九話
あれ~?
ちょ! あの!
ええ~……。
「だから言っただろう?」
「本当ね! う~ん……気持ちいい!」
殺すぞ! クソアマ!
何が気持ちいいだよ!
どうなってんだよ! これっ!
なんなんだよ! これは!
ああ……夢なら覚めてくれ……。
「早く起きろ! 次は私とひ……美鈴が手合わせをする!」
「ふふっ……そう落ち込まないで下さい」
落ち込むなって……。
無理じゃ! ボケ!
「仕方のない事だ。美鈴は私が幼少の頃から、この道場に通っているのだ」
「剣ではなく長刀ですが……どうです? うまいでしょ?」
「……はぁ……」
天井を仰いでいた俺は、身体を起こし道場の隅に行く。
はぁ~……。
え? もしかして?
あ、何も言わないで……。
強さって……唯一と言ってもいい自慢だったんだ。
…………。
ああ! そうだよ!
負けたよ! 負けました!
それも女の子に!
ボコボコですよ! 手加減した覚えもないのに!
それもコトネに至っては、昨日から通算五十戦五十敗ですよ!
俺自分がこんなに弱いとは思いませんでしたよ!
あ~! もう!
なんだよこれ!
へこむわ~……。
やってらんね~……。
マジでへこむわ~……。
「おい! レイよ! よく見ておくんだぞ!」
「はぁ……」
「じゃあ、行くよ! 琴音!」
「来い!」
俺は、二人の手合わせを見学する。
二人とも確かに腕は悪くない……。
けども! なんで!?
俺が負ける理由が無いって!
何でだよ!?
動きが目で追えないってわけでもないし!
技が特別ってわけでもないのに!
何でだよ!?
俺が全快じゃないからか!?
それを差し引いても訳が判らん!
俺の剣が当たらないし、コトネの剣が避けられない!
ミスズ姫の長刀から逃げられない!
避けたはずが当たってる!
もう! どうなってるんだよ!
「……参りました」
コトネがミスズ姫の得物を弾き飛ばし、勝敗が決した。
なんだか動きが独特なんだよなぁ……。
でも、知らない動きって気もしないんだけど……。
何でだろう……。
こんな事、今まで一度もなかったのに。
「そんなに不思議か?」
隅で考え込む俺に、タオルで汗を拭きながらコトネが話しかけてきた。
「まぁ……」
「昨日も言ったが、気の使い方だ!」
「気……」
「そうだ! 確かにレイは剣の基本は出来ているようだが、ここぞと言う時に気を使えていない」
気……ねぇ。
つか! 気ってなんだ!
あの速くなったりする事か!?
「その……気ってなんだ?」
「ふふふっ……。国外にこの技術は無いんでしょ?」
「そうなのか……。では昼から教えてやろう!」
やっぱり、ずるい技術か!
お願いします! ちくしょう!
せめて、わざと負けるくらいにはないりたいです! 馬鹿野郎!
「……で? 今日は何を食わせてくれる?」
ああ……。
お昼の用意は、俺がしないといけないんだった……。
なんか惨め……。
「今日は故郷の料理を作りました」
「そうか!」
「ふふふっ。楽しみね」
「そうだな! レイの料理は絶品だ!」
嬉しくね~。
「良かったね、琴音! 家事全般がこれだけできる男の人って、珍しいよ」
「うん! いい奉公人が出来た!」
「……ホウコウニン?」
「あっ! この国で賃金をもらって家事などをする人を、奉公人って言うのよ」
ああ……使用人のことね。
嬉しくね~!
ものっそい! 惨め!
「どうした? 早くしてくれ!」
「はい……」
気分悪い。
気分悪いと言いながらも、料理をほめられると嬉しい。
そして、命を助けて貰った礼があるから、家事もしてしまう。
何してんの? 俺は?
魔力が無いから、身体がまだ物凄い痛いのに家事って……。
何がしたいの? 俺?
はぁ~……。
****
昼から道場で、コトネに気と言うものを教えて貰う。
「いいか? まず、胡坐で座り手をこう合わせて目を瞑る」
「はぁ……」
「そして、意識を身体の中に向け、身体の中にある気を確認するんだ」
さっぱり分からん!
「そして、その気をたんで……腹に集めて練るんだ」
練る?
練るってなんですか!?
まず身体の中にある気ってなんだよ!
魔力の事か?
俺は、スッカラカンだぞ!
「この時のコツは、精神を出来るだけ落ち着け、焦らない事だ。そして、呼吸も大事だ。ゆっくり吸って吐くんだぞ」
訳の分からない俺は、目を瞑っているコトネを凝視する。
何をしてるんだ?
気? 俺の知らない力なのか?
う~ん……。
コトネ可愛いな~……。
おっと! いかん! いかん!
俺の感知できない力なのか?
分からん……。
何してるんだ? こいつは?
キスしようかな……。
う~ん……。さっぱり分からん!
目を瞑って身体の中を確認しても、雀の涙ほどの魔力しか感知できないぞ!?
どうすりゃいいんだよ!
しかし……本当に無防備だな、この子……。
女性特有のいい香りがする。
いきなりキスしたら……。
殴られるだろうな……。
「どう……うわああ!」
おおう……。
いきなり目を開けたコトネの前には、もちろん俺の顔。
そんな木刀を構えないでください。
ちょっとした出来心なんです。
「何をしている?」
怒ってらっしゃる。
「いや……全く分からなくて……。見てれば分からないかと……」
う~ん……。
苦しい!
これはいい訳として、苦し過ぎる。
てか、無理だよな。
これは殴られて追い出されるって、オチかい?
「そ……そうか……。そんな眺めても同じだ! 次からは、素直に声をかけろ!」
「すみません……」
俺は、気の修行を続けた?
あれ?
うまくいった?
なんで? 半殺しまで覚悟したのに……。
まぁ、いっか……。
う~ん……。
気なんて分からん!
てか! 眠い!
ああ……お花畑……。
「おふぅ!」
睡魔に負けた俺は……。
コトネに殴り起こされた……。
何すんの!
木刀でも人は死ぬからね!
「もういい……。私は修練を続ける。お前は洗濯をしてこい」
「へ~い……」
取り敢えず……。
この国の状況を調べよう。
そして……心が完全に折れて、ホウコウニンになり下がる前に!
逃げ出すんだ!
そして! 自信と誇りを思い出すんだ!
****
「こんにちは!」
「ああ! ひ……美鈴!」
「レイもこんにちは!」
「どうも……」
え~……。
あれから四カ月……。
まだ俺はここにいます……。
泣いて……いいんだよね?
