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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第二章:魔法の国の傭兵編
25/106

十一話

アレンの変わり果てた姿を見たせいだろうが、オーナーは喋り終えるとソファーに横になった。


その間に俺は、オーナーが出してくれた紅茶をちびちびと飲みながら、ジジィから情報を引き出していく。


敵になるかも知れない物の情報は、掴んでおくに越した事はない。


『今の時代では、科学と魔法が別々に発展をしておるが、昔は同じカテゴリとして研究されとった。まあ、水銀を摂取する等の、錬金術の如何わしい物もまざっとったがな』


へぇ……。


ま、誰も彼もが魔法を使える今と違ってたなら、使えない奴等には見分け掴んだろうなぁ。


『そういう事じゃ。それが常識じゃったわしからすれば、発電所を作り、携帯電話やらゲーム機やらを実用化するまでに、化学が特出して進歩したのは驚きじゃな』


確かにそうかもな。


まあ、魔法は人間の魔力量で限界が決まってたから、科学側を発達させたんだろうよ。


よくわかんねぇけど……。


『因みにわしは、人間だった頃に科学の研究も趣味にしておってな。お前を通して見る新技術は、中々面白いぞ。わしも昔は、馬や牛を必要としない車なども、発明するほど凝っておってな……。悪路には弱いが、動力は化石燃料で、人間の思い通りに動くんじゃ』


んっ? それ……なんの意味があるの?


モンスターが出る町と町の間なんて、道の整備できないじゃん。携帯の基地局すら、作れないんだぞ?


馬車でいいんじゃね? てか、転移の魔法もその頃にはあったんだろ?


『うっ……。まあ、作る技術も難しくて、普及はせんかったが……。それでも……』


つか! ジジィ! 昔話に花を咲かせすぎだ!


肝心の魔道兵機とやらに行きつくのに、後何年かけるつもりだ!


聞き終わったら、復活しちまうわ!


『お……おお……。すまなんだ。つい……の』


年寄りの昔話は、なんでこう長いのかねぇ。


昔話には今度付き合ってやるから、今はあの兵機の説明に戻ってくれよ。早急に!


『分かっておるわい。ああ……どこまで話したか……。ああ! そうじゃ、そうじゃ。つまり、あのルナリスが出来た場所は、大昔の聖魔戦争跡地じゃ。そして、見つかった可能性のある魔道兵機は、わしが知っている物じゃろう。その頃製造されたのは、確か五体』


見つかった魔道兵機は、オーナーが三体って言ってたぞ。


『わしの知るうちの三体じゃろう。二体は戦争に壊れたと考えていいじゃろうな。三体どれもが、Aランク中位の戦闘力じゃ。三体もそろえばAランク上位の神にも匹敵する』


うっ……。マジで?


ちなみに俺が倒した魔人で、どれくらいなの? ランクは?


『復活が未完了じゃったからのぉ……。Aランク下位じゃ……』


一匹でもよみがえれば、終わりじゃねぇぇか!


洒落になってね~……。


『斬撃による直接攻撃型Σ(シグマ)、防御の特化した型β(ベータ)、遠隔攻撃を得意とする型α(アルファ)、広域攻撃を得意とする型Λ(ラムダ)、そしてもっとも厄介な上空から超魔法を放つ型Ω(オメガ)……』


どれも可愛げがない攻撃方法持ってやがんなぁ。


『神を殺すために、賢者が設計した究極の魔道兵機じゃからな』


うん! 復活させない方向で! 倒せる気しない!


『うむ。材質も魔剣と同じミスリルじゃ……。魔剣で切れん可能性もあるしのぉ……』


マジで?


勘弁してよ……。


やってらんね~……。


『魔道兵機はミスリルと銅の合金じゃ。純粋なミスリルの魔剣のほうが、少しだけ硬度は上じゃが……。鉄の剣で銅像を切るようなもんじゃからのぉ……』


それって、斬れないってことじゃないですか……。


いや……。


でも、あの最終技の光の剣なら?


『あれは、一日に二回ほどが限界じゃ……』


三体復活したら、アウトってわけね。


復活したら! もう、どうしようもないじゃないですか!


