六話
皆さん……。
突然ですが、肺活量に自信はありますか?
実は俺、自信があります!
海で味わった地獄が、俺を強くした。
無呼吸でも四分は活動が出来ます。
五分も……頑張れば大丈夫だと思うんです。
でも……俺はもうすぐ死ぬかもしれません。
理由は簡単です。
俺の頭部が海に沈んで既に四分を過ぎました。
てか、多分五分すぎるみたいです。
お久しぶりです。
お元気でしたか?
会った事もない、俺のおじいちゃんとおばあちゃん……。
てか、毎回出てくるあんたがたは、本当に俺のおじいちゃんとおばあちゃんなんですか?
いや……笑って手招きしないでください。
多分、そっちに行ったら俺死ぬんですよ?
いいんですか!?
孫が死んじゃいますよ!?
なんか喋れや! ゴラァ!
また、こんなどうでもいいシーンで死にかけてるよ。
これもう、運が悪いとかの次元じゃないって絶対……。
はぁ~……。
やってらんね~……。
「ゴホッ! エホッ! ヒュ~……ヒュ~……」
相手の手が離れ、水から顔を出せた俺は、必死に酸素を取り入れる。
ああ……空気うめ~……。
殺す気か! このバカエルフ!
「何で!?」
何が!?
「何でいつも……」
だから何が!
言いたい事がさっぱり分からん!
って……あれ?
「そんなに……そんなに……私じゃ駄目なの?」
なんで泣いてるの?
殺されかかって泣きそうなのは、こっちなのに!
どうしてですか?
ああ……ああああ……本泣きしないでぇぇ。
「貴方が嫌だと思って、貴族の喋り方を直して……。貴方について行く為に、レベルを上げて……貴方に見てほしくて……」
カーラに直してほしいのは、すぐに俺を殺そうとする所なんですが……。
なんて……言う雰囲気じゃないよ。
「なんでレイは前しか見ないのよ! 後ろには私がいるのよ? 何で……」
いや、あの、ええ~……。
何でこうなった!?
思い出せ……思い出すんだ……。
漁師の村で民宿を手配して、新鮮な海産物を食べて、腹ごなしに海岸を歩いてて……。
それから……海岸に座るカーラと昔の話をして……蟹がいたから取ってそれを見せた。
そしたら、殺されかけた……。何でだよ!
『……はぁ~』
あっ! クソジジィちゃん!
教えておくれよ~!
なんで殺されそうになったの!?
『……お前が空気を読まんからじゃ』
クウキヨム? なにそれ美味しいの?
『アホの子よ。わしが泣きそうじゃ』
アホって言うな!
解説しなさいよ! 事細かに!
『カーラ嬢ちゃんは、いい雰囲気に期待したんじゃろう。それこそ、キスの一つもと考えたはずじゃ』
うそぉぉぉぉん!
マジでか!?
今からしちゃ駄目!?
『駄目に決まっとる! いい雰囲気にいきなり立ち上がり、蟹を掴んで嬉しそうに嬢ちゃんに見せるとは……』
だって! 内陸育ちだから、そう言うのなんか嬉しくなるんだもん!
てか、それでいきなり殺そうとするって、どうなんですか!?
頭おかしいんですか!?
『お前が空気も読まずに蟹~! とか言うからじゃ!』
うわっ!
ものまねされた!
気分悪っ!
『お前はとことん最悪じゃ……』
マジかよ……。
俺の胸にしがみついて、子供のように泣きじゃくるカーラの頭を撫でながら……。
…………。
あれ? これどうすりゃいいの!?
ヤベェって……。
また、胃が痛くなってきた。
なんでこんな、肉体と精神の波状攻撃を受けないといけないの?
三十分ほど泣くだけ泣いたカーラは、帰ると呟いて民宿に帰って行った。
最近……。
最近さぁ……ジジィ。
『……なんじゃ? アホの子よ』
ええ~?
あ~……。二~三日に一回殺されそうになる。
『知っとる』
俺がいったい何をしたってんだ!
神様よ~……。
刺客がヒロインって、あり得なくない!?
何考えてんだ!
『アホの子よ。全部空気を読まん、お前が悪い!』
アホの子言うなぁぁ!
う~ん。
よし!
修練して寝よ!
『……不憫な』
しかし、本当に海に近づくと俺は死にそうになる。
何? 俺は海の神にも嫌われてるの?
