四話
んっ……。
最悪の目覚め方だな。
なんの嫌がらせだよ。
『普通じゃろうが。何の文句がある?』
目覚めて、そこにいるのは美人であるべきだ!
なんで小汚いオヤジがいるんだよ。
俺は認めん。
認めんよ!
『何度も言うが、そんな事宣言されてもわしは知らん』
なんか、がんばれよ!
『……なんかと言われてものぉ』
なんかあれだよ……。
頑張れよ!
『じゃからわしには何もできん! 何より、何か出来たとしてもなんかってなんじゃ? アバウトすぎて分からんわ!』
ああ、もううっさい。
朝から目の前に小汚いおっさんで、頭の中がジジィなんて気分が悪い。
『お……お前は』
「おっ……おお。起きたか?」
「はい。おはようございます、カザルさん」
「お……あの……。何か食べるか?」
「いえ。どうかしましたか?」
「いや……。あの……あれだ。俺が言いたいのは……あれだ」
なんだ!
あれってなんだよ!
もぉ~……。
寝起きでこのおっさんの、長くて内容の無い話に付き合わないといけないのかよ。
勘弁してくれよ。
きちんと喋れよ!
やってらんね~……。
「あの……、お前に言っとく事があってな。その……どう言うかな?」
俺に聞いてくるな!
さっさと喋れ!
後、十分もこれが続けばお前を殴りそうだよ! 俺は!
「悪いが……俺は、口下手でな。その……」
知ってるよ!
早く喋れ!
「つまり! あの……悪かったってことだ」
どう言う事!?
お前は、何に対して謝ったんだ?
主語がないどころか、何もわからんぞ!
カザルのおっさんにイライラしていると、部屋にファーンが入ってきた。
「おお! 起きたかレイ! 昨日はご苦労だった! お前も正式にうちの一員だな!」
こいつも微妙に主語がないんだよな……。
「今日からもカザルを見習って頑張るんだぞ! じゃあ、カザル! 甲板で待ってるからな!」
おや?
もしかして……。
『まぁ、嫌われてないだけ何時もよりはましではないか?』
え~……。
ジジィもしかして、やり取り聞いてた?
『まぁ……』
ええぇぇぇぇ。
「その……」
おっさん!
何してるんだよ!
てか、モジモジすんな!
気持ちが悪い!
「ちゃんと言っておく……から。あの……すまん」
ああ、もう!
お前とは喋ってられん!
「いや、いいですよ」
「そっ! そうか! また……あの、ちゃんとするからな」
そう言うとカザルのおっさんは、部屋を出て行った。
さて……。
ヘイ! ジジィ!
簡潔な説明プリーズ!
『カザルは、お前の功績をファーンに伝えようとしておった。じゃが、奴の口下手と海賊たちの早とちりから、カザルとお前がうまくやって幽霊船から逃げられた事になった』
うん! 分かりやすい!
奴らが馬鹿なのは分かってるけど、あの状況からどうやって逃げたと思ってるんだ?
どう考えても無理だろうが。
奴らの脳みそはポジティブ通り越してやがる。
『奴らにとっては、どうやって逃げたかよりも、逃げ伸びられた事のほうが重要なんじゃろう』
別に恩を着せるつもりもないけども!
どんな都合のいい勘違いだよ!
はぁぁぁ、まぁ面倒がなくていいか。
それに、この逃げ出せない状況で嫌われたり、クズ呼ばわりされてないだけましなんだろうな。
俺にしては。
『……不憫な』
そう思うなら、何とかしとけよ、クソジジィ。
『無理じゃ、クソガキ』
たく、使えんジジィだ。
『お前は本当に……』
さて、起きたし働くか。
****
甲板に上がった俺は、海賊達に肩を叩かれて褒められた。
一番頑張ったのは、この海賊の中でも一番実力がある、カザルのおっさんて事にはなってるが……。
まぁ、いつもを考えればマシだからいいけどね。
それよりも、汚い手で俺に触るな!
風呂に入れ!
せめて俺みたいに、濡れたタオルで体をふくなり、海で汚れを落とすなりしろよ!
臭いんだよ!
