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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第一章:聖王国の学園編
11/106

十話

深夜になり俺が独房からアドルフ様と屋敷へ帰って見ると、使用人仲間が騒いでいた。


「どうしたのだ!」


アドルフ様の声で使用人達が、一斉にアドルフ様へ駆け寄ってくる。


「お嬢様が! リリーナお嬢様が!」


「落ち着いて説明しろ!」


狼狽するメイド長を、アドルフ様は叱咤した。


「お嬢様がお帰りにならないんです!」


「何だと!?」


「携帯電話もつながりませんし、夕方から私どもで心当たりはお捜し申し上げているのですが……」


「ううむ……学校は?」


「そちらにも行きましたが、誰もおりませんでした……。それに、他の貴族の御子息様達も、多数行方不明だそうで!」


メイド長は今にも泣きそうな顔をしている。


俺と、アドルフ様は顔を見合わせた。


例の事件が、この数日激しくなってきている。


巻き込まれた可能性が高い。


「俺、捜してきます!」


「頼む! 私も捜索隊を出す!」


「はい!」


俺は、夜の街を全速で移動する。


王都の中央部にある時計塔に上った俺は、全神経を集中して魔力を感知しようとした。


しかし、何も感じない。


遅かったのか? くそっ!


……。


……。


あれ?


魔力は感知できないが、ソナーのように飛ばした俺の魔力が返ってこない場所がある。


一か所は城。


これは、法術の結界があるから仕方ない。


もう一つは……学校!?


そう言えば、貴族の子息と言っていたな。


学校の武道大会以降……。


もしかすると……。


****


俺は、学校に急いだ。


夜の学校は明かりがついておらず、人の気配も魔力も感じない。


だが、なんだろう? 違和感を覚える。


俺は神経を集中させながら、校内に足を踏み入れた。


何も感じないのに鳥肌が立った。


何故?


一時間ほどかけて校内をくまなく歩き回ったが……何もない。


どういう事だ?


仕方なく門から出ようとした時、再び鳥肌が立った。


なんなんだ!?


この気持ちの悪い感覚は……。


その時、師匠の言葉を思い出す。


目だけに頼るな、全ての流れを全身で感じるんだ。


俺の目には今、異常がない……ように見えている。


しかし、全身は異常を訴えている。


俺は魔剣を取り出し、門の何もない空間を力いっぱい振りぬいてみた。


その瞬間、何もなかったはずの空間から、何かが砕ける音が鳴る。


学校全体を、薄い膜が覆っていたらしい。


結界だ。その結界が、ガラスのように砕け散ったのだ。


恐ろしく高度で巧妙な結界。


学校内は異空間化して、全てを隠していたのか。


結界の無くなった校内から、強力な魔力があふれ出ている。


鳥肌の原因はこいつか……。


中には多分、リリーナお嬢様と今まで以上の強敵がいるだろうな。


アドルフ様に連絡……いや、時間がない。


武道大会終了から、かなりの時間が経過している。


俺は、急いで憤怒マスクと嘆きの服を装備すると、校内へと走り出した。


その先に待っている敵の正体も知らずに……。


ただ、敵を倒すために……。


玄関には、アラクネとヒュドラが待ち構えていた。


暗闇の中でまるで、ジリジリと距離を詰めてくる。


舐めんなよ!


