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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第一章:聖王国の学園編
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九話

武道大会で軍に掴まり、アドルフ様が逃がしてくれるまでの間、隔離された独房に俺は閉じ込められていた。


冷たい石畳。もう冬と呼んでいい季節。薄い毛布一枚では、風邪を引いてしまいそうだ。


こんな経験は久しぶりだ。


昔……アドルフ様に拾われる前は、何度もこの寒さを経験したっけ……。


旅をして暮らしていたんだ。


でも、寒い日もお母さん達や父さんが、俺に寄り添い暖めてくれた。


あの頃は空腹や寒さに暑さ、色々苦しかったが、常に心は満たされていた……。


大家族に囲まれて毎日笑っていた気がする。


本当に他愛もないことで笑えた俺の大切な思い出。


でも、このことを思い出すとどうしてもあの忌まわしい過去も蘇ってくる。



あの時は仕方なかった……。


でも、それですむ話ではない……。


思えば、俺はあの時から運に見放されたんだろうな。


もしかすると、俺のせいで皆が……。


そう考えると死にたくなってしまう。


だから、俺は神様を恨む。


そうしないと自分の心が壊れてしまうから……。


心が弱い事は自分でも分かっている。


でも、今の俺にはこれ以外どうすることもできない。


人生の目的も生き甲斐も、アドルフ様が無理やり俺の為に用意してくれた。


そうしないと、俺が生きていけないとあの人には分かっているのだろう。


無理やりとはわかっていても、弱い俺はそれに頼らないとまっすぐに立てない。


生きていけないんだ……。


母さん……。


父さん……。


こんな俺を笑いますか? それとも呆れますか?