もぉ~。
****
その日の夜は、甲板で宴会が行われた。
海の上では酒は貴重品なので毎日は飲めないが、目的の宝島が目の前と言う事と、幽霊船に会って生還できた事のお祝いだそうだ。
ここの馬鹿達は、酒が入るとさらに質が悪いな。
いつもの下品な会話がヒートアップしてるし、口喧嘩から掴みあいにまで発展させてる馬鹿もいる。
周りはその喧嘩を見て、喜んではやし立ててるよ。
こいつ等とは空気が合わんな。
『お前にぴったりな空間のような気がするがのぉ』
俺に失礼だぞ! ジジィ!
『お前はわしに失礼じゃ! それに……』
あれ?
カザルとファーンがいないな?
どこ行ったんだ?
『とことん話を聞かんつもりじゃな……』
俺は気配のする船室へと向かった。
理由?
なんとなく。
甲板の馬鹿達と酒飲むよりは、女の子を見てるほうがまだましだからってのが、一番の理由かな?
「本当にありがとう、カザル」
「いや……、あの……レイが」
「ああ。レイも頑張ってくれたんだろう? 奴の取り分も少し増やしてやるかな」
「いや……あの」
「でも、本当に感謝してるんだ……。親父が死んでザックがいなくなって……。お前までいなくなっていたらと思うとぞっとするよ」
「いや……その……」
「宝の四割は持って行ってくれ。残りでも十分あたしだけで海賊団を続けられると思うから」
「お……あの……」
カザルよ……。
お前のそれは会話とは言わない!
いやと、あのと、その以外言ってみろ!
「こんな事お前にしか言えないけど……。海賊団さえ持ち直せば、ザックは戻ってきてくれるだろうか?」
「お! おお……ファーン」
ん?
ファーン……。
何泣いてるんだ?
「あいつは、私を愛していると言ってくれたんだ……」
「おお……おお……」
カザルのおっさんが、そこで気の利いた事なんて言えるわけないだろうが。
見ろ、オロオロしてるだけじゃないか。
『お前が出ていくか?』
ごめんだね。
前にも言ったが、他人のものには興味がないんでね。
『あれは、ザックを本気で想っておるんじゃろうな』
そう言う事。
これで、ファーンは俺のストライクゾーン外だ。
俺が初めての相手じゃなくても問題はないけど、他に好きな奴がいる女なんてごめんだね。
『ならば、船から降りるか?』
馬鹿共が無事に宝を持って、港に着いたらな。
『全く、お前は素直に頑張ってる相手を応援したいとは言えんのか?』
知るか。
それよりも、今日はジジィずっと起きてるな?
『今朝の幽霊船で、想像以上に魔力が充填されたからのぉ』
無駄使いするな。
寝ろ! 出来れば永遠に。
『お前が死ね』
さて、宝獲得まで何もなければいいんだけどな。
なんて俺が考えたのがいけなかったのだろうか?
全部俺が悪いのか!?
言ってみろ!
俺が嫌いって言ってみろよ! 神様よ!
もちろん、今回も命をかける事になりました。
何の為に?
もぉ、宝の分け前狙うしかないでしょうが!
それ以外に俺が戦う理由がないんだもん、今回!
****
翌日の夜に見張りをしていた俺にファーンが寄ってきて、色々と昔話をしてきたよ。
親父さんが作った海賊団が大好きだった事や、親父さんが死んでからの苦労話を勝手に喋り続けたさ。
多分そこで気の利いた事を言えば、ファーンのフラグを立てられるでしょうよ。
でも、なんかやる気が起きないんだよ。
この子頭が悪い以上に、風呂に入ってないんだもん。
男共よりはましだけど、臭い女なんてごめんだ。
あと、ザックって奴の変わりなんて嫌だ。
ザックを忘れて俺を本気で好きになってくれるまで、フラグ回収なんて目指さない。
目指してやるもんか!
『素直にファーンの過去を聞いて情はわいておるが、自分が相手の一番になれる自信がないと言えんのか?』
男は言葉じゃなくてm背中で語るんもんだ。
『お前はいい事を言うタイミングがおかしい……』
まぁ、ファーンに期待しても仕方ないってことだよ。
宝島にも無事に着きそうだし、宝を持って港につければそれでいいや。
****
「錨を下せ!」
幽霊船との戦闘から三日後、俺達は島にたどりついた。
そして、上陸までは何の問題もなかった。
ジジィ、起きてるか?
『うむ』
確か、無人島って聞いたよな?
