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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第四章:新大陸の定め編
43/106

三話

……父さん。


母さん……。


今会いに行きます……。


『……諦めるな』


もう疲れたよ、ジジィ……。


お休み……。


『はい、お休み……』


……。


励ませよぉぉぉぉぉ!


人に諦めるなって言うなら、自分も諦めるなよ!


なんだよ! それ!


『こう起きてる時間の間中、毎日毎日同じ事言われれば、あきるじゃろうが!』


だってさぁぁ……。


軽く死にそうだよ?


つか、俺は何で死なないの?


なんかの呪い?


『運は悪いが、悪運というのか、ギリギリの運はあるんじゃろう……』


ははは……。


殺す! 絶対殺す!


もう! お前は土下座しても許さん!


神様さぁぁ……。


ぎりぎり運じゃなくて、普通の運頂戴よ……。


なんで、悪運なんだよ……。


普通の運でいいじゃんよぉぉ……。


やってらんね~……。


****


ただいま俺は、海の上で樽にしがみついてます。


なんで?


何でと言われても……。


俺もわかんねぇぇぇんだよ!


なんじゃ、これ!?


勘弁してくれよ……。


『もう一度言ってほしいのか?』


暇だしね……。


『お前が気を失った小舟は、満ち潮で沖に流された。そして、海獣に襲われ小舟を壊されたお前は、小舟にあった樽につかまって……今に至る』


今に至るってなんだよ!


起こせよ!


『何回も声をかけたが、起きなかったのはお前じゃろうが!』


くっ……。


それにしても……。


何で、小舟はロープとかで固定されてないの?


『さぁ……。お前だからじゃないかのぉ』


人を不幸の代名詞みたいに言わないで!


つか、餓死が嫌だって言っただけで、これだよ……。


レーム大陸出てから俺は、戦闘と関係ないところで何回死にそうになってるんだよ……。


なんで殺すほうに全力出してきてるんだよ。


もぉ~……。


腹が減ったな……。


俺は樽のふたを開け、リンゴを取り出し、かぶりついた。


塩水に浸かっているせいか、日持ちしてくれている。


それとも、リンゴって元々日持ちするのか?


ああ……お肉食べたい……。


おぉぉにぃぃぃくぅぅぅ!


『五月蠅い! どうにもできんじゃろうが!』


はぁ~……。


俺は、このリンゴと生の魚で飢えを凌いでいる。


えっ?


海を走れば?


それが無理なんですよ……。


あれって結構体力使うし、見渡す限り海だけ……。


島影さえ見えないんだよ……。


ここから走れば、間違いなく死ぬ……。


死ねば……。


死ぬ時……。


『誰と喋っておるんじゃ? 遂に幻聴か?』


誰かに話しかけるつもりにならないと、ストレスで死にそうなんだよ……。


『そっ……そうか』


船影や島影さえあれば、リンゴを腹いっぱい食って走り出すのに……。


あと何日もつかな……。


『よくて、一週間くらいではないか?』


「はぁぁ……」


俺って結構体力あるよね?


『そうじゃな……。この生活が始まって一週間……。普通なら死んでいても、おかしくないからのぉ……』


神様は、俺の何が気に入らないんだろうか……。


『……全部?』


死ねってか!?


俺に死ねって言ったよな! 今!


なんで、このギリギリの状況で生きる気力を奪おうとするんだ!?


お前が死ねよ! ジジィ!


『わしに八つ当たりするな! だいたい……』


おい!


『なんじゃ!? お前はとことん人の話を……』


おいって、ジジィ!


違うんだって!


『だから、なんじゃ?』


あれぇぇぇぇぇ!


船ぇぇぇぇぇ!


『おお! まさに船じゃ!』


走ろ……おおお!


こっちに来てくれてる!


た~すかった~……。


『……ふぅぅぅ』


なんだ? ジジィも結構不安だったんじゃないか……。


『五月蝿い。……わしは眠るぞ? 起きた時、まだ海で漂流しておれば、わしは一人でレーム大陸に帰る』


はいはい、どうぞ。


****


おっ! 梯子おろしてくれた!


