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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第四章:新大陸の定め編
45/106

五話

ジジィ!


大変だ!


『どうした!?』


腹が減った!


『……いちいちしょうもない事で呼ぶな』


おっ!


発見!


海底に擬態した貝を発見した俺は、海の中へ潜る。


岩にへばりつく貝を魔剣ではがすと、海面の流木に戻り、貝を食べ始めた。


もちろん、味は塩オンリー。


青い空が眩しいってか、直射日光が本当に辛いです。


『どんどん野生化していくのぉ、お前は』


この状況では野生化でもせんかぎり、生き残れるか!


俺は人生自体が、サバイバルじゃないか!


誰か……助けてください!


もう生物なまものは限界です!


食料のいいところが、新鮮以外に何もありません!


せめて火を下さい!


あれ?


そう言えば……。


ジジィ!


『あぁ? ……なんじゃ?』


俺……。


レーム大陸出て以降、まともな食事をとってない!


客船の中でのは全部吐き戻したし、漂流中はリンゴと生の魚介類、海賊船も貧乏だったからまずい保存食しか食ってない!


てか、思い返しても人生でいい物食った事がほとんどない!


海の上で漂流してるから、睡眠もまともに取れないし……。


人間の三大欲求を、何一つとしてまともに満たされてない!


どうする!? ジジィ!


『どうもできん……』


ふざけるな! ジジィ!


何とかしろ!


『……わしはもう知らん』


諦めやがった。


使えんジジィだ。


寝たら死にそうなんだから、起きてる時ぐらい付き合えよぉ!


はぁ~……。


漂流生活が、もうすぐトータルで三週間迎えるよぉぉ……。


新大陸での冒険はどうしたんだよ。


まともに旅すらできてないよ。


なんだよ、これ。


やってらんね~……。



おおう!


ジジィ!


『……』


いや! ジジィ!


今度はマジでジジィ!


あれ! あれ!


『んっ? おお!』


俺の視界に、岩礁が見えてきた!


島か何かあれば、生還できるかも知れん!


****


俺は流木に掴まっている状態で、バタ足。


おお! 岩影が!


おお……お……おおう。


岩……だけだった……。


俺がたどりついたのは、海のど真ん中にある、ただの岩礁地帯だった。


無人島ですらないよ……。


ただのでっかい岩場じゃないか……。


『ま……まぁ、少し休憩できるじゃろうて』


なるほど、ここにたどり着けただけで、俺にしては運がいいてっ事だね。


はっ……はは……。


ははははははっ!


『な! ついに壊れたか!?』


もうここまで来ると、笑うしかないなと思って……。


『……不憫じゃのう』


寝不足で、もう恨みごと言う元気もないさ。


とりあえず、この岩場でゆっくり眠ることは出来そうだし、まだマシなんだろ。


『そっ、そうじゃな……』


さて、流木が流されても困るし、岩の上に持って上がるか。


俺は一番大きい岩に、流木を担いで跳び乗った。


おお……。


なんか……ここすごいな!


『自然の芸術じゃのう』


岩の上から岩礁を一望すると、まるで道のように海面に岩礁地帯が長く真っすぐ続いていた。


でっけぇぇぇぇ……。


『一キロ以上は続いておるかのぉ』


これだけ広ければ、ゆっくり眠れるな。


『うむ』


うん?


歌?


これ、あの! ジジィ!


『歌声じゃのう。言語はきいた事がないが、確かに歌じゃ』


もしかして人がいるのか!?


船とかか?


俺助かるのか?


『分からんが、可能性はあるぞ』


****


歌声をたどって、俺は岩場を飛び跳ねる。


そして、人影を見つけた。


それも、女の子がいっぱい!


やった……あれ?


俺は人影にすぐには近寄らず、手前の岩の後ろに隠れた。


ジジィ……。


なんだ? あれは?


『わしも初めて見たが、人魚じゃろう……』


本当にあんな生物いるんだな。


皆、けっこう美人だ……。


『また、下心を出して失敗するでないぞ?』


下心つぅぅか……。


あれはさすがに無理だろう……。


『なんじゃ? 女大好きなお前にしては冷静じゃのう?』


いや、よく見ろよ。


『美人が六人もおるぞ?』


そこじゃない!


