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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第四章:新大陸の定め編
41/106

一話

「おぼおろろろろぉぉ……」


『……情けない』


うっせ……。


「うぷっ……うええぇぇ……」


やっ……。


やってまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!


苦しい……。


気持ち悪いよ、ジジィ……。


『がまんせい』


ジジィが気持ち悪いよ……。


『ちょっ……お前』


****


あ、こんにちは……こんばんは?


まぁ、どっちでもいいや……。


俺はレイ……レイ:シモンズです。


新たな冒険の始まりとして特別に、自己紹介をしてみようと思います。


今から十日ほど前に、神様を名乗る変態をボコった……俺による俺の為の物語の、主人公です。


一応……。


多分……。


きっと……。


だと思うんだけど……。


普通、主人公って女性の心を掴みまくって、幸せを手に入れるんだよね?


普通CG回収の為にわざと間違えた選択肢を選ばない限り、ヒロイン全員に嫌われていくとかってないよね?


もし、そんなゲームがあるのなら、それはクソゲーだと思うんだ……。


もし、俺を操作しているプレイヤーがいるなら……。


ちゃんと攻略本読めや! カスが! 殺すぞ!


俺と一緒にハッピーエンド見ようぜ? なぁ?


それともそんなに俺が嫌いか!


俺の不幸が楽しいのか!


ドSなのか!


死ねよ……。


やってらんね~……。



『……お前が現実逃避したくなるほど不幸なのは知っとるが、プレイヤーなどおらんぞ』


知ってるよ!


『なんじゃ? では、遂に頭が干からびたのか?』


お前も死ね、ジジィ……。


『お前が死ね、クソガキ』


もう一回……。


やってもぉぉぉたぁぁぁ!


何で俺は正解にたどりつけないんだ?


俺の何が悪いんだ?


『主に頭かのぉ』


五月蝿いな!


俺けっこう頑張ったのに……。


今から十日前……。


ミルフォスって、頭のおかしいクソガキをぶっ倒した。


何千万人もの命救った。


その結果、俺にはご褒美になっていないご褒美が俺に与えられた。


一つ目は、神に匹敵するほどの、ミルフォスの魂。


二つ目は、三人の美人からの告白。


三つ目は、魔王に匹敵するほどの力を持った人狼の従者。


『何が不満じゃ?』


どれ一つとして満足できるか!


一つ目はまだましだけど、何歳まで生きるかわからなくなった寿命!


人生設計とか、ほとんど無理になったじゃんか!


俺は何歳で隠居すりゃいいんだよ!


まあ、それはいいとして……。


二つ目は、好きとか言ったくせに何もさせてくれないどころか、ことあるごとに殺そうとしてくる三人!


それも明らかに一人を選んだ時点で、俺は殺されるじゃないか!


頭おかしいからね! あいつ等!


浮気したら殺すって、三人から宣言されてるけど……。


三人が同時に宣言してるから!


一生俺彼女作れないじゃんか!


三人のうち誰を選んでも二人に殺されるし、他の女性選んだら三人にフルボッコされるってことじゃないか!


どんだけ答えの無い謎かけなんだよ!


解けるか!


三つ目は……。


ガチホモ……。


これ以上は言いたくない……。


考えるだけで鳥肌が立つ……。


『……まぁ、がんばれ』


頑張れるかぁぁぁぁぁぁぁ!!


俺の未来が、闇に閉ざされてるじゃね~か!


未来どころか、一寸先がカオスじゃね~か!


今度こそ良い選択だと思ったのに……。


『なにがじゃ?』


新大陸への旅立ち……。


『間違いではあるまい? 新しい冒険が待っておるぞ?』


冒険とか……。


正直、どうでもいいんだよぉぉぉぉぉ!!


ただ単に彼女がほしいんだよ! 俺は!