一瞬で間合いを詰めた俺はアラクネを両断し、俺の動きに反応出来ていないヒュドラの胴体に剣を突き刺した。


今日は薄曇りで、月明かりも少ないが、俺の流儀にそんな事は関係ない。


俺は動体視力にも、それなりに鍛えているが、師匠に教わった流儀はそれに頼る必要がない。もう少し正確にいえば、頼っちゃいけない。


大地の振動を読み取り、風の動きを肌で識別し、全ての音を立体的に耳で拾い、敵が放つ魔力や殺気を感じ取る。


極めれば、見えない敵すら斬り捨てる事が出来るようになるらしい。


つまり、暗闇だろうが、俺の戦闘力はほとんど変動しない。


今考えるととても不思議で、洗練された実戦剣技だ。


本当に師匠の正体を、教えてもらっておけばよかった。


出来れば、まだまだ俺に剣を教えてほしかった。


****


階段の踊り場で襲ってきたキマイラと、廊下にいた姿を消していないセイレーンを斬り捨てて先へと進む。


俺の剣は、敵を倒すごとにレベルアップしているらしいが、その時は自分で実感出来ていなかった。


と言うよりも、お嬢様たちを見つける事に集中し過ぎており、あまりその事へ気を回せていなかった。


邪念が入らないのは、ある意味でよかったのかもしれない。


敵を倒す速度が、落ちなかった。


学園の新館五階。


生徒会室のあるその階にたどりつくと、むせ返るような血のにおいが漂っていた。


口元を押さえた俺の耳に、金属のぶつかる音が届く。


誰かが戦っている?


俺は移動速度を緩め、慎重に音のするほうへ歩き始めた。


「うっ……」


廊下には、人間だったであろう塊が飛び散っていた。


原形が残っている者の中には、知っている人物もいる。


間違いなく、学園の生徒……それも武道大会に出場した者達だ。


あの武道大会の後、何があったんだ!?


金属音はまだ聞こえてきている。


もう、慎重になんて言っていられない。


俺は音のする方へと走る。


そこで、俺は自分の目を疑った。


通路の行き止まりに、お嬢様たちが追いつめられていた。


先頭に立って敵と剣を交えているのは、クソビッ……パメラ先生だ。


そして、その追いつめている人物は……。


薄い月明かりだが、その眩しい笑顔を俺が見間違えるわけがない……。


なんで?


その人物の服は、生徒の返り血で真っ赤に染まっていた。


なんで!?


その人は俺の方へ振り返ると、いつもと変わらないように話しかけてきた。


「やあ! 遅かったね。来ると思ってたよ」


「な……んで!?」


「ああ……。君が邪魔するから仕方なくさ。この場所に魔力の強い人間の血で、印を刻まないといけないんだよ」


「何を……言って……」


「君なら分かるだろう? 君のように実力のある者が評価されないこの世界を……壊すのさ!」


「あんた……」


「きっと、君にも住みやすい世界にしてみせるよ」


「本気で言ってるのか?」


「本気じゃなければこんなことしないよ~。ただ、ちょっと待ってね。もう、血の印は十分なんだけど見られちゃったから、この人達を殺さないといけないから。その後、ゆっくり話をしようよ……」


何時もの笑顔と口調で喋りかけてきていたその人は、細めていた目を見開いた。


その人の眼球全てが、真っ黒に染まっていた。


正気ではない。


その人は、なんでもないようなそぶりで、お嬢様達に聖剣を向ける。


やめさせないと!


「やめろ! セシルさん!」


俺が叫ぶと、驚いた顔のセシルさんが、もう一度振り返る。


「あれ? 正体を隠してるのに、そんな大声出していいの? ああ……。僕が殺すからいいのか……」


見当違いな納得をしたセシルさんは、再びお嬢様たちのほうへ向きなおり、ゆっくりと剣を振り上げる。


生き残っている六人は、皆傷だらけだ。


六人がかりでも、セシルさんには敵わないって事だろう。


くっそぉ!


俺は、急いでセシルさんとお嬢様達の間に飛び込んだ。


「なんだい? 話聞いてなかったのかな? 邪魔しないでよ」


「そうは…………いかないんですよ!」


「まあ……仕方ないか……」


大きく息を吐いたセシルさんは、剣を下した。


分かってくれ……殺気!?


「君ごと斬る事にするよ!」


俺は上半身を後方へと倒し、下段から一気に振り上げられた聖剣を、ギリギリで躱した。


なんて剣速だ。


手加減なんて悠長なこと言ってられない。


相手の腕も切り落とすぐらいの覚悟をしないと、こっちが殺される。


ちらりと後ろを見ると、パメラ先生、リリーナお嬢様、ファナさん、アルス、生徒会長に副会長……。


その六人以外は、生き残れなかったんだろう。


俺が一瞬目を離しただけで、セシルさんの剣は眼前に迫っていた。


聖剣を受け止めた魔剣から、火花が飛び散る。


セシルさんは、普通の剣であれば叩き折られるほどの威力で、剣をふるって来ている。


魔剣と聖剣だからこそ、刃こぼれもなく剣を交える事が出来ているに過ぎない。


これは、気を抜けば取り返しがつかなくなる!


