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 強盗団のアジト



「で、これからどうするんだ?」


 ダグラスは、アベリーにそう言って質問した。

 周囲の男達はまだミアと賭事を続けている。その内の大部分が負け続けた為かほとんどの者は観戦に回ったらしく、取り囲む男の数はさらに増えていた。反対に、ミアの手元には凄まじい量の金の山が置かれている。

 流石に量が多すぎるのか、それとも有り金全てを出してしまい、困っている男達の姿が気になったのか、ミアは心配そうに男達を見つめていた。

 そんな光景を眺めながら、アベリーはダグラスの問いに答える。


「どうする……か。そうだな、お前等と嬢ちゃんを待機させて俺がカミラと会ってくるさ……」


 ダグラスに言葉をかけ、そのまま仲間の行動に眉を顰めた。


「お前等! お嬢ちゃんの優しさに甘えるんじゃねえ!」


 途中までダグラスに話していたアベリーは、ミアが男達を心配して賭金を返している光景を見て男達に罵声を浴びせた。

 男達はそれを聞いてバツの悪そうな顔で金を再び元の場所に戻し始めたが、ミアの表情は不満一色に彩られていた。


「アベリーさん。これは私のお金では無いので、お返しするのが当然ではないかと」

「……いや駄目だね。そいつ等が自分で賭けて自分でスったんだ。返すのはそいつ等の為にならんよ」


 ミアの口調は力強く、ハッキリとしていた。アベリーはそれに対して一瞬怯んだが、即座に普段通りのそれに戻って見せる。

 まるで睨み合う様な二人、だが、その時金を全て無くした男の一人がミアの肩に手を置き、声をかけた。


「まあ、確かにボスの言う通りだ。俺達が賭けたんだから、返してもらう訳にはいかないよ」

「いえ、しかし……」

「構わないのさ、俺達も楽しかったしな……」


 申し訳無さそうに男達を見るミアだったが、その男達は全員が笑っていた。


「俺の半分も生きてない嬢ちゃんに全部スっちまったのは確かにアレだが……返して貰ったら余計に惨めだから、勘弁してくれ」

「そう、なんですか?」

「そういう物なんだよ」


 男の一人はそう言って、恥ずかしそうにため息を吐いた。ミアには男の言葉が真実で、かつ周囲の男達の総意だと理解できて、渋々だが金の山を自身の手元に置く。

 その姿を遠目で見ていたアベリーとダグラスは、小さくため息を吐いた。男達のそれとは違い、呆れる様なそれを。


「まったく、連中と来たら……」

「ははっ、まあ、あいつ等らしいな」


 二人は呆れていたが、同時に仲間である男達らしいとそれを受け入れている。その表情を見ていた男達の一部も同じ様な顔をした。

 不思議な絆だ。ミアはそれらを不思議そうに、だが少し羨ましそうに見つめていた。

 そんな時----唐突に、玄関の扉が開き、男が姿を現した。



「ただいま戻りまし……」


 扉を開けて現れた男は、挨拶を最後まで言う事無く体を硬直させた。

 男が現れると同時に----ダグラスはそれより少し早く、男達は銃を構えて扉の前に居る男に向けていたのだ。アベリーとミアという例外を除き、他の全員が同じ様にしていた。

