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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第八章:魔界と運命編
102/106

十話

速い……。


いや、速いのは初動だけ?


違うな……。


完璧な連携だ。


もしかすると、念話のように意識を通わせているかもしれないな。


それとも、双子のように相手がどう動くか、全て手に取る様に分かるのか?


俺は側近と名乗った二人組に、苦戦していた。


殺意に満たされた思考は、それでも冷静に機能してくれている。


側近二人の特性が完全に違う。


槍を持った男は、速度と魔力操作に優れている。


加速の出鼻をくじくように、連続で突きを放ってくる。


さらに、その突きは魔力の込め方に強弱が付いており、威力や速度がランダムに変化するので、対応がかなり難しい。


ハンマーを持った女は、攻撃力と守備力を特化させているのか?


もちろん、俺の速度に十分ついてくるだけの速度ももっている。


攻撃の際に出来る隙をついても、魔力の障壁が俺の剣を通さない。


連携のせいで、前衛である女の障壁を破るほどの技が出せない。


その上で、一撃一撃が直撃すれば間違いなく死んでしまうだろう。


攻撃の予測のお陰で、軽傷で済んではいるが……。


本当にギリギリだ……。


ほんの刹那、気を抜けば……。



だが、これでいい……。


死にさえしなければ、敵の情報が増えていく。


気を抜きさえしなければ、死にはしない。


俺はまだ生きている!


ギリギリでも、敵の攻撃を一撃生き残るたびに勝利に近づいて行く。


さあ、戦うんだ。


昨日を思い出す為でも、今日を生き延びる為でも、明日の未来の為でもなく。


敵を殺す為だけに……。


殺意を高めるんだ。


男が虚の技で、女が実の力か……。


なるほど、五日間たっぷりと俺の情報を集めていたのか。


俺が、戦いの純度を高めたせいで、パターン化してしまったか?


虚実一体の動きをしていたつもりだが……。


そう言えば、師匠は完全な実と虚を混ぜながら戦っていたな。


最高の技が、最良とは限らないか……。


加速の出鼻をくじく為に先回りをした男の攻撃で、動きが鈍った俺に女のハンマーが向かってくる。


それを回避しながらの攻撃では、女の障壁は破れそうにない。


聖剣で時間を遅らせるか?


いや……。


まだ、タイミングが悪い。


最高速度は俺が上だろうが、加速出来ない……。


こいつ等を殺す為には……。


タイミング……。


そうだ。


タイミングを見計らうんだ。


一瞬でも隙が出来た時が、お前達の最後だ。


『お前のそれは、策とは呼ばん』


ジジィ?


『魔力を使い、思考を加速させた』


【これで、完全な連携が出来ます】


そうか……。


攻防の凄まじさから、まるで竜巻のように辺りの地面や岩を噛み砕きながら戦っているが……。


精神は波打たず、無を越えて覚りへと向かっていく。


『お前に、無謀という言葉は無駄じゃろうな』


師匠なら、実を虚で、虚を実でスマートに戦うだろうな……。


俺は、不器用だからな……。


この方法しか成功させられないだろうよ。


目には目を、歯には歯を……。


虚には虚を、実には実を、だ!


【人はそれを、策ではなく真っ向勝負と言うんですよ?】


知ってるよ……。


無謀とでも、愚かとでも好きに言え。


これが、命の瀬戸際で掴んだ俺の戦い方だ!


