十一話
発作と戦った後、偽神の魔力貯蔵庫を破壊する。
それと同時に消滅し始めた魔界から、空間を切り裂き過去に師匠が使った、抜け道である空間へ飛び込んだ。
人間の俺には不可能だが、巨大な魔力を持った師匠ならば作る事が可能だった抜け穴。
師匠はたどり着いていた。
偽神を倒す為の道に……。
師匠がこの世界に存在する者でさえあれば、前回で終わっていたはずだ。
『仕方があるまい』
師匠がこの世界に存在すると言う事は、巨大な魔力により無理やり存在を固定させるしかない。
この世界に存在する物全てが、そこにそれがあると認識されて初めて存在すると言う、あやふやな物らしい。
偽神は、師匠の存在という情報を消し飛ばす事で、師匠をこの次元に存在しえない者へと変えてくる。
師匠がこの世界の人でさえあれば……。
【あれほどの存在は、この世界では生まれえないでしょう……】
まあ、無い物ねだりだよな……。
でも、あの人は凄い……。
自分の存在を一時的に変質させたり、力を制限してでも、この世界への干渉を続けてくれた。
自分の世界でもない……。
俺の世界に……。
『あのお方こそ、真の神かも知れんな……』
そうだな……。
人間の……世界の守護者か……。
その弟子を名乗るんだ……。
師匠の名に泥を塗らないようにしないとな……。
【そうですね……】
師匠から渡された鍵は、後二つ……。
でも……。
師匠は最後まで、俺にどうするか指示をしなかったな……。
『真実を知り、どうするかはお前にゆだねると言う事じゃろうな』
そうだろうな。
【愛されているじゃないですか】
死神からの信頼か。
ずいぶん重い物を背負っちまったもんだ。
【顔がにやけてますよ?】
五月蝿い……。
さて、世界の意思からの情報では、北って言ってたが……。
この辺りかな?
俺は、師匠が作ったトンネルのような異空間を切り裂いて、元の世界へと飛び出す。
****
うお!
『フィールドは展開した』
たどり着いたそこは、ブリザードの吹き荒ぶ極寒の地だった。
ボロボロのシャツとGパンしかはいていない俺は、フィールドが無ければ数分以内に凍死するだろうな。
あれか……。
師匠の記憶で見た、天候操作装置の建物とそっくりだ。
【この場所がオリジナルの場所なんですよね?】
ああ……。
本来、天使を倒したメシアが来る場所。
八万年もこの場所にあるのに、壊れる事もなく存在してるのか。
昔の技術ってのは、すごかったんだな。
俺は、その建物の扉を開く。
スイッチを押した瞬間、幾重もの金属の扉が開き、奥へと続く道に明りがともった。
勝手に動く床に乗り、奥へと進む。
そして、奥にあった部屋へと何の障害もなくたどり着く。
ドーム状の部屋の中心には、魔方陣があった。
『この転移魔方陣が、神へと続く階段か……』
今までのメシアは、馬鹿正直にこの魔方陣に乗り、真っ直ぐ神のもとへ向かったんだろうな。
【まあ、退路も扉でふさがれています。それ以外の選択肢は無いでしょう】
だが俺には……。
師匠から貰った鍵がある。
「機知に富み、うちとけた言葉は永久に生命を持つ」
俺がその言葉を発すると、何も無かった壁に扉が出現し開いた。
師匠から貰った鍵とは、この場所を設計した天才が残した裏コード。
何でも旧世界の、詩人だか哲学者だかの言葉らしいが……。
意味は全く分からん。
俺は、魔方陣を避けて、部屋の奥にできた通路へと進む。
薄暗い奥の部屋には、立体映像らしき俺達の星が浮かんでいた。
これが……。
『天才の作った、最初のアカッシクレコードリーダーじゃな……』
ここでは、運命をかきかえる事は出来ないが……。
全てを知る事が出来る。
「オカエリナサイ、マスター」
うん?
部屋全体から声が?
