二話
わっふ~い!
おっほ~い!
うほほほほ~い!
『……楽しいのか?』
そんな……。
訳……。
無いだろうがぁぁぁぁぁ!!
殺されそうなんだぞ!
うおいっ!
『それにしては奇声が、楽しそうじゃな……』
変な声も出るって!
うおっほ!
リリスの連射、パネェッ!!
つか! 動きが速過ぎる!
ちなみに俺は、有翼族の村近くで魔道砲を連射されてます。
はい……。
かる~く……。
うおっと!
殺されかけてます……。
なんだ! この状況!
俺!
くそっと!
命の恩人じゃないのかよ!
因みに魔族の中でバンパイア族、人狼族、有翼族が三強の種族です。
その中で最強を担う一角が、全力で俺を殺そうとしてきてるわけですよ。
ったく……。
やってらんね~……。
ワーウルフ族は、力と速度が。
バンパイア族は、魔力と力が。
有翼族は、魔力と速度が。
それぞれ優れていて、五将軍のうちの三人がそれだ。
残りはダークエルフとワータイガーだったかな?
うげっ!
それ所じゃなかった!
身長とおんなじくらいある魔道砲を連発してる、あの二重人格馬鹿をどうにかしないと!
俺が死んでまう!
『魔力不足で、あの砲撃を消し飛ばすのも無理じゃな……』
くっそ!
それにこれだけ連射されてたら、元々消すなんて無理だ!
「くっ! 避けるな人間!」
アホですかぁぁぁぁ! 貴様!
避けるわ!
当たればどう見ても即死の威力じゃねぇぇか!
殺す気か!
『殺す気じゃろうが……』
ですよね~……。
うおっと!
「くっ……。これだけ私の攻撃を避け続けたのは、人間ではお前が始めてだ。貴様の速度と戦闘力は認めてやろう」
「それはどうも……」
お互いに間合いを計りながら向かい合ったリリスが、褒めてくれたので取り敢えず返事をする。
「だから! さっさと死ね!」
リリスの砲撃を避けながらも、俺は返事をしたさ……。
「断るわ! 馬鹿!」
だからの意味が分からん!
てか、だからの意味が分かってないんだ! この馬鹿女!
そんな理由で死ねるか!
「だぁぁれぇぇがぁぁ……。馬鹿だ!」
うおおおおおおお!
連射を速めるな!
こっちは病み上がりなんだよ!
本当に死ぬから!
****
俺はそれからも避け続けていた。
命、大事!
『ふ~……。殺そうとしてきた相手を、殺さずに相手するなど……』
だって!
うおう!
リリム! 恩人!
さすがにぃぃ!
殺す! 出来ない!
『必死なのは分かるが、片言で叫ばれては分かり難くてしょうがないんじゃが……』
そ!
れ! こそ!
無茶言うな!
返事ぃぃぃぃ!
するだけましだろうが!
村の隣にあった丘が更地になる頃、さすがにスタミナが切れたのかリリスの息が上がり始めた。
避け続けて三時間……。
すでに森が二~三つなくなっている。
化け物です……。
この子化け物ですぅぅぅぅぅ!
誰か! たぁぁすけてぇぇぇぇぇぇぇ!!
「はぁ……はぁはぁ……。人間! 貴様……はぁ……。本当に何者だ?」
「唯の旅人です……はぁはぁはぁ……」
「ふざけるな! はぁはぁはぁ……。私の速度について来るだけでなく、攻撃をすべて躱す人間などいてたまるか!」
「だから! はぁ……はぁはぁ……! 本当に人間です! 後、見逃そうよ! はぁはぁ……それか、諦めてよ……」
「私に……はぁはぁ……その選択肢は……はぁはぁはぁ……無い!」
うわぁぁぁぁん!
また撃ってくる!
この子化け物で、それも馬鹿者です~!
助けてぇぇぇぇぇ!
『(分かっておらんのか? 相手の攻撃を村に被害なく避け続けるなど、実力差が相当なければ無理じゃ……。こいつのレベルはすでに、Aランクまで上がっておるんじゃないか?)』
連射の速度落ちたけど、まだやめてくれない!
もう諦めようよ!
静かにお眠りよ~!
もぉ~!
『(この馬鹿は気付きもしとらんな……。まぁ、死ぬことはないじゃろう……)』
どうにかしてよ! ジジィ!
『まぁ、久しぶりのトレーニングだと思え……』
こんな命がけのトレーニング……嫌じゃ! ボケ!
