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一時間前 同所


 アベリーとその仲間達は屋敷の中で金目の物を探っていた。途中で何度もファミリーの構成員が襲って来たが、彼らは軽々と返り討ちにする事が出来た。


「なんつーか、ここまで楽勝だと怪しくなりますよねぇ……一年前も、警備と難易度の差がおかしかったですし」

「ああ、前の時は罠だったなぁ。今回は違うよな?」

「大丈夫さ、前回よりは俺達の頭も良くなってる……多分。そんな事より、警戒は解くなよ」


 雑談をしながら進んでいく男達に、アベリーは話しながらも注意をする。

 そんな時、扉の一つから男達が流れ出てきたが、単純作業でもするかの様にアベリーともう一人が殴り倒した。


「ああ、ダグラス。俺一人で十分だぞ?」

「分かってます。が、二人居た方が、楽になるでしょう?」


 そう言って男----ダグラスは笑みを浮かべる。彼ら強盗団の中でも最上位に当たる実力者の言葉に、アベリーは渋々ながらも納得した。


「それにしても、長い廊下ですよねぇ。こう部屋が多いと、迷っちまいそうだ」

「何て言うか、何かを閉じこめておきたい、みたいな感じですよね」

「何を?」

「さあ?」


 やはり、雑談をしながら彼らは進む。それでも油断無く周囲への警戒は怠っていないのは流石と言えるだろう。


「何を閉じこめておきたいかは知らないが……俺達の目的は報復だ、関係無いさ」


 ある意味では優秀な部下達を見て、アベリーは誇らしそうな顔をしながら周辺を探った。


「そういえば、外の連中は大丈夫ですかね、報復で犠牲者が出たら本末転倒ですよ」

「一応、死傷者が出たら撤退しろとは言ってるんだがな……ビルと違って、連中は死んだらそのまま死ぬんだから、よ」


 アベリーを男達が時々耳を澄ませてみれば、相変わらず外の騒ぎが終わっていない事が分かる。それは、仲間達が撤退していないという証だ。

 男達は安堵の息を吐いた。相手は組織である、思考以外は精鋭の彼らとて、これほどの相手は初めてだった。


「連中、まだ大丈夫みたいだな……どこに金か、銃か……どっちか、見つけないとな」

「そうですよねぇ……っ! 何か来ます!」


 アベリーの言葉に同意していたダグラスが何かに気づくと、その瞬間から警戒を最大に引き上げ、少し離れた場所にある扉を見つめた。

 アベリー達も数瞬遅れて警戒し、扉へ銃を向ける。男達の一人は銃を持ちながら、ダグラスに話しかけた。


「……何だ? ダグラス、お前は分かるか?」

「…………男一人と、女一人、どうやら女が逃げようとしているみたいで」


 何やら正確に言い当てるダグラスに、男達は驚いた表情をした。が、アベリーは出来て当然と言いたげに頷いた。


「まあ、ダグラスの言う通りだ、合ってると思うぞ。ああ、そろそろ----来るぞ」



 アベリーが言った瞬間、その扉が開いて少女が飛び出して来た。輝く赤毛に細く白い肌、歳は十代の半ばと見られ、仄かに病んだ空気を漂わせているのが印象的な少女だ。

 片手には、何故かアタッシュケースが握られていて、それが自身の切り札であるかのように


「お願いしますから……! 逃がしてください!」


 少女は扉から飛び出すと同時に体をふらつかせて倒れ込み、扉の奥に居るであろう存在に懇願する。それはまるで、魂から来る叫びの様だ。


「そういう訳にも行かないんです! お願いですから戻ってください」


 その声に反応するかのように部屋から出てきたのは、一人の男だった。取り立てて特徴の無い、普通の男だ。


