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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第五章:島国の漂着者編
54/106

一話

「じゃあ、コーラを……」


「はいよ」


場末の酒場に立ち寄った俺は、財布の中身を確認する。


う~ん……。


予想通り、路銀がつきそうだな。


『そうじゃな』


そろそろ働くか……。


面倒くさいなぁ……。


『あれじゃな』


なに?


『駄目人間のセリフじゃな』


誰が! 駄目人間だ!


まだリリス達に追いつけないから、ギルドかなんかで働くんだろうが!


行きずりの傭兵としてギルドで働くって、結構面倒なんだぞ!


別に働きたくないわけじゃないだろうが!


『……はいはい』


なんだよ! その態度は!


殺すぞクソジジィ!


『……で、今回はどれくらい働くんじゃ?』


なっ! ついに無視のアビリティを覚えやがった!


死ね! クソジジィ!


『お前が死ね……。どうするんじゃ?』


ええい……。


今回は三カ月間ぐらい旅ができる額が、欲しいよな。


前回くらいだと、一カ月もたなかったし……。


『そうじゃのぉ。まだまだ先は長そうじゃしな……』


は~ああああぁぁ……。


カーラ達とはぐれて、早半年……。


どうなってんの? これ!


仲間達と冒険の旅でもなんでも無いよね!


完全な一人旅じゃないか!


それも、冒険の目的が仲間探しになってるよ!


俺は何がしたいんだよ!


てか、何すればいいんだよ!


『まぁ、お前の運ではあと半年は堅いじゃろうなぁ』


ふっ…………ざけんなぁぁぁぁぁぁぁ!!


新年も誕生日も一人だったんだぞ!


なんだよこの状況は!


やってらんね~……。


てか、ジジィ……じゃなくて、クソジジィ。


『わざわざ改悪するな、クソガキ。なんじゃ?』


俺~……。


八歳以降、まともに誕生日祝われた事ない……。


普通、成人したお祝いとか……。


あっ……ちょ! ヤバイ……。


思い出したら、心の汗が染みだしてきそうだ。


『……わし、お前の誕生日知らんぞ?』


同化してる魔剣に祝われて、何が嬉しいんだ!馬鹿か!


女の子達に囲まれて、お誕生日会やパーチーをしたい……。


『……こういう場合はせめてわしだけでもとは、思わんのか?』


誰が思うかボケ!


ああ……。


楽しかったなぁ、最後のお誕生会……。


リリーナお嬢様がまだ俺を嫌ってなくて……。


プレゼントに……。


庭で拾ってきた蝉の抜け殻……。


うぅぅん?


最悪だぁぁぁぁぁぁぁ!!


これよく考えると最悪だぁぁぁぁぁぁ!


八歳とはいえ、蝉の抜け殻ってなんだよ!?


それも九歳からは、誕生日を二カ月勘違いしたメイド長からの、おめでとうって言葉だけだったよ!


言い出せなくて、毎年ありがとうって言ってたよ!


『……灰色の誕生日』


灰色どころか、どす黒いわ!


冬場のどぶ掃除に、雪かき、お嬢様のパーティー用の買い出し……。


誕生日にろくな思いでがないぞ! コンチクショォォォォォ!


『……不憫な』


やばいって! 目からなんか変な汁が出てきそうだよ!


もう、あの……。


俺の誕生日って、便所のスリッパよりもどうでもいいんじゃないの!?


『まぁ……その……あれじゃ……えぇぇと』


そんなに困るならフォローしようとすんな!


『……そうじゃ! メアリー達に会えば、祝ってくれるじゃろう!』


必死に導き出した答えがそれかよ!


だからそれだと、結局半年後じゃないか!


『えぇぇ……そうじゃ! 成人したし、酒でも飲んで……』


酒飲んで嫌な事、忘れろってか!?


そんな答えしか出せないのかよ!


俺は二度とお前を賢者とは認めん!


