六話
死ぬ! 死ぬ! 死ぬ! 死ぬ! 死ぬ!
いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
俺の体内に、ボギンと鈍い音が……。
骨! 骨折れた!
どっかの骨折れた!
死ぬ! 死ぬって!
痛い!
てか、苦しすぎて、痛いのかすら分かんなくなってきたぁぁぁぁぁぁぁ!
これ!
あの!
死ぬぅぅぅぅぅぅぅ!
マジで! マジで死ぬ!
圧縮される!
布団並みに圧縮される!
ジジィィィィィィィ!
『…………』
おまっ!
覚えて……いだだだだだ!
殺される!
助けた相手に、遂に殺されるぅぅぅぅぅ!!
どうなってんだ! こんちくしょぉぉぉぉぉぉぉ!
やってらんね~……。
あ……。
お花畑が見える……。
見たことない爺さんと婆さんが、手を振ってる。
あはは……。
爺さんと婆さんが呼んでる。
行かなきゃ。
あそこに行けば楽になるんだよね?
****
俺が天に召されようとしてた時、やっと吐血に気が付いたミリウスが、岩場に特殊な結界を発生させてくれた。
シャボン玉のような結界で、その中では水圧がかからない。
俺が、その結界の中に入った時は……。
ええ、予想どおりですよ。
虫の息で、びくびく痙攣してました!
何故かって?
殺されかけたからですよ。
誰にって?
命を助けた人魚にですが、何か?
はいはい! そうです!
俺の不運は悲惨なレベルですよ!
かわいそうだと思うなら彼女くれ! こんちくしょぉぉ!
てか! ジジィ!
『なんじゃ?』
今のマジでヤバかったじゃないか!
『まぁ、わしはお前を信じておったぞ』
はい、そうですか。
なんて、誰が納得するか!
まさか本気で見殺されそうになるとは、思わなかったわ!
『そのおかげで、祖父母の顔が見えたではないか』
だから、誰が納得するか!
それも、あれが俺の爺さんと婆さんかわからんだろうが!
『あれは間違いなくお前の祖父母じゃ』
そうなのか……。
なんて! 誰が誤魔化されるか! ボケ!
マジで殺すぞ!
「だ……大丈夫か? レイよ?」
「ちょっと……。休ませて……」
「わっ……分かった」
俺の生体機能が回復するまで、十分ほどその結界で休憩をすることになった。
「お前ほどの力があれば、自分自身に防御膜がはれると思ったんじゃが……。すまん事をしたな」
張れますよ。
張れますともさ……。
どっかのクソジジィがへそ曲げなければね。
『なんじゃ? このあとも水圧と戦いたいのか?』
嘘です。
ごめんなさい。
フィールド張って下さい。
ただ、出来れば死んでくださいジジィ。
『相変わらず卑屈なのか、高圧的なのか分からん奴じゃ……』
もう、気は済んだだろうが!
頼むからフィールド張ってくれよ! この野郎!
もう、苦しいのは嫌だ……。
『反省しているとは思えんが、よかろう』
「レイ、大丈夫?」
「あ……ああ。フィールドを張り損ねた」
「フィールドを張れるのじゃな? では、行くか?」
「いや……もう少しだけ休ませて……」
「大丈夫?」
大丈夫じゃないんだよ!
可愛くても許される事と、許されない事があるんだぞ!
今回は……。
……。
許します!
何の問題もありません!
『お譲ちゃんの胸が腕に当たっただけで許すのか?』
はい! 問題ありまてん!
だって、気持ちいいもの!
これで十分元は取れました!
『相変わらず、安い命じゃな』
なんだよ!?
じゃあ、鷲掴みにさせてくれって言うのか?
ここに置き去りにされて死んでしまうぞ?
『もぉ、ええわい……』
最近態度悪いぞ、ジジィ。
おおう?
これは……。
ヤバいか?
『むぅ、狙いは人魚じゃったか?』
「ミリウスさん」
「なんじゃ?」
「人魚の里ってのは、この下なんですよね?」
「そうじゃが、どうかしたか?」
「ヤバいです。さっき俺達を襲った化け物だと思う気配が、下からします。それも、かなり数が多いです」
「なっ! まことか!?」
「はい」
ジジィ!