俺は狭いその場から飛びのき、体勢を立て直す。


うおっ! 速い!


剣を下段に構えたセシルさんの姿が揺らいだかと思うと、姿が消える。


気配を読む能力が俺になければ、そこで終わっていただろう。


間合いを一気に詰められたセシルさんは、俺の死角である左足の前にまで飛び込んできていた。


そして、剣を振り上げてくる。


凄まじい速度だが、この角度なら!


「くぅ……。やるね~」


俺は、セシルさんの剣を受け流し、そのまま斬りかかった。


肩をかすめただけだが、当てる事が出来た。


現在、狭い廊下で俺は壁を背に、移動しない戦法をとっている。


相手の攻撃範囲を制限できるし、俺も高速で動いてしまうと小さなミスで、相手だけでなく自分も大きなダメージを負ってしまう可能性があるからだ。


戦闘において、リスクを下げるのは当然の事だ。


だが、この戦い方だと、お互いに致命傷を負わせる事が難しい。


セシルさんは、踏み込むよりも後退の速度が速い。


武道大会のようなレベルの低い戦いでは分からなかったが、ヒットアンドアウェイが基本戦闘方法なんだろう。


それに対して、俺の本来の戦いは相手の死角から虚を突いて飛び込み、一気に斬り伏せる突進型の戦闘方法だ。


格上の相手ともやりあえる戦い方だが、同じように虚をつく事に長けたセシルさん相手だと、避けられて反撃で倒される可能性の方が高い。


相性が最悪だ……くそ!


先に攻撃しても全力で避けられるし、相手の攻撃を受けてからでは追い足で負けてしまう。


今は、受け流しているので多少有利に進められているが、正直綱渡りもいい所だ。


どうする?


地面に転がっていた誰かの胴体に、セシルさんは足を引っ掛け、剣が俺からそれた。


その隙に剣を振るったが、流石にそれは食らってくれない。


その程度の隙で、崩れるほどこの人は弱くないんだ。


あれ? また躓いた? あ! なるほど……。


セシルさんは、目で戦っているんだ!


この人の動体視力は、尋常がないだろうが、視力に頼っているなら……。


俺は壁から離れ、廊下の中央に立つと、目を瞑った。


「おや? 何を見せてくれるのかな?」


セシルさんの狂気に満ちた嬉しそうな声が、聞こえてくる。


心を乱すな、集中するんだ。


****


「あなた達……。私の合図でそこの扉から、教室に避難するわよ」


俺達の戦闘をただ呆然と見ていたパメラ先生が正気に戻り、皆に指示を出した。


五人の生徒は、無言で頷く。


そして、パメラ先生が扉を開き、教室に六人は飛び込んだ。


飛び込んだ後も、謎の魔剣士と勇者と呼ばれた学友の戦いが気になり、六人は窓から様子を伺う。


「あの魔剣士はいったい……」


「掴まったんじゃ……」


そう、疑問を口にする六人とは関係なく、俺達の戦いは決着を迎える。


****


「どうしたの? 来ないなら、こっちから……行くよ!」


セシルさんが全速で突っ込んでくる。


視覚をわざとつぶすことで、他の感覚が鋭くなる。


セシルさんの踏み出す一歩一歩が、手に取るように分かる。


正面からと見せかけて、フェイントで右側へ移動し、上段からの一線!


読み切った!


