四話
魔族の治める土地には、原生林がかなり残っており、巨木を探すのに苦労はない。
その巨木の大人二人が楽に寝そべる事が出来る枝の上で、俺は頬杖をついて考え込んでいた。
なぁ、ジジィ……。
『なんじゃ?』
おかしくないか?
俺の考えすぎか?
『いや……。何かが蠢いておる……かのぉ?』
だよなぁ……。
本当に面倒だ……。
神様? マジで何やってんだよ!
ちょんと仕事しろよ! それか死ねよ!
『お前の神嫌いはどうしようもないのぉ……。確かに邪神はおるが、いい神もおるのじゃぞ?』
なら、頑張った俺にご褒美よこしなさいよぉぉ。
彼女とか、彼女とか、彼女とか……。
『お前の頭蓋骨の中には、煩悩しかつまっとらんのか?』
もうすぐ成人ですが……。
まだ、思春期なんで!
『そんな宣言されてものぉ……』
まぁ、それは置いといて……。
話を戻すけどさぁ。ジジィは、いつから意識があったんだ?
『お前が十三歳になった頃からか……。それ以前は半覚醒状態で、記憶が曖昧じゃな』
ボケ……とかじゃないよな?
『違うわ! 馬鹿者が!』
なら、アルティアでの魔人復活の時の事は、全部覚えてるんだよな?
『まぁな……』
多分、一番最初の魔道士とオークを倒したのって、覚えてるか?
『あの、飲食店でお嬢ちゃんに殴られた時じゃな? 覚えておるぞ』
嫌な言い方するな!
まぁ、あの時俺は魔族のことあんまり知らなかったから……。
『そうじゃな。魔道士もオークも塵になった……』
普通、魔族も人の一種だから死体が残るはず……。
『じゃが、塵になった……。あのオーガのように……』
あの魔人の手下とか言ってた妖怪ジジィの体って……。
『魔道兵機と同じ技術じゃ……』
ジジィが言うなら間違いないよな……。
考え過ぎかもとも思う。
にしては、なんか繋がってるような。
長い間も封印されてた物が、一気に目覚めるなんて有り得ないよな? 普通は。
『まぁ、その事に気がつけるのは、全てに巻き込まれたお前くらいしかおらんじゃろうがな……』
だぁぁよぉぉねぇぇ。
俺は最近の寝床である、大木の枝でうなだれた。
国が亡びそうな事件なんて、仕方ないじゃ済まないぞ。
俺に何させたいんだ! 神様!
マジで……。
やってらんね~……。
****
ん?
『お客さんじゃな……』
気配を消して忍び寄ってくる……っか。
好的なわけないよな。
さてと……。
かなり上手く気配を消して、音も出さずに素早く俺に近付いてくる誰かを迎える準備を、俺は整えた。
その客は俺の作った虚像に、躊躇なく手刀を突き刺しやがった。
まぁ、それただの残像ですけどね。
「背後取ろうとしないでくれる? 俺に何か用でも?」
俺は客の背後から、抑揚を無くした声で喋りかけた。
『なんじゃ? その要求は?』
カーラにナイフを突きつけられたのが、いまだにちょっとトラウマなんだよ……。
んっ?
バンパイア!?
振り返った女性は、バンパイアの特徴である緑色の長髪が風になびいていた。
美人ですねぇ。おねぇさん。
はぁ。また、美人に俺は命を狙われるのか……。
俺が何したんだよ!
「お前が最近、近隣の村で衣服を盗んでいる人間だな?」
『何かに答えてくれたな盗人……』
いや、あのね……。
大体その前にモンスターから、村を守ってんだけど……。
「あの、それは報酬と言うか……」
「貴様の血をよこせ」
聞く気ないよね、おねぇさん……。
爪と牙剥き出しにしないでよ。
「美人が台無しですよ?」
うわぁぁぁぁぁぁん!
やっぱり襲ってきたぁぁぁぁぁぁ!
なんで魔族はみんなこうなんだぁぁぁぁぁぁ!
馬鹿じゃねぇぇぇの!
おおぅ!
