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適応教室指導員 ポン&カン ~「助けて」と言えなかった親子のための教室~ ここは孤独と向き合う最前線です  作者: さとちゃんペッ!


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20/22

第20話 待ちに待った土曜日 パパが仕事に行く

ご覧いただきありがとうございます!

謹んでお届けします。

ヒナタママの救急車に同乗した。

振動が直接骨に響くようだ。救急車って乗り心地が悪い。

わたしはヒナタさんの住所とか母親の名前とかを書いた紙をミカさんに渡され、救急隊に告げた。

いろいろ処置されて検査されたようでわたしはずっと待っていた。

病室のベッドに移されたようで、そちらに行って付き添った。

この人はずっとわたしを頼っていた。それなのに、何もできなかったわたし。

ミカさんが来なかったら、一晩中ふたりで暗い教室にいただろう。


ヒナタとパパが来た。

「ぼくがママを殺した」と言って泣いていた。

ヒナタは母親にしがみついて泣いた。

しばらくすると、山下さんの意識が戻った。

「ああ。わたし、生きているのね。もう死んでもいいと思っていたのに、生きているんだ。残念」


自分の車で教頭先生が来ていた。

山下さんは横になったままぼそぼそとつぶやいた。

「ヒナタは、わたしが家で意識を失ったとき、ママを殺したと思ったようね。

それで、パパに電話して「ママを殺した」と言っていた。それは聞こえた。

でも、もう家にいたくなくて、怪我をしていたけれど、カンナ先生に会いに行ったの」

「ぼくは、死体が消えたと思ったんだよ」

「ヒナタが死体が消えたというから、俺は驚いて、仕事の途中だったのに急いで家に帰った」

パパとヒナタくんが心配してくれていたと知って、山下さんは目をつぶり、うんうんとうなずいた。


「あしたは土曜日だ。ママの意識が戻ってよかった。さあ、帰ろう」

「え? もう帰るんですか?」

「意識が戻ったので、一緒に連れて帰ります」

パパは手続きをして、優しく車に乗せていた。

「ママ、大丈夫か? ゆっくり乗ってね。運転も丁寧にするからね。帰りにママの好きなハッピーショップでケーキでも買おうか。うまいぞ」

そう言って、家族は帰って行った。

わたしは、教頭先生に車で家まで送ってもらった。



月曜日、勤務の終わる14時半にヒナタママは玄関にいた。

「カンナ先生、公園に行きましょう。飲み物買ってきました」


山下さんが話をしたいようだ。公園のベンチに座り、散歩をしている犬を見ながらお茶を飲んだ。


「あれ? 山下さん、服が濡れていますよ」


「いいんです、そんなこと。それより、カンちゃん聞いて。あれから夫はわたしの好きなショップに寄り、ショートケーキとタルトを買ってくれた。

わたしの好きなパン屋さんにも寄り、クロワッサンを買ってくれた。

家に着くと、家が片付いていた。

投げ散らかしたものはゴミ袋に入れられ、納戸に入れられていた。


『ママの命が大丈夫だとわかって、パパとヒナタで片づけておいたよ』

ですって」

「そうでしたか。よかったですね」

「よかった? そんな、いいことなんてありませんよ、カンちゃん。最後まで聞いてください」

「わかりました」

わたしは、山下さんがくれたお茶を飲んだ。


嬉しかったんです。あしたは土曜日。今夜から土日にかけて夫が家にいる、そう思ったんです。一週間待ち望んだ瞬間でした。金曜日の夜、鎮痛剤の効果もあって、わたしは熟睡しました。


土曜日の朝、目覚めると目の前にヒナタがいたんです。

側にいるパパに背中を押されていました。

『ごめんなさい』

ヒナタが謝ったんです。

嬉しかった。涙が出た。


クロワッサン、ケーキやタルトを切って、みんなで少しずつシェアして食べました。

朝食後、パパが食器を洗ってくれました。


そして、こう言ったんです。

「ママ、傷が開かないように今日一日寝ていた方がいい。な、ヒナタ、いい子にできるな?」

「うん」

「じゃあ、パパは仕事に行ってくる」


わたしは目の前が真っ暗になりました。

「え?! パパ家にいないの?」

「昨日、ヒナタから電話があって、仕事の途中で帰ってきたから、今日と明日は仕事だ」

わたしは頭を殴られたような衝撃を覚えました。

ヒナタに殴られるより、物を投げられるより、もっと大きな衝撃。

土日はパパがいるとあんなに期待していたのに、土日とも仕事に行くなんて。


『行かないで。今日は家にいてよ』

夫は急に怖い顔になりました。

『昨日は警察やら消防やらで大変だったんだ。お前は知らないだろうが、殺されたママが消えたというんだぞ。仕事を途中でほっぽり出してな。そして、家の片付け。……俺は寝てない。だけど、仕事は待ってくれない』