『……はっ?』


師匠から地図見せられた時、必死で考えたんだよ……。


生まれて初めてじゃないかってくらい、考えたんだ。


『話が見えんな……』


あの大陸に残れば、三人のせいで彼女とか無理じゃん。


だからさ……。


冒険の旅ってことで新大陸に行けば、彼女探せると思ったんだよ……。


結婚とかして子供連れて帰れば、三人ともさすがに俺を殺さないと思ったんだよ。


『そんな……くだらない……』


俺にとっては重大な問題なんだよ!


それなのに、三人共ついてくるって言うし……。


アドルフ様にあそこまで宣言した後だから、引っ込みつかないし……。


挙句にガチホモのおまけまでついてくるし……。


『……腐っとる』


頼むからほっといてくれ……。


てか、これからあんな事に毎回なるのかな?


『あんな事?』


****


俺は、ミルフォスとの戦闘の後二日間眠り続け、一週間で出発の準備をした。


動きの制限されない、軽装の黒いプレートメイルをドワーフのおっさんに作ってもらった。


出発の時には、びっくりするくらいマスコミの奴らに、写真をとられたっけ……。


その時に、リリーナお嬢様が俺に近づいてきたんだ。


お嬢様から、手作り弁当を手渡された。


正確には手渡されそうになった……。


恩人の娘だし、一応幼馴染なので、素直に受け取るべきなんだろうけど……。


あの性格ブスは、殺人的に料理が下手だ。


あれが、一年やそこらで治るとは思えない。


なので、丁重に断った瞬間、何時ものように蹴られた。


昔ならそこで終わりだったんだが……。


『今は、あの三人がおるからな……』


お嬢様は、化け物じみた戦闘力の三人娘に取り囲まれた。


カーラのナイフを奪い取り、リリスを羽交い絞めにしたが、メアリーの爪がお嬢様の喉元に突き付けられた。


ははっ……。


なにしてんのぉぉぉぉぉ!


恩人の娘つったじゃん!


何考えてんだ!


あの殺人狂どもは!


ゴルバが止めてくれたが、そのグダグダの中での旅立ちになった……。


『まあ……、今後は気軽に女性に声をかけん事じゃな。その女性が危ない……』


やってられるか! こんちくしょぉぉぉぉ!


****


そんなこんなで、旅に出たはいいが……。


「ううう……おえぇ……」


俺は今、恐ろしいほどの船酔いに苦しんでいる……。


『お前なんでじゃ? 三半気規管は強いのではないのか?』


生まれてこの方……。


「うえ……」


船に乗った事なかったんだよ……。


遠足や旅行には、ほとんど連れて行ってもらった事ないから……。


『……不憫な』


まさか自分が、ここまで船に弱いとは思いもしなかった……。


マジで死ぬ……。


なんだよ、この苦しさ……。


きっつ……。


「レイ……大丈夫?」


「無理……」


仲間の四人が、甲板から海に向かい胃の内容物を流している俺に、声をかける。


「無理って……。後丸一日は船の上だぞ?」


「……俺……死ぬかも知れん……」


「この二日……ろくに食べてないもんね……」


分かってるなら喋りかけてくんな!


返事するのも苦しいんだ!


「レイ! これ! お水~!」


「……ありがとう、リリム……」


水を飲んで数分後には、それを海に垂れ流した。


もちろん、俺の口から……。


もう胃の中に何もないのだろう。


その流れ出した液体は、ほぼ透明だった。


死……死んでしまう……。


****


「なにぃ? 情けない仲間ねぇぇ……」


ああ?


