第19話 昼間のヒナタ ゲームに課金を要求
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謹んでお届けします。
放課後、山下さんがいらした。
もちろん、わたしの勤務時間は過ぎている。でも、山下さんの憔悴しきった表情を見ると、わたしが聞かなければ、帰り道にでも死んでしまいそうだ。よく見ると、服が裂け、額に血がこびりついている。
「大丈夫ですか?」
「いいんです。こんな怪我。それより、カンちゃんに聞いて欲しいんです。地球上でただひとりの理解者ですから。
フリースクールで期待を裏切られ、ヒナタの癇癪が激しくなったんです。
ささいなことで、ブチ切れるんです」
ヒナタママは頭を押さえていた。鮮血が流れていた。少しの事では驚かなくなったが、今日はさすがに怖い。
ヒナタママは黙って目をつぶり何かを考えている。
わたしは山下さんの訪問がつらくなった。
3年2組を下校させた後で、本来退勤の時間なのに、山下さんは毎日やってきて話して泣いて、涙を拭いて帰っていく。
わたしの母もそうだったのかも。スクールカウンセラーさんやソーシャルワーカーさん、フリースクールのボランティアさん、教育委員会などあらゆるところに行っていた。その時、誰かが今のわたしのように聞いてくれたのかも。
うちの両親も離婚の危機があったようだ。そして、母は仕事を辞めた。そして、休んでいるわたしより心の状態が悪くなり、荒れていた。いい母親だったとは言えないと思うが、母のおかげでここまでこれたのは間違いない。
母が受けた恩を山下さんの話を聞くことで少しでもお返しできるのなら、やっていこうと思った。
ヒナタママにはカナリアのボランティアさんを紹介したいと思う反面、わたしの仕事ぶりを馬場代表に知らせられたら、それも困るなと思った。やはり、人間、保身が大事なのだ。この私だって。
「カンちゃん、聞いてください。ヒナタは11時半に起きたとき、ハンバーガーがなかっただけで癇癪を起したんです。
『なんでないんだよ!! 早く買って来いよ。腹減ってるんだよ!! 早く行けったら』
『わかった。でも、もうこの家には帰ってこないからね』
『なんだよ。ママのバカ! ハンバーガーを食べたいだけだよ。早く買って来いよ』
殴りかかってきたんです。
逃げるように家を出ました。
明日からは、10時にハンバーガーを買いに行こうと思いました。
帰ってきて、ハンバーガーを渡しました。ヒナタは食べている間は静かだったけれど、すぐに怒り始めた。
『ママが課金してくれないから、ゲームを辞められない。課金してよぉ。3000円でいいんだよ。課金してよ』
殴りかかってきた。
『わかった。3000円だけよ』
とうとうわたしは、クレジットカードを持ってヒナタの部屋に行き、課金しました。
「ママ、ありがとう」
ヒナタは上機嫌でゲームをしました。
部屋からは口汚くののしりあう声が聞こえる。
見たくもないがちょっと見て見たら、銃で人を撃っていた。
『そのゲームの年齢制限って』
『うっせえ、ばばあ。あっち行け』
嫌になってドアを閉めました。
最悪。
その時、あたりが大きく揺れたんです。
地震だ。
今、地震が来たとしても、ヒナタを助けず一緒に死にたいと思いました。
むしろその方がありがたい。この地獄が終わるのなら何でもいいと思ったんです。地震はすぐにおさまりました。
ドアを閉めても、ヒナタの口汚い言葉が耳に入る。
「何やってるんだ。このボケ。殺すぞお前!! 死ね死ね死ねーーー!!」
インターホンが鳴った
『すみません、山下さん。夫が夜勤明けで。今、目を覚ますとほんと面倒な人なんです。こちらにも文句』
『あ、はい。申し訳ありません。わかりました』
ヒナタの部屋に入りました。
『ヒナタ静かにして』
『ママ、課金して』
『さっきしてあげたでしょ』
『足りない。1万円して』
『わかった。ヒナタ聞いて。この前のおじさんが目覚めたら、ここに来るの。そしたらホテル代払わなくちゃいけない。2万円。ヒナタが静かにしてくれたら、1万円の課金してあげる』
『おじさんって、あのゴリラみたいなおじさん?』
『そうよ。目が覚めたら来るの』
『わかった静かにする』
1万円の課金をした。
ヒナタはヘッドホンをしてマスクをつけて、静かに口汚くののしった。
しかし、1時間もすると、ヘッドホンを外し、大声で罵倒していた。
画面の向こうの誰かも、『殺せ殺せ殺せ』などと言っている。
予想通りインターホンが鳴った。
『おい、うっせーぞ!! こっちは疲れているんだ。
クソガキ、学校へ行け!!』
無視していたら、ドアを叩かれた。
ドンドンドンドン
さすがにヒナタも音量を下げた。
ドンドンドンドン
『おい、出てこいや。ええ加減にせえや。おい、出てこんか!!』
わたしは、ドアを開けた。「ゴリラおじさん」が予想通りやってきた。
『クソガキと話したい。おーい、お前だ、お前と話がある。ちょっとあがらせてもらう』
ゴリラおじさんはどんどん入って行き、ヒナタの部屋のドアを開けた。
ヒナタは震えて立ちすくんでいた。
『お前、うっせえんだよ!! 近所迷惑なんだよ。ええ加減にさらせ!
ほら、なんとか言ってみい』
『……』
『名前は?』
『……』
『お前、死ね死ねは言えるが、名前も言えんのか? あ?』
『やました……ひなた』
『おう、山下ヒナタくん。お前の声は迷惑だ。わかるか?』
『わかります』
『お母さんに静かにしてって言われてないのか』
『言われてる』
『親の言うこと、無視か? え?』
ヒナタがおしっこをもらした。
それを見たゴリラおじさんはため息をついたんです。
『今度うるさくしたら、警察連れてくるからな。いいか?』
ゴリラおじさんは帰って行った。
ヒナタは泣きじゃくる。
『うるさくしたら警察来るよ』
『うっせえ、くそばばあ』
ヒナタが殴り掛かってきました。髪を引っ張る。服が破れる。顔をひっかく。血が流れました。
ヒナタが、物を投げる。
部屋中の物を投げる。
泣きながら、わあわあ言いながら、物を投げる。
いくつかが体に当たる。
もう、いい。
好きなだけやればいい。
気が済むまでやればいい。
パパが帰ってきて、これを見て叱ってくれたらいい。
今日は金曜日、土日はパパにこの子を任せて、私は外出しよう。
気分転換しなさいってみんなに言われていたし。
硬い何かが頭に当たり……それからはわからない。
今気が付いて、足が勝手にこちらに向いていたんです。
そう言って、ヒナタママはばたりと倒れた。
「あの、すみません。起きてください」体をゆすったが起きない。
意識がない。びっくりした。茫然とした。体が動かない。
わたしは、動けなくなった。
そのまま、どのくらい時間がたっただろう。
「カンナさん、まだいるの? もう帰るよ」
ミカさんだった。
「あの、人が死んでいる。山下さん」
ミカさんは早かった。
「すみません。誰か来て」
駆けつけた男性職員が様子を見て、呼吸と脈をみた。
「カンナさん、救急に電話して、管理職を呼んでここにきて」
「いえ、できません」
その職員はわたしをみて、これはダメだと思ったようだ。駆け出して行った。
わたしは立ち尽くすしかなかった。わたしが、山下さんを見殺しにした。
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