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----あっちゃぁ……恭助を落としちゃったか……もしも、あの世って物があるなら、その時に謝らなくちゃね……
落ち行くアンは、やっとの事で掴んだミアが離れないように強く抱きしめながら、同じく落ちていく恭助を見てそんな風な事を考えていた。
アンにとってダンプがミアを放り投げる事は、彼が動き出した時から読めていた。そして、ダンプが行動に移った時にはアンは既に体を動かしていたのだ。
それが自分の命に関わる行動だとアンは分かっていたが、それでも迷わなかった。むしろ、それでも良いとすら思えた。
今もそうだ。死に瀕したアンの思考は高速化し、走馬燈の様な物も若干見えているが、それでも恐ろしくは無かった。ミアが側に、居るのだから。
よく見てみると、ミアは不満そうな顔でアンを見つめている事が伝わってくる。何が言いたいのかはアンにも分かった。「どうして、こんな事をしたのですか」、そう言っているのだと。
----どうしてもこうしても、ミアこそどうして、よ。まったくもう……
同じ様に、アンが不満そうな顔を返すとミアはいつの間にか微笑んでいた。やはり、二人は同じ事を考えていたのだ。
恐らくは理由も同じなのだろう。二人は、相手を生かす為に自分の命を捨てる方を選んだのだ。それが分かるからこそ、二人は苦笑しているのである。
そして、ミアを見たアンの心の中に何かが生まれた。
----ああ、そっか。やっと見つけた、私の生きる意味……死ぬ意味……
アンは、自分の中に宿った答えを慈しむ様にミアを強く抱きしめる。何故か、落ちているというのに体は素早く動いて脳の指示に答えてくれていた。
その時、ミアが何やらもぞもぞと動き始める。
彼女が自分自身を下に置く事でアンへ加わる落下の衝撃を少なくしようとしている事が、アンには理解できた。
自分を守ろうとするその行動に感動しつつも、アンはため息混じりにミアを止めた。
----あはは、無駄無駄。あんな場所から落ちたら、どっちが上でも助からないよ。とはいえ、この子を死なせるのは、イヤだなぁ……
ふと、そんな事を考えたアンは今度は自分がミアの下になろうと動き、同じ様にミアに止められた。
「あ、ははは」
「ふふ、ふふふふ」
二人は、またも自分達が同じ事を考えたと知って笑い出す。
外見も、行動もよく似た二人の少女は、自分達が落ちて死ぬ運命を理解して----受け入れた。受け入れた上で、考えた。
「二人一緒なら、怖くない」と。
そして、二人は地面が近づいてくる事を認識して目を瞑り、同時に祈った。
----次に生まれる時は、本当の姉妹が良いな
----次は、もっと仲良く出来る時間が長いと嬉しいですね
それを考えたまま、二人は地面に衝突----しなかった。
「……あれ?」
いつまで経っても、衝撃も死もやってこない。それを不信に思ったアンはゆっくりと目を開けて、自分達が地面に衝突していない事を認識する。
ミアも遅れてそれに気づき、首を傾げていた。
彼女達は地面のすぐ上で浮いていた。先程から落ちていたというのに、重力も引力も無視した完全な停止だった。
何故浮いているのか、ミアとアンは同時に疑問を持ったが、その答えは背後からすぐにやって来た。
「重力やら何やら色々操った甲斐があったね……時間を取ったおかげで素敵な姉妹愛が見れたよ。どっちが姉で妹なのかは置いておくにしても、ね」
声の主はアンとミアの腰に背後から手を回し、微笑みながら浮いていた。
その人物の姿を見たアンは、思わず息を飲んだ。
「う、嘘……」
「これが困った事に、本当なんだよね」