これ……泣いてもいいんだよね?
なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
つか……。
なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
誰か助けてぇぇぇぇぇぇ!!
この国出られないぃぃぃぃぃぃぃ!!
毎日、木刀でボコボコにされるぅぅぅぅぅぅ!!
つか! 全く魔力が回復しないぃぃぃぃぃぃ!!
ジジィ、最近二週間に数分しか起きてこない!
プライド? 何それ食い物? 状態なんですけどぉぉぉぉぉぉぉ!!
あ~もうマジで……。
****
「レイ?」
「なんです?」
「今日のご飯は何?」
ミスズ姫が、満面の笑みで聞いてくる……。
なんでこの姫は、毎日のようにここにきてるの?
お前本当に姫か?
それとも姫ってあだ名の奴か?
もしそうなら、彼氏は浮気してるんじゃないのか?
確か、複数人の女性と付き合ってる奴が、彼女の名前を間違えないように統一して姫って呼ぶ事が多いはずだぞ?
あんた騙されてるんだよ!
なんて事は口に出さずに、食事を出して片づける。
何故俺は、この手の生活に馴染んでしまうんだろう……。
ん?
塩が無くなりかけてるな……。
コトネは……縁側で……。
ああ? 二人で何か見てるな。
「やはり私は中条篠武様がいいな!」
「いいなって……。コトネの御先祖様でしょ?」
「そうだが……。やはり金剛丸が好きなのだ!」
何見てるんだ?
「あの……コトネ?」
「うん? どうかしたか?」
「いや、塩が無くなりそうでな……」
「そうか! では、買い出しに行こう!」
「ああ……。あの……それは何見てるんだ?」
「おお! これか! これは四天王の草紙だ!」
「シテンノウ? ソウシ?」
「この国の昔話よ。その昔、鬼蜘蛛って言う妖魔が国を滅ぼそうとしたんだけど、神から授かった四本の刀を持った四天王……強い武士が国を救ったて物語よ」
ああ……子供だましか。
妖魔ってこの国でのモンスターの事だよな……。
「うん? その顔は信じてないのか? これは本当の話だぞ!」
おおう……顔に出てたか。
「そうです。実際に四本の刀はあるし、何より四天王の一人中条篠武様は琴音の御先祖様なのよ」
「そうなのか……」
「そうだ! 今は戦の為に父上が持っているが、聖刀金剛丸は家の家宝なんだぞ!」
どうでもいいですよ~っと。
「それより、買い物に行くから金を……」
「おお! では、これで頼むぞ!」
「へ~い……」
****
俺は少し離れた安岐の守がいる城の、城下町へ買い出しに向かう。
命の恩人の家で使用人……。
俺は、とことんやる事が変わらないな~。
これじゃあ、本当にアドルフ様に仕えていた時と一緒だ。
しかし、身体がいまだに痛いんだよな~。
気ってのも何なのか分かんないし……。
どうなってんだよ、今回は……。
つか、この国の鎖国っての厳しすぎるよ!
王様は国民をどれだけ愛してんだよ!
まぁ、元々はそれでうまく統治出来てたんだと思うけど……。
タチカワって奴、勘弁しろよな~!
聞けば、国で一番偉いミカド? ってのの息子らしいじゃんか!
ほっといても、国がお前の物になるってのに、何してるんだよ! 馬鹿!
自分の父親殺して、東地区を力で奪い取るって……。
本当に何してくれてるんだよ! 馬鹿ぁぁぁぁぁ!
水戸の守と安岐の守気に入らないなら、帝になってから交代させろよ!
なんで手段が戦争なんだよ!
アホか!
マジで~! 考えて生きて行きなさいよ~!
お前のせいで、どれだけの人が死んでると思ってるんだ!
何が気に入らなかったんだ?
国民と認めてる奴ら以外に、排他的だからか?
う~ん……。
馬鹿の考える事は分からないね~。
****
「あっち行け~!」
「汚いんだよ!気持ち悪い!」
「あうぅ……」
ああ?
ガキが三人……浮浪者か? 石を投げつけてるよ。
質の悪いガキだね~。
「この町から出ていけ~!」
「やめろ……」
「なんだ!?」
「見てみろよ! 兄ちゃん! こいつ喋れないし、臭いんだぜ?」
それは理由にならん!
「やめとけ……」
「なんだよ!」
「しらけた! えい!」
うお!
ガキは俺のすねを蹴って、走り去って行った。
殺しますよ! クソガキがぁぁぁぁぁぁぁ!!
家まで押しかけてボッコボコにすんぞ! ゴラァ!
くそっ!
塩や野菜を担いでるから追いかけられない!
あ~もう!
次に見かけたら石を投げてやる!
全力で頭に!
「あうぅ……」
ん?
「大丈夫だ。お前こそ……うん? お前、女か」
ボロボロの服を着た少女だった。
年は……多分俺より少し下……くらいかな?
顔も服もドロドロ……。
「あ……ああ……う~……」
うん……。
さっぱり分からん!
お礼を言ってくれてるのか?
「お前家はどこだ?」
そこでキョトンとするな。
「家だ。分かるか?」
「ああう~!」
おお……それはお前がさっきぶつけられた石だ。
笑顔で……それを……。
俺に投げつけてくんな!
殴るぞ!
えっ? もう一つを?
だから! 投げてくるな!
アホかお前は!
「やめろ」
「うう~……うう……」
「泣くな」
「あう……あああ……」
君に脳の問題があるのは分かったから!
泣くな!
俺は、その少女の頭を撫でる。
「あ! あ! ……あうぅ」
うん! さっぱり分からん!
って何処行くんだよ!?
変に歩き回るとまた虐められるぞ?
****
買い物を終えていた俺は、その少女の後をついて行った。
少女は小走りに町外れのボロ小屋へ向かって行った。
う~ん……。
ここに住んでるのかな?
「花梨? どうしたの? また何処かに落ちたの?」
「あ……ああう! ……あ! あ!」
「えっ? どうしたの? あら?」
「あっ! あっ!」
言葉を操れない少女は、ボロ小屋の前にある井戸で洗濯をしていた女性に、何かを言って……。
おふぅ!
タックルしてきやがった!
荷物持ってるし、身体痛いから避けられないんだよ!
「あああう! あう! ……ああ」
ああ?
頭をなでろってか!?
手を無理やり頭に持っていくな!
荷物のひもが、二の腕に食い込んで痛いんだよ!
いだだだ!
人間の手はそっちに曲がらん!
