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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第三章:帝国と陰謀編
33/106

六話

「では……」


「はい。ここが、この戦の天王山になるのではないかと……」


俺達は、本部となっているテントで軍議を行っている。


デュランの説明と作戦を聞くが、不審な点は無い。


やっぱり普通の野心家程度の奴なのだろうか……。


先日敵の兵力を大きく削ぐ事ができたので、デュランが提案してきた事から、この軍議は始まった。


提案されたのは、敵の大将であるゴルバが居留地にしている平原へ、三部隊に分かれて挟撃をするという作戦だ。


現在出撃しているリリスとミネアの部隊を正面からぶつけ、左右にある森と川からルネさんとデュランが率いる部隊が挟み撃ちをする。


その間俺は、ルネさんと共に行動して隙をついてゴルバの元へと進む。


悪くない作戦だと思う。


しかし、挟み撃ちする部隊の戦力が少ないのが難点だ。


俺が踏ん張ることになりそうだが、敵に伏兵がいた場合、こちらが全滅させられる可能性がある。


俺の魔力感知能力を使って、それを回避することにはなってるが……。


やっぱり全体の戦力に差があり過ぎる。


ゴルバともう一人の五将軍は戦闘力が特に高い為、敵五千に対してこちらは二千までに兵力を減らしている。


元はこちらも四千だったらしいが、千人以上が戦闘不能になるほどの怪我を負わされ、戦線を離れているらしい。


そのせいで焦っているというのもあるんだろうが……。


正直、勝てる見込みは五割……。いや、三割ってところだろうか……。


もう一人の五将軍をリリスとミネア二人がかりでおさえて戦えば、何とかなるとメアリーも言ってるが……。


こちらは奇襲を成功させ、俺がゴルバの首をとらないと、この作戦は勝ちといえない。


中々……、厳しいな……。


でも……。


「これ以上こちらの兵力が減れば、もう勝ち目はありません。この作戦決行をリリスとミネアに伝えて下さい」


メアリーは決断した。


まぁ、そうなるよね。


こちらの主戦力はバンパイア、有翼族、有角族、ダークエルフ、ドワーフ……。


全ての種族があちらの主戦力である獣人に個々では優っているが、人数が圧倒的に少ない。


敵の人海戦術でこちらの兵は疲弊して、どんどん押されているそうだ。


今やらないともう二度と勝機が見えない可能性がある。


もぉ、こちらに選択するほどの余裕はないのだろう。


「これで最後の争いにしましょう! 皆さんお願いします!」


メアリーの言葉に全員が頷いた。


****


次に日が昇ると同時に、作戦が開始される。


俺達奇襲部隊は、夜の間に配置に着く。


二百の兵とデュランが川側から。


俺とルネさんは五十の兵をつれて、森側から攻める事になっている。


「……伏兵は無かった」


「そうか、ありがとう……」


俺が伏兵の確認をして、ルネさんのいるテントへ帰還した。


伏兵はいないが、敵の戦力五千全てがこの平原に居るようだ。


此処で明日、魔族同士の総力戦が始まる。


犠牲を少なくする為には、俺達が奇襲を速やかに成功させなきゃいけない。


なかなかのプレッシャーだな……。


てか、俺は人間なのに、何やってんだろうなぁ……。


ふぅぅぅ……。


やってらんね~……。


「敵のほぼ全戦力がいるとおもう。それから、ゴルバともう一人も……」


「そうだろうな……。少し休んでくれ。明日の作戦は、レイ殿にかかっているからな」


「ああ……」


ルネさんの出してくれた折り畳みの椅子に座った俺は、考え込み始める。


偵察で感じたあの敵の圧力……。


ゴルバともう一人……シグーと言うらしいが、正直どちらにも勝てるかどうかが分からないと思えないほどの圧力を感じた。


そして、何故か敵の本陣からダークエルフの気配がした。


昨日逃げられたダークエルフが敵側についているなら、メアリーを狙ったのは分かるが……。


何故獣人の村も襲ってたんだ?


何か引っかかる……。


この流れの先には何がある?


敵はなぜこんなことができる?


てか、敵はなんなんだ?