『何の話じゃ? バンパイアですら手を出そうとしたお前が……』


人聞き悪いわ!


てか、下半身が魚類だ。


『人魚じゃから、当然じゃろうが』


あれじゃあ、口説いても色々出来ないじゃないか!


『真っ先にそこか……。この変態め』


何よりも大事だろうが!


ある意味、そこだけが大事だろうが!


『エロガキが……』


ん?


ジジィ!


『なんじゃ?』


俺は、気配を完全に消してるよな?


『うむ。いつもながら見事じゃ』


なんか、人魚達がこっち見てないか?


『そうじゃのぉ』


なんかこっち指さして、騒ぎ始めてないか?


『そうじゃのぉ』


何でだ!?


『担いだ流木が丸見えじゃ……』


なああああ!


早く言えってばぁぁぁ!


あああ!


人魚達が逃げていく!


待って!


せめて、島がある方向を教えて!


何もしないから!


****


俺は、岩礁を逃げていく人魚達に追いつこうと、海面を走る。


待って!


お願いだから!


何もしないから!


『流木を担いで高速で追いかける……。完全な変質者じゃな……』


どうすりゃいいんだよ!


てか、待ってよ!


っと……。


『懐かしい魔力ではないか?』


そうだな、この感覚は覚えてるぞ。


俺は近くの岩場に流木を置くと、魔剣を呼び出す。


そして、何かの追われるようにこちらに泳いでくる人魚達を跳びこし、何もない空間に剣を振るう。


振りぬいたその場所から、セイレーンが姿を現し塵に変わっていく。


人魚達には、姿を消したあれが目視出来ていたようだな。


『人間ではないからのぉ』


「ピィィィィィ!」


おっと! もう一匹!


岩場を蹴り、セイレーンに襲われそうな人魚の目の前に飛び込み。


体が海に沈み込む前に、敵を斬り捨てた。


以前よりはっきりと気配が感じ取れたのは、俺のレベルが上がったのか?


『当然じゃろう?』


まぁ、修羅場かいくぐりまくってきたからね~。


でも、助けたんだから人魚達も話くらい……。


ああ……。


『全力で逃げていくのぉ』


ちょ! 待てよ!


嘘ぉぉぉ……。


俺が振り向いた時には、岩礁から抜けた六人の人魚は、全員海に潜って行った。



俺は助けた相手に逃げられたり、襲われたりする運命なのか? ジジィ?


『ここまで来ると、運命じゃな』


ざけんな! ちくしょぉぉ!


運命なんてクソ食らえ!


ああ……。


疲れた……。


もういい眠ろう……。


安らかに……。


『……まぁ、ドンマイじゃ!』


五月蠅いわ!


変に励まそうとして、逆なですんな!


もういい! 寝る!


****


俺は流木を枕に、十日ぶりとなる陸上での睡眠をとった。


思いっきり眠るって、幸せだよね~。


「ミィ……」


あの……。


これ……。


ええぇぇぇぇ……。


どう言う事!?


『……分からん。わしも今起きたところじゃ』


「ミィ?」


月明かりのみが周囲を照らす時間になって、俺は目を開けた。


その俺の目の前で美少女が変な声を出して、小首をかしげている。


状況が全く把握できん!


「ミィミィミィ!」


えっ?


起きろって事か?


何でこいつは喋らないんだ?


『……下を見てみい』


えっ?


ああ……。


人魚!


こいつ人魚なのか。


え? 人魚って喋れないの?


『そのようじゃ』


お礼に来てくれたのかもしれないけど、これじゃあ意味がないよ。


「目が覚めたか、人間よ」


えっ?


誰こいつ?


俺が声のするほうを向くと、海面に女性が立っていた。


魔力を感じるな……。


『万が一はある。気をつけるんじゃぞ』


ああ……。


「なぜこのような場所にいる? そなたは何者じゃ?」


「ただの漂流者です」


「一人か?」


「はぁ」


「嘘ではあるまいな? 私に嘘をつくと言う事は、お前の死につながるぞ?」


なんだ? 敵なのか?


逆に殺すぞ?


