三話
……父さん。
母さん……。
今会いに行きます……。
『……諦めるな』
もう疲れたよ、ジジィ……。
お休み……。
『はい、お休み……』
……。
励ませよぉぉぉぉぉ!
人に諦めるなって言うなら、自分も諦めるなよ!
なんだよ! それ!
『こう起きてる時間の間中、毎日毎日同じ事言われれば、あきるじゃろうが!』
だってさぁぁ……。
軽く死にそうだよ?
つか、俺は何で死なないの?
なんかの呪い?
『運は悪いが、悪運というのか、ギリギリの運はあるんじゃろう……』
ははは……。
殺す! 絶対殺す!
もう! お前は土下座しても許さん!
神様さぁぁ……。
ぎりぎり運じゃなくて、普通の運頂戴よ……。
なんで、悪運なんだよ……。
普通の運でいいじゃんよぉぉ……。
やってらんね~……。
****
ただいま俺は、海の上で樽にしがみついてます。
なんで?
何でと言われても……。
俺もわかんねぇぇぇんだよ!
なんじゃ、これ!?
勘弁してくれよ……。
『もう一度言ってほしいのか?』
暇だしね……。
『お前が気を失った小舟は、満ち潮で沖に流された。そして、海獣に襲われ小舟を壊されたお前は、小舟にあった樽につかまって……今に至る』
今に至るってなんだよ!
起こせよ!
『何回も声をかけたが、起きなかったのはお前じゃろうが!』
くっ……。
それにしても……。
何で、小舟はロープとかで固定されてないの?
『さぁ……。お前だからじゃないかのぉ』
人を不幸の代名詞みたいに言わないで!
つか、餓死が嫌だって言っただけで、これだよ……。
レーム大陸出てから俺は、戦闘と関係ないところで何回死にそうになってるんだよ……。
なんで殺すほうに全力出してきてるんだよ。
もぉ~……。
腹が減ったな……。
俺は樽のふたを開け、リンゴを取り出し、かぶりついた。
塩水に浸かっているせいか、日持ちしてくれている。
それとも、リンゴって元々日持ちするのか?
ああ……お肉食べたい……。
おぉぉにぃぃぃくぅぅぅ!
『五月蠅い! どうにもできんじゃろうが!』
はぁ~……。
俺は、このリンゴと生の魚で飢えを凌いでいる。
えっ?
海を走れば?
それが無理なんですよ……。
あれって結構体力使うし、見渡す限り海だけ……。
島影さえ見えないんだよ……。
ここから走れば、間違いなく死ぬ……。
死ねば……。
死ぬ時……。
『誰と喋っておるんじゃ? 遂に幻聴か?』
誰かに話しかけるつもりにならないと、ストレスで死にそうなんだよ……。
『そっ……そうか』
船影や島影さえあれば、リンゴを腹いっぱい食って走り出すのに……。
あと何日もつかな……。
『よくて、一週間くらいではないか?』
「はぁぁ……」
俺って結構体力あるよね?
『そうじゃな……。この生活が始まって一週間……。普通なら死んでいても、おかしくないからのぉ……』
神様は、俺の何が気に入らないんだろうか……。
『……全部?』
死ねってか!?
俺に死ねって言ったよな! 今!
なんで、このギリギリの状況で生きる気力を奪おうとするんだ!?
お前が死ねよ! ジジィ!
『わしに八つ当たりするな! だいたい……』
おい!
『なんじゃ!? お前はとことん人の話を……』
おいって、ジジィ!
違うんだって!
『だから、なんじゃ?』
あれぇぇぇぇぇ!
船ぇぇぇぇぇ!
『おお! まさに船じゃ!』
走ろ……おおお!
こっちに来てくれてる!
た~すかった~……。
『……ふぅぅぅ』
なんだ? ジジィも結構不安だったんじゃないか……。
『五月蝿い。……わしは眠るぞ? 起きた時、まだ海で漂流しておれば、わしは一人でレーム大陸に帰る』
はいはい、どうぞ。
****
おっ! 梯子おろしてくれた!
