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 強盗団のアジトにて



「ははっ、まさかこんなお嬢ちゃんがここまで凄いとは思わなかったぜ……」

「ああ、スゲエ……」


 アベリー達強盗団のアジトで沢山の男達、強盗団のメンバーが立ち上がって唖然とした顔をしていた。

 それぞれが如何にも強そうな雰囲気を放つ男達の中心には三人の男と、一人の少女が机に座って、何やら手を動かしている。


「何て恐ろしい嬢ちゃんだ……流石、ハーベイの娘って所か」


 座っていた男の一人が畏怖を込めた声音で呟くと、他の男達もまったくだと首肯する。が、それに気づいていないのか、少女はじっと机の上を見つめていた。


「あぁ……こりゃ『ヤベエ』……」


 一分程すると三人の男達は再びため息を吐き、今度は畏怖というよりも恐怖に近い感情になる。



「フルハウスですが……何かあったんですか?」



 自分の手札を全員に晒したその時、やっとそんな光景に気づいたのだろう、少女はきょとん、とした雰囲気で首を傾げていた。

 そう、少女と男達が手に持っていたのは----トランプだった。


「あの……私は何か失礼な事を……?」


 良く通る声、という訳ではない。声自体は大人しげな少女ならよくある物だ。だが、彼女自身の人格が発しているのであろう雰囲気と相まって、それは透き通る様な美しさと暖かさを感じさせる。

 そんな少女に強く出る事も出来ず、男達は一斉に顔を見合わせ、助けを求める様に部屋の壁に居る男に視線を向けた。



「あぁー。大丈夫だぞ、そいつらはお前さんがあまりにも強いから驚いてるんだ、気に病む必要はない」


 男達の視線を鬱陶しそうに受け止めながら少女に説明したのはアベリーだった。

 面倒そうな口調での言葉ではあったが、普段仲間に話すそれより、心なしか気遣いが見て取れる。


「そう、なんですか?」

「ああ、こんなロクデナシ共と遊んでくれてむしろ感謝だね」

「む、この方々はその様な言葉で呼ばれて良い存在ではありません。とてもお優しくて、素敵な方々です」


 その中には、一切の世辞も嘘も含まれず、ただ、純粋な敬意の色があった。

 そんな言葉の対象となった男達は、一斉に顔を見合わせる。今度は返答に困ったからではなく、言葉に困惑した為に。


「……なんだろうな、この、なんていうか、こう言うのを目映い美しさって言うんだろうな」

「……ああ、まったくその通りだ。スゲエよ、魂が震えるね」


 少しだけ不満げな表情を浮かべる少女の言葉を照れた表情で受け入れる仲間達にアベリーはため息を吐く。

 少女をアジトに連れて来た時は、仲間からの疑いと、からかいの意味を含めた眼に耐えねばならなかった事もあってアベリーの心は疲れきっていった。



「俺は仲間だから良いんだよ、まったく……」


 「強すぎるだろ、お前」と、続く言葉をアベリーはあえて飲み込んだ。

 その瞬間より少し前、少女の紹介を終えて納得した彼らは趣味である賭事を再開したのだ。ついでに、と少女にも賭金を渡して参加させた。

 それがいけなかった。

 何と、少女は彼らがその場で出来る限りの賭をして、それら全てに単独で勝利してのけたのだ。

 無論、全てのゲームを初めて知ったという彼女にそんな技術がある訳も無く、ただ恐ろしい程の運が勝利へと導いているのだ。


----何で俺が勝ったらイカサマで、あの嬢ちゃんが勝ったら『凄い運』なんだよ。顔か、顔が悪いのか。そりゃこの嬢ちゃんにはそんな事言えないだろうが……ある意味、ボスの器だな、コイツ。