『復活阻止を目指すしかないのぅ……』


ですよね~……。


椅子に座って腕を組み、唸っているとオーナーが喋りかけてきた。


「さっきから何を考え込んでいる?」


「今後の作戦です。オーナーは魔法石を自分の分とアレンの分そして、俺から十万で買った三つを持ってるんですよね?」


オーナーが顔をしかめた。


「実は、アレンとお前から買った分は、あのどさくさで落としてしまった。多分、あの施設の机があった付近に……」


もぉぉぉぉぉぉ! なに!? 俺に運がないのがいけないの?


いや、待て! へこむな! 六つそろわないと意味ないだろうし……。


「実はもう一つ……」


オーナー? すごく嫌な予感が……。


「五つあれば二体は解放できる……」


はい! 当たっちゃいました!


それも、二体って!


また悪い方の連鎖が、爆発しまくりやがってるじゃなかああぁぁぁ!


はぁ、仕方ない……。


「じゃあ、俺が忍び込んで五つ破壊しますから、オーナーは逃げて下さい」


そう言うと、オーナーがさらに顔をしかめた。


何? 何?


俺、ベストの選択したつもりなんだけど?


「私も行かないといけないんだ……」


「でも、オーナー魔法石抜きとられると死ぬんでしょ? 連れて行けませんよ! 危険も高くなるし!」


「そうもいかん……。遺跡のある地下三階には父、アレン……。そして、私以外は入れないようにセキュリティがかかっているんだ」


早よ言えや!


俺の作戦全部パーじゃないか!


はぁぁぁ……。


「で、どうします?」


「警備が厳しいかもしれないが、一刻の猶予もない……。明日行こう……」


「了解です。でも、くれぐれも無理しないでくださいよ! やばかったら俺を置いて退却して下さいよ!」


「分かった……」


その思いつめた表情やめてよ。


遺跡と一緒に、自爆しそうな顔してますよぉぉぉ。


そこから俺達は、オーナーだけが知っている町外れの遺跡から、直接評議会地下の遺跡へ繋がった裏口を使い進入する作戦の打ち合わせをした。


****


明日、決行だ……。面倒な事になった……。


てか、また俺関係ない事に、巻き込まれてません?


ははぁ~ん。


神様よ。また俺を殺そうとしてるな?


誰が死ぬか! 絶対先にお前を殺す!


たく……。


まぁ、とりあえず行くしかないよなぁ。


その日俺達は、追手が来なかったので山小屋で眠る事にした。


ご報告します。ムラッとしますっ!


オーナーって、なんだかんだ言って美人なんだよなぁ。


それも色気たっぷりの……。


これが最後の機会かもしれないと思って、俺は隣のベッドで寝ているオーナーを覗き込む。


しめしめ、疲れて熟睡してるな。


運よくジジィも眠っている。


胸くらい……。いいよね! 許されるよね!


てか! 俺! 行っきまぁぁすっ!


「アレン……」


オーナーは、眠りながら涙を流し始めた。


ああああぁぁぁぁ。


さすがに出来ん……。


これじゃあ、いくら思春期の俺でも無理!


はぁ~……。


明日は、夜明け前に出発かぁ。眠らないと、体力もたないよなぁ。


仕方なく、俺は外に出て剣の修練を軽くこなし、眠った。


もぉぉぉぉぉ! ムラッとする!