ええい!
俺は仕方なく、荷物を置いて頭を撫でる。
う~ん……。
気持ちいいのか?
ペットを撫でてるみたいだ……。
「あの……花梨が何かしましたか?」
洗濯をしていた女性が……おおう!
俺! 美人に遭遇する確率だけは高いな!
ほぼ、嫌われるけど!
物凄い美人!
なんだ? 保護者か?
母親なら……旦那いないなら、今日から俺がお前のお父さんだ!
「いや……町でガキに石をぶつけられててな」
「まあ! じゃあ! 花梨を助けてくれたんですか?」
こいつはカリンって言うのか。
「まぁ……」
「じゃあ……あの、宜しければ……汚いところですが……」
貴女と仲良くなれるなら何でもします!
「じゃあ、少しだけ……」
「ああ……どうしよう! ……こちらに!」
どうしようって聞かれても……。
****
ボロ屋の中に通された俺は、また不思議な味の飲み物を出された。
外から見るのと違って、中は意外に綺麗だ。
いや……かなりいい家だ。
訳が判らん!
てか、この国に来てから分からない事だらけだ。
「お待たせしました」
「いや……ああ!?」
「驚かれましたか?」
「あ……ああ……」
カリンは身体を洗ってもらったのだろう。
まだ、髪が濡れて服も変わっていた。
すんごい! 美少女!
メアリーとタイプは違うけど!
やべ~よ。
この子に抱きつかれたら、襲っちまいそうだよ。
って! 言ってるそばから!
「ああう!」
「これ! 花梨!」
カリンは、再び俺にタックルをかましてきた。
「すみません」
「いいえ……」
ああ……身体のいたるところが痛い。
「あの? 大丈夫ですか?」
「はぁ……」
「申しおくれました。私、花梨の姉で朱音と申します」
アカネさん……。
この人もド級の美人だよな。
お姉さんって事は、未婚だよね?
「俺は……レイです」
「レイ様ですか。改めまして、妹がお世話になりました」
「いや、大した事してないよ」
「いえ……この国で花梨に優しい方と出会えただけで……」
そんなに……。
まぁ、排他主義はこの国の国民性だからな。
自分と違う奴を嫌う者が多いんだろうな。
でも、涙ぐむほど嬉しいのか?
おおげさじゃない?
てか、重い……。
「あっ……あうう……」
なんだ? また撫でろってのか?
因みにこの何を言ってるか分からない美少女は、俺のひざの上に座っている。
重いって……。
てか、痛いんだって……。
「これ~! 花梨! こっちに来なさい!」
「ああ……いいですよ」
「レイ様は本当に心が広い……」
「あっ、それもいいですよ」
「えっ?」
「レイでいいよ。様はいらない」
そんなにビックリしなくても。
膝の上にいる美少女を撫でながら、目の前でビックリして固まる美人を眺める。
人が見たらどう思うだろうな……。
「あの……アカネ?」
「ああ! すみません。もしかして、あなたは……ここの出身じゃないんですか?」
おおう!?
ばれた! やばい! 国外の人間に厳しいんだよな……。
どうする?
逃げるか?
「いや……あの……」
「もしかして、水戸領から来た方とか?」
セーフ!
「そうなんだ! うん! そう!」
「そうですか……。大変だったでしょう?」
んんっ! え~……タチカワの事か?
多分そうだよな?
戦争してたって言うし!
「まぁ……」
「それじゃあ、変に思われましたよね? 私も花梨も少し人と違いますので、色々ありまして……」
虐められてきたのか?
あれ? アカネは普通に見えるけどな……。
「花梨に至っては見ての通りで、生まれてから十九年。誰からもよくされた事が無くて……」
あれ? 十九年?
俺と同い年じゃないか!
詐欺じゃん!
「俺がおかしいのかもしれないが、差別は好きじゃない」
「それで、花梨がなついたんですね……。その子にはそう言うのが分かるみたいなんです」
「へ~……」
どうでもいいよ。
しかし……。
カリンと会話は出来ないんだよな……。
するにしても合意のもとじゃないと不味いよな……。
う~ん。
「あ……あ……う?」
ヤベッ! 可愛い。
うん!?
あれ?
俺は、膝の上に座る瞳の奥に知識の色を見た。
あれ? なんで? この子……分かってる?
「あ……あああ……」
うん……。
気のせいだ!
蝶を追いかけて、はだしで庭に走り出しやがった。
アカネが急いで追いかけて……靴を履かせた。
さて……。
「じゃあ、俺は帰るよ……」
「そうですか?」
「ああ……」
「あの!」
「ん?」
「良かったら、また来ていただけませんか? お暇なときでかまいませんから」
もちろん! 喜んでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
「ああ……」
「ありがとうございました」
そして、俺はそのボロ小屋を後に……。
うわ~……。
カリンが掴まえた蝶を口に入れてるよ。
やっぱ、知恵はないな……。
****
さて、帰ってコトネに飯を作らないと……。
ん? あれって……。
俺は木の陰へ反射的に隠れる。
隠れる必要はないんだけども、俺の習性なんで……。
ミスズ姫?
なんでこんな町外れに……。
えっ? アカネ達のボロ小屋に……。
「あら! 美鈴! いらっしゃい!」
「あう……ああ」
「二人とも変わりないですか?」
「ええ。さぁ、上がって」
う~ん……。
いけないとは思うんだけどね~。
俺は荷物をその場に置くと、気配を消してボロ小屋に戻った。
「あれ? 姉上、なにかいい事でもありましたか?」
「えっ?」
「心なしか、顔が明るいですね」
「少しだけ……いい方に出会いました」
「あ……ううぁ……あう!」
「花梨まで……」
「本当に不思議な方で、花梨が懐いてしまったのよ」
「本当ですか!?」
「ええ……。また来て下さるそうです」
「姉上……。私も協力します! 姉上には幸せになってほしいです……」
「そんな……。それに、あの方に迷惑が……」
「そうですか……」
****
俺は、その会話の途中で帰路に戻った。
ミスズ姫ってやっぱりあだ名?
姫の姉って……それも姫じゃんか!
となると、カリンも姫だよね?
何でだ?
事情があるのか?
それとも本当に姫じゃないのか?
訳が分からん!
う~ん……。
ちょこちょこ行って、色々聞くか……。
もしかしたら運命の出会いかも知れないし……。
そうだ! この状況でマイナスに考えたら負けだ!
今日は美人と出会えたんだ!
俺はそれで安眠できる!
よっし!
今日のメニューはシチューだ!