多分褒めてはくれないでしょうね。


でも、俺は生きていきます。


貴方達の生きた証は、もう俺しか残っていないのだから……。


泣いてしまうともう立ち上がれそうにないから、俺は泣きません。


苦しいときほど真っ直ぐに笑って前を見ます。


そう……貴方達が教えてくれたから……。


****


物心ついた時から、俺は旅をしていた。


俺が育ったのは旅芸人の一座で、父さんが団長だった。


実は本当のお父さんではないらしいと言う事は、何となく分かっていた。


俺の母さんは本当の母さんと、それ以外の母さん達がいた。


こう話すとわけがわからないと思う。


俺の本当の母さんは元々娼婦だったが、俺を身籠ってしまったので仕事ができなくなり、娼館を追い出されたところを父さんに拾われたんだ。


父さんは変わり者で、そういった困っている人を好んで一座に迎え入れていた。


何時しか父さんは母さんと恋に落ち、俺を含めて受け入れてくれた。


父さんは本当のお父さんのように、俺と接してくれた。


それが本当の愛情だった事は、子供の俺でも理解できた。


多くの母さん達については、一座には俺の本当の母さん以外にも娼婦だった人や、魔族との戦争で家族を亡くした女性が多くいた。


そのすべての女性が俺にとって母さんであり、他の一座の男性は父やおじいちゃん、お兄ちゃんだった。


もちろん俺以外にも子供は多くいて、すべてが兄弟だった……。


町や城を大きな専用の幌馬車で移動して、興業を行って生活していた。


正直貧乏だったが、みんないつも笑っていた。


俺にとってとても温かい大切な時間だった。


****


そんな幸せは、ある日突然奪われてしまう。


アルティア王国は魔王の治める帝国と隣接しているが、その間に深く大きな樹海があり不用意に入ってしまうと魔族ですら遭難するその森に、守られていた。


もちろん、人間側からの侵攻にも妨げになっているそうだが……。


その、樹海の道をアルティア王国に向かい俺たち一座は進んでいた。


樹海といってもほんの入り口付近で、道から逸れない限り遭難しない程度の、生活道路を進んでいるだけだった。


うちの一座は幌馬車五台のキャラバンだった。


俺は、その時父さんと一緒に一台目に乗っていた。


そして、始めていくアルティア王国の事を、父さんに色々聞いていた。


その時は全く気がつかなかった……。


後続の馬車が一台、また一台と音もなくいなくなっている事に……。


それに気がついたのは、俺達が乗っていた馬車一台だけになった時だった。


不意に振り向いた俺が異変に気が付き、父さん達は馬車を止めた。


そして、父さん達は後ろの様子を見に行った。


後ろには母さん達の乗った馬車がいたはずだ。


父さん達が、武器を構え後ろの様子を見に行くのを馬車の中から、数人の子供だけで見守っていた。


その時、バキバキと何かが折れるような音が聞こえてきた。


それは、道の奥、茂みの中からだ。


子供とは好奇心に逆らえないものだ。


怖がる他の子供を置いて俺は一人だけその茂みに入って行った。


それがよかったとも言えるし、ついてなかったとも言える……。


バキバキと聞こえていたのは、骨をかみ砕く音。


茂みの奥には、全身が毛むくじゃらの大きな異形がいた。


そして、その異形が口に入れていたのは……俺の母さんだった……。


辺りには血の海が広がっていた。


その異形は、トロル。


大型の肉食モンスターで、独自のコミュニティーを形成する化け物だ。


この化け物は巨体にもかかわらず、音もなく忍び寄ることが得意で、馬車を次々とさらっていたのだ。


戦闘力も群れで行動する為、Cランク上位に位置づけされるほどの強さがある。


目の前にも五体以上のトロルがいた。


そのトロルが、俺の家族を……。


俺は目の前で何がおこったか、よく理解出来なくなっており、ただ茫然とそれを見ていた。


俺がトロルの姿を見て少したってから、馬車に残してきた兄弟達の悲鳴が聞こえた。


その茂みに隠れた事で、俺だけが一時的にではあるが命拾いをしたのだ。


しかし、トロルは鼻がきく。


食事を終えた数匹が、ゆっくりと俺の隠れる茂みに近づいてくる。


俺の上にかぶさっていた茂みが、トロルによりゆっくりかき分けられた。


恐怖で震えていた俺は、トロルの一匹と目が合った瞬間、気がふれたように叫んでいた。


トロルが俺に手を延ばした瞬間、俺は目を瞑った。


自分がどうなるのだろうかなど考える事もできない。


本当に、ただただ怖かった。


しかし、俺の体には何時まで待っても痛みが襲ってこなかった。


大きな振動は感じるが、何が起こったかがその時の俺には全く理解ができい。


恐る恐る目を開くと、そこには俺を脇に抱え全力で走る父さんがいた。


ぎりぎりで、父さんに助けられたのだ。


トロル達は俺達を見逃そうとはせず、追いかけてくる。


父さんは道ではなく樹海の中へと、全力で走りだした。


よく見ると、父さんのわき腹から血が滴りおちていた。


たぶん、トロルとの交戦で負傷したんだろう。


トロル達の移動速度は、人間とは比べ物にならない。


追いつかれるのは時間の問題だった。


腹を満たしたトロル達が、狩りを楽しもうと手加減していたおかげで、逃げられていただけだ。


父さんは俺を抱え、ナタで目の前にある枝を切り裂きながら、森の奥へと進んでいった。


そして、大きな大きな……とても大きな巨木を見つけ、その洞に飛び込んだ。


真後ろまでトロル達が迫っており、それ以外の選択肢がなかったからだ。


驚く事に、その巨木の洞は俺たちが飛び込むと同時に、塞がってしまった。


トロル達の息遣いや足音は聞こえてくるが、こちらには入ってこれないようだった。


その淡い光を発している洞の奥には、台座に刺さった一本の剣があった。


