十二話
赤銅色をしていた地下を支える柱の三つが、ガラスの様に透き通り、中が見えるようになった。
その中には、魔道兵機が入った銀色のポッドが入っている。
俺達が見ている前で、ポッドの下部が輝きだした。
地下に、魔法の力によってポッドを射出する爆音が轟く。
アニスちゃんが遺跡に入ってきたと同時に、三体の魔道兵機が地上へ打ち出されてしまった。
ジジィの予想通り、同じような柱の二本は動かない。
多分、中にはもう魔道兵機は入っていないのだろう。
「遂にやったぞぉぉぉぉぉ!」
俺は、叫んでいるトバイアの上半身を、頭から両断する。
トバイアだったものはすでに皮ぐらいしか残っておらず、体内は全て複雑な機械だけになっていた。
「お父様ぁぁぁ!」
アニスちゃんが全力で叫んでいる。
それに涙目になっているな……。
これはもう君の父さんじゃないよ……。
「あの犯罪者を掴えろ!」
アニスちゃんの命令で、大勢の兵士が俺に武器を向けって構える。
カーラだけが、なんとも言えない顔で俺を見ていた。
「さあ! 約束通りカーラさんにも手を貸していただきます! あの悪魔を掴まえて死刑にするんです!」
俺の足元では魔道兵機そのものになったトバイアが、まだ動いている。
「くくく。こんな人形いくら壊しても同じだ。私は復活した」
両断されても喋れるのか。不快だ。
「これで世界は私の前に……ぎゅぃ!」
トバイアの頭を、俺は踏みつぶした。流石にそれで、壊れたらしい。
俺の油断が、オーナーを殺した……。
『落ち着け! 魔道兵機が三体もいては、勝ち目はないぞ!』
落ち着いてるよ。
それにそんな事、関係ない。
俺は……ただ、俺自身のけじめをつけに行くだけだ。
俺はオーナーを抱き上げ、兵士達の待ち構えるその中心へ歩き始める。
全身からは、抑えきれない真っ黒なオーラが立ち上っていた。
俺の心を埋め尽くす殺意が、オーラとなって放たれている。
俺はただ歩いて、近づいていく。
多分顔も普通もしくは、無表情だったはずだ。
しかし、武器を構える兵士たちはブルブルと震え、冷や汗で額に滝が出来ていた。
俺はまるでモーゼであるかのように、自分を避けていく大勢の兵士のいる場所を、カーラに向かってゆっくりと歩いて行く。
「レイ……」
「この人を丁重に葬ってくれないか……。とても良い人だったんだ……」
俺は、オーナーをカーラの前にゆっくりと寝かせた。
行ってきます……。
オーナー……。
出口へと歩きだした俺の前に、槍を構えたアニスちゃんが立つ。
彼女だけが、怒りと憎しみで俺の圧力に抵抗できたのだろう。
「あなたは……お前だけは逃がさない! 私がこの手で!」
父親と姉を、俺が殺したと思っているようだ。
俺は何も言わずに、アニスちゃんに近づく。
一歩……また一歩と……。
俺に近づくにつれ、アニスちゃんの顔は真っ青になり、呼吸が浅くなっていく。
そして、俺が隣を通り過ぎる時には、涙が目からこぼれ出していた。
悪いが、俺には今余裕がないんでね。
そんな俺に、カーラが声をかけてくる。
「レイ! 帰ってくるのよね?」
「ああ……」
俺は俺の中に残った最後の心で、振り向かずに軽く片手を振り……。
嘘をついた。
俺は……。
俺の命を犠牲にしてでも奴を殺す。
必ず殺す!
俺は地上に上がる階段を見つけると、全力で走り出していた。
殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。
既に、俺の心は殺意だけで満たされていた。
『直接攻撃型に防御特化型、そして上空からの攻撃型じゃ。作戦を立てねば……』
どうでもいい……。殺す。
奴を殺すんだ!
