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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第三章:帝国と陰謀編
30/106

三話

なあ……。


ジジィ……。


『なんじゃ……』


俺ってさ……。


『……うむ』


軽く不審者じゃね?


『……』


てか、変質者じゃね?


『うぅぅむ……』


俺……。


今、下着はいてないよ……。


『知っとる……』


上半身、裸で過ごして……。


既に一週間……。


ヤバくね?


『じゃから! 知っとるわい!』


なん……だよ!


このみすぼらしさっ!


『わしにどうしろと?』


普通、魔剣士ってさ!


カッコイイ鎧着たり、カッコイイ兜かぶってるもんじゃないの?


『お前以外の継承者は、皆そうじゃった……』


俺……。


魔剣持ってから……。


服とマスクとマントしか、装備したことないよ?


それも、変なデザインの!


一週間前からは、ついに半ズボンだけだよ?


『仕方ないじゃろうが! この森で迷ったのは、お前じゃろうが!』


魔族にすら会えないよ……。


もう、やだぁぁぁぁぁぁぁ!


お家かえりたぁぁぁぁいっ!


カッコイイ服と鎧がほしぃぃぃぃ!


彼女はもっとほしぃぃぃぃぃぃ!!


『じゃから! わしにどうしろと言うんじゃ! しかも最後の要求に至っては知らんわ!』


あ~……。


やってらんね~……。


今夏場だからいいけど……。


蚊やら蛭やらに刺されまくりだよ……。


元々は普通のズボンだったのに、リリスのアホが魔道砲乱射するから、いつの間にやら半ズボンだよ……。


上半身は元々包帯だけだったから、何も着てなかったし……。


はぁ~……。


『情けないのぉ……』


知ってる。


川に沿って歩けば帝国を抜け出すか、民家にはつけると思ったんだけどなぁ。


俺はどれだけ方向音痴なんだ?


それとも、これも運の無さのなせる業?


「あ……魚……」


川原を歩いていた俺は泳ぐ魚を見つけ、近くに落ちていた枝を川に投げ込む。


魚二匹ゲット!


てか、もう飽きた……。


最近の主食……川の魚だ。


もっとこう、パンとか主食らしい主食が食べたい……。


『流石にそれはないのぉ……』


分かってるよ……。


ジジィの知識で、キノコや山菜食えるだけマシってんだろ?


耳タコだよ。


『……何故、わしはこいつを見捨てなかった?』


知るか! 死ねよ、ジジィ!


『死ぬなら、お前が先じゃ! クソガキ!』


ああ……。もううざい……。


『こいつは……』


とっとと魚焼いて食べよ……。


****


慣れてしまった火おこしをして、焼いた魚を食べ終わった頃、川上から木製のタライが流れてきた。


もしかして民家近い?


おんや?


これタライじゃない……。


木製の平たい……揺りかごだ。


中に……。


うん! 見なかったことにしよう……。


『おまっ!』


う~そ~で~す~!


赤ん坊が、二人入ってるよ。


保護者はなにしてるんだ?


流石に見捨てるわけにはいかないよねぇ。


俺は、川に片足を入れ揺りかごを引き寄せた。


そして、二人の赤子を抱き上げる。


まぁ、なんて可愛い……豚と牛?


人豚族オークと人牛族の子供じゃ』


まあ、ここに普通の人間なんていないよな。


しっかし……。


本当に親はどこだ?


助けたお礼に服くれないかな?


『相手は魔族じゃぞ?』


それはそれ、これはこれだ!


子供はみんなの宝だよ?


俺……恩人だよ?


『見捨てようとしたくせに……』


知らねぇぇなぁぁ。


『腐っとる……』


「坊やぁぁぁぁぁ!」


親か?


豚が走ってくる……。


あ! 悪口じゃないぞ!


『わかっとる……』


体が人間の豚さんと、角が生えた女の人が走ってくるよ。


なんか、シュールな光景だなぁ。


『まぁ、人牛族の男性は頭部が完全な牛じゃが、女性は角以外人間と変わらんからのぉ』


とりあえず、服が欲しいと言ってみるか。


「な……なんで人間が?」


まぁ、驚きますよね。


「あの……」


「弟を離せ!」


うおぅ!


美人の方が牛みたいに角をこちらへ向けて、突っ込んでくる!


会話する気なしかよ!


まぁ、避けられるんですけどね。


「坊やを返せ! 人間!」


豚さんも、胸があるから女の人みたいだな……。


うん?


