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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第五章:島国の漂着者編
57/106

四話

落ち着け……。


これはどうなってるんだ!?


五感に、一切情報が来ない……。


魔力を感じない……。


ジジィ!


『分からん!』


使えん!


くっそ!


高速移動でもないのか!?


『速いだけであれば、魔力は感じるはずじゃ!』


だよな!


馬鹿と一緒で空間の能力!?


いや! 魔力の反響もない!


どうなってんだよ! こりゃあ!


『落ち着くんじゃぁぁぁ!!』


お前が落ち着けクソジジィ!


瞬間移動で逃げったって事は、無いだろうし……。


オリハルコンってのは、とことん厄介だ。


ズル過ぎるぞ……。


やってらんね~……。


「ふふっ……。さあ行くよ……」


なっ!


男の声が突然聞こえ、全身から冷や汗が吹き出した。


やっぱりいる! 見る事も感じる事も出来ないがいる!


俺の身体は……。


ちょ! 何してんのぉぉぉぉ!!


『馬鹿者!』


何故か反射的に、声がしたと感じた方向へ跳びのいていた。


敵がいる方に飛んだら斬られる!


どうなってんだ? これ!


ん……おや?


斬られてない……。


あれ~?


「へ~……。これを避けるのか~」


敵の攻撃さえ見えなかったけど……。


避けられたの!?


なんで?


『分からん……』


「でも、次は外さないよ……」


次が来る!


くそっ!


対策が……。


再び脳内のアラームが上がると、今度は声がした方でもその反対側でもない方向へ、跳んでいた。


これは……。


『さすがに二回目じゃ。多少は理解できたのぉ』


ああ……。


声がしなかった方から嫌な感じがするんだ。


身体はほとんど反射的に動くから、頭と体がバラバラに感じたんだ。


『もしかすると……』


声のした反対側に跳んでたら、斬られたのかもな。


う~ん……。


俺の身体意外に高性能……。


それでもギリギリに変わりはない……。


いつまでも回避できるとは思えないし……。


『何も感じんぞ! これは……』


うおおおお!


また勝手に身体が動く!


俺の身体は、何時から全自動になったんだよ!


『全く敵の姿が見えん! 今はそれに頼るしかあるまい……』


どうなってるんだ!?


景色以外なんにも見えないぞ!


どうなってやがる!?


なんか生きてるから、攻撃をかわしてるっぽいけど……。


『攻撃が来たかすら、判断できんな』


反撃の糸口がみつかんねぇ!


幾ら考えても答えの出ないまま、二度三度と攻撃を身体が勝手に回避していく。


『第六感というものか? これほどとは……』


「おいおい、いい加減にしてくれ。君はどうなってるんだい?」


こっちが聞きたいわ!


俺の身体もそうだけど、お前の攻撃もどうなってるんだよ!


急がないと町が……。


お~や?


『おらん』


うん、いないね~。


あれ? 何も感じない……。


これってもしかして……。


『うむ!』


くそっ!


戦いに集中しすぎた!


思い込みは判断を鈍らせるって事かよ。


『ここからじゃ!』


おう!


