四話
落ち着け……。
これはどうなってるんだ!?
五感に、一切情報が来ない……。
魔力を感じない……。
ジジィ!
『分からん!』
使えん!
くっそ!
高速移動でもないのか!?
『速いだけであれば、魔力は感じるはずじゃ!』
だよな!
馬鹿と一緒で空間の能力!?
いや! 魔力の反響もない!
どうなってんだよ! こりゃあ!
『落ち着くんじゃぁぁぁ!!』
お前が落ち着けクソジジィ!
瞬間移動で逃げったって事は、無いだろうし……。
オリハルコンってのは、とことん厄介だ。
ズル過ぎるぞ……。
やってらんね~……。
「ふふっ……。さあ行くよ……」
なっ!
男の声が突然聞こえ、全身から冷や汗が吹き出した。
やっぱりいる! 見る事も感じる事も出来ないがいる!
俺の身体は……。
ちょ! 何してんのぉぉぉぉ!!
『馬鹿者!』
何故か反射的に、声がしたと感じた方向へ跳びのいていた。
敵がいる方に飛んだら斬られる!
どうなってんだ? これ!
ん……おや?
斬られてない……。
あれ~?
「へ~……。これを避けるのか~」
敵の攻撃さえ見えなかったけど……。
避けられたの!?
なんで?
『分からん……』
「でも、次は外さないよ……」
次が来る!
くそっ!
対策が……。
再び脳内のアラームが上がると、今度は声がした方でもその反対側でもない方向へ、跳んでいた。
これは……。
『さすがに二回目じゃ。多少は理解できたのぉ』
ああ……。
声がしなかった方から嫌な感じがするんだ。
身体はほとんど反射的に動くから、頭と体がバラバラに感じたんだ。
『もしかすると……』
声のした反対側に跳んでたら、斬られたのかもな。
う~ん……。
俺の身体意外に高性能……。
それでもギリギリに変わりはない……。
いつまでも回避できるとは思えないし……。
『何も感じんぞ! これは……』
うおおおお!
また勝手に身体が動く!
俺の身体は、何時から全自動になったんだよ!
『全く敵の姿が見えん! 今はそれに頼るしかあるまい……』
どうなってるんだ!?
景色以外なんにも見えないぞ!
どうなってやがる!?
なんか生きてるから、攻撃をかわしてるっぽいけど……。
『攻撃が来たかすら、判断できんな』
反撃の糸口がみつかんねぇ!
幾ら考えても答えの出ないまま、二度三度と攻撃を身体が勝手に回避していく。
『第六感というものか? これほどとは……』
「おいおい、いい加減にしてくれ。君はどうなってるんだい?」
こっちが聞きたいわ!
俺の身体もそうだけど、お前の攻撃もどうなってるんだよ!
急がないと町が……。
お~や?
『おらん』
うん、いないね~。
あれ? 何も感じない……。
これってもしかして……。
『うむ!』
くそっ!
戦いに集中しすぎた!
思い込みは判断を鈍らせるって事かよ。
『ここからじゃ!』
おう!
