一話
「おぼおろろろろぉぉ……」
『……情けない』
うっせ……。
「うぷっ……うええぇぇ……」
やっ……。
やってまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
苦しい……。
気持ち悪いよ、ジジィ……。
『がまんせい』
ジジィが気持ち悪いよ……。
『ちょっ……お前』
****
あ、こんにちは……こんばんは?
まぁ、どっちでもいいや……。
俺はレイ……レイ:シモンズです。
新たな冒険の始まりとして特別に、自己紹介をしてみようと思います。
今から十日ほど前に、神様を名乗る変態をボコった……俺による俺の為の物語の、主人公です。
一応……。
多分……。
きっと……。
だと思うんだけど……。
普通、主人公って女性の心を掴みまくって、幸せを手に入れるんだよね?
普通CG回収の為にわざと間違えた選択肢を選ばない限り、ヒロイン全員に嫌われていくとかってないよね?
もし、そんなゲームがあるのなら、それはクソゲーだと思うんだ……。
もし、俺を操作しているプレイヤーがいるなら……。
ちゃんと攻略本読めや! カスが! 殺すぞ!
俺と一緒にハッピーエンド見ようぜ? なぁ?
それともそんなに俺が嫌いか!
俺の不幸が楽しいのか!
ドSなのか!
死ねよ……。
やってらんね~……。
『……お前が現実逃避したくなるほど不幸なのは知っとるが、プレイヤーなどおらんぞ』
知ってるよ!
『なんじゃ? では、遂に頭が干からびたのか?』
お前も死ね、ジジィ……。
『お前が死ね、クソガキ』
もう一回……。
やってもぉぉぉたぁぁぁ!
何で俺は正解にたどりつけないんだ?
俺の何が悪いんだ?
『主に頭かのぉ』
五月蝿いな!
俺けっこう頑張ったのに……。
今から十日前……。
ミルフォスって、頭のおかしいクソガキをぶっ倒した。
何千万人もの命救った。
その結果、俺にはご褒美になっていないご褒美が俺に与えられた。
一つ目は、神に匹敵するほどの、ミルフォスの魂。
二つ目は、三人の美人からの告白。
三つ目は、魔王に匹敵するほどの力を持った人狼の従者。
『何が不満じゃ?』
どれ一つとして満足できるか!
一つ目はまだましだけど、何歳まで生きるかわからなくなった寿命!
人生設計とか、ほとんど無理になったじゃんか!
俺は何歳で隠居すりゃいいんだよ!
まあ、それはいいとして……。
二つ目は、好きとか言ったくせに何もさせてくれないどころか、ことあるごとに殺そうとしてくる三人!
それも明らかに一人を選んだ時点で、俺は殺されるじゃないか!
頭おかしいからね! あいつ等!
浮気したら殺すって、三人から宣言されてるけど……。
三人が同時に宣言してるから!
一生俺彼女作れないじゃんか!
三人のうち誰を選んでも二人に殺されるし、他の女性選んだら三人にフルボッコされるってことじゃないか!
どんだけ答えの無い謎かけなんだよ!
解けるか!
三つ目は……。
ガチホモ……。
これ以上は言いたくない……。
考えるだけで鳥肌が立つ……。
『……まぁ、がんばれ』
頑張れるかぁぁぁぁぁぁぁ!!
俺の未来が、闇に閉ざされてるじゃね~か!
未来どころか、一寸先がカオスじゃね~か!
今度こそ良い選択だと思ったのに……。
『なにがじゃ?』
新大陸への旅立ち……。
『間違いではあるまい? 新しい冒険が待っておるぞ?』
冒険とか……。
正直、どうでもいいんだよぉぉぉぉぉ!!
ただ単に彼女がほしいんだよ! 俺は!