地上に出た直接攻撃型魔道兵機シグマと、防御特化型魔道兵機ベータは、さっそく町で暴れはじめていた。
上空から超魔法を放つオメガは、かなり上空にいるようで見当たらない。
****
俺が地上に戻った頃、アニスちゃんに通信が入ったそうだ。
ネロからだった。
奴だけは俺の疑いをはらすのを手伝いたくないと、通常勤務についていたらしく、地上にいたそうだ。
「はい……」
「アニス! 大変だ! 見た事もない機械人形が町で暴れている! 全力で住民を避難させているが……くそっ!」
ネロの言葉と一緒に、爆音が聞こえていたらしい。
その音と声で正気に戻ったアニスちゃんは、再度の状況報告を求めたそうだ。
「どう言う事? 何が起きてるの!?」
「俺にもないがなんだかわからないが! 住民が犠牲になっている! 増援を頼む!」
「わ……分かりました! すぐに向かわせます!」
「頼んだ!」
ネロも余裕がないようで、通信はすぐに切られたらしい。
一度深呼吸をしたアニスちゃんが、その場にいた兵士全員に指示を出す。
「全員! 地上へ! 謎の敵が暴れています! 評議会中の兵士にも伝えなさい! 全員で状況を打開するのです!」
「はっ!」
アニスちゃん、イリアさん、カーラ、気を失っているアミラちゃん以外の兵士全員が、地上に向かう。
その中で部隊長を務める者は、連絡網を使い非番の者も含め兵士全員に、連絡を入れていたらしい。
普通の兵士じゃ魔道兵機に対抗は出来ないけど、住民の避難には一役買ったとかなんとか……。
****
直接攻撃型通称Σ(シグマ)はその両腕に装備された刃で、全てのものを切り裂く。
その刃は、ビルすらも一撃で切り裂くほどの威力を持っている。
そして、防御特化型通称β(ベータ)は絶対の防御フィールドを張りめぐらせ、町を歩く。
それだけで、フィールドに触れたものは粉砕されていく。
二台とも首の無い人型で、球状の顔か大きな目らしきものが胸に埋まっており、足が短く腕が長い。
全身が可動する首がもげた、ゴリラのブリキといった感じだろうか。
全身がミスリルと銅の合金で出来ており、球状以外の部分は茶色だ。
兵士達の魔法攻撃などその二体に通じるはずもなく、町がどんどん破壊されていく。
地上に出た瞬間、溜めていた力を爆発させた俺は、目の前にいたシグマに斬りかかる。
剣と刃の衝突で、凄まじい衝撃波と耳をつんざく様な音が発生する。
刃の強度は同等。
さすがに伝説の金属で出来ているだけあって、お互いに刃こぼれはしない。
『馬鹿もん! 冷静になれ! 魔道兵機に真っ向から挑むなど自殺行為じゃ!』
俺は冷静だ、ジジィ……。
怯む時間も、小細工をする時間も、今はただ……邪魔なだけだ。
俺は、こいつらを殺す。
シグマの攻撃を回避しつつ、俺は超接近状態を維持したまま、全力で剣をシグマに振るい続ける。
もちろんシグマには、傷は付けられない。
それどころか、刃が二本あるシグマの攻撃のほうが速く、徐々に俺の切り傷が増えていく。
「おおおおおお!」
それでも……俺はここで止まれない……。
俺は、ただ無心で剣を振るう。
超超高速の斬撃戦、気を緩める暇などない。
敵の刃を打ち落とし、刃を避け、剣を打ち込む。
少しでも避け損なえば、体が真っ二つになるほどの攻撃を、真っ向から迎え撃つ。
俺はただ、全神経、全思考、全能力をその斬撃戦へ注ぐ。
「あれはヘイル? 奴が主犯じゃないのか?」
ネロがその光景を目撃し、困惑する。
しかし、ネロも四将軍に選ばれた人物。
すぐに兵士へ柔軟な指示を出す。
「あっちは奴に任せてもう一匹の進行を全力で止めろ! 全軍撃ち方はじめ!」
シグマと俺の戦いを見たネロは、ベータへの対応に全軍を向ける。
魔道兵機二体に戦力を分散するよりは、効果があるだろうとすぐさま判断したのだ。
