一話
「じゃあ、コーラを……」
「はいよ」
場末の酒場に立ち寄った俺は、財布の中身を確認する。
う~ん……。
予想通り、路銀がつきそうだな。
『そうじゃな』
そろそろ働くか……。
面倒くさいなぁ……。
『あれじゃな』
なに?
『駄目人間のセリフじゃな』
誰が! 駄目人間だ!
まだリリス達に追いつけないから、ギルドかなんかで働くんだろうが!
行きずりの傭兵としてギルドで働くって、結構面倒なんだぞ!
別に働きたくないわけじゃないだろうが!
『……はいはい』
なんだよ! その態度は!
殺すぞクソジジィ!
『……で、今回はどれくらい働くんじゃ?』
なっ! ついに無視のアビリティを覚えやがった!
死ね! クソジジィ!
『お前が死ね……。どうするんじゃ?』
ええい……。
今回は三カ月間ぐらい旅ができる額が、欲しいよな。
前回くらいだと、一カ月もたなかったし……。
『そうじゃのぉ。まだまだ先は長そうじゃしな……』
は~ああああぁぁ……。
カーラ達とはぐれて、早半年……。
どうなってんの? これ!
仲間達と冒険の旅でもなんでも無いよね!
完全な一人旅じゃないか!
それも、冒険の目的が仲間探しになってるよ!
俺は何がしたいんだよ!
てか、何すればいいんだよ!
『まぁ、お前の運ではあと半年は堅いじゃろうなぁ』
ふっ…………ざけんなぁぁぁぁぁぁぁ!!
新年も誕生日も一人だったんだぞ!
なんだよこの状況は!
やってらんね~……。
てか、ジジィ……じゃなくて、クソジジィ。
『わざわざ改悪するな、クソガキ。なんじゃ?』
俺~……。
八歳以降、まともに誕生日祝われた事ない……。
普通、成人したお祝いとか……。
あっ……ちょ! ヤバイ……。
思い出したら、心の汗が染みだしてきそうだ。
『……わし、お前の誕生日知らんぞ?』
同化してる魔剣に祝われて、何が嬉しいんだ!馬鹿か!
女の子達に囲まれて、お誕生日会やパーチーをしたい……。
『……こういう場合はせめてわしだけでもとは、思わんのか?』
誰が思うかボケ!
ああ……。
楽しかったなぁ、最後のお誕生会……。
リリーナお嬢様がまだ俺を嫌ってなくて……。
プレゼントに……。
庭で拾ってきた蝉の抜け殻……。
うぅぅん?
最悪だぁぁぁぁぁぁぁ!!
これよく考えると最悪だぁぁぁぁぁぁ!
八歳とはいえ、蝉の抜け殻ってなんだよ!?
それも九歳からは、誕生日を二カ月勘違いしたメイド長からの、おめでとうって言葉だけだったよ!
言い出せなくて、毎年ありがとうって言ってたよ!
『……灰色の誕生日』
灰色どころか、どす黒いわ!
冬場のどぶ掃除に、雪かき、お嬢様のパーティー用の買い出し……。
誕生日にろくな思いでがないぞ! コンチクショォォォォォ!
『……不憫な』
やばいって! 目からなんか変な汁が出てきそうだよ!
もう、あの……。
俺の誕生日って、便所のスリッパよりもどうでもいいんじゃないの!?
『まぁ……その……あれじゃ……えぇぇと』
そんなに困るならフォローしようとすんな!
『……そうじゃ! メアリー達に会えば、祝ってくれるじゃろう!』
必死に導き出した答えがそれかよ!
だからそれだと、結局半年後じゃないか!
『えぇぇ……そうじゃ! 成人したし、酒でも飲んで……』
酒飲んで嫌な事、忘れろってか!?
そんな答えしか出せないのかよ!
俺は二度とお前を賢者とは認めん!
『しかし……』
しかしも、かかしもあるか!