****


翌朝、寝不足の俺とオーナーは町はずれの遺跡から、評議会の地下へ向かった。


その頃アニスちゃんは、評議会の警備をネロとバランに指示し、他の四人でトバイア評議長の身辺調査を開始したそうだ。


まあ、直接見てた訳じゃないから、どこまで本当なのかは俺には分からない。


つっても、あのカーラが嘘をつくはずもないが……。


それがアニスちゃんとカーラが話し合った、精一杯の妥協点だったらしい。


万が一俺が黒だった場合は、全員で俺を掴えることになっていたんだとさ。


この日は朝から、トバイア評議長とアレンはどこにもいなかった。


これは、俺とオーナーに対応して動いていたからだ。


カーラやアニスちゃん達は地下三階の事を知らないから、何処かへ出かけたのだろうと考えたらしい。


自分達の動きがばれないようにと、二人が戻ろうとすればすぐに知らせが来るように、アミラちゃんを尾行にはつけていたそうだ。


この間に、カーラを含めた四人は情報を集めようとしたそうだ。


しかし、それらしいものは何も見つからない。


そりゃそうでしょうよ。だって、大事な物は地下三階だもの。


「アニス、そっちはどう?」


「イリアさんのほうは?」


「何もないわね。やはり、エレノア様とレイ君は……」


トバイア評議長の部屋を、いくら調べたところで何も見つかるはずがない。


「何でよ!」


カーラは焦りから怒鳴っていたらしいが、アニスちゃんは冷たくあしらったそうだ。


それだけ、心の扉を固く閉じてしまっていたんだろうな。


「お気の毒ですが、エレノア:カーチス及び、レイ:シモンズを国家反逆罪で手配します!そして、必ずとらえます! もう異論は認めません」


「そ……んな…………」


評議長の部屋を調べれば、何か見つかるはずだと思い込んでいたカーラは、一度希望を失って座り込んでしまったそうだ。


自分が頭いいと思ってる奴は、失敗に弱い。


俺みたいに負けっぱなしで根性つくのもどうかと思うけど、潔すぎるってのも時には悪い方に働くらしい。


ただ、もし本人にそんな指摘をすれば、ナイフが向かってくるので言わないけどね。


座り込んだカーラをアニスちゃんが見下ろしていた時、通信機の着信音ランプが点滅を始めたそうだ。


「もしもし、こちらアミラです。その……トバイア評議長とアレンが、あの……地下三階に入っていきます。こんなところ、あったんですね……」


尾行をしていたおかげで、アミラちゃんは地下遺跡の最深部へと、たどり着いてしまったらしい。


「地下三階? そんな場所聞いたこともないわ……。気になるわね……」


「どうしましょう?」


「可能な限り動向を見守って……。でも、何かあればすぐに退避するのよ。いいわね?」


「了解です」


そこで、アミラちゃんは通信を切ったそうだ。


****


アミラちゃんは気配を消して、トバイア評議長の後について遺跡の中へと進んでいく。


自分のボスが、超危険人物だなんて思ってもいなかったのだろう。


地下三階は、縦横五キロもある巨大な地下空間だ。


そこには、さまざまな魔道機器が並んでいる。


トバイアはその地下の最も奥にある、魔道兵機のポッドの前に立つ。


「ふはははは! ついに復活の時だ! 長かったぞ! ついに私は蘇るのだ!」


その場所にいるトバイアは、もう本性を隠す必要もないと考えていたのだろう。


その狂気に満ちた笑い声に、アミラちゃんの背筋から冷や汗が流れたそうだ。


「何か、まずい……」


アミラちゃんが退却を考えた時には、すでに遅かった。


「ネズミが迷い込んだか……。掴まえろ!」


アミラちゃんは、いつの間にか背後にいたソルジャー三人に拘束される。


「評議長! ここはいったい……。それにこれはどう言う事ですか?」


アミラちゃんの叫びは、トバイア評議長には届かない。


すでに狂気の中にいる評議長だったものはアミラちゃんも、その他大勢の人間もゴミとしか見ていないからだ。


微かな希望を持って訴え掛けようとしたアミラちゃんに、トバイア評議長から冷酷な言葉が発せられる。


「どの道この国の人間は、私の復活祝いとして消す予定だ。先に一匹減っても問題あるまい……。やれ」


アミラちゃんは、ソルジャーの振り上げた剣を前に、恐怖から目を瞑った。


しかし、何時まで経っても何もおきない。


アミラちゃんは、恐る恐る目を開けた。


そこには剣を構え、マントとマスクを装備した男性が立っている。


てか、俺です。


アミラちゃんの更に後ろを、オーナーと尾行してました。


流石にやばそうなんで、跳び出しただけだったりします。


「アミラ、無事?」


俺が斬ったソルジャーと一緒に倒れてしまったアミラちゃんは、オーナーに抱き起こされる。


「大丈夫? どこも怪我はない?」


アミラちゃんは、ただ頷く事しかできなかった。


まぁ、そりゃそうでしょう。


自分を心配してくれているのは、逆賊として自分達が追っていたかつての上司ですからね。


「待っていたぞ! 娘よ! 最後の魔法石をわざわざ運んできてくれるとは、中々の孝行娘だ!」


「お父様! 考え直してはいただけないんでしょうか?」


「何を今さら……。さあ、お前の魔法石を差し出せ!」


その言葉と同時に、天井裏から百人を超えるコピー魔法石のソルジャーが降ってきた。


お前らは虫か! 気持ち悪い。


「くっ……」


「下がってて下さいね」


「レイ! 私も!」


「俺一人で大丈夫ですから」


「しかし!」


「お願いします」


オーナーは俺の背中から放たれる剣気に、言葉をとめた。


「ヘイルか……。貴様もなかなかやるようだがそのソルジャーは完成品だ。全員がCランク上位に近い実力を持っているぞ! お前一人でどうにかできるかな?」


ふぅ~……。


うっさい、おっさんだ。


『魔法石を砕けば、わしも魔力を吸収できるしのぉ……』


俺には、何の問題もないんだよ!