よかった~……。
「樽も持ってこい!」
お?
船乗りってのは、荒くれ者が多いっていうもんな。
俺は樽を担いで、梯子を上った。
上ったんだけど……。
なぜ、剣を構えられてるんだ?
助けてくれたんじゃないの?
「お前だけか?」
「はぁ……」
「その樽には何が入ってる?」
「リンゴですけど……」
「よこせ!」
臭そうな男が、俺から樽をひったくって行った。
なんか……。
雰囲気が変だ……。
「おい! テメーは何者だ? 何で漂流してたんだ?」
「乗ってた小舟が、海獣に襲われまして……」
「兄貴! こいつの右腕!」
「んん? 見たことない刺青だが……。何だ? 前科者か?」
俺の右腕にある魔剣の紋章を見て、何かを勘違いしたようだ。
「えっ……、いや……」
「まぁ、何の役にも立ちそうにない小僧だ」
「兄貴、やっちまいますか?」
ええぇぇぇ。
何? こいつら……。
逆にボコボコにして船奪うぞ?
「やめな!」
ん……。
んんっ!?
俺は、男二人をいさめる女性の声に振り向いた。
そこには、露出度の高い服を着た女性が立っていた。
「姐さん! でもよぉぉ……」
「でもも、何もない! 漂流者を助けるくらいの仁義を忘れて、海賊がやっていけるか!」
「へい……」
その女性の言葉で、臭そうな男二人が引き下がって行った。
てか……。
海賊?
うわさや文献では読んだ事はあるけど……。
なに?
俺は海賊に助けられたの?
「悪いな、小僧。私はファーン。この船の船長で、海賊だ」
「あっ……俺はレイです。ちょっとした手違いで漂流してました」
しかし……。
ファーンって、俺の事小僧って呼んだけど、ほとんど年変わらないんじゃないの?
ショートカットに、よく焼けた肌……。
胸はいまいちだけど、露出度の高い服ってのはいいね。
もう、服って言うかビキニと超ミニのホットパンツだけどね。
うん、合格。
「で、レイよ。お前はどうする?」
「何がでしょうか?」
「助けてはやったが、この船は海賊船であたし達は海賊だ。助けてやってタダってわけにはいかないぞ?」
「ああ……。でも、俺今は何も持ってないですよ? 持ってたリンゴも、もう渡しましたし」
「お前、その服だと、機械いじりは得意か?」
「普通くらいには……」
「なら、この船が港に着くまで乗せてやる代わりに、この船で働け!」
例え海賊船だったとしても、港まで乗せてくれるなら、働くことに異存はない。
てか、俺にしては運がいいくらいだ。
「ああ……はい」
「決まりだ! おい! 野郎ども! こいつはレイ! 新入りだ! かわいがってやんな!」
「へ~い!」
****
こんな感じで、俺は海賊船の下働きをすることになった。
船酔い?
俺の適応能力舐めんなよ!
樽に揺られて波を漂ってたんだ!
克服したわ!
生きるために……。
「えっと……、カザルさん?」
「なんだ?」
「俺、船とか詳しくないんですけど……。海賊ってこういった人数なんですか?」
二日ほど船に乗り、船員全員に挨拶をしたが十人しかいなかった。
ファーンを合わせて十一人……。
その上、船は魔力装置なしの風力だけで進む、ものすごい旧式木造船……。
これホントに海賊船?
「まぁ……。色々あるんだ」
「はぁ……」
「また、ゆっくり話してやるから今は働け!」
「へい……」
この話しかけたカザルって初老のオヤジは、船員の中で一番まともに話が出来る奴だ。
他はなんだか荒っぽくて、食事のときは下品なことしか言わない、バカばっかり……。
乗せてもらってるし、命の恩人だから文句は言わないようにしてるけど……。
海賊って、思ってたよりショボイ。
****
「がはははっ! だから、女なんて……」
「ちげぇぇよ!」
……。
うっぜぇぇ……。
会話の内容が、未成年向けじゃない……。
何だ? この下品さは……。
そんなに彼女がほしいなら、まず風呂に入れよ。
臭いんだよ。お前ら!