よかった~……。


「樽も持ってこい!」


お?


船乗りってのは、荒くれ者が多いっていうもんな。


俺は樽を担いで、梯子を上った。


上ったんだけど……。


なぜ、剣を構えられてるんだ?


助けてくれたんじゃないの?


「お前だけか?」


「はぁ……」


「その樽には何が入ってる?」


「リンゴですけど……」


「よこせ!」


臭そうな男が、俺から樽をひったくって行った。


なんか……。


雰囲気が変だ……。


「おい! テメーは何者だ? 何で漂流してたんだ?」


「乗ってた小舟が、海獣に襲われまして……」


「兄貴! こいつの右腕!」


「んん? 見たことない刺青だが……。何だ? 前科者か?」


俺の右腕にある魔剣の紋章を見て、何かを勘違いしたようだ。


「えっ……、いや……」


「まぁ、何の役にも立ちそうにない小僧だ」


「兄貴、やっちまいますか?」


ええぇぇぇ。


何? こいつら……。


逆にボコボコにして船奪うぞ?


「やめな!」


ん……。


んんっ!?


俺は、男二人をいさめる女性の声に振り向いた。


そこには、露出度の高い服を着た女性が立っていた。


「姐さん! でもよぉぉ……」


「でもも、何もない! 漂流者を助けるくらいの仁義を忘れて、海賊がやっていけるか!」


「へい……」


その女性の言葉で、臭そうな男二人が引き下がって行った。


てか……。


海賊?


うわさや文献では読んだ事はあるけど……。


なに?


俺は海賊に助けられたの?


「悪いな、小僧。私はファーン。この船の船長で、海賊だ」


「あっ……俺はレイです。ちょっとした手違いで漂流してました」


しかし……。


ファーンって、俺の事小僧って呼んだけど、ほとんど年変わらないんじゃないの?


ショートカットに、よく焼けた肌……。


胸はいまいちだけど、露出度の高い服ってのはいいね。


もう、服って言うかビキニと超ミニのホットパンツだけどね。


うん、合格。


「で、レイよ。お前はどうする?」


「何がでしょうか?」


「助けてはやったが、この船は海賊船であたし達は海賊だ。助けてやってタダってわけにはいかないぞ?」


「ああ……。でも、俺今は何も持ってないですよ? 持ってたリンゴも、もう渡しましたし」


「お前、その服だと、機械いじりは得意か?」


「普通くらいには……」


「なら、この船が港に着くまで乗せてやる代わりに、この船で働け!」


例え海賊船だったとしても、港まで乗せてくれるなら、働くことに異存はない。


てか、俺にしては運がいいくらいだ。


「ああ……はい」


「決まりだ! おい! 野郎ども! こいつはレイ! 新入りだ! かわいがってやんな!」


「へ~い!」


****


こんな感じで、俺は海賊船の下働きをすることになった。


船酔い?


俺の適応能力舐めんなよ!


樽に揺られて波を漂ってたんだ!


克服したわ!


生きるために……。


「えっと……、カザルさん?」


「なんだ?」


「俺、船とか詳しくないんですけど……。海賊ってこういった人数なんですか?」


二日ほど船に乗り、船員全員に挨拶をしたが十人しかいなかった。


ファーンを合わせて十一人……。


その上、船は魔力装置なしの風力だけで進む、ものすごい旧式木造船……。


これホントに海賊船?


「まぁ……。色々あるんだ」


「はぁ……」


「また、ゆっくり話してやるから今は働け!」


「へい……」


この話しかけたカザルって初老のオヤジは、船員の中で一番まともに話が出来る奴だ。


他はなんだか荒っぽくて、食事のときは下品なことしか言わない、バカばっかり……。


乗せてもらってるし、命の恩人だから文句は言わないようにしてるけど……。


海賊って、思ってたよりショボイ。


****


「がはははっ! だから、女なんて……」


「ちげぇぇよ!」


……。


うっぜぇぇ……。


会話の内容が、未成年向けじゃない……。


何だ? この下品さは……。


そんなに彼女がほしいなら、まず風呂に入れよ。


臭いんだよ。お前ら!