『うむ!』
俺は魔剣を呼び出し、フィールドを確認すると、すぐに二人と里へ向かって潜る。
****
数が多い……。
まずいな。
『百や二百ではないぞ』
目的も敵の正体も分からんが、人魚を狙っているのは間違いないようだな。
『そのようじゃ』
これで、犠牲者でたらジジィのせいだかんな!
『むぅ、少々大人げなかったかのぉ』
素直に謝んなさいよぉぉ!
少なくとも一人ってか、俺殺しかけたんだから!
うえっ!
キモ!
なんだよ! あれは!
『結界にむらがっとるな』
俺達が人魚の里で目撃したのは、半球状の結界表面に隙間なくうごめく半魚人もどき達だった。
『あれでは結界がもたんぞ!』
みたいだな。
どうする?
このまま突っ込むのは得策じゃない。
水中だと、多分俺の戦闘力は半分以下になるはずだ。
今回は真っ向勝負ってわけにはいかないよな。
『そうじゃな。結果として生き残る事は出来るかも知れんが、リスクが大きすぎる』
でも、のんびりしてるわけにもいかないし……。
どうすればいい?
「レイよ! すまんがそなたを頼るぞ!」
ミリウスが海底に先ほどと同じ結界を張り、魔法陣を作り始めた。
「了解!」
何か手があるんだろう。
俺はこちらに気が付いた半魚人もどきを、その結界に入ってきた順に斬り捨てる。
ルーリーは、その死体を必死に結界の外へ投げ捨てる。
半魚人もどきは、かなり高速で水中を移動してくる。
水中で戦闘をしかけなくて正解だ。
間違いなく俺の魔力が尽きるまで、なぶられて殺されるところだった。
俺からすると一体一体が大した事ないとつい思っちまうけど、普通に考えれば並みのモンスター以上の戦闘力がある。
少しでも気を抜けば、結界内でも俺が殺される。
くっそ!
まだか?
ルーリーも頑張っているけど、半魚人もどきの死体が結界内にたまり始めて、動きがかなり制限され始めた。
このままだと数で押し込まれる。
二人を守り損ねた瞬間、結界が消えて俺も終わりだ。
何をするつもりか聞く時間はないが、早くしてくれ!
雲霞みたいに半魚人共が向かってくる!
もって、後一分か!?
くっそ!
早く! 早くしろ!
「待たせた! 行くぞ!」
ミリウスの魔法陣は、今まさに結界が半魚人もどきの死体で埋め尽くされそうになった瞬間、完成した。
****
「ミリウス様!」
「ご無事でしたか」
「すまぬ! 状況は?」
光に包まれた俺達は、里の内部らしき場所へ転移していた。
なるほど。
ミリウスは結界内に転移できる、特殊な魔法を準備してたのか。
里の結界は内側からどこを見ても、半魚人もどきで埋め尽くされていた。
ギシギシと、結界の悲鳴が聞こえる。
『長くは持たんじゃろうな』
ミリウスの奴、なんか考えがあったんだよな?
ただ、仲間の元にってだけならここで終わるぞ! 俺達!
「死者は五名、負傷者多数、すでに陣は展開中です」
「ご苦労! 私も展開を手伝う!」
「はっ!」
ミリウスは、人間に見えるが多分人魚だと思われる仲間達と打ち合わせを行い、里の中央にある大きな建物へ入っていく。
俺も、急いで後を追う。
「どうするんです?」
「里の者全てを、別の里へ転移させるのじゃ!」
なるほど、さっきの魔法陣のすごいのがあるのか。
しかし……。
ジジィ! どう見る?
『十……いや七分と言ったところか?』
だよな……。
最低、十分以内にはこの結界は割られる。
「あの! その魔法陣発動には、後どれくらいかかりますか?」
「十五分以内には……」
アホォォォォ!!
完全に足が出てるじゃないか!
行動するならちゃんと考えてからにしろよ!
『ミリウスも、お前には言われたくないじゃろうな……』
おまっ!
今相手してる余裕がない!
後で覚えてるよ!
「この中で、あの敵に対抗できる奴はいるか?」
「……どうだ?」
「残念ながら……」
俺とミリウスの問いかけに、他の人魚達は顔を伏せた。
よく見ると、皆怪我してボロボロだ。
多分、俺達の到着前に抵抗して、惨敗したんだろうな。
もう!
