十三話
ちょっとした事情と捻じれた性格のせいで、自らの命を省みない少ね……青年。
一時の感情に身を任せてしまいがちな彼は、再び己の意思で命の瀬戸際へと足を踏み入れてしまいました。
彼を必死に追いかけたにもかかわらず、カーラはまた置いて行かれてしまったわけです。
彼女の事を、少しだけ語っておきましょう。幕間劇として……。
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「オメガ……。機能停止……」
オメガのモニターが消えると同時にイリアの言った言葉で、カーラは地上へ向かって走り始めました。
魔剣とオメガの魔力衝突の影響で、地上の空を覆っていた粉塵は、一時的に薄くなっていました。
カーラはその薄曇りに見える空を、涙で滲んだ目で見上げます。
その空には、流星のようなオメガの破片が、燃えながら飛び散っていました。
エレノアとアレンの遺体を抱いたアニスやイリア達も、それから少しだけ遅れて地上に出て来ます。
カーラは空を見つめ続けながら、唇を噛み、拳を強く握っていました。
すでに唇の端からは血が滲み出してきていますが、誰も止める事は出来ません。
皆、彼女の気持ちを知っているからでしょう。
空を見上げる者達の近くに、一つの火の玉が落ちてきました。
オメガと、コアに突き刺さった魔剣。
それが、轟音とともにクレーターを作った火の玉の正体です。
ミスリルで出来ているそれらは、摩擦熱に耐えきったのでしょう。
粉塵がはれ、落ちて来た物が何だったかを知った瞬間、カーラは涙を我慢できなくなってしまいました。
転びながらも必死で、まだ熱が引いていないクレーターの中心に駆けよって行きます。
そして、魔剣の前でへたり込んでしまいました。
「馬鹿! レイの馬鹿! 帰ってくるんじゃなかったの? 嘘付きぃぃぃぃ! 何であんたは何時も……」
「カーラさん……」
カーラに続いてクレーター内へと入ったアニスも、涙を溜めて立ち尽くしています。
「人の命は何時も必死で守るのに、何で自分の命は大事にしてくれないのよ! 一体何人の救えば、あんたは気が済むのよ! 私はまだ……」
ひとしきり叫び終えたカーラは、泣き続けました。
カーラがそうなるなどとは、彼は考えもしていないでしょう。
こんな事なら、気持ちを伝えておきたかった。
レイは自分の命を、自分で言うほど大事にはしない事は知っていたのに、止められなかった。
この二つの後悔が、彼女の頭の中をぐるぐると駆け巡っているようです。
地面に突っ伏したままのカーラは、気が付いていないようです。
全身を真っ赤に燃やし、高速で地上に落ちていながらも、彼はまだ生きています。
そして、魔剣が独りでに浮かび上がり、北の空に超高速で飛び去ったことにも……。
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最後は笑って……。
もう、痛みも熱さも何も感じない……。
感じない?
あれ?
熱い?
あれ? あれ?
熱い! 痛い!
いだだだだ!
熱い! 熱い! 熱い!
熱い! 痛い! 熱い! 痛い! 熱い!
きゃああああああぁぁぁぁぁぁ!!
死ぬ! 死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!
なんで!? なんで!? なんで!?
熱いぃぃぃぃぃぃ!
痛いぃぃぃぃぃぃ!
笑えるか! こんなもん! 苦し過ぎるわ!
最低の最後じゃねぇかっ!
『自業自得じゃ……』
はい!?
俺の右腕に、魔剣のジジィが刺さってる……。
なん……。
熱い! 痛い! 熱い! 痛い! 熱い! 痛い! 熱い! 痛い! 熱い! 痛い! 熱い! 痛い!
『五月蝿いわ!』
我慢できるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
死ぬぅぅぅぅぅぅ!
『五月蝿い! さっきまで死ぬ気だったじゃろうが! 可能な限りフィールドを張っておるわ!』
これで!?
熱いんですけど!
痛いんですけど!
死にそうなんですけどぉぉぉぉぉぉぉぉ!
『可能な限りはフィールドを張っとるし、回復もさせとる! 少し黙っとれ!』
無ぅぅぅぅぅぅぅぅ理ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!
今俺は、何度で炙られてんだよぉぉぉ!
『まぁ、摂氏八十度くらいじゃな……』
いやいやいや! アホかお前!