夕食を食べている席では、毎日海賊達が女性にギャンブル等を話題に、話していると言うよりも、大騒ぎしている。


特にほんとかどうか分からない昔の武勇伝の事となると、海賊共はいっそう声が大きくした。


新入りの俺は、配膳して端っこでモソモソと食べ終わり、片づけをする事になっている。


「どうだぁぁ? レイ? ちょっとは慣れたか?」


一人の海賊が、肩を組んできた。


臭いから触るなよ。


「おめぇぇは、本当にクールを気取って面白くねえなぁぁ。そんなんじゃあ、おめぇぇ……。女にもてね~ぞ?」


ほっとけ! 殺すぞ!


「で? 十七だったか? どうなんだ? 丘に女は待ってるのか?」


待っている……。


のか? あの三人は、どこまで本気なんだか分からないしな……。


「まぁ、まだガキのお前には早かったか? 女ってのはな……」


もう、五月蠅い。


ウザいから俺に絡むな!


「……つまりだ! 金さえありゃ、男は外見なんて関係なく、女にもてるんだ」


なんですと!?


そうなのか……。


「おっ! やっと、反応しやがったな。なんだ、やっぱり興味あるんじゃねぇぇか! つまりだな……」


興味はあるけど、お前らと話がしたくなかっただけなんだけどね。


その海賊曰く、男性は夢や趣味で生きていけるが、現実的な女性はまず先立つものがないと駄目なんだそうだ。


その代わり、金さえあれば性格や外見が悪くても、綺麗な女性をものに出来ると……。


まぁ、話し半分で聞いておこう。


実際、完全に間違いだとも思えないし。


その臭い海賊は金の為に、海賊を続けているそうだ。


でも、効率いいのかな?


旅客船を襲って金品強奪じゃあ、あんまり儲からないような気がするんだけどな……。


「なんだ? そんなに俺が信用できないってのか?」


「いえ、でも……」


「まぁ、待ちな! こいつは例の事知らないから、仕方ないさ!」


反論しようとした俺に、ファーンが声をかけてきた。


例の事?


「姐さん! まだこいつには!」


「いいじゃないか! こいつももう仲間だ! それにどの道ってやつだ!」


「へい……」


「あの……。例の件って?」


「お前、姐さんに気に入られたみたいだな。確かにザックにどっか似てるしな。まぁ、これから長い付き合いになりそうだ」


そう言うと、臭い海賊は俺から離れて行った。


……。


主語がない!


何が言いたいかが、全くわからん!


ちゃんと喋れよ!


「お前はこれから、あたし達と一緒に宝を探しに行くんだ!」


馬鹿女は、もっと訳のわからない事言い始めやがった……。


何だよ、こいつ?


宝?


ん?


宝あるの!?


「驚いてるなぁ? 今この船は、あたしの親父が残した地図で、宝の島に向かってるんだ!」


ええ~……。


聞いてませんけど?


「あの、港には?」


「このまま真っすぐ島に向かう!」


駄目だ……。


会話が成り立たない……。


「いや、あの……。俺もそこに行くんですか?」


「当り前だろうが! 心配するな! 分け前はちゃんと渡してやる!」


駄目だ……。


会話が出来ない……。


はは~ん。


こいつ、頭が残念なんだな。


どうしよう、一応言っておこうかな?



カーラ達を待たせ過ぎると、殺される危険が高まるしな。


「俺、どこかで降り……」


大きな音を出して、机が揺れる。


俺の前に、ファーンがナイフが突き立てたのだ。


「なんか言ったか?」


「いえ……」


強制ですね、分かります。


くっそ!


こんな海の上じゃあ、拒否権がない!


船を奪っても、操舵出来ない……。


なんか、はめられた。


誰かにはめられた!


