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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第二章:魔法の国の傭兵編
21/106

七話

ガチャンと重く冷たい音を立てて、牢の鍵が開かれた


俺は、留置所から解放される。


アニスとカーラが、迎えに来てくれたからだ。


「貴方……何やってんのよ……」


「何もしてない! てか、人助けして……くっ……捕まった……」


「くっじゃないわよ。相変わらず、不器用通りこして馬鹿ね」


ぐっ……。カーラに言い返せん……。


くそっ! 馬鹿って言うほうが馬鹿なんだよ!


なんて言ったら、ナイフで刺されそうだしなぁ。


「申し訳ありません、ヘイルさん。状況は確認して、貴方が警備兵を守ってくれたのは分かっていますので……」


「もういいです……」


「本当に申し訳ありませんでした。アミラも反省していますので……」


うん?


「アミラって、あの三つ編みの子?」


「はい。彼女はあれでもこの国の四将軍の一人なんですが、連日の夜間の見回りで疲れから不覚をとったようでして……」


「まぁ……。いいですよ」


アニスちゃんは、幾度も頭を下げてくる。


「本当に申し訳ありません」


「もう、いいですよ……」


美人にここまでされたら、怒れないって……。


「ホテルの朝食、中々おいしかったわよ。留置場なんかにいるから、食べ損ねるのよ」


なぜカーラは、いちいち俺に喧嘩を売ってくるんだ?


一緒に仕事するなら、アニスちゃんのほうがいいなぁ……。


はぁぁぁぁぁ。


やってらんね~……。


「それで、今日の予定ですが……」


「あっ、はい」


まだ申し訳なさそうにしてくれているアニスちゃんは、留置場の廊下を歩きながら説明を開始した。


「これから評議会の場で、評議長及び四将軍へ面会していただきます。その後は、町の警備の依頼ですから観光を含めて町を回ってもらい、夜になってから本格的に警備兵と一緒に見回りを……」


「了解」


「分かったわ」


****


アニスちゃん案内されて、俺達は町の中心部にある評議会へ赴いた。


魔法国家であるルナリスに国王はいないが、この魔法評議会が政治の中心で、その評議長こそが大統領みたいなものだ。


それも、魔力が強いものから選出されるので四将軍はかわるが、評議長は代々アニスちゃんの家系が世襲しているらしい。


ある意味、王族となんら変わらんなぁ。


まぁ、俺には関係ないけど。



「こちらです」


一般人がそうそうは入れない建物の一番奥にある評議会室へと、俺達二人は通された。


部屋に入ると俺達を品定めするかのように、四将軍や評議長達がジロジロと眺めてくる。


なんかあんまりいい気分がしない。


「では、まずこちらから。それぞれの自己紹介を……」


アニスちゃんの言葉に、真っ赤な長髪のナルシストっぽい男が立ち上がった。


「名乗るなら、その傭兵のほうが先だろう!」


その強い言葉にアニスちゃんがたじろぐ……。


偉く高圧的な奴だな。


まあ、実際に権力も持ってそうだけどねぇ。


「ニルフォのフェザーギルドから来ました、ヘイルです」


「同じくカー……」


「カーラ姫の事は分かっておるから結構じゃよ」


カーラの自己紹介を、頭までローブを被った老人がとめた。


まぁ、姫さんとして正式に何度か訪問したらしいから、当然だろう。


んお? アミラちゃんがいる!


昨日のヌード思いだしちまった。


俺と目があったアミラちゃんは、顔を真っ赤にして目を伏せた。


かわいい。


さっきのナルシス野郎が俺は何故跪かないのだと、アニスちゃんに文句を言っている。


俺は、お前の部下じゃないぞ? ナルシストっぽいし、顔の形代わるまで殴ってやろうか?


「では、こちらの自己紹介を……」


評議長の隣に立っていたクールビューティーなおねいさんが、見かねて話を進めてくれた。


冷たい感じのする女性だが、その無機質さがより美しさを引き立ててる。


なんか、スーパーモデルって雰囲気だな。


「まず、私から……評議長の秘書をしております。氷のイリアと申します」


氷? なにそれ? 苗字?


