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適応教室指導員 ポン&カン ~「助けて」と言えなかった親子のための教室~ ここは孤独と向き合う最前線です  作者: さとちゃんペッ!


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第2話 カンナ、ドキドキの初日~過去を上司に話す

ご覧いただきありがとうございます!

謹んでお届けします。

「黒川カンナです。よろしくお願いします」


「また言っている。そのセリフ、もう百回以上聞いたよ」


ママが、くすっと笑う。


「あ、もしもし、おばあちゃん? カンナが職場に行くのよ。初出勤。今日、いよいよね。

あのね、東西小学校ってところに適応教室が新設されたの。そこの指導員として働くのよ。

まあ、いつまで続くかわからないけど、応援するわよ。当然じゃないの」


わたしは、思わずママのスマホを取り上げた。


「ねえ、おばあちゃん? もう、ママのこと、いやになっちゃうよ。

不登校だったわたしが学校で働くって、そんなにびっくりするかなあ。

相手にするのは、わたしと同じ不適応や不登校の子どもたちだし。

すごく自然な職場だと思うけど。心配しないでね」


「カンちゃん、みんな嬉しいんだよ。お祝いをあげなきゃね」


「お祝い? ありがたくいただきまーーす」


校長室には、七時五十分に来るように指示されていた。

早すぎるのは迷惑だし、遅刻はもってのほか。


七時三十分に学校に着き、校門の外で待った。


すると、若い男性が声をかけてきた。


「黒川さんですか?」


「はい、そうです」


「職員の若井です。職員用玄関はこちらです」


感じのいい、爽やかな人だった。

同じ職場で、恋の予感なんてあるのかも、などと少女漫画みたいな展開をつい期待してしまう。


廊下の角を曲がったところで、どん、と誰かにぶつかり、持っていた本が床に落ちた。


爽やかな男性教師が言う。


「失礼。お怪我はありませんか」


本を拾い集めてくれる。

風香みたいに彼氏ができたら、どうしよう。


玄関で靴を脱ぎ、自分の靴箱を教えてもらっているときだった。


ドン。


背中に、何かが当たった。


「あっ、痛い」


ふと見ると、松葉づえが転がっていた。


きたぞきたぞ、恋の予感?


「ホンダ先生、どうしたんですか? あ、松葉杖どうぞ」


若井さんの声がする。

今、ホンダ先生って言った?


「骨折しちゃったんだよ。急ぐから行くよー」


ホンダ先生?


松葉づえを片手に、片足で跳びはねながら行く後ろ姿が見える。


あの人が、ホンダ先生というの?


