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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第三章:帝国と陰謀編
36/106

九話

「あの……。皆さん?」


「なんですか?」


うわぁぁぁ……。


何でメアリーまで、機嫌悪いんだよ。


俺頑張ったのに、何で気を使わないといけないの?


「えっと……こいつらどうする?」


俺は面倒なので縛ったまま気絶させた、エセ勇者パーティーを指差す。


「もちろんこの場で殺す!」


ルネさん……。怖いよ……。


「殺すのはいいんだが、出来れば裁判的な物にはかけてやってくれないか?」


「えっ? それは……」


「俺もこいつら嫌いだが、こんなのでも俺からすると同族なんでな……」


「……分かりました。死刑になる可能性は高いですが、裁判にかける事は誓います」


「ありがとう、メアリー」


「いえ……」


そう言えば、何か忘れているような……。


『ダークエルフ……』


ああ!


忘れてた!


俺は、一連の騒動がダークエルフの兄弟によって引き起こされていた事を、四人に説明した。


「おのれ! デュラン!」


「やっぱりねぇぇ……。元々、怪しかったもんね。あの二人……」


「しかし、実績は確実に積み上げたからね……」


「それも今思えば、仕組まれていた可能性がありますね……」


「そうですね……」


おお!


『なんじゃ?』


俺の説明を、素直に受け入れてくれるなんて……。


なんて幸せなんだ!


『……もう、わざと言っとらんか?』


だって!


今まで説明できない、証拠が無い、説明を聞いてくれない……。


この三パターンしか、俺には無かったんだもの。


うれしいだもの。


『まあ……確かに』


****


さて、あの馬鹿兄弟の気配は……。


なっ!


どう言う事だ!?


『分からん!』


俺は、急いで魔剣を呼び出した。


回復は?


『十分できておる!』


魔力は?


『ここのところの連戦で、そちらも十分蓄えがある!』


なら、問題はないな。


後は、俺の実力次第か。


「どうしたんだ? レイ?」


「まさか、敵か?」


俺が見据える道の先から、二頭の馬に乗った魔族が現れる。


一頭に二人ずつ。


計四人の魔族が、俺の前に現れた。


馬鹿兄弟に、包帯を巻いたシグー。


そして、銀髪褐色の肌をした……多分、ゴルバ。


連戦連戦連戦かよ……。


やってらんね~……。


「ゴルバ!」


四人も身構える。


馬鹿兄弟の仕業だろうな。


「なるほど、お前達の言うとおりだったな……」


ああ、やっぱりこの馬鹿共こっちの兵がいなくなって、この四人がヘロヘロなのをちくりやがったな。


絶対殺す……。


「バルゴ! 何故なんですか?」


メアリー?


「以前の通りだ! 私は力あるものに従うのみ! そして、人間を滅ぼすのだ!」


よく聞くと文脈おかしいな。


この狼も馬鹿なのか?


しかし……。


『他の将軍と比べて、圧倒的な力を感じるな……』


これが魔王クラスの圧力か。


『間違いなくAランク上位……。この偽勇者よりは厄介に違いない……』


分かってるよ。


目線をずらしただけで、殺されそうな圧力だ。


てか、勝てる気しねぇぇんだけど……。


「さて……。まずは人間! 貴様を血祭りにあげてやろう!」


最初から俺狙いかよ……。


人間が死ぬほど嫌いなんだろうなぁ。


理由は知らないけど……。


「レイ?」


俺の前に出ようとするリリスとルネさんを、片手で制止する。


「あいつのご指名は、俺だ……」


最初から、全力で行くしかないよな。


俺の身体から立ち上る黒いオーラに、二人は下がってくれた。


ゴルバが馬から降りて、剣を構えてくる。


「くくくっ! 魔王に勝てる人間など存在せん!」


バカ兄が、何か言ってるよ……。


後で絶対殺す!


えっ?


予想外な事に、馬鹿の兄はシグーの拳に吹っ飛ばされた。


「我も力ある者を信じる。奴は少なくとも私以上だ。礼を欠く言動は慎め……」


なんだ、シグーって奴もいい奴じゃんか。


なんで、てめぇぇらは……。


っと!


