 今回の拷問は後じゃ!』
もう……仕方ない。
情報を聞き出してから拷問しよう。
『このドSめ……』
人を、変態みたいに言わないでくれます~?
『ふ~。それよりも止血せんと意識を失うぞ?』
分かってる。
俺は、辺りから手頃な木の蔓をとり、両足を縛った後、腕を止血するために縛る。
「ああ……チクショォォ……痛い……くそ……」
「苦しんでから喋るのと、苦しまずに喋るのどっちがいいか考えろ」
「ふざけるな! この、できそこおぶうっ!」
「苦しんでからでいいんだな?」
「ちょ……おげっ! ま……まっ……でっ!」
「喋る気になったか?」
「……だれがぁ! うげっ!」
「あと十発以内でお前の歯が全部折れるぞ?」
「………………」
「じゃあ、歯が全部なくなったら次は肋骨にするか……」
「まっ! 待ってくれ! 喋る! 喋るから! もう、やめて……」
実は、喋っても後で続きはするんだけどね!
『この超ドSが……』
五月蝿い。
「じゃあ……まずはこの国で何してやがった? それから目的ってのを詳しく教えろ」
「へっ……へへへ……。この国を平和にしてやろうとしたのさ」
「回りくどく喋るなら殴るぞ?」
「わかった! 待て! 安岐の守に、鬼蜘蛛を復活させてやる手助けをしていたんだ」
「殴っていいんだな?」
「待ってくれ! つまり……」
俺は全てを知った……。
最悪だ……。
またかよ……。
どうしても俺を不幸にしたいのかよ!
最悪だ!
鬼蜘蛛という化け物の力を使ってまで、平和を求めた安岐の守……。
娘を犠牲にしてまで力を求めた安岐の守の心を、この馬鹿どもは利用しやがった。
鬼蜘蛛とは、人間を怨んだ亜人種達の怨念の塊から生まれた化け物。
亜人種との混血した人間の力で復活は可能だが、魔法に疎いこの国の人間ではそれが出来なかった。
安岐の守を洗脳し、亜人種を徹底的に攻撃させたのはこの馬鹿どもの計画だったようだ。
戦争をさせ犠牲者を増やした上で、疲弊したところに鬼蜘蛛をぶつけ、両軍を全て殺す。
馬鹿共の最終目的はこの国の壊滅。
今、洗脳により魔王となった安岐の守は……。
混血の娘を媒介に鬼蜘蛛と同化したそうだ……。
アカネかカリンが犠牲に……。
それで……アカネ達を連れ去ろうとしたときに阻止しようと、化け物が出てきたんおかよ! くそっ!
俺はどうしようもない馬鹿野郎だ……。
もっと早く気が付けたはずなのに……。
俺は何度こんな事を繰り返すんだ……。
何故俺は……。
「へへっ……どうだ? 人間を怨む亜人種の怨念で、亜人種が滅ぶ。……けっさくだろう?」
このクソが!
『待て!』
「あが……」
俺は、馬鹿の首を刎ねていた。
情報は全て聞き出せていない。
分かっているが止められなかった……。
俺は本当に大馬鹿野郎だから……。
『どうするんじゃ?』
分からん! でも!
****
俺は、城下町に向かい走り出していた……。
気配で分かる……。
タチカワ軍が既に動き始めていた……。
戦争に介入しない?
安岐の守を殺した時点で、タチカワ軍の勝利が確定する。
どうするかも決まらないまま……。
俺はただ走っていた。
俺を見て撫でろとねだってくる美少女と、俺なんかに会えた事を神に感謝してくれたとびきりの美人を思い浮かべて……。
なんで……。
なんで、俺に近づく奴は不幸になるんだよ!
俺はどうすればよかったんだよ!
教えてくれよ……。
頼むよ……。
あの姉妹は十分苦しんだじゃないか!
もう、やめてくれよ……。
俺の命ならくれてやる!
だから……。
****
俺が関所を蹴破り、アカネ達の家に付くと……。
襖が吹き飛び、室内もボロボロになっていた……。
部屋の中央に、カリンが一人で座っている。
その眼は天井を見つめ動かない……。
アカネ……。
くそっ! くそっ! くそっ! くそっ! くそっ! くそっ! くそっ! くそっ!
俺は、カリンの隣にただ座った。
「……あ……あ……うう……」
くっそ! くっそ! くっそぉぉ!!
何でだよ! チクショォォォォ!!
何で……。
もういい……。
介入とかどうでもいい……。
安岐の守を殺す!
俺にはそれしか……。
それぐらいしか……。
「あ……ああ! あ……ああ!」
なんだ? 撫でろってのか?
「あうう! う……あ! あ……ああ……」
な? どうしたんだ?
カリンが俺の手を払いのけた。
そして俺の目を見つめて、何かを訴えている。
どうした?
なっ!
カリンが涙を流している……。
それも血の涙を……。
どうしたってんだ!?
俺に何をしてほしいんだ!?
『これは……回復じゃ!』
回復?
『そうじゃ! うなじを見ろ! その怪我の痕! 明らかに故意的に脳幹にダメージを負わされておる!』
それって……。
『うむ! 回復させられる! 急げ!』
分かった!
体内で、ジジィが生成した回復の魔力を、俺はうなじを包み込んだ両手からカリンに流し込む。
花梨の首と脳は、煙をあげて回復していった。
「ああ! レイ! レイ!」
カリンは俺に抱きついてきた。
あの時感じた、知識の片鱗は間違えていなかったらしい。
「状況を教えてくれ……」
「お姉さまが私をかばって連れて行かれたわ」
「そうか……」
「待って! お姉さまからこれをあなた宛てに……」
「字が読めん……」
「私が読むは……」
アカネからの手紙……。
手紙を俺が読んでいる頃には手遅れで、自分は助からないだろう。
なので、勝手ではあるがツナヨシやスケオキに馬鹿の陰謀を知らせて、犠牲を最小限に抑えてほしいと書いてあった。
もしそれが駄目なら、カリンやミスズを連れてこの国から逃げてほしいか……。
お前は何処まで……。
何処まで全てを諦めて生きてきたんだよ……。
面倒なのは嫌だし、仲間と合流しなきゃいけないってのに……。
ああ……。
駄目だ……。
感情が抑えられない。
俺って奴は、本当に……。
やってらんねぇ~……。