豚さんが鎌を、牛さんがナイフ構えやがった。


俺、赤ちゃん両手で抱えたままなんですが?


それも挟み撃ちですか。そうですか。


どうする?


てか、冷静になれば対処は凄く簡単なんだけど……。


何故か俺は、この手の選択肢を必ず間違える。


何の呪いじゃないかと思えるほど……。


ナイフを構えて突っ込んでくる牛さんと同じ速度で後退しながら、ナイフを蹴り飛ばした。


そして、背後に鎌を構えた豚さんの……。


鎌に目掛けて……。


サマーソルトキック!


ふぅぅぅぅ……。


二人の武器を、両手が塞がった状態で弾き飛ばしたぞ!


『お前……』


「人間だと!?」


もぉ……。


次は……お馬さん……。


『人馬族じゃ……』


馬の首が生えてる部分に、男性の上半身が生えてる。


なんだっけ? ミノタウロス?


『ケンタウロスじゃ』


「クーバ! 弟が!」


牛姉ちゃんが、馬に訴えかけてる……。


なんともいえない光景だ。


「任せろ!」


お馬さんは叫ぶと同時に、掌に魔力を集め始めた。


両手塞がってるし、魔法は勘弁して欲しいんだが……。


さて、どうしよう?


『じゃから……』


ん?


風の魔法球か……。


見える! これなら!


俺は魔剣から右足へ流れ込む魔力をイメージし、魔法球の核を蹴り上げた。


痛った!


でも、消し飛んだ!


このまま……。


馬の背に飛び乗り、後頭部に蹴りを入れた。


加減はしたけど、お馬さんは倒れ込んだ。


もう、新手は出て来ないな?


よし! ミッション完了!


『こんな事せんでも、赤子を地面に置いて距離をとればいいだけじゃろうが……』


あっ……。


『赤子の母親と姉が、泣きそうな顔で見ておるぞ……』


早く言ってよ、クソジジィ。


「お……弟を返してよ~……。なにが望みなのよ~……」


牛姉ちゃんを、完全に泣かせてしまった。


これが世にいう罪悪感?


『馬鹿者……』


ええい! 仕方ない!


「何か服を下さい!」


俺のその言葉に、豚さんと牛さんはなんだか凡然としてる。


もぅ! 言ってるこっちだって恥ずかしいんだから!


仕方なく、その場に赤ちゃんを置いて、馬の着ていた服を剥ぎ取ってその場を立ち去った。


『この追い剥ぎが……』


しかぁぁぁぁしっ!


まだまだこれからだ!


気配を消して、豚さん達の後をつければ、村に行き着くはず!


そこで本格的な……。


『お前は完璧に犯罪者じゃ!』


けっ……好きに言え!


俺は服の為なら、何でもやる男さ。


『また、やっすい代償じゃなぁ……』


だって!


俺は服が欲しいの!


襲ったりはしないよ……。


ちょっと拝借……。


『泥棒も犯罪者には、変わりない……』


もう! うっさい!


倒れていた人馬族の兄ちゃんを起こして、三人は村に戻り始める。


俺はそれを草陰から確認し、気配を消して付いて行った。


****


なんかさぁぁ……。


『なんじゃ?』


のどかでいい村だね。


『魔族とは言っとるが、人間より心の綺麗な者も多いからのぉ』


赤ちゃんの無事を、みんなで喜んでるよ。


『お前は今回、完全な悪役じゃからな……』


う……。


話を聞かないあいつらが……。


はぁぁぁ……。


上着は手に入れたし、大人しく帰るか……。


って! なんだ?


おい! ジジィ!


『なんじゃ?』


あの下半身がモコモコで、上半身がムキムキのバーバリアンはなんだ?


『あれは人羊族の……戦士じゃろうな』


下半身羊なのに、恐ろしく上半身ムキムキだぞ……。


おっきな斧持ってるし……。


『人羊族のほうが、人馬族よりも小柄じゃが、戦闘力は上じゃからな……』


ケンタウロスの羊バージョンか。


なんか、キモイ……。


『種族そのものを否定するな』


まぁ、いいや。


とりあえず、他を当たろう。


『お前にしては、いい判断じゃ……』


してはとかつけるな!


死ね……。


『お前が死ね。わしは間違ったことはいっとらん!』


****


俺は仕方なく川辺に戻り、馬から奪った上着を洗った。


乾いたそれを着て、今日も木の上で野宿をする。


木の上なら、魔族に見つかりにくいし獣にも襲われない。


だが、俺がうとうとし始めた時に、また厄介な事が発生した。


ん!?