「どうなのじゃ?」


「本当ですよ。この流木に掴まって、一人で漂流してました」


「なるほど、嘘だった場合、命はないと思え」


疑り深いなぁ……。


「あの、あなたは誰ですか? ここから一番近い、人間の住んでる陸はどこですか?」


「私は人魚族の長ミリウスじゃ。この場所を知った以上、タダで帰すわけにはいかんな、人間よ」


なんだ? やっぱり戦闘か?


「しかし、昼間、仲間を救ってくれたと聞いた。恩人を殺すのも忍びない」


どっちなの?


戦うの? どうするの~?


「貴様も、人魚が隠れ住む意味を知っていよう?」


「いや、知りませんが」


「なっ? 嘘をつくな!」


「いえ、本当に俺が住んでいた大陸では、人魚なんていなかったもんで……」


「そっ……そうなのか? 嘘ではあるまいな!」


本当に疑り深いなぁ……。


「本当に知りませんよ。隠れ住んでるんですか?」


「人間よ。お前はどこから来たのじゃ?」


「レーム大陸からです」


「レーム? 聞いた事もないな……」


ええぇぇ……。


そんなに離れちゃったの?


ここはどこなんですか?


俺は帰れるんですか?


「まぁ、それが嘘でないなら、陸まで送ってもよいぞ」


もう! マジで疑り深いなぁ……。


てっ、えっ!


マジで!


「お願いします!」


「この場所が人間にばれなければ、こちらは問題ない」


人間に、そんなに見つかりたくないのか?


ん?


もしかして……。


『有翼族と、理由は同じかも知れんな……』


「あの、もしかして人魚の血とかが、人間の薬になったりするんですか?」


「なっ! やはり貴様!」


ミリウスは俺に向かい、海水で作った魔法の球を高速で放ってきた。


魔法で攻撃されるなんて、久し振りぃぃ。


てい!


もちろん俺は、素手に魔剣の魔力を流し魔法の核を消し飛ばす。


「そんな……貴様!」


そんなに身構えないでよ……。


「不用意な発言は謝ります。俺の大陸にも、似たような事例があったんで聞いただけです。別にあなた方の血なんていりません。だから、俺を陸に帰してくれませんか?」


「お前はいったい何者じゃ? 昼間もセイレーンを容易に撃退したと聞いたが……」


「多少腕に覚えがあるだけのただの人間で、ただの漂流者です。ただ、陸に帰りたいだけです」


「その力、只者ではあるまい。何が目的じゃ?」


「人間ですって、目的は陸に帰る事です」


「しかし、お前の言葉を、私は何を持って信じればいいのじゃ?」


「信じなくてもいいですから、陸に帰りたいです」


「しかし、この場所が人間にばれては……。私達は……」


「言いませんし、海の場所なんてわかりません。せめて、陸の方向だけでも教えて下さい」


「むぅ……」


「もう、お願いですから帰りたいんです。十日以上漂流してるんです」


「ミィ! ミィ!」


「ルーリー……。この者を信じろと言うのか?」


人魚って言葉は理解できるんだな……。


てか、このおばさんしつこい!


「本当に陸の方向さえ教えてくれれば、文句は言いませんから。それに、俺がこの場所をばらして人魚を危険にさらすか疑ってるのも分かりますが、そんな気分の悪い事なんてしませんよ」


何だろう、これだけ喋ったのものすごく久し振り……。


『お前は裏表がありすぎるからのぉ』


「……わかった。では、目隠しをしてもらえるなら、我らが陸付近までそなたを連れて行こう」


やった!


「それで! お願いします!」


「ふむ、しかし変わった人間もいたもんじゃな」


なんか、馬鹿にされてない?


『まぁ、魔族も最初はこんな感じだったじゃろうが』


だね。


魔族と喋ってると思えばいいんだよな……。


****


えっ!?


なんだこれは!?


ミリウスとの交渉に成功した俺が、警戒を解こうとした瞬間、体中に鳥肌が立つ。


とんでもなく嫌な感じがする。


まるで、全身を死霊に撫でまわされているような、なんとも言えない不快感だ。


なんだ!? これは!


ジジィ!


『分からん! これは、魔力なのか?』


分かんないけど、来る!