****
俺が反撃の切っ掛けらしきものを見つけた頃、孤児院の奴らの命が消えかかっていた。
ここから……。
再びの悪夢……。
「くっそぉぉぉぉぉぉ!! こんなのありかよ! 神様ぁぁ!」
ゲッシー達には化け物の中で最弱の、サルもどきすらどうする事も出来ない。
悲痛なゲッシーの叫び声を切り裂くように、魔力のこもった矢が化け物達に向かう。
「……あれ?」
ゲッシー達に跳びかかったサルもどきは、矢に打ち抜かれその場で腐食し始める。
さらに襲いかかってくる化け物を、ゲッシーの背後から飛び出した四つの影が撃退する。
「ここは私達が援護するから!」
駆けつけたその四人により、ゲッシー達は救われた。
「早く立て! シェルターに急ぐんだ!」
四人の戦いに、ただ唖然としていたゲッシー達に怒声が飛ぶ。
凄まじい戦闘力を見せるその四人もCランクの敵は一撃で倒せるが、Bランクまで行くとそうはいかないようで、敵の数にてこずっている。
「お前達急げ!」
ベンを抱いたゲッシーの声で、全員がシェルターに走り始める。
それを確認した救援の四人も、徐々に後退を始める。
「こっちだぁぁぁぁぁ!」
「早く!」
四人の援護で、ゲッシー達は無事にシェルターへと到着した。
数分遅れで援護をしていた四人も、シェルター内へと飛び込んだ。
そして、扉が閉められる。
「た……助かった~……」
「有難う御座います!」
「あんたらは……」
四人に礼を言うゲッシー達に、オーウェンが説明をする。
「噂のフィフスチームだ。お前達が飛び出してすぐに駆けつけてくれてな」
「そうか……。本当に助かった! 有難う!」
「私達が引き受けた仕事だからな……」
「まさか、こんなとんでもない事になってるとは、思わなかったけどね」
「そうですね。敵の強さも侮れません」
「このシェルターも何時までもつか……。作戦を!」
「ルーカスさんでしたか? ここは、人命を優先して退避も已む無しとお考えください」
「くっ……。しかし……」
「ここはフィフスチームの言う事が正しいだろう。あれだけの敵に籠城戦をしても無駄な犠牲者を増やすだけだ……。あの若者の尊い犠牲を無駄にしてはいかん」
「オーウェン様……」
「納得いしてくれたようね……。これだけの事があって、犠牲者が一人で済んだのは幸運としか言いようがないわ」
「あいつは! あいつは帰ってくるんだ……。俺の弟になるんだ……」
「ジョシュー兄……」
あれ?
俺……死んだ事になってる!
確かめもしてないのに、死んだ事にされてるよね?
もうちょっと、待とうよ。
確かにオリハルコンに手こずって、化け物達を町に行かせちゃったけども!
俺まだ頑張ってるから!
「貴様の気持ちもわからんではないが……。まず、ここにいる人々を安全に退避させる事が優先だ」
「そうだな。まずは……」
「町の見取り図を! 退路を確保します!」
「私達が最後尾で援護する!」
傭兵達とフィフスチームが、作戦を打ち合わせる。
「くっそ……」
「兄さん……」
「許せとは言わないわ……。そいつのおかげで、住民が無事なんだから……。英雄だと思う……」
フィフスチームの一人がゲッシーに声をかけるが、それでも悔やむ気持ちが抑えられないようだ。
「あいつは俺達を庇って……。俺に力があれば……」
いや! だから、生きてるって!
勝手に殺すな!
****
フィフスチーム主体の脱出作戦が決行される頃、俺はやっと敵の攻略法を思いついた。
痛っ!
これで間違いないな……。
敵がいると推測できる方向に、剣を振り抜いた俺の肩口が切り裂かれた。
『やはり衝撃波を伴っておったか……。危なかったが、これで……』
ああ……。
敵の能力は、五感を支配する力だ!
セイレーンみたいな奴だな……。
『セイレーンは高周波を耳から聞かせて視覚を狂わせるが、こやつはダイレクトに五感を狂わせておる』
毎度毎度、よくもこんなずるい武器を!
売ってる店を聞き出してやる!
とは、言っても五感全部が使えないと……。
大体の位置しか分からんな……。
どうする?
『先程のように相撃ち覚悟では、こちらが不利じゃ』
分かってる。
精神を集中……。
いや……それだと逆に殺される。
精神力で身体を思い通りに動かせば、奴の的になる。
なら……。
『そうなるか……。お前こそ、毎度じゃな』
命をかけなきゃ勝てない奴ばっかり出てくるのが悪い!
だから、神様に会って殴り倒す。
『ここで、くたばる訳にはいかんな』
ああ……。
一か八かだろうが! 生き残って見せる!
