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数分前 ライアン家宅にて


 少女が悲鳴混じりに飛んでいく数分前、ライアン・ファミリーのドン、ハーベイ・ライアンの自宅の前に数人の男が立っていた。

 男達は服装こそ、一般的で危険性の無い物に見える。が、雰囲気や、服の下にある物の存在を知れば、彼らが危険な者達である、と理解出来るだろう。


「で、俺達はどうしてこう、無茶な所に強盗をやらかすんですかね、一年前よりはマシにしたって……」

「……ライアン・ファミリーのドンの自宅は流石にありえないと思います」


 堂々と話している物の内容を聞けば、人々は顔を青くする事だろう。この数人の男達が強盗であり----今から『仕事』をする気である事が。

 余りにも無茶な話だ。少なくとも、ライアン・ファミリーが数人の男で『どうにか』出来る組織ではない事は有名な話だった。

 それを分かっているのだろう、一人を除いた全員が、何やら不安そうな顔をしていた。

 だが、一人だけは自信有りげな顔をしていた。


「そうでもないさ、向こうの情報は得てるし、信頼できる情報源だからな」


 男が言った言葉に、他の数人は敬意を感じさせる、しかし不安さは拭えない表情で答えた。


「って言っても、アベリーの旦那以外はその情報源、知らないんですよねぇ……報復だってのは、分かるんですが」


 そうなのだ、余裕そうな男----アベリーがどこから情報を得て行動する事を決心したのか、他の者達は知らされていなかった。

 しかし、その行動の理由は理解出来た。


「さっきも言ったが、教えられないんだ。秘密さ、秘密……まあ、報復なのはそうなんだがな」

「あの銃を一丁盗まれちまった上に、仲間を一人殺られたのは、痛かったですよね。特に銃が」


 彼らの仲間は数日前、銃を奪われていた。それも、彼らの仕事に必須な麻酔銃を。それを持っていた仲間が殺されているのだが、彼らは特に気にした様子も無い。

 麻酔の方は速攻性で、高性能なそれはかなり高額な物だ。盗みで得た金をそれらの費用に投じていた彼らにとって、例え一丁であっても痛手だった。

 何故、強盗である彼らがそのような物を使っているのかと言うと、それは彼らの『主義』に依る物なのだが、今の彼らには特に関係が無かった。


「あぁ、これから盗む物の詳細くらいは教えてやれるな……『人を殺す為の金』だ、そうだ。場所は……事前に話したか?」

「聞きました。それにしても、殺す為の金、ですか……」

「大方、どっかの組織の人間を暗殺する為の依頼料って所じゃありませんかねぇ」


 世知辛いな、と男達はため息を吐いた。そうしている間にも、その中の一人----アベリーは、何故か時計を眺めながら、他の者達に音を遮る為の道具を渡した。


「こいつは?」

「良いから、付けておけ」


 その口調に、どこか悪戯めいた物を感じた男達は、罠でも見るようにその道具の様子を数秒で確かめて耳に装着する。

 それを確認した男は、一度だけ頷いて、再び腕時計を見つめ続けた。


「ところで、何でこの人数なんですか? いや、俺達ならやれるかもしれませんが」


 言葉に出しながら、一人の男がどこからか取り出した紙に書いて、アベリーに見せる。

 後半の内容が如何にも彼らしいとアベリーは苦笑しつつ、その紙に付けられていたペンで別な言葉を書いた。


「他の連中は、別の場所に配置してるんだが……聞いてないか?」

「聞いてないですよ」


 今度は、アベリーから返事が来なかった。時計を見つめる目は何時の間にか細められていて、少し慌てた様子で紙に何かを書き、その場の全員に見せる。

 それには、こうあった。「スリー、ツー、ワン」と。

 何が起こるのかを察した男達はすぐに耳を覆うそれを押さえ----瞬間、その一帯に爆音が響き渡った。



「実はな、爆弾を仕掛けてあったらしいんだ」


 爆音が消え、彼らの視界の先から煙が上がっている光景を見て、アベリーは耳に付けていた道具を外し、一度だけ頷いた。


「驚いた……そんな急な……って、『らしい』?」

「ああ、情報源はそう言ってたな。何でも、前に来た時に仕込んだとか何とか」

「俺はてっきり、他の連中がやったのかと」

「さっきは言えなかったが、他の連中は側面や裏側から騒ぎを起こしてる。で、正面には俺達が居る、と」


 耳を澄ましてみれば、広い屋敷の様々な場所で銃声と怒号、そして悲鳴が聞こえて来る事が分かる。その中に仲間の声が混じっていない事に気づいて、男達は小さく安堵の息を吐いた。


