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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第二章:魔法の国の傭兵編
16/106

二話

「ふぅぅぅ……」


今日はホテルの休憩時間に、フェザーギルド兼酒場で食事をとっていた。


ここのハンバーグが、最近気に入っている。


ザザンさんの手作りだと聞いた時は少し引いたが、味は本当に悪くない。


明日は月曜日。何かいい仕事がないか聞いておこう。


あの初仕事から五回ほど仕事をしたが、あれ以降は特に問題がない。


『嘘をつけ……』


確かに一回富豪の御嬢さんの護衛で、間違えて風呂場を覗いてクレームを食らったが、それ意外は問題ない。


『全く、お前は女が絡むと……』


うっせえ! ジジィ!


憩いのひと時を邪魔するんな!


ドンッと大きな音が、俺の耳にまで届いた。


俺の安らぎの時間は、ジジィだけでなく、壁を強く叩く男にも邪魔されてしまう。


「ここは、ガキの来るところじゃねぇぞ。分かってんのかぁ?」


なんだ?


少年が、如何にもな雑魚っぽいモヒカン筋肉男に絡まれてる……。


『ふむ。お前より若そうじゃな』


ああ、誰かの従者かな?


『助けんのか?』


めんどい……。


『お前は女じゃなきゃ助けんのか!?』


もちろん!


『自信満々じゃな。人間のクズめ……』


女は皆俺のもの! 男は皆首括れ! が俺の生きる道!


『はぁ……』


そんな馬鹿な会話をジジィとしている間に、少年は筋肉男に掴み上げられていた。


流石に、そろそろ助け舟を出すか……。


うん? うおっとぉぉ!


ナイフを投げる風切音を聞き取った俺は、中腰の姿勢で動きを止める。


その俺の頭上を、ナイフが飛んで行った。


危ないじゃないか!


「ぐああああ!」


ナイフは見事に筋肉男の手の甲に刺さり、男は手を押さえて叫んでいる。


ナイフが飛んできた方を見ると、少年と特徴のよく似た女戦士? らしき人が立っていた。


間違いなく、連れだろうな。


「あたしの弟に文句でもあるのかい?」


「てめぇぇ! このクソアマ!」


おお! あの言葉、人の口から聞くとえらくチープだな。


などと、考えている間にモヒカン筋肉男を含む男三人を、女戦士は素手でのしてしまった。


へぇ……いい動きじゃないか……。


「あれが、最近売り出し中のミネバって女戦士だ」


俺の席に、ノリスが相席してきた……。


「ミネバ?」


「なんだ知らないのか? どっかの国からの流れ者らしいが、めっぽう腕は立つんだ」


「へぇ~。じゃあ、Aクラス?」


「ああ。ナックルガードの付いたダガー使いだが、体術なら俺以上かも知れん」


ノリス……お前を俺は嫌いじゃない……。


でも、お前弱いから基準にならないだよ……。


俺にはそれじゃあ、あの女の人がどの程度の実力かわからん。


しかし、ミネバって人確かにいい動きはしていたな。


侮らないほうがいいだろうな……雑魚だろうけど……。


『お前は、慎重なのか馬鹿なのかどっちじゃ?』


賢いんだよ!


『聞いたわしが悪かった……』


なんだよクソジジィ……。


「でも、褐色の肌にあの赤髪……。どこの人だろうね?」


「さあな。この大陸じゃあなさそうだがな……」


筋肉質なしまった体に、褐色の肌、そして短い髪……。


あの威圧してくる雰囲気は、あんまり好みじゃないな。


まあ、どうせ、かかわる事もないだろう。


もちろん、このミネバとも深くかかわる事になる。


その上、ギルドでの立場も悪くなるのだが、その時は予想なんてできなかった。


俺の思惑なんて当たったためしがない……。


はぁ……。


やってらんね~……。


****


俺は、食事が終わるとギルドマスターであるザザンさんに、仕事の依頼書を見せてもらっていた。


明日はどれにしよう。


俺の休みは一日。だから、一日で片付くものじゃないと受けられない。


一週間の護衛依頼に、盗賊団のせん滅……。


おっ! 魔獣の討伐!