****
帰宅後、洗濯をして晩飯を作った。
う~ん……俺って家庭的。
さて、道場に呼びに行こう。
「お~い、コトネ。飯だぞ」
お……。
おおお!
木刀で束ねた藁を斬りやがった……。
これが気……。
強くはないがなかなかの魔力だ。
あれ?
魔力?
あれれ?
俺は食事をとりつつ、考える。
「どうした、レイ? 何か悩みか? 食事が進んでないが……」
彼女が出来ません……。
と、もう一つ。
「この後、もう一回気を練るところ見せてくれないか?」
「ん?いいぞ!」
食事を終え、二人で道場に向かう。
そして、俺は気の正体が分かった。
やっぱり魔力だ……。
アホらし……。
うん? そう考えてみると……。
なるほど……。
魔力を集約する技術か……。
この国には俺たちのような魔法の知識がない代わりに、魔力をこうやって使っているのか。
筋力を魔力で高めて爆発させるのとは、違うな。
俺達は漠然と魔力を使っているが、魔力に指向性を付けるって事か?
凝縮して……なるほど、これなら脚力だけを爆発的に高めたりできるか……。
その分、他の部分が魔法的に無防備になるが、この国には魔法が無い。
なるほどね~……。
俺は、魔力コントロールを完全にジジィ任せにしてるけど、師匠も魔力をコントロールしてたもんな。
分かってみると、物凄く簡単なカラクリだな。
****
翌日、コトネとミスズ姫の手合わせを見せて貰う。
そして、俺は全てを理解した。
この国の剣技は、師匠の剣技に似ているんだ。
実は、俺が攻撃をヒットされ難いのは、師匠直伝の特殊な動きがあってこそ……。
その動きが似ていて、それと戦いなれている二人は、俺の動きについて来れるんだ。
身体が弱っていて遅くなっているのもあるが、日頃避けられるタイミングで当たるので俺は負けたんだ。
さらに、俺は自分と同じ動きの相手に剣を当てられなかった。
相手が魔力をコントロールしているせいで、気配も読みにくいようだな。
元々、人間の魔力は弱くて分かりにくい上に、弱めたり高めたりしてるのか……。
情けない……。
分かってみれば、俺の思い込みと油断じゃないか……。
女が絡むと、どうして俺は馬鹿になるんだろう……。
しか~し!
原因さえ分かれば、こっちのもんだ!
くっくっくっ……。
今までの屈辱を……。
ちょっとエロい事ではらしてやる!
オゥ……イエッス!
もつれた感じで胸とか!
一緒に転んだ瞬間に、事故的なキスとかぁぁぁぁぁぁ!
テンション……マァァァァァァックス!
へへへ……俺はやるぜ。
やってやるぜ!
まずは……コトネからだ!
死線(主に餓死と圧死と溺死)を、幾度も潜り抜けてきた俺の力を舐めるなよ!
さあ! 合法いたずらタァァァァァイム!
「おっ? なんだ、レイ。一本行くか?」
「ああ……」
さあ! あ……ああ?
あれ?
なんでぇぇぇぇぇ?
あれぇぇぇぇ?
俺の視界に、何で天井が映ってるの!?
どう言う事!?
「うん! 少しはコツをつかんだようだな! だが、まだまだだ!」
おかしいって! なんだよこれ!
「そうだな……。このまま半年も修練すれば、いい剣士になれるぞ!」
いやいやいや。
てか……イヤァァァァァァ!
「まぁ、そう気を落とさないで! 琴音は女だけど、この国でも有数の強者なんだから~」
「女は余計だ! だが……確かに、父上と兄上以外に負ける気はせんな」
え~と……。
俺、これでも地元じゃ最強だったんですけど……。
てか! 怪物に勝てるのに、何で女の子に負けるの!?
おかしくない!?
「さあ! 何時までも隅で座ってないで!」
なんだその慰めは……。
泣くぞ! チクショォォォォ!!
「早く飯の用意をしてくれ!」
あれ? これって!
慰めですらない!
「今日のご飯も期待してますよ」
最悪だ!
この二人最悪だ!
俺を完全に、家事をするだけの人としてしか見てない!
ここキレていいんだよね?
う~ん。
よし!
気にしない!
ご飯の用意をしよう!
だって……目に熱いものが込み上げてくるんだもの。
そのうち必ず勝ってやる。
勝って……。
勝ってやるんだ……。
そして、エロい事してやるんだ……。
頑張れ~俺~。
負け~んな~……。
カッコよく勝って、正体を明かして……。
そして、こんな国出て行ってやる!
そして! 俺を馬鹿にしない、俺を……。
俺だけを愛してくれるヒロインを探すんだ!
ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
****
「今日の料理も絶品だ!」
「うん! これ好きかも」
「そうか……」
泣いちゃ駄目だ……。
****
あれからさらに四カ月か……。
俺~……。
まだここにいます……。
誰か助けて下さい!
毎日修練と家事をしています……。
誰か助けて下さい! かなりマジで!
何故か身体がまだ痛いんです!
ジジィもほとんど起きなくなりました!
俺このまま死ぬんですか!?
イヤァァァァァァァァ!!
「お~い! 飯の用意はできたか?」
「出来てる……」
「今日は何ですか?」
「昨日は煮物だったから、今日は焼き物と見たぞ!」
もう、五月蝿い!
食えれば何でもいいだろうが……。
「今日は魚の煮つけと、野菜スープだ」
「そうか! では、頼んだぞ!」
「へ~い……」
もうこんな生活嫌だ……。
神様!
俺をどうしたいんだよ! 殺したいの? それとも主夫にしたいの?
ん~……どっち!?
町中にモンスターは居ないし、関所が強固でモンスターを狩りに行けない!
このまま魔力切れになれって事か!?
それ多分死ぬぞ!?
もう、殺せよ~……。
いっそひと思いに殺せよ~……。
「そうか。では、昼からは町に行くのだな?」
「ああ……。調味料がほとんどないからな」
「じゃあ、私と行きましょう」
「んんっ? どうした? ひ……美鈴?」
「今日は、用事があるからどの道町に戻るのよ」
「そうか! では、護衛をしっかり頼むぞ!レイ!」
「へ~い……」
「最近は、琴音とも互角になってきたし、頼りにしてますよ」
「はぁ……」
最近は……か。
受け流したり、色々やって、やっとだもんな~。
マジでどうなってるんだよ。
それも、互角って言っても結局ほとんど俺が負けてるし……。
なんで俺はこんなに弱いんだよ。
灰色の学生時代に戻ったみたいで、情けない。
そう言えば、あの頃は手加減が下手で、リリーナお嬢様にボコボコにされてたよな。
あれ?
