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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第三章:帝国と陰謀編
34/106

七話

この恨み……。


晴らさでおくべきかぁぁぁぁ!!


殺す!


あのダークエルフ! 絶対殺す!


歯を麻酔なしで、全部引っこ抜いてから殺す!


うがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!


『まぁ、落ち着け……』


戦場から逃げ出した俺は、五時間ほど追いかけまわされた……。


どんだけ必死で殺す気なんだよ!


何回も……何っ……回も!


あいつら絶対! 頭の中にワカメとか詰まってるんだ!


あ~も~……。


むかつく!


『まぁ、逃げ延びたんじゃ……』


まぁ、俺を追いかけたおかげで、戦場はこう着してくれたからいいけど……。


でもむかつく!


俺、今回も結構命かけたのに!


何だあいつらは!


『まぁ、しかたあるまい……』


仕方ないで済んだら、軍隊なんていらないんだよ!


くっそ……。


やってらんね~……。


『いいかげん落ち着かんか。気配が消しきれとらんぞ?』


へいへい……。


俺は大きく深呼吸してとりあえず落ち着く。


でも……怒りがおさまらん! くそ!


『しつこい!』


分かったって……。


しかし……。


『何時再び戦が始まっても……』


だよな……。


混乱の間にお互いの軍は後退したが、森と平原を挟んだたった数キロの位置に陣を張っている。


何とかしないと……。


森の中にある巨木の枝に跨った俺は、大きく息を吐いた。


っと……。


バカが油断しやがった。


『うむ!』


ダークエルフの気配が、それぞれの陣から離れていく。


殺す……。


俺は殺意と気配を消し、夜の森を高速移動する。


この速度なら、バンパイアでもそう簡単には目視できないはずだ。


****


いたっ!


「兄者!」


「エルガ!」


今すぐ二人とも殺したい!


でも……。


ちょっと我慢……。


ああ……。


殺したい……。


『シリアルキラーかお前は……』


五月蝿い!


話が聞こえない!


前に片腕を斬りおとしたのが、弟のエルガって奴か……。


「あの魔剣士は?」


「駄目だ……。見つからん」


「どうするの?」


「奴も捨てておけんが、まずは計画が先だ……」


「そうだね……」


まあ、大きな声でしゃべってらっしゃる。


本当に馬鹿なんだな。


「で? 準備は?」


「上手く誘導しておいた。問題ない!」


「奴らの使命感は、我らにも引けをとらん。今度こそ……」


「そうだね……。例のロケットも順調だよ」


「くくく……。あの人間には散々邪魔をされたが、これですべては完了できる」


「うん。俺達は奴らの二の舞にはならない……」


「全ては神の御心のままに……」


二人して跪いて祈り始めやがった。


気持ち悪い。


悪役らしくしてろよ。


何が神の御心だよ。


てか、俺……神様嫌いだしね!


「何を企んでるか……聞かせて貰おうか」


俺は気配もなく兄弟の背後に立ち、魔剣を構える。


「なっ!?」


「貴様!」


「五月蝿い……。変なことするなよ」


「ふん! 貴様などの……」


俺はデュランの片腕を斬りおとした。


エルガと分からなくならないように、反対の腕を。


転げまわるデュランの頭を踏みつける。


「俺が聞きたいことを全部喋ってもらうぞ」


「誰が貴様……ひっ!」


俺は冷たい目線で、エルガに剣を向ける。


「従わないなら殺す。変なことすれば殺す。もう瞬間移動は出来ないと思え。移動する前に切り捨てる。二人いるんだ一人殺しても問題ないんだからな」


『相変わらず、この手の事に慣れとるのぉ……』


ちょっと黙ってろ、ジジィ。


「我らは神の使徒ぞ! このような事が許されるはず……が、ああ!」


俺の足元でデュランが叫ぶので、少し強めに踏みつける。


もともと殺す気なんだ。


手加減なんてしないぞ?


この馬鹿兄弟が……。


「質問は三つ、アルティア王国やルナリスもお前たちの仕業か? それとも黒幕がいるなら教えろ。それから、今計画している事を全部はけ」


「くっ! 貴様など……ぐがああああ!」


足に力を入れていく。


軽く頭蓋骨に、ヒビでも入ったかな?


「余計な事は、必要ないぞ……」


「ひぃ……」


俺の全身からは真っ黒いオーラが出ているだろうし、今俺は人を殺すのを躊躇わない目つきをしているだろう。


実際に、キレかけてるしね。


エルガの顔が引きつっていく……。


「くくくっ! 先程も言ったが我らは神の使徒! これは神の御心なのだ!」


五月蝿いな……。


「踏み殺されたいのか? このドMが……。分かりやすく喋れ。邪神かなにかの手先なのか?」


「馬鹿が! 我らは全能なる真の神にしたがいし使徒だ! ぐががっ……」


「誰が馬鹿だ……。貴様らが神に盲信するのはいいから、黒幕をはけ! それと計画を……」


何笑ってるんだ? この変態は?