 が、その全員がそこに居る男の姿を確認して銃を降ろす。


「あ、ああ……良かった。殺されるかと思ったぜ」

「殺されるだの死ぬだのと縁遠い男が何言ってやがる」


 アベリーは苦笑混じりに男へと言葉を向ける。それを男は同じく苦笑しながら受け取った。

 そう、男は彼らの仲間----ビルだ。

 先程、金が入ったケースを部屋の隅に置いてから、外へ出ていったビルは今ようやく戻り、部屋の周囲を見回している。


「あぁ、そうそう。ボス。周囲を探ってみましたが、特に異常は無いと思います」


 どうやら、ビルは周辺に怪しい者が居ないか探っていた様だ。そんなビルの「異常無し」という報告を聞き、男達は安堵した。

 彼らの中では最も下層に位置する実力しか持たないビルだが、それでも十分に信頼出来る言葉なのだ。


「異常無し、か……少なくとも、組織規模でこっちに来る気配は無いらしいな」


 アベリーの独り言にダグラスは同意して数度頷き、ビルを含む男達へと目を向けた。


「組織規模が無くとも、カミラみたいな実力者が本気で隠れりゃ見つからない可能性の方が高いんだ。油断するなよ」


 戒めを込めたダグラスに、男達は分かっていると笑みを浮かべる。そんな彼らを見て、ミアは今にも消えてしまいそうな程申し訳なさそうな顔をしていた。


「……すみません。私の為に、あなた達を危険に巻き込んでしまって」


 ミアの言葉を聞いて男達は何やら顔を見合わせる。そこには何かを気にする様子など微塵も無く、それよりも居心地の悪さを訴える様な物だった。


「心配するな、何時もの事だ。荒事には慣れてる」

「むしろ、俺達そんなに心配される方が慣れてないんだよ」

「しかし……」

「ああいいから、マジで止めてくれ。恥ずかしいんだからよ」


 そういう男達の顔は、本当に恥ずかしそうだった。その理由がアベリーには良く分かる。男達の言う通り、普段から自由に行動し、誰にも心配された事も無い彼らにとって、少女の言葉はとても聞き慣れない物だったのだろう。

 しかし、そうだとしてもこの我が侭な男達の心に言葉を届かせる少女を、アベリーは素直に尊敬した。


「まあ、なんだ。その辺にしておいてやれ、そいつら、ちょっとやそっとじゃどうにかなる連中じゃねえよ」

「そうそう、そうなんだよ! 俺達は全然平気、な!」

「そ、そうなんですか……?」


 気後れ気味な少女に、これ幸いと男達は口々に同意の言葉を口にした。その甲斐あってか、少女はそれ以上何も言う事無く、黙って一度だけ息を吐く。

 それを確認したアベリーは笑みを消し去り、真剣な様子で本題に入る。


「で、だ。これからの事なんだが……」

「……何か、おかしくないか?」


 アベリーが話を始めようとすると、ダグラスがその肩に手を置いてそう言った。

 その言葉にアベリーはダグラスの顔を見てみると、彼の目はカーテンから少しだけ覗く外の光景へと向けられていた。明らかに、何かを警戒する表情だった。


「……どうした?」

「いや、何だろうな……何かある気がするんだ、長年の勘って奴だが……馬鹿には出来ないだろう?」


 ダグラスの言葉を聞いて、アベリーは窓の外を覗き込む。外の光景は普段通り人通りは無く、静かだ。

 だが、それを見たアベリーもまた、何か引っかかる物を覚えていた。


「確かに、何かがある気がするな……ビル! 本当に、おかしい物や怪しい物は、無かったんだろうな?」

「ええっ! あ、はあ。まあ多分、怪しい物はありませんでしたよ?」


 何やら自信の無さそうな発言だったが、アベリーはそれを信じる事にした。窓から見える外は、彼から見ても確かに静かで誰も居ない場所だ。

 普段通り、普段通りの筈なのだ、だが、やはり違和感はある。それが何なのかは分からなかったが、ミアを見つけた時など比べ物にならない程の嫌な予感がアベリーの頭の中を動き回っていた。


----こんなに静かだってのに……いやまさか!


 だが、それを考えた瞬間、アベリーは背筋を凍らせた。



----違う……! 静かすぎる!



 それを悟ったと同時に、アベリーは窓の外、何とか視認可能な三つ隣の建物の屋上に何かが光っている事に気づいて----


「全員裏から外へ出ろぉ!」


 叫んだ。

 アベリーのそれは緊急の危険が迫っている事を男達に感じさせ、アベリーを含めた全員がほぼ数秒の内に表の窓とは反対にある窓を破って、アジトから飛び出す。

 あまりの早業に、三つ隣の建物に居る『何者か』も彼らが移動した事を気づいていないのだろう、そのまま、何かがアベリー達のアジトに向かって発射され----その一帯が爆発に包まれた。