「はあぁ!」


俺は、一振りごとに数人のソルジャーを両断していく。


剣や槍、飛び道具まで使ってくるが……。


遅い!


「す……すごい……」


俺の戦いに、アミラちゃんは驚愕する。


「レイから魔剣の話を聞いたが、私の想像以上だわ……」


「あの、エレノア……様? ヘイ……レイさんは何者なんですか?」


「馬鹿で不器用で運がなくて指名手配されてる……最高にいかした魔剣士だ!」


アミラとエレノアの会話の間も、見る間にソルジャーが数を減らしていく。


どうもレベルアップしていたらしい俺は、無傷で全てのソルジャーを活動不能にした。


ただ、やっぱり人の形をした敵を斬るのは、気分よくないな。


『エレノアが殺すしか方法はないと言うのじゃ……。仕方あるまい……』


分かってる。


でも、新鮮な死体を斬ってるようなものだろ? 気分良く斬ってたら、そいつは多分、サイコさんだぞ?


『まあ、そうじゃがここで気を抜くな。真打ち登場じゃ……』


アレンが生気の無い目で剣を抜き、近づいてくる。


俺は、一度オーナーに目を向ける。


オーナーは無言で、力強く頷いた。


ここに来るまでに俺はオーナーから、アレンを殺し……解放してほしいと依頼されている。


オーナーが覚悟を決めてくれたんだ。俺がしり込みするわけにはいかない!


しかし、操られているせいだろうか? 殺気がない……。


俺にとっては、やり難い相手だ。


ここはスピードで……。 


うおっ! 俺の速度についてきた? マジかよ!


早く決着をつけたかった俺は、回り込む為に横方向へと全力で走ったが、アレンはそれに反応してついてきやがった。


この速度に反応できたのは、セシルさんくらいだったから、舐めてた! くそっ!


俺が走りながら斬りかかるとアレンは後ろに飛びのき、光の魔法をなんの事前動作もなく放ってくる。


くっ! さすがに光の魔法! 速い!


本当の光じゃないから、距離さえあれば避けられるけど! うおっとぉ!


ギリギリで躱せたが、俺のマスクは眉間の部分が焼切れ、床へと落ちる。


特殊で強靭な素材で作られてるマスクが……。


くそ! 威力もシャレになってない!


うおっ!


俺が体勢を崩したところに、距離を詰めたアレンが容赦なく剣を振り下ろしてきた。


俺は横に転がりながら避ける。


『ぬう? 剣も特別製か?』


転がる力を利用して足元に剣を走らせたが、アレンの剣に防がれてしまった。


奴の剣は魔剣での攻撃に、びくともしていない。


「面白い剣を持っているようだが、それは私の作った魔法生命体の中でも最高の戦闘力を誇っている。剣も特別製だ。お前のような傭兵などではどうにもならんわ!」


トバイアの高笑いがムカつく!


元々かなりの実力だった魔法剣士が、パワーアップしてる。


その上、殺気がなくて攻撃タイミングが読めない。


厄介なんてもんじゃない……。


どうする?


移動速度と剣速だけは、俺が少し上……。


しかし、アレンには準備動作なしで使える、遠隔攻撃がある。


戦力はほぼ同等って所か?


ん? まてよ……。


操られてるって事は……。


判断力はどうなんだ?


自己判断能力はどれぐらいあるんだ?


『試すかのぉ……』


ああ……。


俺はトップスピードにのり、アレンに正面から斬りかかる……。


ふりをして床を思いきり蹴り、正面に残像を作ってから、回り込んで斬りかかる。


「後ろだ!」


トバイアの声に反応し、アレンは俺の剣を受け止めた。


よし!


そう言う事だな……。


『判断能力は機械的な物じゃな。目に見える範囲のみ! それ以外は……』


トバイアからの指示だ!


これなら手段はある!