****
翌日……。
カーラが目を合わせてくれません……。
このまま、フラグ消滅とかってあるんでしょうか?
よく考えると、一番戦闘力が人間に近いからカーラがいいんじゃないかって考えてたんですけど……。
一緒に眠ったくらいじゃ死なないからね……。
俺に彼女はもったいないって事ですか?
ああ……まただ。
またこの展開だ……。
誰かの機嫌を取れば、誰かの機嫌が悪くなる。
三人同時攻略なんて、俺には無理なんだよ。
それ以前に、この三人の攻略自体が無理なんだよ。
多分、ルート自体が無いんだよ。
バッドエンドしかないんだよ……。
はぁ~……。
「どうするんだ?」
何が!?
「……俺の話を聞いていないのか?」
ガチホモの話なんて、聞いてませんよ。
「だから、メアリーがここの料理を気に入って、もう一泊したいと言ってるんだが?」
ああ……。
「ここ最近連戦だったから……。いいと思うぞ」
「わかった」
ゴルバも心なしか嬉しそうだ。
まぁ、こいつ釣りも趣味だからな。
釣りに陶芸に盆栽……。
実際に二百十歳だけど……趣味が完全に老人だな。
まぁ、こいつが釣ってきた魚美味しかったからいいけど……。
今日は何しようかな~。
こいつらと一緒にいると、お金に困らないからなんか張り合いないんだよな~。
それぞれの国から送金されるから、いいホテルに泊まれるし……。
最近なんだか観光旅行だよな~。
冒険の旅! って感じが全くしない。
村の中でも見て回ってくるかな……。
食事を済ませた俺は、ゴルバと同時に民宿を出る。
ゴルバは麦わら帽子に作業着で、海に向かう。
もう、こいつ将軍でもなんでもないよね。
おっ! あの高台からなら見晴らしがよさそうだし、行ってみるか!
****
う~ん……。
こいつも魔将軍じゃないよな……。
気配がまったく消えてないし、マント丸見えなんだけど。
どうしよう……。
声かけようか……。
でも、なんか隠れてるっぽいしな~。
ついてくるな……。
高台の岩に座った俺の視界を、手が覆い隠す。
「だ~れ……」
「リリム」
「む~! 早いよ~!」
分かってたんだもん。
「悪いな……」
「えへへ~。あのね~その~えっと……」
なんだ!
「リリスと話をしてほしいの。いいかな~?」
「ん? そりゃ、かまわないが……」
なんだ? 改まって?
俺の返事で、リリムの髪が青に変化する。
「どうしたんだ?」
「あっ……きょ……今日はいい天気だな!」
「ああ……」
「元気か?」
「見ての通りだ」
「そうか! あぁぁ……」
なんだ?
「お前にしては珍しいな。何か言い難い事でも?」
「そうだな……。私らしくないな……」
「ああ……」
「その……すまなかった!」
こいつも主語がなぁぁぁぁぁぁい!
何が!?
「何がだよ」
「結局、帝国を出てからも初めて会った時の事、を謝ってなかっただろう? それで……」
ああ……。
もう、どうでもいいよ。
それより、事あるごとに殺そうとする事の方を謝ってほしいんだがな。
「あの時、お前は三度も私を助けてくれた。それを……」
「そんな昔の事、気にしても仕方ないだろう? 許すよ。忘れろよ」
「そうか……。でも、もう一つだけいいか?」
「なに?」
「あの時……私がお前を殺そうとした時、お前は私に一度も攻撃をしなかった。何故だ?」
「いや、だって……お前命の恩人じゃん。正確にはリリムだけど……攻撃できないでしょう、普通」
「それだけ? こっちは殺そうとしたんだぞ!?」
「何回聞いても理由は変わらないよ」
「……まったくお前は」
なんだ!
話を途中で止めるな!
「それだけか?」
「いや……」
だから~! なんだよ!
「私とリリム。どちらがお前の好みだ?」
おおう?
いきなり直球!
「どっちって……両方お前だろ?」
「知っていてるかも知れんが、私はリリムの影だ。別人と言ってもいい……」
「影?」
「んっ? リリムから聞いていないのか?」
「ああ……」
「私の……リリムの両親は早くに逝ってしまってな。リリムは幼い頃から族長にならなければいけなかった……」
「そうなのか」
「ああ。だが、リリムはあの性格だ。プレッシャーで駄目になりそうになってな」
「それで、生まれたのがお前って事か?」
「そうだ。だから……」
「いいじゃん。うらやましい」
「うらやましい!?」
「ようは、お前ら悲しみは半分に、喜びは倍にって事だろ? うらやましい」
俺なんて、悲しみを倍増させようとしてくる、頭のおかしいジジィと同化してんだぞ?