死んでまうわ!
『誰がアホじゃ! 生きとるじゃろうが!』
あちちちちちち!
いだだだだだた!
人間はこんな温度に耐えられませんってば!
つーか! その温度だと、生焼けの気持ち悪い死体になるわ!
ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ!!
『ええい! これでも精一杯やっとる!』
痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い!
もうすぐ花火に炙られた虫みたいになっちゃうぅぅぅぅぅぅ!
こぉぉぉぉぉぉろぉぉぉぉぉぉぉさぁぁぁぁぁぁぁぁぁれぇぇぇぇぇぇぇるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!
『五月蝿いわ! 見捨てるぞ……』
ぼそっとなんて事を言うんだ!
『もう少しじゃから我慢せい! これ以上騒ぐなら本当に……』
ちょ! 待てよ!
くっそ……。
が……ま……ん……。
ん! 無理ぃぃぃぃぃぃ!!
痛ぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!
熱いのぉぉぉぉぉぉぉ! マジでぇぇぇぇぇぇ!
『ええい! 騒ぐな! もう温度は下がりはじめとる!』
俺の視界が、赤から青に変わっていく。
でもまだ熱いぃぃぃぃぃ!
水ぅぅぅぅぅぅぅ!!
『回復に切り替える! もう少しじゃ!』
なにが!?
俺の命がですかぁぁぁぁぁぁぁ?
火傷ぉぉぉぉぉぉぉ!
死んでしまうっ!
いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
体が動かなぁぁぁい!!
熱いぃぃぃぃぃ!
『よし! 命は繋いだぞ!』
あああああ!
水ぅぅぅぅぅ!
俺の視界に、森の中の湖が見えた!
体ぁぁぁぁぁぁ!
冷やすぅぅぅぅぅぅ!
俺は首の力だけで、無理やり落下の軌道を湖に変えた。
『なっ! 馬鹿者!』
ええ、ええ……。
はいはい、分かってますとも……。
この時の俺は馬鹿でした!
ただ、言い訳させて……。
必死だったのよ。
こんな状況で冷静とか無理だから!
「がっ! ……どっ! ……ぐげっ! ……ごほっ! ……ぶべらっ!」
凄く鋭角に高速で……、水面に物がぶつかると……。
跳ねます。
河原で投げる平べったい石を、思い浮かべて下さい。
まさか自分が、その石と同じ目にあうなんて……。
てか、水がコンクリートなみに硬かった。
体が粉々にならなかっただけ、ましと言えばましなんだけどね。
「あじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃ! がっ! ……おごっ!」
俺の悲鳴だけでは分からないと思うので、説明すると……。
湖の水面を飛び跳ねきってしまった俺は、地面に背中から接触しました。
そして、その背中を独楽の軸としたブレイクダンスをしながらの高速移動を続け、岩にぶつかって宙に浮き……、木に激突して止まった訳です。
全身大火傷(背中が特に)、打撲、打ち身、骨折……。
死んだほうがましじゃないのか? これ……。
『なんじゃ? 見捨てたほうがよかったか?』
ジジィ。本当は賢者じゃないだろ……。
まぁ、いいや。
これ、どれぐらいで完全回復出来るの?
『その……あのな。魔力は使い切った……』
え……?
もう、一回。
『魔力は使い切った……』
え……?
ワンモアプリーズ。
『何回聞いても、同じじゃ! 魔力は残っとらん!』
じゃあ、俺の体は?
全く動けないよ? 俺……。
『まあ……運次第かの……』
俺! 不幸の塊なんだけどぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
何!?
このまま野垂れ死に!?
『まぁ……、なるようになるじゃろう……』
ジジィ! 今諦めたよな!
言い訳すら諦めたよな!
あ~あ……。
ついてねぇぇなぁぁぁ。
評議長もどきをアニスちゃんの目の前で壊したから、超極悪犯罪者って事になってるだろうし……。
ニルフォにも、追加で指名手配されるよなぁ。
流石に二つの国から指名手配されてたら、自由の国ニルフォでも生活無理だよねぇ。
俺……行くとこない。
『廃人同然じゃしな……』
うん!
もう……このまま、土に還ろう……。
『そ……そうじゃな……。お前は生きてても、ろくな事ないしな……』
また死ねっつったな! このクソジジィ!
はあぁぁぁぁ。
やってらんね~……。