誰かは知らないけど。


そこから、海賊達はファーンを加えて宝が何かと、どれくらいあるかと言う話で盛り上がり始める。


確かに金はほしいけど……。


なんか、イマイチやる気が出ないんだよな。


人に強制されるとやりたくなくなるのは、仕方ない事かな?


汚いおっさん共が目をキラキラさせて……。


宝ってのに人生かけてるんだろうなぁ。


あ~……。


やる気しね~な。


島影でも見えたら逃亡するか?


でも、そこが無人島とかだったら洒落にならないしな。


はぁぁぁぁぁ。


仕方ない、付き合うか。


このザコどもよりは、生き残れるだろうしな。


なんか、面倒くさいな。


てか、ジジィ最近ほとんど寝てるな。


俺には言わないが、俺の命を魔力でつないでくれてれてたんだろうなぁ。


俺の周りって素直な奴が全くいない……。


なんだ? 何が悪いんだ?


俺か?


俺が悪いのか?


この俺が!


いやだ! 認めない!


はぁ~……。


****


俺が、食事の片づけをして甲板で夜の海を眺めていると、カザルが隣に寄って来た。


「お前、昼間俺に聞いたな? この海賊の事」


ああ。


「はい。なんか、思ってたより人数が少ないような……」


「その通りだ」


うん……そこで、黙るな!


この船には会話が出来ない奴しかいないのか?


「この海賊船は、ファーンの親父さんが元々船長だったんだが……」


それからカザルは、この海賊の事を喋り始めてくれた。


ファーンの父親が百人以上の海賊をまとめていたそうだ。


だが、その父親は三年前に死んだそうだ。


そして、海賊はばらばらになり今残っている十人は前船長に恩があるか、宝を諦めていない奴だけで、実際の海賊行為はやっていないと言う事だった。


まぁ、こんな旧型船と十人じゃあ旅客船なんて襲えないよな……。


なんか、面倒な船に拾われたもんだ。


てか、カザルよ!


こんな話に、一時間もかけるな!


どれだけ喋るの下手なんだよ!


五分で話せるだろうが!


つっても、この船じゃあ教えてくれるだけましか。


この際、もう一つ聞いておこう。


「あの、ザックって誰ですか?」


「お前! なんでそれを?」


「さっき食事の時にちょっと……」


「……これは、俺が言った事は秘密だぞ。つまりだな……」


んっ……。


長ぁぁぁぁぁぁぁぁい!


ザックが前の副船長で、ファーンの元彼ってのを喋るのに、どれだけ時間食うんだ!


アホか!


いや、アホだお前!


「そう言う事でな……。次の港まででいいから……。あの、あれだ……。お嬢には……。その……。あれだ」


駄目だ。


もう付き合いきれん!


「袖振りあうも何かの縁です。裏切ったりしませんよ。この船に乗り続けるかは保証しませんが」


「お……おお。頼んだぞ」


それだけ言うと、カザルは船室に戻って行った。


会話を始めてから、約二時間……。


もう、この船の誰とも会話したくない……。


馬鹿だらけ。


しかし、まぁ……。


状況は分かった。


ファーンは大好きだった親父さんの海賊団を存続したいから、軍資金の為に宝を探しに向かってるって事だよな。


しかし、ザックって最低の奴だな……。


十五歳のファーンを口説いて五年も付き合ったのに、一番最初に反旗を翻すなんて……。


カザルの話だけだと分かり難いから推測になるけど、多分海賊団の分解はザックのせいじゃないのか?


その最低野郎に、俺似てるのか?


なんか嫌だな。


さて、全員船室で休んでるし俺は修練でもするかな。


どの道、俺が朝まで起きてる当番だし。


****


朝日が昇ると同時に見張りを交代した俺は、船室で眠る事にした。


もう、完全に船には慣れたな。


おおう!


なに!?


俺が布団に入った瞬間、大きな音とともに船が大きく揺れた。


甲板から叫び声が聞こえる。


何だ?


俺の睡眠の邪魔をするなよ!


