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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第一章:聖王国の学園編
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三話

学園の体育館では、大きな歓声が上がっていた。


今日は、年二回の体育祭と言う学校行事。


俺のクラスが使っているコートに向かって、女子が黄色い声援を送っている。


もちろん、俺に対してではない。


俺がいるクラスの代表である、アルス:ルークに向かってだ。


そいつは、剣技・体術共にうちのリリーナお嬢様以上の才能と、ファナさんには及ばないが法術の才能もある。


見た目は爽やかな汗の似合う美形で、うちのクラス以外にも奴目当ての女子が大勢見に来ていた。


一年生で生徒会書記になっているし、家柄も超名門の完璧野郎……。


どこの主人公ですか? 貴様は?


奴と剣術の授業で中等部時代に手合わせをしたが、一撃だけとはいえ本気で俺に当てやがった。


そんな事が出来る奴はいないと思ってた、俺の自信はポキリとへし折られたよ。


それも、その手合せの後、今のは本気だったか? なんて俺の力を若干ではあるが見抜くほどの眼力まで持ってやがる。


つまり、腕も才能も本物の、天才的ってやつだ。


俺は、それ以降奴との手合わせは授業中でも避け続けている。


今はもしかすると俺と同等くらいになってたりして……。


ははっ……死んでしまえ……。


今も天才様は、バスケットの試合で華々しい活躍をしている。


それに引き換え俺は……先日のファナさんの一件もあり、補欠のさらに補欠として体育館いる。


まあ、平たく言えば、お前は邪魔にならな所で見学してろと言われた。


俺に拒否権などない。


体操服にすら着替えていない。


やってらんね~……。



アルスが動くたびに、女子の声が大きくなって五月蝿い。


俺個人的には教室に戻って眠りたいのだが、一応このバスケットの補欠という事になっているので、試合の間中体育館にいないといけない。


一人だけ制服のまま、隅で体育座り……。


ただの晒し者だよ、これじゃあ……。


教室に帰る為に、うちのクラスには早く負けてほしいが、アルスの活躍で勝ち進んでいきやがる。


お嬢様のいる女子側のバレーも、勝ち進んでるようだし……。


俺を除いて仲のいいうちのクラスは、祝勝会とかしそうだなぁ。


その場合、呼ばれないか、呼ばれても居場所がないか、呼ばれた上に皆から嫌がらせを受けるか……。


呼ばれないのが一番いいなんて……泣けてくるぜ。


この王国が魔剣禁止でさえなければ、あの活躍は俺の物だっただろうし、女子と何らかのイベントも期待できるのに……。


はぁぁ、死刑は嫌だから仕方ないよな。


うん!?


二階の応援席から、俺の名前が?


見上げてみると、他のクラスの女子がひそひそと……。


ああ、悪口ですね。はいはい。


俺が視線を向けた事で、気持ち悪いとまで言いやがる。


なんだ!?


俺は見ることさえ犯罪扱いなのか?


後先考えずに、魔剣出して暴れたろかこのクソ女子が!


はぁぁ……。


****


そうこうしているうちに試合が終わった。


うちのクラスが、勝ち進んだ。


次はいよいよ決勝戦だ。


このまま行くとうちのクラス、一年で優勝しちまいそうだな。


確かにうちのクラスは貴族の坊っちゃん、お嬢ちゃんばかりだ。


ただ、それは言い換えれば、血筋のいいサラブレッドばかりという事でもある。


基本性能も、他のクラスと比べて一枚上手だったりする。


俺から見れば甘ちゃんばかりだが、ルールのあるスポーツ、それも同じ学年の中では負けるような奴らじゃない。


うちのクラスに対抗できるのは同じようにサラブレッドが集まっている、上級生のクラスだけだろう。


うちのクラスの奴らが、次の決勝までの休憩にベンチのある体育館の隅へ帰ってくる。


因みに俺には、ベンチに座る権利すらないそうだ。


ケツが冷たい。


俺の前を通り過ぎた三人に、足を踏まれた。


なんだ!? この陰湿さは?