「こっちにも事情があるんです! お嬢様を逃がしたら俺、ボスにぶっ殺されちまうんですよ」

「……お願い、します」


 男の言葉に少女はもう一度、今度は哀願する様な声音で同じ事を言った。

 男は、心底困った顔で少女を見つめる。その顔にはどうにかして少女の頼みを叶えたいという意志が見て取れた。だが、恐らくそれは立場的に出来ないのだろう。

 一方の少女は、息を荒くしてうなだれる様に下を向いていた。男の言う事を本当は理解しているのだ。しかし、そこには決意の色がある。

 少し離れた場所で隠れていたアベリーと男達は、密かにそれを理解して、やってきた嫌な予感にため息を吐いた。


「何が何でも戻ってもらいます、俺だって命が惜しい」

「出来ません、それは、出来ないんです……ごめんなさい」

「……じゃあ、仕方ない。力に訴えるしかな……い…………」


 男の声が唐突に消えた事に少女は、さっと首を上に向ける。すると、そこには倒れた男の姿があるではないか、少女は慌てて男に近づき、眠っている事を確認して安堵した。

 そこへ、一人の男が近づいてくる。勿論、それはアベリーなのだが、少女は彼が何者なのかを知らない。


「……あー、重要そうな話の中悪いんだが……眠って貰ったよ。まずかったか?」

「い、いえ。助かりました……その、あなた方は?」

「ただの間抜け集団さ」


 アベリーはそう返して、事態の「危険性」に思わず苦笑する。

 やけに丁寧で、相手を疑う事を知らなさそうな口調に男達は好感を抱いたが、それ以上に嫌な予感が強くなっていく事が自覚出来た。


(ボス、これ、やばいですよ絶対)

(間違いなく、ファミリーの重要人物の娘とか、そういうのですよ)


 いつの間にか隣に来ていた男達が耳元で囁く言葉に、アベリーは少女から見えない位置で頷いた。

 きょとん、という表現が似合う表情で小首を傾げてアベリー達を見つめる少女を背景に、男達は内心で頭を抱えつつ話し出す。


(ああ、大方そんな所だろうな。まったく俺達は甘い、気づかれない内に逃げりゃ良かった)

(ガキを放っておく選択肢、どうせ俺達には取れないでしょうが……)

(しょうがねえよなあもう……カミラさんに連絡する方法を考えとかないといけませんね)

(あいつも今日は忙しいらしいからな……待ち合わせ場所は準備してあるが)

(おぉ、なら百人力、いや、億人力ですね……)


 彼らが一人しかいない女性の仲間の話をしていた時、何故か苦しげな少女の声が横から響いてきた。


「あの、初対面の方にこんな事を言うのも何ですが、実は貴方達に頼みたい事が……」


 男達は一斉に少女の方を見た。そこには変わらず少女が倒れ込んでいる。が、表情は大きく違っていた。

 先程までまだ健康そうだった顔色が今は真っ青に、荒い息を発していた口は苦しそうなうめき声を、ケースを握っていた手は胸を押さえている。

 明らかに体に異常が生じた事が分かる少女の姿に、アベリー達は慌てた。


「あ、その……お願いが……」

「あ、あ、あぁー……そこの、ああ。何か出来る事があるのか? そもそも、大丈夫なのか?」


 アベリーは自身が思わずそう言った時、面倒事を背負った事がはっきりと自覚出来て後悔した。が、苦しむ少女を放っておける男ではないと全員が分かっている。

 その言葉をかけられた少女は、苦しげに胸を押さえながらも顔だけは安堵を浮かべた。


「大丈夫、です。こんなですが体は頑丈なので……その、あの……私を、連れていって……ください」


 声音は弱々しく、途切れ途切れのその声は、しかし間違いなく人を引きつける事に向いている明瞭とした意志の力を感じさせる物だった。


(おい、どうする? どうすればいいと思う?)