甲板に出て見ると俺達の乗っている船は、二台の船に挟み込まれていた。


「さあ! 今日こそ返事を聞かせてもらおうか!」


「誰がお前なんかの物になるか!」


「仕方ねぇ。力尽くってのが俺達には、似合ってるだろう! さぁ、今日からお前は俺のものだ!」


なるほど、推測できた。


ファーンは見た目悪くないからな。


あの同業らしい男に、口説かれてたんだろう。


そんで、今日はいい返事がもらえなかったあの汚いおっさんが、力尽くって事だよな。


俺達の乗る船にわざとぶつけられた船は新型で傷も付いてないが、こっちの船は軋んでる。


相手の海賊は、気配からすると五十はいるな……。


人間は魔力が少ないから、分かり難い。


さて……。


やっぱりこの船の船員は、バカばっかりだな。


この人数差で勝てるはずないのに、全員が武器を構えてるよ。


仕方ない、助けて……。


んん!?


何だ!?


これは……。


『……気をつけるんじゃ』


ジジィ、起きたか! てか、これ何だ?


『わしも、航海の経験は少ないのでな……』


使えん奴だ……。


『お前は……』


今の今まで快晴だった空が、真っ暗になり海が荒れ始めた。


そして、辺りに濃度の高い魔力が立ち込める。


敵の可能性が高い……。


にらみ合っていた海賊共も、辺りの異変に騒ぎ始めている。


「なんてこった! 奴が来るぞ!」


「最悪だ!」


「船を出せ!」


敵の海賊船が、急いで逃げだしていく。


流石に、魔力動力炉がついてるから、向こうの船の足は速いな。


こちらの船も皆が焦って、移動の準備をしている。


なにか分かってるのか?


「あの、カザルさん? 何が?」


「馬鹿か!」


誰が馬鹿だ! この馬鹿!


「幽霊船がくる前触れだ! 死にたくなかったら、お前も準備を手伝え!」


幽霊船?


はぁぁぁ、さすがに色々あるんだね。


****


俺はとりあえず荒れる波に煽られる船で、仕事を手伝う。


てか、言ったほうがいいかな?


『信じてもらえるか分からんが、言ったほうがいいじゃろうな』


実は、魔力感知が出来る俺しか気付いていないようだが、魔力の強いほうに船が向かっている。


正確には、多分幽霊船ってのに回り込まれたんだと思う。


「あの……えと……」


「手を休めるな! 死にたいのか!」


全員操舵に必死で、話を聞いてくれないよ。


「おい! あれ!」


っと……。


さっきの逃げたはずの最新型海賊船が、二台とも大破していた。


人の気配は……。


駄目だ。やられたな。


なっ!


下!?


「皆! 来るぞ!」


幽霊船と思われる魔力が、船の下にもぐりこんだ。


船ってくらいだから、見えるもんだと思ったけど、俺の常識は通じないようだ。


俺が叫ぶと同時に、甲板に骸骨が昇ってき始めやがった。


『……アンデッドじゃな』


ああ……。


普通の攻撃はきかないだろうな。


さっきからファーン達が斬りかかってるけど、全くダメージを与えられてない。


死人が出る前に助けてやるか。


『おい! あれを見るんじゃ!』


は?


あれは……。


ああ!


さっきの海賊!


何で敵として、骸骨に混じってんだよ!


『殺した相手を仲間に出来ると言う事ではないかのぉ?』


ここで死んだら、一生幽霊船暮らしか。


船が沈む前に助けよう!


『うむ!』


俺は魔剣を出し、船に昇ってくる骸骨や死体を斬り捨てる。


だが、数が多い。


その上、船が揺れまくっているせいで、俺も速度が出せない。


ファーン達は必死骸骨達に応戦しており、俺のさがれという言葉も聞こえていないようだ。


甲板が海水で滑る。


思うように動けない! くそ!


どうする?


見る間にファーン達が取り囲まれていく。


皆、体のどこかを負傷していた。


まだ死人は出ていないが、それも時間の問題だろう。


うおっ!