『どうやら先客のようじゃな』
多分、島の反対側から上陸したんだろうな。
さて、これは教えといたほうがいいよな。
「カザルさん?」
「なんだ?」
「この宝の事って、他に誰が知ってるんですか?」
「お嬢以外は、誰も知らない」
なら、噂を聞いてつけられたってところかな?
「あの、島の向こうに……」
「ここだ!」
おう……。
着いちゃったよ。
ファーンが海岸にある大きな洞窟を指さしている。
「あの! この島に他の……」
聞けよ、馬鹿……。
海賊たちは皆一斉に、洞窟へ向かって走り出していた。
ちょっとは人の話とか聞こうよ。
俺は、ファーン達を追いかけた。
****
洞窟の前で皆目をキラキラさせてるよ。
「あの……」
「みんな! 行くぞぉぉ!」
「おおぉぉぉぉぉ!」
いや、おおぉぉぉじゃなくて……。
「ここに宝があるのか? 道案内、ご苦労だったな」
言わんこっちゃない。
俺達は洞窟の入り口を背に、二百人くらいの海賊っぽい人達に囲まれていた。
「なっ! お前ら!」
「お宝は俺達がもらうぞ」
「アンソニー! テメー!」
ファーンが、俺達を囲んでいる海賊質の親分っぽいおっさんに叫んでいる。
だから、お前ら馬鹿ですか?
たった十人で二百人と戦えるほど、お前ら強くないじゃん!
剣を抜くな!
相手は、多分魔力を使わない銃ってのも、持ってるぞ?
勝てませんよ。
ここは、逃げるとか考えようよ。
「この宝はあたし等のもんだ! 絶対渡すもんか!」
「お前らの事など関係ない。宝は俺がいただく」
そう言って、相手の親分が指を鳴らすと、特に重装備をした三人が前に出てきた。
「あれは! 海兵殺しのアレックに、三十人切りのジムと死神ジャック! なんてこった」
なんか、凄そうな名前の三人だね。
『まぁ、人間にしては強いんじゃろう』
あんまり、俺を人間じゃないみたいに言うな。
「なんで、こいつらがお前のところに!」
「もちろん金で雇ったんだよ。この三人なら、十人くらいこちらに被害なく殺せるからな」
「くっ。ひきょう者!」
いや、向こうのほうが正しいと思うよ。
「姐さん! 行って下さい! ここは俺達が!」
「でも……」
「いいから! 行ってくだせぇ!」
「……分かった! 必ず宝をとって戻る! 皆! 死ぬなよ!」
そう言うと、ファーンが走り出したので、俺はカザルに目線を送る。
馬鹿でも、さすがに分かってくれたようで、カザルはファーンの後を追った。
「おい! 新入り!」
なんだ? ザコ?
「なんですか?」
「いきなりこんな墓地に連れてきちまって、すまねえな。ここは、俺達の命で何とか姐さんを逃がしてぇぇぇんだ」
海賊の仁義ってやつ?
「いいですよ」
「へへっ。あの世で一杯おごってやるよ」
臭いけど、悪い奴らじゃないんだよなぁ。
『ここで、死なせるには惜しい……か?』
そう言う事。
「では、お三方! 頼みます!」
重装備の三人がこちらに近づいてくる。
仲間の海賊達はその三人が恐ろしいのか、手が震えてる。
二百人を相手にしないといけないし、とっととやるか。
『うむ』
「さあ、死にたい奴から前に出ろ」
雑魚がなんか言ってる……。
ひっさぁぁぁぁつ!
『殺すのか?』
いや、動けなくするだけ。
パーンチ!
字名のある三人は、俺のパンチでそのまま砂浜に倒れ込んだ。
一応戦闘不能にするために、骨を一本ずつ折ったけどね。
「な……何しやがった!」
見えないほどの速度で三人を殴り倒した俺に、親分が叫んでくる。
「殴った」
「そんな馬鹿な! 何しやがったんだ?」
だから、殴ったんだって。
理解力ない奴だな。
「ええい! 野郎ども殺せ!」
親分の声で、二百人が俺に向かってきた。
ひっさぁぁぁぁつ!
『じゃから、それだと殺すと言っているんじゃぞ?』
分かってるけど、かっこいいじゃん!
