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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第五章:島国の漂着者編
56/106

三話

「ふっ!」


まだまだだな。


空間を斬るか……。


正直この半年で腕は上がったと思うけど、全然だな。


空間を斬れる確率も、せいぜい一割程度。


それのこの技は放つまでに時間がかかり過ぎて、まだ実戦で使えない。


俺は皆が寝静まってから、孤児院の庭で練習用の剣を振るう。


感覚を研ぎ澄ませて……。


「はっ!」


う~ん……。


無駄のない動き……。


動きを洗練するか~。


師匠の流儀は、難しすぎるんだよなぁ。


元々人間用じゃないのかもしれないけど、明らかに他の剣技とは違うもんな。


五感を研ぎ澄まし、世界と一体となる。


そして、そこから導き出された全く無駄のない動きを実現するために、身体を鍛える。


心技体全てを極限に高めて戦うなんて、普通できないだろう……。


ハードルたけぇぇよ。


そう言えば学園で習ったのは、まず身体を鍛えて技を習得するだったもんなぁぁ。


完全に逆だもんな~。


今俺がこのレベルにいるのは、師匠のお陰だけど……。


本当に極める事が出来るのは、何時になるんだろ……。


てか、人間に出来るのか?


死ぬまで一生勉強です、なんて俺は嫌だぞ~。


さっさと最強になって胡座をかいて生きて行きたい。


ん?


こんな夜中に……。


まさか!


五人娘の誰かとのフラグですか!?


誰だ!?


誰が最初に俺の嫁に……。


出来れば……いや! 誰でもいい!


さあ! 俺の胸に飛び込んでおいで!


「さすがにレベルの高い奴は違うなぁぁ。頭が下がるぜ」


お前かい!


ここは、女の子とのイベントじゃないのかよ!


なんで、ゲッシーが出てくるんだよ!


萎えたぁぁ……。


やってらんね~……。


「しかし、昼間も見てたがお前は凄い奴だ」


知ってるよ。


それより出来ればチェンジしてくれ。


キャンセル料払うから……。


指名できるなら……リン……いや! リサで!


「本当にお前は絵になる男だな~……」


そんなのどうでもいいから、チェンジ!


お前なんかのフラグなんて、クソの役にも立たん!


「俺もお前みたいだったらなぁぁ……。お前、彼女とかいるのか?」


なんですかぁぁ? この野郎は?


いちいち逆鱗に触れてきやがって。


殺しますよ? ああぁぁん?


早くチェンジィィィィィ!!


「お前も気付いてると思うんだが、妹たち全員がお前に惚れちまってるみたいなんだ」


チェェェェェェェェェェ……えええええっ!!


マジで!?


ドッキリとかじゃなくて!?


マジで!?


いや、ちょ! マジで?


お金払わなくても色々出来るの?


やらせてもらえるの?


「もしお前にその気があるなら、一人選んでくれ……」


出来れば、全員お持ち帰りで!


我がまま言わないから、全員差し出せ!


「お前になら、任せられると思うんだ……」


任されるから、全員よこせ。


いいから!


「あいつらは、小さいときから本当に苦労してきたんだ。だから……」


全員! 全員! 全員! 全員! 全……。


いちいち涙ぐむなよ……。


しらけるだろうが……。


「いけね~な。邪魔になっちまうな。続けてくれ」


「いや、もう寝るところだ」


「お前は、本当に中身も一級品だな。その不器用な優しさは、女には毒だぜ?」


優しさは優しさだろうが。


毒って何だ!


俺を否定するなら殴るぞ?


「全く神様ってのは、不公平だよな……」


それは全面的に同意します!


俺も常々、そう感じてるよ。


「俺にも、お前みたいな……力だけでもあればなぁ」


はははっ……。


代わってやろうか~!?


仰天するぐらいついてないんだぞ!


ちょいちょい殺されそうになるんだぞ!


辛いんだぞぉぉぉぉぉ!!