ネロも優秀だからこそ、三十代の若さで四将軍の地位にいる人物だ。
俺は、ムカつくからこのナルシスト嫌いだけどね。
だが、そのもう一体の足止めは、俺の助けになる。
俺はシグマとの戦いに集中できた。
****
シグマとの不毛で劣勢な戦いをしていた俺に、徐々にではあるが変化が起こり始める。
俺の中で殺意が純度を増していくのと反比例して、俺の体へ敵の刃が届かなくなっていく。
俺の集中力が、今まで達した事のない領域へ入ったのだ。
まずは、変化を起こしたのは聴覚。
衝撃波の轟音の中にいるはずなのに、音が聞こえなくなり始めていた。
もちろん、鼓膜が破れたり、爆音で耳がおかしくなったわけではない。
それを認識出来たのは、感覚を共有しているジジィ、ただ一人だ。
『なんじゃ? この感覚は……。音が消える!?』
俺の耳にはすでに、ジジィの声すら届かなくなっていた。
戦いに不要な感覚が、俺の中からそぎ落とされていく。
俺の感覚の限界点はまだそこではなく、更に集中力は増していった。
『こ……これは!』
いつの間にか、視覚から敵以外のものが消えてなくなった。
俺の目の中には、色すら残っていない。
その時の俺は、真っ白で音の無い世界にいた。
『まさか……。これは、集中力が極限に達した時に到達する。ゾーンや極みという物なのか?』
俺には聞こえていなかったが、ジジィは一人で騒いでいたそうだ。
数千年生きた魔剣が驚愕するほどの境地に、俺は到達したらしい。
勿論、そんな事を、俺自身は意識していない。
だからこそ到達できたのかもしれない。
昔、師匠から聞かされた極めたものが達する、極限の領域についてジジィに話をしたことはあるした事はある。
だが、ジジィ曰く十五人の継承者の中には天才としか言えないほどの使い手もいたらしいが、この領域に達したものはいなかったそうだ。
その領域に達する為の鍵は、もしかすると天賦の才ではないのかもしれない。
もしかすると、天才ではたどり着けない場所の可能性だってある。
ただ、殺意に支配された俺には、そんな事分からないし、どうでもいい。
ただ、敵の刃をどう捌くか……。
ただ、敵の刃をどう避けるか……。
ただ、俺の剣を奴の命へどう届かせるか……。
その純粋な戦闘本能だけに、己の全てを委ねる。
『たった、十七歳でこの境地に達したと言うのか? あり得ん。それに、なんだ? この心の在り様。心を殺意で満たし、思考を凍てつかせ、身体のみを烈火のごとく……。人間に……こんな事が可能なのか?』
ジジィが驚愕している間にも、俺の剣は鋭さを増していく。
俺にはその時、敵の音をも超える斬撃が、コマ送りに見え始めていた。
遅せぇぇよ……。
敵の刃が掠りもしなくなった頃、遂には敵が次にどう動くかが、残像のように浮かび上がり始める。
シグマの攻撃が、全て手に取るように予想出来た。
『これが先の先の先……。真の達人が達する領域か……』
さあ……。
死ねよ……。
敵の刃と腕の繋ぎ目を見つけた俺は、そこに剣を走らせる。
その隙をついて俺の頭へ向かられたシグマの刃を、今度は真っ向から剣撃の威力だけで切り裂いた。
俺には聞こえていないが、耳障りな金属の破裂する音が周囲に響いたそうだ。
「馬鹿な!」
唯一無二の両刃を失ったシグマは、信じられないといった声を出して後ずさる。
『今じゃ! 顔の奥にあるコアを壊すんじゃ!』
シグマがひるんだ瞬間、俺はもう一段階力を爆発させて、奥義を放つ。
〈サザンクロス〉
同じ金属であるはずのミスリルすら切り裂く速度に達した魔剣が、シグマの体を十字に通り過ぎた。
相手の防御能力に関係なく、斬る。
それが、師匠から伝授された技の本来の姿だ。
不規則に振動した後、魔力の塊らしき煙を噴いて、シグマはその動きを停止した。