 アベリーは困った顔で仲間の顔を見る。あまり嬉しくない事態に仲間達も困っているらしく、アベリーと同じ顔をしていた。

 だが、唯一違う部分がある。アベリーがただ困っているのに対し、彼の仲間達は何やら受け入れている様に見えるのだ。


(……大丈夫ですよ、ボス。俺達なら大抵の事は乗り切れます)


 彼の仲間を代表する様なダグラスの一言が全てを表していた。彼らの目は、例え少女をどうしようと、自分達なら対応出来る、と自信に溢れる物だった。

 そんなアベリー達の様子をどう受け取ったのか、少女はおずおずと自分の隣に転がっているケースを彼らに差し出した。


「……お金なら、あります。このケース、これに沢山入ってますから……出来れば、私ごと持ち去っていただきたいです」


 何とか声を出している状態なのだろう、少女は今にも死んでしまうのではないかと思ってしまう程衰弱していた。

 明らかに、放置して良い状態ではない事がアベリーにはよく分かる。何せ、本来彼女を守るであろう者達は今、自身の部下達と戦っているのだから。

 多少の罪悪感を覚えつつも、アベリーは少女に対して質問する為に口を開く。


「誘拐はしたくない。どうしてもと言うなら、どうして連れていって欲しいか教えろ」


 言われた少女は咳をしながら、強い目でアベリーの言葉に応えようと必死で立ち上がって見せる。その必死さは男達が思わず息を飲む程だった。

 やがて、何とか壁に寄りかかりながら立ち上がった少女は、そのくらいの歳の子供とは思えない程強い意志をぶつける様に、アベリーの顔を見つめた。


「私がここに居ると、一人の女の子が殺されてしまうのです。それも、脳以外の全部をバラバラにされてしまうんです……!」

「だから、ここから逃げよう、と?」

「はい、お父様はその子を殺すつもりでいるかもしれませんが……! そうは、行きません! お願いです、何でもしますから……連れていってください!」


 話を続けるに連れてどんどんと気持ちが高ぶって来たのだろう、少女の声はまるで雷の如き激しい物だった。

 そんな明らかに体に異常が生じている時にはまずやらない事を行った少女は話を終えるなり膝から崩れ落ち、倒れ込みかけ、寸前で何時の間にか側に居たアベリーに支えられた。

 支える事に成功したアベリーは少し安堵の息を漏らすと、呆れた顔で少女を見つめる。


「まったく無茶をするガキだ。その様で大声なんざ、命取りなのが分かるだろうに」

「お願い、します……お願いします……」


 少女にはアベリーの声が聞こえていない様で、ひたすら同じ言葉を繰り返していた。が、アベリーを含めた全員がその点には大した意味を感じない。


「ボス! その娘……!」

「ああ、早く医者に見せないとまずい……!」


 少女のうわごとなど無視するに値する程、重要な事が起きていた。何故なら、少女の口から滝の様に血が流れているのだ。

 先程までよりも明らかに危険な状況を見て、時間が無い事を悟ったアベリー達はある意味では少女から流れる血に後押しされて決心する。


「……お前等は二手に分かれて仲間達に撤退を連絡! 負傷者は病院、それ以外はいつものアジトで集合だ! 先に言っておくが無駄な戦闘は避けろよ!」

「了解! ボスはどうするんで?」

「このガキを病院に連れて行く!」


 それだけ話すと、アベリーは凄まじい早さで少女を抱えて走り、男達は一斉に行動を始める。

 その時、走り出したダグラスが思い出したように少女の居た場所まで行くと、ケースを回収して再び疾走していった。



 結果だけ述べるなら、この『ライアン・ファミリー襲撃』という大仕事は奇跡的にアベリー達強盗団側の大勝利で終わった。

 何せ、死者、重傷者を『互いに』出す事無く、アベリー達の側だけが得をする展開に持ち込む事が出来たのだ。ビルが退院ついでに金を持ってきた事もあって、彼らが喜ぶのも無理はない。

 が、ダグラス達のちょっとした悪戯によって、彼らは少女の事を知らされていない。

 その為、やけに病弱そうな少女を連れてアジトに戻ってきたアベリーと一悶着あったのだが----それはまた、別の話。


ん、とりあえず投稿します。寝不足が酷いですが…… 2012/7/3

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