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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第三章:帝国と陰謀編
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十話

仰向けのままだった俺が、むくりと起き上がって頭を掻く。


あり得ない敵との、ふざけた連戦をした場所に、俺達はまだ留まっている。


正気に戻ったゴルバ達と、その場で和解し……。


俺の拷問が終了した所なんです。


なあ、ジジィ?


『なんじゃ?』


数分で回復とか言ってたくせに、何故俺は動けないまま一時間も、三人に説教されたんだ?


『もぉ急ぐ必要が無くなったから……』


殴り倒すぞ! ジジィ!


最後の方なんて、すみません、ごめんなさい、私はゴミクズですって言ってたんだぞ! 俺!


早く治せよ!


『まぁ、わしも三人と同じ意見だったしな』


どう言う事!?


俺がゴミクズだとでも!?


『それは、お前が勝手に言っておっただけじゃろうが……』


死んだ目でそんなこと言っちゃたから、されに怒られたけどね……。


アルティアにいる時に、いわれてたんだが……。


俺って、死んだ魚みたいな目をしてんのか?


『まぁ、お前は髪と同じで濁った灰色の瞳じゃ。そう見えなくもないんじゃろう……』


くそ!


透き通ったグレーの瞳なら……。


彼女できたのかな?


『それは無理じゃな……』


ですよねぇぇ……。


はぁ~あ……。


やってらんね~……。


「もう平気なのか?」


回復した体のチェックの為に、軽い柔軟をしていると、シグーが問いかけてきた。


「あんたこそ動いて大丈夫なのか?」


「我ら獣人の回復力を甘く見るな」


「そうか……。さて……」


胸元の傷を見せてきたシグーから、二人の馬鹿に視線を移す。


この虎さんが気を効かせて、掴まえておいてくれた。


「死ぬほどの拷問を受けて喋ったうえで死ぬのと、素直に喋って楽に死ぬのどっちがいい?」


俺は、二人に魔剣を突き付ける。


「ひぃ……」


うわ……。


チビリやがった……。


この馬鹿兄弟は……。


「早く決めろ。もう一人目から、拷問開始するぞ?」


「やっ……やめて下さい」


「助けて下さい」


「じゃあ、先に喋った方を助けてやるよ」


嘘ですけどね!


『お前は今、百パーセント悪役じゃ!』


違う! 九割が悪役だ!


『残りの一割はなんじゃ?』


え~っと……。


やさしさとか? せつなさ?


『わしに聞くな!』


「俺が喋る!」


「兄者?」


お! 決まったな!


まずは弟を殺す!


やっと恨みが晴らせる!



えっ?


「何だ?」


「今……」


「ゴルバ見えた?」


「いや……」


「瞬間移動? でもないよな?」


俺達の前から、突然馬鹿兄弟が消えていた。


ずっと見ていたのにもかかわらずだ。


何だこれ?


何処行きやがった!


「おお! 主よ!」


「信じておりました!」


声の聞こえた方へ、俺を含めた全員が顔を向ける。


森を貫く道の先に、一人の男が立っていた。


そして、そいつの足元には馬鹿兄弟……。


こいつが黒幕……。


そう、俺の勘が告げて来ていた。



「君達は、本当に使えないね……」


「えっ?」


「あれだけのモンスターに、勇者まで用意したというのに……」


「待って下さい!」


「我らにもう一度チャンスを!」


「その必要はないよ……」


「主よぉぉぉ……」


男が手をかざすと、馬鹿兄弟が光の粒子となり、消えていった。


おいおい、こいつはなんなんだ?


『魔力の底が見えんな……』


「レイ……くん? だったかな?」


「なんだ?」


「始めまして、私が君の捜していた者だよ……」


「やっぱ黒幕か……。で? てめぇは、何者だ?」


「今消した二人が言ってただろ? 神だよ」


はっ?


こいつ脳みそには、カビでも生えてんのか?


「ああ……。名乗っていなかったね。私はこの世界を創造した、全能神ミルフォスだ」


こいつ脳みそは、カビが生えてるんじゃない。


溶けて、耳から全部流れ出たんだ。


「君には驚かされたよ。まさか私の計画を、全て潰してしまうとは思わなかった……」


まぁ、黒幕には違いないんだろうし、神と呼ばれるだけ力は持ってそうだ。


でも、ネジが飛んでるのは間違いない!


