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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第四章:新大陸の定め編
51/106

十一話

どっかオリビアと二人で、平和に暮らせる場所探そうかな。


その方が賢いよね?


故郷には二度と帰れないけど、家族居ないし問題ないよね?


うん!


そうしよう!


死にたくない!


カーラ達に会えば、百パーセント殺される!


シャワーを浴びながら、俺はそう結論を出した。


****


支度を済ませ、部屋を出ていこうとしたオリビアが振り返る。


「ねえ、レイ?」


「ん?」


「何で二つも年下の貴方が、そんなに落ち着いてるの?」


「苦労したからかな?」


嘘ですけどね。


心の中は、全く落ち着いてませんけどね。


「ふふっ。また、後で来てもいい?」


「待ってるよ……」


何でしょうね~。


幸せすぎる。


本当にこの瞬間は、最高に幸せだったんだ……。


人間ってのは、一度幸せを感じて、それを奪われた時絶望するらしい……。


なんであんな事になったんだろう……。


やってらんね~……。


****


若干の不安を残しつつも、俺は何時も通り屋敷の庭を掃除する。


しかし……。


あの馬鹿のアジトには、どうすれば行けるんだろう?


どう思うジジィ?


『さて……』


なんか敵を追跡する魔法を、都合よく持ってるとかは……。


『ないわ……』


ですよねぇ……。


魔剣の能力って、身体能力と回復力の向上……。


後は魔力で切れ味が凄いってだけだよな?


『なんじゃ? 不満を言うつもりか?』


いや……。


そう考えると、やっぱオリハルコンってズル過ぎる!


なんでそんな物持った奴が、いっぱいでてくるの!?


ジジィを使えるだけで、人間としてはびっくりするくらい強いはずなのに……。


『確かに一般人が持っても、Cランク並みの戦闘力は引き出せるからのぉ』


なんで、オリハルコンは雑魚が持ってもAランクになるの!?


読んで字のごとく! 桁がマジで違うじゃんか!


ズリィィよぉぉ!


俺もオリハルコン欲しい!


欲~し~いぃぃぃ!


買ってよ! ジジィ!


ねぇ~ってば~!


『黙れ! クソガキ! 売っとるわけないじゃろうが!』


知ってるわ! 馬鹿!


『なっ! ふぅ……。焦る気持ちも分かるが、どうしようもあるまい』


俺の運命は最悪になる事が多いけど、今回は洒落じゃすまないからな……。


『そうじゃな……』


でも、あいつ何で馬に乗って逃げたんだ?


突然気配が現れたし……。


転移の魔法じゃないのか?


訳分かんないんだけど……。


『オリハルコンの能力なのか、彼奴自身の能力なのかも判断できん』


う~ん……。


くそ! やっぱり前回殺しとけばな~。


『仕方があるまい。追いかける余力はないし、あのまま戦闘を続けても、勝てる見込みは少なかったんじゃ』


分かってるんだけどね~……。


あ~あ……。


****


俺は庭の掃除を終わらせ、掃除道具を納屋にしまいその場で考え込んでいた。


うおっ!


俺の頬にいきなり何かが、触れた。


焦った俺は魔剣を呼び出し背後に振り抜……いちゃ! 駄目ぇぇぇぇぇ!


セ……セーフ……。


俺の背後に居たのは、目を大きく見開いて固まったオリビアだった。


危うく恋人殺しかけた……。


オリビアの首筋に触れる寸前の魔剣を戻した。


『修行不足じゃな』


やばかった~……。


「ごめん……。反射的に……」


「い……いいの。私こそ、ごめんね」


今にも泣きそうなのに、無理に笑ってるよ……。


やっちゃった……。


「二度とお前には剣を向けない。ごめんな……」


「……レイの人生には、こういう力が必要だったんだよね。私はレイの事、否定したりしないよ」


オリビアには、レーム大陸でのミルフォスとの戦闘の事も全部喋っている。


彼女はまた、反則的な笑顔を俺に向けてくれる。


「それに……。誰かに殺されるなら、私はレイがいい……」


なんてこと言うんだ! このバ……可愛い俺の恋人は……。


『激甘じゃな……』


ほっといて下さい!


「なら……。俺が死ぬまで、生きてくれるってことだよな」


「そ……そうなるのかな?」


「ああ……。俺はお前を殺さないし、誰にも負けるつもりはないからな」


「ふっ……ふふふっ」


頬を赤くして笑ってくれてる……。


か~わいいぃぃぃぃぃぃ!


