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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第三章:帝国と陰謀編
39/106

十二話

殺意の塊となった俺は、死力を尽くしてエンジェル達と戦い続ける。


後になって知ったが、そんな俺を見つめていたカーラは、涙を流していた。


「お姉さま……」


「また……またあの馬鹿は!」


妹のソニアちゃんはただ、姉の肩を抱く。


「何であの馬鹿は、いつも、いつも……。自分を犠牲にして戦うの? 私じゃあいつを止められないの?」


メアリーは血が流れ出るほど、強く手をにぎりしめている。


痛くないのかよ……。


「姫様……」


「ルネ……。ごめんね。あなたもだと思うけど、私は気持を抑えられないの……」


「私のようなおばあさんは、彼にはふさわしくありません」


「姫様……。私は引かないよ!」


メアリーにリリスが話しかける。


リリスの親指の爪は、かじり過ぎてボロボロだ。


「リリス……」


「私達は、リリムも合わせて二人分の気持ちだ。幾ら姫様でも引かないからね……。だから……」


「はい……。彼の帰還を待ちましょう」


「ああ……。レイならきっと……」


俺を馬上から見つめるアドルフ様に、ゴルバが近づいていく……。


俺の恩人に変なことするなよ?


「アルティア王国アドルフ将軍だな?」


「お前は……。魔族五将軍の……。このような形で、再び会う事になるとはな……」


「奇縁だな……。貴君はレイを息子と呼んだが……」


「ああ……。実子ではないが、十年ほど私の保護下に入ってもらった。奴には苦労ばかりかけたが……。私は本当の息子だと思っている」


「そうか……」


「ゴルバ将軍はレイの……」


「俺は奴の配下だ」


「レイは五将軍を従えたのか?」


「いや……正確にはまだ仕える許可は得ていないが……。俺を打ち負かし、救ってくれた。奴は俺の主人にふさわしい人物だと思っている」


「私の息子はいくつもの国を救い、この世界の数えられないほどの命を守った。そして、今また全ての人を救うため神に立ち向かう。出来すぎた息子だ……」


「全く……。大した奴だ」


****


戦闘開始から五十二時間後、俺は全ての天使を光の粒子へと変えた。


「全く君は、つくづく私の意思を裏切る男だな」


戦いを干渉する為に、平原の端に出現させていた玉座を消し、ミルフォスが立ち上がる。


着用していた真っ白いローブが、黄金に輝く鎧に姿を変えた。


短く柔らかそうな金の髪と、堀の深い顔には青い瞳の大きな目。


背中には大きな四枚の白い翼が生え、手にはオリハルコンの聖剣が握られていた。


戦闘形態に変わったミルフォスは、自分の周囲に半径三メートルほどある、半球状のフィールドを展開した。


「さあ、神が直接神罰を下そう」


「けっ! 誰がただで死ぬか! てめぇも道連れだ!」


下手な小細工が通じる様な相手だとは思えない。


なら! 一撃に今の最高を!


跳び上がった俺は、光の大剣を大きく振りかぶり、風の壁を蹴って上空からミルフォスに斬りかかった。


弾丸のような速度でミルフォスのフィールド内に入ったが、俺の体に変化はない。


変化したのは魔剣の方だった。


なに!?


俺の剣はミルフォスに届いたが、傷をつける事が出来なかった。


ただ、甲高い金属のぶつかった音だけが響く。


「うっ! おあぁぁ!」


フィールドに入った瞬間、魔剣が元に戻ってしまっていた。


聖剣で魔剣は受けとめられ、振り払われた衝撃で俺は吹き飛ばされたのだ。


いったい……。


『あのフィールドじゃ……。魔力を無効化された……』


マジかよ!


それって、秘言を唱えても……。


『多分あのフィールド内では、かき消されるじゃろうな』


「ふふふっ……。君の戦闘は、あきるほど見せて貰った。既に対策は出来ている」


くっそ……。


神ってのは、何でもありかよ!


「このフィールドは私と君以外の力が、侵入出来ないようになっている。これ以上ないほど、公平だろう?」


「それは、ずるって言うもんじゃないのか?」


「ふん。神に挑むとは、こういう事だ。理解しろ」


ジジィ、魔力は?


『全て消し飛ばされた。回復も出来んぞ!』


やってくれるな。ちくしょう。


どうする?