あ……駄目だ。ここから半日以上かかる村だ。


なにかいい稼ぎになりそうなものはっと……。


おおぅ!?


「これ! これ受ける!」


ここから二時間行ったの渓谷での謎のモンスター退治、五十万ギリ!


「そうか、お前なら問題ないだろう……」


よっし! ホテルの給料五カ月分だ!


「ちょっと待ちな!」


そんな俺に女性がハスキーな声で喋りかけてきた。


ミネバ……。


「その依頼!こっちに回してもらおうか……」


何言い出すんだ? このクソアマ。


気付かない間に気絶させて。鎧引っぺがしてやろうか?


「まぁ、待てミネバ。これは、ここにいるレインとヘイルが受けた依頼だ」


「ヘイル? あのAクラスの仮面をつけてるって野郎か……」


「ああ。依頼は基本、早い者勝ちにしているからな」


「あたし達には金がいるんだ。譲れないねぇ……」


何、凄んでんだこの女?


そんなに顔近づけたらキスするぞ?


「早いもん勝ちってんなら、先にこのモンスターを仕留めたほうが総取りってのはどうだい?」


はぁ? 俺明日しか動けないのに損じゃんか!


「なんか文句でもあるのか? 小僧……」


「いえ……その……」


『何で女が相手だとお前は弱いんじゃ?』


習慣みたいなもんです……。


「分かった! 分かった! じゃあ、明日双方が協力して依頼料も折半でどうだ?」


ミネバはしばらく考えた後、返答をした。


「ふん。まあ、ここはギルドマスターである、あんたの顔を立てるかね。ヘイルってやつも見てみたいしな」


「ふぅ……。ありがとう、ザザンさん」


「お前、女には弱いんだな……」


ジジィとおんなじこと言いやがった……。


ああ! そうですよ!


だってリリーナお嬢様に、何年も押さえつけられて生きてきたんだ!


骨の髄まで、強い女性恐怖症がしみ込んでますよ。


ほっといてくれ!


などとは口には出さず、その日は穏やかに挨拶だけをして帰った。



「ミネバ死ね! ジジィ折れろ! ジジィ錆びろ!」


もちろんその日の夜の修練は、いつもより憎しみをこめて剣を振った。


****


翌日俺はミネバとその弟であるジンと三人で、馬に乗って渓谷に向かう事になった。


「おい!」


「はい?」


「ヘイルはどうしたんだ?」


「ああ、後から追いかけてくるそうです」


「ちっ……舐めやがって……」


本当は一緒にいるんだけどね……。


しかし、ミネバ見た目いかつそうな女性なのに、弟を休憩させたりして……。


多分、ブラコンなんだなぁ……。


しかし……。


「ミネバさん?」


「なんだ小僧?」


「なんだか調子悪そうですが?」


「そんなことはない! 余計なことは言うな!」


「はぁ……」


なんか熱っぽい感じなんだが、本人があれじゃあどうしようもないな。


ほっとこ……。


****


そうこうしているうちに、目的の渓谷についた……。


なんだ!? 魔力?


変な魔力が漂ってる……。


魔族やモンスターとも違う魔力だ……。


馬を近くの木につないだ俺達は、辺りの探索に入る。


「何かいるのは間違いなさそうだな……」


「そうですね……」


川辺や森の中に動物を食い散らかした死骸が、無数に転がっていた。


これは、野生の獣の仕業ってわけじゃなさそうだ。


野生の獣は、こんなに自分の居場所が分かるようには、食い散らかしたりしない。


一体なんだ?


くそっ……。


変な魔力だからか? 正確に位置が捉えられない。


動物の死骸の位置で近づいてはいるはずだが……。


なんだ!? 弱いが殺気なのか? 見られている……。


俺は立ち止り気配を探った。


どこだ? しまった! 上か!


