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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第三章:帝国と陰謀編
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十一話

俺が消えた精神世界。


そこでは、俺にとっても予想外の事が起こっていた。


後のちょっとした出来事で、俺はこの出来事や翌日からの戦いの場を、客観的な位置から見る事となる。


「くっ……。まさか奴があれほど馬鹿だとは……」


ミルフォスが指を鳴らすと、固まっていた人間達が自由意思で動きだす。


「さぁ人間達よ。一人一人意思を述べよ! 私は、全てを聞き取ることができる。この場では地位も力も関係ない! それぞれが自由に選択した答えを言うんだ!」


大勢の人がざわめく中、メアリー達が神への敵対を口にしようとする前に、ある人物が最初の一票を入れた。


「私はアルティア聖王国将軍! アドルフ:マキシムです」


「お前が最初か? では、答えを聞こう」


自信たっぷりのミルフォス……。


「私は、貴方に抵抗をさせていただく!」


「なっ……」


ミルフォスの顔は、いとも簡単に余裕をなくした。


「レイがいなければ、我が王国は滅んでおりました! そして、レイは……私の第二の息子! 総票であなたに従う事になっても、私の魂はレイと共にある!」


「私は、アルティア国国王……。私は……私も! 一人の人間としてあなたに抵抗します!恩人を裏切るなど私にはあり得ない!」


「私はファルマ王国のカーラ:ファルマ! 私はレイの為に貴方と戦う!」


「ルナリス評議長代理をしております。アニス:カーチスと申します。我がルナリスも彼のお陰で存続しています。ゆえに、あなたには従えません!」


「俺はニルフォで、フェザーギルドの代表をしているザザンってもんだが、レイとは縁があってな……。奴を殺せない以上抵抗させてもらうぜ!」


「俺も同じくフェザーギルドのノリスってもんだが、抵抗する。レイは友達なんでな!」


「私は魔王が娘、バーゴ帝国皇女、メアリーナ:ルーファ:バラスです。もちろん、私もレイの為ならあなたに抵抗します」


「私はファルマ王国女王カーミラ! 娘の恩人の為なら、神にも逆らいましょう!」


ミルフォスの顔が、悲惨なほど歪んだ。


アルティア聖王国、ルナリス、ファルマ王国、バーゴ帝国の大多数が、自分達の恩人にと神へ抵抗の意思を示した。


従うと言ったのは、ニルフォの半数と俺とは関わりがない小国の人間だけ。


結果、六割以上の人間が抵抗の意思を表示した……。


折角、俺が殺されてやるって言ってのに……。


何してくれてんだか。


無駄になるじゃないか。


はぁ~……。


やってらんねぇ~……。


****


まさか、俺はそんなことになっているとは思いもしない。


人が精神を抜かれて動く者のない村で、俺は……。


『犯罪を犯しとる……』


だってお前! 裸のおねぇさんだぞ!


獣人の村から服や食料を盗み、それらを入れた風呂敷包みを背負った俺は、ある家の窓にへばりついていた。


人羊族の女性は、上半身は普通の人間と変わりません。


『止めんか! この変態が!』


お!


『お?』


おっぱい万歳!


『アホか! お前は! 止めんか! 人間のクズめ!』


これ……中に入って、触っても……。


『止めんか! それに、精神が戻ると本当に、面倒になるぞ!』


くぅ!


人羊族の男は、怖すぎる……。


ええい! くそ!


はぁぁぁぁ。


諦めるか……。


****


俺が村から離れ、巨木の枝に座ってジジィと言い争っていると、神によるレム大陸の命運をかけた選挙が終わった。


その直後、テレパシーみたいなもので、ミルフォスが戦う場を指定してきた。


バーゴ帝国のさらに北。


近くの活火山が何年か前に噴火して、荒れ果てた大地となっているドーラ平原。


そこが俺にとって、最後の戦いの場になるのだろう。


****


バーゴ帝国の北って事で、移動する必要がないと感じた俺は、何時も通り森の枝の上で眠りに着く。


つっても、すぐには眠れない……。


明日、俺は死ぬんだ。


勝っても死、負けても死。


本当にろくな人生じゃなかったな……。


まぁ、神様に嫌われてたんだ。


仕方ないけどね……。


なぁ、ジジィ?