アンは、得意げな顔をして二人を抱えるその人物がそこに居る事を信じられず、目を見開いていた。
彼女がそう考えるのも無理からぬ事だった。何故なら、その者の亡骸を他ならぬアン自身が抱きしめていたのだから。
「……キョー、スケ……生きてるの?」
そう、この時二人と共に浮いていたのは恭助だった。
恭助は驚くアンの顔を面白がる様に見つめたかと思うと、すぐに二人を地面に立たせながらも不満そうな顔で頬を膨らませた。
「むむ、失礼な。僕が撃たれたくらいで死ぬなんてそんな……そんな事は絶対にありませんー!」
「人間は、あんな場所を撃たれれば……死ぬと思いますが……?」
「ふっふっふ、僕は生命体じゃないからいいのです! じゃあ何なのかって? な・い・し・ょ!」
何故か弱々しいミアの声にも、恭助は楽しそうに答えてみせる。それが本当に聞こえてしまうのだから、恐ろしい話だった。
だが、アンはそんな恭助の姿を無視した。恭助に対する山の様な疑問はあったが、その時ばかりは無視せざるを得なかった。
「ミアっ! あなたは!?」
「……? どうか、しましたか?」
飛びつくような勢いで、アンはミアの肩を掴み、顔をじっと見つめる。ミアは事態がよく分かっていない様子で首を傾げていた。
「うーん、まさしくこれが本当の悲劇かぁ。感動的!」
隣で、恭助が無視された事など気にした様子もなく、むしろそれも計算の内だったかのように彼女らの様子を鑑賞していたが、二人は気づいていない。
「そんな、ミアっ……ミアぁ……!」
アンはいつの間にか涙を溢れされて、何度も首を振って拒絶するようにしながらミアを抱きしめ続ける。だが、その理由が分からなかったミアは頭に疑問符を上げていた。
そんな時、見るに見かねた、という風な態度で恭助がミアへ声をかけていた。
「ミアお姉さん?」
「は、はい?」
「隠さなくても、良いんだよ? もう、お姉さんも気づいてるみたいだし、ほら、ね? それ以上は、命を削りすぎるから」
何かを促す様な、その声。それを聞いたミアはハッとした顔になり----急激に震え出して、アンの体に倒れ込んだ。
+
そんな彼女らの様子など知った事ではないとばかりに、先ほどまで彼女らが居た部屋の中で、ダンプは窓の下を見て安堵の息を吐いていた。
「あぶ、あぶねぇ……何とか、生きてやがるか……」
彼は変わらずの笑みを浮かべていたが、よく見れば冷や汗をかいている事がすぐに分かるだろう。ダンプはそんな顔をしていた。
彼がこれほど焦るのも珍しい事だった。基本的に今しか見ていない彼にとって、起きた事も起こる事も、全てが自分には関係無い話なのだから。
だが、今回だけは例外だったらしい。
「アンの奴……無茶な事しやがって……あの振る舞い、俺に似やがったのか? いやまさか、血だけでもハーベイか? どっちにしてもあの馬鹿は……」
「あなたにだけは、言われたくないと思うわね。この馬鹿」
「あ? 俺が馬鹿? ……その通りだ、ああ、アンは俺に似たんだな。いやあ、まったく困った物だよなぁ!」
相変わらず窓の下を見ながら大仰に頭を抱え、次の瞬間には呆れ返った表情で、その次の瞬間には嬉しそうに騒ぎ倒すダンプに、部屋の空気は呆れ一色になる。
それに気づかず、ダンプはいつの間にか面倒そうに真剣な表情を浮かべ、頭を掻いていた。
「……どうすっかねえ。あのガキ、生きてやがるぞこれは。直にくたばりそうだが……ああ、俺の手に掛かって死んでくれた方が良かったんだがなぁ。やっぱ投げ飛ばすのはまずかったか……」
「凄いわね、見えているの? もしそうならとっても、凄いじゃない」