『……はっ?』
師匠から地図見せられた時、必死で考えたんだよ……。
生まれて初めてじゃないかってくらい、考えたんだ。
『話が見えんな……』
あの大陸に残れば、三人のせいで彼女とか無理じゃん。
だからさ……。
冒険の旅ってことで新大陸に行けば、彼女探せると思ったんだよ……。
結婚とかして子供連れて帰れば、三人ともさすがに俺を殺さないと思ったんだよ。
『そんな……くだらない……』
俺にとっては重大な問題なんだよ!
それなのに、三人共ついてくるって言うし……。
アドルフ様にあそこまで宣言した後だから、引っ込みつかないし……。
挙句にガチホモのおまけまでついてくるし……。
『……腐っとる』
頼むからほっといてくれ……。
てか、これからあんな事に毎回なるのかな?
『あんな事?』
****
俺は、ミルフォスとの戦闘の後二日間眠り続け、一週間で出発の準備をした。
動きの制限されない、軽装の黒いプレートメイルをドワーフのおっさんに作ってもらった。
出発の時には、びっくりするくらいマスコミの奴らに、写真をとられたっけ……。
その時に、リリーナお嬢様が俺に近づいてきたんだ。
お嬢様から、手作り弁当を手渡された。
正確には手渡されそうになった……。
恩人の娘だし、一応幼馴染なので、素直に受け取るべきなんだろうけど……。
あの性格ブスは、殺人的に料理が下手だ。
あれが、一年やそこらで治るとは思えない。
なので、丁重に断った瞬間、何時ものように蹴られた。
昔ならそこで終わりだったんだが……。
『今は、あの三人がおるからな……』
お嬢様は、化け物じみた戦闘力の三人娘に取り囲まれた。
カーラのナイフを奪い取り、リリスを羽交い絞めにしたが、メアリーの爪がお嬢様の喉元に突き付けられた。
ははっ……。
なにしてんのぉぉぉぉぉ!
恩人の娘つったじゃん!
何考えてんだ!
あの殺人狂どもは!
ゴルバが止めてくれたが、そのグダグダの中での旅立ちになった……。
『まあ……、今後は気軽に女性に声をかけん事じゃな。その女性が危ない……』
やってられるか! こんちくしょぉぉぉぉ!
****
そんなこんなで、旅に出たはいいが……。
「ううう……おえぇ……」
俺は今、恐ろしいほどの船酔いに苦しんでいる……。
『お前なんでじゃ? 三半気規管は強いのではないのか?』
生まれてこの方……。
「うえ……」
船に乗った事なかったんだよ……。
遠足や旅行には、ほとんど連れて行ってもらった事ないから……。
『……不憫な』
まさか自分が、ここまで船に弱いとは思いもしなかった……。
マジで死ぬ……。
なんだよ、この苦しさ……。
きっつ……。
「レイ……大丈夫?」
「無理……」
仲間の四人が、甲板から海に向かい胃の内容物を流している俺に、声をかける。
「無理って……。後丸一日は船の上だぞ?」
「……俺……死ぬかも知れん……」
「この二日……ろくに食べてないもんね……」
分かってるなら喋りかけてくんな!
返事するのも苦しいんだ!
「レイ! これ! お水~!」
「……ありがとう、リリム……」
水を飲んで数分後には、それを海に垂れ流した。
もちろん、俺の口から……。
もう胃の中に何もないのだろう。
その流れ出した液体は、ほぼ透明だった。
死……死んでしまう……。
****
「なにぃ? 情けない仲間ねぇぇ……」
ああ?