ふりかえることなく、夫は出て行ったんです。

その背中を見て、涙があふれ止まらなくなった。


ヒナタは誰にどれだけどんなふうに叱られたのだでしょうか。

けろっとして、ゲームに向かい『死ね死ね死ね』と叫んでいるんです。

ああ、また近所の人が来る。

昨日と同じ地獄。


死にたい。でも、私一人で死んでヒナタを残したら、迷惑な子を残して死んだ無責任な母親と言われる。ヒナタが犯罪者になったとき、ママ友ラインに『一緒にあの世に連れて行ってあげるべきだった』と書かれるだろう。もう無理、消え去りたい。ガラスが割れるみたいに粉々になって、一瞬で消えてしまいたい。


だめだだめだ。そんなこと考えちゃダメ。

わたしは考えました。

そうだ!


『ヒナタ、パパの会社に行こう』

タクシーに乗ってパパの会社に行ったんです。

お金なんかもうどうでもいい。

死んだらあの世にお金を持って行けないんだから。

パパの仕事を私とヒナタと静かに見ていたい。

会社のインターホンを鳴らした。

誰も出ない。

スマホに電話した。

出ない。


『ヒナタ、ここでパパを待ってようか』

『うん』

入り口で待ちました。

ヒナタはゲームしていました。

私は会社の前で、ずっと夫の姿を探していました。

人が通る。

バイクが通る。

宅急便のトラックが停まり、また出て行く。

時間が流れていく。



夜になっても、夫は会社から出てきませんでした。

暗くなりました。秋の夕暮れはつるべ落としと言いますよね。あっという間に暗くなりました。

ヒナタは何も言わず、ずっとゲームをしている。


その時、夫から電話の着信

「どうしたの? どこにいるの? ふたりとも」

「パパの会社の前にいる」

「はあ? バカか。俺だって、息抜きしたいんだよ」

「私はいつ息抜きするの?」

「専業主婦になって、毎日が日曜日だろうが」

「ヒナタがいるから日曜日じゃない。

もう、無理。死にたい。

今から飛び込む。さようなら」

「おい、ママ、どうした?」


わたしは電話を切った。

ヒナタと夜の街を彷徨った。

『一緒に死ぬよ。それしかない』

『うん。わかった』

ヒナタは何もかもわかっている。


そして、ふたりで海に飛び込んだんです。

しばらく一緒にいましたが、手を放して別々に死ぬことにしました。

だけど、苦しくてわたし、砂浜まで泳いでしまったんです。そして、あてもなく歩きました。


ヒナタは今、どこにいるかわかりません。

死んでいたらいいんですけど。

わたしは、日曜日、昼も夜も歩いて知らない街で死のうとしました。でも、月曜日になって、足が向いたのはカンちゃんのいる東西小学校でした。そして、ポケットに入っていた財布にお金が少しあったので、これを買いました」


わたしは、驚きが隠せなくなった。

持っていたお茶のボトルをベンチに置いた。


「ええっと、つまりヒナタさんとママは海に飛び込んで、ヒナタさんは行方不明、ママはびしょ濡れで歩き回って今ここにいる。そして、わたしのためにこのお茶を買ってくれた。そうですか?」

頭がぼーっとしてきた。ふたりで黙った。


待てよ、ヒナタくんは死んでいるかも。

ダメじゃん。これは、だめなやつ。

バッグをかき回した。スマホがない。全部ひっくり返して探した。スマホがあった。

どうする? 救急? 警察? うまく話せる気がしない。そうだミカさんだ。

学校に電話した。

「はい、東西小。ああ、カンナさん? ミカさんは今いないな。席を外している。あとで、折り返すように言っておくよ」切れてしまった。

ああああ、ダメじゃん。

だったら、ポン先生!


ポン先生の電話番号は知らない。病気で療養休暇中。スマホを手元に置いているかも怪しい。でも、SNSの音声チャットができるかも。


「おおおおお。カンナさん? どうしたどうした? 辞めたくなった?」

「違うんです。ヒナタさんが死んだかも」

「はあ? どういうこと?」

「あの、ヒナタママがここにいて、金曜日に死体が消えて……」

「その人と変わってくれる?」


ヒナタママがポン先生と話している。

いろいろ聞かれて、ぼんやり頭でやっと答えている。

ポン先生が何をどうしたのかわからないが、校長先生が警察官と公園に来て、ママに話を聞いていた。わたしは、なすすべもなく、黙って立ちすくんでいた。


山下さんがわたしを信頼してくれたから、ヒナタさんを捜索できている。

父親が来た。


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!

いかがでしたか?


感想をいただけるとすごく励みになります。

次回もどうぞお楽しみに!


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