「おお、見えるぜ見えるぜ。昔から目はそこそこに良い方でな」
声に適当な返事をするダンプは、相変わらず窓の外を、厳密には恭助を視界に入れず、ただアンとミアを見ていた。
「しっかし、まずいなぁ……」
その時、初めてダンプの声に苦い物が混じった。まさしく、計画が失敗した事を意味するそれだった。
それでも、ダンプは諦めない。また馬鹿な事を考えたらしく、ニヤリと笑みを浮かべていた。
「此処から、コイツで撃ってあいつの脳天をぶち抜けるか……?」
何も考えていない様子で、ダンプは笑いながら懐から銃を取り出す。それの意味する所を認識した部屋の雰囲気は慌てた物となった。
「ちょ、待って待って! こんな場所から撃ったら……アンに当たるかもしれないわ! そ、れ、に! 目の前で友達を射殺するなんて! アンの心の傷になるわよ!」
「……! いやあ、危ねえ危ねえ。気づかなかったぜ。まったく、後の事を考えねえとすぐコレだ」
誰でも気づく当然の指摘に、ダンプは本当にまったく気づいていなかったらしく、慌てて懐へ銃を仕舞う。本当に撃つ気だったからか、顔には冷や汗がまた浮かんでいる。
「そうよ、まったく。あなたは本当に何も考えていないのねぇ……」
ダンプが銃を仕舞った事で部屋の雰囲気は和らいだ物となり、呆れる様な色だけがそこに残る。
そこでようやく、ダンプはミアを放り投げたすぐ後から自分に声をかけてきた存在が、背後に居る事に気づいた。
勿論、彼はそれが誰なのかくらい知っている。それでも礼を言おうとダンプは振り返った。
「助かったぜ、トニーの奴が居ないと俺って男はすぐに思いつきで動くからな。誰かが止めないといけないんだよこれが」
「安心しなさい」
そこに居たのは、ダンプの想像通りの人物だった。だが、一点に置いてその人物は想像とは全く違う部分を持っていた。
その人物の想像とは違う部分とは----つまり、『虹色の髪』。
「もう、動く必要は無いわ」
----サクリ、と。髪の色の事を聞くより早く、胸の辺りを何かが、まるで紙の壁を破る様にあっさりと突き破る音が、ダンプの耳に届いた。
「あぁ?」
思わず、ダンプは呆けた声を出しながら自分の胸を見る。そこには予想だにしていない、だが一方で分かっていた光景が広がっていた。そう、つまり、ダンプの胸に何者かの腕が突き刺さっていたのだ。
それを認識した瞬間、ダンプの胸からは血が溢れ出て来た。
「ガ、フッ……てめ……」
睨み付け、殺気を飛ばしながらもダンプは目の前に居る物を探る事は忘れていなかった。
自身の胸に突き刺さり、貫通している腕は細い。どう見ても人間の肉体を貫通する程の筋力を宿しているとは思えなかった。
----カミラとかそこら辺の例外は置いておくにしても……コイツは……少なくとも、この外見の奴にはそんな力は、無い!
ダンプは、致命傷を負って初めて冷静で的確な思考を手に入れていた。その思考が言っているのだ、その外見の人物とは、『別人』だと。
そう、その人物の外見とは----医者と共に連れてきたつもりになっていた、助手の女だった。
「お前、人間じゃ、ねえ……な? クっ、ソ……人違い、かよ……」
「大当たり、本当に凄いのね。でもでも、一つ間違いがあるわ。私は、ある意味あなたが知っている本人でもあるのよ?」
----凄いでしょう? と、その存在は続ける。だが、ダンプはその言葉の一片すらも信じる事が出来なかった。むしろ、生命体にも見えなかった。
まさしく、この世の物では無い存在だ。そう考えた時、ダンプの脳裏にトニーが喋っていた内容が蘇った。
----ダンプの旦那は知ってるっすか? エィストって奴は、どこの世の存在にも、思えないそうっすよ?