女性の声に振り向くと、多分脱色での金髪剣士が立っていた。
「そんなお荷物とよく旅なんてしてるわねぇ。あなた達」
腹が立つ……以前に殺されるから、向こうに行け……。
美人が死ぬのはあんまり見たくない。
「お荷物とはずいぶんじゃないの……」
「そうですね。出来れば謝罪をしていただきたいんですが?」
カーラもメアリーも食ってかからないで……。
今止める元気ないから……。
「ふん! やるっての? 私はこれでもギルドでAクラスの実力なんだぞ? それも私の連れはその中でもトップの実力だったんだ。相手を見て喧嘩を売るんだな」
いや、アホ女……。
お前が、相手を見ろ。
目の前の三人は変装してるけど、モンスターのレベルでB~Aランクなんだよ。
お前が殺されるぞ。
「や……やめて……」
俺の言葉に、四人が構えを解いた。
「ふふん。良い判断だが、情けない男だわね! 行こう、ケイン!」
その女剣士は、自分が助けられたのも分からずに、ムカつく事を言って男性剣士と船室へと戻って行った。
二人は確か、昨日乗ってきたレーム大陸外の人間だ。
仕方ないけど、腹が立つな……。
「レイよ。何故止める?」
ゴルバ……。
お前、なんで従者なのに呼び捨ての上に、タメ口なんだよ……。
「お……お前らは、殺しかねん……。面倒は……勘弁してく……おえええぇぇ……」
「レイがそう言うなら我慢はするが……。やはり、人間は気に入らんな」
「そうですね……。悪い方だけではないのは分かっていますが、今の方々はどうも好きになれませんね」
リリスとメアリー……。
人間とかって発言やめて……。
今二人は、特殊な魔法具で人間に化けていた。
リリスは、羽根を収納する空間をゆがめるマントを装備している。
そして、メアリーはバンパイアを見た目だけ人間にする、常昼のリングをつけている。
別の大陸で目立ちすぎないようにだ。
折角準備したのに、旅立ってすぐに悪い意味で目立つとか、あり得ないから……。
「レイは悔しくないの? ルナリスの時もそうだったけど、レイはもう少し文句を言ったほうがいいんじゃないの?」
カーラまで、やめろ……。
良く考えると今のパーティーって戦闘力は高いけど、世間知らずばっかりじゃないか。
俺は、これからどれだけ頑張らないといけないんだ?
『……命の限りじゃ』
冗談でも洒落になってない!
もう嫌だ!
****
ああ……。
胃の中空っぽになって少し楽になってきた。
「しかし、先ほどの者達は、我らエルフからしてもどうかと思うぞ」
「そうですね。人の事が考えられない者に、生きる資格はありませんね」
「ならば……。私が行こう。魔道砲の誤射という事にすれば……」
「俺も手伝うか?」
「いや、必要ないだろう」
ええ~……。
俺の仲間だと思われる人の会話が、ものすごく物騒なんですけど……。
確実に、さっきの二人を殺そうとしてるよね?
「頼むから……お願いだから……やめて……」
「そもそも! レイがふがいないからだぞ!」
リリスさん?
さっきの馬鹿に向けようとした魔道砲を、俺に構えるのやめてくれないかな。
マジで、俺の顔に銃口をこっちに向けないで……。
「そうよ!」
カーラに腹を蹴られた俺は、再び海に向かい液体を垂れ流す……。
その光景にあきれた仲間達は、船室へと戻って行った。
****
何で俺がこんな目に……。
さっきのザコ二匹……。
船降りたらボコってやる!
「お兄ちゃん!はい!」
寝そべる俺に少女が水と薬らしきものを差し出してきた。
十~八歳くらいかな……。
さすがにストライクゾーン外だな。
「これは?」
「酔い止めのお薬だよ! はい!」
「あ……ああ……」
俺はその少女から薬を受け取り、水と一緒に流し込んだ。
十分ほどで、気分がマシになってきた。
おお!
薬ってすげぇぇぇ!
「もう、大丈夫? お兄ちゃん?」
「ああ……。助かった」
「えへへ……」
少女は無邪気に笑ってくれる。
人から物をもらった事がほとんどない俺は、その少女がとても愛おしく感じた。
あ……。
もう一度だけ……。
ストライクゾーン外ですからね!
変な意味じゃないからね!
いや! マジで!
おお……。
あれならいい!
すごくいい!