俺は目を瞑り、身体の操縦を意識から手放す。
完全に勘だけに全てを任せた。
今生きているのは、自身の勘のお陰だ。
それに全てをゆだねる。
「凄まじい戦闘力だね……。だが! これで終わりにしよう!」
多分、殺気か何かだと思う。
それを俺の体は感じ取ってくれた。
その瞬間、離していた身体の手綱を握る!
<ホークスラッシュ>乱れ撃ち!
敵の衝撃波だろか?
俺の肩とわき腹が切り裂かれる。
ジジィのフィールドに関係なく、ダメージを与えてきやがる!
だが、それを気にする余裕なんて、俺にはない、
これが最後のチャンスかもしれない!
俺は激しい痛みを無視して、衝撃波を放ち続ける。
おおおおおぉぉぉぉぉ!
これだけの数! 避けきれるもんなら! 避けてみやがれ!
敵の攻撃に合わせたカウンターが、今回の作戦。
敵が音速以上で動けるなら失敗だが、攻撃を躱した感じだと、それはないと踏んでいる。
「ぐがあああ!!」
五十発目の衝撃波を放とうとした時、俺の五感が正常に戻る。
俺の攻撃は、上手く敵の剣を弾き飛ばしてくれた。
な……なんとかなったぁぁ。
『それにしても、ここまでとは……』
正常になった視界に映し出されたのは、何があったと聞きたくなるようなほど荒れ果てた森だった。
オリハルコンの剣から出ていた衝撃波は、想像以上に凄まじかったようだ。
木々がなぎ倒され、岩が木端微塵になり、地面にいくつものクレーターが出来ている。
てか、よく死ななかったな俺……。
『危機察知能力でいえば、野生の獣を軽く凌駕しておるな』
う~ん。まあ、助かったからよしとするか。
さてと……。
「ああああ……なんで!? 今まで……こんな事……」
剣をはじかれて、俺の衝撃波を防ぐ事が出来なかった男が、斬りおとされた腕と足を這いずって集めていた。
このままじゃ情報を聞き出す前に、出血多量で死ぬな……。
『止血だけはするべきじゃな……』
仕方ない……。
止血を終え、蔦で縛り上げた男を担ぐと、俺は町に走り出す。
こいつのせいで、化け物達を上手く足止め出来なかった。
間に合えよ! こんちくしょぉぉぉぉ!!
****
俺が走り出す頃、戦闘要員がシェルターから飛び出し、退路確保に全力を注いでいた。
「凄まじい……。これがフィフスチーム……」
「本当に同じ人間なのか!?」
ギルドの傭兵達は、フィフスチームの戦闘に圧倒される。
千を超える敵を、フィフスチームはほぼ四人だけで押しとどめていた。
「くっ……これは……」
「ええ……状況は最悪です」
「数が多すぎる!」
「それも、魔法の効果が薄い……」
「元々魔法攻撃に耐性があるようですね」
「このままだと、こちらが消耗して……」
「しかたありません! ここで出し惜しんで犠牲を出しては、本末転倒です!」
「そうね! 全力で行くわよ!」
フィフスチームのその声に、ルーカス達は驚きを隠せない。
「そんな……。まだ本気じゃない!? 彼女達はいったい……」
一人は腕輪を外し、髪の色が緑へと変わる。
一人はマントを外し、羽を出現させると上空へと飛び上がる。
一人はローブをとり巨狼へと姿を変え、最後の一人が複数の魔法を展開した。
魔法の効果により、四人のからだが光のベールで包まれる。
幾重もの防壁を纏い、身体能力が向上される超高等魔法だ。
目の前に迫る巨大な熊に、エルフが叫ぶ。
「あの馬鹿に会うまでは、死ぬわけにはいかないのよ!」
「タイミングを合わせて下さい!」
「了解!」
バンパイアの合図に、エルフが返事をした。
巨大な熊もどきの両足を、矢と爪が止める。
六本の腕は魔道砲の連射でけん制し、喉笛を巨狼の顎がかみ砕いた。
その瞬間傭兵達から歓声が上がる。
しかし、四人は動きを止めない。