ゴルバが、剣を振りぬいてくる!


……おや?


ほいっと……。


「ふっ!」


いや……。


遅っそ!


何? こんなものなの?


シグーの方が強いんじゃないか?


威力はそこそこありそうだけど、そんな速度で俺に当たるわけないじゃん。


よいしょっと!


俺はゴルバの剣をはじき、その勢いを利用して、ハイキックをゴルバの首筋にみまった。


普通に吹っ飛んだよ?


あれ?


どう言う事!?


『油断するな、バカ者! 人狼族の本来の力は、獣の姿で発揮される!』


ああ……。


そういう事か……。


まだ本気じゃないと……。


だから! 早く言えよ! クソジジィ!


今のうちに倒しとけばよかったじゃんか!


強くなるって事だろ!?


『……まぁ』


やっちまった!


今のうちに、ボコボコにするべきだった……。


ゴルバは見る間に二~三メートルほどの狼へと、姿を変えた。


体から出てる魔力も、凄い事に……。


鎧を着ていないのはこのせいか。


身体が二周り以上、でかくなりやがった……。


えっ!


衝撃音と共に、俺の体が後ろへと飛ばされる。


地面を一蹴りでとんでもない速度に達したゴルバは、正面から俺に突っ込んできた。


目の前で開かれた大きな口には、恐ろしい牙が並んでおり、剣でギリギリガード出来たが……。


速い!


俺並み……いや俺より速い!


くっそ!


<ミラージュ>


え!?


「ぐがっ!」


虚像を作ろうと横方向へ動いた俺を追い抜き、側面で大地を蹴ったゴルバにタックルされた。


致命的なダメージを受けるという事はないが、意識が持って行かれそうにるほどの衝撃だ。


背中から地面に落ちた俺は、その勢いのまま回転で起き上がる。


強い……。


動きを目で追うのが、ギリギリだ……。


獣の本能からか、急所ばかりへ最短距離で牙を向けてくる。


ただ、そう来てくれている間はまだよかった。


相手の攻撃予測がしやすく、剣で牙をいなす事が出来た。


だが、ただの獣ではなく、十分な知恵があるゴルバは、攻撃手段を切り替えてきやがった。


左右上下へと高速で移動し、俺の予測を撹乱させてきたのだ。


「くっ……ぐお! ……がっ!」


高速ですれ違うたびに、俺の一部を食いちぎって行きやがる……。


何とか見えてるおかげで、ゴルバの攻撃を浅くは留められているが、じり貧だ……。


これが人狼の速さと力か。


『時間をかければかけるだけ、こちらの不利じゃ。回復もいつまでもは出来んぞ』


ああ……。分かってる。


多分、底力はあっちが上だろうしな……。


俺の勝機が体の一部と一緒に、刻一刻と減っている。


何時も通り一撃に全てを掛けて飛び込むか?


いや……。


無理だな。当たる気がしない……。


自分より速い相手……。


そう言えばエセ勇者も金ぴかの化け物も、俺より遅かった。


それでも俺は、苦戦した。


何に苦戦した?


ふぅぅ、やるしかないか。


『結局一撃にかけるのと、大して変わっとらんぞ?』


でも、他にいい方法もないだろ?


『まあ……。そうじゃな……』


ああ……。


時間が惜しい!


徐々にゴルバに身体を削られながら、作戦を決めた。


これ以上待てば、勝機が完全に消える。


必死に守りながら溜めた、俺の力をぶつける!


「グルルル……」


俺のオーラの高まりに、ゴルバも一度距離をとった。


その判断は……。


間違いだ!


師匠から授かった奥義。


昔の俺では、使えなかったが……今なら!


連射に耐えてくれよ! 俺の身体!


「はあああ!」


<ファルコンスラッシュ>


超高速の連続衝撃波。


ほぼ誤差なしで放つ三日月の衝撃波は、十字に重なる。


それと同時に、簿妙な力の方向のずれで回転を始め、全てをかみ砕く真空の巨大な竜巻となる。


よし! 出来た! 今しかない!


