十三話
『神よ! 私はあなたを怨む! 何故、これ程の者を無へと返すのですか!? この者は多くの人を……世界を救った! なのに、自身は一度も救われることなく消えると言うのか! ただの一度も……』
ジジィが、泣きながら天を仰いでいる……。
もういいんだって……。
「全く……この馬鹿弟子……」
誰が馬鹿だ!
最後になんて事……。
えっ?
この声は……。
「ギリギリ間に合ったようだな」
目の前に、師匠がいる……。
霞んでいく視界の中で、師匠は空気中から光の球を抽出する。
何をして……。
「勝手に死んでくれるな……」
ええぇぇ? 師匠までわがまま?
俺の心臓……。いや、体全体が、ドクンドクンと脈動する。
「……な……に……を?」
師匠が俺の胸に光の球をかざすと、光の球は俺の中へ吸収された。
そして……。
空っぽだった、俺の中にある何かが満たされていく。
これは一体?
温かい……。
えっ!?
母……さん?
父さんも……。
それにセシルさんにオーナー……。アレンまで……。
師匠の隣に、半透明な五人がいる。
師匠? これって……。
「お前に、どうしても一目会いたいと言われてな」
言ってる意味が分かりません。
「特別だ……」
『貴方は……貴方様は……』
なんだ?
ジジィ? 師匠知ってるの?
てか、なんでまだ俺消えないの?
「久しいなマリーン……。五千年ぶりか?」
はぁぁぁぁ?
何? 俺の師匠って電波さん?
『馬鹿者! このお方は……』
何? 何?
訳が分かりません!
『この方こそデス(死神)! 魔剣の真なる創造主様じゃ!』
えっ……。
マジで?
師匠って、神様の類だったの?
「神じゃない。あ……ああ……いや、まあ、少し違うが似たようなものだ。魂が操れるのは、間違いないからな……」
あの……。
もしかして……。
俺の体から煙が吹き出し、怪我が修復されていく。
「俺にならミルフォスのあり余ったエナジーを集める事が出来る。だから、ギリギリになったが駆けつけた訳だ」
体に……力が満ちる!
魂が……。
「これで、お前は大丈夫だ」
「師匠……」
「神と言えるほどの力を吸収したんだ……。もう、お前はそう簡単には死ねないぞ?」
師匠が、優しく微笑んでくれている。
ん? あれ?
でも、もしかして……。
「これからも俺は、この不幸体質のまま生きるんですか?」
「まぁ……」
いやいやいや!
「有り得ないです、師匠! 俺に幸福を下さいよ! 師匠も神様なんでしょ!?」
師匠は頭をポリポリと……。
いやいや! ポリポリじゃなくて!
「あの……。あれだ……。俺は万能とはほど遠い存在でな……」
「出来ないんですかぁぁぁ!? まだ俺に苦しめと?」
「苦しむかどうかは……分からんが……多分」
「多分ってなんですかぁぁぁぁぁぁぁ!! 大事な部分を多分って! 人には嫌われまくるし、殺されそうになるし、彼女出来ないし……。俺! 不幸のずんどこなんですけど!」
『どん底な……』
「五月蠅い! ジジィ! 今、つっこみとかいらないから! 師匠ぉぉぉ……」
今にも泣きそうな目で訴えかけてみたが、顔を逸らされた。
「まぁ……。それでもお前はお前らしく生きていくんだろ?」
うわぁぁ……。
なんか、いい言葉で誤魔化そうとしてるけど……。
俺の不幸って、確定じゃね?