夕食を食べている席では、毎日海賊達が女性にギャンブル等を話題に、話していると言うよりも、大騒ぎしている。
特にほんとかどうか分からない昔の武勇伝の事となると、海賊共はいっそう声が大きくした。
新入りの俺は、配膳して端っこでモソモソと食べ終わり、片づけをする事になっている。
「どうだぁぁ? レイ? ちょっとは慣れたか?」
一人の海賊が、肩を組んできた。
臭いから触るなよ。
「おめぇぇは、本当にクールを気取って面白くねえなぁぁ。そんなんじゃあ、おめぇぇ……。女にもてね~ぞ?」
ほっとけ! 殺すぞ!
「で? 十七だったか? どうなんだ? 丘に女は待ってるのか?」
待っている……。
のか? あの三人は、どこまで本気なんだか分からないしな……。
「まぁ、まだガキのお前には早かったか? 女ってのはな……」
もう、五月蠅い。
ウザいから俺に絡むな!
「……つまりだ! 金さえありゃ、男は外見なんて関係なく、女にもてるんだ」
なんですと!?
そうなのか……。
「おっ! やっと、反応しやがったな。なんだ、やっぱり興味あるんじゃねぇぇか! つまりだな……」
興味はあるけど、お前らと話がしたくなかっただけなんだけどね。
その海賊曰く、男性は夢や趣味で生きていけるが、現実的な女性はまず先立つものがないと駄目なんだそうだ。
その代わり、金さえあれば性格や外見が悪くても、綺麗な女性をものに出来ると……。
まぁ、話し半分で聞いておこう。
実際、完全に間違いだとも思えないし。
その臭い海賊は金の為に、海賊を続けているそうだ。
でも、効率いいのかな?
旅客船を襲って金品強奪じゃあ、あんまり儲からないような気がするんだけどな……。
「なんだ? そんなに俺が信用できないってのか?」
「いえ、でも……」
「まぁ、待ちな! こいつは例の事知らないから、仕方ないさ!」
反論しようとした俺に、ファーンが声をかけてきた。
例の事?
「姐さん! まだこいつには!」
「いいじゃないか! こいつももう仲間だ! それにどの道ってやつだ!」
「へい……」
「あの……。例の件って?」
「お前、姐さんに気に入られたみたいだな。確かにザックにどっか似てるしな。まぁ、これから長い付き合いになりそうだ」
そう言うと、臭い海賊は俺から離れて行った。
……。
主語がない!
何が言いたいかが、全くわからん!
ちゃんと喋れよ!
「お前はこれから、あたし達と一緒に宝を探しに行くんだ!」
馬鹿女は、もっと訳のわからない事言い始めやがった……。
何だよ、こいつ?
宝?
ん?
宝あるの!?
「驚いてるなぁ? 今この船は、あたしの親父が残した地図で、宝の島に向かってるんだ!」
ええ~……。
聞いてませんけど?
「あの、港には?」
「このまま真っすぐ島に向かう!」
駄目だ……。
会話が成り立たない……。
「いや、あの……。俺もそこに行くんですか?」
「当り前だろうが! 心配するな! 分け前はちゃんと渡してやる!」
駄目だ……。
会話が出来ない……。
はは~ん。
こいつ、頭が残念なんだな。
どうしよう、一応言っておこうかな?
カーラ達を待たせ過ぎると、殺される危険が高まるしな。
「俺、どこかで降り……」
大きな音を出して、机が揺れる。
俺の前に、ファーンがナイフが突き立てたのだ。
「なんか言ったか?」
「いえ……」
強制ですね、分かります。
くっそ!
こんな海の上じゃあ、拒否権がない!
船を奪っても、操舵出来ない……。
なんか、はめられた。
誰かにはめられた!
