第5話 カンナはホンダ先生のデジタル介護担当者
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謹んでお届けします。
出勤する。タイムカードをかざす。ピロリンと音が鳴る。
ここから勤務がスタート。
事務のミカさんにすり寄る。もう、野良猫の気分。
「ミカさん、緊張してます。助けてください」
「カンナさん、おはよう。書類はよく書けていたよ。それでは、今日はね、適応教室で使う消耗品を選んで欲しいな。注文するからね」
分厚いカタログを見て、適応教室に子どもが来た時のことを考えた。
折り紙と色画用紙とカラーペンを選んだ。
ピロリン
タイムカードをタッチする音。
うわああ、ホンダ先生が出勤した。
松葉杖を振り回して走っている。
骨折してるなら静かに歩けばいいのに。
「ああ!! カンナさん!! おはよう!!」
バカでかボイスで脅かすような挨拶をする。
あの頃と変わっていない。
わたしは大きい声が苦手の苦手なのに。ふう。
下を向いた。
「カンナさん! 挨拶は大きな声で! それと、『はい』と元気よく返事をすること」
ああ、小学生扱い……。へこむわぁ。
いや、がんばれわたし!
フリースクールのイメージキャラクターカナリアの「カナリン」の黄色いハンドタオルを握りしめた。
大丈夫、みんなが応援してくれている。
「はい。おはようございます。ホンダ先生。」
「ああ。それではと、適応教室に机を運び込もう。ボクは骨折しているから椅子しか運べない。カンナさんは机を頼む」
「は、はい」
(はあああ。嫌だ。松葉杖なら椅子も運べないでしょ。なんで運ぼうとするんだよ)
心の声が漏れてしまう。
「わたしがひとりで運びます。ホンダ先生は休んでいてください」
「いやいや、一緒にやりますよ。骨折だなんて、気合で忘れてしまうよ」
でた! 昭和。気合とか根性とかやる気とかそういう言葉が好きなんだよね。
「ホンダ先生、わたしが気合で運びますから、安心してください」
「そうか?」
ひとりで何往復もして机といすを運んでいると後ろから、
「手伝いますよ」
振り返ると、爽やかな笑顔の若井先生だ。
「いえ、大丈夫です」
「遠慮しないで」
若井先生は机の上に椅子を乗せてひょいと抱えた。
「え、えっと」
「先に行くよ」
私はドキドキが止まらない。若井先生の背中を見ながら椅子を運んだ。
こ、こ、恋の予感......
適応教室。
机といすが3セット入った。
若井先生は運び終えると片手をあげて行ってしまった。
やった!
ジャンプしたい気持ち。
大きな声で叫んだ。
「ありがとうございました!」
くるくる回りたい気持ち。
こんな気持ちになったの、初めて!
いい気分で教室の整備をした。
窓を開けて空気を入れ替えた。
カレンダーを画鋲で留めた。
校長先生が、胡蝶蘭の鉢を持ってきてくれた。
ホンダ先生の教師用机といすを教室の前面の窓際に、そして、私の椅子を教室の後ろの廊下側にそっと置いた。
対角線、一番遠くに設置。
そうよ、離れていればいいんだわ。
職員室にいる事務職員ミカさんに会いに行った。
見回しても、若井先生はいなかった。
ミカさんが校務用タブレットの使い方を教えてくれた。
「ホンダ先生はデジタル音痴だから、カンナさんが覚えて使えるようになってね」
なんと!
「デジタル音痴ですって?! デジタルは私の一番得意な分野です!!」
ミカさんは声をひそめて嬉しそうに耳打ちした。
「ホンダ先生の事、わたしたちはポンって呼んでいるの」
「えー?!そうなんですか。くーーっ! 面白いです。ポンっていうんですね。なんだか、あんぽんたんみたいでいいですね」
「まあね、でも子どものことをいつも考えている熱い人なのよ。だけど、すっごくデジタル音痴」
デジタル音痴。ああ、いい響きだ。
ミカさんは続けた。
「どこの学校でもそうでしょうけど、子どもたちの遅刻欠席早退の連絡は、このタブレットとパソコンにくるの。デジタル音痴のポン先生は、何度言っても見方を覚えない。『今日の欠席連絡きてますか?』ってインターホンで確認するのよ。
だから、カンナさん、教師用アカウントで入って、毎日確認してください。
これは、管理職の許可をとっています。ポン先生のデジタル介護はカンナさんって」
「へーーー! 驚きました。デジタル介護をわたしがやるんですね?」
これは、ポン先生を見返すよいチャンスだ。にやにやしがちな顔を抑えて真面目顔にした。
「カンナさん、次に行っていいかな?
これは本来教師用アカウントから入って見るべき職員会議の資料。
ポン先生が必要に応じて、指導員のカンナさんに伝えるべき内容が書かれている。
でも、ポン先生そういうの苦手だから、全部印刷しておいた。
だから逆に、カンナさんが見てポン先生に大事な事を伝えてね。
実はね、ポン先生、紙に印刷しても見ないのよ。
老眼だということで」
「うわ、そうなんですか? 最高です! なんだか今日は楽しいです」
ミカさんも笑った。
「ポン先生の介護をあなたがやってくれるなら、わたしも安心だわ」
どれだけ愛されているんだ、あのじいさん。
憎きホンダ先生が、ここでは愛されてポンと呼ばれ、苦手なデジタルや老眼のフォローをしろとミカさんは言っている。
うーん、複雑な気持ちではあるが、復讐するなら今かもしれない。
憎きホンダ先生はわたしには逆らえない。
ホンダ、困る。
ホンダ、辞める。
カンナ、嬉しい!!
こんなことを考えているのに、ミカさんときたら……。
「カンナさん、あなたが来てくれて助かるわあ」
そこに校長先生が通りかかった。
「ねえ、校長先生!!カンナさんにポン先生の介護を頼んじゃいましたよ」
ミカさんは実に嬉しそう。
「ああ、いろいろ大変そうだけど、頼むよ。
ポン先生は、いい先生なんだ」
校長先生にまで愛されている。
大嫌いな人の弱みを知った。
そして、ポンという呼び方も気に入った。
もしかして、やっていけるかもしれない。
カンナはブラックカンナになった。
くーーーっ、くっく!
おもしろくなりそうだ。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!
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