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その恋、賭けですよね? ~地味OLは全部知った上で三ヶ月後に叩き潰す~  作者: ぶるどっく


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第二十二話



 昼下がりの総務部。


 昼食後の眠気がピークになりやすい時間帯。


 しかし、そんなことは露とも感じさせないタイピング音が響き渡る。


「「………………」」


 周囲の同僚たちが顔を引きつらせるほどのデッドヒート……ではなく、タイピング。


「「…………!」」


 それが終了したのは、ほぼ同時だった。


 周囲が固唾を呑んで見守るなか、互いを無言で牽制し合うように一人の先輩の元へと近寄る。


「失礼します、立花先輩。

 来月の広報誌の件ですが、原案を作成しましたので確認をお願いします。

 既存のフォーマットを使用した上で、各種コーナーの特集についてです。

 大きな話題としては、先週の研修があったコンプライアンス問題に関しての特集を組んでは如何でしょうか?

 小さな話題コーナーとして、今月末の社内デザインコンペについても記載するべきかと。」


「あ・お・い・センパ〜イ!

 犬飼さんのお硬い原案よりも、私の方が気に入ってもらえると思います!

 すっごく嫌ですけどぉ、同じく既存のフォーマットを使用しています!

 その上で、特集としては企画課の子育て中の社員への対応を特集してみてはどうでしょうか?

 独身社員と子育て社員、どちらも嫌な思いをしないように、各個人の業務の進捗状況を共有。

 企画課課長自らが部長たちに進言して、早退などフォローすることが多い独身社員への手当てを拡充するなど配慮し合うことに力を入れているみたいですよぉ。」


 通常業務を進めていた葵は、彰良と華乃に詰め寄れ驚く。


「えっと……二人とも昨日の今日で早いですね。

 申し訳ないのだけど、一度目を通しても良いですか?」


「よろしくお願いします」


「葵先輩に褒めてもらいたくて、がんばっちゃいました!」


 二人から広報誌の原案を受け取った葵は、素早く目を走らせる。


「……二人とも既存のフォーマットを利用しているので読みやすいですし、先月の広報誌と比べても割り振りに大きな差異はありませんね。」


 速読した二人の原案。


「犬飼君、兼子さん。

 ご存知の通り、広報誌はA4用紙2枚の両面印刷となります。」


 原案から視線を上げ、彰良と華乃へ視線を向ける。


「一面には全体朝礼で社長が話した内容を持ってくるのが通例です。

 二面三面がフリーなので、それぞれが提案してくれた話題を掲載しましょう。

 四面には通例通りのコーナーだけではフリースペースが有るので、社内デザインコンペについても掲載しましょう。」


 彰良を見上げ、原案の方を指差しつつ答えた。


「犬飼君、貴方が提案してくれたコンプライアンスに関しては研修の振り返りという点でも有意義だと思います。」


 同じように華乃へも声をかける。


「兼子さん、貴女の提案は会社の取り組みを広く知ってもらうためにも重要です。

 まだ試験段階だと聞いていますので、上に確認を取ってみましょう。」


 もう一度だけ手元の原案に目を向け、すぐに視線を二人へと戻す。


「……二人とも、張り切っているのは良いのですが……通常業務と並行しての作業ですし……。

 慣れない作業に、無理をしていませんか……?」


「兼子さんは知りませんが、自分は問題ありません。」


「えっと……無理はしていないつもりなんですけどぉ……もし、困ったときは葵先輩に頼らせて欲しいです!」


 エヘッと小首を傾げる華乃。


 一瞬だけ彰良の眉がピクリと動く。


「広報誌の補佐役ですから……兼子さんは勿論ですし、犬飼君も困ったときは遠慮なく確認してくださいね。」


「……ありがとうございます、葵先輩!」


「…………ありがとうございます」


 一瞬だけ交わった二人の視線。


 すぐに逸らされたものの、周囲には確かに激しい火花が散ったように見えたのだった。





 広報誌の原案を二人同時に持ってきた日から数日後の昼休み。


「……どうしたら、犬飼君と兼子さんが仲良く仕事が出来ると思いますか?」


 佐山さん……と続けられた葵の問い掛け。


「………………それを俺に聞いちゃうの?」


 屋上にある小さな屋上庭園。


 その近くに設置されたベンチに腰掛けた葵と佐山。


「……課長にも相談しましたが、笑顔でかわされました。

 (……完全に仕事の話題なんだけど……価値観の殴り合いみたいなやり取りをするのは……ちょっと……)」


 競い合うように仕事を進めていく彰良と華乃。


 何故か仕事でも一触即発な二人に葵は困惑していた。


「…………立花さんだもんな……」


 大きなため息をついて佐山は肩を落とす。


「……どういう意味でしょう……?」


「……だってさぁ……俺たち同期の中で一番仕事もできて、気配り上手なのに……一番さ、自分に向けられる感情に鈍いじゃん。」


 苦笑交じりの、力が抜けたようなヘラリとした笑顔。


「……そう、でしょうか……?

 (……私って……そんなに鈍い、かな……?)」


 過去を振り返っても、ピンと来ない。

 困惑交じりの葵に、佐山は微笑む。


「……うん……鈍いよ。

 だってさぁ……俺がずっと立花さんを好きだったことに、気が付いてなかっただろ?」


「…………………え?」


 ヘラリと笑って告げられた言葉に、葵は目を瞬かせるのだった。


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