俺の返事を聞いた少女は、母親らしき女性の元へ走って行った。
若干目が細いが、胸もあるし……。
俺……。
あの子の父親になろうかな……。
「ありがとうございました」
「いいんですよ。幸い私たち二人とも船酔いしませんし、旦那に至っては酔うわけありませんから」
おっと……。
萎えた……。
旦那いるのかよ……。
未亡人とか言う展開はなしか……。
一応言っとくと、俺は年齢が十五歳以下と他人の物には、興味わかないんだよね。
その奥さんは、今のっている船で船長をしている男の家族らしい。
興味無くなったしどうでもいいけどね。
「船での生活が長い旦那と、娘が長くいたいって言うものですから、奮発してこの客船に乗船したんですよ」
ああ、どうでもいいですよ~っと……。
折角ジジィが眠って、四人が食堂に行ってる間がチャンスだと思ったのに……。
他に可愛い子がいないか捜しに行こうかな……。
「お兄ちゃん!」
ん?
なんだクソガキ?
「かっこいいですね!」
おお!
分かってくれるか! ク……ガキ!
やっぱり俺そんなに顔悪くないよね! つっても、子供の基準はあてになんないけど……。
でもまあ、かわいい事言ってくれるじゃね~か!
後、八年後くらいに俺の元に来い!
俺はク……ガキの頭をなでる。
「えへへ……」
普通に愛らしい子供だ。
骨格や各パーツは悪くなさそうだから、八年もすれば収穫できるんじゃないか?
連絡先聞いておこうかな……。
「おい! 船酔い野郎!」
ああ?
誰だ?
あ……さっきのザコAとBか。
「そんな子供に、悪戯するんじゃないわよぉ」
「あはははっ……。そうだぞぉ、このロリコン野郎!」
え? なに?
そんなに死にたいんですか?
Aはボコボコにして、石をつけて投げ捨てるよ?
Bは……美人だな。
ひん剥いて裸をじっくり鑑賞してから、投げ捨てるよ?
お前らが剣抜く前に、鑑賞以外の事出来ますよ?
いいんですか?
うん。むかつくし、きっとこれは許される。
「お兄ちゃんを悪く言わないで!」
おお? ガキ?
「ふん! これだけ言われて、そんなガキに守ってもらうんじゃ世話ないわねぇ」
Bがそう言うと、二人はデッキの反対側へ……。
タ……タイミング逃したぁぁぁ。
マジで殴ろうとは思ってたのに……。
「お兄ちゃん! 大丈夫だよ! お父さん船長さんだから、何とかしてくれるよ!」
いや、あのねガキンチョ……。
俺一人でも問題ないんだって……。
そう言おうと思った時、母親がガキの頭をなでる。
「このお兄ちゃんは、多分あの二人より強いから大丈夫よ」
「本当?」
「ええ……」
「何でわかるの、ママ?」
「ふふ……、お母さんだからよ」
理由はさっぱりわからんが、母親もいい人じゃないか。
よく見りゃけっこう美人じゃん!
船長……。
見つからないように殺そっかな……。
しかし……。
腹が減った……。
酔いがおさまったおかげで腹が減ってきた……。
食堂で食事をとりながら、ザコ二匹と船長をどうするかを考えるかな……。
****
俺は一番豪華な船室にいる仲間と合流し、数日ぶりの飯を堪能した。
しちゃったんですよ。これがまた……。
俺に酔った経験があれば……。
その為の旅行経験があれば……。
後悔は先に立ってくれません。
俺は飯を食いながら、久し振りに四人と……。
あれ?
会話してない……。
ゴルバも無口だから……。
女性三人の世間話を聞いてるだけ……。
あれ? あれ?
何でだろう、皆の中にいるのに孤独を感じる。
こんな場面十年以上経験がないから、何しゃべっていいのか分からないや。
へへ……。
目から汗が滴りそうだ……。
ただの孤独も嫌だけど、集団の中の孤独もきついんだね……。
あれ? 泣かないって決めたのに……。
****
っと……。
「おい……」
「数が多いですね……」
さすがに魔王の娘だけあって、メアリーが一番早く気が付いたか?