「ここの人間は、得意な魔法で二つ名が全員にあるのよ」


カーラが耳打ちしてくれた。なるほどね。ある意味、恥ずかしい文化だな。


イリアさんは氷か……。


あまりにもイメージ通り過ぎる。


これで火が得意なら、なんか逆に興奮すんだけどなぁ……。


「わしは東地区担当の四将軍、雷のバランじゃ」


さっきの老人が立って頭を下げてくれる。


あ、このじいさんはいい人っぽいな。


「私は南地区担当の四将軍、風のアミラです。昨日は失礼しま……」


「俺は西地区担当、光のアレンだ」


アミラちゃんの言葉が終わりきるよりも早く、隣にいた男性が立ち上がって名乗りを上げてきた。


ぬう……何故ことごとく俺の前には、爽やかなイケメンが立ちふさがるんだ?


それもまた、得意なのが光って……。もてるんだろうな~。


絶滅してくれねぇかななぁ。イケメン、全員。


「ふん! 北地区担当、炎のネロだ……」


最後にナルシスが自己紹介をした。


態度悪!


最後に評議長か……。


「私がルナリス評議長……トバイア:カーチスだ」


んっ? なんだこいつ!


かなり強い気を当ててきやがる!


挑発してるのか?


そう言えば、初めて師匠にされた時は、息もできなくなったっけな。


でも、今の俺には効きません!


てか、多分俺のほうが強い剣気を出せるしね!


ん? うお!


カーラが胸を押さえて、膝をついていた。


まずい! 呼吸が止まってるんだ!


脂汗が流れだしている!


俺は、急いで自分の剣気を評議長にぶつけた。


「はぁはぁはぁ……」


カーラが自立呼吸を取り戻した。


ふぅ……。


なにすんだ! このクソオヤジ!


「ふふふ……、すまんな。実力を確認しておきたかったが予想以上だ。まさか私の気当たりをいともあっさりはじき返すとは……。宜しく頼むぞ、ヘイル」


挨拶代わりってか……。ふざけやがって……。


殴ったうえで引き摺りまわして、踏みつけまくってやろうかぁ? この野郎!


「す! すみません! お父様もネロも! 折角来ていただいたのに!」


「レイ……。私はいい。ここは我慢して……」


アニスちゃんが抗議してくれているし、カーラも……。


はいはいっと。さすがに腹が立つからって、国で一番偉い人に逆らったりはしませんよ。


掴まるのやだもん。


本当は、ボッコボコにしたいけどね……。


****


その場にとどまるのがよくないと考えたらしいアミラちゃんに、俺達は客室へ案内された。


そして、正式な謝罪を受け、アミラちゃんとアニスちゃんが町を案内してくれることになった。


この時の俺は、美人と観光できるなどと浮かれて、舐めていた……。


女性が三人で、町を観光する。この事の恐ろしさを……。


俺は服屋の前で死ぬほど待たされたり、荷物を大量に持たされたり、デザートの行列に並ばされたりしたわけですよ。


はははっははは……。


殴っていいんだよね! こういう場合!


許されるよね! 合法ですよね!


も~……。


****


その日の夕方、兵舎の一番良い部屋を、俺は仮宿として与えられた。


八畳一間に、リビング、ダイニング、キッチン……。


生活に必要な物は、全てそろっている。十分だ。


「あんたの部屋……みすぼらしいわね……」


また勝手に部屋に入ってきたカーラが、気になる事を言う。


てか、ノックをするっては、一般常識じゃないのか?


オーナーと言いカーラと言い……。


「私の部屋、見てみるか?」


「ん? ああ……」


カーラは十六畳の部屋が四つもある、別の建屋の住居を与えられていた。


立派なリビングにキッチン、風呂とトイレも別だと!?


どこの高級スイートルームですか?


何? この格差!


後ほどアニスちゃんから、カーラは王族なので、来賓用の特別な部屋があてがわれたのだと説明された。


納得いかね~……。


今回の依頼、メインは俺じゃないのかよ。


まあ、あんな高級そうな部屋じゃ眠れないだろうし、いいか……。


それよりも大事なのは、夜間の見回りだ!