思い返せば……。
俺ろくな思い出が無い!
てか、嫌な思い出しかない!
幸せな時間を思い出すことすらできない!
無かったのか!?
無かったんだよな~!
俺の人生っていったい……。
****
「では! しっかり姫の護衛をするんだぞ!」
だから……。
姫って言っちゃ駄目だろうが……。
剣以外は本当に頭が悪いな……。
俺とミスズ姫は、二人で町に向かった。
本当に黙ってれば可愛いのに……。
姫様だからか?
言う事が、いちいち腹立つんだよな~。
「ねえ?」
でも、顔は可愛いんだよな~。
「ねえ? レイ?」
でもな~。
「レイってば!」
「ん? なんだ?」
「たまにボ~っと、何か考えてるよね? 何考えてるの?」
もちろん! エロい事です!
「いや……何でもない」
「そう? まあ、いいけど」
「で……なんだ?」
「うん……ちょっとお願いがあってね……」
なんだ? キスならすぐするぞ?
「琴音の事、どう思ってる?」
「なんだよ、いきなり」
「もし、悪く思ってないなら、これからも琴音を支えてほしいのよ」
「支える?」
「そう。あの子……気付いてるかもしれないけど、あれでかなり脆いところがあるのよ」
脆いねぇ。
「琴音が、あそこまで剣にこだわってるの。なんでか知ってる?」
「知らない」
「琴音のお母さんは、琴音を産んですぐに死んじゃったのよ。しかも、お父さんとお兄さんは剣一筋って人達だったの」
「気を引きたくて始めた?」
「そう……。小さいころから誰にも甘えられなくて……。剣が琴音の全てになっていったのよ」
そうなのか……。
あれ?
それだと、剣があれば支えなんていらないじゃないか?
俺! いらないじゃん!
「でも、本当は誰かにそばにいてほしいのよ」
ああ……。
「さみしいのか?」
「物凄く不器用で分かりにくいけど、誰かに甘えてそばにいてほしいんだと思う」
「それは分かったが、何故俺に?」
「あなたが変だからよ」
しばくぞ! ゴラッ!
「ああ! 勘違いしないで! いい意味で! いい意味でよ!」
なるほど!
なんて! 誰が言うか!
いい意味にとれるわけないだろうが!
只の悪口じゃないか!
「この国は男尊女卑が強くてね。女性が剣を持つ事が、あんまりよく思われないのよ。だから、琴音も何回か縁談があったんだけど、全部向こうから断られたの」
う~ん。
いや! 駄目だ! まだ納得がいかん!
「結婚の条件が、剣をやめる事だったからなんだけど……」
そんなことより、変って言った事取り消しなさいよ~!
「父親と兄が大好きな琴音は、剣を捨てられないの。何時か二人が褒めてくれると……」
いいから!
まず、謝んなさいよ~!
「だから、琴音の剣を否定しなくて、家事の出来る貴方が必要なのよ」
家事って……。
それだと俺の夢の一つである、嫁の裸エプロンが見えないでしょうが~!
夢がないと、男は生きていけないんだよ?
分かってるのか? このクソ姫様!
てか、謝れ!
「喋り方が男みたいだけど、私にも分け隔てなく優しくしてくれるいい子なの。だから、任せたわよ!」
お前のそれは、人にものを頼む態度じゃない!
姫様でも頼み事は下手に出るもんだ! なんで上からだよ!
あ……駄目だ。
俺、こいつ、苦手。
「あっ! じゃあ私はここで! またね」
「ああ……」
言いたい事だけ言って帰りやがった。
ああいうの。どうなんでしょうね?
****
さて、買い出しを……おおおおおお!
間に合えぇぇぇ!
うおおおお!
走るとあちこちが痛い!
とんでもなく痛い!
負けるか!
セ……セーフ。
「ああ……あうう!」
痛い痛い痛い……。
抱きつくな! なんか、お前力が強いんだよ!
ああ……。
肋骨が軋む。
溝に落下しそうなカリンを抱きとめ、頭を撫でる。
「あ! うううぅ……」
最近分かったが、撫でると落ち着いて放してくれる。
初めて会った時もそうだが、カリンは家を出るときは普通の服を着ている。
それが、溝や川に落下して帰ってくると大体ボロボロのドロドロだ。
アカネも最初は家に引き留めようとしたそうだが、押さえつけるとカリンは暴れるそうだ。
最近買い出しに来るたびに、こいつを抱きかかえているような気がする。
てか、抱きかかえている!
毎回危険!
「あう! あう! ……あ……ああ」
なんだ? 家に来いと?
いや、買い出しがしたいんだが……。
「……うう……あ……うう!」
分かったって! 引っ張るな!
そこ引っ張るとパンツ丸出しになる!
「引っ張るな。行くから……」
「ああう! あ……」
だから! 手を放せ!
「なあ……カリン?」
「あ……あ!」
俺は……わいせつ罪にならないように、カリンと同じ速度で走る。
放しなさいよ~!
逃げないから!
頼むから!
俺! 身体痛いんだよ!
「あら! こんにちは! レイ!」
「どうも……ってもういいだろう! 放せよ!」
「あ! あ!」
はいはい……。
家に到着し、頭を撫でて、やっとカリンは俺から手を放してくれた。
「ふふっ……。ごめんなさい。花梨も嬉しいんです」
はぁ~……。
危うくパンツ丸出しになるところだった。
「どうぞ」
「えっ? ああ……」
****
いつものように、アカネは俺を家の中へと招き入れてくれた。
ただ、今日は先に買い出しに行きたいんだけども……。
なんて思っている間に、いつもの変な飲み物を出されてしまった。
う~ん……。
アカネとは特にこれと言って話す事も無いので、世間話くらいしかしないんだけどな。
毎回、中に通される。
美人と喋るのは嫌いじゃないけども……。
俺、お金持ってないよ?
騙しても得は無いよ?
「……そうなんです。この時期はこの野菜が旬で」
「なるほど……。これは、どう料理するんだ?」
「一般的には炒めるか、お浸しにしますね。生でも食べれますが、えぐみがあるので」
「なるほど……」
「あ……ああ……」
はいはい、撫でま……いだだだだ!
だから!
人間の関節はそっちに曲がらないの!