はぁ~……。
****
「オラァ~! どうしたんだ! お前は本当に口だけだな!」
ああん?
喧嘩か?
五月蝿いなぁぁ……。
あ~……。
まあ、俺には関係ないな。
『お前は本当に女が困っておらんと、何もしようとせんな……』
前にも言ったが……。
世界の女(美人優遇)は俺の嫁! 男は全員首括れ! がモットーですから。
『腐っとる……』
男同士の喧嘩なんて知るか……。
んっ!?
俺は気配を読み、飲みかけのコーラをカウンターから持ち上げた。
負けてるっぽい方の男が、カウンターに派手にぶつかる。
弱いのに喧嘩なんかするからだ。
この酒場は、もともとギルドの情報を手に入れようと思って入った場所で、客層もガラが悪い。
その客達は喧嘩を止めるのではなく、見世物として喜んでいる連中ばかりだ。
店の店員まで何時もの事といった感じで、気にもしていない。
相手は二人で……。
『力量にもかなり差があるようじゃな……』
カウンターに吹っ飛ばされてきた男が、ボコボコにされて終りかな……。
「さあ! ジョシュー! どうするんだ?」
「俺達に謝るなら今のうちだぞ?」
「くっ!」
「今なら土下座で勘弁してやる! どうするんだ?」
「舐めるなよ! 俺には強い助っ人がいるんだぞ!」
「なにぃぃ!?」
「じゃあ、頼んだぞ!」
え~……。
「誰!?」
「なに言ってるんだよ! 早くあいつらやっつけてくれよぉぉ!」
はぁ~!?
俺!?
「仲間がいやがったのか!」
「はっ! ヤサ男じゃないか! 二対二でも負ける気がしね~な~!」
ええ~……。
馬鹿にされて腹立つ以前に、困惑してますよ?
俺が……。
「お前見ない顔だな! ジョシューに金で雇われたのか!?」
雇われてませんけど?
「どうした? 怖いのか腰ぬけ!」
怖くねぇぇよ、雑魚……。
てか、俺に意識を向けすぎだ。馬鹿。
さっきの男、裏口から逃げてったぞ?
仕方ないなぁ。
俺はカウンターにコップを置くと、立ち上がった。
「おっ! やる気になったか?」
「は~……。少し待ってろ……」
身構える二人にとりあえず断っておいた。
「へへへ……。悪く思うなよぉ……」
「俺を巻き込んだんだ。処理はしてもらうぞ」
「なっ! はぁ~?」
裏口から一人で逃げだした、ジョシューと呼ばれる男の先回りをした俺。
男を掴まえ、腕の関節をきめて店内へ戻った。
「放せ! くっそ! 放せよ!」
五月蝿い……。
「はっ? あれ?」
「どうなってるんだ?」
俺が少し真面目に動いたので、相手には突然姿が消えた様に見えたのだろう。
何故かその俺が逃げた男と裏口から戻って来た事に、けんか相手達が困惑している。
俺は掴まえた男を床に投げ捨てて、席に戻った。
「なんだ? 仲間じゃないのか!?」
違いますよ~っと。
一応、口で言っとくか……。
「はっ! 腰ぬけが! 仲間を裏切ってまで助かりたいか! 女の腐ったようなやつだ!」
男がそう言うと、酒場全体から笑いがおこる。
ああ~……。
喧嘩売っちゃいます? この俺に?
因みに、女性は腐ったらただの死体ですよ? クソ雑魚が!
「俺はそう言う奴が許せん達なんでな! ジョシューは土下座で勘弁してやるが、お前は覚悟するんだな!」
さぁぁぁてと……。
『殺すでないぞ……』
はいはい。
「おっ! やっとその気……」
俺の拳が腹に突き刺さった男が、その場に倒れ込む……。
気絶したかな?