 ふとそんな事を考えたアベリーも、賭を趣味にしている癖に賭事が下手な仲間達から金を剥ぎ取るのは良くある事だった。その度に不正を疑われていたにしても。

 だが、少女はその様な目を向けられる事は一切無い。そこに若干の不条理を感じざるを得ないアベリーだった。


----まあ、これくらいの運でなけりゃ逃げる時に俺達と鉢合わせなんて、ありえねえか。


 内心ではため息を混ぜつつ、アベリーは一人で納得した。彼は、少女を中心にして起こっている仲間の大騒ぎには参加していない。

 理由は、一つだ。彼女がマフィアの娘だからではなく、病によって身体が常に危険な状態である少女が何時倒れても良いように準備しているのである。



「あぁ、俺も十二分に甘い」

「まったくです。まあ、俺も参加する気は起きないんですがね」


 いつの間にかアベリーの隣で同じ様に壁に寄りかかっていたのは、ダグラスだった。

 両手には何も無い様に見えるが、その手は次の瞬間には銃を握れる程素早く動く事をアベリーは良く知っている。頼れる男だ。


「ところで、ボスに二つ程質問があるんですが」

「何だ?」


 アベリーが了承した事を確認したダグラスは、周囲の熱狂も構わず話を続けた。


「一つ目に、ケースはどこですか? 奪ってきたんでしょう?」

「ん? ああ、あれなら……さっきビルが部屋の隅に置いてたぞ」


 そう言ってアベリーが指さした方向をダグラスは見て頷く。そこには確かに、少女が持っていたケースが転がっていた。

 金が大量に入っている事を少女を含めた全員が知っているが、何故かそれには見向きもしない。というより、少女との賭事に夢中で忘れている様だった。

 そんな、強盗と呼ぶには無理がある様にすら思えてくる仲間達の姿をダグラスは楽しそうに眺めた。


「また随分、適当な場所に置きますね。あぁ、二つ目の質問なんですが……」


 一瞬、ダグラスは口ごもった。「余程聞きにくい質問なのだろう」、と即座にアベリー判断し、覚悟を決める。



「あの嬢ちゃん、後どれくらい持ちそうだって言ってました?」

----気づいてやがったな。


 思わず、ダグラスにそう言いかけたアベリーは慌てて口を閉ざし、一度仲間の方へ目を向ける。


「あぁ、また負けだ」

「本当にスゲエよ嬢ちゃん」

「俺、有り金全部出しちまったし、そろそろ服でも賭けるか……」

「止めろ変態野郎、嬢ちゃんの前だぞ」


 少女は相変わらず全戦全勝らしく、仲間達の一人が賭ける物を無くし、男しか居ない時----すなわち普段通りの調子で服を賭けようとして周囲に袋叩きにされている。

 そんな少女を、アベリーはただ『病弱な少女で、ライアン・ファミリーの娘』としか紹介していない。

 が、その場に居たダグラスを騙す事は出来なかった様だ。


「……一年、だそうだ。それ以上は、中身を全部入れ替えるくらいしないと無理だってよ」


 それを聞いたダグラスの顔は目に見えて落ち込む。アベリーも同感だった。

 が、事態はそれ以上に深刻なのだ、アベリーはダグラスにそれを話す事にした。



「実際にやるつもりらしいから、恐ろしい話だがな」



+


 四十分前 とある病院


 アベリーは少女を屋敷から連れ出した後、すぐに顔見知りの医者が居る病院に飛び込んでいた。何せ、少女は時折死相が見え隠れする程に青白い表情をしていたのだ、考える暇すら与えられなかった。

 幸運にも、この病院の医者は少女とも顔見知りで少女の健康状態の事を良く知っていた。その為、少女の異常な状態は『とりあえず』止められたのだ。


「……つまり、お前のクローンがお前と体を入れ替える為に殺されるから、それが嫌で逃げ出した、と?」


 そんな彼は今、病院のベットの前で少女から事情を聞いていた。

 少女の着ている服は飾り気のない薄緑色の患者服のそれだったが、彼女が着ると儚い美しさが強調され、見とれていたくなる程魅力的に見える。


----まあ、俺はガキに興味はない


 が、アベリーには関係無い話だった。

 そんなアベリーの思考などまったく知らず、少女はアベリーの質問に返答する。


「はい、私は……人から、それも妹に等しい子の命を奪ってまで、生きようとは思いませんから」


 少女の口調は、自身の命を語っているというのに穏やかな物だった。それを感じつつも、アベリーは次の質問を投げかける。


「あぁ……まあ、理解できた。信じてやる、なら……あの金が入ったケースは、何だ?」

「あれは、私の手術料金です。ライアン・ファミリーの傘下にもお医者様はいらっしゃるのですが、どうやら父はもっと腕の良い方を他所から雇う様で……」

「……成る程な」


 少女----ミア・ライアンから話を聞いて、アベリーはほとんどの事情を理解していた。『クローン』という単語は滅多に聞けない物だが、その概念自体はこの町にも存在する。実際に存在を知ったのは、初めてなのだが。