マジでドMか?


気持ち悪いな……。


「貴様などに神の御心は分からない! もうすでにメアリーナ討伐に我ら使徒の仲間が向かった! 今頃もう奴らは死んでいるはずだ!」


なに!?


馬鹿な!


狙いはメアリーだったのかよ!


でも、魔力なんて……。


あっ!


『抜かった……。気配が増えることばかり気をとられていたが……。魔族の気配が減っておる!』


やばい! 本当に何かが入り込んだんだ!


くそっ!


あっ!


「くくくっ……」


俺の足の下から抜け出したデュランが、エルガに支えられて魔法石を構えている。


瞬間移動か!


「今向かった使徒は、貴様よりも間違いなく強い! お前の負けだ!」


その言葉を残し、兄弟は消えた……。


くっそぉぉぉぉぉぉぉ!!


あいつらむかつく!


話を聞かずに殺すべきだった!


マジでむかつく!


鬱憤を溜めながらも、俺はメアリー達のいる陣へと、全力で向かう。


****


既に日が昇り始めている。


てか、魔族の気配がどんどん減っていく!


急がないと!


俺が陣に着くと、そこは凄惨な現場になっていた。


大勢の魔族が倒れ、うめき声が聞こえてきている。


くそっ!


魔力を感じないって! 今度の敵はなんなんだよ!


メアリーの気配は……。


向こうか!


俺はメアリーの魔力を辿って、森の奥へと入って行った。


リリスにミネア、それにルネさんもまだ生きてるようだ!


間に合ってくれ!


****


「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」


俺が目撃したのは、ボロボロにされている四人の姿だった。


何と敵は、二人の人間と一人のエルフだ。


四人は、今にも殺されそうだ。


相手は人間だぞ!?


魔力なんて弱すぎて感知できないくらいの……。


それなのに、魔族の五将軍を?


なんだこいつらは?


「レイ……」


メアリーの声に、人間達がこちらに振り向いた。


一人は光り輝く剣を持ち、真っ白い鎧を身に付けた美男子。


一人は金色の全身鎧を身にまとった長髪の……。


顔は見えないが、鎧の胸の部分が出っ張っているので女性だと思う。


最後の一人は、銀色の光を放つ弓をもった、エルフの美少女。


なんだ? この正義のパーティーみたいなのは?


「おや? 君は人間だよね? 何でこんな場所に?」


イケメン野郎が問いかけてくる。


やってる事は血生臭いのに、なんだ? こいつの爽やかな感じは?


罪悪感とかはないのか?


「お前らこそなにを?」


「ああ……。この方には神託がないでしょうし、理解出来ないですよ」


「確かに信じられない光景ですわね。説明が必要ではないでしょうか? シーザー様?」


「まぁ、そうだよね……」


女の子四人をボコボコにしておいて、なんだその態度は?


なんなんだこいつらは?


何で笑ってるんだ!


「僕はシーザー。神に選ばれた勇者だ。そして、この二人も神に選ばれた戦士のシーラに、エルフのミミルだ」


はぁ!?


勇者?


「勇者ってあの勇者?」


「そうだよ。神託によりこの聖剣に選ばれた勇者だ。この二人も神託で聖鎧と聖弓に選ばれた神の使徒だ」


なんだこいつら……。


何で自信たっぷりに……。


魔族とはいえ、大量虐殺したんだぞ?


「僕たちは神の御心のままに、魔王の血族を滅ぼしに来た英雄ってわけさ!」


こいつらおかしい……。


ネジが飛んでるとかじゃない……。


お前ら殺人犯なんだぞ!


それも戦争でもない、ただの快楽殺人じゃねぇぇか!


「君のその姿は……。魔族に食料か奴隷として連れてこられていたのかな?」


確かに上半身裸だが魔族は人間なんて喰わないんだよ!


「安心しなさい! 我らが来たからには、魔族は滅びるでしょう!」


狂ってる……。


「このシーザー様こそ真の勇者!」


真の勇者だと?