誰かは知らないけど。
そこから、海賊達はファーンを加えて宝が何かと、どれくらいあるかと言う話で盛り上がり始める。
確かに金はほしいけど……。
なんか、イマイチやる気が出ないんだよな。
人に強制されるとやりたくなくなるのは、仕方ない事かな?
汚いおっさん共が目をキラキラさせて……。
宝ってのに人生かけてるんだろうなぁ。
あ~……。
やる気しね~な。
島影でも見えたら逃亡するか?
でも、そこが無人島とかだったら洒落にならないしな。
はぁぁぁぁぁ。
仕方ない、付き合うか。
このザコどもよりは、生き残れるだろうしな。
なんか、面倒くさいな。
てか、ジジィ最近ほとんど寝てるな。
俺には言わないが、俺の命を魔力でつないでくれてれてたんだろうなぁ。
俺の周りって素直な奴が全くいない……。
なんだ? 何が悪いんだ?
俺か?
俺が悪いのか?
この俺が!
いやだ! 認めない!
はぁ~……。
****
俺が、食事の片づけをして甲板で夜の海を眺めていると、カザルが隣に寄って来た。
「お前、昼間俺に聞いたな? この海賊の事」
ああ。
「はい。なんか、思ってたより人数が少ないような……」
「その通りだ」
うん……そこで、黙るな!
この船には会話が出来ない奴しかいないのか?
「この海賊船は、ファーンの親父さんが元々船長だったんだが……」
それからカザルは、この海賊の事を喋り始めてくれた。
ファーンの父親が百人以上の海賊をまとめていたそうだ。
だが、その父親は三年前に死んだそうだ。
そして、海賊はばらばらになり今残っている十人は前船長に恩があるか、宝を諦めていない奴だけで、実際の海賊行為はやっていないと言う事だった。
まぁ、こんな旧型船と十人じゃあ旅客船なんて襲えないよな……。
なんか、面倒な船に拾われたもんだ。
てか、カザルよ!
こんな話に、一時間もかけるな!
どれだけ喋るの下手なんだよ!
五分で話せるだろうが!
つっても、この船じゃあ教えてくれるだけましか。
この際、もう一つ聞いておこう。
「あの、ザックって誰ですか?」
「お前! なんでそれを?」
「さっき食事の時にちょっと……」
「……これは、俺が言った事は秘密だぞ。つまりだな……」
んっ……。
長ぁぁぁぁぁぁぁぁい!
ザックが前の副船長で、ファーンの元彼ってのを喋るのに、どれだけ時間食うんだ!
アホか!
いや、アホだお前!
「そう言う事でな……。次の港まででいいから……。あの、あれだ……。お嬢には……。その……。あれだ」
駄目だ。
もう付き合いきれん!
「袖振りあうも何かの縁です。裏切ったりしませんよ。この船に乗り続けるかは保証しませんが」
「お……おお。頼んだぞ」
それだけ言うと、カザルは船室に戻って行った。
会話を始めてから、約二時間……。
もう、この船の誰とも会話したくない……。
馬鹿だらけ。
しかし、まぁ……。
状況は分かった。
ファーンは大好きだった親父さんの海賊団を存続したいから、軍資金の為に宝を探しに向かってるって事だよな。
しかし、ザックって最低の奴だな……。
十五歳のファーンを口説いて五年も付き合ったのに、一番最初に反旗を翻すなんて……。
カザルの話だけだと分かり難いから推測になるけど、多分海賊団の分解はザックのせいじゃないのか?
その最低野郎に、俺似てるのか?
なんか嫌だな。
さて、全員船室で休んでるし俺は修練でもするかな。
どの道、俺が朝まで起きてる当番だし。
****
朝日が昇ると同時に見張りを交代した俺は、船室で眠る事にした。
もう、完全に船には慣れたな。
おおう!
なに!?
俺が布団に入った瞬間、大きな音とともに船が大きく揺れた。
甲板から叫び声が聞こえる。
何だ?
俺の睡眠の邪魔をするなよ!