----確かに『人を殺す為の金』だ。嫌な予感、やっぱり当たってるなぁ……


 実質的に誘拐と取られても仕方のない形でここまで連れてきたミアの事情に、アベリーは自身がどうしようも無いほど厄介事に巻き込まれた事を理解させられた。

 が、彼はその程度で投げ出す程無責任ではない。


「とりあえず、話は分かった。俺の所のアジトで匿ってやる」

「ほ、本当ですか! 良かった……このご恩は、必ずお返ししますっ!」


 目映い笑顔を浮かべて喜ぶ、人を『その気』にさせる才能を持っているというのに人を疑う意志を見せないミアに、アベリーは一つ助言を与える事にした。


「強盗なんぞに借りを作る物じゃねえ、どんな返しを要求されるか分からないからな」


 一瞬、ミアはきょとん、とした表情でアベリーを見て、次の瞬間には首を一度だけ振っていた。

「いいえ、貴方は大丈夫です」

「……どうしてそう思う?」

「とても優しい方だと、そう思いますから」


 ミアの言葉には一片の嘘も見えず、目にはアベリーへの敬意がある。

 彼女の言葉は全て真実だと、アベリーは理解して----理解したまま、ミアに背を向けて病室から出ていく事にした。


「どうしたのですか?」

「……外で俺の仲間と医者を待たせていてな。ああ、そうだ。そうだとも」


 首を傾げるミアに背を向けたまま、アベリーはそれだけ言って部屋から出ていった。



----やりにくい奴だ。


 部屋に出てからすぐ、アベリーは扉に寄りかかって考えていた。

 ミアの声は儚かったが、力強かった。雰囲気は弱々しいが、人を引きつける物だった。

 そんな反する二つを同時に感じさせる彼女の褒め言葉を受けて、アベリーは自身が内心、少し照れを感じている事を自覚していた。


----言葉の一つ一つが心に響きやがる。ガキと呼んでいい奴じゃねえな。

----それにしても、ああいうのをカリスマ性って言うのかねぇ……


 アベリーは自身の心が揺れている事への動揺を抑え込み、一度ため息を吐いた。


「……ボス……ボス!」


 すると、すぐ隣で聞き覚えのある声が響いてきて、アベリーは慌ててそちらを向く。そこには、やはり見覚えのある仲間が居た。


「なんだ、ビルか……驚かせるなよ、危うく殴り飛ばす所だった」

「……なんか、俺の扱い悪くありません?」


 そう、そこに居たのはアベリーの仲間で、ある秘密を持っている男----ビルだった。

 少し前に、ライアン・ファミリーの構成員に麻酔銃を奪われて『殺された』というのに、そこに居るビルは当たり前の様に生きて、怪我一つ感じさせない格好をしている。


「まあ、お前の扱いは気にするな。ところで、傷はもういいのか?」

「ええ、医者からも退院して大丈夫だと言われました。まあ……一日すれば全部直るんですけどね」

「二百年生きておいて、情けないな」


 関係者以外には理解出来ず、嘘としか思えない会話を関係者であるアベリーとビルは当然の事だが理解出来、本当の事だと知っていた。

 そう、このビルこそが一年前、彼らが『島』で事件を起こした原因の一つであり、その『島』に二百年前に住んでいた----過去の住人なのだ。

 殺されたからと言っても、相手は『本人に生きる意志がある限り』生きていられるビルだ。仲間達がそれほど報復の意志を見せなかったのも当然と言える。


「まあ、マフィアにやられるのもしょうがないか……お前、普段はゴミみたいに弱いからな」


 適当めいた口調であっさりと告げられた言葉にビルは肩を落とし----隣に居た男に肩を叩かれて慰められた。



「その辺にしておいてやれ、一応、病人だぞ?」


 そこに居たのは、この病院の医者だった。


「俺の仲間だ問題ないさ。というか、本来病院送りとは縁のない奴……の、筈なんだ、コイツは」


 それなりの腕を持っているというのに、余り医療費を要求しないその医者は、アベリーの仲間達が何度も世話になった相手でもある。

 強く出る事の出来ない相手に対し、自然とアベリーの口調もどこか弱い物になった。

 が、アベリーは医者の周囲を見て一つ疑問に思い、口を開く。


「なあ、助手の女はどこ行った?」

「……ああ、彼女か。彼女なら他の患者の世話をしているよ。私が世話をするより何十倍も好評だ」

「当然だろ、それ」

「ああ……当然だな」


 やれやれと肩を竦める医者の視線は目の前の二人ではなく、別のどこかを見ている様に見えた。

 その視線がどこにあるのか、アベリーにはすぐ分かった。医者が見ているのは扉、厳密には、扉の向こうに居るミアに向けられているのだ。


「……で、あのミアって子はどれほど『持つ』んですか?」


 アベリーも聞きたかった事だが、その質問を医者にしたのはビルの方が早かった。


「それは、だな……」

「それは? ああ、『ヤバイ』のは分かってる」


 医者が口ごもった事から、アベリーは即座に予想して、ある種の覚悟を決めた。ほんの僅かな間だが、医者は何故か懐かしそうな顔をする。


「最高で一年だ」

「一年……? 本当に、そんなに短いのか?」


 ビルは唖然とした様子だったが、アベリーは予想通りの言葉に内心では頷いていた。実際にミアを見て、話していれば、分かる。


「ああ、薬と、彼女自身の生きる意志と運があって一年だ。彼女がライアン・ファミリーの関係者でなければ、幼い頃に死んでいてもおかしくはない」


 今年で十六になる心優しい少女の運命としては、間違いなく過酷な物だ。アベリーは思わずため息を吐いてしまった。


「世知辛いな」

「ああ……世知辛いとも、彼女は昔からとても良い子でね……何時死んでもおかしくない体だというのに、嘆きも怒りも、誰かを責める事もしないで笑ってくれるんだ……私にもっと腕があれば……と常々思うよ」