『しかし……』


しかしも、かかしもあるか!


はぁ~……。


****


「オラァ~! どうしたんだ! お前は本当に口だけだな!」


ああん?


喧嘩か?


五月蝿いなぁぁ……。


あ~……。


まあ、俺には関係ないな。


『お前は本当に女が困っておらんと、何もしようとせんな……』


前にも言ったが……。


世界の女(美人優遇)は俺の嫁! 男は全員首括れ! がモットーですから。


『腐っとる……』


男同士の喧嘩なんて知るか……。


んっ!?


俺は気配を読み、飲みかけのコーラをカウンターから持ち上げた。


負けてるっぽい方の男が、カウンターに派手にぶつかる。


弱いのに喧嘩なんかするからだ。


この酒場は、もともとギルドの情報を手に入れようと思って入った場所で、客層もガラが悪い。


その客達は喧嘩を止めるのではなく、見世物として喜んでいる連中ばかりだ。


店の店員まで何時もの事といった感じで、気にもしていない。


相手は二人で……。


『力量にもかなり差があるようじゃな……』


カウンターに吹っ飛ばされてきた男が、ボコボコにされて終りかな……。


「さあ! ジョシュー! どうするんだ?」


「俺達に謝るなら今のうちだぞ?」


「くっ!」


「今なら土下座で勘弁してやる! どうするんだ?」


「舐めるなよ! 俺には強い助っ人がいるんだぞ!」


「なにぃぃ!?」


「じゃあ、頼んだぞ!」


え~……。


「誰!?」


「なに言ってるんだよ! 早くあいつらやっつけてくれよぉぉ!」


はぁ~!?


俺!?


「仲間がいやがったのか!」


「はっ! ヤサ男じゃないか! 二対二でも負ける気がしね~な~!」


ええ~……。


馬鹿にされて腹立つ以前に、困惑してますよ?


俺が……。


「お前見ない顔だな! ジョシューに金で雇われたのか!?」


雇われてませんけど?


「どうした? 怖いのか腰ぬけ!」


怖くねぇぇよ、雑魚……。


てか、俺に意識を向けすぎだ。馬鹿。


さっきの男、裏口から逃げてったぞ?


仕方ないなぁ。


俺はカウンターにコップを置くと、立ち上がった。


「おっ! やる気になったか?」


「は~……。少し待ってろ……」


身構える二人にとりあえず断っておいた。



「へへへ……。悪く思うなよぉ……」


「俺を巻き込んだんだ。処理はしてもらうぞ」


「なっ! はぁ~?」


裏口から一人で逃げだした、ジョシューと呼ばれる男の先回りをした俺。


男を掴まえ、腕の関節をきめて店内へ戻った。


「放せ! くっそ! 放せよ!」


五月蝿い……。


「はっ? あれ?」


「どうなってるんだ?」


俺が少し真面目に動いたので、相手には突然姿が消えた様に見えたのだろう。


何故かその俺が逃げた男と裏口から戻って来た事に、けんか相手達が困惑している。


俺は掴まえた男を床に投げ捨てて、席に戻った。


「なんだ? 仲間じゃないのか!?」


違いますよ~っと。


一応、口で言っとくか……。


「はっ! 腰ぬけが! 仲間を裏切ってまで助かりたいか! 女の腐ったようなやつだ!」


男がそう言うと、酒場全体から笑いがおこる。


ああ~……。


喧嘩売っちゃいます? この俺に?


因みに、女性は腐ったらただの死体ですよ? クソ雑魚が!


「俺はそう言う奴が許せん達なんでな! ジョシューは土下座で勘弁してやるが、お前は覚悟するんだな!」


さぁぁぁてと……。


『殺すでないぞ……』


はいはい。


「おっ! やっとその気……」


俺の拳が腹に突き刺さった男が、その場に倒れ込む……。


気絶したかな?