+



「いやっはっぁぁぁー! ヒット! ヒィット! ヒィィィット!」


 アベリー達にロケットランチャーを放ったダンプは、爆発して崩れるアジトを見て機嫌良く笑い転げていた。

 トニーからミアの居場所を聞いた彼は、トニーを放って武器を取り、ここまで走ってきたのだ。

 騒ぎが起きる事も、組織への影響も、そして少女の生死すら一切考えずに爆破する様は、ある意味では爽快感すら感じさせる。


「ヒャアハはァははははっハァ! 気持ちいいなぁおい! この爆発の感触、最高だぁ!」


 それでも、問題点は全て分かっているのだろう。大笑いをしながらもダンプは離れた場所にあるアジトの状態確認は怠らない。

 アベリー達のアジトは完全に崩壊していた。建物としての体すら成していない状態であり、遠目に見た感じでは人の気配は一切無い様に見える。

 いや、実際無いのだろう。とダンプは理解した。彼は今、思い切り顔を出してアジトを見つめている。何者かが存在するなら攻撃が来る筈だとダンプは読んでいた。

 そして、どうやらそれは正しかったらしい。数分しても、そこから誰かが現れる事は無かった。


「死んだ、って感じじゃねえよなぁ……逃げられたか」

「……あぁまったく。やっぱ撃ちやがったよこの人」


 隣から知っている声が聞こえた為にダンプは笑いながら目をやる、するとそこにはトニーが居た。

 飛び出していったダンプを、トニーは何故か追わなかった。だが、どうやらダンプの行動を読んで先に動いていたらしい。


「他の建物の持ち主やサツに金を握らせて正解だった。道の封鎖やってなきゃ今頃、大騒ぎっすよ?」


 付いていかなかったのは、事前に準備をする為だった様だ。それを知ったダンプは、しかし礼の一つも言わずに笑う。


「大騒ぎになるのはしょうがねえさ! 俺はただ、やれと言われた事を俺なりの方法でやっただけなんだからなぁ!」

「なんでこの人と長年の付き合いやってんだろ、俺……」


 無茶苦茶な発言にトニーはしばらく肩を落とす。だが、すぐにそのような場合ではないと気を取り直した。


「それより、ボスの娘さんと金は? いやもう、正直予想出来てますが……」


 トニーの疑問も尤もだ。彼らが命じられたのは娘と金を取り戻す事で、爆破する事ではないのだから。


「娘の方は死んでたらあのガキが助かって俺ハッピー、生きててもボスの命令を果たせて俺ハッピーだ、つまり、考えてない」

「やっぱりそうっすか……」

「楽しいだろ?」


 呆れた声を出すトニーに、ダンプは笑いかけた。この様な調子で長年やってきた彼らにとって、それは挨拶の様な物になるほどだ。いい加減、トニーもダンプに慣れている。


「楽しくないっすよ。で、娘さんは逃げてる事を祈るにしても……金は、どうするんっすか?」


 トニーは粉々になった強盗団のアジトを見ながら、途方に暮れた様子で話す。が、そんな時、彼らの居る建物の下から声が聞こえてきた。


「トニーさーん! 金の方は、回収しましたー!」


 聞こえてきた声に、ダンプとトニーは思わず反応して腰の銃を抜く。が、すぐにそれを納めて返事をした。


「おお! 今、そっちに行くぞー!」

「何で俺達以外の奴が……って旦那ぁ!?」


 トニーは足下の男の存在に疑問を持ったが、すぐに隣のダンプの行動に目を剥いた。

 何せ、ダンプは足下に男が居る事を認識した瞬間----建物から飛び降りたのだ。


「ちょ、ちょっと!?」

「ヒャッホー!」


 慌ててトニーが下を見ると、そこには驚くべき、しかしトニーにとってはそこまで驚くに値しない出来事が起きていた。

 ダンプは落ちながら、建物の突起や窓の小さな場所に一瞬ずつ手や足をかけ、器用に降りていったのだ。下では、男が唖然とした顔でそれを見ているのが遠目にも分かった。

 やがてダンプは金の入ったケースを持った男の前に降り立って、達成感を露わにする。


「おっと! やってやったぜどうだ!」