「そこで、神である私に逆らった君に、罰を与えないといけない。ただ、私は寛大だ。懺悔のチャンスをあげよう」


言ってる事が、いちいち分からん……。


「お前は、何をどうしたいんだ? お前を倒せばいいのか?」


「君の頭の中には、争うことしかないのか? まったく……」


「回りくどい! さっさと要件を言えよ」


「まずは、これを見てくれるかな?」


そう言うとミルフォスは、空中に三つの光る球を出現させた。


その中に映っていたのは……。


「なっ! これは……」


「今、私の直属の創造物であるエンジェルが、人間の国を攻撃している」


アルティア聖王国、ニルフォ共和国、ルナリスの三国が、圧倒的な力を持つエンジェルによって攻撃を受けていた。


「何してんだ! てめぇ!」


「私の力を見せる。ちょっとしたパフォーマンスだ。ちなみにエンジェルは、君達で言うところのAランクの力がある。一体でも、国一つ滅ぼせるだろうねぇ」


「やめさせろ!」


「ふふ……。勿論だ」


ミルフォスが指をパチンと鳴らすと、球体に映っていたエンジェル達は、光の粒子になって消えた。


球体のわずかな映像だけでも分かるほど、各国がかなりのダメージを受けている。


ふざけんなよ! このくそ野郎!


「ああ、それと映すのが面倒だったから映さなかったけど、離れ小島のファルマ王国やその他もろもろの国も、エンジェルが攻撃したから……」


「何がしたいんだ!」


「さぁ、これからが本題だよ。君達を、素敵な世界へ招待しよう」


****


えっ?


ミルフォスが俺達に向かって両手を広げた次の瞬間、俺は真っ白な世界に浮かんでいた。


「なんだよ。これ……飛んでる? てか、無重力なの?」


『精神世界じゃ……』


「はっ? ジジィなのか?」


『うむ……』


俺の隣には、魔剣の記憶内で見た、人間だった頃のジジィが浮かんでいた。


精神世界?


「どうだい? なかなかいかした空間だろう?」


声がして振り向くと、ミルフォスも同じ空間に浮いている。


「だから……、何がしたいんだ! お前は!」


「君には……ある選択をしてもらう」


口角を上げたミルフォスは、またパチンと指を鳴らした。


その瞬間、足元の空間に大量の人影が現れた。


「なっ……」


「今、この世界の全ての人間と、意識を繋げた。ああ、勿論、魔族も含めてだ」


マジか……。


『本当の神のようじゃな……』


「なんだい? 君たちは疑り深いなぁ。さっきからそう言ってるじゃないか。ああ、因みに下に居る人間達には、呼び出す時軽く説明はしてあるから……。全部分かっているはずだ」


マジで敵は、神だったのかよ……。


『で? 我々にはなぜ説明がない?』


「君達二人は、特別だからだよ……」


本当に俺は、神様に嫌われてたのか……。


『回りくどいな……。要件を話してもらおうか?』


「そうだね。君たちの選択は二つ。私の使徒になり、人間を間引きするのを手伝うか。私に逆らって殺されるか……だ」


なるほどね……。


『何だと? 人間を間引きする?』


「ああ、人間は増えすぎて管理が面倒になってきてねぇ。今の十分の一ほどに間引く予定なんだ」


理解出来た……。


『それで、魔人や魔道兵機の復活を……』


「そういう事。ああ、ちなみに下の人間達にも、選択権を与えておいたから平等だ」


そりゃ仕方ないよな……。


『どう言う事だ?』


「下の人間達は多数決になるけど、神に逆らうか、神に従うか選べるようにしておいた」


だって相手は、神なんだから。


『それだけか? まだ隠している事があるはずじゃが?』


「さすがは古代の賢者! 神に逆らえばエンジェル達に人を滅ぼさせるし、従ってくれても間引きは必要だから、この中の千人ほどは精神を壊すと言っておいたよ。もちろん、その壊す千人はランダムで誰かは教えない。ただ、私が死んでも発動するようにしたけど、レイがどんな理由でも死ねば解除されるようにした」



「てめぇのせいで俺は不幸なのか! 彼女が出来ないのもそのせいか! 死ね!」


『黙っておると思えば……。この状況でも、そんな事考えておったのか』


「うっさい! ジジィ!」


「あれ? レイ君は、説明聞いててくれたのか?」


「ああ。聞いてたよ!」


「じゃあ、選択してくれるかな? 結果は四通り……かな? 人間達と、君が一人で戦うか。人間達と、エンジェル達に協力した君が戦うか。私が人間達と協力して、君一人と戦うか。君はこれを望むだろうけど……私と君が協力して、人間達と戦うかだ」