 自分には手に負えない何かを前にした怒りを露わにする医者の肩を、アベリーは元気付ける様に何度か叩き、何かを思いついた顔でビルの方を向いた。


「何だったか……ビル、お前の大好きな」

「……? エィストさんの事ですか?」

「ああ、そいつだ。そいつなら、どうにでも出来るんじゃないか?」


 医者をして『どうにもならない』と言わせる少女の病、それを『どうにでも出来る』存在を、ビルは知っている。

 何せ、ビルは実感として体験しているのだ。『一度死んでから死んでいなかった事にされた』のだから。

 だが、ビルは静かに首を横に振った。


「あの人なら、確かにどうにでもするでしょうね……でも、どこに居るのか誰も知らないんですよ」


 ビルの言う言葉が真実だという事は、本人の調子からも明らかだった。一年前に二百年ぶりに現れてから、エィストの居場所は誰も知らない、少なくとも、町の住民の中では。


「そうか……いや、そう期待はしていなかったが……」

「いや、本当に残念。あの人、ああいう子大好きなのに」

「……訂正する。会わない方がいいかもしれん」



 隣で繰り広げられる要領を得ない会話に、医者は首を傾げていた。彼は、『島』についてもエィストについても何も知らない。


「……で、お前達はどうするんだ?」


 その言葉で、二人の男は同時に医者を見る。その勢いに医者は一瞬怯んだが、『ある人物』で慣れていた為にすぐに気を取り直し、話を続ける。


「お前達が拉致したのはハーベイ・ライアンが命より大切にしている娘だ。大変な事になるぞ」

「ははっ、今更だな。覚悟の上さ」

「いや、私に被害が出るかもしれないだろ」

「……ああ、そういう意味か」


 ニヤリと笑ったアベリーは冷静極まる医者の言葉を浴びせかけられ、思わず黙り込む。隣のビルが悪戯っぽく笑っていた。

 そんなビルの足をアベリーは迷わず踏みつけ、呻き声を聞く事すらせずに話を続ける。


「あー……安心してくれ、迷惑はかけない。あいつ……ミアはこっちのアジトで預かる事にするよ」

「いてててて……ボス、ケースはどうします?」

「お前が持ってろ」


 そう言うと、アベリーは手に持っていた金の入ったケースをビルに投げ渡した。


「うわっ! ちょ、これ、多額の金が入ってるんじゃ……」


 ビルの抗議を聞き流し、アベリーは病室を開けて「俺達のアジトへ連れていってやる!」と言って部屋の中に入り、すぐにミアを連れ出してきた。


「あ……お医者様、ありがとうございます。お陰様で、少し楽になりました」

「あ、ああ……あまり無理をしてはいけないよ」

「ええ、大丈夫です。『その時』が来るまで、元気で居たいと思っておりますので」


 アベリーに連れられて部屋から出てきたミアは、医者の姿を確認してすぐに一礼する。心からの気持ちが込められたそれを、医者は懐かしそうに、そして少しだけ悲しそうに受け取った。


「じゃあ、俺達は行くが……誰にも言うなよ?」

「無理を言ってくれるな、私はハーベイの所とも親交があるんだぞ? 絶対とは、言えないね」

「お願い、できませんか?」