「はぁはぁはぁはぁ……」
その瞬間、俺は呼吸を忘れていた事を思い出し、懸命に肩を揺らしながら酸素を取り込む。
それと同時に、世界に音と色が戻ってきた。
だが、俺の殺意はおさまらない。
まずは一体……。
****
シグマを沈めた俺は、ベータに向かい走り出す。
その勢いのまま、俺はベータが展開している防御フィールドに向かって、剣を振り下ろす。
大きな破裂音に包まれながら、俺は逃げ場を失った力によって、体を後方へ飛ばされた。
シグマを両断できた俺の剣でも、ベータのフィールドには弾かれてしまった。
『駄目じゃ! 絶対フィールドは魔力でなければ貫けん!』
「なら……やるぞ! ジジィ!」
『承知した!』
俺は両手で魔剣を天に掲げ、秘言を唱える。
「この世に漂いし、迷える戦士の魂よ! 我の元に集い! 我が刃となれ!」
そう唱えた瞬間、魔剣の剣身は左右に開き、黒く赤い秘言の書かれた芯である賢者の石をむき出しにする。
そして、賢者の石は、近辺から集まった光の玉を吸収した。
『さあ! 今じゃ!』
「力を示せ! スピリットオブデス(死神の魂)!」
魔剣の真の名を叫ぶと同時に、光の剣身がその姿を現した。
「おおおらあああ!」
ガラスの割れるような音を出して、ベータの作っていた直径二百メートルほどのフィールドは、砕け散った。
それと同時に魔力を使いきった魔剣が、元に戻る。
よし! ベータが丸裸になっている!
俺は、全力でベータとの間合いを詰めるようとした……。
「馬鹿が……」
地面を蹴った俺の耳に、バシュという音が届く。
俺はいきなり左腕を付け根から何かに掴まれ多状態になり、空中に浮いた体勢になってしまう。
体内に、肩が外れる音と、ブチブチと筋肉や筋が切れる音が伝わる。
自分の走る勢いが、全て左肩にかかってしまったのだろう。
『なんと言う事じゃ……』
ベータは、再度絶対防御フィールドを発生させていた。
それも、俺の左腕がフィールドに挟み込まれ、固定されるような形でだ。
俺はフィールド内にいるが、壊された左腕を固定されたままで、動きが取れなくなっていた。
「くくく! お前はそれ以上私には近づけまい! だが私は……」
ベータの顔の部分を守っていた薄い金属が左右に開き、コアである真っ赤な球体が出現する。
コアに魔力を収束させたベータは、そのまま細いが貫通力のある魔力砲を放ってきた。
俺の目の前の地面に、穴があいた。
アスファルトだけでなく、下の土まで溶けている。
神を殺す為に作られた兵器の装備は、どれもこれも威力があり過ぎるようだ。
「私はフィールド内でも、攻撃が出来る! くくく!」
ベータは、勝ち誇ったように笑う。
「チェックメイトだ! 人間!」
あの魔力砲が直撃すれば、俺は死ぬだろう。
だが、俺はまだ死ねない。
こいつと、もう一体を殺すまでは……。
魔剣を投げつけても、奴は倒せないだろう。
この左腕さえ自由なら……。
そうか! この左手が自由になれば良いだけじゃないか……。
「ははっ……」
俺が笑いだし、ベータが驚いている。
確かに普通なら、ここで絶望しないといけないんだろうが……。
生憎俺にはそんな余裕はないんでなぁ!
「なんだ貴様? 頭でもおかしくなったか?」
「よく狙えよ……。首だけになっても俺は、お前のコアをかみ砕いくぜ!」
俺はベータを、殺意に満ちた目で睨みつける。
「ぐ……」
機械ごときが、怖気づくな。撃ってこいよ。
それとも、もっと言ってほしいのか?
「さあ、どうした? ここをちゃんと狙えよ、ポンコツ!」
俺は右手の親指で自分の額を指さし、奴をさらに挑発する。
「ならば望み通り……死ね!」
超圧縮魔力砲が、俺の眉間に向かい飛んでくる。
超高速のその攻撃に、俺は全神経を集中する。
見える……。
今の俺には、見えるぞ!