神様、死ねばいいのに……。


「ははっ……。愚痴っちまった。すまねぇぇな」


それよりチェンジはないの?


ハーレムになるなら、今すぐにでもお願いしたいんだけど……。


「じゃあ、寝るか」


ですよね~……。


俺が、こんな事でうまくいくとは思ってませんよ! コンチクショォォォォ!!


それも、ゲッシーの思い込みで、それぞれが別に好きな奴いるとかってオチだろう?


俺が告白した瞬間、恥をかくって罠だろっ!


言ってみろ!


分かってるから!


世界……この世全体が俺の敵って事だろうが!


ああ……。今日も目から変な汁が出そうだ。


もう疲れた。


眠ろう……。


****


その日、何故か二度目の夢を見た。


今度は、セシルさんが苦笑いをしていた。


何かのお告げ?


馬鹿な俺は、その意味を理解出来ない。


だって、俺は馬鹿だからね……。


本当に嫌になってくるよ、自分が。


****


翌朝も、頭が痛くなるほど賑やかな食事だった。


女性陣が、化粧の仕方を色々と話し合っている。


楽しそうだ……が!


気に入らん!


昨日のゲッシーの言葉が気になって意識してしまい、みんなの顔を見てしまう。


だる! ことごとく目をそらされる!


何処が俺を好きなんだ!


唯一隣にいたリンだけが、化粧に慣れてないから恥ずかしいと意思表示してくれたけども!


これのどこが好意だ!


なんかちょっと嫌われてるんじゃね?


なんだよ~!


俺、まだ今回は何もしてないじゃんか~!


俺の何がいけないんだよ~!


フラグって、どうやれば回収できるんだよ~!


誰か教えてくれよ~!


「じゃあ、そろそろ行くか? レイ」


「ああ……」


もう、多分ここに俺のフラグは無い。


とっとと金貯めて、カーラ達を捜しに行こう。


泣かないよ。


元々期待なんかしてなかったもん!


強がりじゃないもん!


きっと俺にもいい事あるもん……。


きっと……。


「なんだ~? お前本当に朝は弱いんだな~」


お前のせいじゃ!


変な期待させやがって!


ブルー通り越して、鬱なんだよ!


****


「どう言う事なんだ!」


ああ?


ギルドの着くと、ルーカスって奴が騒いでいる。


朝から元気なおっさんだ。


「私に言われましても……」


「責任者を連れてこい! 納得できるか!」


「ですから、依頼元の町議会からなんですよ」


「くそっ! 舐めやがって! この町にはオーウェン様がいるってのに!」


また、オーウェン様か。


あいつ、オーウェン様大好きだな。


「なあ、ゲッシー?」


「なんだ?」


「あのルーカスって奴、何であそこまでオーウェンにこだわるんだ?」


「ああ……。ルーカスさんからすると、オーウェン様は仲間であると同時に、師匠で人生の目標なんだ」


ルーカスは、オーウェン教の信者って事ね。


おっさんがおっさんに心酔するって、キモイな。


あいつと喧嘩したかったら、オーウェン馬鹿にすればいいんだろうなぁぁ。


英雄ってのを、いきなり殴るわけにもいかないし……。


ムカついたら、やってやろうかな……。


「もう、いい! ルーカス!」


「オーウェン様! しかし!」


「実際に被害が増えているんだ! 当然の事だろう」


「はぁ……」


「今後も私達で出来る事をやればいいだけだ。人は関係ない」


「はい……」


「それに、噂のフィフスチームを見られるのは、少し楽しみではないか?」


「オーウェン様以上の者などいませんよ……」


「ふ~……。まぁ、今からでもキャンセルさせるくらい、頑張ってみようじゃないか」


「はい! 私も及ばずながら!」


「うん! では、行こう!」


大騒ぎした挙句、勝手に納得して出て行きやがった。


あれ?


ゲッシー?