「なぁる、ほどぉ……」
それを思い出した時、ダンプが感じたのは確信だった。それの正体に対する確信。頭の中を駆け抜けたその感覚をダンプは噛みしめて、その存在を----ほぼ間違いなく『それ』であろう存在を睨み付けた。
「……お前、お前は----!」
ダンプの言葉は、途中で血を吹いた為に最後まで告げられる事は無かった。
しかし、それでもその存在の耳に届くには十分だったらしい。その存在----エィストは喜色満面といった表情をダンプに向けていた。
「それも、大当たり! ふふ、良いわねあなた。楽しくって面白くって愉快で、そういう子は大好き」
「うれ、しく……ねえ、よ」
「そんなっ。ああでもでも、あなたにはとっても楽しませて貰った訳だし……そうね……」
普段、退廃的で静かな雰囲気を放っている助手の女とはまったく違う、だが違和感を覚えさせないその態度。
その態度のままでエィストは何やら考え込む様子を見せる。わざとらしい態度が最初からそうする事を決めていた事を表しているのだが。
ダンプがそれを察している間に、エィストは何かを思いついた楽しそうな顔で、『恐らくは予定通りに』ダンプの目の前に顔を寄せた。
「よし……その分の、ご褒美をあげるわ」
その顔、がダンプに衝突してしまいそうな所まで近づくと、エィストは悪戯っぽい笑顔を浮かべ----その顔は、瞬時にして別な人間の物に変じていた。
それを見たダンプは胸から血を垂れ流しながらも驚愕した。顔が別な物に変わったからではない、そこに居た人間を知っていたからだった。
「お久しぶりですね、ジャック。本当に……懐かしいです」
そこに居たのは、絶世という言葉すら霞む美貌と、ミアによく似た優しげな雰囲気持つ一人の女性。
だが、そんな事はダンプにとってはどうでも良かった。ジャックと呼ばれた事すら、気にならなかった。
「あ……ん、たは……」
「ふふ、覚えていてくれたのですね。ジャック君がこんなに大人になって……先に逝った身として、私は嬉しいですよ」
エィストが形作ったその女は片手でダンプの頭をまるで子供にする様な手つきで撫で回す。
普段のダンプなら拒絶する所だろうが、彼女に限ってはダンプから拒むという選択肢を奪う事が出来るのだ。
彼女はダンプがまだジャックと名乗っていた頃の最愛の友で----彼女の為に、ダンプはハーベイ・ライアンに付いていった程だったのだから。
それを思い出した瞬間、ダンプの頭に一つの思考が生まれていた。
----そうだ、そうだった。俺が、ミアの奴を嫌いになった理由は……
急速に、ダンプの頭は冷えていった。体は血を流し続け、もはや思考など出来ない筈の状況だがそれでもダンプはその思考を確信を持って肯定する事が出来た。
ダンプは一度息を吐き、一言だけ呟く。常人なら即死している状況に置かれているというのに、ダンプの声はやけに理性的で、何かを悟った様な物が含まれていた。
「ああ、あの人に似すぎていたから、か……はっ、俺って奴は本当に……」
それだけ言うと、ダンプの体は何かが抜けてしまった様に女へ倒れ込んだ。
「ジャック君……? ああ、逝ってしまったのですね……」
倒れ込んできたダンプの体を、女は優しい手つきで抱きしめる。いつの間にか、腕はダンプから引き抜かれていた。
女は寂しそうにダンプの頭を撫で、壁に寄りかからせて息を吐く。心なしか、目は潤んでいる様に見えた。
「ぐ、うぬ……何だ……?」
そこでようやく医者は気を取り戻したらしく、頭を何度かさすりながら立ち上がる。それを見た女は懐かしそうに微笑んでいた。
「おや、おはようございます先生。ご機嫌はいかかですか?」
「君は……! いや、そんなバカな……!」
女の姿を見た医者は最初は目を見開き、驚愕を一色にしていた。
だが、女の側で見るからに死んでいるダンプとその返り血で染まったであろう女の姿を見て、思い切り睨み付けた。
「君は、一体何者だ……?」
「私は私ですよ、先生。貴方や夫や、沢山の人が愛した人です」
「嘘を吐くな。君は、君は……!」
「死んだ筈、ですか? ええ、死んでいますよ。私はある意味私自身ですが……そうでない私でもあるのです」
