第21話 父親の話
ご覧いただきありがとうございます!
謹んでお届けします。
ヒナタくんの捜索が始まった。警察・消防が動いてくれているようだ。
海、砂浜を……
そんな声が漏れ聞こえた。
山下涼子さんの夫、ヒナタくんのパパが公園に来た。
山下さんが、会いたくないというしぐさをしたので、ママを警察官が連れて行った。
パパは警察官に聞かれてしぶしぶ応じている。
わたしは、山下さんの悲しみを抱えてしまっていて、この男の言い訳を聞きたいと思った。
警察官が訊ねる。
「名前は?」
「山下信之です」
「どうして、こんなことになったと思いますか?」
「留守電を残してあいつらは消えたんだ。『さようなら』だなんて、あー、冗談じゃねえよ。
留守電に気づいた俺は、車で探しながら、妻の実家に電話をした。
共通の友達に電話した。
まさかと思ったが、東西小学校にも電話した。
誰もふたりの行方を知らなかった。
家に帰ってみた。
玄関は真っ暗、空気が冷たく固い。
誰もいなかったんだ。
妻が入院していた病院にも行ってみた。
表玄関のドアはしまっていた。
もしかしたら、そこに座っているかもしれない。
ドアの向こうをのぞき込んだ。
『おい、いるのか』
声をかけてみたがいなかった。
ヒナタの学校に行ってみようと思った。
あの日来た駐車場。
駐車場には車があった。土曜日の夜って言うのに職員室に灯りがついている。
あいつら、どれだけ仕事が好きなんだ。
インターホンを押しても誰も出てこない。
電話をかけても誰も出ない。
学校の先生とかいうやつら、そういうやつらなんだ。
涼子とヒナタをかくまっているな? そう思った。
職員室の窓ガラスをばんばん叩いた。
カーテンが開いて、おばさんが顔を出した。
「涼子とヒナタをかくまっているだろう?」
「え? ヒナタさんいなくなったんですか?」
「とぼけるな。ここにかくまっているんだろう?」
「ここにはいませんよ」
「確かめさせてもらう」
玄関のドアを開けさせ、中を探した。
職員室、校長室、保健室、ヒナタの教室。
呼ばれてきたのか、校長だという男が走ってきた。
本当にいないのか。
足元から崩れた。
「山下ヒナタさんのお父さんですね。お話を聞かせてください」
警察官がやってきた。
俺はクレーマーのモンスターペアレントの不審者扱いだ。
俺は説明した。
「妻は言ったんだ。『今から飛び込む。さようなら』って。それで、探しているんだ」
誰も本気にしてくれない。
おばさんの名札には南山と書いてあった。
「山下さん、心配していますよ。見つかると信じています」
って言いやがったんだ。
俺は学校に匿われていると確信した。
それで、家に帰ってビール飲んで寝た。
日曜日は家にいた。
ひょっこり帰ってくると思った。
帰ってこなかった。
月曜日は、つまり今日は朝から出勤して、会社で妻が見つかったと連絡を受けた。それで、今ここにいるんだ。
教えてくれ。あいつらどこで何をしていやがったんだ。
わたしは、言った。
「土曜日にパパの会社の前に、一日いたそうです」
「それは、俺だって息抜きが必要だ」
「ママがどれだけ苦しんでいたか。土曜日と日曜日にあなたが家にいることを信じて、どれだけ頼りにしていたか……」
わたしは涙があふれて言葉にならなくなった。
「ふたりは本当に海に入り、波に揺られて別々になり、死にきれなくてママは一晩中歩き、どこかの街で死にたいと日曜日の昼も夜も歩き、今日ここに戻ったようです。だけど、ヒナタくんは見つかっていません」
パパはその言葉を聞いて、何かがすっと解けたような表情になった。
「ヒナタは、いないのか? 死んだのか? ああ、俺が悪かった。
……世間体ってものがあってさ。見栄ってものがあってさ。俺の息子が学校に行けないなんて許せなかった」
南山教頭は、パパをなだめるように背中をとんとん叩いた。
「悪かったよ。悪かった。気づいていたんだ。
なんとかしてやらなくちゃ、妻も子も、このままじゃだめだって。でも、でも、でも、俺は母親に知られたくないと思った。そして、会社の同僚に知られたくないと思った。知り合い全員に知られたくなかったんだ。しょせん、俺は見栄っ張りなんだ」
「何をおっしゃっているんですか。恥ずかしいことじゃありませんよ」
「恥ずかしくないって? 何言ってんだよ。恥ずかしいんだよ。学校に行けないってことは、普通の規格品じゃないってことだよ。欠陥品ってことだよ。俺の息子が」
「そのお考えは違いますよ。
視力の弱い人がメガネをかけるように、怪我をした人が車いすを使うように、今のヒナタさんとお母さんには助けが必要なんですよ。それも、あなたの助けが必要なんです」
「俺の助けが必要?……探してください。死ぬつもりだ。あいつ」
パパはこうしてはいられないと思った。
「妻の実家に行ってみます」
山下さんは警察官に連れられて行った。
◇◆◇
俺は妻の実家に行った。
ふたりはいなかった。
妻の両親は驚き、それぞれに探しに飛び出していった。
「駅かもしれない」
俺は駅に行ってみた。
人ごみの中を子供連れの女性を探した。
どこかにいるかも、よく目をこらしてみた。でも……ヒナタはいない。
駅の構内に入って探した。
いるかもしれない。
ここにいるかもしれない。
飛び込むってどこにだよ。
電車か?