必殺パンチって。
『まぁ、加減を間違えて殺さんように気をつけろ』
分かってるよ。
****
一分で十人、十分で百人。
二十分ほどで敵の海賊全員を動けなくした。
「お前は……一体何しやがった!」
何回聞くんだよ。
「だから、殴ったんだって」
「そんな……」
「それよりも。こっち」
「えっ?」
俺は親分だと思う奴の背後に、相手が知覚できない速度で回り込み、殴って気絶させた。
俺の動きは全く見えていなかったようで、背後から声をかけるとキョトンとしていた。
もちろんその顔のまま気絶させた。
『まぁ、人間相手ではこんなものじゃろうて』
歯ごたえがなさすぎる。
『それよりも一人……』
分かってる。
こそこそと、ファーン達について行った敵がいるな。
カザルのおっさんも一緒だし大丈夫だろ?
『だと、いいがのぉ』
分かったよ。
急いで、追っかけるよ。
口を開けたままの仲間の海賊をそのままに、俺は洞窟に入りファーン達の後を追いかけた。
****
「お嬢!」
「ああ、あれに間違いない!」
カザル達は、洞窟の奥にあった大きな空洞の中にいた。
隙間から光のさしこむそこには、石の台座と石碑。
そして、大きな宝箱があった。
「これに間違いない!」
「やりましたね! お嬢!」
「ああ! 石板には……」
「なんて書いてあるんですかい?」
「盟約の血をささげよ? されば、力は解き放たれる……」
「どう言う意味ですかい?」
「分からん……。この箱に血をかければ開くのか?」
「親父さんからは、何か聞いてないんですかい?」
「死んでから見つけた地図だからな……」
「そうですかい」
「あぐっ!」
ファーンは後頭部に強い衝撃を受け、気を失った。
「お嬢!」
そこでやっと、カザルが背後に人がいる事に気が付き、振り返った。
「久し振りだな、カザル」
「お前はザック! 何でお前が!」
「もちろん、宝をいただく為にきまってるだろうが!」
「なんでだ? お嬢はお前の事を……」
「こんなションベン臭いガキ! 俺にはどうでもいいんだよ!」
「お前は! 親父さんからの恩を忘れたのか!」
「はっ……。恩なんてないんだよ! 折角、海賊団をもらってやろうと思ってたのに、後継者をお前に選びやがったんだ! あのクソ野郎は!」
「なんだと?」
「わざわざ、俺を選びやすいように娘まで落としてやったのに、あのクソ親父は……。だから、毒を盛ってやったのさ!」
「親父さんの病気は!」
「ああ! 俺が仕込んだ毒だ。さすがに丈夫だったんで、半年もかかっちまったがな……」
「全部! お前が!」
「そうだ! 親父の遺産は全部俺の物だ!」
「お嬢はまだお前の事を……」
「ガキが、ちょっと優しくされたくらいでベタベタ、ベタベタと……。うっとおしかったんだよ!」
「お前と言う奴は!」
「さあ! お前らはあの世で、仲間と親父に会ってこいよ!」
まぁ……。
なんて頭の悪い会話。
『実際にあまり頭はよくないんじゃろう』
ちょっと、痛めつけてやるか?
『まぁ、殺さん程度にな』
俺は気配を消したまま移動し、ザックが振り上げたサーベルを奪い取り、太ももに突き刺した。
「なっ! ぐがああ!」
「レイ!」
「馬鹿な! 何でお前がここに?」
「外の仲間なら、仲良くお昼寝してるぜ?」
「おお! レイ!」
「ぎゃあああ!」
ザックが腰の銃を抜こうとするので、関節を曲げちゃいけない方向に曲げてみた。
もだえてるね。
「あ! お嬢!」
「カザルさん。そのままにしませんか? 宝は二人で運び出しましょう」
「お……おお。そうだな」
さすがに馬鹿も、察してくれたようだ。
さて、ザックにはファーン達に二度と近づかないように、お仕置きをするかな。
『まだやるのか?』
もちろん!
こんな汚いオヤジに似てると言われたのが、腹立つからね。
顔の形変わるまで殴る。
『……殺すでないぞ』
はいはい……。
「ひっ! ひぃぃ!」
逃げるザックを殴り飛ばそうとしたが、宝箱にしがみついて何かを警告してきた。
「よるな! 化け物! 今なら許してやるぞ? 良いのか?」
誰が化け物だ!
「許してくれなくていいから、殴らせろ」
「馬鹿が!」
誰が馬鹿だ!
『お前は、馬鹿とクズに反応しすぎじゃ』
だって……。
って!
おいおいおい!
ふざけんなよ!
なんだよ! あれは!