そう言うと、赤毛の長髪は一瞬にして虹色の長髪に変じる。それを見た医者はとんでもなく胡散臭いその存在に、目を細め、怒りを籠めた表情で睨み付けた。
「よく分からないが、君がもし、その外見で自身を偽っているのであれば……!」
「おやおや、誤解しないでください。私はただ、ジャック君に懐かしい気持ちになって貰いたかっただけなのですから」
困った様に、その存在は医者へ苦笑の表情を見せる。その仕草、口調、そして雰囲気。それら全てが医者の恋した相手に似すぎていた。
だが、その事実は医者を安らいだ気分になる事はなく、むしろ『彼女』を模したその存在に対して怒りがどんどんと強くなっていくのみだった。
「君、いや貴様……それ以上、彼女の姿を取るつもりなら黙っていな」
「----あなたが、言う資格は無いと思いますが?」
怒りの籠もった声は、その存在の外見や雰囲気からはほど遠い冷たい声によって途中で止められていた。
医者は思わず、息を飲んだ。目の前の存在が『彼女』ではないと知っていても、それは医者にとって最も言われたくない言葉だった。
「ミアちゃんの母親に……つまり、私に似る様に……彼女を洗脳したのでしょう?」
その恐ろしい可能性が、医者の心に突き刺さった。
「……それは」
「あなたは思っているのでしょう? 『もしかしたら、あの子があんな性格になったのは』って。それが恐ろしいのでしょう?」
ミアという少女は、確かに彼女に似ていた。似すぎていた。
医者は、ふと考えた事があったのだ。『もしかすると、私が無意識に『彼女』の性格になるようにし向けていたのかもしれない』と。
他ならぬ女自身にそれを指摘された医者は沈痛そうな表情で黙り込んだ。
「……失礼な事を言いました」
その存在は、一転して申し訳なさそうな顔で医者に謝罪を行った。それがまた『彼女』そっくりで、医者は怒りと苦しみのどちらを表せばいいのか迷う程だった。
「そう、ですね。この姿では、この人物では貴方に要らないストレスを与えて仕舞いますか。では……」
それを感覚で理解したらしく、その存在は一瞬にして虹色の髪をした青年に変じていた。
何やらとても『しっくり』来るその姿を作り上げたエィストは満足そうに一度頷き、驚く医者へすぐに話しかける。
「いや、本当はそうじゃないってわかっていたんだよ? そんな事くらい……じゃあ、あの子はどうして……ふふ、面白いと思わないかなぁ?」
意味深げな言葉だったが、一方で何の意味も無い事はエィストの愉快そうな表情からも明らかだった。
医者はまさしく人外を扱うようにエィストを見ていた。当然それはエィストにも伝わっているのだろうが、不思議とエィストはそれに反応する事はしなかった。
それどころかエィストは楽しそうに笑い、医者に対してある種の感謝の気持ちが籠もった声をかけている。
「ああ、本当に失礼したね……どんな形であれ、普段見せない一面を見せる時は誰しも緊張する物さ。いや、本当は正直、楽しくてしょうがなくてね。本当に、本当に面白かったよ」
「……何が、面白かった?」
「君達が、哀れなくらい……ミアとアンの母を愛していたって事がね……ああ、嘲笑と、憐憫でおかしくなりそう、とでも言っておこうかな」
目を細めて、エィストは医者を見る。まるで睨む様な目だが、それが嘲笑である事は誰の目にも明らかだった。
「アハッ、冗談だよ」
エィストは悪戯れっぽく舌を出したかと思うと、楽しそうに窓の方を見る。
その位置からでは下の様子が見えない筈なのだが、エィストはまるでそこに居る三人の姿が見えているかのようだった。
「さあ、そんな事はどうでもいいさ。これからが本題なんだからねぇ」
それだけ言うと、エィストは大仰に腕を広げて心の底から楽しみでならないと言いたげな表情を見せた。
「さてさて! 此処からがまさしく楽しいんだ。ぜえーんぶ台無しになるこの瞬間! あの子達はどんな顔をするだろうか!? そうさ見逃せない、ああ、見逃せないとも!」
医者が険しい表情で見つめて来た時にはエィストは彼の事を既に忘れ去ったかのように独り言を呟き、乱暴な手つきで倒れるダンプの腕を掴んで引きずっていった。