文句言えないな……。


まぁ、もう一匹いるか……。


「はっ? な……なにしやがった!」


見て分からん奴に、言っても分からんと思うんだがな……。


「殴ったんだよ……」


「おっ……お前魔道士か! 転移の魔法だな!」


違うよ、馬鹿。


「じゃあ、ゆっくり動いてやるからかかってこいよ……」


「舐めやがって!」


はいはい、舐めてますよ~っと。


そおい!


俺の拳を胸に食らった男は、その場で転げまわる。


死なないように胸にしたけど……。


骨折れちゃった……。


『お前の手加減は、手加減になっとらん!』


だって!


『だってもなにもあるか!』


そんなに怒るなよぉぉ。


何時もの事じゃんかぁぁ……。


って、おお!


『……想像していたよりは、強かったようじゃな』


さっき気絶させたと思った男が、起き上がってきた。


俺達の想像よりは、体鍛えてたんだねぇ。


気は失ってなかったみたいだ。


「あのさぁ……。俺、本当に関係ない人なんですよぉ。分かってくれる?」


起き上がった男は真っ青な顔で、幾度も首を縦に振った。


その男は転げまわる男を抱えると、酒場から逃げるように出て行った。


そんなに必死に逃げる事ないのに……。


『逃げるじゃろう、普通……』


ふ~……。


****


静まりかえった酒場に、変な空気が流れている。


もういいや……。


俺は元の席に戻り、コーラを一口飲む。


あれ?


店の人が、俺を避けてませんか!?


ちょ! こっち来いよ!


ギルドの事、聞きたいんだって!


何もしないから!


「兄ちゃん! あんたすげーな!」


ああ?


俺の隣に、さっき俺を巻き込んだ男が座っていた。


金髪の長い髪を縛った……出っ歯……。


「どっかのギルドの人かい?」


そう言うあなたは、どこのげっ歯類ですか?


『ひどいな、お前』


どう見てもあの前歯は、ねずみかリスだ!


「なんだ? さっきのこと怒ってるのか? それとも、クールが売りってかい?」


いや、お前の前歯が気になって観察してるんだよ、ゲッシー。


『人の、身体的マイナス点をあだ名にするのはよくないぞ?』


じゃあ、ネズミー……。


『同じじゃろうが……』


リッシー?


『もぉ、ええわい。それよりも、お前が無言で見つめているせいで、焦り始めておるぞ』


「悪かったって! 勘弁してくれよ~!」


「わかった……」


「ふ~……。兄ちゃん、厳ついわけでもないのに迫力あるな~」


お前の前歯の方が、大迫力だよ。


『……止めても無駄じゃな。わしは眠るぞ?』


無駄です。お休み。


「はぁ~……。本当に無口なんだな?」


「まあ……」


「俺はジョシューってんだ! 宜しくな!」


「……レイだ」


「おお! 宜しくな、レイ!」


何回宜しくするんだよ……。


「お前凄いな~。あの二人はあれでもサードクラスなんだぜ~」


見た目通り、雑魚じゃん。


因みにこの世界のギルドランクは、ファースト~フィフスであらわされる。


サードクラスは、俺のいたレーム大陸で言うAクラス下位~Bクラス中位までだ。


フォースがAクラス中位~上位だが、こっちにはフィフスがある。


化け物並みの戦闘力や、大きな功績をあげた奴がなれる特別なクラスだ。


この大陸でのクラス認定は共通なので、前回のギルドで取った俺のフォースクラス免許が使えるはず。


戦闘力は多分フィフス並みだと思うけど、手続きが面倒そうだったので、フォースで止めている。


てか、フォースでも十分稼げるしね。


「聞いてるか? 俺はよ~、もうすぐセカンドからサードへ昇格予定なんだが……」


セカンド……雑魚中の雑魚だな。


「どうだいレイ! 俺と組まないか?」


「断る」


「ちょっと待ってくれよ~! 少しは考えてくれよ~!」


五月蝿い奴だな。


考えるまでもないだろうが……。


俺は、仕方なく免許を出した。


「お前! これ! フォース!?」


俺はお前と組んでも得しないんだよ。


てか、誰と組んでも得なんてない! 依頼料が減るだけだ!