「はっ!」


溜め込んだ力を一気に爆発させ、低い姿勢で飛び込む様に前進し、敵の胴を薙ぐ。


〈シーザースラッシュ〉


俺は致命傷を負わせないように、セシルさんが踏み込み切る前に腹を切り裂いた。


死にはしないだろうが、動けなくなるはずだ。


いくらセシルさんの実力が俺より上でも、師匠から授かった技に死角はない。


「ごほっ……。まいったな。本当に僕より強いじゃないか……。これでも、下法で本来より二倍以上の速度が出せるようになったんだけどなぁ……。本当にまいったよ」


「セシルさん!」


俺は、セシルさんに駆け寄った。


「ごめんね……。こんなはずじゃなかったんだ……」


「なんでなんですか!?」


「僕は、本当の勇者になりたかったけど……。心が君のように強くなくてさ……」


「何を……」


「ぐっ! まずい! に……げ……があぁぁぁ!!」


セシルさんの体が、雄たけびと呼応するかのように変貌していく。


六本の腕からは剣のような大きな爪が一本ずつ生え、全身が筋肉だるまの化け物になってしまった。


体長は二メートル以上になっただろうか……。


これは、悪魔との契約によるモンスター化……。


セシルさん……なんて事を……。


こうなってしまった者を止めるには、殺すしかない。


契約をした悪魔を殺しても、元に戻らないんだ。


「ぐおおおおおぉぉぉ!!」


セシルさんだったものは、咆哮しながら俺に突進してくる。


俺は、振り上げられた爪を避ける為に、全力で後方へ跳んだ。


鋭い爪は頬をかすめるだけで済んだが、さらに追撃で俺は間合いを詰められた。


振り下ろされた爪を剣で受け止めるが、とんでもない威力だ。


足と腕がしびれ、さらに後方へと弾き飛ばされる。


そして、すぐさままたその間合いは詰められた。


廊下が長いとはいえ、これでは何時かやられる。


俺と同じ突進型の戦い方だが、手数が多すぎて俺が圧倒的に不利だ。


どうする?


俺は、連続して後ろに飛び退きながら、戦法を組み立てる。


セシルさんと戦っていた時から増えたマイナス部分は、手数が増えた事と、後退してくれなくなった事だ。


プラス部分は、体の大きさから若干速度が落ちた事と、洗練されていた剣筋ではなく力任せの攻撃になった事か……。


このままでは壁に追いつめられてジリ貧だな。


速度は俺が上、これ以上は後ろに下がれない、攻撃に精彩さがないなら!


また、一か八かになるが、やむを得ない!


所詮俺の命なんて、一枚の金貨ほども価値はないんだ!


でも、ただ殺されるよりはギャンブルだろうが、やるだけやってやる!


俺は足を止め、真っ向から爪を剣撃で叩き落していく。


敵は六本の腕で、波状攻撃を仕掛けてくる。


負けるかあああぁぁぁ!


俺は体を捻転させ、技と技のつなぎ目の一切なくし、その全ての攻撃をはじき返した。


〈ソードストーム〉


一対多を想定した師匠の技の、真骨頂!


一撃必殺の技も多いが、こう言った特殊な連撃も多く教わっている。


超高速の回転と体重移動で、自分の非力さをカバーした。


俺はさらに自分の回転速度を上げていく。


この技は強敵に止めをさせるような技ではないが、今のこいつには十分効果がある。


凄まじい力が加わり、体中が軋む。


だが、毎日の修練で鍛えたおかげだろうが、なんとか耐えられる。


連撃対連撃で、衝撃音が途切れない。


まだ! まだぁぁぁぁ!


徐々に俺の攻撃が、相手の速度を上回り始めた。


相手を、元の壁際に押し戻す事に成功した。


やっとほぐれた体のおかげで、今まで出した事のないほどの速度へ、剣先が達した。


今まで以上に重く高い衝撃音が、廊下の端まで響く。


俺の連撃は、六本の腕を同時に吹き飛ばしていた。


今しかない!


最大の突き技! 〈シャイニングアロー〉!


先程とは違い、重くはあるが鈍い音が発生した。


俺はセシルさんだったものを、魔剣で壁に縫い付けたのだ。


魔剣はセシルさんの心臓を貫いている。



なんでだよ……ちくしょう……。


セシルさんは全身から紫の煙を昇らせ、元の姿に戻って行った。


そして、苦しげにではあるが笑いかけてきた。


「ははっ……。君は本当に強いね。僕とは大違いだ……ごほっ……」


「なんで……」


「すまない。僕の一族は昔魔人を倒した勇者の一族ってことになってるけど実は、それは嘘なんだ……」


「嘘?」


セシルさんは苦しげな呼吸を続けながら、全てを語り始めた。


「そう、実は魔人は僕の先祖と賢者が、神の力を借りて封印しただけなんだよ……こほっ」


「倒して……なかった?」


「だから、一族以外には口外してはいけないんだけど、その封印した魔人を完全に滅ぼすのが僕達一族の使命だった。でも、僕は落ちこぼれでさ……」


「そんな……」


その時になって、俺はある事を思い出す。


セシルさんが目立つようになったのは高校に入ってからで、それ以前の噂は聞いた事が無い。


一年生で武道大会に優勝できる程の人が、無名なのはおかしい。


普通なら才能が開花していなくても、噂ぐらいはあってもいいはずだ。


突然、強くでもならない限り……くそ! そういう事か!