【はい! 私は嫌いじゃないですよ!】


『ここまで来たんじゃ! 最後まで付き合ってやるわい!』


****


俺達の戦いのとばっちりで、団長らしき悪魔が消滅した。


それを見ていた二匹の悪魔が、逃れようと走り出す。


今の俺達に少しでも接近すれば、それだけで塵へと返るだろう。


馬鹿が……。


『機なり!』


【いきます!】


本当にあるかないかと言う程度だが、男が開いたであろう門に意識を向けた。


その瞬間、時間を遅延させて技を放つ。


<ファルコンスラッシュ>


二本の衝撃波は、竜巻となり男に向かう。


もちろん、その竜巻は男に紙一重で回避される……。


「なっ!?」


自身の放った竜巻の中から、傷だらけになりながら飛び出してきた俺に、男が驚愕する。


死ね……。


<ラピッドクロス>


最高速度で放った左右の袈裟斬りが、男のコアを十字に裂いた。


「くう!」


全身から血を流し煙を噴き出している俺に、女がハンマーを構えなおす。


「はあああ!」


ハンマーを振りあげた女が、全速力で俺に向かってくる。


それじゃあ……俺は殺せない。


俺は女の方を向いたまま、後方へ加速する。


女がいくら地を蹴り、加速しても今の俺には追いつけない。


「くっ! あああああ!」


最後の手段として、女がハンマーを投げ捨て加速に全能力を向けた。


「そん……な……」


それでも、後ろ向きに走る俺には追いつけない。


遅いんだよ……。


俺は、戦えば戦うだけ速度を、力を、技を高められる。


一秒でも俺を殺し損ねれば、俺は強くなるんだよ。


さあ、終りだ。


死ね……。


「あ……ああああ!」


女が追いかけていた俺の姿が、三つに分裂した。


正確には、もう一段階速度を上げた俺の魔力の残像が、三人に見えているはずだ。


その瞬間、女は自分の死を認識しただろう……。


<トライデントプラス! シーザースラッシュカスタム! ラピッドクロス!>


連続で技を放ち、女の障壁を破りコアへと攻撃を直撃させた。


****


「ふ~……」


さて……。


最後だ。


俺が見つめる先の空間が歪み、城が出現した。


そこから、黒い鎧を着た男? 女? 中性的な顔の敵が、俺の前へ飛んでくる。


「私までたどり着くとはな……」


ああ……。


男か……。


悪魔王って言うくせに、綺麗な顔した奴だな……。


悪魔王は俺に見えるように剣を抜き、鞘を投げ捨てた。


「真の悪魔の力を見せてやろう……」


はぁ……。


魔力の底が全く見えん……。


【あの城が、魔力を蓄えて供給する装置なんですよね?】


師匠は魔力を見る事が出来るから、間違いないだろう。


信徒達の使っていた魔力も、あそこから流れ出していた物らしいしな。


あの城の破壊が、俺達の本当の目的だ。


『しかし、聖剣の魔力が人間の負の魔力とは……』


皮肉たっぷりだな。


でも、この城さえ壊せば二度とチートに悩まされないで済む。


【そうですね】


「では、神の力を知れ……」


いきなり目の前に現れ、打ちおろされる悪魔王の剣を、後方に飛んで避ける。


なるほど……。


そう来るか……。


【時間を操作できるようですね】


まあ、信徒共と黒幕は一緒だからな。


『攻撃もこの威力じゃ……』


かすっただけの右肩が、大きく抉れていた。


若造の障壁とジジィのフィールドに、練った魔力の強化で防御して、なおこの威力か……。


光の剣の何倍威力があるんだ?


「ほう……。一度経験した技は、焦りもせんか……」


悪魔王がゆっくりと、こちらに向き直る。


この余裕は……。


まだ何かあるな……。


どうする?


先手を打つか?


いや、攻撃を当てられる確率がほぼゼロだ。


どこだ?


こいつは何処で隙が出来る?


攻撃時も、隙らしい隙は無かった……。


だが、あんな攻撃食らったら……。


「お前に死なれては困るが……瀕死ならば問題は無い」


なるほど……それで、攻撃が急所からそれていたのか。


「その両腕を切り落とし、神の御前へと連れて行ってやろう」


狙いは……。


『わしじゃろうな』


右腕か……。


なら、これしかないだろうな……。


若造! 頼んだぞ!