「……頼む! 一生のお願いだ! この通り!」


ええ~……。


そんな必死に頭下げても……。


てか、一生のお願いって何だよ?


俺はお前と長くは付き合わないぞ?


「な~、頼むよ。俺は養わないといけない家族がいるんだよ。なぁ~って!」


しつこいな……。


「お前と組んで、俺に何の得があるんだ?」


「お! 考えてくれるのか!?」


違う!


断りの言葉に聞こえないのかよ!


それからジョ……ゲッシーは自分と組むと、ギルドでのコネがありいい仕事を回してもらえるだの、流れ者の俺より土地勘があり有利だの色々並べてくれた。


一つも魅力的なものがない……。


「どうだ?」


「断る」


「早いな! なんでだよ!」


「俺は、早く金を貯めて旅に出ないといけないんだよ」


「そんな意地悪言わないでくれよ~。なっ!」


何が、なっ! っだ!


意地悪でもなんでもないだろうが!


「頼むよ! なっ!」


なっ! なんて言われて、誰がうん! なんて言うか、馬鹿!


****


その後……。


二時間隣で拝み倒された。


これじゃあ、ギルドの話を聞くどころじゃない。


こいつに何か聞けば仲間にしろって、余計に面倒になる事間違いなし……。


うぜぇ……。


こいつ超うぜぇよ!


「おっ! 何処に行くんだ? 話は終わってないぞ?」


俺は、カウンターに料金を置くと、店を出た。


予想通りついてくるよ……。


「ついてくるな」


「だから~、お前がうんって言ってくれれば、面倒は無いんだって!」


どんな脅しだよ!


俺はゲッシーの視線が外れた瞬間、屋根へと跳び上がった。


これ以上付き合いきれん。


今日の宿も取ってないってのに。


さて……。


ギルドは何処かな……。


う~ん……。


あっ! あれだ!


確か前の町でも、あれがギルドの看板だった!


この国の文字は読めないが、きっと間違いないはずだ!


よっと!


俺は屋根から飛び降り、ギルドだと思われる建物の中に入った。


****


間違いないっぽいな!


さて!


手続きを……。


「待ってたぜ~」


うわああ!


ゲッシー!


何で!?


「お前は知らないだろうけど、この町にギルドは一つなんだよ。必ず来ると思ってたぜ~」


はめられた!


また何かにはめられた!


ここのところ殺しに来ないと思ってたら、精神攻撃に切り替えてきやがったな!


神様が虐めって、どうよ?


「なぁ~! この通りだよ!」


どの通りだよ……。


再びジョシューに掴まった俺が、断り続けていると厳ついおっさん達が寄ってきた。


「おい! お前なにしてるんだ?」


「え……あの……なんでもなんですよ……」


「はは~ん! さては何も知らない新人を騙そうとしてるんだな?」


騙す? 俺を?


「違うんですよ……。勘弁して下さいよ~……」


「おい! 兄ちゃん! こいつはファーストクラスのクズだ! 気を付けな」


ああ……。


クラス詐称か……。


俺にとってはファーストもセカンドもみんな雑魚なんだよ。


「旦那~!」


「なんだ? 文句あるのか? クズ!」


「え……いや……」


「はっ! この腰ぬけが!」


さっき殴ったやつもそうだけど、ギルドってのはガラが悪いのが多いな……。


「おい! ちゃんと本当の事を言ったんだろうな~!」


「そうだぞ! 自分の特技は口だけで、闘いはからっきしだってな!」


ネズミーは俯いて、何も言い返さない……。


さっきまでとキャラ違くない?