作戦を立てるにも、相手の情報が必要だ。


『回避を優先するんじゃぞ!』


ああ……。


「はあ!」


俺は魔力をまとわない魔剣で、ミルフォスに斬りかかった。


ミルフォスはその場から動かず、いともあっさり俺の剣を受け流し反撃してくる。


何とかかわしたが、聖剣には少し動かすだけで衝撃波のおまけがついてくる為、左肩が切れた……。


装備自体が同じなら、エセ勇者と同じ戦法で!


****


それから何度も斬りかかるが、ことごとく受け流される。


フェイントや残像を使っても、全く通じない……。


それどころか、衝撃波で徐々に俺の怪我が増えていく。


魔力切れで回復が出来ないのは、正直致命的だ。


これが神の力……。


傷は浅いが、血の量にも限界がある。


このままでは……。


『自ら全能神を名乗るだけはあるのぉ……』


全能神……。


ん? あれ?


そう言えば……。


ジジィ?


『どうした?』


神に精神攻撃って、効くかな?


『さぁ、全能神には効果が薄いと思うが……』


全能神にはな……。


俺の考えが正しければ……多分!


****


俺は、攻撃の度に自分の疑問をぶつけた。


「全能神のくせに、何で魔剣を操作できないんだ?」


「何で、魔剣の魔力を無効化するフィールドをわざわざ張ったんだ?」


「何で人間相手に、鎧と剣を装備するんだ?」


「何でわざわざこんな回りくどいことするんだ?」


「何で人間を間引きするんだ?」


「何でエンジェル達は、あの数しか出せなかったんだ?」


俺の質問は、斬りかかる為に行ったので、体の怪我が増えていく。


問いかけていながらも、一切剣技は手を抜いていないのだが、それでも当たらないし、完全には避けられない。


****


「何でお前は、最初からエンジェルを使わなかった?」


「何でわざわざ人間を精神世界に呼んで選択させた?」


「何で、お前の思い通りに事が進んでないんだ?」


既に切り傷が、五十ケ所以上……。


ここが限界だ。


ミルフォスは、全く体勢を崩さない。


俺はこれ以上出血が増えれば、すぐに動けなくなるだろう。


さあ、核心といこう!


「何故お前は、人間を消せないんだ? お前は創造神なんだろう?」


無表情なまま、俺の攻撃だけを聖剣で捌いていたミルフォスの眉が、少し反応した。


やっぱりそうだ!


「千人殺すのも、何故精神だけしか殺さないんだ? 体ごと消せばいいじゃないか」


「ええい! 先程から! 五月蝿い!」


やっと反応したな……。


「人間がお前の創造物なら、あのダークエルフやエンジェルみたいに……人間を消せばいいじゃないか」


「五月蝿いと、言っているんだ!」


初めてミルフォス側から、攻撃を仕掛けてきた。


俺はその攻撃を魔剣でいなし、ミルフォスの顔面を蹴りつけた。


いくら速くても、焦りで隙だらけの攻撃なら、どうにか出来る。


フィールドの無くなる手前まで飛ばされたミルフォスは、急いで中心部へと戻ってきた。


ビンゴ!!


『正体見たり……じゃな』


「てめぇ……全能神でも創造神でもない、ただの神に近いだけの存在なんだな!」


「くっ……」


「だから不死身じゃない! そして、この魔剣の魔力が届けば殺せるってことだ!」


「くっ! 何処にそんな証拠がある! 私は神だ! 私が数年前に発生した神に近いものだという証拠でもあるのか? あるはずがないだろうが!」


「やっぱ馬鹿だな……」


「何だと! 人間風情が!」


「もう少し、誘導尋問する予定だったけど、必要なくなったよ……」


「何を……」


「そんなに創造神に憧れてるのか? 数年前に自然発生した神もどき!」


「あっ……」


「自分でばらしてりゃ、世話ないんだよ……」


「くう……。しかし! お前さえ消せば! 証拠は残らない! 私に貴様が勝てないのに変わりはない」


「そうだな……。じゃあ、冥土の土産に動機を聞かせてくれよ」


「ふっ……。なんだ? 覚悟を決めたか、いいだろう! 私の自由にならぬものなどこの世には必要ない! そんなものは消えればいいんだ!」


理由まで馬鹿丸出しだな……。


お前はガキか……。


『実際に、お前よりも年下かもしれんぞ』


ったく……。


せっかく神に仕返しできると思ったのに、ただのニセモノかよ……。


『精神の未成熟な者ほど、純粋で残酷なものじゃ……』


さて、ジジィ……。


俺が考えた作戦は……。


『……他にないのか?』


さんざん考えただろうが!