くっそ……。
相手が師匠の上に、死神だから不用意に死ねとか言えねぇぇ……。
逆に俺が殺される……。
やってらんね~……。
「はははっ……。レイ君は相変わらずなんだね」
セシルさん……。
「たまには涙を流して泣いておけ……。泣くのを我慢しすぎると、心の奥が壊れるんだぞ」
オーナー……。
「君のおかげで、俺達は幸せをもらったんだ……」
アレン……。
「お前は私たちの生きた証……。そして、誇りだ……」
父さん……。
「だから、あなたは自分の思った通りに生きなさい……。あなたは私の自慢の息子です……」
母さん……。
五人が笑いながら消えていく……。
笑ってくれるのか……。
『なんでもかんでも悪い方に受け取りおって。これがお前の成し遂げた結果じゃ……』
皆が笑ってたよ。ジジィ……。
『そう言う事じゃ』
「さあ、胸を張れ……。全部を背負い込んだお前は、それを成し遂げたんだ」
師匠……。
「お前に剣を教えたのは、本当にただの偶然だった……」
偶然なのかよ……。
俺……。
その気まぐれ的な物に、命を何回もかけたんですけど……。
「しかし、まさか教えもしていない最終奥義まで、自力で辿り着いたんだ。お前にはもう、教える事はなさそうだな」
おおう……。
何気に俺、死神の剣を使いこなせてたのかよ。
でも、最終奥義って?
「己の全て……。魂すら燃やす一撃こそ、我が流儀の奥義だ。それが、斬撃でも突きでも奥義に違いはない……」
さ……さすが死神の剣……。
型がないないとは思ってたけど、最終奥義までそのあり方で技ですらないとは……。
「真の力とは、そういう物だ」
師匠が、今度は少し愛嬌を出して笑う。
てか、あれ?
師匠……。
ジジィみたいに、俺の思考が読めてません?
「その魔剣も、俺の一部だからな」
ああ……。
あのもしかして……。
「俺に殺意思ったのも分かったが、今日の褒美に大目に見ておこう」
で……ですよねぇぇぇ……。
俺、危うく生き帰ってすぐに殺されるところだった。
洒落になってねぇぇ……。
『はぁ……まったく……。情けない』
うっせ! ジジィ!
お~や?
ご褒美が大目に見るって事は……。
「あの~……師匠?」
「なんだ?」
「ご褒美に幸運とか彼女とか無理なんですかね?」
何でため息つくの?
「お前は、もう充分だろう? なんとなく幸運で好きでもない女性大勢に囲まれるのと、多少不幸だが本当に想ってくれる女性に出会うの。どっちが本当に幸せだ?」
いやいや……。
「そんなの前し……」
なっ!?
この圧倒的なプレッシャーは、一体何だ!?
いや、俺はこれを知っている!
殺気だ!
それも三つとも知っている!
カーラにニルフォで追いまわされた時、リリスに村で見つかった時、メアリーの前でリリスと二人になる約束をした時……。
殺られる……。
ここで、前者って言うと確実に殺られる……。
やらせん! やらせんぞ!
「ハイ、モチロン後者ガシアワセデツ……」
殺気がおさまっていく……。
ギリギリだ……。
本当にギリギリだが……
俺は生きる!
「馬鹿弟子が……」
『……情けない』
二人してそう言い方、よくないと思うなっ!
「あの……」
俺が上半身を起こすのを見て、カーラが恐る恐る師匠に問いかける。
「なんだ? お譲ちゃん?」
「レイは……」
「大丈夫だ。寿命も普通の人間より、長くなったぐらいだ」
「レイィィィィ!!」
師匠の言葉を聞いた三人娘は、また声がはもる。
仲いいな。お前ら……。
「おほうっ!」
化け物じみた女性三人の、全力タックル……。
ははっ……。
死んでしまうわっ!
内臓が口から飛び出る!
馬鹿ですか! お前ら!
「レイ……」
「よかった……よかった……」
「心配させやがって……」
ふぅ~……。
なんだかなぁ……。
三人に抱きつかれ、倒れ込んだ俺は考える……。
一人は、頭の中がプライドと狂気が詰まった、ツンしかないエルフのお姫様。
一人は、完全な二重人格で、人間が嫌いな有翼族の族長。
一人は、化け物みたいな力で俺を握りつぶそうとする魔王の娘。
三人から好意は、物凄くうれしい。
でも、三人とも浮気すれば、多分……。いや、ほぼ確実に殺そうとしてくるな。
つまり、一人を選んだ時点で俺はジ・エンド……か。
何より、定期的にくだらない事で、俺を殺そうとする三人……か。
これが幸せ?