「一族内で虐められててさ……。何とか力を手に入れて、魔人を倒したいと強く思ってたんだ。いや、違うね。皆を見返したかったんだ。ごほっ……。その時、一人の魔導師に声を掛けられた。力を与えてやるってね……」


「その魔導師は……」


「ああ……。うっ……。魔人の手下だったのさ。僕は力を手に入れる代わりに、奴らに逆らえない醜い体に改造されたんだ……」


「そんな……」


「笑ってくれよ……。こんな情けない僕を……」


セシルさんの目からは、涙がこぼれていた。


気が付かなかったが、俺の後ろには生き残った六人が教室内から出てきており、その様子を黙って見守っていた。


「そんな事……しねぇぇぇよっ! 笑えるわけ……ないじゃないですか!」


気が付くと、俺は叫んでいた。


「はははっ……。君は本当に強いな……。俺なんかよりも強いのに、虐げられても真っすぐに生きて……」


「やめてくれ! 俺も……俺だって毎日恨みごと言いながら、情けなく生きてるんだ。ただ、大きな力に逆らう勇気がなかっただけなんだよ……」


「君は自分で思うよりずっと強いよ……。少なくとも僕よりは……ね」


「セシルさん……」


「最後に二つ……頼みごと……いいかな?」


「はい……」


「最後に、君の顔を見たい……」


俺は、マスクをピアスに戻した。


「本当に君は、不思議な瞳を持っているね。生気が無いようでいて、真っすぐな力強い目だ……」


「…………」


俺は、その言葉に何も返せなかった。


セシルさんの顔から血の気がどんどん抜けていっている。


「もう一つは、自分勝手で申し訳ないけど……。ごほっ…………。魔人が復活する。町の皆を守ってくれないか? 本当は僕がやらないといけないんだけど……。無理なようだからさ……」


「わ……かり……ました……」


俺の言葉を聞き終わると、セシルさんの体から力が抜け、がくりと首や両腕が垂れ下がる。


俺は剣を引き抜き、寝かせたセシルさんの目をそっと閉じた。


ああ……駄目だ……感情が抑えられない。


俺に初めて出来た、まともな友達……。


大好きな先輩……。


アドルフ様以外で、こんな俺を初めて認めてくれた人……。


「レイ……」


「レイ君……」


リリーナお嬢様やファナさんが声を掛けたらしいが、俺には何も聞こえなかった。


殺意と怒りで、心がいっぱいになっていたからだ。


ゆるさねぇ……。



絶対に! ゆるせねぇぇぇぇぇ!


胸の奥からこみ上げてくる感情を、俺は全て解き放つ。


もうどうでもいい……。


殺す…………。


殺す……。


殺す……。


ぶっ殺す!!


俺は、多分生まれて初めてブチ切れた。


魔人! ぶっ殺す!


俺の怒りに呼応したかの様に、魔剣からより一層濃いオーラが噴き出す。


俺は、立ち上がりセシルさんに一礼すると、窓ガラスを蹴破り、大声で叫んだ。


「ぶっ……殺す!!」


その声に、生き残った六人はびくりと体をすくめたらしいが、俺の眼中にはないらない。


朝日が昇り、辺りはもうすで明るくなり始めていた。


城のほうから強い魔力を感じる。


待ってろ! 俺が殺してやる!


俺はそのまま外に飛び出し、地面に難なく着地すると走り出した。


****


今思えば、その後の苦労を考えると、もう少し冷静になるべきだった。


後悔先に立たずってね。


その時の俺は、自分が恐ろしくついていない事すら忘れていたんだよ。


ふぅぅ……。


やってらんね~……。

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