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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第二章:魔法の国の傭兵編
20/106

六話

「ふぅぅ……疲れた」


その日も深夜に叩き起こされ、ホテルの掃除を必死に終わらせて、屋根裏部屋に戻ってきた。


オーナー! 人使い荒過ぎるわ!


こっちは毎日剣の修練もして、くたくたなのに……。


ほんと勘弁してほしいよ。


俺は、そのままベッドへ倒れ込んだ。


オーナーもあそこまで美人じゃなきゃ、もう少し抵抗するのに……。


ウェイブのかかった赤くと長い髪に切れ長な瞳、そしてデコとボコが共存するグラマラスボディ。


反則だよなぁ。


てか、俺って本当に美人に弱すぎる。


自分でも認識しているが、致命的な弱点だ。


童貞じゃなくなれば、慣れてくるのかな?


ベッドに大の字になりながら、俺は壁の時計を確認する。


時間は夜中の三時。流石にもう客は来ないだろう。


明日は月曜日、ギルドへ朝から行こう。


あ……そう言えば……。


以前魔法生物の心臓部分から出てきた魔法石を、ベッドの脇机から取り出す。


これ……。結局使い道もなければ売れもしなかった。


どうしよう……。


俺が月明かりでその魔法石を眺めていると、カツンカツンと足音が階段を上ってくる。


バンッと大きな音と共に、俺の部屋の扉が開かれた。


勢いよく開かれた扉は、軋んでいる。


部屋にオーナーが入ってきた。


いや、まあ、来るのは足音で分かってたけど、ノックくらいしてよね……。


「おい! 三○三号し……」


ん? 


オーナーが俺の寝ているベッドまで、すごい速さで近づいてきた。


なになに!?


「お前……これをどこで?」


オーナー? この魔法石の事知ってるのか?


「いや……変なモンスター倒したら、体の中から出てきたんですが……」


「売ってくれ!」


「えっ?」


「いくらだ?」


「なんですか? 突然? これの事知ってるんですか?」


「いいから何も言わずに売ってくれ! 十万くれてやる!」


十万ギリ!?


あの守銭奴のオーナーが!?


「いいですけど……」


オーナーは俺から魔法石を奪い取ると、足早に出口へと向かった。


なんなんだ?


「……三○三号室頼むぞぉぉ!」


階段を降りながら叫ぶオーナーからの声が聞こえた。


俺はだるい体を起こし、部屋に道具を持って部屋へ向かう。


この日この時から、俺の運命は再び流転を始める。


よく思い出すと、オーナーとホテルを切り盛りし、ギルドでザザンさんやノリスとくだらない冗談を言う。


俺の人生の中では、とても幸せな時間だった。


俺の数少ない大事な時間。


それはひびの入ったガラス細工のように、壊れやすいものだった。


大事なものってのは、無くさないと気が付かないってのは、本当だ。


取り戻せるなら取り戻したい時間だ。


****


翌日、ギルドへ昼前に行くと、あるテーブルに人だかりが出来ていた。


なんだ?


ノリスが、そのテーブルに集まった傭兵達を追っ払おうと奮闘しているが、解決できそうな雰囲気ではない。


まぁ、俺には関係ないだろう。


俺はカウンターでコップを拭いているザザンさんに声をかける。


「軽い依頼でいいから、何かないですか?」


「ん? 依頼か……。ヘイル宛てに一日で済まないような依頼が、多数来てるんだがな……」


「そうは言われても……」


「この、ルナリス魔法評議会直々の依頼なんて五百万だぞ」


「マジですか!? でも、期間一カ月って……。無理ですよ……」


「まあ、そうだよなぁ」


のんびりと話をしていると、ノリスがくたびれた様子でカウンターまで歩いてきた。


「マスター! レイン来てるなら教えてくださいよ!」


何言ってるんだ? この加齢臭の塊は?


「おお! すまん。レインあそこに、お前を訪ねてきた客が来てるぞ。とんでもない美人だ」


なんですとぉぉぉぉぉぉぉ!!