<ミラージュ>


真空の竜巻にゴルバが気を取られた刹那の時間で、気配のある虚像をその場に残し、上空へと跳び上がる。


俺の放った地面と垂直に進む竜巻の攻撃範囲は広く、必然的にゴルバの避ける方向には制限がかかった。


そこから俺の虚像に噛みつこうとすれば、更にルートは限られる。


来た! そこだ!


<メテオストライク>


空気の壁を蹴って体を超高速で落下させた俺は、誘導したルートを進むゴルバ目掛けて、全力で魔剣を振り抜いた。


「ギャウンン!」


成功……した。


流石に人狼の体毛と筋肉がいくら硬くても、カウンターでのメテオストライクなら、切り裂く事が出来る。


「はぁ……はぁ……」


ギリギリ……。マジで、ギリギリだった。


俺達の勝負は、本当に一瞬で決着した。


かなりのギャンブルだったけど……。


『賭けに勝ったのぉ……』


ああ……。


自分より速い相手は、誘導とけん制で攻撃を当てる。


まさか、あの金ぴか野郎どころか、馬鹿勇者から教えられるなんてなぁ。


『まぁ、あれでも剣士としては大してないが、戦闘力は聖剣でAランクモンスター並じゃったからなぁ……』


はっ……ははっ……。


良かったぁぁ……。


さすがに今回はダメかと思った……。


俺、生きてるぅぅ……。


人間の姿に戻ったゴルバは、肩から腹部までが大きく斬り裂けているが、生きている。


生命力も半端ないな……。


「ぐうううう……」


まぁこれで……。


うん?


嘘……。


ゴルバは、胸のロケットを開いて見たと思ったら……。


魔力が膨れ上がっていく。


どう言う事だよ!


「人間! 殺す! 殺す! 妻とわが子の敵! 殺すぅぅぅ!」


なっ!?


なに? 人間に嫁さんと子供殺されたの!?


あれは……。


『胸のあれから、魔力があふれ出しておる!』


そう言えば、馬鹿兄弟がロケットがどうのこうのと……。


なに? あのロケットには、人間に殺された嫁さんと子供の写真でも入ってるの?


「バカめ!」


「止めを刺し損ねた! お前の負けだ!」


だから五月蝿い! 馬鹿兄弟!


あの胸のロケットが、暴走の原因か!


ゴルバが再び巨狼に変身した。


それも、先程の倍以上のでかさになって……。


「うげっ!」


嘘だろ……。


全く見えない……。


速度まで上がったのかよ……。


俺は一瞬で、左腕を食いちぎられた。


俺の周りを移動しているのは分かるが、ゴルバの姿が全く見えない。


全ての感覚を動員しても、正確な位置は捉えきれなかった。


まずい!


勝ち目が全くない!


こいつを捉えるなんて不可能だ!


殺される!


どうする?


どうすればいい?


あのロケットさえ破壊出来れば……。


奴の懐に……。


ええい! くそ!


もう! これしかない!


『確率は……二割かのぉ……』


だが、やるしかないだろうが!


ジジィ! フィールドを全力で、俺の身体だけに張ってくれ!


『承知した!』


俺は魔剣を上段に構える。


これで、首や頭だけは守れるはずだ。


ぐがっ!


左足を持って行かれた!


だが! 倒れなければ!


来た! 痛ってぇぇぇなぁ! くそぉぉぉぉ!


俺の胴体は、大きな顎に喰いつかれていた。


フィールドを張っているので、食いちぎられていない。


習い通りだ! ここなら! 俺の剣がゴルバに届く!


俺はゴルバに咥えられたまま、秘言を唱える。


「この世に漂いし、迷える戦士の魂よ! 我の元に集い我が刃となれ!」


魔剣が形を変え、賢者の石が魔力を吸収していく。


ゴルバはその間も、俺をかみ殺そうと首を激しく左右に振っている。


いってぇぇぇ!!


フィールドが耐えきれれば勝ちで、耐えきれなければ噛みきられて俺の負けだ。


『よし!』


「力を示せ! スピリットオブデス(死神の魂)!」


魔剣が光を放つ、真の姿を現す。


この剣身の長さなら!