人間、魔族関係なく干渉する力……。


あり得ない。


そんなの神みたいな力でもない限り、不可能だ。


まさか、巨大な組織!?


にしても……。


狡猾というよりは、あり得ない干渉で、目的は一貫して破壊や殺戮……。


本当に邪神なのか?


たまたま?


いや、あり得ない……。


それこそ、最近樹海で高ランクモンスターが多数発生している事まで、疑わしく思えてるぐらいだし……。


この先に何かがいる。


敵を侮るな……。


しかし、敵を大きく見積もりすぎるのも間違いだ。


敵をあるがままに捉えて作戦を立てるんだ。


これが、例え俺を嫌ってる神様の仕業だとしても、足掻いてやる。


足掻いて、足掻いて……足掻きまくってやる!


もぉ人間じゃなくてもいいから、何とか彼女を作ってやる!


成人するまでに何とかキスを済ませるんだ!


俺の野望を邪魔する奴は殺す!


俺に彼女をくれない神も殺す!


『最終的にはそこか? 小さい奴じゃ……』


俺のは普通……よりちょっと大きい!


『……情けない』


ジジィ、目覚めてすぐにその言葉はどうなんだ?


折るぞ?


『真面目に考えることが女の事とは……。情けなくならんのか? 自分で?』


俺からそれ取ったら何が残るんだ?


プリン体とかか?


『自分で……』


****


「レイ殿……」


ん?


いつの間にか、ルネさんが俺の顔を覗き込んでいた。


なになに?


もしかして、戦前に大人の階段を上るイベントか!


ルネさんは二百歳……。


期待できるんじゃないの?


「人間のあなたにここまで頼った事、申し訳なく思っている……」


ここまできて何でそんな顔するんだよ……。


「どうしたんですか?」


「先程から眉間にしわを寄せて、何かを考えていたようなので……」


ああ……。


『この馬鹿は、女の事を真剣に考えていただけじゃがな……』


馬鹿って言う方が馬鹿なんです!


邪魔すんな!


もしかしたら俺大人になれるのに!


『ふぅぅぅ……』


心の中でため息つくな!


なんかキモイ!


「やはり……」


あ!


ルネさんほったらかしにしちゃったじゃないか!


この馬鹿ジジィ!


「いえ……。明日の作戦を考えていただけですよ。敵は強力なようですから……」


「そうですか……」


「本当に他意はないですからね。いや、本当に」


「はい。今の私達は、貴方を信じるしかない。国の平定後、私達の出来る限りの恩賞を……」


今、体で払ってほしいんだけどな……。


言ってみようかな……。


この間の成功も、不正解と思う方で正解だったし……。


「あの……」


「ゴルバはバーゴ様に忠実な、本当にいい将軍でした……。私とゴルバ、そして姫様は本当の兄妹のように育ってきました。それが、バーゴ様が謎の死を迎えてから全てが狂ってしまった」


おや?


話がそれた?


「あれほど姫様を可愛がっていたゴルバが……」


そんな顔しないでよ……。


魔王の怪死って……。


ん!?


謎の死?


「ルネさん! バーゴさんは普通より短いけど、寿命じゃなかったんですか?」


「えっ? ああ……、突然謎の病にかかったんだ」


もしかして……。


『もしかするかもしれんな……』


「あの、敵にダークエルフはいますか?」


「えっ? ああ、一人だけデュランと同じ軍師でエルガが……」


「デュランとエルガってどうして二人も軍師が?」


「二人は流れ者の兄弟だったんだが……。バーゴ様が亡くなられる数年前にこの国流れてきて、その実力を認められ……」


おいおい……。


『繋がったな……』


「数年前って何時からですか?」


「ルミナスとの戦中だったから、三年か四年ほど前だろうか……」


アルティアでの魔人騒動。


ルミナスでの遺跡発掘。


点が線になってきてないか?


『うむ……。全ては三年ほど前からか……』


後は、ダークエルフの兄弟が今も繋がっているかって事くらいだろうな……。


もしかするとバーゴも……。


『兄弟か、その黒幕の仕業……』


こんな事考えた馬鹿は、何するつもりなんだ?