いや! いや! いや!
不幸ですからこれ!
フ……フラグ立てすぎたぁぁ……。
てか、俺は立てようとはしたけど、立てた覚えないんだけどなぁ。
嫌われそうな事はした記憶あるけど……。
三人とも、びっくりするくらい美人だけども……。
皆どっか頭のネジとんでるもの!
殺そうとするもの!
絶対不幸だよこれ!
「レイィィ……」
なんだよ、カーラ……。
「馬鹿馬鹿馬鹿……」
誰が馬鹿だよ、メアリー……。
「私が殺すまで、絶対死ぬなんてゆるさん……。許してたまるか……」
だから怖いって、リリス……。
三人は俺にしがみついて泣いている……。
女を泣かせるとか、嫌なんだけどなぁ……。
神様……。
この三人を泣きやませてくれよ……。
頼むから……。
****
うおおおおぅ!
なんだ?
いきなり地響きがするほどの歓声が上がった。
うっさいわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
なんだよ?
人類統合軍全ての人が剣を掲げたり、帽子を空に投げたり、抱き合ったり……。
遅っそい、勝ちどきってやつか?
ああ、もう……。
うるせぇぇよ……。
仕方なく仰向けのまま、しがみ付く三人の頭を撫でる。
****
その俺を見つめている視線には、気が付けない……。
メアリー達同様命を捨てる覚悟で、この場に来た女性達……。
リリーナお嬢様に生徒会長とパメラ先生、アニスちゃんにソニアちゃん……。
その他大勢の俺が救ってきた女性達……。
自分たちの想い人の胸……。
そこで泣いている三人を見て、理解している……。
そこが、思い人を信じ続ける事が出来た者だけの特等席だと言う事を……。
って、勝手な解釈やめろよ!
お前らさえ勇気を出せば、俺のハーレム完成だったのに!
勇気出しなさいよ!
俺は受け入れますってば!
勝手な解釈とかやめなさいよ!
****
あっ!
そう言えば……。
「師匠!」
「な……だ……ど……した……」
聞こえない……。
「うるさいわぁぁぁぁぁぁぁ!! ちょ! 黙れ!」
俺は全力で叫んでいた……。
俺の近くにいた兵士から、静かになっていく……。
「あの師匠、俺が生きてると千人の命が……」
「その力は俺が斬り捨てておいた。心配するな」
斬り? なんでもありだな。
ふぅ~……。
まあ、これでもう命を狙われることないな。
あれ?
もしかして俺って、これから英雄として幸せになれるんじゃ……。
「そんなお前にプレゼントだ」
師匠が、折りたたんだ不思議な材質の紙を差し出してきた……。
なんだ?
プレゼント?
まさかっ!
グラビアポスターか!
『有り得んじゃろうが!』
分かってるよぉぉぉ……。
冗談ですよぉぉ……。
うん? おいおい、これって……。
「世界は広いぞ」
そんな笑顔で……。
師匠……。
こんなの見せられたら……。
「まぁ、お前はお前らしく生きろ。じゃあな……」
あっ!
師匠が俺に背を向ける。
「師匠ぉぉぉぉぉ!! ありがとうございましたぁぁぁぁぁ!!