「聞いてきたぜ!」


「何を?」


「さっきの騒ぎの原因だよ! 興味ないのか?」


あんまり……。


「昨日俺達も退治した、サルの化け物の被害がかなりひどいらしくてな。前に言った隣町のフィフスチームを、町議会が呼んだらしいんだ!」


はいはい。


それだけで、あの馬鹿が騒いでた理由が分かったよ。


それよりも……。


「俺達も、北の森に急ごう。儲けが減っちまう」


「おっ!おう!そうだな……」


あんなに楽して稼げる仕事も、少ないんだ。


今日中に稼げるだけ稼ごう。


なんて、考えは甘かった……。


この不幸スパイラルまっただ中の俺が、それで済むわけがないんだ。


俺は路銀稼ぎすら、うまくできないらしい……。


****


ジジィ!


『分かっておる……』


北の森に到着したところで、俺の額から冷や汗が流れ出していた。


ちょっとやばいよな? これ。


『そうじゃな……』


「ゲッシー!」


「なっ? なんだ? もう敵が来たのか?」


「ああ! かなりの数だ!」


「なっ!? やばいのか!?」


「ちょっと洒落にならん……」


「何処だ!? いったん引くか!?」


どうする!?


少なくともBランクが、五百近くいるぞ……。


それも町に向かって来てる……。


「ぐあああぁぁぁぁぁ!!」


「きゃぁぁぁぁぁ!」


悲鳴?


って!


俺より先にゲッシーが走り始めていた。


****


声の主は……。


案の定、オーウェンのパーティー……。


ゲッシーは、ミリーの声を聞き分けたのか……。


オーウェンとルーカス、そしてミリーが怪我をしている。


もう一人は、やられてるな……。


目の前には何時もの、気持ち悪い化け物達……。


『少なくとも二千匹はおるな……』


あのクソでかいのは、なんだ?


『巨大な熊? かのぉ?』


腕が六本もあるぞ……。


くっそ!


Aランク確実の魔力だし!


それも何体いるんだよ……。


『十体じゃ……』


あれは……。


「逃げろ! ジョシュー! 町にこの事を知らせるんだ!」


「あ……あああ……」


「町から、人を避難させるんだぁぁぁぁぁぁ!!」


オーウェンがゲッシーに叫んでいる。


だが、ゲッシーはその場に立ちすくんでしまっていた。


あることに気を取られていた俺も、敵に取り囲まれる。


「くう……。ここまでなのか……」


「まだだ! まだ諦めるな! 私達が時間を稼ぐんだ!」


「はい!」


オーウェンの言葉で、ルーカスが槍を構える。


無理だって、一体でも勝てるか分からないレベルの敵がこの数だよ?


「そ……そんな……町は……終りだ」


へたり込むな! げっ歯類!


抵抗空しく、オーウェン達が吹き飛ばされ、俺の足元に転がってきた。


化け物達が、こちらに跳びかかってくる。


「うわあああ!」


俺以外の四人が覚悟をしたところで、跳びかかってきた化け物が両断される。


もちろん、俺が斬り殺した。


俺は魔剣の切っ先を、化け物に交じっている一人の人間に向ける。


「てめぇに聞きたい事がある!」


「君は……その髪の色! なるほど! 試練か」


真っ白い髪とローブを纏った男が、こちらを見て笑ってやがる。


間違いない!


奴はあの馬鹿の仲間だ!


『あれが元凶で間違いないじゃろう!』


殺す……。


拷問して、情報を吐かせてから殺す!


『気を付けるんじゃぞ! 今回は前回より敵が多いうえに、奴のあの腰の剣も多分……』


分かってる。


分かってるが、殺意が抑えられん。


俺の身体から、真っ黒いオーラが放たれるのに反応した化け物達が、跳びかかってくる。


だが、遅い!