『なんじゃ?』


あの……その……。


『お前らしくないな……』


秘言唱えるときってさ! 剣が開くじゃん!


『うむ』


なんかレールとかギミックの痕跡ないんだけど、どうなってるの?


『あれはミスリルの形状記憶機能を使っておる。毎回開閉しているわけではなく、正確には形状がいちいち変化しておるのじゃ』


それで、強度が落ちたりしないのか……。


なぁ?


『なんじゃ?』


人間って、死んだらどうなるんだ?


『魂の故郷という大きな魂の塊に、帰って行くのじゃ。そして、休息を終えた魂は再び新しい生命として生まれ変わる』


ふ~ん。


ジジィに魂消費された奴らは?


『わしは全ての魂を奪っているわけではない、一部を吸い取っているだけじゃ。ちゃんと全ての魂は故郷へ帰っておるぞ』


魂の故郷か……。


『聞きたい事はそれではないのだろう? 何でも聞け……』


なんで父さんを、肉体ごと吸収したんだ?


死んでもいないのに……。


『何を言っておる?』


いや、だからジジィと初めて会った時、生きてる父さんを身体ごと吸収しただろう?


『お前にはそう見えておったのか……』


えっ? 違うの?


『お前の父は本当に強き意思と、お前への愛を持っていたのだな』


だから、なんだよ? どう言う事だよ?


『お前の父はお前を洞に寝かせると、すぐにトロル達と戦うために洞から飛び出し絶命したんじゃ。あの時のわしが、洞は閉まると伝えられれば……。悔やまれるな……』


さっぱり分からん!


『お前の父は、死んでも魂だけであの場所へ戻ってきたんじゃ。お前の身を案じてな……』


じゃあ、俺が見たのは……。


『父親の魂じゃろうな。お前には人型に見えていたとは、驚きじゃ。そでれ、全てを吸収したように見えたんじゃろう……』


ああ……。


父さん、心配性だったから……。


なぁ? 父さんも、魂の故郷ってところに行けたのか?


『もちろんじゃ……』


そうか……。


『それが、引っかかっておったのか……』


ん? まぁ……。


ジジィが父さんを殺してなくて、よかったよ……。


後……もう一つ。


『なんじゃ?』


マリーンは永遠に生きて、戦い続けて、辛くないのか?


『なんじゃ突然! お前にマリーンと呼ばれるとむず痒いわ!』


じゃあ、ジジィ……。


『それでいい……。これはわしが自身で選んだ事……。後悔はない』


そうなのか……。


『ただ……』


ただ?


『正しい意思や才能を持つ若者が、邪悪を退け……。わしよりも先に死んで行くのは、何度経験してもなれん……』


まぁ……。


そんなもんかな……。


エンジェルって、何匹いるんだろ?


『それは分からん』


全員がゴルバ並みか……。


『さぁ、もう寝ておけ……』


ああ……。


明日も面倒になるだろうな……。


****


翌日、平原で俺が見た光景は、本当に洒落になってなかった。


なんだこりゃ……。


平原の空は、信じられない数のエンジェル達に埋め尽くされていた。


何万体いるんだよ……。


勘弁しろよ……。


「待っていたよ」


「おい……。これ何体いるんだよ……」


「なに……一千万ほどだ」


「ふざけんな……。馬鹿かお前! 人間一人殺すのに! 何体作ってるんだ!」


「私は神だから嘘はつかない」


「はっ?」


「昨日の投票の結果……人間達は私に逆らうそうだ」


「はぁ?」


「だから、君を早々に打ち滅ぼし人類抹殺に向かうために、私の全ての力で生み出したんだよ」


おいおい……。


マジかよ……。


「君は私の想像以上に、皆に人気があるようだな……」


「その顔は……嘘……じゃないんだな……」


「私は神だ。嘘はつく必要がない……」


なんてこった……。


『これは……』


ああ……。


本当に面倒だが……。


『うむ……』


何が何でも負けられないってことじゃないか……。


誰の陰謀か知らんが……。


やってくれる……。


『なんじゃ? 素直に喜べんか?』


ああ……。


面倒だよ……。


俺は、ひらひらドレスの上に鎧を着て、剣を装備した羽の生えた美男美女に目を移す。


一千万……。


壮観だね……。


さぁ……。


『行くか!』


ああっ!