こんなのばっかり!
『運命じゃ』
返品! クーリングオフ!
何て言ってる時間はないな。
「里の結界を一か所だけ弱めることはできるか?」
「どうするのじゃ、レイよ!?」
「俺が囮になって引き付ける」
「しかし……」
「この結界が持たないのくらい分かってるだろう? それに俺も自殺したいわけじゃない! 一時的な時間稼ぎだけだ!」
「わ……わかった! では頼むぞ!」
「ああ!」
****
俺はミリウスの部下らしい人魚の誘導を受け、結界の弱まった場所で半魚人もどきの相手をする。
この空気がある結界内なら、負ける確率はほとんどない。
半魚人もどきに思考能力はほとんどないようで、俺の場所へ押し寄せてきてくれた。
好都合だ。
いけるか?
転移の準備が整い次第、知らせてくれる事になっている。
俺が時間を稼いで、転移の魔法に飛び込めば作戦成功だ。
って! マジか!
『そうはうまくいかんようじゃな!』
もうすぐ転送の準備が整うって所だったが、俺がいる場所以外の箇所に穴が開いてしまった。
それも、そこから侵入した半魚人もどきの前には、家財道具をもった家族らしき人魚達がいる。
早く逃げとけよ! 馬鹿ぁぁぁぁぁぁ!!
〈ホークスラッシュ〉
その家族へ襲いかかる半魚人もどき達を、衝撃波で斬り捨てた。
家財道具を捨ててその家族は、魔法陣へと走り始めてくれた。
間に合った……。
****
『合図じゃ!』
転移の魔法陣がある建物から、合図である閃光が上がった。
よし!
俺が魔法陣へ走り始めた時、嫌なものが目に飛び込んできた……。
「ピィィィィ!」
人魚の子供だろう……。
さっきの家族の家財道具と一緒に取り残されている。
さっきの家族の母親らしき人魚が戻ろうとするのを、仲間達が必死にとどめている。
もちろん、悲痛な顔で……。
ああ……。
あああああああああ!!
無視できねぇぇじゃねぇぇぇかっ!
くそったれが!
俺は子供の周りの半魚人もどき斬り捨て、子供を母親に投げつける。
手荒いけど、これが精一杯です。
でもって!
『急げ!』
っん! ダッシュ!
建物が光に包まれ始める。
「急げ!!」
ミリウスの声が聞こえる。
俺は、全速力で建物へ向かう。
すでに転移の魔法は発動されているらしく、光が一度膨れ上がり収束していく。
間ぁぁぁぁにぃぃぃぃ合えぇぇぇぇぇぇ!!
………………。
****
で、ジジィ。
『なんじゃ?』
なんだこれは?
『海流と言う奴ではないか? わしも詳しくは知らんぞ』
いやいや、そこじゃなくて……。
『どこじゃ?』
何で俺は、一人で海底を旅してるの!?
何で、海底で海流に流されて、訳の分からない漂流してんの!?
なんで!? なんで!?
『まぁ、死ぬことはあるまい』
いやいやいや!
人魚の秘薬切れたら死ぬよね! これ!
溺れ死ぬよね!
なんだよ! これ!
『しかたあるまい。転移に間に合わなんだんじゃから』
俺、海底でもてなされるんじゃなかったの?
なんで、取り残されて、半魚人もどき約千体と戦った上で、漂流の続きをしてるの!?
それも、海底を!
それもなんかすごい海流に巻き込まれて、すんごく流されてるよ!?
なに!?
俺は、勇者じゃないから間にあわなかったの?
それとも、神様に嫌われてるから?
『……両方じゃ』
ですよねぇぇ……。
ふっ…………ざけんな!!
このままだと、餓死か溺死じゃないか!
好きなほうを選べってか!?
ふざけんな!
両方嫌じゃ! ボケ!
『もう、三時間も愚痴を聞いたんじゃ。落ち着け』
落ち着けるかぁぁぁ!
このまま死ぬなら、死ぬまで神を呪い続けるわ!
最近殺そうとしてくる間隔が、短くなってるじゃないか!
なに焦って殺そうとしてんだよ!
ああぁぁぁぁぁぁ! もう!
やってらんね~……。