美人の客?


俺は、ザザンさんに返事もせずに人込みをかき分け、テーブルの前にたどりついた。


ついた……。


ついたけども……。


何故に!?


なんでなんだ! ちくしょう!


そこには、俺にとって予想外過ぎる人物がいた。


「やっと見つけたぞ!」


金のサラサラヘアーを持つ、超絶美人のエルフ族。


なんでぇぇぇぇぇぇ!?


「カーラたま……」


「ずいぶん探したぞ……。ギルドもこれで十軒目だ」


ヤバい! ヤバい!


見つかったぁぁぁぁぁぁぁぁ!


「まっ! 待て!」


俺は考えるよりも先に、外へ向かって走り出していた。


つかまったら死刑! 死ぬの嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!


「こらぁぁぁ! レイ! 待て!」


カーラが、全力で追いかけてくる!


こぉぉろぉぉぉさぁぁぁぁれぇぇぇぇぇるぅぅぅぅぅぅ!!


きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!


命のともしびが消えてしまうっ! たぁぁすけてぇぇぇぇぇぇ!


****


俺は一瞬で気配を消し、路地裏のごみ箱の裏に隠れた。


何故ばれた?


それもなんで、わざわざカーラ姫が来てるんだ?


国外に依頼してまで、捜索させて……。そんなに、俺を殺したいのか!?


あわわわ……。


俺……死刑……。


いやぁぁぁぁぁ!


路地裏からカーラが通り過ぎるのを、見つめしばらく息を潜めた後、勢いよく立ち上がる。


よし! ルミナスに逃げよう!


そう考え、不用意にも路地裏から出てしまった。


俺の行く手をさえぎるように、五本の矢が壁に突き刺さった。


ドドドっと壁に刺さった音が、連続し過ぎていて音だけでは何本刺さったかも、識別できない。


この恐ろしいほどの早撃ち……。


ゆっくり後ろを振り向くと、カーラがすでに俺の背後でナイフを構えていた。


固まる俺の首に、カーラはそのナイフを突き付ける。


なに? 殺してもいい許可まで出てるの?


「ご……ご無沙汰しております、カーラ様……」


俺に出来たのは、精一杯の愛想笑いと挨拶だけだ。


「何故逃げる?」


おやおや、目が据わってらっしゃる。


「いえ……あの……反射的に……」


「お前は反射的に全力疾走して、気配を消すのか?」


全部見られてた!


「いや……ははは……」


うん! 俺……多分、ここで殺されるな。


さよならこの世……こんにちはあの世……。


「私はただ、お前の無事を確認に来ただけだ! 話をさせろ!」


えっ? ああ、さすがにすぐ殺されはしないのか……。


カーラは、ナイフを俺の首から下げた。


今だ!


俺が、走り出そうと後ろを振り返ると、既に背中にナイフがつきつけられていた。


こいつ! 速い!


背後をとられた俺は、何時でも殺される態勢になっているわけで……。


「私を舐めているのか? お前は?」


「ごめんなさい。許して下さい。もう二度としません……」


殺さないで……。


「さっきも言ったが、ただ私はお前に話しがあっただけだ……」


ここは刺激すると殺される……。


相手の要求に従おう。


「何でしょうか?」


「あの時は……すまなかった……許せ」


「あの時?」


「アラクネに襲われた時だ! あの馬鹿だけでなく妹まで……。許せ……」


ええぇぇぇぇ、今さらその話?


もう、どうでもいいよぉ。


「いえ、気にしていません」


「そうか! 王子には相応の処分を下した。その……それで……」


「はい?」


カーラが、背後で何かを呟いた。


「……あ……が……とう……」


アトウさんだと? なるほど……。分からん。


顔も口元も見えていない状態で、その音量ではさすがに聞き取れない。



なんだ!?


この強い気配は!?


俺が首を傾げていると、背後からの圧力が強くなった。


なんか違う気もするが……。


殺気か!?