血を流しすぎて顔を真っ青にし、呼吸に異常が出始めていた父さんは、一人で洞の奥に向かって喋り始めた。


まるで、剣に向かって話しかえているようだった。


正直な事を言うと、この時の事は動転し過ぎていてあやふやにしか思い出せないが、父さんの言葉だけはしっかりと覚えている。


「どう言うことだ? 力を貸してくれるのか? わかった……」


それだけを喋り終えた父さんは俺の肩をつかみ、あの剣は魂を食らう魔剣で、俺の力になってくれるからしっかりと俺の分も生きてくれと言いった。


そして、優しくも強さのある目で、父さんは俺を見つめた。


「さあ! 俺の命を食らえ魔剣よ! 息子を守ってくれ!」


そう叫ぶと、父さんの体は光の粒になり、魔剣に吸い込まれた。


父さんを吸収した魔剣は浮き上がり、俺の右腕に刺さった。


正確に言うと右腕に吸い込まれた。


俺が呆然と右腕を見ていると、洞が勝手に開いた。


周りにトロルはいなくなっていた。


何をどうすればいいのかすら分からなかった俺は、ふらふらと森の出口を目指して歩き始めた。


元々通っていた道が見えた所で、先ほどのトロル達が目の前に現れた。


何故かその時の俺からは、恐怖が無くなっていた。


生きる気力がなかっていたのかもしれない。


それでもトロルの伸ばした手には、反射的に腕を振ってガードしようとしてしまう。


その瞬間、俺に手を伸ばしたトロルが大声で叫ぶ。


伸ばした手が、切断されたからだ。


いつの間にか、俺の右手には魔剣が握られていた。


俺は気がつくと、たじろぐトロル達にその魔剣を振り回して、襲いかかっていた。


多少なりとも、俺はおかしくなっていたのかもしれない。


魔剣を振るうというよりは俺が振り回されるような感じだったが、鉄ですら切断する魔剣は、刃が触れた部分を全て切り裂く。


この辺も記憶があやふやだが、敵の三体は逃げ出し、四体を動けないほど切り刻んだ……はずだ。


敵がいなくなった所で、俺は魔剣を抱えてしゃがみ込んだ。


子供だった俺には、それから何をすればいいかが全くわからなかった。


途方に暮れるというのは、その時の俺のような状態を言うのだろうな。


自分も一緒に死ねば楽だったのではないか? しかし、父さんは生きろと言った。


その二つの相反する思いが、俺の中も繰り返されていた。


****


半日後、俺の前に一人の馬に乗り、鎧をまとった軍人が立っていた。


それこそが、森のトロル討伐に来ていたアドルフ:マキシム様だった。


アドルフ様は俺に状況をいろいろ聞いてきた。


俺は考えることをやめており、全てを正直に話した。


これが、魔剣とアドルフ様に出会ったいきさつだ。


アドルフ様は魔剣が右腕に吸い込まれたのを見ても、俺を優しく自分の屋敷に招き、保護して下さった。


実は、俺はお嬢様の将来の婿候補としても保護されたらしいのだが、今はもう絶対無理な話だ。


そして、文献を読み魔剣がソウルイーターと言う名だと推測できたのは、それから数年後の話だ。


家族の思い出は俺を和ませると同時に、苦しみを思い出させる。


やっぱり、俺って十分不幸だよね? はぁぁぁぁあ……。


****


「レ~イ」


「お嬢様」


「もう! リリーナって呼んでよ!」


「ごめんよ。リリーナ」


「遊ぼ!」


「いや……まだ仕事が……」


「え~……」


「いいよ。行っておいで。子供は遊ぶのも仕事のうちよ」


「ありがとう!」


メイド長の許可に、俺以上にお嬢様は喜んで礼を言った。


そして、俺の手を引いて裏庭に走り出す。


俺が、屋敷に引き取られて一年後くらいの話だったかな?


この頃からお嬢様は美しかった……。


屋敷に遊び相手が少ない事もあって、俺はよくお嬢様の遊び相手になっていた。


日が暮れるまで追いかけっこをよくしたもんだ。


性格も素直でとてもいい子だったなぁ。


それが今では……。



「なんだ? お前ら遊びに行くのか? 俺も遊んでやってもいいぞ」


「えっ……」


「お兄様も行きましょう!」


この頃からバイスは嫌な奴……と言うより、素直じゃなかった。


今みたいに酷くはないにしても、嫌みっぽい口調は多かったな。


それでも三人でよく遊んだ。


あの日が来るまでは……。


まだ子供で無邪気だった俺は、父さんと母さん達の死を忘れたかったのか、仕事と遊びに没頭して何も考えなくていいほどクタクタになってから眠っていた。


その時の俺は、自分の運の無さを意識出来ていなかった。


今なら認識できているが、俺は驚くほど運がない。


思えばこの日の出来事も、運命だったのかもしれない。


お嬢様の信頼と引き換えに、俺は力を手にした。


それが良かったのかどうか……。



「ねえ! レイ! 裏山に行きましょうよ!」


「裏山ですか?」


「うん! 今ごろお花畑が満開なはずなの!」


「じゃあ……」


その言葉で、俺達三人は裏山の開けた場所へ向かった。


「うわぁぁぁ!」


開けた場所一面には、満開の花が咲き乱れていた。


そして、俺たちは花で王冠を作ったり走りまわったりと、無邪気に遊んだ。


****


「グルル……」


「うわぁぁぁぁぁぁ!」


最初に気が付いたのは、バイスだった。


どこから紛れ込んだのか、森の奥から一匹の狼が現れた。


足に傷を負っている。


普通の狼であれば、逃げることも出来たかも知れないが、その時現れたのはハウンドウルフ。


列記としたCランクモンスターだ。


リリーナお嬢様とバイスは、急いで俺の後ろに隠れた。


俺は魔剣をとりだそうか迷ったが、アドルフ様から人前では魔剣を出すなと言いつけられていた。


素直すぎる子供って、ある意味融通が利かないんだよねぇ。


ジリジリとハウンドウルフが迫ってくる。


殺される! どうする? 俺はどうなってもいいが、アドルフ様の大事なこの二人だけは守らないと!