『しかし……』


馬鹿なガキには、お仕置きが必要だよな……。


『う……む……』


なら悩む必要ないじゃねぇぇか……。


『しかし!』


俺はさっきから、はらわたが煮えくりかえってるんだよ……。


こんなアホの、馬鹿な理由で多くの人が死んだ。


許せるはずがない……。


そして、こいつを野放しにしてさらに人が死ぬなんて、もっと許せねぇぇんだ!


なあ、頼むよ。ジジィ。


『分かった……』


さあ! 行くぞ!


「おおおおおお!」


俺は先程までと同じように、まっすぐミルフォスに斬りかかる。


「ふん! バカめ……なっ?」


二本の特別な剣は、今までと同様に衝突したが、結果は全く違っていた。


金属音ではなく、爆発に似た破裂音を響かせ、接触部分からは光の粒子が飛び散る。


「馬鹿はテメーだ!」


魔剣は黒いオーラをまとい、聖剣をフィールド外へ弾き飛ばした。


ついに懐に飛び込んだぞ!


さあ!


食らえ!


<ソードストーム>


魔力を纏った魔剣の連撃が、鎧ごとミルフォスを斬り裂く。


さすがに多少の怪我は、すぐに修復されてしまう。


だから……。


連撃!


俺は、体を捻転、回転させ技と技のつなぎ目を一切なくし、高速でミルフォスを斬り裂き続ける。


ミルフォスとの距離を一切離さずに、この瞬間に俺の全てをぶつけてやる!


「ぐがあああ! 馬鹿な! 何故、オリハルコンが!」


「はああああ! オリハルコンは精神感応金属! てめぇの意思が弱まれば、強度も落ちるんだよ!」


両腕を斬り落とされ、フィールドからも出られないミルフォスは、俺の斬撃をただただ受け続ける事しか出来なくなっていく。


「ぎゃあああ! 何故魔力が! 魔力があるんだぁぁぁ!」


「おおおおおっ! あるだろうが! 目の前に魂が一つ!!」


「まさか! 貴様! 自分の命を!?」


「そのまさかだよ!」


俺だけ……俺の魂だけが、このフィールドに侵入できる。


ミルフォスは不完全な神だから、俺を離れた場所から殺せなかった。


だから近づけないといけなった……。


極々簡単な! 敗因だ!!


ミルフォスには、血という物が流れていないらしい。


ただ、体の構造自体は人間とほとんど同じようだ。


俺は力を強く感じるミルフォスの胸部を集中的に、切り裂いていく。


信じられない速度で回復するその胸部に、数えるのも面倒なほどの斬撃を浴びせかけた所で、今までになかった手ごたえが返ってきた。


鈍く大きな音を立てて、そこを守っていた何かが砕ける。


ついにたどり着いた……。


とんでもない、エネルギーの固まりだ……。


俺が左の肋骨を斬りおとした時、ミルフォスのコアがついに目の前に出てきた。


これを壊せば!


行くぞ! ジジィ!


『し……しかし……』


下手な攻撃じゃあ、殺せない!


出し惜しみするな!


全部を出しつくすんだ!


ジジィは! 世界を守る聖なる魔剣なんだろぉぉぉが!


力をよこしやがれぇぇぇぇぇ!!


『ぐう! わかった! 行くぞぉぉぉぉ!!』


俺の魂をありったけ吸い込んだ魔剣が、真の姿へと変形する。


本来の大剣には程遠い、短く光の薄い剣だが……。


俺の命なら! これでも上等だ!


さあ!


「死ね!」


<シャイニングアロー>!!


距離から俺の全てをこめた突きが、ミルフォスのコアへ直撃する。


最後の抵抗で、再生した右手の俺の左目にミルフォスが突き立てたが、もう俺はそれじゃあ止められない……。


俺の全力を込めた突きはミルフォスの身体ごと木をなぎ倒し、岩を砕き、岸壁にミルフォスごと激突し、止まった……。


「ああ……。ただ、楽しく生きようとしただけなのに……。なにが……」


その情けい言葉と共に、ミルフォスは光の粒子になり大爆発を起こした。


****


そこで一度意識が途切れるが、もうあの真っ暗な場所には行かなかった。


理由は分かっている……。


俺が目を覚ますと、青空が広がっていた。


俺は爆発の衝撃で、天使共と戦った戦場にまで、吹き飛ばされていた……。


俺の周囲には、レーム大陸の統合軍がいた。


ああ、そうか。


俺が生き残ったように見えてるから、処刑しに来たんだよな。


そんな大人数で囲まなくても、逃げやしねぇぇよ……。


やっと、終わった……。


終わったぞジジィ……。


『わかっておる……』


なんだ? なんでジジィ精神世界でもないのに、元の姿に戻ってるんだ?