文句言えないな……。
まぁ、もう一匹いるか……。
「はっ? な……なにしやがった!」
見て分からん奴に、言っても分からんと思うんだがな……。
「殴ったんだよ……」
「おっ……お前魔道士か! 転移の魔法だな!」
違うよ、馬鹿。
「じゃあ、ゆっくり動いてやるからかかってこいよ……」
「舐めやがって!」
はいはい、舐めてますよ~っと。
そおい!
俺の拳を胸に食らった男は、その場で転げまわる。
死なないように胸にしたけど……。
骨折れちゃった……。
『お前の手加減は、手加減になっとらん!』
だって!
『だってもなにもあるか!』
そんなに怒るなよぉぉ。
何時もの事じゃんかぁぁ……。
って、おお!
『……想像していたよりは、強かったようじゃな』
さっき気絶させたと思った男が、起き上がってきた。
俺達の想像よりは、体鍛えてたんだねぇ。
気は失ってなかったみたいだ。
「あのさぁ……。俺、本当に関係ない人なんですよぉ。分かってくれる?」
起き上がった男は真っ青な顔で、幾度も首を縦に振った。
その男は転げまわる男を抱えると、酒場から逃げるように出て行った。
そんなに必死に逃げる事ないのに……。
『逃げるじゃろう、普通……』
ふ~……。
****
静まりかえった酒場に、変な空気が流れている。
もういいや……。
俺は元の席に戻り、コーラを一口飲む。
あれ?
店の人が、俺を避けてませんか!?
ちょ! こっち来いよ!
ギルドの事、聞きたいんだって!
何もしないから!
「兄ちゃん! あんたすげーな!」
ああ?
俺の隣に、さっき俺を巻き込んだ男が座っていた。
金髪の長い髪を縛った……出っ歯……。
「どっかのギルドの人かい?」
そう言うあなたは、どこのげっ歯類ですか?
『ひどいな、お前』
どう見てもあの前歯は、ねずみかリスだ!
「なんだ? さっきのこと怒ってるのか? それとも、クールが売りってかい?」
いや、お前の前歯が気になって観察してるんだよ、ゲッシー。
『人の、身体的マイナス点をあだ名にするのはよくないぞ?』
じゃあ、ネズミー……。
『同じじゃろうが……』
リッシー?
『もぉ、ええわい。それよりも、お前が無言で見つめているせいで、焦り始めておるぞ』
「悪かったって! 勘弁してくれよ~!」
「わかった……」
「ふ~……。兄ちゃん、厳ついわけでもないのに迫力あるな~」
お前の前歯の方が、大迫力だよ。
『……止めても無駄じゃな。わしは眠るぞ?』
無駄です。お休み。
「はぁ~……。本当に無口なんだな?」
「まあ……」
「俺はジョシューってんだ! 宜しくな!」
「……レイだ」
「おお! 宜しくな、レイ!」
何回宜しくするんだよ……。
「お前凄いな~。あの二人はあれでもサードクラスなんだぜ~」
見た目通り、雑魚じゃん。
因みにこの世界のギルドランクは、ファースト~フィフスであらわされる。
サードクラスは、俺のいたレーム大陸で言うAクラス下位~Bクラス中位までだ。
フォースがAクラス中位~上位だが、こっちにはフィフスがある。
化け物並みの戦闘力や、大きな功績をあげた奴がなれる特別なクラスだ。
この大陸でのクラス認定は共通なので、前回のギルドで取った俺のフォースクラス免許が使えるはず。
戦闘力は多分フィフス並みだと思うけど、手続きが面倒そうだったので、フォースで止めている。
てか、フォースでも十分稼げるしね。
「聞いてるか? 俺はよ~、もうすぐセカンドからサードへ昇格予定なんだが……」
セカンド……雑魚中の雑魚だな。
「どうだいレイ! 俺と組まないか?」
「断る」
「ちょっと待ってくれよ~! 少しは考えてくれよ~!」
五月蝿い奴だな。
考えるまでもないだろうが……。
俺は、仕方なく免許を出した。
「お前! これ! フォース!?」
俺はお前と組んでも得しないんだよ。
てか、誰と組んでも得なんてない! 依頼料が減るだけだ!