背後から、破裂音が聞こえた。
それが気になった俺は、少しだけ後ろへと目を向ける。
大木を素手で、削り取りやがった。
『これがバンパイアの力じゃ』
解説いらん!
打開策よこせぇぇぇぇぇぇ!
****
俺は、夜の森を逃げ回る。
速度は何とか俺が上だけど、パワーはドラゴン並みじゃないのか? このねぇちゃん!
流石はバンパイア。
夜の眷属なだけに、気配を消しても目視で追ってくる。
もお! しつこい!
くそ! お前のせいだからな!
俺はもう一段階速度を上げて、相手を少し引き離したところで、目の前に迫った木の幹を蹴る。
瞬間的に足にかかる圧力はかなり痛いが、骨が折れる程ではない。
木の反動も利用して、俺は速度を落とさずに百八十度の方向転換をした。
突然自分に向かってきた俺に、おねぇさんは対応できず、そのまま当て身の直撃をくらう。
「かっ! はっ……姫……様……」
また罪悪感……。
ん? 懐から……コップ?
なんでこのおねぇさんは、コップなんて持ってるんだ?
まぁ、いいか……。
俺はコップを拾い、気を失ったバンパイアのおねぇさんを肩に担ぐ。
あっ……いい匂い……。
キスとかなら……。
『やめんか、人間のクズ……』
だから、冗談だよ……。
お連れさんがいるようだから、とりあえず運ぶわ。
この魔力は、多分もう一人もバンパイアだな。
話聞いてくれるといいなぁ。
****
近くの河原に、もう一人がいた。
確かバンパイアって、血から栄養補給数だけじゃなくて、混じってる魔力で自分の怪我を治したりするんだよな?
『そうじゃ』
理由は分かったけど、もう少し穏便に話してくれれば……。
もう一人はどうやら怪我をしている。
おねぇさんは、そのお連れさんの怪我を治す為に、俺の血が欲しかったんだろう。
おおおおぉぉぉぉ!
月を隠していた雲が動き、月明かりがそのバンパイアを照らした。
めちゃくちゃ!
めっ……ちゃくちゃ美少女!
可愛い……。
その子は俺が担いでいるおねぇさんに視線を繰りながら、爪を伸ばして身構えている。
「落ち着いて……」
俺はおねぇさんを、草むらの上に寝かせて距離を取る。
「何もしないから……」
『何かする奴のセリフじゃな』
五月蝿いわ! クソジジィ!
ちょっと黙ってろ!
「ルネ……」
美少女にルネと呼ばれたおねぇさんが、目を覚ます。
ちょっと強めに当てたのに、さすがバンパイア。
だからぁぁぁぁ……。
二人して身構えるなよ。
ここは仕方がない、ジジィ。
『まぁ、よかろう』
俺は魔剣で腕を少しだけ切ると、ルネが落としたコップに血を注ぐ。
流石に、直接噛まれるとヤバいかもしれないからね。
俺ってジジィのおかげで、多少は体内の魔力って強いんだよな?
『その通りじゃ。その血には、さらに魔力を凝縮して入れておいた。これだけで、問題無いじゃろう』
俺は、そのコップを手渡す。
手渡……。
手渡すの!
身構えたままの二人は、コップに手を伸ばしてさえくれない。
受け取りなさいよ!
ここは素直に受け取ろうよ!
仕方なく、地面にコップを置き、また少し離れた。
やっと飲んだ。
へぇ~……。
本当にすぐ回復していく。
魔剣の修復みたいだなぁ。
「姫様、お加減は?」
「ありがとう、ルネ。すっかり回復したわ」
あれれ?
姫……様?
あ……魔王って。
『バンパイアじゃ』
もしかして……。
「に……人間の方、まずは礼を……。私はバーゴ帝国皇女、メアリーナ:ルーファ:バラスと申します」
ああ、やっぱね~……。
そうなるよね~……。
分かってたよ!
俺には亜人種だろうと、彼女なんて出来ないんだろ!
分かってたんだ……。
分かってたのに……。
ははっ、あぁぁはっはっ……。
ぬか喜びさせやがって……。
一枚一枚……。
足の爪引きちぎるからな! 神様!