エルフの矢による全体への牽制。
動きの止まった敵を、バンパイアが爪で止めを刺す。
回り込もうとする敵を、素早い巨狼がなぎ倒し、上空からは魔道砲が絶え間なく降り注ぐ。
見る間に三分の一の敵が撃退された。
「すげぇ……。すげぇぇよ! あんたら!」
「どうも……。でも、私達もスタミナってもんがあるのよ。ちょっとキツイわよ。この数は……」
「なら、いったん籠城して回復する事も可能だ! 可能性は十分にある!」
フィフスチームの戦闘力を見て、目を輝かせる傭兵達。
それに対して、フィフスチームの四人はお互いに視線を交わしながら、顔をしかめる。
敵の数が多すぎて、殲滅するどころか逃げるのも難しいと、四人だけが理解できているのだ。
「あいつが稼いでくれた時間が、俺達の命を……」
「まだ戦闘は終わっていない! 気持ちは分かるが、感傷に浸るのはあとだ、ジョシュー!」
「分かってます! あいつの……レイの為にも!」
「はっ!?」
ゲッシーの声に、フィフスチーム全員が振り返る。
敵の波がおさまった事もあり、シェルター前に作ったバリケードへと四人が戻る。
「ちょっと! あんた! レイって……そいつどんな奴!?」
「え……あの……髪が灰色で……イケメンの……」
「剣は? 剣はどうなんだ!?」
「えっ……出し入れできる変な真っ黒い剣を……。もしかして、あいつが捜してた仲間って……」
「はぁぁぁ、その通りだ。私達の仲間だ」
先程まで顔色を悪くしていたフィフスチームの四人が、息を吐き出して体から力を抜く。
「今から、籠城戦に切り替えるわよ!」
「はっ!? 仲間を助けにいかないのか? あいつもあんたらくらい強いんだろうけど……」
「皆さん……。この世に絶対はないかもしれませんが、多分……私達の勝利は確定しました。絶対の!」
「すまない……。話が見えないんだが、彼を含めて五人で戦えば負ける事がないと言う事か?」
「でも……、あいつは……」
「皆さんは誤解をしています。彼は……私達の故郷の英雄。……最強の英雄です」
「私達四人が束になってもレイにはかなわないほど、と言えば分かるか?」
「じゃあ……レイは……」
「あの馬鹿の事だから、また実力を誇示できなかったのよ……」
「あいつの不器用は今に始まった事ではないからな……」
「全く、困った方です……」
実は……。
いや、まあ、実はと言うか、なんと言うか……。
俺はこの四人を、よく知っています。
フィフスチームは全員女と聞いていたんですが、それはただの誤情報でした。
分かり易く言うと、そのチームの中には、一匹ホモが混ざってます。
噂なんて、そんなもんだろうけどね。
情報は正確に手に入れてこいよな。ゲッシー……。
****
「……きたぞ」
ゴルバの言葉で振り返った三人の目の前で、巨熊が十字に切断される。
そして、バリケードの前の石畳が、俺の着地した衝撃でクレーター状に波を打つ。
「ああ! レイ! よかった……」
かなり必死だった俺は、ゲッシーの叫びさえ聞こえないほど戦いに集中していた。
「おおおおお!」
もう、誰も殺させない!
残り……五百!
四百! 三百! 二……百!
『よし! もう少しじゃ!』
「くっ。俺も腕を上げたつもりだが……」
「レイはさらに死線を越えたんでしょうね……」
「くそっ! 奴の従者として情けない……」
「仕方ありませんわ……。レイは特別です」
「全く、あいつは私達の知らない間にも……」
「そうね。また、勝手に命がけで突っ走ってたんでしょうね」
「お仕置きですね!」
「当然……」
俺頑張っている間も、キリングガールズは物騒な事を口にしていた。
『後三匹じゃ!』
あのクソ熊~!
どんだけ戦闘力あるんだよ!
『魔道兵機並みじゃな……』
強すぎるわ!