「おい! お前ら! 早く町に危険を知らせに向かえ!」


「しかし……」


「お前らは邪魔なんだよ! 早く行け!」


「レイ!」


「早く行け! この数だ! 全部はおさえられん!」


「君だけを残して……」


「早く行け! 雑魚! 足手まといだ!」


頭に血の登った俺が叫ぶと同時に、四人が走り始めた。


今の俺には、あいつらに気を使うほど心に余裕がない。


殺意が体中からあふれ出しそうだ……。


まず、四人を追おうとした奴から切り捨てる。


「さすがは私の試練だ。やれ……」


男の指示で、化け物達が俺に向かってくる。


はっ!


遅いんだよ!


俺は、短い時間で二百匹以上を斬り殺した。


Bランクくらいなら、上位レベルでも今の俺には止まって見える。


「やはり、私自ら行くしかないか……」


さっさと来い!


『落ち着け! 油断するでないぞ!』


分かってるって!


あいつは掴まえて! 何もかも聞き出してやる!


そして、殺す!


「行くぞ……」


予想通り、敵はオリハルコンの剣を出した。


そして、男が白いオーラを纏った瞬間……。


視界から姿が消えた……。


どうなってる?


超高速移動か?


瞬間移動の可能性もある!


何処に行きやがった!


****


俺が再びチート武器と戦闘を開始する頃、町では住民がシェルターにほぼ避難完了したところだった。


そのシェルターは、人間同士の戦争に備えて作られた物らしい。


まあ、実はオリハルコンの剣で簡単に壊されてしまうんだろうが、今は多少でも時間が稼げる。


「私は何をおごっていたのだ……」


「オーウェン様……」


「私のおごりが、あの若者を殺してしまった……」


「オーウェン様! レイは必ず生きて帰ってくる! 幾ら英雄でもそれは……。その言葉は俺が許さねぇ!」


「ジョシュー……」


「あいつは……あいつは信じられないくらい強くてかっこいいんだ! 死んだりするもんか!」


「ふぅぅ……情けない。私は年をとり、心まで弱くなっていたようだ。すまない、ジョシュー」


「オーウェン様……」


「彼が戻ってくれば、彼が戦いの要になるだろう! その為の準備をするんだ!」


そのオーウェンの声で、傭兵や兵達が準備を始めた。


始めたんだけど……。


俺別に逃げるつもりも、負けるつもりもなかったからね!


なに勝手に盛り上がってるんだよ!


なんか勝手に死んだ人みたいな扱いやめろよ、馬鹿!


「兄さん!」


「おお! リン! みんな無事か?」


「それが……」


「どうした? 誰か……」


「ベンがいないの! 他の子に聞いたら、レイに貰ったおもちゃを取りに行くって……」


「くそっ! なんてこった!」


「私捜しに行く!」


「駄目だ! 俺が行く!」


「私達も!」


「外は本当に危険なんだ! 俺が行く!」


シェルターを飛び出したジョシューに続いて、孤児院の大人全員が走り出していた。


「お前ら! 戻れ!」


「嫌よ! ベンも大事な家族なんだから!」


「あたし達も助けたいのよ!」


俺いないんだから、無茶するなよぁ……。


****


リンたちの予想通り、ガキは孤児院にいた。


「ああ! ベン! 無事か?」


「よかった~……」


「心配させるんだから! この子は!」


ガキをリサが抱きしめた瞬間、ジョシューの顔が青ざめる。


「くそ……。ついてね~な」


「そんな……」


ジョシュー達の目に映ったのは、もちろん化け物の群れ。


「ここは俺が時間を稼ぐ! お前達はシェルターまで逃げるんだ!」


「でも! お兄ちゃん!」


「早く行け! 頼む……」


走り出そうとしたリサ達の周りを、すぐに化け物達が囲う……。


「くっそぉぉぉぉぉぉ!! こんなのありかよ! 神様ぁぁ!」


ジョシューはこの絶望的な状況に絶叫していた。


だから、死亡フラグだって言ったのに……。


神ってのは、とことん残酷だ。


やってらんね~……。

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