嫌な名前。

トラウマのある名前。

そして、なんだか嫌な雰囲気。


いやいや、まだわからない。

恋の予感を、ここで捨ててはいけないわ。


校長室に案内された。

早すぎたのか、まだ誰もいない。


校長室には、胡蝶蘭の鉢植えが置かれ、歴代の校長先生らしい人たちの写真が飾ってあった。

そういうものを見ると、胸がどきどきする。


目を閉じて、深呼吸した。


「事務職員の白川美香です。みんなにはミカさんって呼ばれています。

まずは、事務手続きの書類をお渡ししますね。時間のあるときに書いて、わたしに提出してください」


水色の紙袋に入った書類を手渡された。

ミカさんは、少しふくよかで、頼りになりそうなお姉さんだった。


「黒川先生、早く来てくれたので、説明しますね」


「ここに通勤路を書いて、ここにお給料の振り込み口座を書いて。まあ、読めばわかります。

わからなければ、質問してね」


クリアファイルに書類をしまい、ミカさんを見た。


「あの、ホンダ先生っていますか?」


「ホンダ先生? いますよ」


「あの、あの……無理なんです。ホンダ先生という名前」


「え? そうなの?」


「あの、今から仕事、辞められますか?」


「まだ勤務も始まっていないし、辞められるかって言われても。

それはちょっとね。辞令も出ているし、理由がホンダ先生という名前が嫌い、では……」


「そうですよね。ただ、トラウマが強くて」


「どんなトラウマ?」


「ああ、はい……では、説明した方がいいですか?」


「待って。校長先生がいらしたわ。

校長先生、ちょっと新人さんの話、聞いてください。辞めてもよいかと言っています」


見るからに校長先生、という感じの恰幅のいい男性が入ってきた。

紺のスーツに、赤いネクタイ。


上司が部屋に入ってきたときは、立ち上がって挨拶をする。

促されるまで立っているのが正しいビジネスマナーだと、就業支援のスタッフさんに教わっていた。


立ち上がって、挨拶をした。


「黒川カンナです。よろしくお願いします」


「指導員の黒川さんですね。校長です。まあ、かけてください」


「ありがとうございます」


椅子に座る。

こういう場は、やっぱり苦手だ。

もうすでに、帰りたい気分になる。


「もう辞めたいって?」


「わたしの苦手なホンダ先生がいないなら、辞めません。

でも、わたしの苦手なホンダ先生だったら、トラウマが大きくて」


「話を聞きましょう。黒川さんのことを、全部話してください」


わたしは、深呼吸した。


「小学校三年の、あの日。給食時間中に、ご飯を胸に詰まらせたんです。

山田君とホンダ先生が見つめる中、口に含んだ牛乳を、どうしても飲み込めなくて。

涙をこぼしながらトイレに行き、便器の中に口の中の物を出しました。

給食時間が終わるチャイムを聞き、休み時間もトイレにこもり、五時間目が始まってから、やっとトイレから出ました。

手洗い場で口をすすぎ、そのまま、何も持たずに家に帰りました。

あの日から、教室が怖くなったんです」


「なるほど。それから、どうしたんですか?」


「はい。親に聞かれても、何も言えませんでした。

翌日から、朝になると腹痛が起こるようになりました。

毎日ホンダ先生が迎えに来たんですが、会いたくなくて泣いていました。

両親は困り果て、転校させると言い、家を引っ越しました。

でも、学校というもの自体が怖くなっていたわたしは、転校先でも登校できず、昼夜逆転の読書少女になりました。

母は不登校の親の会に入り、フリースクールを紹介されました。でも、わたしは行きませんでした。

母は、わたしの取り扱いを勉強したようです」


「ほう、なるほど。それから、どうしたんですか?」


「母と一緒に、テレビばかり見ていました。アニメに、めっぽう詳しくなりました。

母はわたしに寄り添いましたが、父は『学校に行け。将来どうするんだ』と言っていました。

両親は、わたしを巡って喧嘩ばかりしていました」


「うむ、なるほど」


「やがて、中学生になりました。でも、学校が怖かったんです。

パソコンでチャットを始め、そこの友だちのすすめでイラストを描き始め、絵師を目指しましたが、うまくはいきませんでした。

フリースクールの友だちとチャットで話していました。

そして、友だちと一緒に、死ぬことにしました」


「自殺ですか?」


「そうです。飛び降りです。

わたしは木に引っかかって助かりました。残念でした。

両親は心配して、家から出られないようにしました」


「そうでしたか。お友だちは?」


「言いたくありません。


わたしは通信制高校に入り、スクーリングをしました。

そこで、初めて友だちができました。フリースクールにも行くようになりました。

わたしは、明るい気持ちを持ち、友だちと話したいと思うようになりました。

スクーリングに来ない同級生に、みんなでアプローチしました。

そして、声をかけた同級生が、ついに登校したとき、抱き合って泣きました。

不登校を卒業した私たちは、強い絆で結ばれた冒険者たちのようでした。

みんなで通信制高校を卒業し、それぞれの道を探し始めました」


「私は、東西大学に補欠入学しました。

そこで心理学や教育学を学びました。

明るくてたくましい友だちができ、すごくいろいろ影響を受けました。

教員免許は取りませんでした。教育実習なんて、無理だからです」


「なるほど。黒川さん、あなたは適応教室にぴったりの人材だ。

適応できずに苦しんでいる子どもの気持ちが、わかるんじゃないか?」


「はい。きっと、わかると思います」


「不適応にも、いろいろある。不登校ばかりじゃない」


「はい、わかっています」


「だったら、辞めるなんて言わず、仕事をしてください」


「そうしたいのですが……あの、トラウマの張本人、ホンダ先生と同じ名前のホンダ先生が、校内にいるかもしれないんです。

いや、きっと別人。珍しくもない名前ですし。

ああ……ホンダ先生にだけは、会いたくないなと思っています」


「別人だったら、いいね。

ホンダ先生は、適応教室のリーダーだから、黒川さんの上司になる人だ」


「え、上司がホンダというお名前の方なのですか?」


「名前くらい、どうでもいいじゃないですか。きっと別人ですよ」


「わたしの苦手なホンダ先生は、熱血タイプの教師なんです。

その同じ名前のホンダ先生は、熱血タイプですか?」


「ミカさん、どうだったかな?」


「少しは熱血なところもありますが、普通ですよ。普通のホンダ先生です」


普通。

……普通って、なんでしょう。


その言葉が、胸に引っかかる。

だって、わたしは普通じゃない。


心の中では、そう思っても、口には出せない。

わたしは、とうてい普通の枠には入らない人間だと、もうわかっているから。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!

いかがでしたか?


感想をいただけるとすごく励みになります。

次回もどうぞお楽しみに!


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歴史部門:なろう日間2位 週間2位 月間2位 四半期2位 (1位はとれない)

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