殺されるのか!?


「あの……」


「いや、なんでもない……」


「そうですか?」


いかん! 刺激すると殺されかねん!


なだめるんだ!


「ところで、何故あそこまで必死に逃げたんだ? わ……私の事は嫌ってはいまい?」


「はい! それはもう……。でも、今俺アルティアに指名手配されてるじゃないですかぁ……」


「そ! そうなのか?」


おや?


「ご存じない?」


「ああ……。何をしたんだ?」


嘘は……つかないほうがいいだろうな。


多分、ついてもすぐばれる。


「皆の前で下法を使った上に、脱獄しました……」


「な! アルティアで? 死罪になるぞ!」


ああ……本当に知らなかったんだ……この人。


「それで、身を隠しています」


「そうか……。私は……恩人を掴まえたりはしない!」


そう言うと、カーラはナイフを下した。



今だ! 逃げろ!


再び、俺の行き先をふさぐように矢が降り注ぐ。


「話がしたいと言ったよな?」


マジギレしてる。


「じょ……冗談ですよ。近くに良いカフェがあるんです。ケーキも美味しくて……。おごりますよ!」


「分かった。ただ、次逃げたら手元が狂って、矢がどこかに刺さるかも知れんぞ……」


怖いんですけど!


めちゃめちゃ怖いんですけど!


****


カフェに移動して、俺はカーラの事情を聞いた。


俺に謝る為にアルティアに連絡すると、生死不明で国内にはもういないと言われて、城を飛び出してルナリスやニルフォ共和国を捜してくれていたそうだ。


半年も謝るだけの為に……。


ファルマ王国のエルフは、きっちりしてるって聞いてたけど、ここまで律義なんだなぁ~。すげぇ。


まぁ、アルティア王国につきだしたりはしないと言ってくれてるし……。


とりあえずはセーフか。よかった……。


でも……寿命が縮んだ。汗で、パンツの中までぐっしょりだ。


「ところで……お前は今どこに住んでるんだ? 私はまだ今日の宿を取っていないのだが……」


「ホテルに住み込みで働いてますが……」


「おお! では、そこに泊ろう!」


「いえ……そのですね。姫様をお泊め出来るようなホテルじゃないんですが……」


「なぜだ!? 私が泊ると不服か?」


俺は仕方なく、俺のホテルの事を説明をした。


「なっ! 何故そんなところに!」


「国籍もない指名手配犯が、まともな職につけるはずないじゃないですか……」


「そうか……。さすがに……まだ……」


「何がですか?」


「なっ! なんでもない! 近くのホテルに案内しろ! 私はそこに泊る」


「へい……」


俺はお金には困っていないと言うカーラを、出来だけ高級で安全なホテルへ案内した。


翌日の昼に迎えに来いと言われた。


勿論、俺に拒否権などない。


何しに来たんだ? このわがまま姫は……。


金持ちの酔狂は、よくわかんねぇや……。


まあ、昼なら休み時間に抜け出せるし……いいか。


俺に謝るっている用事は済んだんだし、どうせ、うまい店を教えろとかだろうな。


カーラをホテルの中へ送り届け、俺が外に出るとすでに夕方になっていた。


今日は、ギルドの仕事が出来なかった。


はぁ~……。


やってらんね~……。


****


俺がホテルに帰ると、閉店の看板がかかっていた。


何で?