負けられなくなっちまったしな!


俺は一番近くに居たエンジェルに、斬りかかる。


ふりをして、その後ろのエンジェルの首を刎ねた。


さすがに反応できなかったようだな。


俺が着地すると同時に、握っていた魔剣がカシャンと音を立てる。


えっ?


魔剣は最終形態である、光の剣身を出現させていた。


おい? ジジィ?


『これはすごいぞ! 一体倒すだけで、とんでもないエネルギーが吸収できた!』


じゃあ……。


『うむ! 最終形態のまま戦えるぞ!』


へ……。


少しは、いいことあるじゃないか!


おおおおぉぉぉ!


俺は、光の剣になった魔剣を振るう……。


絶望しそうなほどの敵に向かって……。


ただ、絶望も諦めも師匠には時間の無駄だと教わっている。


希望もただの幻想だと……。


だから、ありのままの敵に剣を振るう。


このモードになった魔剣の威力は、尋常じゃない。


エンジェルを一撃で葬る力がある。


それも敵は人数が多すぎるので、適当に振るってもどんどん攻撃が当たる。


勿論、敵の使ってくる斬撃も魔道砲も、直撃すれば俺は一撃で死ぬだろう。


さぁ……。


思考を純粋な殺意で、埋め尽くそう。


ただ純粋に戦いのみに、俺の全てを集中するんだ。


無駄なものは削ぎ落せ……。


余計な事を考えれるな……。


ただ、敵の攻撃を避けろ、いなせ、敵を剣で斬り裂け……。


周りにあるすべての物を活かすんだ……。


さぁ、殺せ……。


敵を殺せ……。


****


俺の耳から戦闘に必要ない音が消え、視界が真っ白になるころ、人類の統合軍が到着した。


「これは何と言う……」


「これが、レイの本当に実力なのか?」


「奴の力は、すでに人間の領域ではなくなっているのか?」


俺を少しでもサポートするつもりで来た数百万の軍は、平原から少し離れた丘の上で立ち止まってしまう。


俺の戦いをただ、呆然と眺めることしかできない。


命を掛けてでも助けようと考えたカーラやメアリー達すらも、その場から動けなくなっていた。


光の大剣を振るい、エンジェル達の魔道砲を撃ち落とし、地面だけではなく空中すらも超高速で移動し戦い続ける俺に、ただ見とれる。


魔族と呼ばれる者達にも、俺の姿が……正確には残像が複数に見える。


人間に至っては、俺の姿を目視できる者すらほぼいない。


****


地面を走り、敵の攻撃を全て避けながら、一撃で二~五体のエンジェルを光の粒子に変える。


空を飛び、エンジェルの背中に剣をつきたてる。


そして、そのエンジェル達をまるで足場のように踏みつけ、そこからさらに自由自在にとび跳ねる。


エンジェル達は自分たちよりも高速で動く黒い影を補足しようと陣形を組み、全方位攻撃や波状攻撃を仕掛けるが、そのたびに数を減らす。


自分達の剣が当たらない。


音を越えているはずの剣が、全く掠りもしない。


そして、剣よりも速い魔道砲すらほとんど当たらない。


当たったとしても、光の大剣ではじかれ、消し飛ばされ、軌道をずらされる。


天使達は、敵である人間の疲労がたまるのを待とうとしたが、一向に衰えない。


それどころか、敵はその速度をどんどん増していく。


****


戦闘開始から二十時間が過ぎる頃、俺の姿はエンジェル達にも完全な黒い影にしか見えなくなっていた。


その頃になると、エンジェル達は敵を殺すどころではない。


俺を補足する事すら、ほぼ不可能な状態になっていた。


既にエンジェル達の戦法はやみくもに剣を振り、魔道砲をただ無意味な方向へ放つだけ……。


そう、運でもない限り当てることすらできない。


極限の領域に入っている俺は、運で自分をとらえてしまった剣や魔道砲をなんなく回避していく。


俺の戦闘以外の思考は、完全にストップしている。


エンジェル達から奪った力で、骨、筋肉など全てが修復されていく。


人間の潜在能力を、全て引き出し、戦い続けている。