「それにしたって、随分と……俺達、抵抗する奴以外には手を出さないんじゃ?」

「こっちは、仲間を一人殺されたんだぞ? 抵抗も何も、これは報復な訳だしな」

「生きてますけどね……っていうか、あいつの事より銃の盗難の方が優先ですか」


 生きているのか死んでいるのかも曖昧に扱われる、その存在は『ついで』程度の物として語られていた。


「まあ、あいつの事はどうでも良い。今頃病院のベッドで寝転がってるだろうしな」


 アベリーはそれだけ言って、銃を取り出して進み始める。他の男達は、それに引きずられる様に付いていく。

 彼らが歩き出した時、アベリーが少しだけ振り向いて不敵な笑みを浮かべた。


「----さあ、行くぞ。俺達の大事な銃を盗んでくれた分と、ついでにビルの命一つ分、お返ししてやろうぜ」



+



 一時間後、同所


「どうしてくれるんだ!」


 アベリー達が進入し、ある『物』と、ある『者』を持ち去ってから少し後、屋敷の一室で怒号が響いていた。対して物がある訳でもないが、周囲を固める護衛は如何にも屈強そうに見えた。

 そんな護衛に守られている声の主の前には、先程まで少女を追いかけていたダンプが立っている。


「って言われてもなぁ。ボス? トニーと俺に喧嘩を売ってきたクソ野郎を本当にクソにしてやっただけだぜ?」

「それが問題だと言っている! 嫌な連中を敵に回しやがって!」


 再び怒号を浴びせかける男に、ダンプは薄笑いを浮かべて対応していた。しかし、そこには僅かだが敬意が見て取れる。

 そう、彼の目の前に居る男こそが、ライアン・ファミリーの頂点に立つ男、ハーベイ・ライアンだ。十六年前よりも些かの衰えが見えるが、鋭い眼光は力を感じさせる物だった。


「バラすだけならまだしも! 銃を奪ってきたらしいじゃないか!」

「いいじゃねえかボス、バラした奴の持ち物くらい」

「だから相手を選べと言っているだろう! よりにもよって、アベリーの強盗団の奴だと!? ふざけているのか! ふざけているんだな!?」


 一頻り怒鳴ると、ハーベイは深く息を吸って、椅子に座り込んだ。


「……ああ畜生。最悪だ、娘と『パーツ』と、金を盗まれた? しかも今日、だと?」

「金は持ってくればいいじゃねえか、無駄にあるんだからよ」


 そういうダンプをハーベイは思い切り睨み付けて黙らせ、目に見えて分かる程に頭を抱える。理由は明白だ、その場に居る全員が知る事だが、奪われた金は今日必要な物だった。


「すぐに用意出来るか! 商談は今日なんだぞ? 相手はこっちより格上なんだ、誠意を見せないと消されるのはこっちになる。それとも何か? ジャック、お前には俺以上に連中と話せるのか? 俺の人生を賭けた商談を台無しにしやがって!」

「ボス、俺をその名前で呼ぶなよ」


 声が響いた瞬間、ダンプの目に剣呑な色が宿った。それを理解したハーベイの護衛達が一瞬で警戒を強め、何時でも発砲出来る姿勢になる。

 が、ダンプはそれ以上の反応を見せる事無く、薄笑いを戻した。


「ふん、ダンプ。本名が嫌いか? ゴミ捨て場の方が好きとは、笑える話だな」


 如何にも不機嫌そうなハーベイが、ダンプを嘲笑する様な口調で声をかけた。


「俺はダンプだ、ダンプで良いんだよ、ボス……ところで、アンタの娘はどうして『そんな所』に居たんだ? 部屋で護衛と一緒だったんだろ?」


 ダンプの声音や目には先程の剣呑な色は欠片も残っていなかった。むしろ、そこにあるのは純粋な興味だ。

 その視線を心底鬱陶しそうに受け入れながらも、ハーベイは頭を働かせる。アベリー達が娘を誘拐出来たのには、理由があった。

 それはハーベイにとっても納得出来る話で、妻に似た娘の気性を思うと誇らしい気持ちにもなったが----今だけは、頭が痛かった。


「……その護衛をシメて吐かせた話と組み合わせた感じ、どうやら俺の大事な娘は自分から捕まりに行ったようだ」



「まったく、妻に似て優しい子だよ、あいつは」

よし、プロローグ3です。まあ、前作とは違い、こういう感じで小さく分けて投稿します。たまに暴走して大量に書いてしまいますが……

2012/7/1

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