ジジィ!


『うむ! 巨大な魔力じゃな』


おいおい……この間のドラゴン並みじゃないのか? この大きさ。


それに……。


『もう一人おるな』


一応、様子を見てくるか。


俺が魔力の元にたどり着くと…………デッカイおっさんがいた。


なに? あれ?


『オーガ……巨人じゃ』


なにそれ?


それも架空の生き物?


『馬鹿もん! 確かにこの大陸では滅んだようじゃが、れっきとした古代種族じゃ!』


マジで? あんなでっかいのに?


つか、滅んだなら……あのフードをかぶった奴が召喚したのか?


『多分な……。いきなり、オーガが現れるわけがない』


なんか、アイツの気配……。


どこかで……。


『ダークエルフのようじゃ』


あっ! そうか!


ミネアとか言うあいつに気配がそっくりだ!


なに考えてるんだ?


下半身毛むくじゃらの、でかい髭のおっさんなんか召喚しやがって……。


オーガが向かってる方は……。


さっきの村か……。


もしかして、襲わせるつもり?


あっ! ダークエルフが逃げる!


どうする?


あのダークエルフをつけるか?


でも……。


『オーガはAランク……。あの村はひとたまりもあるまいなぁ』


牛姉ちゃん……可愛かったなぁ。


でも、魔族なんだよなぁ……。


あの赤ちゃん、笑ってたんだよなぁ。


『もう、オーガが村に着いてしまうぞ?』


ええい!


くそっ !


自分で自分が嫌になる!


『それが、お前じゃ……』


行くぞ! ジジィ!


『うむ』


俺は、村に向かって走り出した。


****


村に近付くにつれ、大きな破壊音が俺の耳に届き始める。


うわぁぁぁぁ。


ドラゴンといい、オーガといい……。


『うむ……。体が大きく、力が強い……。それだけで、脅威になるという事じゃ』


デッカイおっさんは、森の木を引っこ抜いて村に投げ込んでいる。


家が大破し、人々が逃げまどっていた。


あのバーバリアンみたいな人羊族や、人馬族も応戦しているが、おっさんに難なく吹っ飛ばされている。


あっ!


牛姉ちゃん! 弟を抱えて座りこんでる!


逃げろよ! ホルスタイン女!


足? 血? 怪我したのかよ!


うおっ!


デッカイおっさんの投げた木が、人牛族の女性へ一直線に向かっていた。


牛ぃぃぃぃ!


俺は慌てて魔剣を呼び出し、いつもの斬撃波を出そうとした。


だが、焦って横向きに握ってしまい、刃がない側の剣身でそのまま振り抜いてしまった。


しくじっ……てないな……。


空気を思いきりぶっ叩いた力は、砲弾のような衝撃波を生んだ。


その衝撃砲は、人牛族の姉弟に向かってきた木を、上手く粉砕してくれた。


師匠は刀を使っていたから、この技は教わらなかった。


多分、流派にない技なのかもしれない。


だが! これは……。


『腕に負担がかかるが、使えるのぉ!』


ああ!


今! 命名!


〈カノン〉で!


てっ! おっさん! なにする気だ!


俺が魔剣を見て口角を上げていると、おっさんが咆哮し始めた。


どうも、俺に木を粉砕されたのが気に入らなかったらしい。


叫び終えたデッカイおっさんは、力技に出る。


木を五本一気に引っこ抜き、村に向かって投げやがった。


ええい!


〈ホークスラッシュ〉よりも、粉砕出来る〈カノン〉が村の被害が少ないか!


〈カノン〉乱れ打ち!


まだコントロールに難がある衝撃砲は、半分ほど逸れてしまったが、五本の木は全て粉砕できた。


つっても! くそっ……。


腕の負担がでかい!


『細い刃を振り抜くのとでは、負荷が何倍にもなるからのぉ。それ以上は、無理をするな』


なら! 接近戦しかないか!


****


俺は牛姉ちゃんとオーガの間に、わって入った。


「人……間……?」


さぁぁて……どうする?


セオリー通り……。


末端から攻撃だ!


俺は速度を上げ、伸ばされてきた腕を掻い潜り、オーガの脛を斬りつけた。


なっ!


『そうじゃった! オーガにはこの特性があるんじゃった!』


魔剣で斬ったにも関わらず、傷口は小さかった。


それだけでなく傷口が、見る間に消えていく……。


なんて回復力だ! くっそ!