『特別じゃ……』


なんだそれ……。


『動くな! 傷を治す……』


魔力の無駄遣いするな……。


どうせ、その魔力ってジジィ本人のだろ?


俺はもういい。


分かってんだろ?


『この、バカ息子が!』


俺はマリーンに、頭を抱えられた……。


ったく。


「俺の年なら、息子じゃなくて孫だろ? 普通」


『まったく……。最後の最後まで、お前という奴は!』


「へっ……。俺は俺だよ……」


泣くなよジジィ……。


俺は満足してるんだ……。


「おじいさん! レイは? レイは回復するんでしょ?」


何だ?


カーラか……。


『……レイはその魂を全て燃やしつくした』


「はっ? 何言ってるのよ! 助けなさいよ!」


おいおい、我がまま姫様よぉ。


「無理言わないでくれ……。俺の魂は、もう後数分で全て尽きるんだ……。魂の力なんて補充できる奴はいないんだよ」


「あんたは! なんで何時もそうなのよ! 何で私を置いて行くのよ!」


なんてわがままな怒り方だ……。


最後ぐらい静かにしてくれよ。


「でも、これで皆が俺を殺さなくても千人の命は助かるぞ?」


「馬鹿! あんたがいないと意味がないのよ! お願いだから置いていかないでよ……」


なんだよ。そんなに泣くなよ……。


世界の危機は排除したし、人も死なないんだぞ?


まさにベストエンドじゃないか……。


何が気に入らないんだよ……。


「賢者様! 私の命を使えないのですか?」


「私の命もやる! 何とかしろ!」


メアリーにリリス?


無茶言うなよ……。


『……………』


ジジィが首を横に振る。


ほら、ジジィ困ってるじゃないか……。


「俺のでは駄目なのか? 同じ男だし! 人狼は寿命が長い!」


ゴルバ……。


何でこのシーンでお前が出てくるんだよ……。


「レイ! レイ! 一人で死ぬなんて許さない! 私は許さない!」


怖いよ、メアリー。


それに……。


「俺は死ぬんじゃない……。無に帰るんだ。死ぬ事もうまくできなかったんでね……」


「何言ってるか分からない! レイ! お願い! お願いよ! あなたが望むものなら何でもあげるから! 行かないでよ!」


だから無理言うなよ……。


「私達だって許さないぞ!何とかしろ!」


リリス……。


何で泣いてるんだよ……。


お前の嫌いな人間が、一人消えるだけだぜ?


お?


髪の色が……。


「リリム。なんにもレイにお礼出来てないよ? 何で行っちゃうの? リリスとリリム、三人で暮らそうよ~……」


なんだ、泣いてたのはリリムか……。


リリスが泣く訳ないよな。


「私は!」


あ?


カーラにメアリーにリリス?


声がはもってるよ?


「レイが好き!」


はい?


「お願いよ! 行かないでよ……」


「私はあなたともっと一緒にいたい!」


「私達と一緒に暮らそう! 頼む!」


おいおい。三人とも……。


「死なないで……」


また、はもった。


全く……。


なんてタイミングだよ……。


これがご褒美ですか? 神様?


でも、これじゃあキスすらする時間ないんですけど?


でもまぁ……。


「俺の夢は、彼女を作る事だったんだ……」


「えっ?」


「ありがとうな、最後に夢がかなったよ。嘘でも……」


ああ……涙が……泣いちゃだめだ……。


二度と泣かないって、決めたんだから……。


さぁ、最後だ……笑おう……。


笑って死ぬんでやるんだ。


それが俺の意地だ……。


「嘘でも嬉しかったよ……」


彼女ができた瞬間、あの世行き……。


じゃないな……。


全てが無に消えるんだ……。


生まれ変わりも、父さん達皆に会うのも無理なのか……。


やってらんね~……。




でも、ジジィと……。


あの三人のお陰で、笑って消えられる……。


だからそんなに泣かないでくれよ……。


俺なんかのために涙なんてもったいないんだよ。


さあ、最後の力を振り絞れ……。


魂の残りかすを、かき集めろ……。


最後に出来ることするんだ。


「みんな……ありがとう……」


ああ……。


これで……。


笑って行ける……。


最高じゃないか……。


みんな……。


じゃあね…………。

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