マジで勘弁してくれよ……。


****


「アルスくん」


「あ!会長に副会長。応援に来てくれたんですか?」


「ええ。なかなかの活躍ですね」


「ただ、まだまだ甘いぞ。もう少し修練が必要ではないか?」


「ははっ。会長は手厳しいですねぇ。でも、毎日の訓練は怠ってませんよ」


「ふふっ。見ていれば分かっている。だが、勝って兜の緒を締めろと言うだろう?」


「分かっています。会長からの愛の鞭確かに承りましたよ」


アルスに、生徒会長と副会長が話しかけてきていた。


その二人は、三年生のマドンナ的存在だ。


会長は、レイン:イングウェイ。全ての成績が全校内でトップクラスのクールビューティー。名門道場の跡取りで、振る舞いや言葉が男っぽいが優しさに才能、人望、美しさがそろったある意味怪物だ。


確か父親は王国の親衛隊元隊長で、若い兵士達の育成のために訓練指導館館長になった猛者だったはず。


そして、副会長もその会長の父親を現役時代補佐していた男性を父に持つ、名家のお嬢様だ。


名前は、イサナ:リーベ。


見た目もこれまた清楚な黒髪美人で、法術はあまり得意ではないらしいが学業成績は一位、生徒会副会長と弓道部の主将を兼任している才能の塊みたいな人だ。


…………。


そんな二人と仲良く話しているアルス……だからお前は、どこの主人公なんだ!


ゲーム名言ってみろ!


奴なら、鈍感で本命の彼女が出来ないが周りの女性に好意を寄せられると言う、ハーレムも夢ではないのだろうな。


いや、もう、マジで死ねばいいのに……。


奴を見ていると、余計に自分が惨めに思えるよ。


会長と副会長と仲良く出来たら、多分俺はすぐに告白してしまうだろうなぁ。


二人とも反則級の美人だ。


何で俺には手に入らないものが、目の前をちらつくんだろう。


「会長達はもう制服に着替えていますが、試合はどうでしたか?」


「もう終わったんですよ」


「ああ……。予想は出来ますが、結果は?」


「もちろん優勝した。私とイサナのいるクラスが負けるわけがあるまい」


「そうですよね。すみません。じゃあ、俺の応援でもしてくれるんですか?」


「そのつもりで来たんですよ。がんばってね、アルスくん」


「はい!」


なんだ? このイベント臭のする会話は?


アルスの奴は、会長か副会長のフラグでも立てたのか?


マジで、転んで怪我でもしてしまえ。


なんかの魔法具で、中身だけ入れ替えられねぇかな?


そうすれば、俺の人生もバラ色になるのに……。


俺が体育館の隅で妄想にふけっている間も、アルスは着々と活躍し、女性達からの声援を受けている。


飛び散る汗が、あいつだけ何故か煌めいてる……。


はいはい、そりゃモテますわなぁ。


うん?


しかし、この決勝戦は中々の接戦になってきたな。


相手のクラスにも、エース級の奴がいる。


動きがアルスと同等だ。


確か、あいつも名門の…………そうだ! マークとか言うお坊っちゃんだ!


剣術ではアルスに劣るが、体術はアルスより成績がよくて、俺の学年でアルスと女子の人気を二分している奴だ。


マークの家は、名門の貴族だが軍事ではなく政治のほうの名門だからうちのクラスにはいないが、あれなら軍人になってもいい働きをしそうだなぁ。


見た目も悪くない。


アルスがさわやか勇者系なら、マークは影のある英雄と言った感じだろうか?