ジジィ! こいつの弱点は?


『頭しかない……』


このおっさん、何メートルあると思ってるんだよ!


ジジィ! 魔力の残量は?


『ドラゴンから奪った魔力……。まだ十分じゃ!』


やっぱりあれしかないよな……。


魔力が残ってるなら、多少使っても切れ味は落ちないはずだ。


ジジィ! 魔力量の配分は任せたからな!


防御の時は、最小限でいいから!


『承知した!』


****


俺は村人に被害が出ないように、オーガの攻撃を避けつつ人がいない場所へ誘導した。


一言で言ったけど、結構辛い作業だ。


デッカイおっさんは、両腕や木をガンガン振り回してきやがる。


速度はないが、なんせ攻撃範囲が広い!


必死で避けて斬って、斬っては避けて……。


フル回転でなんとかって、レベルですよ。


おっさん! 凶暴すぎるぞ!


だが、村はずれに誘導完了!


さあ、狙いは俺を殴ろうと屈んだ瞬間だ!


開けた草原で俺が足を止めた途端に、望んでいた体勢を敵がとってくれた。


敵は人型だが、知能は高くないようだ。


よし! 今しかない!


『魔力を開放するぞ!』


俺はオーガが屈んだ瞬間、足に溜めていた力で相手の頭上に跳び上がる。


〈トライデント〉


こいつを倒すには、魔力で最大限の切れ味にした魔剣で、剣の威力を何倍にも引き上げる奥義をぶつけるしかない!


うっ……そ!


オーガが俺の動きに反応し、俺の回転を始めようとした体を白刃取りするように、両手で挟み込もうとしてきた。


まずい!


掴まれたら、そのまま潰されちまう!


空気が鈍い音を発して、振動する。


俺は反射的に、右足で空を蹴っていた。


空気の壁を蹴った俺は、魔剣を左肩に担ぎ、空中で急激に落下速度を速めた。


〈メテオストライク〉


超速の打ち下ろしが、オーガの頭を切り裂いた。


空中の体勢を崩しつつも、俺は片手と背中で着地し、再度の攻撃に備えて転がる事で起き上がって身構える。


だが、敵は俺への追撃をする事なく、絶命していた。


ふぅぅぅぅ、怖かったぁぁ。


****


あれ?


おかしな事が二つ。


まず、空気を蹴った俺の足が折れてない。


まあ、師匠はノーダメージでやってたから……。


流石に俺も、コツを掴めてきたか?


それはいいとして……。


オーガが、塵になり消えていく。


モンスターじゃないんだよね?


なんで?


『確かそのはずなんじゃが……わしにも分からん……。わしの知る巨人族は、只の種族じゃたが……』


実は、モンスターの巨人族もいたって事か?


『分からん。分からんが……何か裏がありそうじゃな……』


う~ん……。


また面倒な事に巻き込まれそうな予感。


ても、気にしてても回避できないのが、俺なんだけどねぇ。


****


さて……。


朝日が眩しいな。


牛姉ちゃんは……。


よし! 無事だ!


助けたし、飯とか食わせてくれないかなぁ。


「大丈夫か?」


「人間……なんで?」


なんで? じゃなく、まずお礼を言いなさいよ!


まったく、礼儀知らずな奴め……。


「に……人間だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 人間が入り込んだぞ!」


おや?


あれは、昼間蹴り飛ばしたお馬さん……。


なに大声で叫んでんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!


この馬鹿馬!


う……うわぁぁぁぁぁぁ!


バーバリアン達が、武器もって来たぁぁぁぁぁぁぁ!


嫌ぁぁぁぁぁぁぁ!


下半身草食なのに、上半身肉食みたいなのがいっぱい追いかけてくるぁぁぁぁぁぁぁ!


ガチでこえぇぇぇぇぇ!


俺! 恩人だろうがぁぁぁぁぁぁ!


四本足で全力疾走してくるぞぉぉぉぉぉ!


俺足二本しかないんだよ!


むちゃくちゃ不利じゃん!


****


そんなこんなで、俺は……。


ああ、逃げたさ……。


逃げたともさ……。


全力疾走で、二時間も……。


なんだよこの結果……。


恩人を武器もって追い掛け回すって……。


お前らアホですかぁぁぁぁぁぁぁ!!


助けるんじゃなかった。


はぁ~あ……。


やってらんね~……。

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