駄目だ……。


今の俺、多分馬鹿になってる。


「それで……嫌じゃなかったら、お昼一緒に食べない?」


俺のせいで地面に落ちたバスケットをオリビアが拾う。


もうそんな時間か。


「喜んで」


二人で裏庭にあるベンチに座り、お昼を……。


ええ~……。


「これは何時も通りのお昼?」


「えっ!? 変かな?」


「すぐに戻るから待っててくれ」


俺は急いで屋敷の台所に向かう。


****


使用人仲間から同僚と言うよりは、食客扱いされている俺が、台所に入る。


すると、そこに居た使用人仲間達は、全員が頭を下げる。


昨日まではそれがさみしかったが、今はそんなのどうでもいい。


とっとと用事を済ませよう。


「執事さん。悪いが台所を使わせてもらうよ? あ、後食材を貰うから」


「はい。ご自由に」


俺、一応料理得意だから。


昨日の夕食で残ったローストビーフを、マスタードマヨネーズ+野菜と一緒に薄切りの食パンに挟む。


サンドイッチを切りそろえた俺は、ミネラルウォーターと一緒に裏庭に持って戻る。


虐められてるんだろうけど、お昼がコッペパンだけって……。


そりゃあ、無駄な贅肉付いてないよ。


太りようがないもの。


これは、晩飯も一緒に取った方がいいな……。


『そうじゃな。お前のように、きちんとした食事を用意されていないじゃろうからな』


食えない苦しみは、俺もよく知ってる(特に遭難中に)から、せめて普通の食事を食べて貰いたい。


『お前は意外に尽くす方じゃなぁ。そのうち尻に敷かれてしまうぞ?』


かまいません! 幸せだから!


****


「お待たせ。これ食べよう」


「えっ!? 私も……食べていいの?」


「食べてくれないと、俺も食べられないんだけど?」


いちいち泣きそうにならないで……。


なんかこっちまで切なくなるから!


「……で、昨日の馬鹿を倒せばお嬢様達も安全だから、俺と行こう」


「いいの?」


「嫌がっても連れて行く」


「そんな! 嫌じゃないよ……」


「どっか平和な町で、二人で暮らそうぜ」


「レーム大陸? には帰らないの?」


帰ったら殺されるからね……。


「ああ。家族もいないし、ゆっくり暮らせるとこ探そうぜ」


「うん……」


「仕事は……。ギルドでも入って稼いでくるよ。二人で裕福に暮らせるくらいの自信はあるからさ!」


「うん……」


「お前は何かしたい事ある?」


「う~ん……。子供を……」


「子供?」


何!? 子供が欲しいの?


俺めっちゃ頑張るよ!


二十人くらい頑張るよ!


「私みたいに不幸な子供を助けたい……」


やべっ!


口に出さなくて良かった~。


「孤児院か……。養子を取るとか?」


「私なんかで出来るか自信ないけど……」


「お前なら……お前だから出来ると思うぞ」


「そっ! そう!?」


「ああ、俺が全力で応援するよ。俺達の子供は何十人になるんだろうな?」


オリビアが笑顔になってくれた……。


うん! やっぱり笑顔が一番いいな。


外で食べるのは少し寒いはずなのに、心の中からポカポカと暖かさを感じる。


本当に……。


本当に至福の時間……。


真っ暗だった俺の心に、光が差し込んだ瞬間だった……。


本当に時間が止まればいいのに……。


ただ、そういう時は時間が早く過ぎてしまうものだ。


屋敷の中へ帰っていくオリビアを見送り、俺も仕事に戻る。


『間違いないのぉ……』


ああ……。


予想はしてたけどね。


オリビアも普通の人より、魔力がかなり強い。


ビクトリアお嬢様より強いんじゃないか?


『先程のように気を抜くでないぞ』


ああ……。


さっきは浮足立ってた。


今から気を引き締める。


屋敷に侵入する奴は、蟻の子一匹見逃さない!


『うむ……』


それは、それとして庭木の剪定だ!


『お前の下働き根性には、たまに頭が下がるのぉ……』


じゃあ、下げとけ!


『もう、ええわい。わしは寝るぞ?』


了解。


なんだかんだで、俺ってこういう普通の仕事に向いてるんじゃね?