****


俺が反撃の切っ掛けらしきものを見つけた頃、孤児院の奴らの命が消えかかっていた。


ここから……。


再びの悪夢……。


「くっそぉぉぉぉぉぉ!! こんなのありかよ! 神様ぁぁ!」


ゲッシー達には化け物の中で最弱の、サルもどきすらどうする事も出来ない。


悲痛なゲッシーの叫び声を切り裂くように、魔力のこもった矢が化け物達に向かう。


「……あれ?」


ゲッシー達に跳びかかったサルもどきは、矢に打ち抜かれその場で腐食し始める。


さらに襲いかかってくる化け物を、ゲッシーの背後から飛び出した四つの影が撃退する。


「ここは私達が援護するから!」


駆けつけたその四人により、ゲッシー達は救われた。


「早く立て! シェルターに急ぐんだ!」


四人の戦いに、ただ唖然としていたゲッシー達に怒声が飛ぶ。


凄まじい戦闘力を見せるその四人もCランクの敵は一撃で倒せるが、Bランクまで行くとそうはいかないようで、敵の数にてこずっている。


「お前達急げ!」


ベンを抱いたゲッシーの声で、全員がシェルターに走り始める。


それを確認した救援の四人も、徐々に後退を始める。


「こっちだぁぁぁぁぁ!」


「早く!」


四人の援護で、ゲッシー達は無事にシェルターへと到着した。


数分遅れで援護をしていた四人も、シェルター内へと飛び込んだ。


そして、扉が閉められる。


「た……助かった~……」


「有難う御座います!」



「あんたらは……」


四人に礼を言うゲッシー達に、オーウェンが説明をする。


「噂のフィフスチームだ。お前達が飛び出してすぐに駆けつけてくれてな」


「そうか……。本当に助かった! 有難う!」


「私達が引き受けた仕事だからな……」


「まさか、こんなとんでもない事になってるとは、思わなかったけどね」


「そうですね。敵の強さも侮れません」


「このシェルターも何時までもつか……。作戦を!」


「ルーカスさんでしたか? ここは、人命を優先して退避も已む無しとお考えください」


「くっ……。しかし……」


「ここはフィフスチームの言う事が正しいだろう。あれだけの敵に籠城戦をしても無駄な犠牲者を増やすだけだ……。あの若者の尊い犠牲を無駄にしてはいかん」


「オーウェン様……」


「納得いしてくれたようね……。これだけの事があって、犠牲者が一人で済んだのは幸運としか言いようがないわ」


「あいつは! あいつは帰ってくるんだ……。俺の弟になるんだ……」


「ジョシュー兄……」


あれ?


俺……死んだ事になってる!


確かめもしてないのに、死んだ事にされてるよね?


もうちょっと、待とうよ。


確かにオリハルコンに手こずって、化け物達を町に行かせちゃったけども!


俺まだ頑張ってるから!


「貴様の気持ちもわからんではないが……。まず、ここにいる人々を安全に退避させる事が優先だ」


「そうだな。まずは……」


「町の見取り図を! 退路を確保します!」


「私達が最後尾で援護する!」


傭兵達とフィフスチームが、作戦を打ち合わせる。


「くっそ……」


「兄さん……」


「許せとは言わないわ……。そいつのおかげで、住民が無事なんだから……。英雄だと思う……」


フィフスチームの一人がゲッシーに声をかけるが、それでも悔やむ気持ちが抑えられないようだ。


「あいつは俺達を庇って……。俺に力があれば……」


いや! だから、生きてるって!


勝手に殺すな!


****


フィフスチーム主体の脱出作戦が決行される頃、俺はやっと敵の攻略法を思いついた。


痛っ!


これで間違いないな……。


敵がいると推測できる方向に、剣を振り抜いた俺の肩口が切り裂かれた。


『やはり衝撃波を伴っておったか……。危なかったが、これで……』


ああ……。


敵の能力は、五感を支配する力だ!


セイレーンみたいな奴だな……。


『セイレーンは高周波を耳から聞かせて視覚を狂わせるが、こやつはダイレクトに五感を狂わせておる』


毎度毎度、よくもこんなずるい武器を!


売ってる店を聞き出してやる!


とは、言っても五感全部が使えないと……。


大体の位置しか分からんな……。


どうする?


『先程のように相撃ち覚悟では、こちらが不利じゃ』


分かってる。


精神を集中……。


いや……それだと逆に殺される。


精神力で身体を思い通りに動かせば、奴の的になる。


なら……。


『そうなるか……。お前こそ、毎度じゃな』


命をかけなきゃ勝てない奴ばっかり出てくるのが悪い!


だから、神様に会って殴り倒す。


『ここで、くたばる訳にはいかんな』


ああ……。


一か八かだろうが! 生き残って見せる!