魔王の娘なんかに手は出せねぇぇよ……。
『へこんでる所であれじゃが、彼女になってくれそうな事は、今回なにもなかったじゃろうが……。何故そこまで騒ぐ?』
ものすっ……ごく、好みなんです!
ちょっと期待しちゃったのぃぃぃぃぃ!
はぁ……。
ルネさんがまだ身構えてるから、消えるか……。
「待って下さい! 人間の方!」
「姫様!?」
何? なんかくれるの?
「あの、少しお話を……」
「姫様! なにを!」
「ルネ! ……私の見た限り、彼は私達よりも強いのではないですか? にも関わらず、血をくれただけでなく、立ち去ろうとしてくれています」
「しかし、人間ですよ?」
「少し気になる事もあるのです」
「しかし、こいつ……呼び止めただけで、駆け戻ってくるだけじゃなく、正座して愛想笑いまでしてますよ? 妖し過ぎませんか?」
「ま……まぁ、それは……」
『引かれておるぞ?』
誰が逃がすか! このチャンス!
バンパイアどんと来い!
『魔王はどうした?』
そんなもん、ドブにでも捨てちまえ!
「お願い……ルネ」
「姫様……。分かりました……」
おっ!
話がまとまったかな?
「姫様に何かすれば、ただでは済まさないぞ! 人間!」
ルネさんに凄まれる。
けど、怖くないんだって……。
俺つおいもん!
「ルネ!」
俺を睨みつけていたルネさんを、メアリーナちゃんが注意する。
それでルネさんは大人しくなった。
気持ちいい!
怒られると言えば俺、俺と言えば怒られるだったから……。
人が怒られるっていいねぇぇぇ。見てて楽しい。
『性格が歪みきっとるな……』
あははははっ。
『と言うよりも、壊れとるな……』
「あの……。まずはお名前を聞いてもいいですか?」
おっと、危うく頭の中が旅立つ所だった。
「俺は、レイ。レイ:シモンズです。メアリーナ姫様」
「メアリーで結構ですよ、レイさん」
「あっ……、じゃ俺もレイでいいですよ」
「はい……。では、レイ……。貴方は、魔剣スピリットオブデスの継承者ではないですか?」
はっ?
「先ほどの魔剣の召喚に、その右腕の紋章。それは我が帝国ではなく、魔剣の継承者の証ではないですか?」
なんで知ってんだ? こいつ!
まずい!
って……事も無いのか……。
別にばれても殺されないよな。
いいんだよね?
『まぁ、初代魔王は継承者じゃ。知っとっても不思議ではない。それに、ここでは法に触れもしとらん』
「最近村々が強力なモンスターに襲われ、謎の人物が退治していると聞いています。そして、同じ場所に人間の泥棒が出没したという報告も……」
「はぁ……、前者は俺です……」
『後者もじゃろうが!』
俺、嘘は言ってない。
ただ、ちょっと黙ってるだけだ。
『この詐欺師め!』
「そうですか……。国民を守って頂きありがとうございます。やはり、それは聖なる魔剣なのですね?」
「はぁ……」
「私に……私達に力を貸して下さい!」
なに?
「いや……あの……」
「今、我が国は父の死により内乱状態にあります……」
「姫様!」
「いいのです、ルネ。私は魔剣を……自分の祖先を信じます。何卒我らにお力添えを!」
おおぅ……。
美人に土下座したことは数限りないが、されたのは初めてじゃないか?