ギルドでお金貯めて、家と土地買ったら農業とかも悪くないよね。


****


二時間ほど使用人として作業をしていると、屋敷に来訪者。


裏門ではあるが、人間の気配だけだ。


気にするほどの事もないか……。


作業に戻ろうと思ったが、胸騒ぎがした。


屋敷の使用人は外には行ってないはずだし、何かの業者だとしても使用人がいないのに中に入るのは変だ。


俺が、気を抜いていい事は無い。


気配を消して、俺も屋敷の中へ入る。


何処に行くんだ?


二階?


「お前も俺の事、嫌いってわけじゃなかったんだろ?」


「嫌……」


「俺はお前の事を、本当に気に入ってたんだ」


「こっちに来ないで……」


「なっ? 俺と行こうぜ?」


「近寄らないで……」


「いい思いさせてやるって言ってんだろうが!」


「いやぁぁぁぁぁぁ!!」


気配を消して階段を上っていた俺は、悲鳴を聞いた瞬間最速でその場へ飛び込んだ。


俺が目にしたものは……。


「あ……あああ……もう、私はレイ以外に触られたくないのよ……」


「こ……の……クソアマ」


手を真っ赤に染めて、その場にへたり込んだオリビア。


そして、胸に裁ちバサミが刺さったお漏らし男。


ジジィ! 起きろ!


俺は、急いで魔剣を呼び出し男の首を斬り捨てる。


「お前は俺の視界に入った」


首だけで転がる男にそれだけ言うと、震えているオリビアを抱きしめる。


人間は首だけでもしばらくは死なないらしいから、聞こえたはずだ。


「あ……ああ……私」


「大丈夫。大丈夫だ。殺したのは俺だ。お前に罪は何もない」


放心状態で涙を流すオリビアを、俺はただ抱きしめた。


くそ!


もっと用心するべきだった!


オリビアはこれで自分を責めるかもしれない!


『ケアはお前の仕事じゃ』


ジジィ……。


人を殺した俺に何も言わないのか?


『お前を責められる者など、この世にはおらん……』


昨日ジジィに文句言われてでもいいから、殺しておくべきだった。


その騒ぎに屋敷の使用人だけでなく、お嬢様達も様子をうかがいに来た。


集まった全員に俺が言ったのは……。


なんとも薄っぺらい言葉だった。


俺が男を殺した。


罪にとうなら、この国全ての軍隊を敵に回しても、俺は負けないと言う事と……。


今後オリビアに手を出せば、誰であろうと同じ目にあわせると言う事。


全く……。


俺ってやつは頭が悪い。


****


オリビアを彼女の部屋に運び、落ち着かせた。


そして、部屋を中から施錠させて仕事に戻った。


鍵は自分が持っているから大丈夫と、マスターキーの存在を失念していた。


本当に俺はどうしようもないほど大馬鹿だ……。


お嬢様達とオリビアは他の人間よりも魔力が強いので、識別しやすかった。


なので、仕事を続けながら屋敷のどこにいるかを常に把握していた。


そして、数時間後正面玄関側の剪定を終えた俺は、道具を片づける。


「んっ? なんだ?」


お嬢様達がオリビアのいる俺の部屋に向かっている?


鍵をしているから大丈夫だろうが……。


とりあえず、行っとくか?


はあ!?


俺は背後にいきなり現れた気配に振り向く。


そこには馬に乗り、片目を包帯で巻いた昨日の馬鹿がいた。


やっぱり転移か!?


「会いたかったよ! 魔剣士くん! この目の借りを返させて貰うよ~!」


魔剣を呼び出しかまえる俺に、馬鹿が叫んでいる。


その眼には狂気が宿っている。


目を潰されたのが、よほどムカついているみたいだ。


「認めよう! 君は強い! だから、考えたんだ! 痛みで眠る事も出来なかったしね!」


口上なんて聞いてるだけ無駄だな。


俺が跳びかかろうとした気配は、馬鹿に読まれていた。


俺と馬鹿の間に、真っ白い魔方陣が複数出現した。


なんだこれ!?


『油断するでないぞ!』


分かってる!


その魔方陣から昆虫の化け物たちが現れた。


まるでトンネルでも抜けてくるかのように、化け物達が魔方陣から歩み出てくる。


何匹いるんだよ……。


俺は、複数の化け物達に取り囲まれた。


「君を確実に殺す方法を考えてきたんだ!」


こいつ!