「……頼む! 一生のお願いだ! この通り!」
ええ~……。
そんな必死に頭下げても……。
てか、一生のお願いって何だよ?
俺はお前と長くは付き合わないぞ?
「な~、頼むよ。俺は養わないといけない家族がいるんだよ。なぁ~って!」
しつこいな……。
「お前と組んで、俺に何の得があるんだ?」
「お! 考えてくれるのか!?」
違う!
断りの言葉に聞こえないのかよ!
それからジョ……ゲッシーは自分と組むと、ギルドでのコネがありいい仕事を回してもらえるだの、流れ者の俺より土地勘があり有利だの色々並べてくれた。
一つも魅力的なものがない……。
「どうだ?」
「断る」
「早いな! なんでだよ!」
「俺は、早く金を貯めて旅に出ないといけないんだよ」
「そんな意地悪言わないでくれよ~。なっ!」
何が、なっ! っだ!
意地悪でもなんでもないだろうが!
「頼むよ! なっ!」
なっ! なんて言われて、誰がうん! なんて言うか、馬鹿!
****
その後……。
二時間隣で拝み倒された。
これじゃあ、ギルドの話を聞くどころじゃない。
こいつに何か聞けば仲間にしろって、余計に面倒になる事間違いなし……。
うぜぇ……。
こいつ超うぜぇよ!
「おっ! 何処に行くんだ? 話は終わってないぞ?」
俺は、カウンターに料金を置くと、店を出た。
予想通りついてくるよ……。
「ついてくるな」
「だから~、お前がうんって言ってくれれば、面倒は無いんだって!」
どんな脅しだよ!
俺はゲッシーの視線が外れた瞬間、屋根へと跳び上がった。
これ以上付き合いきれん。
今日の宿も取ってないってのに。
さて……。
ギルドは何処かな……。
う~ん……。
あっ! あれだ!
確か前の町でも、あれがギルドの看板だった!
この国の文字は読めないが、きっと間違いないはずだ!
よっと!
俺は屋根から飛び降り、ギルドだと思われる建物の中に入った。
****
間違いないっぽいな!
さて!
手続きを……。
「待ってたぜ~」
うわああ!
ゲッシー!
何で!?
「お前は知らないだろうけど、この町にギルドは一つなんだよ。必ず来ると思ってたぜ~」
はめられた!
また何かにはめられた!
ここのところ殺しに来ないと思ってたら、精神攻撃に切り替えてきやがったな!
神様が虐めって、どうよ?
「なぁ~! この通りだよ!」
どの通りだよ……。
再びジョシューに掴まった俺が、断り続けていると厳ついおっさん達が寄ってきた。
「おい! お前なにしてるんだ?」
「え……あの……なんでもなんですよ……」
「はは~ん! さては何も知らない新人を騙そうとしてるんだな?」
騙す? 俺を?
「違うんですよ……。勘弁して下さいよ~……」
「おい! 兄ちゃん! こいつはファーストクラスのクズだ! 気を付けな」
ああ……。
クラス詐称か……。
俺にとってはファーストもセカンドもみんな雑魚なんだよ。
「旦那~!」
「なんだ? 文句あるのか? クズ!」
「え……いや……」
「はっ! この腰ぬけが!」
さっき殴ったやつもそうだけど、ギルドってのはガラが悪いのが多いな……。
「おい! ちゃんと本当の事を言ったんだろうな~!」
「そうだぞ! 自分の特技は口だけで、闘いはからっきしだってな!」
ネズミーは俯いて、何も言い返さない……。
さっきまでとキャラ違くない?