「どうしたのだ、人間よ? きっ……貴様!」


気分の悪い魔力に反射的に魔剣を呼び出した俺は、ミリウスに不要な警戒をさせてしまった。


だが、そんな事気にしている場合じゃない!


「謀ったな! 人間!」


そのミリウスの言葉と同時に、海面から俺の背後へ跳びかかってきた何かに魔剣を振りぬく。


「キチュゥゥゥゥゥゥゥ!」


「来るぞ! 気をつけろ!」


見た事の無いその怪物を両断した俺は、ミリウスともう一匹の人魚に警戒をするように叫ぶ。


岩礁の岩の上へ、続々とその奇妙な怪物が昇ってくる。


さすがにミリウスも頭は悪くないようで、一瞬で状況を把握し、もう一匹を守るように俺の隣へ移動してきた。


足場が海では全方向へ警戒しないといけなくなるのは、すぐに判断出来たのだろう。


さて……。


「こいつら、知ってますか?」


「い……いや」


全身が甲羅のようなもので覆われた、一つ目の半魚人?


気持ちが悪い……。


見た目と言うよりはこいつらから感じる気配が、なんと言うか吐き気がする。


両手足に鋭い爪をもっているが、体長は俺とほとんど変わらない。


戦闘力自体は、大したことないとは思うけど。


『目に生気を感じんな……』


ああ、なんか虫と対峙してる感じがするよ。


いや、虫よりも機械的に俺達を襲おうとしている。


って方が、近いか?


なんにしろ、気持ち悪い。


「はあ!」


ミリウスが、一体に水球を放った。


直撃をしたが、岩の上から海の中へ吹っ飛ばしただけで、すぐにまた昇ってきやがる。


「そんな、馬鹿な……」


ミリウスの水球は、多分コンクリートブロックくらい簡単に壊せる威力はあるだろうが、こいつ等の甲羅のほうが強度は上のようだ。


俺が、やるしかないか。


『敵が、全ての力を見せていない可能性がある。十分に注意するんじゃ!』


分かってる!


「キチュチュゥゥゥゥゥ!」


俺の動きに合わせるように、跳びかかってきた半魚人もどきを斬り捨てる。


五体ほど斬り捨てたが、特殊攻撃はされない。


戦闘力もセイレーン並み。


甲羅がかなりの強度だが、魔剣を持っている俺には意味がない。


多分……。


『Bランク下位と言ったところじゃろうな』


「キチュ!」


おっと!


人魚達に襲いかかろうとする半魚人もどきを斬り捨てる。


この人魚には、俺の生還が掛ってるんだ。


みすみす殺させるか!


二人の人魚を背にして、片っ端から半魚人もどきを斬り捨てた。


「ふぅぅぅ……。怪我は?」


「お前は一体……」


その台詞、聞きあきてきた。


てか、質問に答えようよ。


三十体ほどの半魚人もどきを斬り捨てた俺に、ミリウスが驚いた表情を向けている。


「まぁ、ただの人間だけど……。戦いには慣れているんですよ」


うん?


うぇ! なんだこの臭い?


「そうか……。私はお前に興味がわいた。少し、話をせぬか?」


くっさい!


なんだこの臭いは!


くっさ! くっさい!


「聞いておるか? 人間よ」


えっ? お前ら平気なの?


むちゃくちゃ臭いよ!?


何の臭いだよ、これ!


なんか、気持ち悪くなってきた。


『原因はあれのようじゃな……』


斬り捨てた半魚人もどきは、塵にならなかった。


しかし、死体が急激に腐食し、強烈な異臭を放ち始めている。


ちょ! 気持ち悪い……。


「人間? どうかしたのか?」


「あの? 臭くありませんか?」


「ん? ああ……。我らは海底での生活の為に、鼻孔の奥に元々蓋のようなものがあるんでな」


「俺には、それがないんで、すごく臭いんです……」


「大丈夫か?」


馬鹿か! お前は!


大丈夫じゃないから、口押えてるんじゃないか!