<ホークスラッシュ>
残りは熊二匹!
でもさすがに、そろそろ俺が限界だ! くそ!
久々に行くぞ!
『うむ!』
魔剣を掲げ……秘言を唱える!
「この世に漂いし、迷える戦士の魂よ! 我の元に集い我が刃となれ!」
そして、魂の欠片が賢者の石へと吸収されていく……。
『今じゃ!』
「力を示せ! スピリットオブデス(死神の魂)!」
いっけぇぇぇぇぇ!!
<シャイニングアロー>
光の矢となった俺の身体が、巨熊二体のコアを貫通した。
****
ふいぃぃ……。
何とかなった~……。
強敵との連戦とか、もう嫌だ……。
『お前の運命じゃ』
断固拒否で!
そんな運命クソ食らえ!
『……それより回収にいかんのか?』
ああ……そうだった。
俺は、屋根に放置した男を回収する。
広場に降りて……拷問ターイムゥ!
「お前らの目的と仲間の情報、そしてオリハルコンを売っている店を教えて貰おうか」
「み……店!? 誰がしゃべっ!」
この感触。
二本は折れたな……歯が。
「この……こんな、ごぼっ!」
さ~て……次はっと……。
ボディ……と見せかけて鼻!
その次は……鼻!
もっかい鼻! 鼻! さらに鼻!
『もう、頭蓋骨までヒビが入っておるぞ?』
うひゃひゃひゃひゃ!
腎臓! 肝臓! 膵臓! ん~……なんかの内臓!
「ぐほぉ!」
中々粘るじゃん!
次は……アゴォォォォォ!
けけけけっ!
まだ喋らないのか~?
はい! もっかいアゴー!
『いや……あの……尋問ではなくただの拷問になっとるぞ?』
たぁぁぁぁぁぁぁのしぃぃぃぃぃぃぃい!!
オラァ!
『さっきから喋らないじゃなく、喋れないようじゃが……』
うひゃひゃひゃひゃ!
はい! ドォォォォン!
おっ! ついに泣き始めやがった!
『……それは血涙……と言うよりも出血じゃ(こいつにこれほど加虐癖があるとは……)』
さて、これだけやれば喋るだろう……。
『歪んどる……』
失礼な! ちょっとだけだ!
微Sだ!
『ドSじゃろうが!』
「あうう……もう……もう……」
「喋る気になったか? まずはオリハルコンを売ってる店からだ!」
『ちょ! お前!』
「店……じゃない……。選ばれた……それぞれに……剣が……生まれる」
う~ん……。
売ってないのか……。
『当り前じゃ!』
こいつの剣貰おうかな……。
「ひっ! 待って……まだ……」
ああ?
うおおお!
何かを呟いた男が、真っ白い炎に包まれて灰になった。
それと同時に、腰にさしていたオリハルコンの剣も塵へと変わる。
くそっ!
先手を打たれた!
振り向いた先には、ローブを纏い白いオーラを放つ人影。
かなり離れているので、きちんと目視は出来ないが、魔力は感知出来ている。
多分、そいつもオリハルコンを持っているはずだ。
オリハルコンだらけだな!
くっそ!
『……転移の魔法じゃな』
ああ……。
その人影は、手から光を放つと同時に消えていた。
やられた……。
****
「レイィィィ!!」
おお?
よかった無事だったか。
孤児院の皆が、俺に駆け寄ってくる。
抱きついてきそうな勢いだ!
これはっ!
どさくさにまぎれて胸が揉めるかもしれん!
『やめんか! エロガキ!』
誰が逃すか! このビッグチャンス!
狙いは……胸が一番大きいエマだ!
さあ!
飛び込んでおいで!
「レイ! お前ってやつは!」
お前かい!
俺に飛びついてきたのは……。
ゲッシー……。
死ねよ……。
ああ……久し振りの合法セクハラタイムが……。
でも、まあ……。
『この笑顔はお前の成果じゃ』
殴るのは勘弁してやるか……。
「これで……化粧品のお礼が出来ます……。本当によかった」
涙ぐまなくていいから、貴女の身体が欲しいです。
今日……僕達! 私達は! 童貞を……卒業します!