****


俺がその馬鹿と対峙している頃、俺の部屋にマスターキーを使いお嬢様達が侵入していた。


そして、罪悪感から部屋の隅で膝を抱えて座るオリビアを、ビクトリアお嬢様が掴みあげる。


そして、全力の平手打ちをする。


さらに倒れ込んでいるオリビアの顔を、蹴りつける。


「この薄汚い盗人! あんたはいったい何をしてくれてんのよ!」


「……お姉さま……」


ビクトリアお嬢様は、倒れこんでいるオリビアに、さらに平手をくらわせる。


「あんたなんか妹じゃないのよ! 気持ち悪い! さあ! 言いなさい! お前は何をしたの!」


「あ……あの……」


「イライラするのよ! このクズが!」


ビクトリアお嬢様は、倒れたままのオリビアを踏みつける。


何回も何回も執拗に……。


「お前は生きてる価値もないクズなのよ! そのクズが! 何してくれてるのよ!」


オリビアはただ身体を丸めてそれに耐える。


五歳から続く悪夢の時間……。


ビクトリアお嬢……ビクトリアのこの声を聞くと、身体が委縮して動けなくなる。


「ビクトリア!」


ソフィアの声で、ビクトリアが踏みつける事をやめる。


ソフィアは穏やかな顔をしているが、もちろん機嫌がいいわけではない。


オリビアに歩み寄り、髪をつかみ、顔を無理に上げさせた。


オリビアは、ただ震えてされるがままになっている。


「ねえ、クズ? 私は知っているのよ? あなたと傭兵達との事……」


「ああ……あう!」


ソフィアは、オリビアの髪をさらに強く握りしめ、言葉を続ける。


「あなたみたいな薄汚れたクズは、レイにふさわしくないと思わないの?」


「レ……レイは……ひぐっ!」


ソフィアはそのまま平手をみまう。


「あなたが彼を呼び捨てにしていいの? よくないわよねぇぇ!」


そのまま往復で平手を受けたオリビアの口からは、血が流れ出る。


そして、ソフィアは床に勢いよくオリビアの顔をぶつける。


交代するようにビクトリアが、顔を押さえるオリビアを、再び踏みつけ始める。


「今すぐに私達の……レイの前から消えなさい! いいわね!」


「そうですね~。この屋敷からもでていきなさい! このクズ!」


オリビアが五歳の時から続けられる儀式……。


何時もなら、ここでオリビアが泣いて土下座して謝る。


そして、クソ姉妹の言うままに何でもしてきた。


自分を屋敷に置いてもらう事と引き換えに。


しかし、今のオリビアには心の支えが出来た。


俺と言う心の支えが……。


「嫌……です! この屋敷から出て行ってもかまいません! でも……彼が許してくれる限り! 私は彼のそばに居る!」


オリビアの決死の訴え……。


その強い意志の現れた瞳に、バカ姉妹はたじろぐ。


しかし、すぐに怒りがこみ上げ、再びオリビアへの虐待を開始しようとする。


「このクズが! なに口答えしてるのよ!」



「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」


ビクトリアがオリビアを蹴りつけようとしたその時、屋敷に悲鳴が響き渡り、扉が開かれる。


そこには片目になった馬鹿の姿。


「ひ!」


「レイ……レイは!?」


「あの魔剣士はレイと言うのかい? 彼は助けに来ないよ。さあ、どちらか一人ついてきてもらうよ」


「何で? 何で私達を?」


「怨むなら君達の母親を怨むんだね。いや、メシア様にその命をささげる事が出来るんだ。感謝するべきかな?」


「そんな……。お母様がなにかしたの?」


「お金なら払うから……。お願い助けて……」


「お金なんていらないよ。君達の母親は魔力が強かったんだよ。僕の最高傑作を完成させるためには、君達のような強い魔力を持った女性が必要なんだ。レイを殺すためにもね」


「そんな……」


「さあ、ついてくる方が手を挙げてくれるかな? もう一人はこの場で殺すけど……」


「ま……待って! お母様の血を引いていればいいのよね? 私達と取引しない? あなたはレイが憎いんでしょ?」


「ん? その顔は……。少しは面白い話が……聞けるかな?」


バカ姉妹は最悪の選択をしようとしていた。


俺はその間なにをしてたかって?


もちろん戦ってい……ません。


ちょっと情けない事になっていた……。


****


ジジィここは……。


『化け物達もこの中から出てきたようじゃな……』


くそっ!