今日はアミラちゃんと、夜間警備に回る。


仲良くなれたらいいなぁぁ。


『ほれ、頭の中ピンク色ではないか』


起きて第一声が、嫌味ですか? ジジィ。


何回も言うが! 思春期の男は皆ピンク色なの!


真面目ぶってる奴はむっつりスケベで、表に出してる奴はただのスケベ!


全員スケベなの!


『必死すぎて笑えんわ……』


くっ……。最近俺のほうがあしらわれ始めた。


寝てる間に、濃硫酸で俺の名前掘ってやろうかなぁ。


『その程度では、ミスリル製の魔剣は傷もつかんぞ』


ミスリル? あの伝説の?


『そうじゃ。ちなみに真の姿を現した時の芯になっている部分は、これも名高き賢者の石でできておる』


マジで?


売ったらいくらになる? 遊んで暮らせる?


『馬鹿かお前は! わしを売ろうとするな!』


いや、それで正当後継者に行きつけば、万事うまくいくじゃん。


『その為には、お前に死んでもらわねばならんのじゃが……』


今のなしの方向で!


『アホが……』


ジジィとの会話をしながら部屋で荷物をほどいていると、アミラちゃんが迎えに来てくれた。


前日の光景のせいで、俺の笑顔はふにゃふにゃだった。


****


夜間の警備は、四将軍が兵士十人をひきつれて、街中を練り歩く。


正直、効率が悪い。


魔法と工業の国なのに、魔力を感知する機械とかないのかな?


「今日は、ここの通りを中心に右方向にまわります」


「あ、了解だ」


「あの……それで……。昨日はすみませんでした。その……」


アミラちゃんはいまだに、俺を留置場送りにした事を謝ってくれている。


ヌード見せてもらったから、もう怒ってないんだけどなぁ。


『そうじゃな、今後もう一生見る事が出来んかもしれん、生身の裸じゃからな……』


俺が童貞のまま死ぬ事、勝手に決めるな!


絶対! 彼女を作ってブラジャーを外すんだ!


『まぁ、せいぜいがんばれ……』


冷たっ! ひどいな! クソジジィ!


んっ!?


『また出たようじゃな……』


どこだ? 結構距離があるよな?


『ここから、北の方向じゃな……』


「アミラちゃん……」


「はい?」


「出たぞ!」


俺は、魔力のする方向へ走りだした。


夜で人通りが少ないのは助かるが、距離が……。


『犠牲者が出る前に急いだほうがよいのぉ』


分かってる!


俺はアミラちゃん達を置き去りにして、かなり速度を上げて走り始めた。


カーラはバランさんと東にいるから、問題ないだろう。


北はあのムカつくネロの区域だが、そんなこと気にしてられない。


****


「ぐぐ……」


俺がたどりつくと、ネロが敵に追い詰められていた。


四将軍ってのは、名前だけか?


今回の魔法生物は……。きもい……。


なんだ? でっかい海牛? なめくじ? まあ、そんな感じの気色の悪い何かだ。


「ファイアストーム!」


ネロが両手から炎を放つが、全く効いていない。


だって、敵も火を吐いてるもの。


火の敵に、火で立ち向かうって……。頭が弱いんですか?


プライド高いくせに、これだよ……。


『まあ、劣勢になって、絶対の自信のある魔法に頼るのは当然じゃ。そう、呆れるな』


自分に防御フィールドは張ってる分、昨日のアミラちゃんよりはましか……。


どうしよう?


よし! もうちょっとやられるまで待とう!


『相変わらず、腹黒いのぉ……』


いいじゃん! やばかったら助けるって!