「おい! 返事はどうしたんだ? クズ!」


「勘弁……して下さいよ……」


拳を握るな……。


「おっ? こいつ俺達とやる気か?」


「やろうぜ! 裏の闘技室もあいてる事だしな!」


「えっ? いやっ! やりませんよ!」


「おら! こい! 今日は何時もの倍かわいがってやるよ!」


「ひ……」


ネズミーゲッシーが、胸元をつかまれて引き摺られて行く……。


いじめられっ子か……。


「ちょっと待て」


「ああ?」


「ネズ……ジョシュー。申込用紙書くのを、手伝ってくれ」


「おお? なんだガキ?」


「俺達とやるってのか?」


そっくりそのまま返してやるよ。


「えっ? あの……」


「そっ! そうだ! 今日は用事があったんだ! 運が良かったな、ガキ!」


俺が黒いオーラを纏った瞬間から、ゲッシーに絡んだいた男達が、訳の分からない事を言いながら席に戻って行った。


ギルドに所属しているだけあって、あんな雑魚供でも多少は相手の力量が分かるのかな?


手間がかからなくていい。


「レイ……」


早く手伝え、ネズミー。


『呼び方ぐらい統一せんのか?』


ジジィ起きたのか?


『ジョシューが、クズと呼ばれた辺りからな……。昔の自分を見たか?』


そんなんじゃねぇぇよ……。


さて……。


「いいのか? レイ? 俺はファースト……」


「今日からお前をゲッシーと呼ぶ! それが我慢できるなら……」


『ちょっ! お前!』


なんだよ? 呼び方統一しろって言ったの、ジジィだろ?


「ゲッシー? ……何の事だか分からんが、そんな事でいいのか?」


ああ……。


『こいつ頭が……』


残念なんですね。


「じゃあ、ゲッシー。俺はこの国の言葉が書けないんだ。用紙を書いてくれ」


「あ……ああ! 喜んで!」


そして、俺に変な下僕が出来た……。


『下僕……』


本日の、クレーム処理の時間は終了しました。


文句は、翌日八時以降でお願いします。


『……寝る』


はい! お休み。


「そう言えば、レイは何処に泊ってるんだ?」


「ああ、今から宿を探そうかと……」


「なんだ! それなら家に来いよ! 歓迎するぜ!」


「ん? ああ……」


手続きを済ませた俺は、ゲッシーの家へ向かった……。


****


「ここ?」


「ああ! ここだ!」


いやいや……。


何ここ?


俺達は、何かの施設の前に居た。


明らかに民家ではない……。


ジョシューについて、その施設へ入ると……。


「お帰り~!」


「ジョシュー兄ちゃんお帰り!」


「兄ちゃんだ~!」


大勢のガキ共が、ゲッシーに抱きついてきた。


「おおっ! お前ら! 変わりはなかったか?」


ゲッシーはガキ共を抱えあがたりしながら、あやしてる。


「へへっ……。悪いな。ここが……この孤児院が俺の家なんだ」


調子がいいやつだと思ってたけど、もしかして苦労してる感じ?


「あっ! 兄さん! お帰り!」


「おう!」


「……その方は?」


「こいつはレイだ! 今日泊まっていくからな!」


「うふふっ! 分かったわ!」


大きな寸胴を抱えた素朴な女性が、食堂と書かれた部屋へ入って行った。


中の下ってところか。


はいはい。


ストライクゾーン内ですね。


ちょっとだけやる気が出てきた。


****


ジョシューについて俺は食堂に向かい、食事を取る事になった。


五十人もの大人数で……。


う~ん……。


初めての経験だろうか?