師匠は後ろを向いたまま手を振ると、空高く跳び上がり、空を蹴って飛び去っていく……。
なんでもありだな、あの人は……。
さてと……。
「三人とも、ちょっと放してくれないか?」
俺の言葉で、泣きやみつつあった三人は顔を上げる。
****
三人が離れた所で、俺はアドルフ様を見つけて駆け寄った。
そして、片膝をついて頭を下げる。
「ご無沙汰しております」
「レイよ……。英雄に頭を下げてもらうほど、私は偉くはないぞ?」
「いえ、約束を違えてしまいまして申し訳ありません。それを謝罪だけさせていただきたくて……」
「お前は、私が与えた以上の物を我らに返してくれた……。我らが感謝こそすれ、謝られる覚えはないぞ?」
「はっ! ありがとうございます」
そこで俺立ち上がり、真っ直ぐに恩人の顔を見つめる。
「レイよ……。これからお前は……」
「これを見て下さい。師匠から頂いたものですが……」
「これは……。世界地図か? 未開の地まで記載されておるな……」
「この大陸はちっぽけな島国でした……」
「ふふふっ……。そう言う事か……。全くお前らしい……」
「では、さらなる不義理ご勘弁下さい」
再び俺は、アドルフ様に頭を下げる。
「行って来い! 息子よ! ただ……疲れた時には、何時でも帰ってくるがいい!」
「ありがとうございます!」
顔を上げた俺の目は、希望で輝く……。
ただ、パッと見は死んだ魚みたいな色してるけどね。
さてっと……。
「まて!」
あん?
ゴルバ……。
「また旅に出るのだな?」
「まぁ……」
「俺も連れて行け!」
「断る!」
「いや、待て! 待ってくれ!」
そのまま歩き去ろうとする俺を、必死でゴルバが止めようとしてくる。
「なんだよ……」
「お前は私を負かしたのだ! 分かっているのか?」
「分かってるよ。人を馬鹿にしてるのか?」
「違う! その……なんだ……」
次期魔王候補が、モジモジすんな! キモイ!
「俺は、お前に断られてもお前に仕える! そう決めた!」
ええぇぇぇ……。
何宣言してんだ? この馬鹿狼……。
『気に入られてしまったようじゃな……』
ジジィ……。
何時の間に、右腕の中に……。
『あの姿は魔力消費が激しいんでな……』
じゃあ、やるなよ……。
『おまっ!』
「それに……メアリーの事も心配だしな……。何を言っても私はついて行くぞ!」
もっかい、ええぇぇ……。
男のツンデレとか、いらねぇ。
てかキモイ……。
『人の好意を……』
待ぁてぇよぉ……。
こいつ二百十年以上生きてて、独身……。
何気に、やばくね!?
もしや……。
「お前……ついてくるな……」
「なっ! 何があっても離れんぞ!」
ノォォォォォォォォ!!
ガチホモのフラグまで立っとる!
『違うと思うぞ……。元々人狼族は、忠義に熱い種族なんじゃが……』
ガチですよ!
こいつ……。
ガチンコですよ!
『……連れて行ってやらんか?』
そんなことしたら、毎日お尻をガムテープでガードして眠らないといけなくなるだろうが!
かぶれてしまうじゃないか!
嫌じゃボケ!
『じゃから、決めつけるな……。多分こ奴にはそっちの気はないはずじゃ……』
はず! じゃ、困るんだよ!
万が一ってこともあるだろうが!
男は皆、狼なんだよ!
てか、こいつは本物の狼なんだよ!
襲われてまうわ!
その場を無言で歩き去ろうとする俺に、ゴルバは三歩下がった位置でストーキングしてくる……。
全力で走れば……。
『ついてくるじゃろうな……。なにせ、お前より人狼の方が足は速い』
ノォォォォォォォンッ!!
俺は! 今後一切! 部屋のカギを忘れない!
『ま……まあ、がんばれ……』
洒落にならね~……。
****
「レイ?」
「これからどこに?」
「私は、どこにでもついて行くぞ!」
えっ?
「ついてくるの? 三人とも?」
「当り前だ!」
「なんだ? その顔は!」
「迷惑なんですか?」
ナイフ、魔道砲、伸びた爪が俺の首に突き付けられた……。
ほら……。
『なんじゃ?』
もう、軽く命の瀬戸際ですよ。
『いつもの事じゃろうが』
俺を殺そうとする三人の女性と、ケツ狙ってくるガチホモと、別の大陸を旅するなんて……。
『まぁ……全て好意じゃ……』
いらない! こんなのいらない!
てか、怖いわ!
確かに戦闘力高いけど、こんなパーティーで行かなきゃいけないのぉぉ?
たく……。
とことん俺って運がねぇ……。
やってらんね~……。