なんか興奮するな……。
『この変態め……』
「姫様……」
ルネさんが涙目になってる。
仕方ない。真面目に聞くか……。
「お受けする方向で考えますから、取り敢えず訳を聞かせてくれませんか?」
魔王バーゴの死は、今から半年前。
三百歳の若さで死んだそうだ。
今まで魔王の子供は男ばかりだったらしいが、今回は女であるメアリーだけ……。
その為、五将軍で一番実力がある人狼のゴルバは、自分が魔王になり、人間を滅ぼすと言い始めたらしい。
そこから帝国の内乱が始まったそうだ。
メアリーとリリス、ミネアが今まで通り人間とは戦うが、積極的には滅ぼさない穏健派。
ゴルバと俺のまだ会ったことのない五将軍の一人が、人間を滅ぼそうとする過激派。
今この二つの勢力が帝国内で争い続けているらしい。
ルネさんが喋るのを躊躇した理由が分かった。
人間には漏らしたくない情報だよな。
しかし、何だかまた別な面倒事に巻き込まれそうな予感……。
どうするかなぁ……。
「あのレイは、何故帝国に?」
なんて言うかな……。
嘘はつかないほうがいいよな……。
『まず、最初に嘘をつこうとする性格をどうにかせい』
はいはい。メアリーは、国の秘密まで喋ってくれたし……。
「俺はアルティアにいたんだけど、復活した魔人と戦おうと魔剣を使って……」
俺はアルティアを出てからの事を、超ざっくりと話した。
それを聞いたルネさんにも頭を下げられてしまい、依頼を受けた。
あはは……。
美人二人からの依頼……。
そりゃあ……。
断れませんよ!
だって二人とも美人なんだもん!
『どんな理由だ! この煩悩の塊め!』
ああ、うっさいジジィ。
今俺は幸せな気分なんだ!
邪魔すんな……。
そんな俺に彼女達が差し出したのは、〈常闇のリング〉と言う魔法具。
本来は他の種族に、バンパイアの能力を与える帝国の宝物らしいが……。
「髪は緑ですね……」
「この腕輪って……」
「一時的に完全なバンパイアになる……筈なんだけど……」
俺はリングをつけても、髪の色だけしか変化がない。
牙も生えなきゃ、爪も伸びない。
辺りは真っ暗なまんまだ。
『お前の体にはわしの魔力が流れておるじゃろうが……』
あっ! そういう事ね。
帝国の宝物より魔力強いって……。
ジジィ! すげぇじゃん!
『お前はあれじゃな……。わしを舐めとるよな?』
まぁ、パッと見はバンパイアだから帝国内で生きていけるかな。
『ほぅ、無視ときたか……』
「あの、レイ殿?」
「あっ、ごめん。魔剣のせいらしいんだよ。ただ、これでもバンパイアには見えるよね?」
「はい! では……」
「なにが出来るか分かんないけど……」
「ありがとうございます!」
メアリーちゃん! 笑顔可愛い!
可愛いすぎる!
俺……魔王になる!
メアリーちゃんはおれのもんだっ!
『勝手にせい……』
勝手にするさ!
とっ……。
お客さんか?
『また、ダークエルフの魔力もあるようじゃな……』
ああ……。
「……姫様……、本当によろしいのですか? 魔剣の継承者ですが、相手は人間ですよ?」
ルネさん、聞こえてる。
悪口は聞こえないように言ったほういいな。
てか、俺の周りはこんなのしかいないのかよ。
ん? 待てよ……。
アルティアとルナリスのお姫様って……。
『笑えるほど嫌われたのぉ……』
えっ?
もしかしてまたメアリーちゃんにもしこたま嫌われるとか?
『さあな、それよりも来るぞ!』
へいへい……。
でも、やる気しないな……。
なんか萎えた……。
『お前は……』
音もなく忍び寄ってくる魔力には、覚えがある。前のよりちょっと強いみたいだけど……。
またケルベロスか?
最近何匹も倒したから、あきたな……。
『どれだけやる気をなくしとんじゃ……』
あれ?
なんか違くね?
てかでかくね?
『なんじゃ! こいつは?』
知るか!
でっかい鱗の鎧つけた、ケルベロスが俺達の前に姿を見せる。
何メートルあるんだよ! こいつ!
俺が驚いて動きを止めてしまっている間に、ルネさんが動き出した。
内戦のおかげかもしれないけど、ルネさんは相当場馴れしているんだろう。
「はあ!」
うおおっ! ルネさんなんて魔力!
これなら……。
おっとっと……。
ルネさんが両手から放った魔法球はケルベロスにあたったが、消し飛んでしまう。
『あの鎧か……』
だろうな……。
不自然に魔法の核が消えた。
魔剣で斬れるか?