融通が利かないくせに、正義感だけはあった当時の俺。


そこで、お馬鹿な俺が取った行動は……。


しがみ付く二人を振り払い、木の陰に隠れて魔剣を取り出すと言う事だった……。


それが、二人に誤解を生むとは考えもしなかった……。


当時の俺、馬鹿過ぎる。


ただ、二人を守りたいという気持ちは、本物ではあった。


木の陰から出たとき、バイスは失禁し気絶しており、お嬢様もハウンドウルフに馬乗りに押さえつけられ、気を失っていた。


「やああああ!」


俺は魔剣をふるい、ハウンドウルフに立ち向かった。


しかし、この狼に俺の剣は届かなかった。


トロルに巨体でもないし、怪我をしているせいで油断もしてくれていなかったからだ。


普通に考えて、有利な条件を整えない限り、魔剣を持っていたとしても子供がCランクモンスターに勝てるはずがない。


****


「はぁはぁはぁ……」


今と比べて戦闘力が皆無に近い、子供だった俺はスタミナの限界を迎えて追いつめられた。


十分以上も戦えた事自体が、奇跡だったのだろう。


「やあ!」


俺が剣を全力で振り、その勢いでよろめいた所で、勝負は決まっていた。


「ガウッ!」


体勢を崩して転んだところに、ハウンドウルフが跳びかかってくる。


駄目だと思った瞬間、目の前でハウンドウルフが両断された。


俺が見上げた先には、刀を持った一人の男性が立っていた。


それが、俺と師匠との出会いだった。


****


カキンと鍔鳴りの音を響かせて刀を納めると、師匠は何も言わずに森の奥へ去って行こうとした。


気が付くと俺は師匠を追いかけていた。


森の中に入っても追いかけてくる俺に、師匠は立ち止り振り向いてくれた。


俺は師匠の前で土下座をしていた。


何故かは説明できないが、その時の俺は師匠が剣の達人であると感じ取れていた。


「俺に力を下さい! 剣を教えて下さい!」


俺は地面に頭を擦りつけ、必死に頼んでいた。


少し困ったように頭をかいた師匠は、こうつぶやいた。


「俺にはあまり時間がない……。それでもいいか?」


「はい!」


****


それから一週間だけではあるが、俺はその裏山で師匠に剣を教わった。


俺はもう二度と目の前で大事な人が傷付けられるのを見たくなかった。


だから、力が……。


誰にも負けない力が欲しかったんだ。


この頃の俺は純粋だった。


自分で言うのもなんだが、いい子だったはずだ。


師匠の教えを素直に吸収していった。


師匠は異国の人で、技の名前は俺の発音できないものもあった。


その為、技の使い方はそのままだが、名前は付け直させてもらった。


〈トライデント〉や〈サザンクロス〉も、実は俺が勝手につけた名前だ。


師匠の技をどれほど受け継げたかは分からなが、一週間で可能な限り教えてくれた。


この国とは違う独特の剣技を。


そして、一週間ほどたったある朝、眠っている俺の頭を師匠は優しく撫でてくれた。


俺はうっすらと目を開けたが、眠気でそのまままた眠ってしまった。


目を覚ますと、師匠はいなくなっていた。


名前すら知らない師匠……。


でも、あの人がいなければ今の俺はない。


****


一週間ぶりに屋敷に戻った俺への、リリーナお嬢様の第一声は、いまだに忘れられない……。


「何で帰って来たのよ! 信じてたのに……この裏切り者! 死んじゃえぇぇ!」


師匠に最後は助けられたけど、俺って命の恩人なんだけどねぇ。


その後、アドルフ様にありのままを話し、屋敷で再び住む事を許された。


アドルフ様だけが、よくやったと言ってくれた。


しかし、お嬢様とバイスの俺に対する態度は……。


まあ、純粋な少年の心がねじ曲がるのに、時間はかからなかったよ。


俺が馬鹿なのは分かるけど、あの時も頑張ったのにぃ!


俺……頑張ったもん……。


俺に、勇者とかみたいな幸運さえあればなぁ……。


はぁぁぁぁぁぁぁ。


やってらんね~……。

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