はぁぁぁぁ……。


「ぷっ! あっははははは!」


『なんじゃ?』


「どうしたの? プレッシャーでおかしくなった?」


「違うわボケ! お前の頭が悪いから笑ったんだよ」


「へ……へぇ。なかなか、強気じゃないか」


「お前……。俺と人間全員を戦わせたいんだろ? 見え見えなんだよ!」


『……まぁ、分かりやすいのぉ』


「下の人達は、エンジェルの強さを見せつけられてるんだ。千人で犠牲が済むかも知れない従うって方になるに決まってる。多数決にしたのは戦闘力のある魔族が、万が一抵抗する方に回っても多数決で従わせるようにもっていきたいだけだろ? 何より千人ランダムで殺すって言われれば、自分かもしれないんだ。俺を殺そうとするに決まってる。こんなもん、選択でもなんでもないじゃないか」


「まあ、そう取ってもらって構わない。じゃあ、君の答えも決まったね」


「ああ」


「じゃあ、明日から人間達と戦ってもらおうかな」


笑顔のままの俺を見て、ジジィは首を左右に振る。


『まったく……』


「なっ……ジジィ……。こいつ馬鹿なんだって!」


「何だと?」


「誰が、てめぇに従うなんて言ったんだ! この馬鹿!」


「馬鹿な! 人間達は、お前を殺しに来るんだぞ?」


俺は溜息を吐き出した。


ちょっと本当にあほらしかったんだ。


「俺の答えは、最初から決まってたんだよ……」


『うむ……』


「俺はてめぇをぶっ殺す!」


ミルフォスのすまし顔が、歪んでいく。


「何を考えているんだ!」


『虚け者が……』


「俺は人間の国で、重罪人として死刑が確定してる身なんだよ! 元々、殺されるのが決まってるもんを今更怖がるか! 後、千人は俺がお前やエンジェルに殺されても助かるし、万が一俺がお前を殺しても、その後で人間に殺されれば助かるって事だろうが!」


そう。出頭しちまえばいいだけだ。


「な……何故人間を殺そうとしない!」


「そんなもん! 気分悪いからに決まってるだろうが! 馬鹿じゃねぇぇの?」


「そん……な……」


少しだけ笑ったジジィが、俺を肘でつつく。


『ほれ、いつものはどうした?』


「あっと! 忘れるところだった。俺にはお前と戦う、もうひとつ大きな理由がある!」


「理由だと?」


困惑したミルフォスに、俺は正面から言い放つ。


「俺はてめぇが、死ぬほど大っ嫌いなんだ! だから! お前をぶっ殺す!」


「くっ!」


焦り気味にミルフォスが指を鳴らし、俺の視界が切り替わる。


****


俺は元の世界に、戻された。


俺達だけ、戻ったみたいだな……。


『まぁ、あのままお前が騒げば、人間の気が変わるかもしれんからな……』


しかし……。


神様って、本物の馬鹿だったんだな。


軽く引いたわ。


『全くじゃ……』


さて、今のうちに……。


『何をするんじゃ?』


女の子の胸を揉みに行く!


『やめんか変態が!』


嘘だよ……。


でも……。


『でもなんじゃ?』


上半身裸だから、服と食料の調達はする!


『……泥棒め』


だって、皆戻ってきたらその時点で、俺の敵になってんだよ?


今しかないじゃん!


最後にまともな服を一着ぐらい、いいじゃん!


『はぁぁぁぁ。まぁ、最後じゃ。それぐらいは大目に見てやるわい……』


ジジィの許しなんてなくても、貰うけどね!


『全く……』


****


そして俺は、近隣の村から衣服と食料を強奪したわけで……。


このくらいは役得って事で……。


『この嘘つきめ! 服以外にも色々盗み出しおって! 挙句に着替え中のまま固まっておった女性を凝視までして……。この犯罪者が!』


うっさい! もう死刑になるのが決まった俺に、怖いもんなんてあるか!


『まったく……。この馬鹿は……』


はぁぁぁ。


もう!


最後まで五月蝿いジジィだ。


やってらんねぇ~……。

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