どっちにしろ、俺からすれば妬ましいけどねぇ。


二人がもつれて転んで、骨折でもしてくれればいいのに……。


しかしまあ、本当に接戦だ。


妬みを忘れさえすれば、かなり面白い試合だな。


アルスとマーク二人による、点の取りあいになっている。


特に、アルスとマークの一対一の対決は見ものだ。


速度や全体的な体さばきではマークが若干上だが、先を読む動きと瞬発力ならアルスが上だろうか?


あの二人は天才同士の好敵手ってやつなんだろうなぁ。


男に興味はないが、友達の居ない俺には、羨ましい限りだ。


まあ、せいぜい楽しめばしいさ。


****


タイムアップ十秒前、コートに大きな歓声が上がった。


アルスが瞬発力とフェイントでマークを躱し、決勝点を決めたのだ。


俺の予想通り、うちのクラスが優勝した。


ああ……いろんな意味で面倒な事に……。


アルス達がハイタッチ等で喜び合っている最中に、うちの女子達が様子を見に来た。


彼女達の会話で、女子側もうちのクラスが優勝した事が分かった。


ついでに、聞きたくなかったが俺が何故補欠として、男子の試合を見続けていたかの理由も彼女達は喋ってくれた。


俺に見られていると思うだけで気持ち悪いそうで、体育館に縛り付ける為に男子と共謀してくれたそうだ。


悪口は、聞こえないところでしてほしいな。


まあ、聞こえても構わないんだろうけど……。


アルスは男子達だけでなく、会長、副会長、リリーナお嬢様、ファナさんと言う四人の美女とハイタッチをして、騒いでいる。


うらやま死ね!


ん?


マークは負けた事がよほど悔しかったようで、涙目でアルスを睨んでいる。


ははっ、お前より俺のほうがアルスを憎んでいますよ。


さらに言うと、お前も憎い。


だって、俺からすれば、お前も十分すぎるほど恵まれてるもの。


****


閉会式後、案の定クラス全員で祝勝会が企画された。


もちろん俺は誘われない。


何故かアルスは俺も誘おうと言っていたが、リリーナお嬢様が却下していた。


ははっ……お嬢様は何時ものことだが……。


アルスは、わざわざ祝勝会に俺を呼んで、惨めな思いをさせたかったのか。


なるほど……このさわやかな偽善者めっ!


話は少し変わるが、今週からリリーナお嬢様の提案で、俺はカバン持ちをしなくてよくなった。


理由は、俺に自分の物を触られるのが気持ち悪いとの事です。


平たく言えば、これ以上ないほど嫌われてるって事だろう。


楽になったのはうれしいが、俺の評価は最底辺まで落ちたなと思っていた。


実は後日さらに今いる場所が、俺の評価の底ではない事が分かった。


****


俺は体育祭終了後、する事もないのでさっさと帰路につく。


祝勝会に呼ばれて嫌がらせをされるよりはましとしても、これはこれで十分みじめだよなぁ。


そんな事を考えながら、門から一歩出て振り返り、学園を眺める。


そこにいた女子二人に、すごく嫌な顔をされて走り去られた。


まさに灰色などと考えていると、アルスが裏庭に向かっているのが見えた。


あれ?


あいつ祝勝会行かないのかな?


気になった俺は気配を消して、アルスの後をつけることにした。


裏庭に行くと、そこにはマークがいた。


なんだ? マークの奴、二本も剣を持っているぞ。


まさか、仕返しか?


よし! 応援してやる! アルスが祝勝会に出られないようにしてくれ!


などと考えていると、裏庭へ二人分の気配が近づいてくる。


なんだ?


俺には全然及ばないが、その二人も気配を消している。


俺は後者の壁際から木の蔭へ移動して、可能な限り気配を消した。


裏庭に来たのは、会長と副会長だった。


「やはりな」


「止めますか? 会長?」


「いや、果たし状でのリベンジとは……マークも中々のおとこではないか」


「でも、レイン……。彼が持ってるのって、真剣じゃないの?」


「大丈夫だ。まずいと思えば我らが出ていけばいいことだし、アルスは私達が認めている者だぞ?」


「それは、そうですが……」


なるほど、事情が分かった。


しかし、さすが会長と副会長。


俺じゃなければ感じ取れないくらいまで、気配を消している。


「ん?」


うお!