【はい!】


次に時間停止で俺と距離を無くした悪魔王は、剣を俺の右肩に向かって突き出して来ていた。


今だ……。


その瞬間、若造が時間を遅延させるフィールドを展開する。


俺は、相手の剣の軌道上から右肩をずらし、右の胸の部分をあえて差し出す。


そして、悪魔王の腕に向かい魔剣を突き出す。


動きさえ止まれば、聖剣でコアを貫いてやる。


悪魔王の剣が、俺の右胸をゆっくりと刺し貫いて行く。


よし!


「それでは、駄目だ」


なっ!?


甘かった……。


悪魔王が時間遅延のフィールド内で、俺以上の速度を出して動き始めやがった!


時間遅延も、元は偽神の力……。


それも、魔力が高い相手の方が俺よりも速く動ける。


これじゃあ……。


腕を狙った魔剣を避ける様に、悪魔王は腕を引いてしまった。


くっそ!


【駄目です! フィールドがもう!】


くそったれぇぇぇぇぇ!


(力を欲するか?)


あっ……。


そうか……その為に門を……。


そう言う事か。


そこまで織り込み済みかよ! くそ!


よこせ!


力を……。


力をよこしやがれぇぇぇぇぇぇぇぇ!


「なっ! ば……か…………な………………」


体内から湧き出してくる、莫大な魔力を二本の剣へと流した。


今度は、先程と逆にフィールド内で俺の速度が、悪魔王の速度を超える。


その魔力により、魔剣は光の大剣へと姿を変え、聖剣に大きな魔力の刃が出現する。


右足を軸に捻転する事で、魔剣から魔力を纏った衝撃波を放つ。


そして悪魔王に直撃する瞬間、衝撃波にタイミングを合わせて聖剣を突き出した。


〈バーストインパクト〉!


前回の様に爆発に巻き込まれないように、残った左足で体を後方へと飛ばす。


俺が離れる事でフィールドの消えた悪魔王声のコアは、キノコ雲が出来るほどの巨大な爆発を起こした。


カシャンと音を立てて、光の剣が元の魔剣に戻り、聖剣から魔力の刃が消えた。


そして、風穴のあいた胸もまだ煙を出しているが、すぐにふさがるだろう。


完了だ……。


****


「え? なんだ?」


門の手前まで後退した俺の耳に、歓声が聞こえる。


宙に浮いている門の中から、俺は地上を見下ろす。


歓声を上げる大勢の人の中には、見知った顔もチラホラと……。


『これが、お前の残した結果じゃ』


【誇って下さい! 今日は茶化しません】


ああ……。


みんなが笑ってくれている……。


みんなに何を伝えよう?


俺はどうすればいい?


少しだけ心が緩んだ瞬間を見逃さず、俺の体がドクンと脈動する。


駄目だ……。


【…………】


発作なんか見せるのは格好悪い……。


もう少しだけ我慢しないと……。


『……』


激しい痛みが、胸部から体全体に広がっていく。


謝る?


いや、謝るって事は相手に許してほしいからだ。


俺が、許してくれなんて虫がよ過ぎる。


ドクンドクンと、体の脈動は強まっていく。


お前の言葉を借りて、忘れてくれとでもいうか?


いや……。


ガラじゃないな。


それに、時間が勝手に忘れさせて忘れさせてくれるさ。


痛みが我慢の臨界点に近付き、口内に鉄の味が広がる。


やっぱりこれだな……。


うん! そうしよう!


(ありがとう!)


念話で全ての人へそう伝えた俺は、全力で笑ってみた……。


これでいい。


最後はやっぱり、笑うべきだ。


うん!


俺にしては上出来だ!


これでいい……。


俺はまだ生きている。


絶対みんなを守るんだ。


笑ったまま、門を内側から閉めた……。



発作の苦しみで、俺は生きている事を実感する。



まだ死ねない。



まだ終わってない。



さあ! 笑って真っ直ぐに!



お前を殺してから……。


死んでやるぞ! クソったれ!

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