甲板に出て見ると俺達の乗っている船は、二台の船に挟み込まれていた。
「さあ! 今日こそ返事を聞かせてもらおうか!」
「誰がお前なんかの物になるか!」
「仕方ねぇ。力尽くってのが俺達には、似合ってるだろう! さぁ、今日からお前は俺のものだ!」
なるほど、推測できた。
ファーンは見た目悪くないからな。
あの同業らしい男に、口説かれてたんだろう。
そんで、今日はいい返事がもらえなかったあの汚いおっさんが、力尽くって事だよな。
俺達の乗る船にわざとぶつけられた船は新型で傷も付いてないが、こっちの船は軋んでる。
相手の海賊は、気配からすると五十はいるな……。
人間は魔力が少ないから、分かり難い。
さて……。
やっぱりこの船の船員は、バカばっかりだな。
この人数差で勝てるはずないのに、全員が武器を構えてるよ。
仕方ない、助けて……。
んん!?
何だ!?
これは……。
『……気をつけるんじゃ』
ジジィ、起きたか! てか、これ何だ?
『わしも、航海の経験は少ないのでな……』
使えん奴だ……。
『お前は……』
今の今まで快晴だった空が、真っ暗になり海が荒れ始めた。
そして、辺りに濃度の高い魔力が立ち込める。
敵の可能性が高い……。
にらみ合っていた海賊共も、辺りの異変に騒ぎ始めている。
「なんてこった! 奴が来るぞ!」
「最悪だ!」
「船を出せ!」
敵の海賊船が、急いで逃げだしていく。
流石に、魔力動力炉がついてるから、向こうの船の足は速いな。
こちらの船も皆が焦って、移動の準備をしている。
なにか分かってるのか?
「あの、カザルさん? 何が?」
「馬鹿か!」
誰が馬鹿だ! この馬鹿!
「幽霊船がくる前触れだ! 死にたくなかったら、お前も準備を手伝え!」
幽霊船?
はぁぁぁ、さすがに色々あるんだね。
****
俺はとりあえず荒れる波に煽られる船で、仕事を手伝う。
てか、言ったほうがいいかな?
『信じてもらえるか分からんが、言ったほうがいいじゃろうな』
実は、魔力感知が出来る俺しか気付いていないようだが、魔力の強いほうに船が向かっている。
正確には、多分幽霊船ってのに回り込まれたんだと思う。
「あの……えと……」
「手を休めるな! 死にたいのか!」
全員操舵に必死で、話を聞いてくれないよ。
「おい! あれ!」
っと……。
さっきの逃げたはずの最新型海賊船が、二台とも大破していた。
人の気配は……。
駄目だ。やられたな。
なっ!
下!?
「皆! 来るぞ!」
幽霊船と思われる魔力が、船の下にもぐりこんだ。
船ってくらいだから、見えるもんだと思ったけど、俺の常識は通じないようだ。
俺が叫ぶと同時に、甲板に骸骨が昇ってき始めやがった。
『……アンデッドじゃな』
ああ……。
普通の攻撃はきかないだろうな。
さっきからファーン達が斬りかかってるけど、全くダメージを与えられてない。
死人が出る前に助けてやるか。
『おい! あれを見るんじゃ!』
は?
あれは……。
ああ!
さっきの海賊!
何で敵として、骸骨に混じってんだよ!
『殺した相手を仲間に出来ると言う事ではないかのぉ?』
ここで死んだら、一生幽霊船暮らしか。
船が沈む前に助けよう!
『うむ!』
俺は魔剣を出し、船に昇ってくる骸骨や死体を斬り捨てる。
だが、数が多い。
その上、船が揺れまくっているせいで、俺も速度が出せない。
ファーン達は必死骸骨達に応戦しており、俺のさがれという言葉も聞こえていないようだ。
甲板が海水で滑る。
思うように動けない! くそ!
どうする?
見る間にファーン達が取り囲まれていく。
皆、体のどこかを負傷していた。
まだ死人は出ていないが、それも時間の問題だろう。
うおっ!