「はぁはぁはぁ……。しぶと過ぎる……」
やっと……。
連射が止まった……。
****
うおっ!
油断した俺の足元に、三本の矢が刺さった。
「くくくくっ……。苦戦してるんじゃない? リリス」
「ミネア……」
弓を持った、やたら露出度の高い服を着た女が、リリスの元へ歩いてくる。
真っ白い髪で、褐色の肌そしてとんがった耳。
ダークエルフだな。
「同じ五将軍として、人間一人にこんなに手こずるなんて……。さすがに見過ごせいないわね」
はいぃぃ!?
五将軍もう一人出てきちゃったよ!
なに無理にでも殺そうとしてんだよ!
神様よ~!
今日はがんばったんだから、もういいじゃん!
ここは逃がそうよ!
「はぁはぁはぁ……。ミネア……余計な真似は……」
「もう……。完全にスタミナ切れしてるじゃないのぉ。いいからここは私に任せなさいって! あんなの私の弓ですぐに仕留めてあげるわぁ」
あんなのとはなんだ! このエロねぇちゃん!
てか、逃がせよ!
次から次にボス戦とか、ありえないだろうが!
こっちは一人だし、片腕ないし……。
何よりも……。
もぉ! 疲れたの!
『なんじゃな……。怒り方が馬鹿そのものじゃな……』
だって疲れたもん!
ん?
ダークエルフが肩に触れた瞬間から、リリスが動かなくなった。
動けないのか?
あいつ、なんかしたのか?
おっと……。
こっちには一声もなしに、弓を連射してきやがった。
矢自体が、魔法出来てるのか。
『多分、雷の魔法じゃな……』
掠るだけで、動けなくなるって事か……。
リリスにもやりやがったのか……。
しかし……。
あの女の顔! むかつく!
何で俺をいたぶるのを、楽しんでる顔してるんだ!
頭おかしいのか!
てか! なんかこいつ嫌い!
なんか腹立つ!
何でだ?
『さあ、わしに聞かれてもなぁ……』
う~ん……。
ほいっと……。
俺の足があった場所に、雷の魔法で出来た矢が突き刺さる。
これなら、避けるの問題ないな。
『あのエルフが、リリスより弱いのに偉そうじゃから……。ではないか?』
あっ! それはあるな。
でも、何か……。
ひょいっと……。
「ちぃ! さっさとくたばれ! このクズが!」
はははっ……。
俺のあだ名をよく知ってたねぇ。
エッチな悪戯してから殺すぞ! このアマ!
あぁぁ! 腹立つ!
マジでちょっと斬りたくなってきた!
『まぁ、ここまで我慢したんじゃ。もう少し我慢せい……』
でもよ~……。
んんっ! なんだ! 突然!
『この魔力は! バカな!』
何だ?
ジジィこの魔力の原因分かるのか?
俺が片手間にミネアの矢を避けている間にも、巨大な魔力が近づいてくる。
それは轟音を立てながら、俺達の上空を通り過ぎた。
マジですか!
てか! ジジィ!
『分かっておる!』
ドラゴンって架空の生物じゃないのか?
何で俺の目の前、通り過ぎるんだよ!
『かつて、邪悪な神が創造したことがある……。大昔の話じゃがな……』
あっ!
俺は、ジジィの記憶を見た時の事を思い出した。
確かに邪神の化身として、邪竜が生まれたのを追憶で俺も見た!
でも、今なんで突然?
『分からん! じゃが、あの方向は!』
分かってる! 有翼族の村のほうだ!
爺さんが!
俺が走り出す前に、フラフラとしているがリリスが村に向かい飛び始めていた。
どうする?
んっ?
「よそ見してんじゃないよ!」
その間にもミネアは、俺に矢を放ってくる。
ああ……。分かった……。
「なっ! きゃ!」
俺はミネアとの間合いを一瞬で詰めると、弓を切り捨てた。
こいつにむかついていた理由も、その時に理解できた。
偉そうな事言ってるが、カーラよりも全然弱いんだ、こいつ……。
俺は、カーラの矢はまったく避けられなかったが、お前のは余裕なんだよ。
なんかそれなのに、偉そうでむかつく!
『(お前のレベルがあがっとるんじゃ……。カーラよりもミネアのほうが弓でも魔力でも上じゃ……。まったく……)』
俺は座り込むミネアをそのままに、有翼族の村へ走り出した。
「きゃぁぁぁ!!」
村が火の海に……。
リリスが魔道砲で、竜を牽制しているが……。
被害はもう出てしまっているようだ。
あ、爺さんは無事なようだ。
ふぅぅ……。
あの竜、全長五メートルってところか?