俺は目を瞑り、身体の操縦を意識から手放す。


完全に勘だけに全てを任せた。


今生きているのは、自身の勘のお陰だ。


それに全てをゆだねる。


「凄まじい戦闘力だね……。だが! これで終わりにしよう!」


多分、殺気か何かだと思う。


それを俺の体は感じ取ってくれた。


その瞬間、離していた身体の手綱を握る!


<ホークスラッシュ>乱れ撃ち!


敵の衝撃波だろか?


俺の肩とわき腹が切り裂かれる。


ジジィのフィールドに関係なく、ダメージを与えてきやがる!


だが、それを気にする余裕なんて、俺にはない、


これが最後のチャンスかもしれない!


俺は激しい痛みを無視して、衝撃波を放ち続ける。


おおおおおぉぉぉぉぉ!


これだけの数! 避けきれるもんなら! 避けてみやがれ!


敵の攻撃に合わせたカウンターが、今回の作戦。


敵が音速以上で動けるなら失敗だが、攻撃を躱した感じだと、それはないと踏んでいる。


「ぐがあああ!!」


五十発目の衝撃波を放とうとした時、俺の五感が正常に戻る。


俺の攻撃は、上手く敵の剣を弾き飛ばしてくれた。


な……なんとかなったぁぁ。


『それにしても、ここまでとは……』


正常になった視界に映し出されたのは、何があったと聞きたくなるようなほど荒れ果てた森だった。


オリハルコンの剣から出ていた衝撃波は、想像以上に凄まじかったようだ。


木々がなぎ倒され、岩が木端微塵になり、地面にいくつものクレーターが出来ている。


てか、よく死ななかったな俺……。


『危機察知能力でいえば、野生の獣を軽く凌駕しておるな』


う~ん。まあ、助かったからよしとするか。


さてと……。


「ああああ……なんで!? 今まで……こんな事……」


剣をはじかれて、俺の衝撃波を防ぐ事が出来なかった男が、斬りおとされた腕と足を這いずって集めていた。


このままじゃ情報を聞き出す前に、出血多量で死ぬな……。


『止血だけはするべきじゃな……』


仕方ない……。


止血を終え、蔦で縛り上げた男を担ぐと、俺は町に走り出す。


こいつのせいで、化け物達を上手く足止め出来なかった。


間に合えよ! こんちくしょぉぉぉぉ!!