俺が、近くの骸骨を斬り殺していると、強力な気当たり?


いや、魔力そのものが仲間達に当てられた。


カザル以外の全員、呼吸が出来なくなったのか倒れて気を失っていく。


魔力をたどると、船首に変な服とサーベルを持った巨大な骸骨がいた。


『親玉登場じゃな』


ファーン達がやられる!


ええい!


俺は、マストに向かい跳ぶと、そのマストを蹴ってファーン達の前に移動した。


うおっと! 着地も滑る!


「レイ! お前だけでも逃げろ!」


カザル……。


裏切らないって約束しただろうが。


どう戦う?


百体以上はいるし、囲まれている。


日ごろの俺なら問題ないが……。


『気絶した十人を守るのは、至難じゃな』


足場が滑りすぎる。


いや? 滑る?


いけるか!


『死神の剣術に、死角はないのじゃろう?』


ああ!


ここを元々水面だと思って移動すれば!


『うむ!』


俺は、わざと滑るように移動を開始した。


元々足場の関係ないようにさえ動けば、このくらいの敵問題ない!


俺は仲間を周囲に円を描くように、高速移動しはじめた。


よし! これだけ動ければ問題ない!


敵は瞬く間に塵へと変わっていく。


「レイ……お前……」


雑魚をほとんど片付けた所で、水面が盛り上がり、海水が甲板に大量に流れ込んできた。


幽霊船の本体が、顔を水中から出したのだ。


あれが、魔力の元になってるな。


『うむ。あの船長らしき骸骨も、本体ではないようじゃ』


船そのものから魔力が漏れ出して、骸骨達を操作しているのが感知できた。


「レイ!」


幽霊船に気をとられて足をとめた俺に、ボス骸骨が斬りかかってくる。


それを見ていたカザルが、俺に知らせようと叫ぶ。


うっさい……。


俺は、ボス骸骨に顔を向けることもなく斬り捨てた。


魔力は常に感知してますってば。


こんなザコにやられるわけないじゃん。


さて、とっとと終わらせよう。


『そうじゃな』


なんせ眠くて仕方がない。


俺は船から飛び降り海面を蹴ると、幽霊船の上空へ跳び上がった。


そして、爆発させた力で、船を両断した。


船ごと怪物だったようで、斬り捨てた船全体が塵へと変わっていく。


「ふぅぅ」


魔力が充填出来たな。


『そうじゃな。一体一体は弱いが、数をこなせたからのぉ』


俺達にとってアンデッドって、ただの餌だもんねぇ。


『まぁ、魔力を丸出しにしておる連中じゃからな』


俺はそのまま自分の船に、水面を蹴って戻る。


****


辺りを覆っていた雷雲がはれていき、元の快晴になった。


天候まで操るなんて、大したことない魔力のわりには凄い事するな。


『まぁ、ここは新天地じゃ。色々おるじゃろう。思い込みはよくないと言う事じゃろうな』


そうだな。


てか……眠い……。


もう、無理。


「レイ、お前何者だ?」


「漂流してた、魔剣使いです」


「魔剣? お前一体……」


見て分からん奴には、言っても分かんないと思うんだけどな。


それに、カザルは理解力もいまいちだから、説明が面倒だ。


もう眠いし。


「あの、後でゆっくり話しますから……。寝てもいい?」


「おっ……おお」


何か言いたそうなカザルにファーン達を任せて、船室に戻った俺は眠りについた。


だって三六時間労働の後だからね。


****


その日は何時もに比べ、嫌な思いをしなかった。


流石に新天地だけあって、俺の運気も変わったかな?


なんて考えもしたんだけどね。


もちろん、そんなわけがないんですよ。


既にものすごく面倒事に巻き込まれているのに、俺は全く気が付きませんでした。


てか、分かるか!


今回情報を喋れる奴どころか、まともに会話できる奴いないじゃんか!


大事なことは先に伝えようよ!


もぉ~……。


やってらんね~……。

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