「しまっ……きゃああああ!」
リリスが竜の爪で魔道砲を破壊され、尻尾で弾き飛ばされていく。
何とか立ち上がろうとしているが、羽も折れているようだ。
ジジィ!
『うむ! Aランク中位! 気を抜けばこちらが死ぬ!』
行くぞ!
俺は魔剣を天に掲げて、秘言を唱える。
「この世に漂いし、迷える戦士の魂よ! 我の元に集い我が刃となれ!」
形を変えた魔剣に、周囲から魔力の球体が集まってくる。
『行くぞ!』
「力を示せ! スピリットオブデス(死神の魂)!」
真の名を叫ぶと同時に、魔剣は光の刃を灯す。
「はあ!」
おいおい……。
俺は全力で切りかかった。
だが、魔道兵機切り裂いたこの魔剣で、幾つかの鱗が剥がれただけだった。
くっそ! なんだよ! この防御力!
俺は、尻尾を避けるために跳び上がる。
そこへ、竜の火炎が吹き付けられた……んだけど……。
あれ? ここか?
俺は火炎の中心へ、剣の先を差し込んだ。
力なんてまったくこめてないが、その瞬間竜の火炎は霧散した。
なんだ?
自分でやっておいてなんだけど……。
どう言うことだ? これ?
『魔法やそれに連なる技には、その中心となる核がある。今、竜の火炎のコアを的確にお前はついたのじゃ。この方法なら魔力消費は最小限ですむ』
おおぅ。
何故俺はそんなことできるようになったの?
自分で自分が分からない……。
うわっ!
などと考えていると、竜の爪が襲ってくる。
一撃で大岩を破壊しやがった。
その後も幾度か斬りかかったが、竜にはあまりダメージが与えられない。
火炎は消し飛ばせるが……。
『ドラゴンが強いのは、その体の大きさと硬さから繰り出される凶暴な力の為じゃ……。光の剣はもう持たんぞ!』
お互いに致命的なダメージは与えられないし、こっちにはタイムリミットが……。
どうする?
唯一鱗がないのは、腹の部分だけか……。
やるか……孤塁抜き!
『コルク抜き?』
違う!
相手が防御していたり攻撃している剣の先とかを、わざと狙う師匠から教わった技だ。
防御してる部分はダメージを受けないと、相手が思い込んでいる所を突くんだよ。
盾を持ってる場所を剣で貫けば、そこは丸腰って技だ!
『なるほど……。狙うは……』
火炎だ!
今まさに俺に吹き掛けられる火炎に向かい、俺は突進する。
そして、炎を霧散させ……。
目の前となった敵の腹部に、背負った剣を全力で打ち下ろす。
〈ドラゴンバスター〉
捨て身の切り込み技だ。
適当に名付けた時は、本物のドラゴンに使うことになるとは、思いもしなかったけどね。
よし!
『うむ……』
ドラゴンが塵になるのと同時に、カシャンと音を立てて魔剣が元の姿に戻る。
何とかなった……。
つか、もう疲れた……。
もう限界……。
『まぁ、よくやった……』
****
おおう?
いつの間にやら村の火を消した村人と、爺さんに肩で抱えられたリリスが、俺の周りを取り囲んでます。
何だろう?
この感じ……。
デジャヴ?
いやいや……。
二回も村救ったじゃん!
逃がそうよ! ここは!
鋭い目つきのリリスが、ゆっくりと口を開く……。
「こんな……人間に……」
はい!
こいつ何が何でも人間嫌い!
逃がす気ないよ!
しかぁぁぁし!
ドラゴンの魔力吸収した俺を! 舐めるなよ!
すでに煙を噴いてる左腕は、二の腕部分まで生えてきている。
火傷もほぼ完治済み!
はい……。
にげまぁぁぁぁすっ!
俺は、村人の間を高速ですり抜け森に駆け込んだ……。
「待て! 人間!」
リリスの叫び声が聞こえた……。
魔族ってのは、血も涙もないんだな……。
恩って言葉も知らないのか?
このアホどもが!
****
森の中を突っ走りながら、俺は悩んでいた。
う~ん……。
『逃げたはいいが、行くところがないし、ここがどこかもさっぱりじゃな……』
だよねぇぇぇ。
『流石、不幸の塊といったところか……』
ああ、そうなっちゃいます?
はははっ……。
あ~あ……。
神様よぉぉぉ!
俺! お前! 嫌い!
死ね!
たく……。
やってらんね~……。