『最悪じゃ、お前』
んんん!?
殺気!?
何で? また敵!?
「へぇぇぇ……。化粧品買ってあげたんだ~」
この声は……。
もしかってか、間違いないよね?
「お! そうなんだ! 妹達五人に買ってくれてな~!」
あああ! ちくるな! げっ歯類!
俺の命が!
「私は何も貰った事がないんだがな……」
ゆっくり振り向いた先には……。
ですよね~……。
『因果応報……』
俺! なんにも悪い事してませんって!
なんでナイフと爪と魔道砲突き付けられてんの!?
何? この再開!?
「あれ? もしかしてお前ら……」
ゲッシー! あっち行け!
話がこじれる!
「何か言う事はありませんか? レイ?」
「え~と……髪切った?」
やめて! やめて! やめて!
頸動脈切れる!
死ぬから! 死んでしまうから!
『次の継承者は、馬鹿じゃなければいいが……』
な~に! 諦めてんの~!
俺こんなとこで死なないって!
死にたくないって!
たぁぁぁぁぁすけてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
いや! 俺もこの半年死線(主に餓死や圧死等)を、潜り抜けてきたんだ!
以前の俺だと思うなよ!
師匠! 力を貸してくれ!
『アホな事でいちいちあの方を呼ぶな』
「で……でもさ。お前らが化粧してるところ、見た事ないぞ……」
なにせ、すっぴんで超特A級ですからね三人とも。
「……そう言えば、生まれてからした事がないな」
「リリスもですか? 実は私もありません」
「あっ! 私リップだけは塗ってる! 乾燥予防に」
それ化粧違う!
お前ら、どんだけ恵まれた顔して生まれてきたんだよ!
「そう言う事か……」
どう言う事だ? ゲッシー?
「こんな女神様みたいな三人じゃあ……」
「兄さん……いいの! 私達は私達にふさわしい人がきっといるから!」
「リン……」
リン……じゃなくて!
何、勝手に話を進めてるの!
まず助けろ!
そして、話に混ぜろ!
「まあ、久し振りのお楽しみ時間を邪魔しちゃいけねぇな! じゃあ、また後でな!」
五人娘が、俺に会釈をして去っていく……。
もしや……。
フラグ消滅?
うそぉぉぉぉぉぉぉぉん!
待ってくれ!
ちょっと待ってくれよぉぉ!
ああ……俺の……ハーレムが……。
てか、痛い痛い痛い……。
血が出てる……。
何!? 俺を本気で殺したいの?
『愛とは時に奪い事じゃ』
五月蝿いわ!
「私は……そうね。ネックレスが良いわ」
「私はそうだなぁ……。ブレスレットにするか」
「私はヘアーアクセでお願いしますね」
えぇぇぇ……。
なんか、全部高価な貴金属なんですけど……。
「じゃあ、俺は腕時計が……」
アホか!
お前には絶対やらん!
「あの……みなさん……。町の人が凄い目で見てるのと、もうすぐ頸動脈に到達するんで勘弁してくれませんか?」
やっとひっこめてくれた……。
やばいって!
『どうした?』
こいつらといるだけで、俺の生存確率が著しく下がる!
『運命じゃ』
いやぁぁぁぁぁぁぁ!!
****
俺は町を救った事で多少の報奨金受け取り、ゲッシー達の孤児院への町からの援助金を約束させて、旅に出ることになった。
てか……。
セシルさん……。
笑顔でも、悲しそうな顔でもなく、苦笑いだった。
『さすがにあまりにもひどいフラグ消滅で、不憫だったんじゃろう』
は……はははっ……。
セシルさん……今でも尊敬してます。
でもね……。
喋れや!
無理かも知れんが! ちゃんと教えろよ!
俺が馬鹿とか関係なく分かるか!
はぁ~……。
やってらんね~……。