「おい! 返事はどうしたんだ? クズ!」
「勘弁……して下さいよ……」
拳を握るな……。
「おっ? こいつ俺達とやる気か?」
「やろうぜ! 裏の闘技室もあいてる事だしな!」
「えっ? いやっ! やりませんよ!」
「おら! こい! 今日は何時もの倍かわいがってやるよ!」
「ひ……」
ネズミーゲッシーが、胸元をつかまれて引き摺られて行く……。
いじめられっ子か……。
「ちょっと待て」
「ああ?」
「ネズ……ジョシュー。申込用紙書くのを、手伝ってくれ」
「おお? なんだガキ?」
「俺達とやるってのか?」
そっくりそのまま返してやるよ。
「えっ? あの……」
「そっ! そうだ! 今日は用事があったんだ! 運が良かったな、ガキ!」
俺が黒いオーラを纏った瞬間から、ゲッシーに絡んだいた男達が、訳の分からない事を言いながら席に戻って行った。
ギルドに所属しているだけあって、あんな雑魚供でも多少は相手の力量が分かるのかな?
手間がかからなくていい。
「レイ……」
早く手伝え、ネズミー。
『呼び方ぐらい統一せんのか?』
ジジィ起きたのか?
『ジョシューが、クズと呼ばれた辺りからな……。昔の自分を見たか?』
そんなんじゃねぇぇよ……。
さて……。
「いいのか? レイ? 俺はファースト……」
「今日からお前をゲッシーと呼ぶ! それが我慢できるなら……」
『ちょっ! お前!』
なんだよ? 呼び方統一しろって言ったの、ジジィだろ?
「ゲッシー? ……何の事だか分からんが、そんな事でいいのか?」
ああ……。
『こいつ頭が……』
残念なんですね。
「じゃあ、ゲッシー。俺はこの国の言葉が書けないんだ。用紙を書いてくれ」
「あ……ああ! 喜んで!」
そして、俺に変な下僕が出来た……。
『下僕……』
本日の、クレーム処理の時間は終了しました。
文句は、翌日八時以降でお願いします。
『……寝る』
はい! お休み。
「そう言えば、レイは何処に泊ってるんだ?」
「ああ、今から宿を探そうかと……」
「なんだ! それなら家に来いよ! 歓迎するぜ!」
「ん? ああ……」
手続きを済ませた俺は、ゲッシーの家へ向かった……。
****
「ここ?」
「ああ! ここだ!」
いやいや……。
何ここ?
俺達は、何かの施設の前に居た。
明らかに民家ではない……。
ジョシューについて、その施設へ入ると……。
「お帰り~!」
「ジョシュー兄ちゃんお帰り!」
「兄ちゃんだ~!」
大勢のガキ共が、ゲッシーに抱きついてきた。
「おおっ! お前ら! 変わりはなかったか?」
ゲッシーはガキ共を抱えあがたりしながら、あやしてる。
「へへっ……。悪いな。ここが……この孤児院が俺の家なんだ」
調子がいいやつだと思ってたけど、もしかして苦労してる感じ?
「あっ! 兄さん! お帰り!」
「おう!」
「……その方は?」
「こいつはレイだ! 今日泊まっていくからな!」
「うふふっ! 分かったわ!」
大きな寸胴を抱えた素朴な女性が、食堂と書かれた部屋へ入って行った。
中の下ってところか。
はいはい。
ストライクゾーン内ですね。
ちょっとだけやる気が出てきた。
****
ジョシューについて俺は食堂に向かい、食事を取る事になった。
五十人もの大人数で……。
う~ん……。
初めての経験だろうか?