海か?
東尋坊か?
高層ビルか?
どこにもいなかった。
再び、家に帰った。
ここにいない二人を想うと、
「なんでだよお」
という言葉しか出ない。
二人は俺を置いて行った。
涼子は戻ってくるのか。
ヒナタは生きているのか。
俺のスマホに着信があったのは、火曜日の朝6時すぎ。
病院の夜間救急に運ばれたと連絡があった。
俺は急いで駆けつけた。
「山下です。涼ヒナタの家の者です。
死にましたか? はあ、終わった」
「バカだなお前。早く来い!!」
怒鳴られた。
夜間救急に案内された。
医師は、大きな男性だった。
半袖の白い作業服から見える筋肉質の腕には、黒い剛毛がふさふさと生えている。
「ああ、息子は海に飛び込んだけれど、大丈夫だ。話はできる。ヒナタくんだな」
「会えますか?」
「会わせないよ。ヒナタくんは会いたくないと言っている」
「え? なんでですか。俺は父親ですよ」
「ほう、あんたが父親かい? それは初耳だ。ママさんの話を聞いたり、ヒナタくんを見たりしてわかったことがある。あんた、聞くかい?」
「は、はい」
「もうちょっとふたりに寄り添ってやれよ。突き放されたと思っているぞ。それとな、息子さんの個性は『字義通り』ってやつだろう。
言われたこと、書かれたこと、文字として認識したことをそのまま受け止めるんだ」
「は? はい」
「たとえば、『道草せずにまっすぐ帰りなさい』と言われる。『まっすぐなんて無理だ』という。大人には生意気に見えるが、ヒナタくんはいたって真面目に『真っすぐ直線上を歩いて帰れと言われた、そんなの無理だ』と思っている」
「え? そんなばかな」
「先生に、『楽しい教室にしよう。みんな、協力してくれよな。ヒナタくん、君たち全員の協力が必要。楽しい教室にしよう』それをいたって真面目に捉えて自分なりに楽しくしようとしたのに理解されなかった」
「そんな……」
「カウンセリングを受けることをお勧めする。あ、両親ともにね。
それと、今度うちに遊びに来ないか?」
「え?」
「近所なんだ。俺はあんたんちに入ったこともあるよ。ヒナタくんのゲーム中の声には、いつも迷惑している」
「ああああ、もしかして、あなたは!! 申し訳ありません」
「いいんだよ。面白い人種と出会うのを楽しむタイプなんでね。うちの奥さんがいつもヒナタくんを心配しているからさ。あっはっは」
ゴリラみたいな医師は、豪快に笑った。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!
いかがでしたか?
感想をいただけるとすごく励みになります。
次回もどうぞお楽しみに!
さとちゃんぺっ!の完結済み長編歴史小説、良かったら読んでください。↓
歴史部門:なろう日間2位 週間2位 月間2位 四半期2位 (1位はとれない)
源平合戦で命を落とす安徳天皇に転生した俺、死にたくないので、未来の知識と過剰な努力で、破滅の運命を覆します
https://ncode.syosetu.com/n7575kw/