「どうしたの? レイン?」


「ん~……。いや、気のせいだ」


「そう、そろそろ始まるわよ」


「ああ」


やっぱ会長は化け物だ。


全力で気配を消した俺に、少しではあるが気付きそうになった。


もう、動くの止めよう。


変な誤解されたくない。


「さあ! 決着をつけるぞ!」


息をゆっくりと吐いた俺は、アルスとマークの対決に視線を移す。


相手にも同等の武器を渡すあたり、マークは死ぬほどプライドが高いんだろうなぁ。


俺なら、相手の武器に細工する。


****


やはり、二人ともレベルが高い。


すでに生徒のレベルじゃないな。


ソウルイーターがなければ、俺でも勝てるかどうかわからないレベルだ。


しかし、マークの奴アルスに固執しすぎじゃないか?


確かにアルスさえいなければ、マークが学年で一番になれるだろうけど……。


いや、俺もマークと同じ立場なら似たようなことしたかな?


俺ならもう少し自分が有利になる、ばれないような手段を考えるだろうな。


あれ?


もしかして、俺のほうが陰湿なんだろうか?


悩んだ為、戦いから目を逸らした俺の耳に、金属のぶつかった音が届く。


急いで視線を戻すと、マークの巻き込みでアルスの剣が弾き飛ばされた後だった。


おお!


マークが実力で勝ちやがった……って、おいおい……マジかよ。


アルスはマークの止めの一撃を、白刃取りしやがった。


あの野郎は、どんだけ高性能なんだよ! 


天才っておっかねぇ。


マークの剣を奪ったアルスは、相手ののど元に剣を突き付ける。


あ~あ……。


もうちょっとだったのに……。


まあ、あの天才相手に、勝ったと油断して剣速を鈍らせたマークが悪いか。


出来れば、祝勝会に出られなくしてほしかったなぁ。


会長と副会長は、その光景を満足げに見ている。


アルスは、またあの二人のフラグを回収したんじゃないか?


見てるこっちとしては楽しくないな。


「くそっ! なんでだ!」


まさに負け犬の遠吠えだな、マーク。


最後に油断するからだよ。


「お前さえ……お前さえいなければ!」


ん!?


なんだか見覚えのある光景……。


マークが懐から出したのは、水晶でできた魔法具。


また、魔獣でも出すのか?


最近、貴族の間で、それ流行ってんの?


さすがに前回のキマイラには度肝を抜かれたが、今回は分相応な獣だろう。


マークはそこまで馬鹿じゃないはずだ。


うまくいけば、アルスが祝勝会に行けなくなるかもしれないし、応援するぞ!


がんばれ、マーク!


残念な事に、マークも馬鹿だった。


水晶が割れて出てきたモンスターは、ヒュドラ。


また高レベルモンスターかよ!


このモンスターもBランクだぞ!


お前コントロール出来るんだろうな!?


ヒュドラとは多数の首を持った巨大な蛇のモンスターで、キマイラと同格だ。


いや、よく考えろ。


マークは、こないだの先輩ほど馬鹿じゃないはずだ。


もしかすると、コントロールが出来るのかもしれない。


因みに、最高レベルの九本の首をもつヒュドラは、俺でも勝てないほど強いモンスターだ。


コントロールなど、大人でも出来ないだろう。


だが、こいつの首は二つ。


ヒュドラの中では、レベルの低い奴だ。


このレベルなら、ぎりぎりコントロール出来るのか?


「さあ……行け!」


マークの叫びにヒュドラは……あ……。


思いっきり尻尾で、マークを弾き飛ばした。


まったく言うこと聞かねぇ。


無防備な背中を思いっきり叩かれて、壁にぶつかったマーク。


最悪背骨折れたんじゃないか?