「ふふふっ……。花梨はレイのひざの上が気に入ったようです」
俺は、何時ものようにカリンを撫でる。
う~ん、美少女だな~。
持って帰りたいな~。
でも、同意なしに変な事はしたくないな~。
可愛いな~。
はぁ~。
「あの、こちらには慣れましたか?」
「ん? ああ」
「それでも来てくれるんですね」
「……来るのがまずいか?」
「いえ! そんな事は……」
「あうう……」
カリンが俺のひざから、再び庭に駈け出していく。
ん? 何時もはアカネが靴を履かせようと走るのに……。
今日は追いかけないな。
どうしたんだ?
「来て頂けるのは嬉しいです。でも……」
何だ!?
また気付かない間に嫌われた!?
マジでか!
ヤベェェ……。
カリンを担いで逃げようかな……。
ヤベェって。
姫って言ってたし、兵隊とかに襲われない?
どうしよう?
え?
扉……じゃなくて襖って言うんだよな。
全部締め切って何!?
ヤベェェ!
何処で死亡フラグ踏んだんだ!?
ヤベェって!
俺に背中を向けたアカネは……。
マジで!?
死亡フラグじゃなかった!
ピンチがチャンスに!
アカネは上着を脱いだ。
こんなところで! こんな美人と!
神様ありがとう! でも、死ね。
綺麗な背中~!
肌も真っ白!
生きててよかった~……。
「あなたに、これ以上黙っていられません……」
グッドスメル!
早く! 早く! 胸を見せろ!
こっちは十九年も我慢してきたんだ!
早くぅぅぅぅぅぅ!!
あれ?
何で泣いてるの?
御褒美イベントじゃないの?
あれ~?
「御覧のとおりです。もし、今後ここに来て頂けなくても、私は……」
「なにが?」
「えっ? あの……これを見ても?」
「これって……なに?」
「ですから、背中の……」
ん?
ああ……。
背中に五センチくらいの羽があるな。
それよりも! 胸が見たいです!
「これに問題でも? 確かに飛べないだろうけど……」
「あの……。それだけですか?」
「それ以外に何が?」
俺の仲間には、最大片翼一メートル以上の奴がいるんだよ。
最小に変化させても五十センチはあったもんな、リリムの羽。
だからぁぁぁぁぁ!
泣くなよ!
何だよ? 訳わかんね~!
あ……あああああ。
服を元に戻しちゃった。
「あなたに、黙っているのが辛かった……」
俺は、君が服を戻した事が辛いです!
前の回り込むべきだった~!
「もしかして……。何処か遠いところから?」
おおう?
ばれた!?
ヤバいの?
「なんで?」
「この国の人間は、私のようなあやかし混じりを嫌います。見ての通り私は天狗との混血です」
テング?
「いや……その」
「私は、あなたの悪いようには致しません」
そんなまっすぐな目で見ないで……。
ええい!
仕方ないか……。
俺は全部を喋ることにした。
****
「……で、仲間にアカネより大きな羽をもった奴もいたんだよ。別に差別する理由もないし……」
おおおおおおおうううう!
抱きつかれた!
ヤバい! 何がって……。
とにかくヤバい!
「ああ……。あなたに出会えた事を、神に感謝します」
俺は、君の胸が触れている事に感謝します!
「あ……あっ! すみません!」
ああ……。
気持ちよかったのに~。
そんなに急いで離れなくても……。
「あの……私も花梨も、貴方をよく思っています。宜しければこれからも……」
「ああ。邪魔させてもらうよ」
「はい!」
「……あう! ……ああう!」
ん?
襖を開き、庭を見ると……。
派手に転んだな……。
「カリン! 靴を履きなさい!」
何時もの光景に……。
おや? もしかして……。
はうああああ!
あのまま押し倒せばぁぁぁぁぁ!!
やってしまったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
チャンス逃したぁぁぁぁぁぁ!!
また、選択肢間違えたぁぁぁぁぁぁぁ!!
「あら? もうお帰りですか?」
「ああ……。買い出しに行く途中だったからな」
「そうですか……」
「後で来るよ」
「はい! ああ! カリン!」
はぁ~……しくじった。
美人と色々出来るチャンスが……。
あ~あ……。
****
買い出しを終えた俺は、再びアカネ達の家へ足を向ける。
魔力さえ回復すれば、ここで暮らしてもいいんだけどな~。
アカネ美人だし、性格もいいし……。
「あれは……」
ミスズ姫?
また、来たのか。
毎度の癖で……気配を消します。
別にやましい事は無いんだよ! 本当に!
ただ、長年の習慣で……。
「それは本当ですか? 美鈴」
「はい……間違いありません。立川が明後日には戦を再開するそうです」
「そうですか……。私達にはどうしようもありませんね」
「はい……朝比姉さまに文は送ったのですが……」
「仕方のない事です。いつもありがとう、美鈴」
「いえ、姉上と花梨の為なら……」
「美鈴……」
なんだか入り辛い雰囲気だな……。
今日は帰ろうかな……。
「長居をさせてはいけませんね」
「はい……。では、またうかがいます」
「気を付けて……」
おっ! 帰ってくれた。
****
さて、アカネとさっきの続き……。
んん!?
なんだ?
これは……この魔力は!
この気分の悪い魔力は!
久し振りだ……。
こんな国にまで居やがるのか! あの馬鹿の仲間は!
「きゃ!」
なっ!
魔力を感じなかったぞ? 気配を消していた?
アカネの前に……変な格好の女が……。
あれ?
今回の敵って女?
「朱音姫様……朝比姫様の使いで、お迎えにあがりました」
「あなたは……」
「はい……。立川軍密偵の雀と申します」
おおう?
タチカワ軍!?
訳が分かりません!
「雀さん! 危ない!」
「なっ! くそっ! 勘付かれた!」
えっ?
タチカワ軍の奴を、牛の化け物が襲ってる。
何がどうなってるの?
化け物って……タチカワ側じゃないの?
あれ~?
ヤバい!
三対一じゃあ、分が悪い!
どうする? 助けていいのか?
「ああ……いや……」
ヤバい! アカネが牛野郎に追い詰められて!
ジジィ!
俺は、急いで魔剣を呼び出した。
だが……。
うおっ!
魔剣がクソ重い!
どうなってるんだ!?
ジジィも眠ったままなんて……。
マジで魔力が残ってないのかよ……。
勝てるか? Cランクはあるぞ……。
ああ……。
考えるより先に、体が勝手に跳び出してた。
ええい! くそったれ!
「ブモォォォォォォ!!」
うおおお!
身体が重い!
避けるのがやっとだ!
くっそ!
目でも感覚でも、捉えきれてるのに!
身体が付いてこない!