上空を見上げると、デカイ猿のような何かが、すでに木の枝から俺達に向かって飛び降りてきていた。


舐めんなよ! 腕の一本も取ってやる!


「危ない!」


は? うおっ!


「ああああっ!」


俺は横に並んでいたジンの突然のタックルで、転んでしまった。


仲間に襲われるとまでは、考えていなかったぞ! この野郎!


ジンは化け物の爪を受け、背中を裂かれて気を失った。


いやいや、弱いんなら邪魔すんなよ! 怪我までしやがって!


「よくも弟を!」


化け物にすぐさまミネバが飛び掛かった。


あれ? 吹っ飛ばされたけど……。


弱い?


化け物の裏拳で木に吹き飛ばされ、止めのボディを食らって、ミネバは気を失った。


おまっ! かなり駄目なレベルで弱いよぉぉ。はぁぁぁ……。


俺は魔剣を呼びだした。


見た事のないモンスターだ。


気を抜かない方がいいだろう……。


体と顔は大きな猿だが、ライオンのようなタテガミに、蝙蝠のような羽根が生えている。


体長三メートルってところか?


動きも素早いし、飛べるかもしれない、力もあるようだし……。


『戦闘に関してだけは、本当によく頭が回るのう』


ジジィ、あのモンスター知ってるか?


『いや……』


俺の殺気に気が付いた化け物は、木々の間を器用に飛び回り、かく乱する作戦に出たようだ。


森と言っても渓谷なので斜面……。


この状況で、化け物についていける奴はそうはいないだろう。


だが……。


瞬間的に脚力を引き上げた俺は、相手の進行方向を先読みした上で、一瞬で距離を詰めて化け物の片腕を切り落とした。


生憎俺は、昔から山の中で修練してたんでね。斜面得意なんだよねぇ。


化け物は羽根を広げた。敵わないと感じて、飛んで逃げようと考えたのだろう。


遅せぇぇよ……。


木の幹で三角跳びをした俺は、化け物の進行方向である空に先回りし、化け物を頭から両断した。


魔剣の切れ味があれば、必殺技すら必要なかったな。


多分、BランクかCランク上位ってところかな?


『基本的な剣技も、お前は怠らんからなぁ。そこだけは、褒めておこう』


相変わらず、一言多い寄生生物だ。


しかし……。


「なんだこいつ? モンスター? それとも獣なのか?」


『分からん……。モンスターならば魔力が生んだ生物故、殺せばほとんどが塵にかえるが……』


「死体のこったねぇ。つっても、こいつが獣とは思えないんだよなぁ」


ん?


よく見ると心臓の部分に、青い六角形の石が埋まってる。


何だこりゃ?