女性の声に振り向くと、多分脱色での金髪剣士が立っていた。


「そんなお荷物とよく旅なんてしてるわねぇ。あなた達」


腹が立つ……以前に殺されるから、向こうに行け……。


美人が死ぬのはあんまり見たくない。


「お荷物とはずいぶんじゃないの……」


「そうですね。出来れば謝罪をしていただきたいんですが?」


カーラもメアリーも食ってかからないで……。


今止める元気ないから……。


「ふん! やるっての? 私はこれでもギルドでAクラスの実力なんだぞ? それも私の連れはその中でもトップの実力だったんだ。相手を見て喧嘩を売るんだな」


いや、アホ女……。


お前が、相手を見ろ。


目の前の三人は変装してるけど、モンスターのレベルでB~Aランクなんだよ。


お前が殺されるぞ。


「や……やめて……」


俺の言葉に、四人が構えを解いた。


「ふふん。良い判断だが、情けない男だわね! 行こう、ケイン!」


その女剣士は、自分が助けられたのも分からずに、ムカつく事を言って男性剣士と船室へと戻って行った。


二人は確か、昨日乗ってきたレーム大陸外の人間だ。


仕方ないけど、腹が立つな……。


「レイよ。何故止める?」


ゴルバ……。


お前、なんで従者なのに呼び捨ての上に、タメ口なんだよ……。


「お……お前らは、殺しかねん……。面倒は……勘弁してく……おえええぇぇ……」


「レイがそう言うなら我慢はするが……。やはり、人間は気に入らんな」


「そうですね……。悪い方だけではないのは分かっていますが、今の方々はどうも好きになれませんね」


リリスとメアリー……。


人間とかって発言やめて……。


今二人は、特殊な魔法具で人間に化けていた。


リリスは、羽根を収納する空間をゆがめるマントを装備している。


そして、メアリーはバンパイアを見た目だけ人間にする、常昼のリングをつけている。


別の大陸で目立ちすぎないようにだ。


折角準備したのに、旅立ってすぐに悪い意味で目立つとか、あり得ないから……。


「レイは悔しくないの? ルナリスの時もそうだったけど、レイはもう少し文句を言ったほうがいいんじゃないの?」


カーラまで、やめろ……。


良く考えると今のパーティーって戦闘力は高いけど、世間知らずばっかりじゃないか。


俺は、これからどれだけ頑張らないといけないんだ?


『……命の限りじゃ』


冗談でも洒落になってない!


もう嫌だ!


****


ああ……。


胃の中空っぽになって少し楽になってきた。


「しかし、先ほどの者達は、我らエルフからしてもどうかと思うぞ」


「そうですね。人の事が考えられない者に、生きる資格はありませんね」


「ならば……。私が行こう。魔道砲の誤射という事にすれば……」


「俺も手伝うか?」


「いや、必要ないだろう」


ええ~……。


俺の仲間だと思われる人の会話が、ものすごく物騒なんですけど……。


確実に、さっきの二人を殺そうとしてるよね?


「頼むから……お願いだから……やめて……」


「そもそも! レイがふがいないからだぞ!」


リリスさん?


さっきの馬鹿に向けようとした魔道砲を、俺に構えるのやめてくれないかな。


マジで、俺の顔に銃口をこっちに向けないで……。


「そうよ!」


カーラに腹を蹴られた俺は、再び海に向かい液体を垂れ流す……。


その光景にあきれた仲間達は、船室へと戻って行った。


****


何で俺がこんな目に……。


さっきのザコ二匹……。


船降りたらボコってやる!


「お兄ちゃん!はい!」


寝そべる俺に少女が水と薬らしきものを差し出してきた。


十~八歳くらいかな……。


さすがにストライクゾーン外だな。


「これは?」


「酔い止めのお薬だよ! はい!」


「あ……ああ……」


俺はその少女から薬を受け取り、水と一緒に流し込んだ。


十分ほどで、気分がマシになってきた。


おお!


薬ってすげぇぇぇ!


「もう、大丈夫? お兄ちゃん?」


「ああ……。助かった」


「えへへ……」


少女は無邪気に笑ってくれる。


人から物をもらった事がほとんどない俺は、その少女がとても愛おしく感じた。


あ……。


もう一度だけ……。


ストライクゾーン外ですからね!


変な意味じゃないからね!


いや! マジで!


おお……。


あれならいい!


すごくいい!