体を地面に倒して、俺はその魔力砲を避ける。
俺の体内にあった水分が魔力砲で一気に蒸発し、焼け焦げた臭いと蒸気を充満させた。
ベータは自分の魔力砲は直撃したはずだと。俺のいた場所を凝視している。
間抜けが! ポンコツには、そこが限界なんだよ!
ベータの凝視するその場所には、フィールドに固定された俺の左腕のみしか残っていない。
「な……何が!?」
てめぇの魔力砲を利用して自分自身の腕を焼き切り、自由をいただいただけだ!
飛び上がっていた俺は、上空にまで張りめぐらされたフィールドを全力でけり、体を弾丸のように加速させてベータに襲いかかる。
さあ、お前も終わりだ!
〈メテオストライク〉
コアの部分から斜めに両断されたベータは、ガシャリとくすれ落ちて、活動を停止した。
その瞬間フィールドが消え、俺の左腕がボトリと地面に落ちる。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
呼吸を再開し、肩で息をする俺に左腕はもちろんなくなっている。
だが、そんなことはどうでもいい……。
後…………一体!
****
『なんと凄まじい戦闘本能じゃ……』
うるせぇぞ、ジジィ。
左腕の、血だけ止めてくれ。それだけでいい。
で? 最後のオメガはどこに居やがる?
「礼は言わない! さあ、おとなしく掴まれ! 左腕の治療も情けでしてやる、この犯罪者が!」
ネロと兵士達が俺を取り囲んだ時、悪夢が空から降り注ぐ。
凄まじい光と爆発音の後、爆風と熱が押し寄せてきた。
そちらに対して無防備だった兵士達は、全員吹き飛んでいく。
魔力を感知していた俺は、魔剣で顔をガードしてその場で踏みとどまる。
空を粉塵で覆うほどの爆発がおさまると、町があったはずの場所に巨大なクレーターが出来ていた。
「一体……。何がおこったと言うのだ!」
泥だらけになったネロが、座り込んだまま叫んでいる。
まあ、俺も爆音の影響で耳鳴りが酷くて、全く何をいってるかは聞こえないけどね。
『これが、魔道兵機オメガの力じゃ。成層圏で太陽の魔力を吸収し、一気に地上へ放つ……。最終手段として作られた、魔道兵機じゃ』
成層圏……。
おい、ジジィ……。
何かそこに辿り着く方法はないのか?
『無いことはないが……』
どうすればいい?
『お前達が今朝通った町外れの遺跡に、魔道兵機射出ポッドの試作品がまだあるはずじゃ。それでなら……』
そうか……。
なら、さっさと行こう……。
俺は今朝オーナーに教えてもらって通った遺跡に、走り出した。
もう、俺は何があっても止まらない。
ただ、殺意に身を任せると決めた。
操作は分かるんだよな、ジジィ?
『うむ……。しかし、成層圏から生きて帰れる保証は、どこにもないぞ? むしろ、死ぬ可能性の方が……』
だから……。
そんな事はどうでもいいんだよ。
ただ、奴を殺せれば俺に文句はない。
それからジジィは、遺跡に着くまで何も喋らなかった。
面倒がなくていい……。
****
遺跡に着いた俺は、ジジィの指示で隠し扉を開き、魔道兵機用の射出ポッドを起動させた。
何故ジジィがここまで詳しいかは後ほど分かるが、その時の俺には興味の無いことだった。
そして、射出タイマーをセットし、俺はポッドの中へ乗り込んだ。
到達イコール死を意味している場所へ……。
俺は射出ポッドで向うんだ。
「ぐっ! ううううぅぅぅ……」
ポッドが射出されると同時に、凄まじい重力が俺を襲う。
やはりこれは、人が乗るように設計されていない。
鼻血が吹き出し、左腕からも血がとまらなくなっている。
それでも俺は、耐え続けた。
殺意が俺を支えてくれる。
奴にこれ以上あの魔法を撃たせるわけにはいかない……。
奴が巻き起こした死の連鎖を、俺でとめる!
凄まじい圧に耐えながらも、俺は自分の全てを高めていく。
多分、チャンスは一度……。
それに俺の全てを賭ける!