俺はゴルバの首筋を、光の剣身でロケットごと斬り裂いた。


よっしゃぁぁぁぁぁ!!


ロケットを切り離した!


「うげっ! ごほっ……くっそ……いてぇ……」


魔剣が元に戻ると同時に、ゴルバの口が緩み、俺は地面に落下した。


ゴルバはその場に倒れ込み、人の姿に戻っていく。


俺は……。


痛い……。


痛いよぉぉぉぉ……。


『すぐに治す……。我慢せい!』


片腕と片足が無くなり、腹にはゴルバの牙のせいで、大穴が複数あいている。


痛ぁぁぁい……。


『……五月蝿い』


傷口からは煙があがり回復しているのは分かるが、それでもむちゃくちゃ痛い。


泣きそうだよ……。


****


「ぐう! 人間……殺す……」


うそぉぉぉぉぉ!


ゴルバって、正気に戻ってない!?


それとも元々あんななの?


やっべ!


流石にもう無理! 殺される!


ゴルバの首と胸の傷は、もう血が止まり始めていた。


てか、人狼族のって俺より回復早いんじゃないの!?


『まずいのぉ……。後、数分は動けんぞ……』


やられてしまう!


やばい! やばいって!


おう?


メアリー! 危ない! 危ないって!


あれ?


メアリーは、ゴルバの頭を抱えて泣いている。


「兄さん……遅くなってごめんね。気付いてあげられなくて、ごめんね……」


メアリーの両腕からは、淡い光が漏れだしていた。


これは……。


『ゴルバに入り込んだ魔力が、排除されていっとるようじゃ……』


え?


バンパイアって回復魔法とか使えるの?


『何か違う術のようじゃが……』


「この大馬鹿が!」


「死んだらどうするんだ!」


うおっ!


ルネさんとリリスが、俺の前で怒ってる!


逃げることすらできん……。


えぇぇぇぇ……。


頑張ったのに……。


なんで、怒るの? 馬鹿なの?


『アホ……』


****


俺をひとしきり怒った後、ルネさんは俺が斬り落とした、ゴルバのロケットを拾い上げる。


「これで、ゴルバも元に戻るだろう」


はっ? 元に?


「どう言う事?」


俺が仰向けに寝そべったまま質問すると、ルネさんはゴルバがしていたロケットの中を見せてくれた。


はい?


そこには、メアリーとルネさんと笑顔のゴルバが写っていた。


嫁さんと娘じゃないよね? なにこれ?


「ゴルバは二百十歳だが、まだ未婚だ……。もちろん子供もいない……」


ええ~……。


なんじゃそりゃ……。


『洗脳されておったのじゃろうて……』


ええ~……。


何? 嫁さんと子供が殺されたって思いこんで、人間殺そうとしたの?


『多分な……』


ふっざけんなよぉぉぉ。


なんだよそれぇぇぇ。


そんな理由で、戦争すんなよぉぉぉ。


アホらしい。


俺は、メアリーとルネさんに説明を受け、謝罪するゴルバをただ見ていた。


回復するまで動けませんからね……。


そして……。


なんでだよ……。


俺の不幸は、何時終わるんですか?


てか、終わるのか?


説明の終わったメアリー、ルネさんにリリスを含めて、説教されています。


何? こいつら……。


命かけまくったのに……。


何故俺は怒られねばならん!


なんでだ?


『お前には一生理解出来んのかのぉ……』


身動きできない状態で、女性三人から怒られる……か。


なんか、これだけ一方的に怒られてると、泣きそうなんですけど……。


ここはお礼じゃないの?


何で怒るの? こいつ等。


アホなの?


『アホはお前じゃ……』


いやいや……。


俺頑張ったじゃん!


なんでだよ!


誰か教えてくれよ……。


てか、助けてよ……。


「聞いてますか!?レイ!」


「はい……」


「全く! お前は!」


「レイ殿は反省とか学習とか、出来ないんですか?」


もう嫌だ!


誰か御褒美くれよぉぉぉぉ!


ああああ……。


やってらんね~……。

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