****


俺が走り出す頃、戦闘要員がシェルターから飛び出し、退路確保に全力を注いでいた。


「凄まじい……。これがフィフスチーム……」


「本当に同じ人間なのか!?」


ギルドの傭兵達は、フィフスチームの戦闘に圧倒される。


千を超える敵を、フィフスチームはほぼ四人だけで押しとどめていた。


「くっ……これは……」


「ええ……状況は最悪です」


「数が多すぎる!」


「それも、魔法の効果が薄い……」


「元々魔法攻撃に耐性があるようですね」


「このままだと、こちらが消耗して……」


「しかたありません! ここで出し惜しんで犠牲を出しては、本末転倒です!」


「そうね! 全力で行くわよ!」


フィフスチームのその声に、ルーカス達は驚きを隠せない。


「そんな……。まだ本気じゃない!? 彼女達はいったい……」


一人は腕輪を外し、髪の色が緑へと変わる。


一人はマントを外し、羽を出現させると上空へと飛び上がる。


一人はローブをとり巨狼へと姿を変え、最後の一人が複数の魔法を展開した。


魔法の効果により、四人のからだが光のベールで包まれる。


幾重もの防壁を纏い、身体能力が向上される超高等魔法だ。


目の前に迫る巨大な熊に、エルフが叫ぶ。


「あの馬鹿に会うまでは、死ぬわけにはいかないのよ!」



「タイミングを合わせて下さい!」


「了解!」


バンパイアの合図に、エルフが返事をした。


巨大な熊もどきの両足を、矢と爪が止める。


六本の腕は魔道砲の連射でけん制し、喉笛を巨狼の顎がかみ砕いた。


その瞬間傭兵達から歓声が上がる。


しかし、四人は動きを止めない。


エルフの矢による全体への牽制。


動きの止まった敵を、バンパイアが爪で止めを刺す。


回り込もうとする敵を、素早い巨狼がなぎ倒し、上空からは魔道砲が絶え間なく降り注ぐ。


見る間に三分の一の敵が撃退された。


「すげぇ……。すげぇぇよ! あんたら!」


「どうも……。でも、私達もスタミナってもんがあるのよ。ちょっとキツイわよ。この数は……」


「なら、いったん籠城して回復する事も可能だ! 可能性は十分にある!」


フィフスチームの戦闘力を見て、目を輝かせる傭兵達。


それに対して、フィフスチームの四人はお互いに視線を交わしながら、顔をしかめる。


敵の数が多すぎて、殲滅するどころか逃げるのも難しいと、四人だけが理解できているのだ。


「あいつが稼いでくれた時間が、俺達の命を……」


「まだ戦闘は終わっていない! 気持ちは分かるが、感傷に浸るのはあとだ、ジョシュー!」


「分かってます! あいつの……レイの為にも!」


「はっ!?」


ゲッシーの声に、フィフスチーム全員が振り返る。


敵の波がおさまった事もあり、シェルター前に作ったバリケードへと四人が戻る。


「ちょっと! あんた! レイって……そいつどんな奴!?」


「え……あの……髪が灰色で……イケメンの……」


「剣は? 剣はどうなんだ!?」


「えっ……出し入れできる変な真っ黒い剣を……。もしかして、あいつが捜してた仲間って……」


「はぁぁぁ、その通りだ。私達の仲間だ」


先程まで顔色を悪くしていたフィフスチームの四人が、息を吐き出して体から力を抜く。


「今から、籠城戦に切り替えるわよ!」


「はっ!? 仲間を助けにいかないのか? あいつもあんたらくらい強いんだろうけど……」


「皆さん……。この世に絶対はないかもしれませんが、多分……私達の勝利は確定しました。絶対の!」


「すまない……。話が見えないんだが、彼を含めて五人で戦えば負ける事がないと言う事か?」


「でも……、あいつは……」


「皆さんは誤解をしています。彼は……私達の故郷の英雄。……最強の英雄です」


「私達四人が束になってもレイにはかなわないほど、と言えば分かるか?」


「じゃあ……レイは……」


「あの馬鹿の事だから、また実力を誇示できなかったのよ……」


「あいつの不器用は今に始まった事ではないからな……」


「全く、困った方です……」



実は……。


いや、まあ、実はと言うか、なんと言うか……。


俺はこの四人を、よく知っています。


フィフスチームは全員女と聞いていたんですが、それはただの誤情報でした。


分かり易く言うと、そのチームの中には、一匹ホモが混ざってます。


噂なんて、そんなもんだろうけどね。


情報は正確に手に入れてこいよな。ゲッシー……。


****


「……きたぞ」


ゴルバの言葉で振り返った三人の目の前で、巨熊が十字に切断される。


そして、バリケードの前の石畳が、俺の着地した衝撃でクレーター状に波を打つ。


「ああ! レイ! よかった……」


かなり必死だった俺は、ゲッシーの叫びさえ聞こえないほど戦いに集中していた。


「おおおおお!」


もう、誰も殺させない!


残り……五百!


四百! 三百! 二……百!


『よし! もう少しじゃ!』



「くっ。俺も腕を上げたつもりだが……」


「レイはさらに死線を越えたんでしょうね……」


「くそっ! 奴の従者として情けない……」


「仕方ありませんわ……。レイは特別です」


「全く、あいつは私達の知らない間にも……」


「そうね。また、勝手に命がけで突っ走ってたんでしょうね」


「お仕置きですね!」


「当然……」


俺頑張っている間も、キリングガールズは物騒な事を口にしていた。



『後三匹じゃ!』


あのクソ熊~!


どんだけ戦闘力あるんだよ!


『魔道兵機並みじゃな……』


強すぎるわ!