力も技も……命も全て……。
奴を殺せたら、父さんと母さんは俺を誉めてくれるだろうか?
オーナーとアレンは笑ってくれるだろうか?
「う……ぷはぁぁ! はぁ……はぁ……」
きついのは、ここまでか……。
****
俺が成層圏に向かっている頃、気絶していたアミラちゃんが目を覚ましたそうだ。
そして、自分が見たことをアニスちゃん達に話す。
その場でおこった悲劇と、評議長の狂気を……。
「そんな……」
アニスちゃんは、ただ呆然とするしかなかっただろう。
「アニス……。これを……」
そんなアニスちゃんへ追い討ちをかけるように、悲しそうな顔のイリアさんがトバイアの日記を渡したらしい。
その中には、純粋に国民を守ろうとしたトバイア評議長の思いと、苦悩が綴られていたそうだ。
最初は純粋に魔族に対抗しようと、魔法生命体研究をする日々が綴られていたらしい。
しかし、悲劇はトバイア評議長が連日の徹夜から、遺跡の中で眠ってしまい始まったそうだ。
トバイア評議長の中に魔道兵機の意識が入り込み、トバイア評議長を支配し始めてしまった。
トバイア評議長の抵抗も虚しく、意識は完全に乗っ取られてしまったようだ。
日記の最後には娘達への、すまないと言う言葉だけが書かれていたらしい。
真実に辿り着いたアニスちゃんは、自分に真実を見極める力がなかった事が悔しかったのか、しゃがみ込んで泣き始めたそうだ。
「これは!?」
カーラが魔道機器の中から、魔道兵機達のモニターを見つけたらしい。
その時には既に、シグマ、アルファ、ベータ、ラムダのモニターは消え、何も映っていなかったそうだ。
ただ、俺がまだ倒していなかったオメガのモニターは、当然ながら生きていた。
成層圏から地上を眺める奴の視界が、そこには映し出されていたそうだ。
「不味いですよ! これ!」
魔力充填率九十パーセントと表示されたメーターに、アミラちゃんが最初に気が付いたらしい。
そのアミラちゃんの声と同時ぐらいに、オメガの視界に皆が知っている人物が映し出されたそうだ。
「えっ!?」
「うそ……」
「左腕が……」
「レイ……」
****
俺は圧力に耐え切り、成層圏に到達した。
そこは星の表面が見える、宇宙の手前……。
青い世界が見える。
なあ、ジジィ?
『なんじゃ?』
世界って綺麗なんだな……。
『そうじゃな……』
悪いな、次の継承者に受け継げないかもしれない……。
『邪悪を討つ事こそ、わしの本懐じゃ。受け継ぐ事ではない。気にするな』
本当は俺が死ねば、魔剣は自動であの大木の中へ帰って行く事は分かっている。
今までがそうだったのだから……。
魔力で上昇を続けていたポッドから、オメガが見えてきた。
両手足がなく、全身に秘文が書かれている。
まるで、出来損ないの土偶だな。腹にある大きな赤いコアで、魔力を集めてるのか。
敵に襲われる事を考えなかったからだろうな。
弱点が丸見えだ。
あれを壊せば、奴を殺せる……。
さあ、全てを……。
俺の命をくれてやる……。
だから、お前の死をよこせ……。
俺は魔剣を再び頭上に掲げ、秘言を唱える。
「この世に漂いし、迷える戦士の魂よ! 我の元に集い我が刃となれ!」
青い星から、光の小さな玉が剣へ向かって飛んでくる。
『さあ! 行くぞ!』
「力を示せ! スピリットオブデス(死神の魂)!」
魔剣の真の名を叫ぶと同時に、現れた光の剣身でカプセルが弾け飛んだ。
その瞬間に、俺の見る景色は魔人との時の様に、驚くほどゆっくりとしたものに変わる。
オメガも俺の存在には気付いており、魔力の発射口である下半身を俺に向けてきていた。
俺は限界を超えた速度で、右足を踏み出す。
空気だかオゾンだかの壁に足がぶつかり、足の骨が砕ける。
それによって推進力を得た俺の体は、オメガに向かい直進する。
魔力による振動なのか、オメガからの声のような物が俺に届く。
俺からは、それが出来ないので声ではないはずだ。
「ここまで来るとは……」
お前は必ず! 俺が殺す!