「ああ……駄目です! レイ! 逃げて!」
そうしたいけど、そうもいかんだろうが!
「はぁ……はぁ……」
コトネとの修練のおかげか?
ギリギリなら避けられる……けど!
くそ!
こんな雑魚にまで苦戦するなんて!
「きゃう!」
タテカワの奴も、苦戦してる!
牛の角で、吹っ飛ばされた!
どうする?
「あ……ああ……」
カリン!
こっちに来るな!
「レイィィィ!」
「ごほっ……」
しくじった……。
牛の頭に剣を突き刺せたが、角で腹を抉られた……。
くっそ……。
「いや! いやぁぁぁぁぁ!!」
倒れ込んだ俺にアカネが……。
泣いてくれるのか?
ああ……お前は本当にいいやつだな。
でも、俺なんかに涙はもったいないよ。
何より!
俺はまだ死んでない!
魔力を吸収した魔剣が、久しぶりの脈動を始めてくれた!
俺の身体から、回復の証拠である煙が噴き出す。
「えっ? レイ?」
「ああう!」
「ちょっと待ってろ……」
よし! 身体が動く!
魔力を取り戻した俺は、一瞬で残りの二匹を斬り捨てる。
これだよ! これ!
俺はやっぱ、やればできる子なんだって!
今までがおかしかったんだ!
俺~……本気じゃなかったし~。
言い訳じゃないし~!
あっ!
タチカワ軍の女が、逃げやがった……。
くっそ! 掴まえてエッチな拷問しようと思ったのに……。
仕方ないか……。
「あなたは……」
「腕に覚えがある……不法入国者だ」
「ああ……ううう!」
あ……そんなにポカンとしないで。
「あ……取り合えず、中で少し話しませんか?」
そうする!
『ギリギリじゃな、犯罪者!』
犯罪者って言うな!
てか、久し振り!
魔力ないと本当に眠ったままなんだな、クソジジィ。
『うむ。今回は本当にまずかったぞ、クソガキ』
さて……。
まあ、こっちの話は後で……。
『うむ』
****
俺は家の中で、アカネに事情を聞いた。
う~ん……。
複雑な家庭環境だな……。
「あっ! 勿論、私達は父上の考えを分かっていますし、怨んでなどおりません」
「でも……」
「父上は、人の上に立つ者の義務を重んじています。その家族である私達も……」
「それにしてもひどいと思うんだが……」
「このように、普通の生活には困らないように援助はしてくれています。私達はそれで十分です……」
『複雑じゃのう……』
どっちも間違えてないと言えば、間違えてないし……。
『手段が問題じゃろうな』
戦争をして平和を勝ち取るか……。
恐怖や力で勝ち取る平和って……う~ん。
『人の歴史とはそういうもんじゃが……』
「レイ?」
「悪い……少し頭を整理させてくれ」
え~……。
アカネやミスズ達の親父さん……安岐の守は、各地で内乱を起こす亜人種を追放して、国を平和にしようと考えた。
まず、その手段として、大昔に封印された鬼蜘蛛を復活させて操ろうと考える。
その為には、あやかし混じりの子供が必要で……。
『それが、アカネじゃな』
う~ん……。
平和の為に、よく危険な事するよなぁ……。
そこまで力が欲しいか?
まぁ、失敗してるからいいけど……。
それで次が?
『自分が帝の地位になるか、指示できる立場になりたかったんじゃろうな』
考えた結果が、帝と水戸の守に娘達を嫁に出して親戚関係を築く事。
アカネの妹のアサヒ姫を帝に、ミスズ姫を水戸の守の嫁にしようとした。
そこで、アサヒ姫と帝の息子だったタチカワスケオキが恋に落ちた。
なんでそこで、戦争しようとするかな~!
『聞いた通り、スケオキはかねてから排他的なこの国の在り方が、気に入らんかったんじゃろう。間違っているとも言い切れん』
それでも、自分の親父殺して嫁さん奪って、戦争するか? 普通?
アホだな……。
水戸の守が居なくなって、ミスズ姫は用無しだからあんなに自由なのか……。
あいつもかわいそうなのかな?
両方の目的が平和って……。
『単一民族国家も、間違いとは言い切れんからのぉ』
でもな~……。
そう言えば……。
「カリンは?」
「もう寝ました。あなたが来るとはしゃいで疲れるらしいんです」
「そうか……」
「あの……それで……」
「ああ……俺は、さっきも言ったけど国外から漂流してきた魔剣使いだ。さっき見てもらった通り、腕には覚えがある」
「そうですか……。怪我が治ったのも?」
「ああ、魔剣の力だ。しかし……」
「はい?」
「俺は、お前の為に何をすればいい? 何が出来る? 戦闘は得意だが……」
アカネは首を横に振る。
「なにも……。この国の行く末は、父上と輔沖様に任せるしかありません」
だよね~……。
今回は不用意に手を出していいとは思えん。
『同感じゃな……。戦で死人が出るのは、いい気はせんが……』
どっちかに加担していいとは思えないよな~。
両方信念は間違えてないし……。
『お前は口出しできる立場にないしのぅ』
「あの……。そのお気持ちだけで十分です……。ですから……」
そんな顔で笑うなよ……。
姫ってのは辛い事を辛いとは言えないのか?
親父さんが死ねって言えば、死ぬのかよ?
名前だけの姫で……苦労してきてるじゃないか。
そんなに諦めた顔で笑うなよ……。
見てるこっちが辛くなるって……。
「もし何かあれば、俺はお前を全力で助ける……。俺にはそれしかできないが……」
えっ?
何故泣く?
俺いい事言ったのに!
何が気に入らないんだ!
言ってみろ!
「……本当に……あなたみたいな人がいるんですね……」
俺は、ただその場で声を出さずに泣くアカネを見ていた。
俺には……。
俺では……。
俺なんかじゃあ、それしかできない……。
泣きやむのを待って帰路につく頃、辺りは夕暮れになっていた。
****
はぁ~……。
今回は明確な敵がいないからな~……。
『それはさておき、身体はもう大丈夫か?』
ん? ああ、問題ない。
『一つ質問じゃが……修練は毎日続けたのか?』
それは、当然!
『馬鹿者! 死ぬところじゃったぞ!』
なんですか~!?
修練がいけなかったの?
『当然じゃ! お前の身体はボロボロだったんじゃぞ?』
知ってるよ……痛かったもん!
それくらい何時もの事だろ?
『魔力が無いじゃろうが! 回復できずに死ぬところだったんじゃぞ!』
マジでか?