俺の返事を聞いた少女は、母親らしき女性の元へ走って行った。


若干目が細いが、胸もあるし……。


俺……。


あの子の父親になろうかな……。


「ありがとうございました」


「いいんですよ。幸い私たち二人とも船酔いしませんし、旦那に至っては酔うわけありませんから」


おっと……。


萎えた……。


旦那いるのかよ……。


未亡人とか言う展開はなしか……。


一応言っとくと、俺は年齢が十五歳以下と他人の物には、興味わかないんだよね。


その奥さんは、今のっている船で船長をしている男の家族らしい。


興味無くなったしどうでもいいけどね。


「船での生活が長い旦那と、娘が長くいたいって言うものですから、奮発してこの客船に乗船したんですよ」


ああ、どうでもいいですよ~っと……。


折角ジジィが眠って、四人が食堂に行ってる間がチャンスだと思ったのに……。


他に可愛い子がいないか捜しに行こうかな……。


「お兄ちゃん!」


ん?


なんだクソガキ?


「かっこいいですね!」


おお!


分かってくれるか! ク……ガキ!


やっぱり俺そんなに顔悪くないよね! つっても、子供の基準はあてになんないけど……。


でもまあ、かわいい事言ってくれるじゃね~か!


後、八年後くらいに俺の元に来い!


俺はク……ガキの頭をなでる。


「えへへ……」


普通に愛らしい子供だ。


骨格や各パーツは悪くなさそうだから、八年もすれば収穫できるんじゃないか?


連絡先聞いておこうかな……。


「おい! 船酔い野郎!」


ああ?


誰だ?


あ……さっきのザコAとBか。


「そんな子供に、悪戯するんじゃないわよぉ」


「あはははっ……。そうだぞぉ、このロリコン野郎!」


え? なに?


そんなに死にたいんですか?


Aはボコボコにして、石をつけて投げ捨てるよ?


Bは……美人だな。


ひん剥いて裸をじっくり鑑賞してから、投げ捨てるよ?


お前らが剣抜く前に、鑑賞以外の事出来ますよ?


いいんですか?


うん。むかつくし、きっとこれは許される。


「お兄ちゃんを悪く言わないで!」


おお? ガキ?


「ふん! これだけ言われて、そんなガキに守ってもらうんじゃ世話ないわねぇ」


Bがそう言うと、二人はデッキの反対側へ……。


タ……タイミング逃したぁぁぁ。


マジで殴ろうとは思ってたのに……。


「お兄ちゃん! 大丈夫だよ! お父さん船長さんだから、何とかしてくれるよ!」


いや、あのねガキンチョ……。


俺一人でも問題ないんだって……。


そう言おうと思った時、母親がガキの頭をなでる。


「このお兄ちゃんは、多分あの二人より強いから大丈夫よ」


「本当?」


「ええ……」


「何でわかるの、ママ?」


「ふふ……、お母さんだからよ」


理由はさっぱりわからんが、母親もいい人じゃないか。


よく見りゃけっこう美人じゃん!


船長……。


見つからないように殺そっかな……。


しかし……。


腹が減った……。


酔いがおさまったおかげで腹が減ってきた……。


食堂で食事をとりながら、ザコ二匹と船長をどうするかを考えるかな……。


****


俺は一番豪華な船室にいる仲間と合流し、数日ぶりの飯を堪能した。


しちゃったんですよ。これがまた……。


俺に酔った経験があれば……。


その為の旅行経験があれば……。


後悔は先に立ってくれません。


俺は飯を食いながら、久し振りに四人と……。


あれ?


会話してない……。


ゴルバも無口だから……。


女性三人の世間話を聞いてるだけ……。


あれ? あれ?


何でだろう、皆の中にいるのに孤独を感じる。


こんな場面十年以上経験がないから、何しゃべっていいのか分からないや。


へへ……。


目から汗が滴りそうだ……。


ただの孤独も嫌だけど、集団の中の孤独もきついんだね……。


あれ? 泣かないって決めたのに……。


****


っと……。


「おい……」


「数が多いですね……」


さすがに魔王の娘だけあって、メアリーが一番早く気が付いたか?