「だがもう遅い! すでにエネルギーは充填済みだ! 貴様から灰にしてやる!」
遅ぇぇ!
俺はさらに左足を見えない壁にぶつけ、自身の体を最高の速度へと到達させた。
「な! 馬鹿なぁぁぁぁぁ!」
発射までに時間が必要だったオメガには、その速度の俺を迎撃する術がない。
〈シャイニングアロー〉
全てをかけた、最後の技だ。
俺の体は成層圏内で光の矢になった。
そして、光の剣はオメガのコアを貫く……。
俺の視界は、真っ白な光に包まれていった。
ゆっくりとゆっくりと……。
強大な魔力がぶつかった為、爆発がおこる。
オメガの姿が、光の中で崩れていく……。
****
そこで意識の途切れた俺は、再び真っ黒な世界にきていた。
ああ……。
またここに来たのか。
命をかけたつもりだったが、出しきれなかったらしい。
まだまだ修行不足だな。
命を出し尽くせなかった……。
俺の頭にはまた、ある人物の記憶が流れ込んでくる。
大賢者マリーン。
彼は、数千年の昔、邪悪と戦い続けた大賢者。
アルティアでは魔人を封じる力を弟子に授け、ニルフォでは邪悪な竜を討ち滅ぼし、ルナリスでは邪悪な神に対抗しようと魔道兵機の設計を行った。
それでも邪悪な真の神には勝てなかった。
だから、強大な魔の力をもった死神に力を借りた。
正しき者を導き、誤った使い方をさせない為に、マリーンは自身の命と精神を魔剣のコアに閉じ込めた。
そうやって作られた聖なる魔剣で、世界は救われた。
俺のように戦って死んでいくのと、ジジィのように死ねもせずに戦い続けるの……。
どちらが辛いのだろうか……。
****
『目を覚ませ!』
俺は、ジジィの声で目を開ける。
俺は淡い光に包まれ、星の重力に引かれて落下していた。
これは……。
『わしの魔力で防御フィールドを張った! 助かるかは五分五分じゃがな……』
無理しやがって、ジジィ。
俺が魔剣を握り続ける右手を見ると、指が何本かなくなっていた。
動くのは、首とその右腕だけ……。
ボロボロじゃん。
『生きておるだけで奇跡じゃ! 贅沢を言うな!』
まあねぇ。
えっ? そんな……。
少し離れた場所で落下している、首と胸元だけになったオメガが動いている!
『しまった! 奴には頭にもコアが残っておる!』
その頭のコアがむき出しで、左胸部分しか残ってないが、奴はまだ生きてやがる。
おい! あのコアはミスリルか?
『いや、ただの魔法石じゃ……』
なら、いけるな!
『待て! 何を考えている! フィールドが無くなればお前は!』
言ったはずだぞ、ジジィ……。
俺は奴を殺すってな!
俺は最後の力で、魔剣をオメガに投げつけた。
見事に魔剣は、オメガのコアを貫いた。
それと同時に、カーラ達が見ていたモニターの画面が消える。
「オメガ……。機能停止……」
****
魔剣を投げると同時に、俺の右腕からグシャッっと言う音が聞こえてきた。
流石に限界を超えたようだ。
右腕の骨が粉々になった音だろう。
これでまともに動かせる部分が無くなった。
でも、俺の目的は達成した……。
見ていると、俺の右手に火がついた。
見る間に全身が炎に包まれていく。
ははっ……。
火葬の手間が省けたな。
はぁ、結局、童貞のままか……。
やってらんね~……。
まぁ、でも! 目的は果たしたし悔いはない!
父さんに母さん、セシルさんにオーナー。
大好きな人達に会いに行ける……。
楽しみだ……。
だから、俺は笑っていられる。
ああ、そうだ。ついでに、奴のケツでもけり上げてやるかな……。
覚悟しとけよ! 神様……。