さすがにアルス一人じゃ、荷が重いだろうな。


どうする?


助けに入るか?


いや! 少しダメージを受けてもらってからにしよう!


などと考えていると、アルスがヒュドラのしっぽで吹き飛ばされている。


剣でガードしているが、あれでは剣が持たないだろうな。


一本骨が折れたら、すぐに助けに入ろう。


あっ……。


ヤバい……。


食い殺されそう……。


あれ、避けられなんじゃ……。


死なれるのはちょっとまずい!


そう思った瞬間、ヒュドラの目に矢が刺さる。


副会長だ。


会長もすでに刀を抜いて、戦闘態勢に入っている。


二人の事、すっかり忘れてた。


この三人ならいけるか?


不用意に魔剣を使えないし、出来れば三人だけでなんとかして欲しい。


****


三人は、見事な連携プレーを見せ始める。


イサナ副会長が弓で常に片方の頭をけん制し、尻尾の攻撃をアルスが防ぎ、残りの頭をレイン会長が攻撃していく。


徐々に、ヒュドラ側の傷が増えていった。


ああ、流石。


あ! やばっ!


俺の隠れていた木に、ヒュドラの尻尾が飛んできた。


仕方なく、俺は飛びのいた。


「レイ!?」


やべ、隠れてたのばれた。


アルスが目を丸くしている。


「下がっていろ! 怪我をするぞ!」


レイン会長はヒュドラと交戦しながら、俺に避難を促した。


ここは、任せてもよう。


顔を見られちゃったから、魔剣が使えん。


俺がそろりそろりと逃げ出し始めた所で、レイン会長はヒュドラの首を一本落とした。


今回は会長と副会長へのポイント稼ぎは出来ないが、問題はなさそうだ。


案の定イサナ副会長とアルスが胴体を押さえ込み、もう一本の首をレイン会長が切り落とした。


本当にこの三人はレベルが高い。


「さて、あの馬鹿を医務室に運ぶか」


「はい。ありがとうございました。会長に副会長」


「いいんですよ。ご無事で何よりです」


三人は、戦闘態勢を解いてマークへと視線を向ける。


その時、俺はあることを思い出した。


ヒュドラの通常戦闘力は、キマイラより低い。


だが、同格として扱われている。


それはヒュドラが驚異的な生命力と回復力を持っており、なかなか死なないからだ。


胴体にある核を壊さないと奴は死なないし、首は再生してしまう。


見ると既に最初に切り落とされた首が再生し、もう一本も再生しかかっている。


その時俺は頭をフル回転させた。


この三人でも倒せない以上、俺が魔剣を使うのが得策だが、今までの失敗がある。


ここで、俺だけ逃げればまたクズ扱いがひどくなるだろう。


ならば、今まさに襲いかかってくるヒュドラのしっぽから会長を突き飛ばすなりして救えば、素顔の俺の評価ももらえるし助けを呼びに行こうといったん退却することで、マスクをかぶる時間が出来る。


よしこれだ!


「危ない!」


考えが纏まると同時に、俺は会長に向かって跳ぶ。


それが最悪の結果を生んだ。


反射的にレイン会長は、自分に向かってきた俺を、蹴り飛ばしやがった。


そして、俺の飛ばされた方向に立っていたアルスは俺のクッションになり、壁と激突して気を失った。


レイン会長とイサナ副会長は、その間にヒュドラのしっぽをもろに食らい、地面に強く叩きつけられていた。


なんてこった……。


最悪じゃねぇぇかっ!


レイン会長は立てないほどになっているし、イサナ副会長は多分腕の骨が折れている。


二人とも意識はあるが、戦闘続行は不可能だ。


「くそって!」


うわぁぁ……俺、二人にめっちゃ睨まれてる……。


それに、このままだと俺達ヒュドラの餌食になっちまう。


もう、ヒュドラの首は完全に回復してるし……。


ええい! もう! 迷ってる暇はない!