『魔人復活、魔道兵機の暴走、帝国の内乱による疲弊……』


この大陸の人間全員殺したいのかよ……。


『少なくとも正常な考えとはいえんだろうな……』


馬鹿の所業だな……。


そいつのせいでセシルさんもオーナーも……。


気がつかない間に、俺は全身から真っ黒いオーラを出していた。


それもバンパイアが恐怖するほどの……。


「レイ……殿……」


「あっ! すみません。明日の事考えて。まあ、あの……武者ぶるい的なあれです」


はい!


俺が考えなしに選択するのは間違いばっかりです!


チャンスって……。


なんなんでしょうねぇ。


俺には分かりません。


「ふふふっ……。レイ殿は根っからの武人なのだな。では、私も明日に備え休むことにします」


ああ……。


ルネさんが、自分のテントに帰っちゃった……。


俺のチャンス……。


『諦めろ……』


嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ!


大人の階段がぁぁぁぁ……。


『あの娘に手を出すと、メアリーは諦めねばならんぞ?』


それも嫌ぁぁぁぁぁ!


俺も勇者みたいにハーレム作りたいぃぃぃぃぃぃぃ!


『アホ……』


うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!


馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


そして、何時も通りな俺は仕方なく修練をして眠った……。


****


翌朝、朝日がさす三十分ほど前に、魔族同士の総力戦の火蓋が切って落とされた。


敵の軍が、接近するリリス達の軍に対して、先に動いてしまったのだ。


リリスを先頭にミネアが後方を守りつつゴルバの軍へ突撃していく。


俺達は奇襲予定地点へと、急いで向かう。


バンパイアで構成されたルネさんの部隊は、夜の森を物ともせずに疾走する。


さすがに皆バンパイアだけあって、速度も十分だ。


木の間から戦場へ目を向けると、重装の騎馬がリリスとミネア二人と戦闘に入った。


あれがシグーだろう……。


ワ―タイガー?


『いや、虎の獣人ライカン族じゃな……』


なるほど……。


因みに人狼や人虎は通常は人間で完全な獣に変身できる種族で、獣人は人豚族オークのように常に獣とのハーフのような姿をしている。


似て非なる者ってやつだ。


さて、とっととゴルバにたどり着こう。


なっ!


どう言うことだよ! ジジィ!


『ダークエルフが二人もおるんじゃ……。奴らの仕業じゃろう……』


「どうしたのだ? レイ殿?」


急に立ち止まった俺に、ルネさんが驚いている。


立ち止まった俺が見つめる方向……。


ゴルバの軍のど真ん中と、デュランがいる川の方から爆発がおこる。


気配は……。


『四体全てがAランクじゃ! 敵はここで全てを決する気じゃ!』


最悪のタイミング……。


まぁ、俺が敵でもこのタイミング狙うだろうな……。


てか、あいつはなんだ?


あんなモンスター知らねぇぇぞっ!


『わしも見たことが無い……』


今回のモンスターは、四本の腕を持つ人型だ。体長三mほどで、何故か腰みのと王冠をつけており、それぞれの手に持った四本の剣に魔力を乗せて、振り回している。


そいつらの一番目立つポイントは、実はそれらではない。


全身金ぴかって、趣味悪いわ!


なんだ? あの馬鹿丸出しのデザインは?


その馬鹿に、敵も味方もなく兵士が攻撃されている。


ゴルバは本陣から動かないし、リリス、ミネア、シグーは自分達の戦闘に必死で、気が付いていない!


どうすんだ?


ゴルバを今日討てなければ、戦況は最悪になる可能性が高い……。


どうすりゃいいんだ!


いや……。迷うな!


迷ってる間にも死人が増えていく!


****


「ルネさん! ごめん!」


俺はその一言と共に、戦場のど真ん中に向けて走り出していた。


ゴルバ側の戦力を削ぎながら、真の敵を討つ!


これしかない!


てか、それ以外思いつかん!


『気を抜くな!』


分かってる!


いくぞ!


俺は全力で、シグーにとび蹴りをかます。


しかし、シグーの斧にあっさり防がれた……。


戦斧に蹴りが当たった衝撃音で、空気が振動する。


『舐めていい相手ではないのぉ』


着地の瞬間に、チラリと自分の背後へと視線を送る。


リリスとミネアは、もうボロボロだった。


実力は同等って訳じゃなかったようだ。


二人とも連日の戦闘で、疲労もたまっていた事もあるんだろうな……。


俺が取り敢えず、ゴルバより弱いであろうシグーを戦闘不能にして、変な金ぴかを倒す!