「は~い! いただきます!」
「いただきま~す!」
ガキ共が大声で……五月蝿い……。
「驚いたか?」
「まぁ……。多少は」
「あんまりここの事は言わないようにしてるんだが、お前にならいいと思ってな」
「まぁ、ギルドの奴らはガラが悪いからな……」
「そうなんだよ! 見ての通り、嫁入り前の妹達が五人もいるからな!」
ゲッシーは赤ん坊のころに、この孤児院前に捨てられていたそうだ。
他の子供達もほとんどが親のいない子や、親に育児放棄されたらしい。
去年孤児院の責任者だった院長さんが入院してからは、成人している十人で働いてここを支えているそうだ。
まだ学生でも働ける奴は働く……。
それであんなに俺に食い下がったのか……。
「で! レイは何処の出身だ? 若いよな? 親御さんは元気にしてるのか?」
「あ……、俺はレーム大陸ってところから来たんだ。親はガキの頃にモンスターに殺されたよ。二人とも」
んんっ!?
一部のガキ以外がこっちを見ている。
いやいや! 今回はお前らも同じようなもんじゃんか!
「もう、昔の事だから何の問題もないんだぞ!」
「悪いな……」
しまった。つい、雰囲気にのまれて素で喋っちまった。
「だから、問題ない! 俺はそれを気にしてないんだよ!」
俺の返事に、皆が食事を再開する。
「よかったら、ここを家だと思ってくつろいで下さい! ねっ!」
「あ……ああっ!」
「そうね! 家族が増えたわ!」
いやいや、勝手に家族に迎えるな。
俺はその事全く気にしてないんだから……。
ん?
ん~……。
合格!
五人の女性全員が、ストライクゾーン内だ!
それも上の中もいる!
化粧すれば上の上になるんじゃね?
俺……本当に家族になろうかな……。
テンションが上がってまいりました!
「聞いてるか?」
ああ?
「お前は本当にクールだな~」
そう言うお前は、見れば見るほどげっ歯類だな。
柱とかかじるんじゃね~の?
「そんなんだと彼女できね~ぞ?」
ははっ……。
殺しますよ? げっ歯類?
「もう! お兄ちゃん! 失礼よ! 今日会ったばかりなんでしょ?」
「ああ! 悪い! いつもの癖で……」
別れ際に、その唇に収まりきらない前歯を切りそろえてあげよう! 魔剣でな!
「ほら、兄さんが変な事言うからレイさん怒ってるよ?」
「悪いって! お前顔はいいから彼女できるって! なっ?」
顔はってなんだ? はって?
お前が俺の何を知ってるってんだ!
「別にかまわない……」
ここで暴れたら、それこそ器が小さいと思われるじゃんか!
「悪いな!」
悪いわ!
「ねえ! 兄さん……」
「んっ? ああ! レイ!」
なんだ? ゲッシー?
いちいち声が大きいぞ?
「俺の弟妹を紹介するぜ!」
「駄目よ。ジョシュー兄! 食事の後に!」
「そうか?」
「いいじゃない! 今からでも!」
「駄目! 後でちゃんとした方がいいわよ!」
大人の女性陣が言い争いを始め、男性陣が顔を引く釣らせている。
「兄ちゃん……。なんか妹達が色めき立ってる……」
「ああ……。予想以上だ」
なんだろう……。この雰囲気は?
なんだか暖かいな。
「おっ! レイもそんな顔できるんじゃないか!」
俺は気が使いない間に、ほほ笑んでいたいようだ。
口論をしていた女性陣が、顔を赤らめてる。
恥ずかしいならやらなきゃいいのに。
そこから、自己紹介をお互いにした。
五十人の名前なんて覚えられんぞ……。
成人してるやつらだけでいいか……。
でも、俺にはその十人を覚えるのも、重労働だな……。
****
銭湯のような大きい風呂に入った俺は、部屋に案内され、寝ることになった……。
「ぐおおおぉぉぉ……」
ええ~!
ちょ!
うるさっ!
ゲッシーのいびき、うるさっ!
他の奴らは……。
慣れてるのか……。
お前らよくても、俺眠れね~よ!
ホテルに泊るべきだった~!
最悪だ!
もぉ~……。
やってらんね~……。