「え、ど、どう……凄いと思います」

「だろ? だろ?」

「だろ、じゃないっすよ……まったくいっつもいっつも無茶ばっかりする人だ」


 満足げなダンプに、少し冷たい口調でトニーは言ったが、その瞬間にまた足を踏まれて悶絶した。


「で、お前は何でここに居るんだ?」


 トニーの足を踏みつつ、ダンプは楽しそうに目の前の男に質問する。隣にいたトニーも同じ疑問を抱いたらしく、痛みを堪えながら男の顔を見た。

 男は、ミアの護衛をしていた者の筈なのだ。この様な状況で駆り出される存在ではなく、また、ダンプが部下を倒してしまう為、今回はトニー以外の人物は動いていない筈なのだ。


「いやその……俺、強盗団にお嬢様を奪われちまった件で、ボスから、金かお嬢様か、どっちか連れてこないと粛正すると……」


 男はそう言って、苦虫を噛み潰した様な顔になる。トニーは男に心底同情した。


「……大変だな、お前」

「何の、トニーさん程じゃないです」


 男の視線はダンプの方へ向けられていた。確かに、ダンプに振り回され続けるトニーも十分に同情される立場である。

 が、そう言われたトニーは何故か少しだけ不機嫌そうだった。


「あー……ダンプさんは確かにこんな性格で、無茶をやって、後始末は全部俺に丸投げして、しかもやる事成す事全部行き当たりばったりで、酷く騒がしい人だが」


 トニーはダンプの方を見る。いつの間にか、ダンプは少し離れた場所で爆破された物を見て回っている。ダンプが離れているのを良い事に、トニーは普段は言わない話を続けた。


「----しかし、イカレてる訳でも、悪い人って訳でも無いのさ」

「はあ……?」

「大変なのは大変だが、あの人に好き好んで首突っ込んでるのが俺だって事だ」


 言外に、『同情される謂われはない』という意志が込められている事を察して、男はただ一度だけ相づちを打った。

 それを見たトニーは、男に背を向けてダンプの方へ歩いていき、その途中で足を止め、一言だけ発した。


「よし、分かったらそっちはそっちの仕事をしろ。俺は俺の仕事をする」


 そのまま振り返らずに歩いていき、トニーはダンプのすぐ近くで話しかけ始めていた。

 もう、男の方へ意識を向ける気は無いらしい、それを悟った男は、無言でその場を後にした。



「トニー、やっぱ連中は一人も取れなかったみたいだ」


 トニーが側へ行って話しかけようとすると、トニーが口を開くより早くダンプは無念そうに一言呟いた。

 問答無用でロケットランチャーの不意打ちを浴びせかけたが、それでどうにかなる相手では無い事は二人とも理解できていた。


「ボスのガキの腕でも転がってねえかと期待してたんだがなぁ……」

「なんて酷い事言うんですか旦那。そんな事になってたら死ぬっすよ俺ら」

「はっは、それも良いじゃねえか。その時はその時だ」


 ため息混じりのトニーに、ダンプが気安げな声をかけた。

 あくまで普段通りの彼に、トニーは呆れて思わず笑みを浮かべた。


「で、どうするんっすか俺達。娘がどこ行ったのか、なんて分かりませんよ」

「そうだなぁ……まあ……隠れろっ」


 トニーの質問に適当な返事を返そうとしたその時、ダンプは一言叫ぶとトニーを引っ張って影に隠れた。


「ちょ、どうしたんっすか」

「良いから、黙ってろ」


 そう言うダンプの顔は真剣そのもので、トニーの質問に答える余裕が無いように思える物だった。それに何かを感じ取ったトニーは、一瞬で表情を変えて気配を殺す。



 そうしていると、少年と顔見知りの少女が現れて----

よし、投稿です。最近暑いですねー……執筆速度に影響が出る程に

ダンプが後の事を考えない性格になったのは、設定を考えている途中で『ダークナイト』を見たからです。

2012/7/12

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