そうすれば、リリスとミネアで戦線は保てるはずだ!


「なっ!?」


「お前は……」


「何者だ? バンパイアにお前ほどの手練が残っていたか?」


五月蝿い! 馬鹿虎!


お前と話す時間は無いんだよ!


「おおおおお!」


俺は刃挽きされた剣で斬りかかる。


「ふんっ!」


うおぉぉぉ!


シグーの巨大な戦斧が。俺の剣を一撃で粉砕した。


獲物が違いすぎる!


ええい! 時間が無い!


怪我しても文句言うなよ!


俺は魔剣を呼び出した。


「あの魔剣……」


おっと、リリス達に気がつかれたか?


でも、そんなの気にしてられない!


<ホークスラッシュ>


俺が放った二発の衝撃波を、シグーは戦斧の一振りでかき消しやがった。


やっぱ、一筋縄ではいかない。


ジジィ……。


『全力で行くか?』


ああ! 死んでくれるなよ! 虎野郎!


俺は、全速力でまっすぐシグーに突っ込む……。


ふりをする。


突進に緩急をつけて残像を残し、後ろへ……。


「笑止!」


シグーは眼前の残像を無視して、上空に向けて戦斧を突き出していた。


はい、ざぁぁんねぇぇんっ!


<ミラージュ>


上空にいるのは、気配を持った俺の虚像!


戦斧を空振りし、少しだけバランスを崩したシグーを、馬の陰から飛び出した俺の剣が襲う。


<サザンクロス>


大きな音が周囲の者の耳に、耳鳴りを起こさせる。


俺の放った高速の十字斬りはシグーの戦斧を砕き、シグー自体を馬上から落とした。


悪いが! 戦闘不能にはなってもらう!


馬上からなら、多少の手加減にはなる……はず!


<トライデント>


地面で膝をつくシグーに、三連撃がクリーンヒットした。


シグーの全身鎧を粉々にし、胸部を大きく傷つけた。


多分致命傷にはならないはずだけど、戦闘不能には出来ただろう。


さて、ここからが本番だ!


「あの……レ……」


リリスが俺に何か話しかけようとしていたようだが俺に相手をする余裕はなく、金ぴか達に向かい走り出す。


****


って……。


くっそ……。


一体一体潰すつもりだったけど……。


俺の事は想定済みか?


既に四体が集結していた。


周りを見ると、敵味方関係なく多くの者が倒れている。


オーク達に有翼族……。


やってくれたな……。


「ぶっ殺す!」


俺は魔剣を構え、四体に斬りかかる……。


なんて、カッコつけて飛び込んだはいいけど……。


強い……。


一体一体が魔道兵機Σ(シグマ)並みだ……。


それも四体が綺麗な連携で剣を振るってくる。


それも、洒落にならない速度だ。


踏み込みが甘かったから避けられたけど……。


これ……。


勝てるのか!?


Aランク中位四体って魔王とも戦えるレベルだよね?


俺……ピィィィンチ!


移動速度はそれほど速くないが、四体の連携でトップスピードにのる前に斬りかかられて、リズムが崩される。


それも敵の一撃一撃が、地面を深くえぐるほどの威力……。


当たったら死ぬ。


一体に斬りかかろうとすると、他の一体が斬りかかってくるし、それを避けても追撃が来る。


敵は一度に十六回分の、攻撃兼防御が可能だ。


ずる過ぎるわ!


もしかして俺対策として敵が用意したの?


『可能性は低くあるまい……』


くっそ! くっそ!


防戦一方の俺は気がつくと、四体に取り囲まれていた。


集中しろ……。


全てを活かせ……。


全てを感じろ……。


気を抜けば終わりだ……。


集中……。


俺の集中力が高まると同時に、敵の攻撃予想が映像として浮かび上がる。


全方向からの攻撃。先読みでも出来なければ、避けられない。


来る! 横薙ぎ! 引くのは駄目だ! ダッキング!