「場所を移動させて下さい」


「分かった……」


****


俺達は臭いを嗅がなくていいように、数百メートルほど岩場を移動した。


まだここでもちょっと臭いけど、なんとか……。


洒落にならん……。


マジで吐きそうだった……。


「それで、人間よ。そなたの名はなんという?」


「え? ああ……レイです」


「では、レイよ。先ほど剣を出したり消したりしたのは、どういう仕組みだ? 魔法か?」


「まぁ、それに近いですが剣自体が特殊な魔剣で、出したり消したりが自由にできるんです」


「そうか……。特殊な魔剣か……」


って、あれ?


この人ものすごい美人じゃね?


それも、下半身普通に人間と変わらなくね?


先程までの場所では、月明かりを隠す岩の位置が悪く、分からなかった。


こいつ人魚なの?


どう言う事?


「あの、あなたは人魚なんですか?」


「そう、言ったはずだが?」


「足が、何で普通の足なんですか?」


「ああ……。多少魔力を使えば、太もも部分にうろこは残るがこの姿になれる。それに、日頃は水中で伝わる声を使っているが、このように普通に喋る事も可能じゃ」


へぇぇぇ、便利……。


「レイ!」


えっ!?


もう一匹の人魚も、人の姿になってるぅ!


「私、ルーリー。昼間もさっきもありがとうね」


おお!


この子も可愛い!


魚じゃないなら、この子も彼女候補に!


いや……。


待てよ……。


喋れるなら、最初から喋れよ!


人間の言葉で起こせよ!


結構パニクったんだからな!


「お前は、本当に人魚を全く知らないようだな」


まだ疑ってたのか、このオバ……おねいさんは!


『お前の死因には、多分女性が絡むじゃろうな……』


大体言いたい事は分かるが、ほっといてくれ!


思春期のってか男全般は、皆美人に弱いもんなんだよ!


『ああ、そうか……』


その態度よくないぞ、ジジィ。


「よければ、私達の里へ来ぬか?」


里?


『人魚の隠れ里……と言ったところか?』


何だろう、嫌な予感が……。


「あの、それはどこなんでしょうか?」


「あのね! この海の底にあるんだよ」


ですよねぇぇぇ……。


無理じゃ! ボケ!


窒息して死んでしまうわ!


「俺……そんな場所には行けませんよ? 息出来ないと死にますし……」


「これで、お前が私達目当てでない事がよくわかった。問題ないぞ」


いやいや……。


そっちが何を理解したか知らないけど……。


説明しなさいよ!


全くわからんから!


「これを飲め」


ミリウスが腰の袋から、小瓶に入った液体を取り出し、渡してきた。


ちょ……。


これ飲むの?


なんか、人間が飲んでもいいと思える色じゃないんですけど……。


「あの、これはなんですか?」


「いいから飲んでみよ」


「でも……、なんです? これ?」


「早く飲まんか」


「あの……これ……」


「早く飲めっ!」


「はい!」


俺はミリウスの怒鳴り声を聞いて反射的に、小瓶に入っていた謎の液体を飲み込んだ。


怒った女性には、何故か逆らえない。


うん?


ドクンと、俺の胸が脈動する。


これは……。


胸の奥が……。


『うむ』


ジジィ!


これって!


『胸焼けじゃな』


だぁぁよぉぉねぇぇ……。


何飲ませたんだ!


気持ち悪い……。


「飲んだな? では、ついて来い」


いやいやいや。


「説明を……」


「なんじゃ? 私が信用できんか?」


「そういう問題じゃなくて……」


「面倒じゃな……」


殴りますよ、おねいさん!


「ルーリー説明する!」


「では、頼むか。手短にな」


「は~い!」


****


ここでやっと、俺は人魚の情報をもらえた。


長い上に面倒臭い!


どっかに解説書は落ちてないもんだろうか?