違うな。他の三人も、もう気付いてる。


「風が騒いでたのは、このせいね」


カーラもエルフらしく感じ取ったか……。


リリスもゴルバも、すでに準備が出来ている……。


本当に戦闘に関しては頼もしいな、こいつら。


みんなネジが飛んでるけど……。


俺達が、立ち上がると同時に甲板から悲鳴が聞こえる。


人の波をかき分け俺たちが外に出ると、巨大な鳥が人を捕食しようと船の上を旋回していた。


ロック鳥。


Bランク下位の鳥型モンスターだ。


五羽……じゃ、ないな。


こりゃ、面倒だ……。


船の上を旋回しているのは五羽だけだが、少し離れた場所から何十羽もの気配がする。


大型の群れに遭遇したらしい。


普通ならこんな船、全滅確定だ。


「ちょ! ケイン! 何で逃げるのよ!」


「こんな怪物と、戦えるわけないだろうが! お前も早く中に入るぞ!」


「そんな……」


雑魚の判断としては、Aのほうが正しいかな。


「ママァァァァァァァァ!!」


えっ!?


さっきのガキ!


くそっ!


ガキを掴んだロック鳥の一羽が、群れに向かい飛び立ってしまった。


「ケイン! 子供が!」


「知るか! 死にたいなら一人で死ね!」


ジジィ! ウェイクアップ!


『うむ!』


行くぞ!


〈ホークスラッシュ〉二連!


俺は魔剣を呼び出すと、三日月状の衝撃波を放った。


くそったれ!


一羽は塵に返せたが、もう一匹は飛行の角度を変えて、射程外まで飛ばれた!


「ちょっと! あんた!」


ザコBが俺に何か言ってきてるが、聞いてる暇ないんでな!


俺は船から飛び降り、走り出した。


「なによ……あいつ……」


目を丸くした雑魚Bの耳には、魔道砲発射音と、矢が風を切る音が届く。


「えっ? 何が……」


「こういうときは近距離が得意な私達は、あまり有効に動けませんね? ゴルバ……」


「仕方がないが……。俺も水面を走れれば……」


「まぁ、他の人でも守りましょう」


飛び道具を使うリリスとカーラが、上空を旋回するロック鳥を塵に返す。


そして、乾パンに接近してくるロック鳥の爪を、メアリーとゴルバが難なくはじく……。


空を覆うほどのロック鳥の群れを見たとき、人々は絶望しそうになったが……。


甲板に残った四人と、水面を走り次々と巨鳥を塵に変える影を見て、歓声を上げる。


特に、レーム大陸から船に乗っている人々は安堵する。


この船に英雄がのっている事を思いだして……。


実は、乗船後すぐは色々と話しかけられたが、ずっと吐き続ける俺に皆は引いていった。


二日後には仲間以外、誰も話しかけてくる人はいなくなっていた。


だから、皆忘れていたようだ。


恩着せるつもりはないけど……。


忘れんなよ!


俺頑張ったんだから!


それはさておき、空中すら蹴ることのできる俺は水面を地面のように走り、ロック鳥の群れを消滅させていく。


ガキ返せ! アホ鳥!


ガキを掴んでいるロック鳥はうまく俺の攻撃を避け続け、群れを全滅させる頃再び船のある方向に飛び去ろうとしていた。


そっちは……。


「リリス! カーラ! 撃つなぁぁぁぁぁぁぁ!」


俺は船に向かって走り出すと同時に、二人に叫んだ。


間違えてガキごと何て洒落にもならん!


『どうやら、あの子供を掴んでいるのが、群れのボスらしいのぉ』


クソ! それで賢しいのか!


だが、俺の移動速度のほうが! 速いぃぃぃぃぃ!!


おっらぁぁぁぁぁぁぁ!


舐めんな! クソ鳥!


そのボス鳥が、甲板にさしかかるとき意外な事が起こった。


「来い! 化け物!」


ザコBが剣を構え、ロック鳥に立ち向かおうとしている。


やめろ! 馬鹿!