「は~い! いただきます!」


「いただきま~す!」


ガキ共が大声で……五月蝿い……。


「驚いたか?」


「まぁ……。多少は」


「あんまりここの事は言わないようにしてるんだが、お前にならいいと思ってな」


「まぁ、ギルドの奴らはガラが悪いからな……」


「そうなんだよ! 見ての通り、嫁入り前の妹達が五人もいるからな!」


ゲッシーは赤ん坊のころに、この孤児院前に捨てられていたそうだ。


他の子供達もほとんどが親のいない子や、親に育児放棄されたらしい。


去年孤児院の責任者だった院長さんが入院してからは、成人している十人で働いてここを支えているそうだ。


まだ学生でも働ける奴は働く……。


それであんなに俺に食い下がったのか……。


「で! レイは何処の出身だ? 若いよな? 親御さんは元気にしてるのか?」


「あ……、俺はレーム大陸ってところから来たんだ。親はガキの頃にモンスターに殺されたよ。二人とも」


んんっ!?


一部のガキ以外がこっちを見ている。


いやいや! 今回はお前らも同じようなもんじゃんか!


「もう、昔の事だから何の問題もないんだぞ!」


「悪いな……」


しまった。つい、雰囲気にのまれて素で喋っちまった。


「だから、問題ない! 俺はそれを気にしてないんだよ!」


俺の返事に、皆が食事を再開する。


「よかったら、ここを家だと思ってくつろいで下さい! ねっ!」


「あ……ああっ!」


「そうね! 家族が増えたわ!」


いやいや、勝手に家族に迎えるな。


俺はその事全く気にしてないんだから……。


ん?


ん~……。


合格!


五人の女性全員が、ストライクゾーン内だ!


それも上の中もいる!


化粧すれば上の上になるんじゃね?


俺……本当に家族になろうかな……。


テンションが上がってまいりました!


「聞いてるか?」


ああ?


「お前は本当にクールだな~」


そう言うお前は、見れば見るほどげっ歯類だな。


柱とかかじるんじゃね~の?


「そんなんだと彼女できね~ぞ?」


ははっ……。


殺しますよ? げっ歯類?


「もう! お兄ちゃん! 失礼よ! 今日会ったばかりなんでしょ?」


「ああ! 悪い! いつもの癖で……」


別れ際に、その唇に収まりきらない前歯を切りそろえてあげよう! 魔剣でな!


「ほら、兄さんが変な事言うからレイさん怒ってるよ?」


「悪いって! お前顔はいいから彼女できるって! なっ?」


顔はってなんだ? はって?


お前が俺の何を知ってるってんだ!


「別にかまわない……」


ここで暴れたら、それこそ器が小さいと思われるじゃんか!


「悪いな!」


悪いわ!


「ねえ! 兄さん……」


「んっ? ああ! レイ!」


なんだ? ゲッシー?


いちいち声が大きいぞ?


「俺の弟妹を紹介するぜ!」


「駄目よ。ジョシュー兄! 食事の後に!」


「そうか?」


「いいじゃない! 今からでも!」


「駄目! 後でちゃんとした方がいいわよ!」


大人の女性陣が言い争いを始め、男性陣が顔を引く釣らせている。


「兄ちゃん……。なんか妹達が色めき立ってる……」


「ああ……。予想以上だ」


なんだろう……。この雰囲気は?


なんだか暖かいな。


「おっ! レイもそんな顔できるんじゃないか!」


俺は気が使いない間に、ほほ笑んでいたいようだ。


口論をしていた女性陣が、顔を赤らめてる。


恥ずかしいならやらなきゃいいのに。


そこから、自己紹介をお互いにした。


五十人の名前なんて覚えられんぞ……。


成人してるやつらだけでいいか……。


でも、俺にはその十人を覚えるのも、重労働だな……。


****


銭湯のような大きい風呂に入った俺は、部屋に案内され、寝ることになった……。


「ぐおおおぉぉぉ……」


ええ~!


ちょ!


うるさっ!


ゲッシーのいびき、うるさっ!


他の奴らは……。


慣れてるのか……。


お前らよくても、俺眠れね~よ!


ホテルに泊るべきだった~!


最悪だ!


もぉ~……。


やってらんね~……。

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