『全身の骨に複数の亀裂、腱や筋肉も切れておるし、内臓もボロボロじゃ! 毎日自然回復する、ごく少量の魔力もお前は修練で消費しておったんじゃぞ!』
ああ……。
どうりで身体が全く動かないと思った。
そりゃ、女に負けるよな。
『アホか! 本来なら意識が無くなってもおかしくない重症状態で、普通に活動するな!』
だって……動けたし。
『もう一か月も遅ければ、死んでおったかも知れんのじゃぞ!』
うぜっ……。
『お前は!』
あ! そう言えば!
『そう言えばではない!』
あの怪物……どうしてこの国に居たんだろ?
『……ぬう。単独での行動か、安岐もしくはタチカワ軍が絡んであるのではないか?』
う~ん。
あいつらだけは排除しておきたいな。
『そうじゃが……。説教はまだ終わっておらん!』
ああ……うっさい……。
今生きてるし、魔力も回復したんだから良いじゃん。
『良くない! だいたい……』
はいはい、ワロスワロス……。
『ワロ!? なんじゃ? その言葉は……』
説教をやめるなら、教えてやらんでもない!
『なっ……くぅ……もう二度と無茶をするな! 休息も重要なこと努々忘れるな! ……で?』
ああ……面白いって意味。
『お前は!』
なんだ? また説教か? 賢者は約束破るのか?
ああ~?
『……くっ……このクソガキ……最悪じゃ!』
知るか! くそジジィ!
『この! クソガキが!』
ジジィと喋りながら歩いていると、いつもより時間が早く過ぎ、道場へと帰り着いていた。
さて、とっとと飯作るかな……。
そのあと道場で……くくくっ。
『もう、こいつ嫌じゃぁぁぁぁぁ!』
あれ? コトネは……。
居た、居た。
「遅くなった。今から飯を作る」
「ああ……頼む」
部屋に、一人で何してるんだ?
まあ、いいか。
『神よ! こいつ殺してくれぇぇぇぇ! お願いじゃぁぁぁぁ!』
さて、今日のメニューは何にするかな?
『新しい後継者を! もっとまともな後継者をわしに!』
今日はいい魚が入ってたから……ムニエルにでもするか……。
『もう、こんな変態の馬鹿は嫌じゃぁぁぁぁぁ!』
五月蝿いわ! そして、しつこいわ!
『ああああ! もう! 寝る!』
まったく、五月蝿いジジィだ。
『最悪じゃぁぁぁぁぁ! お休みぃぃぃぃぃ!』
…………。
叫びながら寝やがった……。
ジジィも、どっか頭のネジが飛んでるんだよな~……。
俺の周りにまともな奴は居ないのか?
****
夕食の最中に、俺は箸を止める。
「ん? 今日のは口に合わないか?」
コトネがこんなに食わないのは初めてだ。
う~ん……。
不味くないと思うんだけどな~。
「なぁって」
「あっ! すまん! 考え事だ……。美味しいぞ!」
「そうか……お前、顔が真っ青だぞ? 調子が悪いのか?」
「いや……何でもない」
「そうか? まぁ、いいや。それより、この後手合わせを……」
「すまん……。今日は疲れた……。休ませてくれ……」
ああ?
俺はコトネの前に行き、おでこに手を当てる。
「なっ! なにを!」
「いや……熱は無いな。大丈夫か?」
「大丈夫だ……」
****
食事後、コトネは寝室に直行。
何か……あったんだよな。
は~……せっかく勝って色々やろうと思ってたのに……。
しかし……。
やっぱり身体が動くって最高!
俺の身体に力が戻った!
俺は道場で一人、木刀を振り回し、体の状態を再確認していく。
よっし!
これなら、国外逃亡もできそうだ!
アカネとの約束もあるから……。
戦争終わった瞬間、逃げだしてやる!
あはははは!
健康最高!
ん?
「寝たんじゃないのか?」
「眠れなくてな……」
「そうか……。一勝負するか?」
「いや……お前は本当にこの半年で見違えたな……」
本当は元々強いんだけどね!
でも、今はもっと強いぞ!
明日圧勝して、エロい事してやる!
って……はいいいいい!?
月明かりのさす道場で、コトネはおもむろに服を脱いで……。
近づいてくるんですけどぉぉぉぉぉぉぉ!!
あのこれぇぇぇぇぇぇ!
なに? どう言う事!?
色々してもいいの!?
マジでかぁぁぁぁぁぁ!
「私の……初めてを貰ってくれるか?」
喜んでぇぇぇぇぇ!
分かった! アカネに手を出さないと、このイベントが発生するんだ!
テンションが上がってまいりましたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
んん!?
俺の胸に身体を預けたコトネ……。
震えてる?
まぁ、初めてだし……いや!
これはなんか違う!
どうしたんだ!?
俺はコトネの両肩つかみ、一度顔が見える位置に戻した。
泣いている……。
「何があった!?」
「私が嫌いか?」
「そう言う事じゃない! 何があった?」
「……怖い」
「何が!?」
「お前まで居なくならないでくれ……。私の全てをやるから……」
俺は、コトネの目を睨む。
初体験がこれじゃあ、気分が悪いわ!
「怒っているのか?」
「……ちゃんと……喋れ!」
俺の大きな声に、コトネはビクッと体を反応させ、ポツリポツリと話し始める。
今日ミスズ姫から聞いた通り、コトネは重度のファザコン兼ブラコンだった。
明日、その大好きな二人が戦場の最前線に立つらしい。
そして、二人がもし! と考えて……。
一人になるのが死ぬほど怖かったらしい。
お前! これ誰でもいいんじゃないか!
なんか、俺の事好きなのかと思っちまったよ!
くっそ!
これで手を出したら負けじゃないか!
女の子大好き……。
でも負けるの嫌いぃぃぃぃぃ!!
「しっかりしてくれ……なっ……」
上着を掛けたコトネは、俺の胸で泣いた。
くううううううう!
手を出しても……いや駄目だ!
でも! あああああぁぁぁぁ!!
ムラッとする!
最悪だーーーーー!
何かもう、拷問じゃねぇぇか!
泣きつかれて、眠ったコトネを布団に運んだ。
ミッションコンプリート!
でも、何かに負けた気がするのは何故だろう?
****
その日眠気がくるまで道場で剣を振るった……。
ん~……眠れるか!
目がギンギンですよ!
なんで俺はいざって時に……。
ああ……でも……ええい!
朝日がまぶしい……。
一睡もできなかったよ……。
最悪だ。
やってらんねぇ~……。