<ホークスラッシュ>


残りは熊二匹!


でもさすがに、そろそろ俺が限界だ! くそ!


久々に行くぞ!


『うむ!』


魔剣を掲げ……秘言を唱える!


「この世に漂いし、迷える戦士の魂よ! 我の元に集い我が刃となれ!」


そして、魂の欠片が賢者の石へと吸収されていく……。


『今じゃ!』


「力を示せ! スピリットオブデス(死神の魂)!」


いっけぇぇぇぇぇ!!


<シャイニングアロー>


光の矢となった俺の身体が、巨熊二体のコアを貫通した。


****


ふいぃぃ……。


何とかなった~……。


強敵との連戦とか、もう嫌だ……。


『お前の運命じゃ』


断固拒否で!


そんな運命クソ食らえ!


『……それより回収にいかんのか?』


ああ……そうだった。


俺は、屋根に放置した男を回収する。


広場に降りて……拷問ターイムゥ!


「お前らの目的と仲間の情報、そしてオリハルコンを売っている店を教えて貰おうか」


「み……店!? 誰がしゃべっ!」


この感触。


二本は折れたな……歯が。


「この……こんな、ごぼっ!」


さ~て……次はっと……。


ボディ……と見せかけて鼻!


その次は……鼻!


もっかい鼻! 鼻! さらに鼻!


『もう、頭蓋骨までヒビが入っておるぞ?』


うひゃひゃひゃひゃ!


腎臓! 肝臓! 膵臓! ん~……なんかの内臓!


「ぐほぉ!」


中々粘るじゃん!


次は……アゴォォォォォ!


けけけけっ!


まだ喋らないのか~?


はい! もっかいアゴー!


『いや……あの……尋問ではなくただの拷問になっとるぞ?』


たぁぁぁぁぁぁぁのしぃぃぃぃぃぃぃい!!


オラァ!


『さっきから喋らないじゃなく、喋れないようじゃが……』


うひゃひゃひゃひゃ!


はい! ドォォォォン!


おっ! ついに泣き始めやがった!


『……それは血涙……と言うよりも出血じゃ(こいつにこれほど加虐癖があるとは……)』


さて、これだけやれば喋るだろう……。


『歪んどる……』


失礼な! ちょっとだけだ!


微Sだ!


『ドSじゃろうが!』


「あうう……もう……もう……」


「喋る気になったか? まずはオリハルコンを売ってる店からだ!」


『ちょ! お前!』


「店……じゃない……。選ばれた……それぞれに……剣が……生まれる」


う~ん……。


売ってないのか……。


『当り前じゃ!』


こいつの剣貰おうかな……。


「ひっ! 待って……まだ……」


ああ?


うおおお!


何かを呟いた男が、真っ白い炎に包まれて灰になった。


それと同時に、腰にさしていたオリハルコンの剣も塵へと変わる。


くそっ!


先手を打たれた!


振り向いた先には、ローブを纏い白いオーラを放つ人影。


かなり離れているので、きちんと目視は出来ないが、魔力は感知出来ている。


多分、そいつもオリハルコンを持っているはずだ。


オリハルコンだらけだな!


くっそ!


『……転移の魔法じゃな』


ああ……。


その人影は、手から光を放つと同時に消えていた。


やられた……。


****


「レイィィィ!!」


おお?


よかった無事だったか。


孤児院の皆が、俺に駆け寄ってくる。


抱きついてきそうな勢いだ!


これはっ!


どさくさにまぎれて胸が揉めるかもしれん!


『やめんか! エロガキ!』


誰が逃すか! このビッグチャンス!


狙いは……胸が一番大きいエマだ!


さあ!


飛び込んでおいで!


「レイ! お前ってやつは!」


お前かい!


俺に飛びついてきたのは……。


ゲッシー……。


死ねよ……。


ああ……久し振りの合法セクハラタイムが……。


でも、まあ……。


『この笑顔はお前の成果じゃ』


殴るのは勘弁してやるか……。


「これで……化粧品のお礼が出来ます……。本当によかった」


涙ぐまなくていいから、貴女の身体が欲しいです。


今日……僕達! 私達は! 童貞を……卒業します!