****


俺は急いでその場を離れ、憤怒のマスクを装着し、魔剣を呼び出しヒュドラのもとへ駆け戻る。


そして、レイン会長に再び襲いかかるヒュドラのしっぽを、剣ではじき返した。


そんな俺にすぐさま、ヒュドラの口が襲いかかってくる。


横方向へと飛ぶことで、それを避ける。


だが、ヒュドラは甘い敵じゃない。


うおおっ!


二つの首が休みなく襲ってくる。


俺は逃げ場が無くならないように、円を描く動きで横に飛び続けた。


速い!


一本が襲いかかってくる間に、もう一本が首を引いて溜めの時間を作っており、攻撃がやまない。


ヒュドラの口が、恐ろしいほどの速度で俺に襲い掛かってくる。


首だけの速度なら、キマイラ以上だ。


なんとか避け続けられるが、このままだとこっちの体力の限界が先に来る。


胴体の核は、確か首の付け根の少し下にあるはずだ。


魔剣の出力を最大にして首を両方切った後、そのまま胴体を両断するしかないか?


それ以外に方法はなさそうだな。


そう作戦を決めた瞬間、なんと俺が飛んだ方向にしっぽが待ち構えていた。


直撃を受ければ、負ける!


俺は、瞬間的に上へと向かって全力で跳んだ。


その瞬間を待っていたかのように、二つの首が空に向かって伸びる。


空中で逃げ場がない?


いや! まだだ!


とっさに空中で剣を盾にして体を捻り、片方の首の攻撃を受け流し、首と首の間に滑り込んだ。


この位置ならば!


ソウルイーターの出力を、俺が出せる最大限まで高め、必殺の技を放つ。


超高速の十字切り《サザンクロス》。


素晴らしい切れ味を持つ魔剣は、ヒュドラの首と胴体を同時に切断した。


魔剣とヒュドラの魔力がぶつかり、軽い爆発が発生する。


それと同時に、魔剣が魂を食った感覚が手から伝わってきた。


かなりの生命力をヒュドラが持っていたおかげだろうか?


キマイラを倒した時よりも、ソウルイーターの力が補充できた気がする。


おっと……会長と副会長が立ち上がって騒ぎだしそうな雰囲気だ。


気になることがある俺は、マークが割った魔法具であった水晶の破片を拾うと、全力でその場から逃げた。


俺は走りながら、考えた。


会長達の元に戻るべきだろうかという事をだ。


まあ、結局余計に面倒な事になると困るから、このまま逃げようという結論を出す。


もしタイムマシーンがあるなら、使いたい。


そう、俺は運がないうえに馬鹿なのだ。


その時、職員でも呼んで会長の元に戻っていればと、今でも考える。


****


翌日生徒会室に呼び出された俺は、会長と副会長にさんざん罵倒された。


イサナ副会長はやはり骨が折れていたようで、ギブスをした腕を首から吊っている。


俺のせいでピンチになった上に、自分達を置いて逃げた。


二人の中では、そう言うことになっていた。


まあ、魔剣を使う間は顔を隠しているので、当然と言えば当然なんのだろう。


さんざん見下げた男だの、最低だの、クズだの言われた。


そして、自分達の視界に二度と入るなとも言われた。


俺……今回も頑張ったのに……。


会長が、俺を蹴り飛ばしたりするから……。


****


その日から、学年を問わず俺の呼び名がクズになった。


面白半分ではなく全力の軽蔑を込めて、そう呼ばれている。


さらに、マスクをしていたとはいえ制服のまま戦ったので、生徒の中から魔剣士のあぶり出しが生徒会により進められ始めた。


今まで以上に不用意に学園内で力を使えなくなったわけですよ。


神様……。


お前……絶対! 俺の事嫌いだよな!


やってらんね~……。

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