『分からんな……』
これは、マジでいくしかないよな。
『うむ……』
俺は足に溜めた力を解放して距離を消し、ケルベロスもどきの前足を斬りつけた。
「ふっ!」
その斬撃は、硬さと柔軟さを持っているらしい鱗に、力を吸収されてしまう。
くそ! 駄目か!
俺は距離を取る際に角度を変えて、ケルベロスもどきを斬りつけてみたが効果がない。
鱗に多少傷はついたが、いつもの切れ味がでない。
『魔力を無効化……。いや、魔力の力を軽減しているようじゃな』
このデカ物……速度も侮れない。
どうする?
まぁ、方法はあるか……。
「ふんっ!」
〈ホークスラッシュ〉
魔力が無くても、この技は衝撃波だ。
衝撃波は、ケルベロスを傷付ける事に成功したが……。
『鎧の硬さのせいで、効果が薄いのぉ……』
多少の切り傷じゃあ、殺せないよなぁぁ。
なら!
〈カノン〉
「ギャウン! グルル……」
よし!
鱗の鎧ごと押し込むような形で、ケルベロスに打撃のダメージを与えられた。
この衝撃砲なら、十分な効果がある!
衝撃でボコボコにぶん殴ってやる!
「ガアアッ!」
って! くそっ!
〈カノン〉乱れ打ち!
俺は衝撃砲で、ケルベロスもどきを滅多打ちにした。
しかし、相手の動きに変化がない。
「ガフッ……グルオォォ!」
だから! 何でだよ!?
衝撃砲でテメーをたこ殴りにしたのは、俺だってば!
『確実にメアリーを狙っとるな……』
こっちこいや!
つか、メアリーもルネさんも逃げろよ!
くそっ!
〈カノン〉は腕に負担がかかるから、あんまり連射出来ないのに!
『敵が向かって来てくれなければ、威力が最大値にならんな。あちらばかりに向かわれては……』
〈カノ……〉
なっ!
このケルベロスもどきは、今まで全速力では動いていなかったらしい。
今までの比ではないほどの速度で、メアリーにケルベロスもどきが向かっていく。
二人とも反応はしているが、速度的に射程外に逃げるのはもう無理だ。
ええいっ!
「ひっ……」
そおいっ!
****
へぇ……。
ケルベロスって首三つなのに、食道は一本になってるんだな。
『まあ、体は一つじゃからな』
そんで……。
熱いってか、痛いねぇ……。
いだだだだだだだ!
溶ける! 溶ける!
はいはい……。
メアリーにタックルをかました俺は、十メートルほどの化け物に丸呑みされました。
噛み砕かれないように、自分から喉の奥に飛び込んだら……。
今、胃酸に溶かされかけてます。
やっべ! これ死ぬ!
てか、熱っつ! いったい!
どうすんだよ! 俺!
『はぁ。胃には鎧がないぞ……』
それ! それだ!
いちちっ!
****
「そ……んな……」
「姫様! ここは私が食い止めます! お逃げください!」
「でも! ルネまで……」
「お願いで……す?」
身構えたメアリー達の前で、ケルベロスもどきは急に全身から力が抜け、頭から地面へと落ちていった。
「これは……」
二人の前にいた十メートルの化け物は、倒れ込むとそのまま塵に変わって行く。
勿論俺が腹の中から、化け物を乱切りにしたんだけど……。
「レイ殿!」
「レイ……よか……きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ここでお伝えたい事は二つ。
魔剣は溶けた皮膚は回復出来ても、服は無理です。
バンパイアは、夜でも目が普通に見えます。
猫みたいに、虹彩が動いているようです。
まあ、つまりは、二人の目の前には真っ裸で剣を持った俺……な、わけですよ。
次は露出狂として嫌われるって、オチですかぁ……。
はいはい。
わかりますよぉ。
お前が俺のこと大嫌いで、変態として祭り上げたいって事がなぁ!
殺す! 殺しきるぞ!
神様! この野郎!
もぉ~……。
やってらんね~……。