違うな。他の三人も、もう気付いてる。
「風が騒いでたのは、このせいね」
カーラもエルフらしく感じ取ったか……。
リリスもゴルバも、すでに準備が出来ている……。
本当に戦闘に関しては頼もしいな、こいつら。
みんなネジが飛んでるけど……。
俺達が、立ち上がると同時に甲板から悲鳴が聞こえる。
人の波をかき分け俺たちが外に出ると、巨大な鳥が人を捕食しようと船の上を旋回していた。
ロック鳥。
Bランク下位の鳥型モンスターだ。
五羽……じゃ、ないな。
こりゃ、面倒だ……。
船の上を旋回しているのは五羽だけだが、少し離れた場所から何十羽もの気配がする。
大型の群れに遭遇したらしい。
普通ならこんな船、全滅確定だ。
「ちょ! ケイン! 何で逃げるのよ!」
「こんな怪物と、戦えるわけないだろうが! お前も早く中に入るぞ!」
「そんな……」
雑魚の判断としては、Aのほうが正しいかな。
「ママァァァァァァァァ!!」
えっ!?
さっきのガキ!
くそっ!
ガキを掴んだロック鳥の一羽が、群れに向かい飛び立ってしまった。
「ケイン! 子供が!」
「知るか! 死にたいなら一人で死ね!」
ジジィ! ウェイクアップ!
『うむ!』
行くぞ!
〈ホークスラッシュ〉二連!
俺は魔剣を呼び出すと、三日月状の衝撃波を放った。
くそったれ!
一羽は塵に返せたが、もう一匹は飛行の角度を変えて、射程外まで飛ばれた!
「ちょっと! あんた!」
ザコBが俺に何か言ってきてるが、聞いてる暇ないんでな!
俺は船から飛び降り、走り出した。
「なによ……あいつ……」
目を丸くした雑魚Bの耳には、魔道砲発射音と、矢が風を切る音が届く。
「えっ? 何が……」
「こういうときは近距離が得意な私達は、あまり有効に動けませんね? ゴルバ……」
「仕方がないが……。俺も水面を走れれば……」
「まぁ、他の人でも守りましょう」
飛び道具を使うリリスとカーラが、上空を旋回するロック鳥を塵に返す。
そして、乾パンに接近してくるロック鳥の爪を、メアリーとゴルバが難なくはじく……。
空を覆うほどのロック鳥の群れを見たとき、人々は絶望しそうになったが……。
甲板に残った四人と、水面を走り次々と巨鳥を塵に変える影を見て、歓声を上げる。
特に、レーム大陸から船に乗っている人々は安堵する。
この船に英雄がのっている事を思いだして……。
実は、乗船後すぐは色々と話しかけられたが、ずっと吐き続ける俺に皆は引いていった。
二日後には仲間以外、誰も話しかけてくる人はいなくなっていた。
だから、皆忘れていたようだ。
恩着せるつもりはないけど……。
忘れんなよ!
俺頑張ったんだから!
それはさておき、空中すら蹴ることのできる俺は水面を地面のように走り、ロック鳥の群れを消滅させていく。
ガキ返せ! アホ鳥!
ガキを掴んでいるロック鳥はうまく俺の攻撃を避け続け、群れを全滅させる頃再び船のある方向に飛び去ろうとしていた。
そっちは……。
「リリス! カーラ! 撃つなぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺は船に向かって走り出すと同時に、二人に叫んだ。
間違えてガキごと何て洒落にもならん!
『どうやら、あの子供を掴んでいるのが、群れのボスらしいのぉ』
クソ! それで賢しいのか!
だが、俺の移動速度のほうが! 速いぃぃぃぃぃ!!
おっらぁぁぁぁぁぁぁ!
舐めんな! クソ鳥!
そのボス鳥が、甲板にさしかかるとき意外な事が起こった。
「来い! 化け物!」
ザコBが剣を構え、ロック鳥に立ち向かおうとしている。
やめろ! 馬鹿!
ゴルバ達は何してるんだ?