おっと、言ってるそばから、もう触手で吹っ飛ばされて本当に動けなくなりやがった。


さすがに助けてやるか。


〈ホークスラッシュ〉


でっかい軟体動物の口付近から伸びた触手を、三日月状の衝撃波で切り裂いた。


「お前は、ヘイル……」


「応援に来たぞぉ」


「余計なまねを……」


うわ~、ムカつく……。


おっと! 炎の球を吐いてくるが、それが思った以上に高温だ。


熱で近くの建物のガラスが、割れやがった。


とっとと片づけよう。


俺は、昨日の敵じゃないが壁をけり、四メートルはある敵の頭上に、高速で飛び上がる。


その事に気が付かない敵は、地上に出来た俺の残像に、炎を吐きだしている。


隙だらけ! くらえ!


〈サザンクロス〉



俺は、敵の頭だと思われる部分を、十字に切り裂いた。


体表の粘液で斬撃には耐性があるんだろうが、魔剣の前では意味がない。


弱いな……。


『今のお前にとってはな……』


「くっ……」


ネロが悔しそうに俺を見ている。


感じの悪い貴様には、心の底から行ってやろう。


ざまあぁぁぁぁ! 俺のがつおい!


『ばかもん! 相手が弱いからと気を抜くな!』


えっ? うお!


でかい軟体動物が、想像以上の速さで逃げていく!


死んでなかったのかよ! まずい!


『油断大敵じゃ! まったく!』


悪かったよ!


これは気を抜いた俺のミスだ。反論も出来ない。


俺は急いで後を追った。


****


「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」


また、女性の悲鳴が!


まずい! 俺のせいにされる!


悲鳴のした路地裏に飛び込むと、よくわからない光景が目に飛び込んできた。


何これ?


『お前が切り捨てたのは多分、頭ではなく肛門側だったんじゃろうな』


海牛野郎は回復しようとしたのだろうが、夜道を歩いていたであろう女性を三人襲って食ったようだ。


触手で服を破られたその女性達は、そのまま敵に丸呑みにされていく。


しかし、敵には下半身が無いので、ぬるぬるになった女性が、化け物の体から転がり出てきていた。


何してんだよ、お前……食べれてないじゃん!


「助け! 助けてくれぇ!」


女性と一緒にいたらしい路地裏の隅でしゃがんでいた男性も、敵の触手に掴まる。


その男性も服を器用に破り捨てられて、後ろからヌルっと出てきた。


襲われた人達は気を失っているようだが、死んではいないだろう。


なるほどなぁ。こいつ……馬鹿だ。


『軟体動物に知能を求めるのが、間違いなんじゃろうな。それよりも、早く始末せい』


俺が今度こそ頭を両断すると、敵は塩をかけたナメクジのように縮んで、最後には煙となって消えた。


残ったのは、ヌルヌルの女性三人と男性一人。


うめき声が聞こえるし、生きてるよな?


『まあ、多分な』


俺は女性の一人に近づき、呼吸と鼓動を確認する。


問題ないようだ……。


『何故鼓動を確認するのに、直接胸に手を触れているんじゃ?』


役得……。


『エロガキ……』


今日は安眠でき……。いや! 興奮して眠れんかもしれん! 


などと考えていたが、俺は不運の塊。


これだけで済むはずがない。


えっ? マジで?


「……ひっ!」


その光景を、いつの間にか駆けつけたアミラちゃんが、見ていたらしい。


女性の体に集中し過ぎていた俺は、気がつけませんでした。


「こ……ここに大変な変態がいますぅぅぅっ!」


俺はアミラちゃんとネロに見られながら、ヌルヌルの女性の胸を揉んでいたって事だ。


****


それ以降、アミラちゃんが口をきいてくれなくなったのは、言うまでもない……。


なんでこのタイミング?


絶対なんかの呪いだよ!


はっ! 魔剣持ってるから?


教会行かなきゃ!


てか、大変な変態ってなんだよぉぉぉぉ!


変態の最上級かなんかですか?


俺多分ノーマルだよ?


アブノーマルなんて、そこまでのレベルにも達してないよ?


だって、童貞ですもの!


神様は俺をどうしたいんだ?


むっつりアブノーマルの変態スケベにしたいのか?


マジで勘弁しろよぉぉぉ!


アミラちゃんと付きあうなんて、もう無理じゃんかああぁぁぁぁ!


もぉぉぉぉぉぉ。


やってらんね~……。

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