アレンと距離をとり、不意をついて俺はトバイアに跳びかかった。


アレンは急いで、その俺に光の魔法を放つ。


ナイスッ!


予測済みだった光の魔法を俺が避けた事で、それはトバイアの足元に当たった。


トバイアの視線は、反射的にその足元へと向いてしまう。


その瞬間、トバイアに背中を向けた俺は、もう一度全力で床を蹴る。


そして、アレンの剣が届く間合いぎりぎりで横に跳び、虚像を作った。


「くっ! 後ろだ!」


アレンはトバイアの言葉に反応し、目の前の俺を無視して背後へ斬りかかる。


しかし、アレンの剣はなんの手ごたえなく、床にぶつかった。


〈ミラージュ〉


トバイアが気配を読めるのは、気当たりが出来たことで分かっていた。


俺は、気配のある残像と、気配のない虚像をアレンの前に残して、すでに移動済みだ。


正解は……上だよ!


トバイアの視界内から逃げる為に、高く跳び過ぎていた為、相手に迎撃の体勢を作る時間を与えてしまった。


宙に浮いた俺に気付いたアレンは、光の魔法を放とうと指を伸ばす。


だが! ぎりぎりこっちが速い!


俺は左肩に魔法で穴を開けられたが、アレンの魔法石を体ごと袈裟切りにする事に成功した。


まだだ!


着地の衝撃を膝で吸収しきった俺は、全力で床と垂直に跳ぶ。


<シーザースラッシュ>


そして、トバイアの懐に飛び込んだ俺は、胴体を真横に両断した。


『生命反応は消えたぞ』


「ああ……」


何とか、魔道兵機の復活を阻止できた。


しかし、この後味の悪さは……。


『しかたあるまい……。お前のせいではない……』


分かってるよ。クソジジィ……。


でもさ……。


俺が考え込んでいる間に、オーナーがあおむけになっているアレンの隣に座りこんだ。


「ごめんね……。遅くなって……」


オーナー……。泣かないでくれよ……。


その時、魔法石を俺に砕かれたはずのアレンが、片腕をゆっくりと上げていく。


そして、オーナーの涙を拭った。


目が正気に戻っている?


「俺こそすまなかった。迷惑……ごほっ……かけたね」


「そんなことない! 私はあなたのおかげで生きてるのよ!」


「そうか……。よかった。これからも生きてくれ……がはっ……。ごほごほ……君が俺の生きた証だ…………」


それだけ呟くと、アレンの腕は力なく落下した。その目を閉じていくアレンの顔は、安らかなものだった。


空気を読んだアミラちゃんは、オーナーの隣でただその光景を眺めている。


『想いが……奇跡を起こしたか……』


馬鹿かジジィ……。


奇跡なんかじゃない……。


必然だ……。


『なるほどのぉ……。しかし、お前はこの場面でさえ、その口の悪さか?』


俺は俺だ……。


オーナーは、もう動かなくなったアレンにすがりつくように泣いている。


声を殺して泣いている。


俺にはまねできないな。オーナーは強いや……。



これで何度目だろう……。


俺は、再び気を緩めてしまった。


それで今まで何度も失敗しているのに……。


俺は本当に、馬鹿野郎だ。


****


目を閉じて頭を掻いていた俺の耳に、金属の板が落ちたような音が届く。


「きゃあ!」


「なっ!」


物音に俺とアミラちゃんが振り返った時、息絶えたはずのトバイアの上半身が浮き上がっていた。


魔道兵機の一部となったトバイアは、生命反応がなくなろうと動力が切れるまで動けるのだ。


トバイアはすでに身も心も魔道兵機に乗っ取られていた事など、その時の俺は知らなかった。


ただ、知らなかったでは済まされない事がある。


俺がひるんだ瞬間にトバイアの上半身は、オーナーに飛び掛かっていく。


魔剣を腕の中へ戻して、オーナー達から距離を置いて立っていた俺の手は、届かなかった。


オーナーを守ろうとしたアミラちゃんが、吹き飛ばされ気を失う。


「あっ……」


俺の目に映ったのは、トバイアの腕に胸を突き破られた……。


オーナーの姿だった……。


オーナーの胸を貫いたトバイアの手には、血に濡れた黒い魔法石が握られていた。


オーナーはトバイアの手が引き抜かれると、痙攣した後にゆっくりと倒れ込んだ……。


そんな……。


なんでだよ……。


何で俺の大事な人は、死んで行くんだよ……。


有り得ねぇぇぇぇぇって! 神様よぉぉぉぉぉぉ!!