『最悪じゃ、お前』


んんん!?


殺気!?


何で? また敵!?


「へぇぇぇ……。化粧品買ってあげたんだ~」


この声は……。


もしかってか、間違いないよね?


「お! そうなんだ! 妹達五人に買ってくれてな~!」


あああ! ちくるな! げっ歯類!


俺の命が!


「私は何も貰った事がないんだがな……」


ゆっくり振り向いた先には……。


ですよね~……。


『因果応報……』


俺! なんにも悪い事してませんって!


なんでナイフと爪と魔道砲突き付けられてんの!?


何? この再開!?


「あれ? もしかしてお前ら……」


ゲッシー! あっち行け!


話がこじれる!


「何か言う事はありませんか? レイ?」


「え~と……髪切った?」


やめて! やめて! やめて!


頸動脈切れる!


死ぬから! 死んでしまうから!


『次の継承者は、馬鹿じゃなければいいが……』


な~に! 諦めてんの~!


俺こんなとこで死なないって!


死にたくないって!


たぁぁぁぁぁすけてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!


いや! 俺もこの半年死線(主に餓死や圧死等)を、潜り抜けてきたんだ!


以前の俺だと思うなよ!


師匠! 力を貸してくれ!


『アホな事でいちいちあの方を呼ぶな』


「で……でもさ。お前らが化粧してるところ、見た事ないぞ……」


なにせ、すっぴんで超特A級ですからね三人とも。


「……そう言えば、生まれてからした事がないな」


「リリスもですか? 実は私もありません」


「あっ! 私リップだけは塗ってる! 乾燥予防に」


それ化粧違う!


お前ら、どんだけ恵まれた顔して生まれてきたんだよ!


「そう言う事か……」


どう言う事だ? ゲッシー?


「こんな女神様みたいな三人じゃあ……」


「兄さん……いいの! 私達は私達にふさわしい人がきっといるから!」


「リン……」


リン……じゃなくて!


何、勝手に話を進めてるの!


まず助けろ!


そして、話に混ぜろ!


「まあ、久し振りのお楽しみ時間を邪魔しちゃいけねぇな! じゃあ、また後でな!」


五人娘が、俺に会釈をして去っていく……。


もしや……。


フラグ消滅?


うそぉぉぉぉぉぉぉぉん!


待ってくれ!


ちょっと待ってくれよぉぉ!


ああ……俺の……ハーレムが……。


てか、痛い痛い痛い……。


血が出てる……。


何!? 俺を本気で殺したいの?


『愛とは時に奪い事じゃ』


五月蝿いわ!


「私は……そうね。ネックレスが良いわ」


「私はそうだなぁ……。ブレスレットにするか」


「私はヘアーアクセでお願いしますね」


えぇぇぇ……。


なんか、全部高価な貴金属なんですけど……。


「じゃあ、俺は腕時計が……」


アホか!


お前には絶対やらん!


「あの……みなさん……。町の人が凄い目で見てるのと、もうすぐ頸動脈に到達するんで勘弁してくれませんか?」


やっとひっこめてくれた……。


やばいって!


『どうした?』


こいつらといるだけで、俺の生存確率が著しく下がる!


『運命じゃ』


いやぁぁぁぁぁぁぁ!!


****


俺は町を救った事で多少の報奨金受け取り、ゲッシー達の孤児院への町からの援助金を約束させて、旅に出ることになった。


てか……。


セシルさん……。


笑顔でも、悲しそうな顔でもなく、苦笑いだった。


『さすがにあまりにもひどいフラグ消滅で、不憫だったんじゃろう』


は……はははっ……。


セシルさん……今でも尊敬してます。


でもね……。


喋れや!


無理かも知れんが! ちゃんと教えろよ!


俺が馬鹿とか関係なく分かるか!


はぁ~……。


やってらんね~……。

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