俺が、近くの骸骨を斬り殺していると、強力な気当たり?
いや、魔力そのものが仲間達に当てられた。
カザル以外の全員、呼吸が出来なくなったのか倒れて気を失っていく。
魔力をたどると、船首に変な服とサーベルを持った巨大な骸骨がいた。
『親玉登場じゃな』
ファーン達がやられる!
ええい!
俺は、マストに向かい跳ぶと、そのマストを蹴ってファーン達の前に移動した。
うおっと! 着地も滑る!
「レイ! お前だけでも逃げろ!」
カザル……。
裏切らないって約束しただろうが。
どう戦う?
百体以上はいるし、囲まれている。
日ごろの俺なら問題ないが……。
『気絶した十人を守るのは、至難じゃな』
足場が滑りすぎる。
いや? 滑る?
いけるか!
『死神の剣術に、死角はないのじゃろう?』
ああ!
ここを元々水面だと思って移動すれば!
『うむ!』
俺は、わざと滑るように移動を開始した。
元々足場の関係ないようにさえ動けば、このくらいの敵問題ない!
俺は仲間を周囲に円を描くように、高速移動しはじめた。
よし! これだけ動ければ問題ない!
敵は瞬く間に塵へと変わっていく。
「レイ……お前……」
雑魚をほとんど片付けた所で、水面が盛り上がり、海水が甲板に大量に流れ込んできた。
幽霊船の本体が、顔を水中から出したのだ。
あれが、魔力の元になってるな。
『うむ。あの船長らしき骸骨も、本体ではないようじゃ』
船そのものから魔力が漏れ出して、骸骨達を操作しているのが感知できた。
「レイ!」
幽霊船に気をとられて足をとめた俺に、ボス骸骨が斬りかかってくる。
それを見ていたカザルが、俺に知らせようと叫ぶ。
うっさい……。
俺は、ボス骸骨に顔を向けることもなく斬り捨てた。
魔力は常に感知してますってば。
こんなザコにやられるわけないじゃん。
さて、とっとと終わらせよう。
『そうじゃな』
なんせ眠くて仕方がない。
俺は船から飛び降り海面を蹴ると、幽霊船の上空へ跳び上がった。
そして、爆発させた力で、船を両断した。
船ごと怪物だったようで、斬り捨てた船全体が塵へと変わっていく。
「ふぅぅ」
魔力が充填出来たな。
『そうじゃな。一体一体は弱いが、数をこなせたからのぉ』
俺達にとってアンデッドって、ただの餌だもんねぇ。
『まぁ、魔力を丸出しにしておる連中じゃからな』
俺はそのまま自分の船に、水面を蹴って戻る。
****
辺りを覆っていた雷雲がはれていき、元の快晴になった。
天候まで操るなんて、大したことない魔力のわりには凄い事するな。
『まぁ、ここは新天地じゃ。色々おるじゃろう。思い込みはよくないと言う事じゃろうな』
そうだな。
てか……眠い……。
もう、無理。
「レイ、お前何者だ?」
「漂流してた、魔剣使いです」
「魔剣? お前一体……」
見て分からん奴には、言っても分かんないと思うんだけどな。
それに、カザルは理解力もいまいちだから、説明が面倒だ。
もう眠いし。
「あの、後でゆっくり話しますから……。寝てもいい?」
「おっ……おお」
何か言いたそうなカザルにファーン達を任せて、船室に戻った俺は眠りについた。
だって三六時間労働の後だからね。
****
その日は何時もに比べ、嫌な思いをしなかった。
流石に新天地だけあって、俺の運気も変わったかな?
なんて考えもしたんだけどね。
もちろん、そんなわけがないんですよ。
既にものすごく面倒事に巻き込まれているのに、俺は全く気が付きませんでした。
てか、分かるか!
今回情報を喋れる奴どころか、まともに会話できる奴いないじゃんか!
大事なことは先に伝えようよ!
もぉ~……。
やってらんね~……。