ゴルバ達は何してるんだ?


あっ……。


腕組んでる……。


見殺しにしようとしてる……。


助けなさいよぉぉぉぉ!


ザコBはいいけど、ガキを助けようとしてくれよ!


アホォォォォォォォ!


「ぐっ! このぉ!」


ザコBは予想に反して、剣を弾かれ爪で肩を切り裂かれながらも、ガキを抱え込むようにロック鳥から奪い取った。


ナイス! ザコB!


それと同時に、船に追いついた俺が甲板に飛び乗った。


キュキュキュキュキュっと、甲板に耳障りな音が響く。


自分の勢いのせいで、俺は甲板を滑り、靴底から焦げ臭いにおいが漂ってくる。


〈ホークスラッシュ〉


獲物を取り返そうとしたロック鳥のボスが、再度甲板へ降へ降下を始めた所へ、衝撃波を見舞う。


それにより、頭から両断された鳥形モンスターは塵へと変わった。。


ボスをなくしたロック鳥の群れは、退却を始め……。


バシュン、バシュンっと、俺の耳元で魔道砲が唸りを上げている。


おいおい。


魔族って容赦ないなぁ。


逃げていくロック鳥全てが、射程の長いリリスの魔道砲に撃ち落とされた。


さて……。


「無事か?」


俺は、ガキを抱え震えているザコBに話しかける。


「お兄ちゃぁぁぁぁぁん!」


おっと、ガキが俺の胸に飛び込んできた。


俺は、ガキの頭をなでる。


まぁ、これで酔い止めの礼にはなっただろう。


「へへっ……。大丈夫か?」


今さらかよ、ザコA……。


乾いた音が、潮風に飲み込まれていく。


ザコBがザコAを攻撃……ひっぱたいた。


なんだ? 混乱したのか?


「ケイン……あんたみたいな根性無しとは、これっきりよ!」


ざまぁぁぁぁ!


あの馬鹿! 何時もの俺の位置にいるよ!


だっさ!


ザコAだっさ!


これ見てるほうは、気持ちいい!


『お前の腐り方に、歪みはないな』


****



ガキを母親に渡すと、何回もお礼を言われた。


それからしばらくして、甲板にいた俺はザコBに謝罪される。


ここまでなら、格好良かったんだよなぁ。


「あなたの事は他の客に聞きました……。本当にすみませんでした……。それで、その……修行不足を実感しまして……。もしよければ、私もパーティーに……」


あっ……。


これ駄目だ……。


きっつい……。


甲板から遠くの空を見て返事をしない俺を、ザコBは無理やり自分の方へ振り向かせた。


やめてくださぁぁぁぁい!


そう言うのちょ……。


やめて下さ~い……。


「何回でも謝ります。だから……ぎゃああああああぁぁぁぁぁ!!」


酔い止めで無理やり酔いを止めている状態での、暴飲暴食……。


ええ、そうです。


吐きましたけど、なにか?


はい、そうですよ。


女性に向かって、もろに吐きかけましたけど、何か?


あなたに迷惑はかけてないじゃないですか……。


もぉぉぉ、ほっといてよ!


俺が悪いんだよ!


分かってるんだよ!


だって、おなかすいてたんだもん!


因みに、そこで一度俺は意識を失う……。


ザコBの剣が、俺のアゴにいい角度でヒットしたからです。


もしその剣に鞘がなければ、死んでいた。


はいはい、そうです~。


気絶したんですよ~……。


分かった事は眠ってる時と、気絶している時……。


つまり、意識がなければ酔いは感じない。


いい勉強になりました……。


って、なんじゃコレ!


ふっざけんなよ~……。


なんか、ザコBをうまい具合につまみ食いできる、サブイベントじゃないの? これ?


なんだよ、このラストォォ!


なんで、英雄が自分の吐しゃ物にまみれて、女性に気絶させられてんの?


またか!


嫌がらせの二期が始まったのか!


神様よぉぉぉぉ!


死ねよぉぉ……。


やってらんね~……。

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