『わっ! 分からん!』
この魔力量って!
『Bランク? Aランクか! いやそれ以上か?』
洒落になってないって!
「ははは! これでお前は終わりだ! 俺がこの海の王になるんだ!」
ザックが宝箱の窪みに血を垂らした瞬間、とんでもない魔力が漏れ出してきた。
「カザル! ファーンを連れて早く逃げろ!」
俺は、カザルに急いでファーンを連れ出すように指示をした。
「なんだ? 気が付いたか? この宝は海を支配できるほどの力だ! あのクソ親父から奪うつもりだったものだ! さぁ! 死ね!」
くっ!
雑魚がムカつく!
『来るぞ!』
うおおお!
宝箱が開き、中からよく分からない白く大きな物が、真っすぐに俺へ伸びてきた。
それを俺は横に跳んで避ける。
「さあ! 俺の……えっ?」
宝箱から出てきた化け物に指示をしようとしたザックは、白くて太い足に吹き飛ばされた。
死んだんじゃね?
『……かも知れんな』
なんだか、この展開懐かしいな。
『魔人の時以来じゃな。人間とは己の器を超えるものなど、使役出来んと言う事じゃ』
だな……。
しかし、なんだこいつ?
『さぁな。来るぞ!』
****
俺が、化け物と戦闘に入ってから数分後、カザルは洞窟を抜けた。
「姐さん! カザルの兄貴!」
「おお! お前ら無事か?」
「レイの奴が一人で」
「そうか」
「それよりも、姐さんは?」
「多分、気絶してるだけだ」
「よかった。で、宝は?」
「あの……それがな」
化け物の足が直撃した石の壁は、爆音と共に砕け散る。
その衝撃によって、宝箱を置いてあった洞窟自体が、ガラガラと崩れ始めた。
「なっ! なんだ!?」
「ク……クラーケンだ!」
カザルが仲間に状況を説明しようとしていた時、岸壁が砕け中から巨大なイカが姿を現した。
「なんてこった……。親父さんがお嬢に伝えなかったのは、これだったからか……。まさか、本当にいるなんて」
「んっ……、カザル?」
「お嬢!」
「あああ! 宝は!?」
「それが……」
「あんな伝説の化け物どうするんだ……」
「おっ! あれ! レイだ! 戦ってやがるぞ!」
「あいつは一体……」
海賊たちがただ見ている中で俺は……。
もちろん必死です!
何十メートルもあるイカが襲ってくる!
反則だろこれ!
おおう!
振り抜いた足が、小さな島を吹き飛ばしやがった!
でかすぎる!
それも、足を斬ってもすぐに生えてきやがる!
『わしと同じ方法で、魔力を使い回復しておる!』
くっそ!
足をいくら斬っても同じだ!
敵の弱点……。
あそこか!
両目の真ん中に強い魔力を感じる。
あそこを攻撃出来れば!
〈ホークスラッシュ〉
俺は、衝撃波を放つ。
って! マジかよ!
イカは体を海に沈めて、衝撃波をいともあっさりと避けやがった。
どうする?
敵は十本のドデカイ足を振り回してくる。
リーチが長すぎて懐に飛び込めないし、斬ってもすぐに生えてくる。
こっちの遠隔攻撃はあのクソデカイ目で、確実に捉えられて海の中に逃げて行かれる。
今は水面を走っているが、海の化け物に海の中での戦闘を挑むのは勝ち目ないし……。
どうすりゃいいんだ!
敵の攻撃もギリギリ躱せてるだけだぞ!
このままだと、力尽きて殺される!
『落ち着け! 糸口を見つけるんじゃ!』
見つからん!
それもさっきから本体は常時海に体を沈めて、足だけ海面から出してきやがる!
攻撃が本体に届かない!
どうするんだ! くそっ!