目の前の星の映像が、女性の顔になる。
「マスター、ゴメイレイヲ」
う~ん……。
「お前の名前は?」
「オワスレデスカ? イデア、デス」
「俺がここに来たのは、どれくらいぶりだ?」
「八万二十三ネン三カゲツ五カブリデス。マスター」
なるほど……。
これが、偽神の元になった人工知能ってやつか……。
「イデア! 俺にアカシックレコードを見せてくれ!」
「リョウカイシマシタ」
俺の脳に、直接情報が伝わってくる。
これは……。
「ジジィに……若造か?」
疑似的に視覚化された空間だろうが、ジジィと青年が俺と一緒に浮かんでいた。
【はい】
その薄暗い空間には、光るカラフルの文字が飛び交い、三十センチほどの光の球が大量に浮かんでいた。
「これは、どうやって見るんだ?」
『う~む……。あの光の球に手を入れてみるか?』
「危なくね?」
【では、どうしますか?】
う~ん……。
「ミタイジョウホウヲ、ゴシテイクダサイ」
ああ……。
「八万年前の状況は分かってるから……」
『念のため情報を見ておく方が、いいのではないか?』
「まあ、そうだな。八万年前から人類滅亡の情報を抽出して見せてくれ!」
「コマンドニンシキシマシタ。ジッコウシマス」
自分の操作を受け付けなくなった装置に、苦悩する天才。
そして、実行された人類存続の為の滅亡計画。
それからも、三度実行されたそれは、大きな矛盾をはらんでいた。
世界の意思が、切っ掛けを作ったのは間違いない。
しかし、世界の意思が嫌うのは人間が星を操作しようとする事と、運命をゆがめる事。
偽神は、人類を存続させるためにその二つを実行する。
しかし、その事が世界の意思との終わらない戦いへとつながって行く。
世界の意思による人類への制裁は、発展し過ぎた人類へと向けられる。
それを生き残るためには、偽神の計画が必要……。
いや……。
おかしいな……。
『世界の意思は、人類に歩み寄っているようにみえるな』
世界に、モンスターを残す事で、人類の発展を妨げている。
と言うよりも……。
【ただ、偽神を潰そうとしているとしか……】
「人類も、世界の一部って考えているんだろうな……」
『その行いが度を過ぎれば制裁を加えるし、不必要な滅亡には力を貸すか……』
「残酷だが……。自然の摂理そのものって感じだな」
【残酷な世界ですか……】
「これなら、偽神を止めれば人類は滅亡から防げるか?」
『人類がその分をわきまえる限り、世界は敵になりえない……』
「分不相応か……」
【この全ての件が、その言葉に尽きるのかも知れませんね】
「そうだな……」
『しかし……。計画実行後に、三人のメシアが帰ってきておらんな』
「俺を生きた状態で、自分の元へ導こうとした事……。そして、この人工知能……」
【なるほど。相手は、しょせん機械と言う事ですね……】
「メシアってのも、偽神に都合のいい歯車の一つなんだろうな」
『そのようじゃな……』
「でも、俺の推測が正しければ……。俺だと、偽神に勝てないんじゃあ……」
『あの方を強制的に排除した所を見ると、間違いは無いじゃろうが……』
【ヒントは……。もうひとつの鍵でしょうか?】
「あ~……。分かっちまったよ……。因果の輪か……」
『あの鍵には、滅亡計画を止める効果が無いと考えれば……。間違いあるまいな……』
あ~あ……。
【どうしますか?】
「今更聞くな、馬鹿。俺は真っ直ぐしか進めないんだよ」
【そうですね……】
****
「じゃあ……。核心といきますか……」
『うむ』【はい】
「おい! レイ……レイ:シモンズの情報を見せろ!」
「コマンドニンシキシマシタ。ジッコウシマス」
薄々は分かっていた……。
それを知る事が怖くなかったと言えば、嘘になる。
何故、この滅亡計画の中心に俺がいたのか。
何故俺は、周りの人を不幸にするのか。
何故俺は、不幸の塊なのか。
簡単な事だ……。
俺が、滅亡計画のトリガーであり、要だったからだ。
運命ってのは残酷だ……。
俺は……。
メシアとして生まれてきた、仕組まれた存在だった。
俺に、本当の父親は存在しない。
母さんは妊娠を妨げる薬を飲んだにも関わらず、俺は生まれた。
どうやら母さんは薬が上手く効かなかったと思っていたようだが、運命に強制介入した偽神に作られた子供だった。
そして、偽神の計画を潰そうと動いた世界の意思により……。
俺の家族は殺された……。
いや、俺のせいで死んだんだ。
俺の存在に気が付いた世界の意思が、レーム大陸のモンスターを強制的にレベルアップさせたんだ。
ミルフォスがレーム大陸にいたのも、滅亡計画が本格化する前に現れたのも、俺を殺す為……。
俺さえ居なければ、俺の家族は死ななかった。
本来は、あの森で死ぬべき存在だった……。
あ~あ……くそっ。
偽神と世界の意思による計画を狂わせた、小さな波紋。
運命へと強制介入できる存在……偽神と世界の意思。
そして、死神……師匠だ。
魔剣により俺の魔力が変質してしまい、偽神と世界の意思は俺を見失ってしまった。
そして、俺はイレギュラーとなった。
また、目的を見失ったミルフォスも目的を与えられないまま存在する、特異な存在となった。
偽神も急遽、新しいメシアを作る事になった。
俺の部下となるはずだった信徒達から、メシアを選出した。
それが、俺の殺したメシアだ。
俺が、メシアを殺した後で、偽神に接触した事でその存在を認識され、計画が再び動き始めた。
俺さえ居なければ、何も起こらなかったんじゃないか?