上段! 下段! 中段! 一度に? くそ!


後ろに飛んだ俺に追撃が迫る。


後方から打ちおろし二連!


左に良ければ次が来る!


剣の打ちおろしを、右へ掻い潜る。


その先には、左右から連撃が待っていた。


生還できるのは前方のみ!


向かってくる剣に俺は加速して突っ込む。


紙一重で避けなければ、次撃で終わる状況が続く。


俺のマスクや鎧は、徐々に斬り裂かれていく。


しかし、皮は斬られても、肉や骨にまでは届いていない。


まだ、いける!


何とか避けきっているが、完璧な連携で囲まれたままだ。


五分ほど防戦を続けただけで、上半身は完全に裸になっていた。


「はぁ……はぁはぁ……」


息が上がる……。


突破口が見つからない……。


くっそ!


来る!


上段、中段、下段……。


違う! 後ろ! 左右からもかよ!


一斉攻撃!?


全方位に逃げ場がない!


終わるのか!?


「諦めるのはただの時間の無駄だ……」


その時、師匠の言葉が頭をよぎる……。


逃げ場は……上空だ!


しかし、飛び上がった俺を、地上にいる四体が待ち構える。


このまま落下すれば、バラバラにされる。


全てを活かせ!


俺は空気をけり込む。


俺の身体は落下の軌道を急速に変え、一体の背後をとる事に成功した。


「はっ!」


一体を両断し塵に変えたが、その足を止めていた短い時間で、再び三体に取り囲まれていた。


再び三体で全方位攻撃……。


上空に跳んだ俺に、今度は一体が跳んでついてきた。


馬鹿か? お前は空中で軌道は変えられないだろうが……。


跳び上がっている一体が、俺に向かい剣をふるってくる。


遅い!


空気の壁を蹴った俺は、空中でさらに上空へ跳び、そこから更に二度軌道を変化させる。


<メテオストライク>


跳び上がっていた敵を、空中で斜めに両断した。


だが……。


敵を空中で斬る為に速度を出し過ぎて、止まれない!


敵を舐めすぎた! くそ!


俺の落下予定地点には、すでに二体が待ち構えている!


空中で斬らせるのまでが、敵の罠だったのかよ!


ジジィ!


『うむ! フィールドを全開にするぞ!』


俺はもう一体の首を斬り落とす代わりに、フィールドを集中させて盾にした左腕を細切れにされた。


だが……。


これで! 後一体!


切り落とされた左腕の付け根部分から、煙が上がる。


『魔力は十分じゃ。左腕の修復は任せておけ』


もう、負ける理由が無い!


死ね!


俺は左肩へ担ぐように、魔剣を構える。


<ドラゴンバスター>


金ぴかが剣を振りぬくよりも早く、俺は相手の脇を潜り抜ける。


すれ違いざまに振るった魔剣は、敵を袈裟がけに両断していた。


最後の一体が塵へと変わる……。


よし。後は、左腕の回復を待つだけだ。


これなら、ゴルバともやれる……。


って……。


あれ?


皆さんそんなに俺が、恰好よかったですか?


なんで皆、呆然と俺を見てるの?


……。


……。


……。


そういえば……。


『常夜のリングは左腕に、はめておったからのぉ……』


だよねぇぇぇ……。


何だか皆さんの目が、ちょっと怖くなってるように思えます。


「人間だぁぁぁぁぁぁ! 人間が紛れ込んでいるぞぉぉぉぉぉ!」


デュランのその声で、戦場の敵味方関係なく俺に突撃してくる……。


おまっ! あほかぁぁぁぁぁぁぁ!


俺お前らの恩人だってば!


恩人をいちいち殺そうとすんな!


あのダークエルフのボケが! 


てか、なんでテメーら戦より全力なんだ!


****


ええ、ええ……。


逃げましたよ……。


逃げましたとも……。


六~七千人に囲まれた戦場から全力で……。


分かってる、分かってる。


魔族は人間嫌いなのね……。はいはい。


てか! お前ら仲いいじゃん!


何で全軍が協力して俺を追い回してんだよ!


諦めなさいよ!


もぉ~……。


やってらんね~……。

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