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俺がゲーム上で話した人物――リナは実は本当に存在する人間で、しかも大企業の令嬢だった。漫画みたいな展開で信じられないかもしれないが信じてくれ。そして、俺は今、自分の家に案内していた。どうやらリナの家はここから遠いところにあるらしく(まあ、車で来ていたという時点で想像はできていたが)、ゆっくり話す場所に行きたいと言われたので、ちょうど高校生になってから親が出張中のため、ほぼ1人暮らし状態の俺の家に案内することにしたのだ。ちなみに明は一緒にいるとややこしくなるので帰ってもらった。リナと一緒に来た人は車の運転士オンリーらしく、俺たちを家の前まで送ると、車の中に残ると言い、結局家の中に入ったのは俺とリナだけだった。別にお茶の用意なんてサラッとできるから入ってくれてもいいのに。お金持ちのところで働くとややこしい事情でもあるのかな、と思いつつ、俺はお茶の準備をする。お菓子は昨日買ったクッキーにした。それをトレーに乗せてリナがいるリビングへ向かう。結構最近にできたマンションに俺は住んでいる。部屋が狭いことに不満を感じることもあったが、1人暮らし状態の今は快適で、階段もないからこういう持ち運びをするのは非常に楽だった。
「お待たせ」
「ありがと」
お茶をそれぞれ俺とリナの前に、クッキーを間に置く。リナはさっきから部屋を珍しいものでも見るように見渡していた。そういえばコイツってお嬢様だから、こんな平凡な家に来たのは初めてなのかもしれないな。
「どうぞ。…そんなにいいものじゃないから口に合うかはわかんないけど」
「別にそんなこと気にしないわ。いただきまーす」
そう言って、リナは早速お茶を口に運び、クッキーを頬張った。次第に口元がほころぶリナを見て、俺は胸をなでおろす。俺もお茶を飲んで、クッキーを食べた。このクッキーは近くのケーキ屋さんのもので、巷でおいしいと評判なのだ。そしてつい昨日、その店が全品20パーセントオフの日だったので、このクッキーとショートケーキを買ったのだ。もちろん、ショートケーキも美味しかった。
「どうだ?」
「美味しい!大人たちは最高級のものがどうたらこうたら言うけど…私にはこっちの方がいい」
「それならよかった」
「あ…改めて私は日坂院 梨依奈。リナって呼んで。学年はアズと一緒の高1よ」
「俺は安須地 裕太。俺もアズって呼んでくれ」
「へ~。あだ名がアズだからどんな名前かと思ったら、名字からとっていたのね」
「リナって本名かと思ってたけどそうじゃなかったんだな」
「まあね…って私言わなかったっけ?」
「そうだったか?で…何で俺に会いに来たんだ?友達とかだったらわかるけど…。仮にも俺たち昨日知り合ったばっかだぞ?」
そこまで言うと、リナは口をつぐんでいた。まず、聞いちゃいけないことだったか…?何かよくあるパターンだとこういうお金持ちの人は家庭環境があまりよくなかったりするし…。俺は慌てて、
「いやっ、誰にも言えない事情はあるよな!?ごめん、首突っ込んで…」
「違うの…。えっと、その…私、アズに…」
『一目ぼれしちゃったみたいで…。会ったのはゲームでだけど。でも、好きなの!』
…俺はどうやら本気で彼女に好かれていたようだ。あまりの驚きにティーカップを落っことしそうになるのを何とかこらえる。あれ、もしかして俺告白されてる?彼女いない歴イコール年齢の俺がこんな絵に描いたような可愛い子でプラスお金持ちのヤツに?
「あの…、これってもしかして告白デスカ?」
「…告白じゃなかったらなんなのよ?」
「いや、その信じられなくて。漫画みたいな超絶展開過ぎて…。…でも、後悔しないのか?まだ初めて会ったばっかなんだぞ?」
「後悔しない…って、いいってこと!?」
リナの顔が輝いた笑顔になる。リナに率直に答えるならイエスだ。なんだかんだで昨日、俺はリナと話せて楽しかったワケだし、その…告白されてもいいなって思えたし。
「いい…よ」
「ありがとう!」
リナが抱きついてきた。ちょ、リナさん!胸当たってます!親いなくて本当によかった…。
「り、リナ離れてくれ…」
「…?あ、ごめんね。これからよろしく」
「ああ」
「…あのね、付き合うことになっていきなりで悪いんだけど…」
瞬間、俺は目を見張った。リナのティーカップが、誰も触っていないのにふわりと浮いたのだ。目をごしごし擦ったが何も変わらない。つまり…、これはれっきとした事実なのである。そしてリナは真剣な目をしてこう言い放った。
『超能力って、信じる?』
誰かが昔、そんなことを言っていたのがかすかに思い出された。