はめられちまった!


化け物達を避け、馬鹿に斬りかかろうとした俺は、突然目の前に現れた白い魔方陣の中に取り込まれていた。


何もない真っ白い空間だ。


しかし、手で触ると分かるが長さ三メートル程の立方体になっているようで、完全に閉じ困られた。


魔剣でも斬る事が出来ず、全く脱出できない。


くっそ!


急がないと!


どうすりゃいいんだよ! くっそぉぉぉぉぉ!


魔剣を力任せに振るうが、全く斬る事が出来ない。


『落ち着け! 考えるんじゃ! この現象の正体を!』


落ち着けったって! オリビア達が!


『急ぐからこそ落ち着かんか! 原因を解明し、速やかに救出に向かうんじゃ! 分かったか!』


あ……ああ。


悪い、ジジィ。


『うむ』


奴の能力……。


白い魔方陣を出す時、オリハルコンの剣が白いオーラを出していたな……。


『これも、オリハルコンの能力じゃろうな……』


奴の斬撃は、空間を切り裂いた……。


何故か馬に乗っている……。


化け物を魔方陣から出した……。


気配がいきなり現れる……。


共通点は……。


『そうじゃ! 空間じゃ!』


あの馬鹿は空間を操作できるのか!


『そう見て間違いあるまい!』


そうか……。


あれは空間を斬っていたんじゃなくて、薄っぺらい別空間を飛ばしていたんだ。


斬っているわけじゃなかったんだ!


化け物達はこれと同じような空間に取り込んでおいて、移動した先で再び取り出す。


ただ、空間を作り出す能力だから移動手段としては使えない。


『特殊な空間で、馬に乗った自身を隠して町に侵入しておったんじゃろうな……』


あの剣は魔力で疑似空間を、作成する能力ってわけか……。


脱出方法はこの空間を壊すか……。


『多分、奴がこの場を離れれば空間が消える可能性が高いのぉ』


でも、それだとオリビア達がさらわれた後だろうな……。


この空間を壊すしかないか……。


魔力で出来てるから……。


ジジィ、秘言で魂は集められるか?


『ここでは無理じゃろうな……』


今のままで、魔力の相殺は?


『それは昨日防御されたのを見た通り、無理じゃ』


なら残る手段は……。


『今のお前にならば、不可能ではないはずじゃ!』


分かってる……。


集中するから、少し黙ってて……。


師匠は、ただそこにあるものを斬れといった。


空気を斬るのではなく、空間それ自体を……。


力でも速度でもない……。


五感全てが必要ない……。


明鏡止水……。


空間を斬るために必要なものは極限の脱力。


ただ、剣が導くままに振るえ……。


<スペースリッパー>


俺を包んでいた真っ白い空間は、ガラスのように粉々に砕けた。


で……出来た~……。


ちょっと自分でもびっくり。


元の屋敷の庭に戻った俺は、気配を確認する。


遅かった……。


くっそぉぉぉぉぉぉ!


****


俺は、急いでオリビアの部屋に走り出す。


階段や廊下には、傭兵や使用人達の死体が転がっている。


くそったれ!


俺が部屋に飛び込むと……。


俺にバカ姉妹が抱きついてきた……。


「ああ、怖かった」


「レイ? 無事なのね? 怪我はない?」


最悪だ……。


「オリビアは何処だ?」


「あの……」


「片目の男が連れ去りました。私達ではどうしようもなかったんです」


「なんで、オリビアだけを?」


「それは……。あの男が勝手に連れて行ったのよ!」


「ねえ! 私達と安全な場所に逃げましょう!」


この屋敷からは、二人以外の気配が消えている。


狂気に魅入られたあの馬鹿に、皆殺しにされたんだ。


「ねえ? レイ!」


「早くしましょう? レイ!」


こいつら……。


自分の妹を……。


俺の恋人を差し出しやがった……。


「俺に……」


「えっ?」


「俺に触るな! お前らは最低だ!」


「そんな……」


「貴方は、私達の気持ちを……」


「知るか! そんなもん! この場で俺の殺されないのが、救いだと思え!」


****


馬鹿共を突き飛ばし、俺は屋敷を飛び出した。


最悪だ……。


考えうる中で最悪の方向に、事が進んでる。


こんなのないよぉぉ、神様!


頼むよ! 何でもするから……。


チクショォォォォォ!


やってらんね~……。

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