『なるほど! こいつは魔法生物じゃ』


「魔法生物?」


『うむ。その魔法石を使って人工的に作られた生命体じゃ』


ああ、それで見たことなかったのか……。


「誰がそんなこと……」


『さあな。魔法実験をしている施設からでも逃げたのではないかのぉ……』


「これ……。金になるかな?」


『まあ、売れなくはないと思うが……』


うぇ……気持ち悪いな。


魔法石を取り出す為に俺は手を、化け物の体内へと進ませ、生暖かいぬめりに顔をしかめた。


なんとか魔法石を取りだせた俺は、よく血を拭きとるとそれをポケットにしまった。


そして……。


「この場合、助けないといけないよね……」


『あたりまえじゃろうが! いやなのか?』


「面倒くさい……」


『早くしろ!』


「へ~い……」


俺は二人を川辺まで運び、手当てすることにした。


「なんだこいつ? ものすごい傷が浅いぞ……」


ジンの鎧を脱がしたが、ほとんどかすり傷だった。


ほっといても治るだろうな。


「こんなので気絶するなよ」


『しかたあるまい、どう見てもお前より三つ四つ年下じゃぞ』


「ふん……」


俺は念のため傷口をアルコールで消毒して、ミネバを見ることにした。


「血!? どこかやられたか?」


ミネバを見ると、血が流れていた。


まずい! 先にミネバを見るべきだっ……。


でもなかった……。


ミネバは女の子の日だったようだ。


だからさっき熱っぽかったのか。


血が流れ出しているのは、化け物の攻撃を受けていない下半身からだ。


それも鮮血じゃない。


「はぁぁぁ……。あほらしい」


二人とも問題ないだろうな。


よくこんなんで俺に喧嘩売ろうとしたな。


****


俺が川で手を洗っていると、ジンが目を覚ました。


「お姉ちゃん! お姉ちゃんは?」


そんな必死になるなよ。あれで死んだ奴なんて、聞いた事もねぇよ。


「大丈夫じゃねぇぇの」


「う……うう……お姉ちゃん」


泣くなよ! クソガキが!


それから、ジンは聞きもしていないのに生い立ちを喋り始めた。


二人は予想通り別の大陸からの移民で、飢饉で村が住めなくなり、この大陸に移ってきたそうだ。


五年前に両親が疫病で死んでからは、優しく虫も殺せなかった姉が体を鍛え、時には自分の体を糧としてまで、自分を育ててくれたとジンは泣きながら語った。


優しい女性? 今からは想像もつかないな……。


てか、あんまり興味ない。


「僕を、西の富裕層街に住まわせるって、無理してたんだ……」


なんだ、目的は俺と同じじゃんか。


これでミネバが好みなら、感情移入もできたんだがなぁ。


こんな攻撃的な女性は、正直ノーサンキューです。


『お前は心がくさっとる……』


えっ? 普通じゃないの? まだ、助けたり話し聞くだけましでしょ?


『くさっとる……』


****


しばらくして、ミネバが目を覚ました。


そして、ジンの両肩を掴み、必死の形相で問いかける。


「怪我はない? 大丈夫? 化け物は?」


「あ……あの、ヘイルさんって人が来て倒してくれたんだって。怪我はかすり傷……」


「よかった……」


そう言って、ジンを抱きしめるミネバは少し女性らしく見えた。


あ、あれなら、ストライクゾーンかな。


おおっ? こっちに歩いてくる。


これでお礼でも言われたら……。


そんな俺の予想なんて、当たるはずもない。


はい!?


俺はミネバに殴り飛ばされていた。


なんで!?


「貴様のせいで、弟が危険な目に会ったじゃないか! この足手まといのゴミクズが! お前を殺さないのはヘイルに借りが出来たからだ! ヘイルに感謝するんだな!」


俺に唾を吐きかけると、ミネバは弟を連れてさっさと帰って行った。


えぇぇぇぇ……ヘイル、俺ぇぇ……。


性格悪すぎるわ! くっそ! もういいや、帰ろ。



俺が馬をつないだ場所に行くと、馬が自由に歩き回っていた。


ほどきやがったな! あの馬鹿姉弟!


俺は、渓谷で馬を追いかけて駆けずり回ることになった。


マジで最悪だ! あの二人!


****


日が暮れてギルドに帰ると、変な空気になっていた。


「おい、あれ……」


「ああ。あれが足手まといのゴミクズだ……」


「見ろよ。あの不器用そうな顔……」


ああ……。


言いふらしやりましたね? あっのっクソアマが!


簀巻きにして川に投げ捨てるぞ!


依頼金も、俺の分を引いてヘイルの分として一二万五千ギリしか残っていなかった。


俺が全部やったのに! なんじゃこりゃ!


何で何もしてないお前らが、四分の三持っていってるんだよ!


頭おかしいのか!


****


それ以降、酒場では事情を知っているノリスとザザンさん以外が、話をしてくれなくなった。


まあ、元々その二人以外とはほとんど喋らないから、いいんだけどねぇ。


懐かしいなぁ、この空気……。


ははっ……。


俺の女運どうなってんだよ!


もしくは、女難の相どうすれば消せるんだよ!


神様あああぁぁぁぁ!


ああ……。


やってらんね~……。

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