急いで中に入ると、大きなトランクを足元に置いたオーナーが、俺を待ち構えていた。


「待っていたぞ」


「どうしたんですか? 何かトラブルですか?」


「いや……。しばらく旅に出ることになってな。ホテルは休業だ」


「はい!?」


「すまないが、生活用品を運び出してくれ」


「突然どうしたんですか?」


「金も溜まったし、温泉巡りに行こうと思ってな……。悪いがその間ここは閉め切る。どこかに泊りこんでくれ」


「そんないきなり……」


「本当にすまない……」


オーナーが本気で頭を下げている。


この半年で初めての事だ。


旅行ってのは嘘くさいが、顔は真剣そのものだ。


何か事情があるんだろう。


言って聞いてくれる人でもないし、ここで食い下がっても時間の無駄になるだろうなぁ。


仕方ないか……。


「分かりました。で、どれくらいですか?」


「早ければ、一カ月……長くても三カ月ほどでは帰ってくる」


「分かりました。帰りが決まったら、ギルドに連絡を下さい」


「ああ。すまないな」


俺は、元々必要最低限の物しか持っていないので、ザックと手持ち鞄だけで全部の荷物を詰め込む事が出来た。


そして、オーナーと一緒にホテルを出た。


その時は、この愛着もできたこのホテルに、二度と帰ってこないとは思いもしなかった。


俺が魔剣の継承者だからだろうか……。


それともただ神様に嫌われた、不運の塊だからだろうか……。


幸せってものが、手のひらからどんどんこぼれ落ちていく。


どんなに頑張っても報われない。


本当に、嫌になるよ……。


****


俺はその日、姫様と同じホテルの一番安い部屋へ泊った。


一泊五千ギリって……。くそ高い。


ちなみに姫様は、一泊五万の部屋に泊っている。


ブルジョワの人間って、皆頭がおかしいんだ……。きっと。


俺は、最悪ギルドの酒場にでも泊ろうかと考えたが、よく考えるとルナリスから五百万の仕事が来ていた事を思い出した。


諸経費含まずになっていたから、生活に困らない。


一カ月は最低かかるって言ってたし、話だけでも聞いてみるか。


五百万あれば、部屋も借りられるだろうし……。


その日は修練をして、ジジィといつものしょうもない話をしてから眠った。


その日の夢にセシルさんが出てきた。


優しい笑顔で、ありがとうと呟いて消える。


朝、目が覚めると胸が締め付けられるように痛んでいた。


俺は、あの人を殺して生きている。


勇者だったセシルさんを殺して……。


****


昼と言っておきながら、カーラは朝一番で俺の部屋へ入って来た。


へこんでる所に……勘弁してくださいよ……。


てか、ホテルの屋根裏部屋になかったから、鍵かけるの忘れてた。


エルフって礼儀正しいんじゃなかったの? ノックは?


それも、何か変な仮面をかぶっているし……。


ファルマ王国の黒魔術的な儀式か?


それとも……。


アホなんですか? この人は?


俺がシャワーを浴び準備をしている間、シャワールームに背中を向けて座ったカーラは、嬉しそうに仮面をつけた理由を話し始めた。


俺と一緒に、身分を隠してギルドで働くと言い始めた訳で……。


何考えてるんだ? この姫さんは?


自分なら、俺の相棒として十分すぎるだろうと言っている。


確かに実力は認めるが、足手まといなんだけどな。


やんわり断ろうとした俺の首にはもちろん、ナイフが突き付けられた。


今回は、ちょっと薄皮を切られた。


この人怖いんですけどぉぉぉぉぉぉ!!


****


断ることなど出来なかった俺は、カーラを連れてギルドへ向かう。


カーラは、勿論Aクラスだ。


ノリスが、カーラの矢から半狂乱で逃げていた。


同情はするが、助けようとすれば俺が刺されるので、見守った。


カーラは法術もレベルが高いし、下手な傭兵より実力は上だろう。


スカットのミラやエクスよりは実際に強い。


ただ、カーラからのもう一つの要求の意味は、よく分からなった。


相棒になったのだから、仮面をつけている間はカルラ、仮面をとったらカーラと呼び捨てにしろと命令された。


これも遠慮したらナイフを突き付けてくるので、了解した。


怖いとかじゃなくて……。


もう、この人頭おかしいんですけどぉぉぉぉぉ!