あっ……。
腕組んでる……。
見殺しにしようとしてる……。
助けなさいよぉぉぉぉ!
ザコBはいいけど、ガキを助けようとしてくれよ!
アホォォォォォォォ!
「ぐっ! このぉ!」
ザコBは予想に反して、剣を弾かれ爪で肩を切り裂かれながらも、ガキを抱え込むようにロック鳥から奪い取った。
ナイス! ザコB!
それと同時に、船に追いついた俺が甲板に飛び乗った。
キュキュキュキュキュっと、甲板に耳障りな音が響く。
自分の勢いのせいで、俺は甲板を滑り、靴底から焦げ臭いにおいが漂ってくる。
〈ホークスラッシュ〉
獲物を取り返そうとしたロック鳥のボスが、再度甲板へ降へ降下を始めた所へ、衝撃波を見舞う。
それにより、頭から両断された鳥形モンスターは塵へと変わった。。
ボスをなくしたロック鳥の群れは、退却を始め……。
バシュン、バシュンっと、俺の耳元で魔道砲が唸りを上げている。
おいおい。
魔族って容赦ないなぁ。
逃げていくロック鳥全てが、射程の長いリリスの魔道砲に撃ち落とされた。
さて……。
「無事か?」
俺は、ガキを抱え震えているザコBに話しかける。
「お兄ちゃぁぁぁぁぁん!」
おっと、ガキが俺の胸に飛び込んできた。
俺は、ガキの頭をなでる。
まぁ、これで酔い止めの礼にはなっただろう。
「へへっ……。大丈夫か?」
今さらかよ、ザコA……。
乾いた音が、潮風に飲み込まれていく。
ザコBがザコAを攻撃……ひっぱたいた。
なんだ? 混乱したのか?
「ケイン……あんたみたいな根性無しとは、これっきりよ!」
ざまぁぁぁぁ!
あの馬鹿! 何時もの俺の位置にいるよ!
だっさ!
ザコAだっさ!
これ見てるほうは、気持ちいい!
『お前の腐り方に、歪みはないな』
****
ガキを母親に渡すと、何回もお礼を言われた。
それからしばらくして、甲板にいた俺はザコBに謝罪される。
ここまでなら、格好良かったんだよなぁ。
「あなたの事は他の客に聞きました……。本当にすみませんでした……。それで、その……修行不足を実感しまして……。もしよければ、私もパーティーに……」
あっ……。
これ駄目だ……。
きっつい……。
甲板から遠くの空を見て返事をしない俺を、ザコBは無理やり自分の方へ振り向かせた。
やめてくださぁぁぁぁい!
そう言うのちょ……。
やめて下さ~い……。
「何回でも謝ります。だから……ぎゃああああああぁぁぁぁぁ!!」
酔い止めで無理やり酔いを止めている状態での、暴飲暴食……。
ええ、そうです。
吐きましたけど、なにか?
はい、そうですよ。
女性に向かって、もろに吐きかけましたけど、何か?
あなたに迷惑はかけてないじゃないですか……。
もぉぉぉ、ほっといてよ!
俺が悪いんだよ!
分かってるんだよ!
だって、おなかすいてたんだもん!
因みに、そこで一度俺は意識を失う……。
ザコBの剣が、俺のアゴにいい角度でヒットしたからです。
もしその剣に鞘がなければ、死んでいた。
はいはい、そうです~。
気絶したんですよ~……。
分かった事は眠ってる時と、気絶している時……。
つまり、意識がなければ酔いは感じない。
いい勉強になりました……。
って、なんじゃコレ!
ふっざけんなよ~……。
なんか、ザコBをうまい具合につまみ食いできる、サブイベントじゃないの? これ?
なんだよ、このラストォォ!
なんで、英雄が自分の吐しゃ物にまみれて、女性に気絶させられてんの?
またか!
嫌がらせの二期が始まったのか!
神様よぉぉぉぉ!
死ねよぉぉ……。
やってらんね~……。