 アベリーの頼みを一蹴した医者だったが、ミアの切実そうな声から逃れる事は出来なかった。

 医者は一度呻き、頭を掻いて困り顔になったが、すぐにため息を一つ吐いた。


「ああ、構わんよ……私に出来る範囲で口を閉ざしておこう」


 「この子には叶わない」医者の目はそう告げていた。




 アベリー達がその場を後にしてから一分程した後、他の部屋から一人の女が出てきた。退廃的な雰囲気を発した美しい女性だった。

 女は少し困った顔の医者を横から見て、思わず首を傾げる。


「……あら?」


 医者は一瞬だけビクりとして声の方向を見つめた。が、そこにあった顔を見て安堵の息を吐く。


「……あぁ、君か」

「君か、じゃないわ。患者さんが?」

「ああ、そうだ……久しぶりに見た顔だったよ、あぁ……母親に似て、とても良い子だ」


 その口振りから感じられるのは、深い後悔だった。女にはその感情の正体が分かる。何故なら、その後悔の源となった場所に、彼女も居たのだから。


「……もしかして、ミアちゃん?」


 一人の少女の姿を思い浮かべ、女は悲しそうな顔をする。


「そっか……あの子、ここに来てたのね……折角だから、会っておきたかったなぁ……」


 十六年前に思いを馳せつつ、女は医者へ声をかけた。そこには、少しだけ希望を祈る様な気持ちが見え隠れしていた。


「それで……その、彼女は大丈夫だった?」

「大丈夫なわけがある物か……後、一年持てばいい方だ……というか、君は少し前に彼女の家で直接会っているじゃないか」


 そう、長らくミアと会っていなかった医者とは違い、女は何度か定期的に検診の為にミアと会っているのだ。ミアの命が後僅かである事など、女の立場では知っていて当然と言えるだろう。


「それでも、分かっていても、認めたくないものってあるじゃないの……」


 非情な現実に、女は肩を落とす。医者はその肩を何も言わずに何度か叩いた。

 目の前の女は十六年前にはもっと元気そうな女性だったが、現在は退廃的かつ、世の中を嫌う様な雰囲気を発している。

 その原因が何処にあるのか、医者には良く分かった。だが、それをあえて言う必要も感じられず、医者は肩をまた何度か叩いてからその場を後にする。

 そんな男の背中を見つめながら、女は苦笑いを浮かべ、一言だけ呟いた。


「……悲しい、話よねぇ……」

「ああ……まったくだ」


 そう言ってその場を離れた瞬間、男は気持ちを切り替え、他の患者達の事を考え始める。そう、彼の患者はミアだけではないのだから。



「……」


 そんな彼らの知らない所で、ダンプから受けた怪我を見て貰う為に来ていたトニーが隠れて全てを聞き、静かに出ていったのだが、誰も気づいては居なかった。


さて、にじファン消滅という緊急事態ですが、オリジナルのこいつは関係なく投稿されます。今回の作品は結構気合を入れて書いてますが……うーん、流れがチョイ悪いかも?

2012/7/6

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