殺すなら俺を殺せよ!


オーナーを連れて行かないでくれよ!


お願いだ……。


お願い……。


お願いします……。


俺は、倒れたオーナーを抱き上げる。


オーナーは、心臓がつぶされていた。


ジジィ! 何とか出来ないのかよ!


『これではどうしようもない……』


魔剣で回復もできないなんて……。


こんなのってないよ……。


くそぉぉぉぉぉぉぉ!!


奥歯を欠けるほど噛みしめた俺の頬に、オーナーは優しく手を添える。


「また……お前は……。涙を流さずに泣いているのか? その泣き方が一番つらいんだぞ……」


「オーナー……。一緒にホテルに帰りましょうよ!」


「けほっ……。ふふ……お前を拾った時も、その涙も流さずに泣いている顔をしていたんだぞ……」


「俺頑張って働きますから! 返事もちゃんとはいって言いますから!」


「私の殺伐とした……ごほっ……逃亡生活で……。お前との時間は……うっ……たのし……かっ……た……よ……」


俺の頬から、手が離れ……。


オーナーの目から、光が消えていく……。


そして、体からは命その物が消えてしまった……。


ああ……。


また俺は大事なものが守れなかった……。


なんでだよ……。


何でこんなに良い人が死ぬんだよ!


神様よぉぉぉ!


何で!?


俺じゃなくてオーナーを連れてくんだよ!


こんなの酷いよ……。


殺すなら俺を殺せって言っただろうが!


なんで……。


『レイ……』


許せない……。


自分自身が……。


オーナーを守れなかった自分自身が……。


自分自身を殺したい……。


ただ……。


その前に、トバイアを殺す……。


俺の中で、真っ青に冷たく燃える炎が揺らめき始めた。


頭の中では、怒りと殺意が渦巻いている。


にもかかわらず、心は凍りつくほど冷たい……。


そうしなければ、俺が俺自身を制御できないから……。


俺はとても……。


とても純粋な……。


殺意で心を満たす。


「くくくく……。魔道兵機は蘇る。お前のようなただの人間には、もう何も出来まい?」


トバイアの笑いが、俺の殺意をさらに加速させる。


「まったく……。その人間の娘も馬鹿な奴だ。そいつのせいで計画が一年以上遅れてしまった。だが! これで全ては整った! 世界は私のものになるのだ!」


オーナーが馬鹿だと?


オーナーはこんな馬鹿な俺に、安息を与えてくれた人だったんだぞ?


俺の恩人なんだぞ? いい人なんだぞ!


許さねぇ。


こんないい人から愛する人を奪った上に、殺しやがった。


許せるわけがねぇ……。


俺の中で、殺意が純度を増していく。


さっきまでは巻き込まれた戦いだった。


だが、今から俺の私怨だ。


殺す。


殺す。


殺す。


お前の全てを壊して、殺してやる。


俺は、立ち上がりトバイアに叫ぶ。


「てめぇは、なにがあっても……俺が殺してやるよ!」


「もう遅いわ!」


地下に設置されている魔道兵機の機材達が、低いうなり声を上げ始めた。


トバイアはすでに、装置へ魔法石六つをセットしていた。


そして、遺跡全体が振動し始める。


最悪の魔道兵機が蘇る。


『そう言う事か……』


なんだ? ジジィ?


『どうやら、今の魔道兵機には自我があるらしい。それがトバイアに憑りついて復活する為に動いたようじゃな。じゃから、トバイアはもう死んでおる。しかし、乗っ取られた部分はまだ動いておるんじゃ……』


じゃあ……。


全部…………。


この魔道兵機のせいなんだな?


『そう言う事じゃ……』


「アミラ!」


そこへアニスちゃん達が、到着した。


殺意に満たされた俺は、それを気にする事が出来ない。


****


これもまた今思えば、その後の苦労の始まりだった。


仕方ないし、どうしようもないけど……。


俺って、もう少し打算的に生きてもいいんじゃないかと思う。


覆水盆に返らずってね。


俺って神様に嫌われてるから、もう少し考えて生きないといけないんだよねぇ。


ふぅぅぅぅ。


やってらんね~……。

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