地面を一歩蹴るだけで、筋肉の大半が切れる。


地面を二歩ければ、骨が砕ける。


大剣振るえば、一振りで腱が千切れ、二振りで骨が皮膚を突き破る。


その負傷は、すぐさま修復されていく。


****


四十時間を超えると、敵は三分の一ほどになっていた。


その光景を、人間達は眠らずにただ見つめていた……。


そして、誰からともなく声が上がる。


「闘神……」


「闘神だ……」


「闘神……」


俺を見て既に人の領域にいない事を、皆が闘神と表現する……。


立った数体で、一国の軍を圧倒したエンジェル……。


そのエンジェル一千万体と、たった一人で俺は戦っている。


それも優勢に……。


我が目を疑う光景……。


****


その戦闘は三日目に突入しても、続いていく……。


俺の体は、魔力を吸収し続ける事で、衰えなかった。


実は、俺自身もこれほどのレベルに自分がいる事に、全く気が付いていなかった。


エンジェルと同ランクのゴルバへの苦戦……。


その理由は、自分が最も苦手な戦法で挑んだ事によるものだったと、分かっていなかった。


その為、自分自身はAランクの中位ぐらいの力なのだろうと、誤認した。


そのもっとも苦手な戦法……。


手加減である。


かつて自分が、その手加減の不得意さから、学園で落ちこぼれと呼ばれていた事を忘れていた。


Bランクの敵を圧倒する力を持っていた自分が、手加減で一般生徒以下の実力になる事を……。


既に自分の真の実力がSランクという、神にのみ与えられるランクに到達していた事を……。


ただ、その時の俺には、それを考える思考がなくなっていた。


ただ、俺の射程範囲に入った敵を一番効率よく殺す事のみに、全てを注ぎ込み続ける。


その時の俺には、それだけで十分だった。


神への殺意……。


俺を突き動かすものは、皆を守りたいという勇者の思考ではない……。


自分に不運を突き付けた神への怒り。


自分から大事な人を奪った神への殺意。


それだけが俺を支えていた。


俺には帰る場所も居場所もない……。


だからここで死んでもかまわない……。


ただ、自分の大事な人が抱えた無念を神にぶつける。


いや、そんなものは勝手に俺が抱え込んだもの。


死んでいった人達は、そんなもの望んでいないかもしれない。


弱い俺の心が勝手に作った偶像……。


でも、自分自身を止める事が出来ない……。


ただ、自分が命を掛けられる、舞台や切っ掛けさえあればよかったのだろう。


ただ……。


後悔せずに自分のすべてを出し切って死ねるなら……。


最後に笑って死ぬ為だけに、その舞台が欲しかった。


本当に馬鹿な俺は、そんなくだらない理由に全てを掛けた。


笑えるだろう?


弱くて馬鹿な俺は生きる理由が見つけ出せないくせに、死ぬ理由さえ人に頼らないと見つけられなかったんだ。


ここで死ねば……。


ここで死ねれば……。


もう悲しい思いをしないですむ。


もう痛い思いも、嫌な思いをしなくてもすむ。


俺の居場所を与えてくれる人は、皆死んでいく……。


だから、もういらない……。


ただ、誰でもいいんだ……。


俺に死という安息をくれ……。


俺が俺らしく笑って死ねる場所を……。


まさか、本当に俺を思ってくれている人がいるなんて、その時は考えられもしなかった。


俺は、本当に馬鹿で自分勝手だから……。


神を殺して……。


千人の命を救うために……。


死に向かう……。


やっぱり、俺の本心を知れば父さんにも母さん達にも、叱られるんだろうな……。


まぁ、それでいい……。


俺にはお似合いだ……。


死んでも皆に叱られる……。


本当に俺らしい……。


ったく……。


やってらんねぇ~……。

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