俺さえいなければ、家族も、セシルさんも、オーナーも、アレンも……オリビアも死ななかったんだ。
あ~あ……。
キツイな……。
俺は本当に……必要ない……。
いや、存在してはいけない人間だったんだ。
『大丈夫か?』
【ここからの判断は……お任せします】
「変な気を使うな。俺の意思は、何も変わらん。俺は、自分が存在している責任をとるんだ」
『あえて言うなら、お前に責任は無い』
「俺は……俺が存在した罪を、きっちり償うさ。今の俺には、もうそれしか残ってないんだ」
【分かりました】
「付き合わせて悪いな……」
目の前には、俺が師匠と初めて会い剣を教えて貰うシーンになっていた。
眠っている子供の俺を、悲しそうに見つめている。
師匠には、俺の事が分かっていたんだな……。
だから、剣を教え、魂を繋ぎ、鍵を託してくれたんだ。
そんなに、悲しそうな目をしないでくださいよ……。
貴方は、十分俺に与えてくれた……。
うん?
あれ?
嘘!
【このリリーナと言う女性は、貴方を慕っていたようですね……】
嘘ぉぉぉぉぉぉぉぉ!
『わしも分からなんだ……』
リリーナお嬢様は、家の誇りを守ると言うプライドの高さと、俺に見捨てられたと言う事で、ビックリするくらいの歪んだ愛情を俺に注いでいたらしい。
そう言えば、俺が他の女性と喋るとやたら蹴られた……。
嘘ぉぉぉぉぉぉ!
それも、学園に悪い噂流したのお嬢様じゃん!
『お前に近づく女性を、無くしたかったんじゃろうな……。その上で、ボロボロのお前を自分の思い通りに……。腐っとるな』
ですよねぇぇぇ!
最悪だ! こいつ!
心情風景まで映し出す、この装置を見て初めて分かったよ!
あ……カーラ……。
こんな頃から……。
【この方は、不器用ですが……。貴方へ純粋な愛情を持っている様ですね……】
えっと……。
分かるか! ボケが!
俺は、超能力者じゃないんだよ!
てか、この頃分かってたら、すぐにでも付き合ったって!
美人だもん!
【あれ? この後一緒に旅をしたりは?】
新大陸を旅するんだけどさ……。
ただ、この話の続きはまた後ほどになるんだよ。
てか!
リアナ姫のフラグまで立ってるじゃん!
だから! わかんねぇ~よ!
セシルさんによる生徒の虐殺シーンは……。
今見ても、心が痛くなる……。
【この魔人は……よく勝てましたね。この頃は、Bランク……有るか無いかですね】
『いや、魔剣の強化でCランクじゃ』
まあ、師匠の剣技は格上の相手を倒せるようになってるんだよ。
てか! おい!
クソジジィ!
お前これ!
お前が、指名手配されてない事教えてくれてれば、苦労が減ったんじゃないのか?
『まあ、お前はどの道巻き込まれたはずじゃ』
ええ~……。
ちょ……お前……。
謝る気ないのかよ……。
【あの……この貴方を拾ってくれた女性が……】
ああ……。
オーナーだ。
この人も俺のせいで死んだ……。
目の前の俺は、魔道兵機と戦い、ミルフォスと戦った。
何処かで、何で俺が?
何て思ってたが、俺が戦うべき相手だったんだ……。
新大陸に渡り、オリビアに出会った……。
オリビアは俺にさえ会わなければ、今も生きていただろう。
『…………』
それからも、信徒と戦い、百八の魔物と戦い、ヨルムンガンドと戦い、悪魔と戦っている。
俺の十六歳以降の人生は戦いしか無いな……。
約五年か……。
てか……。
俺、フラグ立ちまくってるじゃん!
分かんねぇぇぇぇって!
あ~あ……。
(今更、戻るつもりではないだろうな?)
不意の声に、ジジィと若造が振り返った。
もちろん、分かっていた俺は振り向かない。
この空間では、声を出さなくても意思が通じるがあえて声を出した。
「一応、自分を倒した相手なんだ。もう少し信用しろよ、ミルフォス」
(まあ、念の為だ)
けっ……。
俺の魂の中で、こいつは生きていた。
それどころか、俺の行動は常に世界の意思に監視されていたんだろう。
幾度となく俺の窮地を救った魂から湧き出す膨大な魔力は、世界の意思からの力だ。
だから、悪魔と戦う時には使えたが、世界の意思で動くヨルムンガンド戦では使えなかった。
分かっていたさ……。
(お前と共に、世界を見る事で俺は本来の目的を思い出せた)
「そりゃ、よかったね~……」
(我が主からの伝言だ)
世界の意思からか……。
(お前を信じる)
「あ、そう。でも、そこまで言うんだ。お前には、最後まで付き合ってもらうぞ? 死ぬけどね」
(当然だ)
「あ! その前に、お前の主に一つだけ頼みたい事がある」
(何だ?)
「俺が上手く終わらせた後、この場所の地下にある……最後の天候操作装置を壊してくれよ。モンスターか何かで」
(偽神が死ねば、可能だろう。了解した)
さてと!
これで、全部そろった!
「じゃあ……行きますか!」
『うむ』
【はい】
(ああ)
さあ、終わらせよう……。
この運命の因果を……。
そして……。
俺という存在を……。