いや、五百万が手の届くところにあるんだ。負けるな。


俺……頑張る……。


****


事情を説明しルナリスの依頼を受けるとザザンに言うと、ホテルに泊まり込んでいたルナリスの副評議長が、わざわざギルドに来てくれた。


評議長の娘さんで、姫様みたいなものだ。


オーナーと同じような赤い髪を、ポニーテールにした綺麗な女性だった。


態度も俺の横に座る、とんでも姫様と違い礼儀正しい。


「今回は、依頼を受けていただきありがとうございます」


「内容は、ルナリス首都に最近頻発している、無差別殺人の解決でよろしいですね?」


「はい、一カ月は仮で一カ月以内に解決しても約束の金額はお支払いします。それに、一カ月以上かかっても追加料金はきちんと払いますので……」


「ありがとうございます。で、ルナリスでの宿泊施設なんですが……」


「それもこちらで用意いたします」


おお、話が早い。やばい仕事だからだろうが、相手の準備が万端だ。


「では、交渉成立ですね。早速出発しますか?」


「はい。……あの……それと……」


「何でしょうか?」


「カーラさんですよね? 何をなさってるんですか?」


いきなりばれた! てか、面識あるのかよ!


カーラは何事もなかったように仮面を外した。


「久し振りね、アニス:カーチス。元気にしてた?」


「はぁ……。何をされてるんですか?」


「人生勉強の……その修行中よ。今回の依頼、私も行きますからね」


「はぁ……。宜しくお願いします」


なんだか変な雰囲気のまま、ルナリスに向かう事になった。


ギルドを出るときにカーラの顔を見ると、真っ赤になっていた。


普通に考えれば、レーム大陸でも珍しいエルフで、その目立つ金髪じゃあ、すぐばれるだろう事が分からなかったのか?


カーラは、馬鹿って言うか世間知らずなんだなぁ。


先が思いやられる。


なんで俺がおもりをしないといけないんだ?


面倒くさい……。


****


二日後、ルナリスについた俺たちはとりあえずと言う事で、ホテルに泊ることになった。


アニスが用意してくれた部屋は、一泊二十万もする高級ホテルだった。


カーラはアメニティがいまいちだとか、色々文句を言っていたが……。


俺は緊張して眠れない……。


ベッドがやわらかすぎる!


部屋中が、なんかキラキラしてるぅ。


何の精神攻撃だ!


『高級ホテルは、普通こういうものじゃ……』


ジジィ!


そうなの?


『貧乏くさい事考えとらんと、さっさと修練して眠れ』


いや! だって! この部屋に長居しないと損した気がする!


『この貧乏人が……』


珍しく普通の事言うけど……。


俺、孤児ですよ!?


お金とか高級とか縁がなかったの!


アドルフ様の屋敷でも、リリーナお嬢様のせいで鼠の出る屋根裏部屋暮らしだったし!


『わしが悪かった。不憫になってきた……』


高級怖い……。高級怖い……。高級怖い……。


『なんの病気じゃ?』


****


その日、眠れない俺は軽く町を散策してから、公園を見つけて修練をすることにした。


「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」


日が変わるぐらい時間になり、女性の悲鳴が聞こえた。


なんだ!?


魔力は感じるが……。


『魔法生命体かも知れんな……』


ああ! そうか! あの変な感覚に似ているわ!


俺はマスクとマントを装備すると、悲鳴がしたほうに走った。


そこには、顔がトラかライオンのような肉食獣で、体が多分ゴリラの化け物がいた。


そいつは、ルナリスの警備兵と戦っていた。


羽根は生えていないが……。かなり素早いな。


壁をけって左右に飛び跳ねている。


ルナリスの警備兵はさすがに魔法の国兵士だけあって、さまざまな魔法で応戦しているが……。


ほとんどあたっていない。


『それに当たっても、ダメージを受けておらんな』


なんだ? 障壁の類か?


『分からんが、舐めてかからんほうがいい』


見ている間に警備兵は全員動けなくなり、隊長らしき女性だけが残った。


三つ編みが可愛いな……。


『この最中に……』


あっ! 殴られて気を失った。


仕方ない。助けるか……。


うわっ!