「はぁぁぁ!」


三人が俺に喋りかけている間に、魔族の四人が一斉に攻撃を仕掛けた。


俺の目には、あり得ない光景が映る。


リリスの魔道砲はシーラの鎧で全て無効化され、ミネアの矢はミミルの光矢で弾き飛ばされる。


そして、ルネさんとメアリーは聖剣の一振りで、近寄る事すら出来ずに吹っ飛ばされた。


何だ? あのチートアイテムは……。


伝説の武具だってのかよ……。


「かはっ……」


「姫様! くっ……」


血を吐いたメアリーを、ルネさんが庇うように立つ。


「さぁ! これで終わりだ!」


勇者……。


金属のぶつかった音が、木々の間に反響していく。


「君は……。何者だい? 人間なら邪魔をしないでくれよ」


気がつくと俺は、ルネさんに振り下ろされていた聖剣を、魔剣で受け止めていた。


ああ……。


なんだ? イライラする。


「……これが、勇者のすることか?」


「当り前だろう? 神の神託を受けて魔族を滅ぼす。まさに勇者だろう?」


黙れ……。


「こんな女をいたぶる様なやり方が?」


「騙されてはいけない! この一人一人が化け物なんだ! 君は分かっていない……」


黙れよ……。


「人に害をなしていない……、人から虐げられて魔族と呼ばれた者達を殺すことがか?」


「何をいってるんだ? 君はおかしくなっているのか? 魔族は悪だ!」


「黙れ……クソ野郎……」


「なっ……」


「俺も勇者を知っている……。その人は真っすぐに生きようとした……。真実を自分の目で確かめた……。自分の使命に何よりも忠実だった……。自分の命を掛けるほどに……」


そう、セシルさんは落ちこぼれと……。


クズと呼ばれた俺を、自分の目でちゃんと確かめてくれた……。


こんなエセ勇者と違ってな!


「なんだ!? その黒いオーラは……。僕は人間とは戦う理由が無いんだぞ?」


「なら、理由を作ってやるよ……。俺は、アルティア王国で重罪を働き、ルナリスで評議長を殺した重罪人だ……。これで、いいのかよ?」


勇者を名乗る三人は頷きあって、こちらに目線を戻す。


「なるほど、魔道に堕ちた者か! ならば、我らが滅ぼすのみ!」


俺は魔剣を三人に構える。


「俺は……理由があれば人を殺す奴を……、弱者を虐げる者を勇者として認めねぇぇぇ!かかってこいや! エセ勇者!」


まず、光矢の連射が飛んでくる。


五本の矢を避け、一本叩き落としたが、魔剣の魔力すら消し飛ばす魔法で出来た矢だった。


シーラが振るってきた来た剣を避け胴を薙いだが、鎧には傷一つ付かなかった。


そして、聖剣の一撃は打ちあった俺の身体ごと吹き飛ばした。


この威力は……。


『オリハルコン……』


オリハルコン?


『そうじゃ、神の金属で出来た武器防具じゃ……』


それってミスリルよりも……。


『性能は向こうが数段上じゃな……』


くっ!


矢の連射以外速度なんて、リリス達よりも遅いのに!


パンッという破裂音が、耳と体内から同時に届く。


「がぁ……」


太股に光矢が一本刺さってしまった。


刺さった矢ははじけ飛び、俺の肉を抉った。


シーラにすれ違いざまに剣を振るうが、全く効果が無い……。


くそっ!


えっ!?


体勢を崩した俺に、聖剣の衝撃波が襲ってくる。


魔剣を盾にしたが防ぎきれない!


「ぐうぅ!」


肋骨に達する程深く、胸が斬り裂かれた。


どうすりゃいいんだ!


何とか致命傷は避けているが……。


三十分ほど戦っただけで、俺の身体はボロボロになっていた。


両足は弾ける魔法の矢で肉とともに、機動力を削がれた。


両腕は衝撃波の余波で無数の深い傷が刻まれ、魔剣を持っているだけでやっとだ。


片方の肺と内臓にダメージを受けて、呼吸するだけでも痛みが走る。


そして、片目は衝撃波で潰された。


なんで、こんなことになってるんだよ……。


こいつらがオリハルコンの武具さえ持ってなければ、既に俺が勝っているのに……。


これが勇者の力ってやつか?


「ここまで僕たちと戦ったのは君が初めてだ……。しかし、君も剣士ならそろそろ観念して、潔く死を受け入れろ!」


謝ってももう許してくれない……か。


これじゃあ俺は物語のただの中ボスじゃないか……。


中ボスどころかちょっと強いザコ敵か?


勇者に刃向う魔剣士……。


まさにやられる為のキャラ……。


なるほど、それが俺に求めたキャラって訳かよ。神様……。


神託を受けた勇者パーティ……。


こいつらに殺される為に、俺は生かされてたって事か?


ははっ……。


『ここまでか……』


おい! ジジィ!


『なんじゃ?』


勝手に諦めるな!


俺は足掻くって言っただろうが……。


『ぬ……』


俺がここで殺されたら、今までの事が全て嘘になる……。


俺がこんな奴らに殺されたら、皆に託された物が無駄になる……。


死ぬのは怖くないけど、それだけはあっちゃいけないんだよ!


だからこんなクソどもにだけは、殺されてやらん!


まだまだ、こっからだ!


『まったく……。お前は損な性分じゃな……。仕方ないつきあってやるわい!』


ああ……。


本当に、貧乏くじしか引けやしねぇ……。


ったくよぉ!


やってらんね~……。

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