なんて、俺が命かけてる最中に、海賊達はカザルから説明を受けていた。
「じゃあ……」
「へい。そうです。幽霊船もレイの奴が……」
「なんてこったい……。あたしは勘違いを……」
「へい」
「それよりも、どうにか出来ないのか? あの怪物を! レイが殺されちまう!」
「お嬢……。言い伝え通りなら、あの化け物はどうしようもありやせん」
「そんな……」
「あたしが、ザックなんかに騙されたせいで……」
「ひぃ……ひぃ」
「あれは! ザック!」
「助けてくれ、ファーン」
「この外道が!」
カザルが洞窟を這って出てきたザックを殴ろうとしたが、それをファーンが止める。
「おお! ファーン。俺はお前の事を……ぶげっ!」
ファーンは這いつくばるザックの頭を、ボールのように思いっきり蹴り飛ばした。
「あたしもまだまだって事だねぇ! こんなクズに引っ掛かるなんて……。命はないと思いな! ザック!」
「ひょひょんな……」
「カザルから全部聞いたんだよ! もう、お前なんかに未練はないよ!」
いやいや……。
カザルのおっさんよ。
ファーンが傷付かないように黙ってろっていう意味で、起こすなっつったのに。
全然理解してないじゃん!
全部ばらしてるよ! このオヤジ!
意味がわからないなら分かったように頷くな!
これで、海賊たちの問題は解決したんだが、俺の問題はまだまだ続いていた。
糸口が見つからない。
全く勝てる気がしない。
今も、水面を走ってただ敵の攻撃から逃げることしかできていない。
どうする?
『足をかいくぐり、海水にはいるのではなぶり殺されるのぉ』
せめて、海水さえなければ……。
あっ!
ジジィ!
『うむ……已む無しか。このままでは殺されるしのぉ』
ああ!
一か八か! いつもの事だ!
行くぞ!
『うむ! フィールドを全開にするぞ!』
〈ファルコンスラッシュ〉
空中に飛び上がった俺は、衝撃波を超高速で二発放った。
極僅かな誤差で重なった三日月状の衝撃波は、回転を始め、敵に真っ直ぐ進む竜巻を作り出す。
その強力な竜巻は、イカの足ごと海水を吹き飛ばし、本体をむき出しにした。
すでに空中にいた俺は、その竜巻の中心目掛けて、空気の壁を蹴って跳び込む。
もちろんそれだけで、俺の体は引き裂かれそうになるが、フィールドで何とか致命傷だけは防げている。
とった!
〈メテオストライク〉
俺は、化け物のコアを切り裂いた。
その瞬間、中からとんでもない量の魔力が噴き出してきた。
****
これは……。
『……記憶か?』
ああ……。
海で死んでいった人間達の記憶が、俺の中に流れ込んできた。
あの宝箱は、そう行った無念の魂を取り込み、この怪物の餌にする装置だったようだ。
誰がいつ作ったかは知らないが、本来はあの箱を開けた人間に使役出来るようにしたかったんだろう。
しかし、長い間魔力を貯め込み強くなりすぎた化け物は、制御不能になってしまったようだ。
勘弁しろよ……。
てか、あれ?
これって?
『……フィールドは全開にする』
ええ~……。
俺の視界は真っ白になっていく。
巨大な魔力のぶつかりで、大爆発が起こった。
記憶に気を取られて逃げ損ねた!
またこれかよ!
最後に爆発で吹っ飛ぶって、俺はどこの悪役なんだよ!
ちくしょう! 勘弁しろよ!
****
「姐さん!」
「ああ! レイの奴やりやがった!」
「すげー!」
「カザル?」
「へい」
「もう少し、あたしに付き合ってくれるか?」
「へい。海賊を続けるんで?」
「ああ! レイとなら最高の海賊団が作れる……」
「そうですかい」
「野郎ども! 船を出せ! レイを迎えに行くよ!」
「へい!」
****
俺が目を覚ましたのは、それから一時間後だった。
ええと……。
おい! ジジィ!
『なんじゃ?』
なんだ? これは?
『見ての通りじゃ』
言ってみろ! なんだこれは?
『生きとるじゃろうが……』
なんだよ、これ~。
もし俺が勇者なら、ここでファーン達に助けらており、船の中で目を覚ますだろう。
でも、俺は……。
海の上なんですけどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
なんだよこれ!?
『かなり吹っ飛ばされたからのぉ』
俺は目が覚めると、流木と一緒に海で波に揺られていた。
ふっざけんなよ!
また、漂流に戻ってるじゃないか!
これなら、ファーン達に助けられる前のほうが、リンゴもあってマシだったじゃないか!
なんで、人を助けて状況が悪化してるんだ!
『所詮はお前じゃからのぉ……』
俺はどうすればよかったんだよ!
言ってみろ! 神様!
何が気に入らないだ!
気に入らないなら口で言えよ!
毎回命の危機とかに俺を落とすな!
死ねや! ボケが!
もぉ~……。
やってらんね~……。