化け物は倒れている兵士の鎧をはぎとり、食べ始めてしまう。


俺が様子をうかがっていた屋根から飛び降りると、今度は女性が服を破り取られ、素っ裸で食われそうになっていた。


させるか!


速度を上げて相手の前に出て、下段から剣を振りぬいた。


今の感触は?


敵の腹部に小さな切り傷が、出来ただけだった。


『何らかの防壁じゃのぉ』


それも、何か普通の防壁じゃない。


剣の軌道を、そらされた……。


刃を当てられなけりゃ、魔剣でも大したダメージは与えられない。


なんだ?


「ぐぁおおお!」


敵が鋭い爪で襲いかかってくる。


「なっ!」


確かに爪は躱した。


しかし、俺の頬には切り傷が出来ていた。


うん? ああ! そう言う事か……。


『分かったか?』


ああ……。


多分、風のフィールドを薄く張ってやがる。


さて、どうするかな……。


化け物は再び左右の壁をけり、高速移動に入った。


だが……遅せぇ!


今まで戦ってきたモンスターたちと比べて、そいつは別段速くはない。


てか、重い体重で跳ねまわっているだけなので、アラクネの糸の方が速いくらいだ。


〈ホークスラッシュ〉


相手の着地のタイミングを見計らって、俺は衝撃波を放つ。


その衝撃の刃で、風のフィールドを一瞬だけ吹き飛ばした。


「はぁ!」


自分の放った衝撃波と同じ剣筋を走らせた魔剣で、敵を両断した。


動きが止まり、防壁を無くした奴なんて、魔剣の敵じゃない。


「ふぅ……」


Cランクくらいか?


『れっきとしたBランク中位の魔法生物じゃ』


あんまり強くなかったけどな……。


まぁ、いいや。


お! こいつの心臓にも魔法石がある。


今度は緑色だ……。


俺は、倒れている兵士の手袋を使い、化け物の体からそれを取り出した。


そして、これまた倒れている兵士の服の一部を引きちぎり、血を拭きとった。


『お前は追剥か!』


命の恩人なんだからこれくらい、良いじゃん!


『全く……』


あっ! あのかわいい子助けないと……。


うほぉぉぉ!


女の子のヌードなんて、初めて生で見た!


『このピンク大王が……』


なんだよ? ピンク大王ッて!


『頭の中ピンク色じゃろうが!』


分かってる! でも、これは童貞には刺激強い!


ほとんど毒だから、あんまり見ないようにはしよう! 


それで、文句はないはずだ!


『そう言いながら、鼻の下を伸ばして、凝視しておらんか?』


こんなチャンス! 逃がしてたまるか! 網膜に焼き付けてやるんだ!


まあ、冗談はさておき、とりあえず……どうしよう?


起こすか。


『まっ! それは!』


「おぉぉい! 平気か?」


『まて! ばかもん!』


俺はジジィの言葉の前に、女の子をビンタしていた。


何か、まずかった?


『何か着せてから、起こさんか!』


あっ……。


時すでに遅く、女の子が目を覚ました。


やっべ。


女の子は目を擦った後、自分の姿を見て胸を両腕で隠す。


そして……。


「ぎゃあああああ! 変態!」


俺は駆けつけた警備の兵に囲まれ、留置場に連行された。


****


翌朝、理由を聞いたアニスとカーラが迎えにくるまで、何の設備もない留置場で過す事になる。


今回も命救ったのに……。


唯一の救いは、高級ホテルよりも留置所のコンクリートとタオルケットのほうが、落ち着いて眠れたことかな……。


俺……どんだけ貧乏性なんだよ……。


はぁ~……。今度は痴漢か……。


毎日神様の悪口言ってるのが、悪いのか?


…………。


でも! これからも毎日言ってやるからな!


ちくしょう!


はぁぁぁぁぁ。


やってらんね~……。

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