『…………』
「嫌じゃないのか!?」
「なんで?」
「お前を救ったのは、リリムだぞ? 私はお前を……」
「俺の楽しみも二倍になるじゃないか。なんで嫌がるんだ?」
まぁ、苦労も二倍のような気はしないでもないけど……。
おおう!
なんでお前らはいちいち涙ぐむんだよ!
お前らは泣くか怒るかしかできんのか!
「ずっと……ずっと不安だった……。お前が受け入れたのは、リリムだけじゃないかと……」
こいつ等は本当に、戦闘力と反比例するように気が小さいな。
お前ら二人いた方が、夜の生活でマンネリ化しないだろうが……。
「リリムもそうだけど、お前にもいなくなって欲しくないにきまってるだろ? それに、消えるなんて出来いんだろう?」
「レイィィィ!」
リリムに戻ったリリスが俺に抱きついてくる。
顔が放漫な胸に埋まる。
ヘブン! ヘブンキタァァァァァ!!
はい……。
気を抜きました。
グシャって、俺の後頭部から鈍い音がしたんです。
その瞬間、リリムの胸元を俺の鼻血が汚しました。
一応言っとくと、興奮して出たわけではありません。
鋭利な岩に、頸椎を粉砕された衝撃で出たんです。
死ねぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!
殺意がないから事故死扱い!?
とにかく死んでしまうぅぅぅぅぅぅぅぅ!!
ジジィィィィィィィィィィ!
『……哀れな』
ジジィの声と共に、俺の首から蒸気が噴き出す。
「なんで? なんで? なんで~?」
鼻と耳から血を流し、ビクビクと痙攣している俺を見たリリムが、混乱している。
え~っとね~。
君のせいです。
抱きつくのが悪いとは言わないけど、有翼族の速度で突っ込まれると、人間で言う全力のタックルになるんですよ。
俺じゃなければ、後ろに岩が無くても首の骨が折れるからね?
『本当にいちいち死にそうになるのぉ』
ほんとにね~!
天国から地獄に突き落とされかけたよ!
よし! 決めた!
今決めた!
『何をじゃ?』
旅の目的だ!
俺は、三人を人間にする道具を捜す!
もしくは、俺の身体をビックリするくらい強靭にする道具か薬を捜す!
『う~ん……。まぁ、最近のお前を見ておるし……。賛成しよう』
お前の賛成などいらん!
俺の! 俺による! 俺の為の旅をする!
『反対しとらんじゃろうが……』
ああ……やっと身体の感覚が戻ってきた。
「レイ~! レイ~! 死なないで~!」
「大丈夫だ……。とりあえず、お前服が返り血でドロドロだ。着替えて来い」
「レイ~!」
「ストォォォォォォォップ! 今抱きつかれたら、本当に死んでしまう」
「ふみ~……」
「早く行って来い……」
「わかった~!」
駄目だ!
この手のイベントを望んだのは俺だけども……。
このまま続けたら間違いなく死ぬ!
『……不憫な』
三人に攻撃されても死なないようにならねば! 三人をものにできない!
『それなんじゃが、一人に絞れば……』
馬鹿か!
三人とも浮気殺すって言ってるんだぞ!
『じゃから……』
三人を同時に攻略して全部本気にして……俺はハーレムを作るんだぁぁぁぁぁぁぁ!!
そうすれば死なない!
『……わしは寝る』
はい! お休み!
****
その日の午後、カーラとのイベントで再び殺されそうになったけど、わだかまりは解消された。
そして、修練中に来たメアリーに尾てい骨を粉砕され、リリスに脇腹を抉られたけど……。
因みに海のモンスターに襲われた漁師を助けましたが、そんな事殺されそうになった事の方が重要なのでどうでもいいです!
俺は元気です!
この二日で、八回おじいちゃん達を見ましたが……。
それでも元気なんです!
泣きません!
明日も頑張ろうと思います!
ヒロインに殺されないように……。
ふ~……。
やってらんね~……。