『何の解説書じゃ?』


人生の……。


『やめておけ。絶望して自殺せねばならんぞ?』


俺は一生報われないってことですか。


分かります。


死ねよ、ジジィ。


『お前がし……』


まあ、それは置いといて人魚ってのは魚のような魚類ではなく、俺達と同じ哺乳類で肺呼吸なんだそうだ。


では何故海で生活できるかと言うと、人間にはない鼻の中などに開閉できる蓋があるのと、特殊な粘液を分泌して呼吸を助けているらしい。


『……無視か』


その粘液は、空気は通すが水は通さないので、海中でも酸素を補給できるそうだ。


今俺が飲んだのは、人魚の血から精製した人魚の秘薬で、一時的に普通の人間も水中で呼吸が出来るようになる。


『人の話を聞かんのは、どうなんじゃろうなぁ……』


この秘薬の効果で、俺の体にも一時的に粘液で膜が出来たらしく、水中で呼吸が出来るらしい。


『まったく、最近の若い者は……』


ジジィ五月蠅い。


さっきの胸焼けはそのせいらしいが……。


先に説明しようよ!


それも、この薬を飲むと気管側だけでなく、食道側まで粘膜を張るので食事が出来ないそうだ。


俺、結構おなかすいてるんだけど!


この薬のせいで、俺はこれから丸一日は食事をとる事が出来ないそうだ。


『もお、こいつ嫌じゃ』


俺のが嫌じゃ!


人魚達は、この薬を作る為に人間に狙われているそうで、海底に十二の隠れ里を作り暮らしているらしい。


俺は、その里の一つへ招かれるから、薬を飲まされたそうだ。


「どうじゃ? 理解は出来たか?」


出来た……。


出来たからこそ、お前をちょっと殴りたい。


「では、行こう」


そう言うと、ミリウスとルーリーは海に潜り始めた。


仕方ない。


俺達も行くか、ジジィ。


『わしはもう口をきかん!』


拗ねるな、キモイから。


よいしょっと!


俺は海に飛び込むと、試しに顔を海に沈め呼吸をしてみた。


おお!


ちょっと苦しいけど、本当に息が出来る!


すげぇぇな! 秘薬!


『……』


はいはい、ごめんごめん。


行くぞ!


****


ええぇぇぇ……。


ちょ……。


ええぇぇぇ……。


人魚達についていけない……。


『当り前じゃ、人間の体には浮力があるんじゃ』


俺、よく考えると内陸育ちだから、素潜りとかあんまり得意じゃない。


二~三メートルぐらいは潜れるけど、そこから先へはなかなか進めない。


んっ……。


無理ぃぃぃぃぃぃ!


人間の体は、完全には海に適応できてないんだよ、これ!


っと、海面付近でもがいていた俺を、ルーリーが深海へと引っ張ってくれた。


ああ……。


あああああああ!


いだだっだだだだ!


体がつぶされる!


『水圧と言うものじゃろうな』


ジジィ! フィールド!


『……苦しめ』


ちょ!


ふざけんなよ! ジジィ!


体中がつぶされる!


死んでしまう!


『……ふっ』


今笑ったな!


鼻で笑いやがったな!


ちょ! マジで!


何で助けた相手に、苦しめられてんの? 俺!


こぉぉろぉぉさぁぁれぇぇるぅぅ!


たぁぁぁぁぁぁぁすけてぇぇぇぇぇぇぇ!


『ふふん』


お前! 後で覚えとけよ!


あああああ!


ちょ! マジで! マジで!


死ぬから!


これ死ぬから!


ジジィ! マジで!


『なにも、聞こえんのぉ……』


こらぁぁぁぁぁぁぁ!


ちょ! あの……。


こらぁぁぁぁぁぁぁ!


その時の俺には、笑顔のルーリーが悪魔に見えた。


まだ、目的の海底は遠いようだ。


ああ……。


意識が飛ぶ……。


人魚は、この水圧に適応できてるんだろうな。


俺の内臓がアラームを黄色から赤色に変え、骨が軋み始めたところで海底の地割れへ入っていく。


ああ、まだ潜るんだ。


なるほどねぇ……。


死んでしまうわ!


いや、マジですから!


餓死が嫌だって言った途端に、これか!


圧死って……。


ふざけんな! この野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉ!


この死に方も、びっくりするくらい苦痛を伴うじゃねぇぇか!


なんで、苦しむ死に方の中でチョイスするんだよ!


せめて……。


せめて、楽に死なせろよ!


どれだけ俺を苦しめたいんだよ!


俺が気を抜いた瞬間に、いちいち殺そうとすんな!


この馬鹿神様!


なんだよ、これぇぇ……。


やってらんね~……。

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